第一話 ファースト・コンタクト
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「対宙電探に反応あり。天王星ポイントLX62よりの方位125度、距離62宇宙km。目標速度18Sノット。個体数八。遭遇予想時刻、グリニッジ標準時14時32分」
第八内惑星艦隊先遣艦・宇宙巡洋艦「ムラサメ」の艦橋に、レーダーマンの声が響いた。
「来たか…」
それを聞いて、「ムラサメ」艦長の島大吾(しま だいご)二等宙佐はぼそりと呟き、そして重々しい声で命じた。
「これより、発見した外宇宙船群をA群と呼称する。収集データと外宇宙船発見の報を本隊に送信。本艦は現在のA群との位置関係を維持せよ。総員、第二種戦闘配置」
島は矢継ぎ早に命令を下した。
島の命令を受け、「ムラサメ」通信長の永井宗治(ながい そうじ)一等宙尉が、後方に展開する第八内惑星艦隊本隊に通信を取り、航海長の霧本司(きりもと つかさ)三等宙佐が位置関係を変えないように、機関長に指示を飛ばす。
艦内にはブザー音が鳴り響き、総勢135名の乗組員が電磁靴の靴音を鳴らしながら配置につく。
外宇宙からやって来た宇宙船が、友好的な態度を取るとは限らない。
万が一に備えて戦闘配置につくのは、国連宇宙軍総司令部からの厳命だった。
(思いがけないことになったものだ…)
そんな喧噪に身を任せながら、島は今までのことに思いを巡らせている。
ーーー天王星の監視ステーションが太陽系に侵入する外宇宙船を観測したのは、西暦2191年4月1日だ。
その映像を受けた地球では、その日がエイプリルフールだったことも祟って少々の混乱が起きたが、4日を過ぎる頃には国連宇宙軍所属の第八内惑星艦隊を天王星宙域に派遣し、外宇宙船との接触を図ることが中央によって決定された。
「外宇宙船の目的が友好関係の構築である可能性があるから、軍艦を派遣することは闇雲に相手を刺激してしまうのではないか?」や、「今回は初めての地球外知的生命体との接触であり、交渉役の文官を同乗させたほうがいい」との意見があったが、国連宇宙軍司令部はそれらを説き伏せる形で艦隊派遣を断行している。
以来、第八内惑星艦隊は三週間の航路を経て、天王星沖に達した。
今日の日付は、2191年4月22日。
この日が、人類が初めて地球外知的生命体と接触した記念すべき日になる。そして、自分達の「ムラサメ」がその栄誉を最初に受ける。乗組員の誰もがそう信じていた。
「旗艦『キリシマ』より入電。“『ムラサメ』ハ現在ノ状況ヲ維持。定期的二外船ノ位置ヲ報告セヨ”」
永井が旗艦からの返信を読み上げる。
それを聞いて、島は「ムラサメ」の後方を振り向いた。
現在、「ムラサメ」を含む五隻の村雨型宇宙巡洋艦が、先遣艦として第八内惑星艦隊の右前方、左前方、真正面、正面上方、正面下方、のそれぞれ距離40宇宙km前方にまで前進し、外宇宙船に対して網を張っている。
「ムラサメ」は真正面の区間を担当しており、後ろの方向には金剛型宇宙戦艦の「キリシマ」「ヒエイ」を中心とする艦隊主力が占位しているはずだった。
島は正面に視線を戻し、船外を見渡した。
「ムラサメ」の右前方には青く美しい天王星が見えるが、そのほかに大きめの天体は見えない。
地球とは違い、大気に邪魔されないで見る星空は本当に綺麗である。
無数の星々が艦の全周にわたって広がっており、島はこの光景を見るのが好きだった。
出撃の前、息子の大介にシーマンシップを偉そうに謳ったが、宇宙の船乗りになりたいと思ったきっかけは、子供の頃から夢だった「宇宙で星を見る」を叶えるためだったな……。
などと場違いなことを考える自分を見て、島は艦長席に座りながら微笑む。
その時、レーダーマンの続報が飛び込んだ。
「新たな外宇宙船を捕捉。A群の後方12宇宙km!」
「数は?」
島の問いに、レーダーマンは切迫した声で答える。
「数、なおも増加中。個体数三十を突破!」
2
第八内惑星艦隊の本隊は、「ムラサメ」の後方40宇宙kmに展開している。
艦数は先遣艦の五隻を除いて十九隻。
旗艦「キリシマ」を先頭に同型艦「ヒエイ」、村雨型宇宙巡洋艦の「イブキ」「フルタカ」「アタゴ」「ナチ」「ヤマグモ」「ホタカ」「サギリ」の順で単縦陣を形成しており、これら九隻の左右に磯風型突撃宇宙駆逐艦の十隻が、五隻ずつに分かれて展開している。
「ムラサメ」から“外宇宙船数三十隻。ナオモ増加中ナリ”の電文を入電した時、戦列の先頭に位置している「キリシマ」艦橋では激しい口論が起こっていた。
「攻撃したまえ。沖田君!」
「人類初の異星文明との接触だ。性急にすぎる」
第八内惑星艦隊司令長官・沖田十三(おきた じゅうぞう)二等宙将は、やや呆れ気味に、通信用モニターに映る芹沢虎鉄(せりさわ こてつ)極東管区軍務局長を睨みつけた。
芹沢の主張は「外宇宙から来た宇宙船が平和的な種族とは限らない。ここは内惑星艦隊の人員の命を守る為、地球の軍事力を誇示する為、直ちに攻撃せよ」というものだ。
主張には一理あるものの、抵抗しない宇宙船を一方的に攻撃するのは間違っている。それは宇宙の武人として今まで信念を貫いてきた沖田にとって、到底容認できないことだった。
「敵は艦艇数を増加さしているらしいではないか。このままでは先遣艦の『ムラサメ』が危ないぞ!」
芹沢はさらに声を荒げるが、沖田も一歩も引かない。
「攻撃を仕掛けた方が危険だ。ここは穏便に平和的に接触するべきだと考える」
「これは中央委員会の決定だ。貴官の艦隊司令の権利で覆せるものではない!」
その言葉に一瞬躊躇したが、沖田は覚悟を決めて言った。
「ハッキリ言うぞ、攻撃しない。全責任は私が取る」
ここで芹沢は少し黙る。
だが、やや間を空けてから大きい声で言った。
「沖田君。極東管区軍務局長の権限で、君を解任する」
スラリと言われたことに、さすがの沖田でも衝撃を隠せない。
芹沢は軍務局長であるため、当然その権利はある。だが、この時間、この場所でそれを行使するとは、艦橋内の誰もが考えていなかった。
「バカな!」
「キリシマ」艦長の山南修(やまなみ おさむ)一等宙佐が異議を唱えるが、芹沢は無視して言葉を続けた。
「『ムラサメ』への指示は私が出す。君は後方で待機だ」
それだけ言い放って、通信は強制的に切られる。
直後、艦橋内に重々しい沈黙が広がった。
「長官…」
山南が心配そうな顔を向けてくる。
沖田の胸中では、芹沢に対する怒りがふつふつと湧いて来ていた。
その怒りは、勝手に自分を艦隊司令から引きずり下ろしたことに対してではなく、芹沢が「ムラサメ」乗組員を危険に晒す命令を下そうとしていることに対してだった。
「山南君。芹沢局長の命令を受けたら、島二佐は撃つか?」
沖田は山南に問う。
山南は「ムラサメ」艦長の島大吾二等宙佐と、防衛宇宙大学校の同期であり、かなりの親交があると聞いている。
その山南の意見を、沖田は聞きたかった。
「彼は優しい男ですが、船乗りであるとともに根っからの宇宙軍軍人です。命令とあらば、外宇宙船に対して攻撃を実施するでしょう」
山南はゆっくりと発言する。
慎重に言葉を選んでいる様子だった。
「そうか…」
沖田は短く答え、思案顔になる。
そして一分ほど考えたのち、顔を上げて凛とした声で命じた。
「各艦、20Sノットまで増速。第一種戦闘配置。これより我々は『ムラサメ』救援に向かう」
いかがだったでしょうか?
原作では断片的にしか描かれていませんでしたが、こんな感じかなぁ〜とか思って書きました!
次回は戦闘シーンです!