もしも八幡とあーしさんが運命の赤い糸で結ばれていたら 作:しゃけ式
まあありすが出てくる時点で神回確定なんですけどね!!!ありす可愛いよありすうううううう!!!!!!
ピンポーン。
「ん…、誰だよこんな朝早くから…」
インターホンにより睡眠から起こされる。スマホを確認すると時間は7時を指しており、授業の無い今日は昼前まで寝ようと目論んでいた算段が途端に潰えた。こんな朝早く、しかもアポなしで来るやつは小町か三浦の2択だろう。せめて前日に連絡くらいしてくれれば、こんな嫌な目覚めにはならなかっただろうに。
頭を掻き少しイラつきながら玄関へ向かい、鍵を開けた。
「誰だ」
イラつきが声に出たようで、思ったよりも低い声だった。眠いのも相まって目付きも悪く、威圧していると取るには充分な雰囲気だった。
「あ、えっと…、ごめん。……やっはろー?」
体を縮こませながら遠慮がちに挨拶する。由比ヶ浜は困ったような、しかし必死に笑顔を作っていた。
「あの、その……、…今日バレンタインじゃん?だからヒッキーに渡しに来たっていうか…」
「……今日って14日か。くれるのはありがたいけど、なんでこんな朝早く?」
由比ヶ浜の家からここまでだと、めちゃくちゃではないにしろ割と時間はかかる。逆算していくとこいつは一体何時に起きたのだろうかと、果たしてそこまでする必要はどこにあるのかと単純に疑問が浮かぶ。
「…ヒッキーに、最初に渡したかったから」
寒さからなのか、頬を紅潮させながらそう言う。原因が寒さじゃないことくらいわかってはいるが、それを口に出せるほど俺は格好良い人間じゃない。
「……外寒ィな。中入るか?」
「う、うん!」
明るく答えた様はまるで尻尾を振る犬のようで、パッと表情が晴れた由比ヶ浜は俺が家に入るとすぐに後をついてきた。
◆◆◆
『今日バレンタインだよね。優美子はやっぱり比企谷君?』
「……っはあぁぁ…。なんであーしこんな悩んでんのさ」
午前9時半。今日は授業がないため遅起きの私は顔を洗いに洗面所へ向かった。合計10時間も睡眠できたため寝覚めは良いが、テンションは下がっていく一方だ。
それもこれも昨日の友人のセリフのせい。2月14日というと、女子なら誰でも意識する特別な日だ。友チョコ義理チョコをあげるかどうか、本命はどうするかなど、バレンタイン前日はまさに戦いなのである。特に友チョコをあげる相手の探りあいなんて面倒臭いというレベルじゃないしね。私は気に入った相手にしかあげなかったけど。
冷たい水を顔に受け、意識を覚醒させていく。
男相手にあげるのは私にとってはあまりない経験で、それこそ隼人くらいにしかないんじゃないだろうか。あの時の隼人の嬉しそうな顔を思い出すと、今となっては嫌悪感さえ抱いてしまう。それは振られたからなのか、振られる前に気付いてしまったことからなのか。
ともあれ、今はヒキオにあげるかどうかだ。今から手作りだと流石に間に合わないし、渡すとしても市販のものになる。まあそうなるのなら高めのやつを適当に見繕えばいいけど、それも昼からのバイトが始まるまでに選ばなければならない。
顔を拭き、歯を磨く。鏡に映る私の顔はもう寝起きのものではなかった。
(…つってもヒキオにねえ。地味にヒキオモテるし一杯貰いそう。奉仕部に後輩生徒会長含めたら3つ。ヒキオごときにあーしの足して4つって勿体なくない?なんか癪に障るし)
そう頭の中では考えつつも、私はすでにどこでチョコを買うかを決めていた。合理化するのならバイトの時間までに無駄なく行動するためだと言えるが、実際はこの思考こそが無駄なのだと気付くのに時間はかからなかった。
朝ご飯を食べ、チョコの売っている場所、デパ地下へと私は足を運んでいた。昨今のバレンタインの経済効果は凄まじく、それを象徴するかのように並ぶバレンタイン関連の広告はあたりを埋め尽くすほどだった。
当日とはいえここは賑わっており、中にはカップルで来ている人達も散見される。平均的なデパ地下の筈なのになぜかいつもよりも煌びやかに感じた。お店の人も普段とは違う積極性を見せ、男性にはこの甘みが少ないこれが〜、なんて必死に説明している。ヒキオは甘いのが好きだから当てはまらないな、そんなことを思いながら適当に歩いていた。
「バレンタインのチョコですか?」
見たところ20代半ばから後半の女性が歩く私に声をかけてきた。店の雰囲気は高級感が漂っており、この人もワイシャツに黒のベスト、そして長い黒のスカートを着てビシッとキメていた。恐らくは制服だろう。
「はい。甘いのってどんなのがありますか?」
「そうですね…、こちらなんかはどうでしょう?」
差し出されたものを受け取る。どうやら色々なタイプのチョコの詰め合わせのようで、レプリカのガラス越しに見る限り白やピンク、薄い茶色とどれも甘そうだった。
「値段は…、え」
3200円。大体12個入りでその値段。1個300円弱ってマジ?よく考えたら今まで全部手作りだったから相場わからないし、これが普通なのかな。
「…他にはどんなものが?」
「これの6個入りだと2000円、他のは…」
「ああいえ、すみません。やっぱりこれ買います」
ちょっとケチろうとしたら1個300円超えるじゃん。観念して私は3200円をレジへ持っていった。
……昨日から作っておけばなあ。そう思わずにはいられなかった。
◇◆◇◆
11時。あるアパート付近にて。
「確か比企谷君の家はこの辺りよね…。いっそ彼に聞こうかしら……、いや、ダメね」
長い独り言も気にしなくなるほど、雪ノ下雪乃は焦っていた。もう小一時間もこの近辺を歩き回っており、過去にはなかった経験に1人焦燥感を感じていた。目的は勿論バレンタインのチョコを渡すためであり、前に1度行った時の記憶を頼りにさ迷っていたのだった。
「ったく…、ここマジでどこ?」
「……川崎さん?」
「……マジで…」
2人は気まずそうに目を合わせ、示し合わせたように互いが目を逸らす。
(どうして彼女がここにいるのかしら。…まさか比企谷君?)
(なんでここに雪ノ下が…。……まあ十中八九同じなんだろうけど)
「…お久しぶりね、川崎さん」
「だね。高校以来?」
「そうね」
そして無言。続かない会話に2人はどうしたものかと悩み、静寂も暫くに雪乃は本題を切り出した。
「もしかしてだけど、比企谷君かしら」
「そっちは?」
「お察しの通りよ。私には奉仕部として渡さなければならない義務があるもの」
「私だって妹が世話になってる借りがあるし。お互い苦労するね」
「苦労するならやめれば?」
「そっちこそ」
2度目の静閑。今度はどちらも敵対以外のものが見て取れ、ここからどうしようかと2人はまたも悩むこととなった。
結局大志経由で小町に家の住所を聞くことになり、2人は仲良く目的地へ向かった。
◆◇◆◇
(バイトまで時間あるし、先に渡しとこっかな)
チョコを買った帰り、私はそんなことを考えながら車が多い道路の歩道を歩いていた。昼からバイトは入っている。しかしそれもまだ余裕があり、移動時間を鑑みても充分間に合うレベルだ。お昼ご飯は考慮に入れていないが、それもヒキオの家で何か作らせてもらえば解決である。ヒキオもお昼ご飯を作る手間が省け、私も時間のロスなく過ごすことが出来る。
ただ問題は、ヒキオが家にいなかった場合だ。
私はたまたま授業がない日だったが、今日は普通に平日なので大学に行っている可能性は大いにある。そうなると徒労にしかならないけれど、それを今考えたって答えが出るはずもない。
(…いや、電話すりゃいいじゃん。それがダメならメールとか)
そう思いついた時にはすでにスマホへ手が伸びていた。すでに慣れた操作を行おうとするが、その前に画面が急に変わった。どうやら電話の着信のようで、送り主はバイト先の店長からだった。
「もしもし」
『あ、ごめん三浦さん!今すぐ来れない?』
「え、まあいいですけど…。でもなんで?」
『実は1人倒れちゃって。今は大丈夫だけど昼頃ってヤバイじゃん?だからお願いできないかな』
誰が倒れたのだろうか。しかしそれを聞けそうな雰囲気ではなく、普段通りに見える言葉の節々にはどこか焦りが見えた。
「わかりました。多分20分後くらいに着けると思いますんで」
『お願いね!』
短く念を押すと店長はすぐに電話を切った。私は早足になりながらスマホをしまった。
(…ヒキオんちの案、無駄になっちゃったじゃん)
あの流れなら何も気にせず渡すことだってできただろうに。少しの勿体なさを感じながら、私はバイト先へ歩を進めた。
◆◆◆
ピンポーン。
「…ったく今度は誰だ。たまの休日くらい休ませてくれよ」
まあ全然たまの休日と呼べるほど授業数があるわけじゃないが。本日3回目のインターホンにそろそろ辟易としながら、玄関口へ移動する。鍵を開けるとそこにはまたしても女が2人いた。
「お兄ちゃん遅いよ!小町がインターホン鳴らしたら2秒で出なきゃ!」
「先輩も酷いですよ〜、川崎先輩を家に呼ぶんならわたしも呼ばなきゃダメですって!で、川崎先輩はどこへ?」
「あいつらならもう帰った。…ってかなんでお前らがそれ知ってるんだよ」
先ほどのまるで地獄のような時間はマジでなんだったのだろうか。雪ノ下と川崎の向かい合う姿は竜虎相搏つという表現がまさに的を射ており、間に挟まれた俺はさながら睨まれたカエルのようだっただろう。
ただ要件だけ見れば義理チョコを渡しに来てくれただけだったので、ますます俺は混乱したのだった。地獄って今期のアニメのせいで楽しいイメージがあったけど、やっぱ地獄は地獄だな。あんなの2度と味わいたくもない。
「大志君から連絡来たんだよ。なんかお姉ちゃんがお兄ちゃんの家知りたい〜って」
「…なるほど」
それで雪ノ下は川崎について行ったというわけか。今ほど住所を雪ノ下に教えておいたらと思った時はないな。
「それより先輩」
「とりあえず中入れ。寒い」
「あ、ありがとうございます」
俺達3人はすぐに炬燵のテーブルへ移動し、3人が3人とも炬燵へ入っていた。
「で、ですね先輩」
「悪い小町、飲み物頼めるか?」
「ここお兄ちゃんの家じゃん…。待ってて、今行くから」
そう言ってゆっくりと立ち上がった小町はキッチンへ向かう。あの嫁スキルを見る限り、小町が妹じゃなかったら全力でアタックして玉砕していたことだろう。いや玉砕すんのかよ。
まあ兄妹だからこういった関係なのだろうが。
「先輩!!」
「なんだようるさい。てか姦しいわ。1人で3人分とか阿修羅かよ」
「気持ち悪いツッコミは置いといてですね、さっき先輩が言った“あいつらならもう帰った”の“あいつら”って誰ですか?」
「あ、それ小町も気になったー!」
遠くからわざわざ声を張り上げてまで同意する。まあ隠すことでもないので、俺は包み隠さず話した。
「…雪ノ下先輩ですか。流石にあの人も焦るんですね」
「俺の方が焦ったわ。あんな状況は1回で充分だ」
「お茶できたよー」
キッチンからお盆に乗せた温かいお茶を持ってきて、小町はそれを丁寧に俺や一色の前に置いていった。お盆は地べたに並べ、小町も炬燵に入る。
「やっぱり結衣先輩も来てましたか?」
「まあな。まだ俺が起きてない時間だったから流石にイラッとはしたけど」
「……てことはチョコいっぱいあるんですね」
拗ねたように一色は呟く。最近見ていなかったあざといその仕草にやられそうになるが、すんでのところで踏みとどまる。俺が俺じゃなかったら俺じゃなくなってたところだぞ、マジで(意味不明)
「やったねお兄ちゃん!チョコが増えるよ!」
「バカお前不穏な言い方はやめろ」
「てことではい!これは小町から!」
「これはわたしからです。味わって食べないと雪ノ下先輩と川崎先輩に言いつけちゃいますからね?」
「不穏どころじゃない脅しはやめろ」
机の上に置かれたチョコは、左から順に小町、一色のものである。小町のチョコは綺麗にラッピングされてあるが、そのラッピングの仕方を見る限り手作りのようだ。対して一色のは箱の形からして市販のものであり、ハートの容器に入ったチョコは恐らく10個入りだとかそういう類のものだろう。
「これで何個?」
「4。ありがたいことにな」
以前の俺なら考えられない数だ。やはり俺にとって高校時代は転換期になっていたのだろう。
「これから増える予定は?」
「ない……、まあ、ない……か?」
頭には三浦がよぎる。今日会った人の中でも小町を除けば今最も仲良くしているのは三浦だろう。しかしあいつが俺の家に来るなんて殊勝なことはしないかと考え直すが、来ないとも言いきれない仲なのがなんとももどかしい。まあそれがなんだというわけでもないがな。
「なんですかその歯切れの悪い返事。こういうとなんですけど先輩にチョコをあげる物好きなんてもういなくないですか?」
「直球で俺を殺しにかかるな。てかその理屈だとお前も物好きの1人じゃねえか」
「なんですかもしかしてチョコもらったからってわたしに好かれているって勘違いしているんですかごめんなさい告白はもう少しムードのある感じでお願いします!」
「久しぶりに見たな、そのお家芸」
一々内容を聞いたりはしないが、懐かしいものを見てなぜか心が和んだ。
……なんか和んだら眠くなってきた。そうだ、寝よう(唐突)
「俺寝るから、家出る時は戸締りよろしく」
「え、え!?もう合鍵ですか?!さすがにそれはまだ早いですって!」
「いろはさん、今の小町に対してですよ…」
最愛の妹の声をBGMに、俺はゆっくりとまどろみの中へ溶けていった。
◆◆◆
「っはあぁぁ…、疲れた」
バイトも一段落し、私は帰るために人の少ない裏道を歩いていた。このあとのことを考え、鞄に仕込んであるチョコをどうしようかとまだ悩んでいた。
(なんか渡すのめんどくなってきたし。もうこれあーしへのご褒美でも良い気がしてきた)
それほど今日のバイトは忙しく、不謹慎ではあるが今日倒れた子はラッキーとさえいえるレベルだった。
つっても今はすでにヒキオの家に向かってるんだけどね。自分の家の方面からは少しずれており、飲みながら話す愚痴が増えたなくらいにしか感じていなかった。
すっかり日も暮れた裏道はいつも以上に暗く、ここなら襲われても文句は言えないな、なんて感じた。
それから歩くこと15分。もう見慣れたアパートに着きヒキオの家のドアの前に立つと、不意にドアが開いた。
「あれ。えっと、確か……」
「え、三浦先輩?なんで?ここ葉山先輩の家じゃないですよ?」
「ヒキオんちでしょ?流石に何回も来たら覚えるし。てか隼人関係ないし」
ヒキオの部屋から出てきたのはまさかの後輩生徒会長と多分ヒキオの妹さん。見た目は全然似てないけど1人が好きそうな雰囲気とかは少し似ている。
「もしかしてチョコですか」
「まあそれもあるね。多分いつもみたいに宅飲みすると思うけど」
「なっ…」
「もしかして三浦先輩ってお兄ちゃんとクリスマス一緒に過ごしました?」
「まあ…、過ごしたって言うと語弊生みそうだけど。一緒にはいたよ」
「キャー!じゃあ今のところ一馬身リードですね!!ささ、どうぞお入りください!お兄ちゃんなら炬燵で寝てますんで!」
「ちょっと小町ちゃん?!先輩と2人っきりだよ!?いいの?!」
「オールオッケー!さあ、早く早く!」
妹さんに促されるまま部屋に通され、ドアが閉まる。外では妹さんと後輩生徒会長の言い争いが聞こえてくるが、気にせず中に入る。
言われた通りヒキオは炬燵で寝息を立てていた。気持ちよさそうな寝顔に起こすのが躊躇われたが、このままだと風邪を引きかねないので控えめに肩を叩いた。
「ヒキオ、そんなとこで寝ると風邪引くよ」
「んん……、お袋うるせえ…」
「誰がオカンだし。ほら、さっさと起きる」
「……なんだよ、って三浦か。いつの間に」
「妹さんが入れてくれたっぽい。ほら、チョコあげるから」
「何個目だよ……」
そこまで言って今のが失言と気付いたのか、慌てて言い訳をしようとするがもう遅い。
「何個貰ったん?お母さんに言ってみ?」
「お袋みたいなこと言うなよ。…妹除いたら、4個?」
「クソ
「寝起きにその斬れ味の罵倒は響くからやめてくれ…」
それから私とヒキオはいつものようにビールを開け、ツマミを夜ご飯として今日のことを話すのだった。
今日はツマミにチョコもあるしね。話すことは多そうだ。
刃牙に花山っているじゃないですか。あいつが学校に通ってたら、とりわけ俺ガイルとのクロスだと面白いことになるんじゃ?と思い1話分を書き上げてからもう一度花山についてしっかり調べてみるとなんとすでにスピンオフで同じネタがありました。
無駄骨とまでは言いませんが、見つけた時の徒労感は半端なかったです(笑)