もしも八幡とあーしさんが運命の赤い糸で結ばれていたら   作:しゃけ式

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2話

 俺のライターが消えてから3日後の朝。俺はいつもよりスッキリした頭で覚醒した。

 

 頭が冴えているのは禁煙(強制)の賜物なのか。恐らく三浦が間違えて持っていったであろうライター以外で煙草に火をつけるのがなぜか躊躇われたため、俺は絶賛無駄に禁煙中なのである。

 

 

 三浦に言われたからではない。断じて。

 

 

 ……ああ、いかんな。煙草のことを考えたら吸いたくなってきた。だけどコンビニで安いライターを買うのは、なんか負けのような気がする。

 

 ただ勿体ないんだよ。そう、勿体ない。カートン買いしたPeaceが寂しそうにこっちを見てるからな。そろそろ口付けくらいしてやらないと目覚めないだろ?身を焦がすほど俺のことが好きみたいだし。

 

 

「由比ヶ浜にでも連絡先聞くか」

 

 

 一人暮らしのため独り言を言っても引かれない。その代わり独り言は増えたけど。

 

 簡単にだけ由比ヶ浜に伝えて、重い体にムチを打ち洗顔しに行く。この時期は寒いけど眠気を取るのには丁度いいからな。

 

 

 

 

 

────

 

From.ヒッキー

 

 

三浦の連絡先を教えてくれ。多分確認とかいらねえからよろしく。

 

 

────

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 さて、由比ヶ浜の鬼のような着信履歴と一通のメール(恐らく三浦のアドレスだと思われる)を華麗に無視して、いやまあ無論後で返事はするけども、今日はそれ以上に大事なことがある。

 

 

 お友達(仮)との飲み会だ。今日の講義が終わってから、夜の6時半に最寄り駅集合。人数は俺を含め男4人。

 

 妄想の大学生活ではこんなむさくるしい字面の飲み会なんてなかったが、そうでなくともこの飲み会は大学生になって初めての飲み会だ。多少浮かれてしまうのも無理はない。はず。

 

 

 どうせ男だけの軽い感じの飲み会だ。今から緊張してどうするんだとも思う反面、どんな話のネタを持っていくか必死に考えている俺もいる。

 

 ぼっちネタ…は引かれるし、アニメネタなら…いやいや、相手がサブカル嫌い系男子だったらどうすんだよ。

 

『え、比企谷そういうの好きなの?見た目通り〜(笑)』

 

『どうりでキモいと思ったわ〜(笑)』

 

 想像しただけで死にそうになる。やめろ俺。ネガティブな発想を捨てるんだ。

 

 

 ……まあ話のネタに関してはおいおい考えるか。とりあえずは相手の話に合わせて、その場のノリについていく。酒は勧められたら断らず、最初には乾杯。あとは……、あれ?よく考えたらあいつほとんど教えてくれてなくね?残ってんのは金払うだけ?もしかして俺財布になりに行くのか?

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 時は流れて時刻は午後6時15分。場所は最寄り駅から近い本屋の中。本当は今日そいつらと出会ったときに「飲み会までどっかで遊んでいかね?」とでも言えたらよかったのだが。残念なことにそれが言えるならば大学に来てまでぼっちにはなっていない。

 

 

「あれ?比企谷くん?」

 

 

「へっ?!」

 

 

「あ、やっぱ比企谷くんじゃん。こんなとこでどしたん?…って、あれか。時間潰してたんだよね」

 

 

 誰だこのチャラい茶髪男…、じゃねえわ、今日の飲み会相手だ。そいつの後ろには残りの2人も立っている。おおよそ俺の適当な服装とは異なり、3人ともガチガチに着飾っている。

 

 俺も考えたけど、男だけなのに1人だけ勝負服とか恥ずかしくて死ねるだろ?つまるところ安牌を選んだら意識していなかった他家にアガられたというわけだ。

 

 

「お、おお。そろそろ向かおうかと思ってたんだ」

 

 

 手に取っていた本を置き、そいつの方へ向く。そのまま場所へ向かうのかと思いきや、ノータイムで茶髪が俺の持っていた本を手に取った。

 

 

「へえ、比企谷くんってこんなの読むんだ。普通の本じゃん」

 

 

 普通の本じゃないってどういうことだよ。いきなり多方面に喧嘩を売ってんじゃねえか。

 

 

「なんかラノベ?とか読むと思ってたわ〜」

 

 

 あははは、と後ろのやつが茶化して3人で笑う。あいつらの中ではラノベが普通の本じゃなく、俺はそれを読むやつだと思われてたんだな。

 

 残念ながらラノベも読みます。今はたまたま見てなかっただけです。

 

 

 俺の中でこいつらの評価を下方修正しながら、そろそろ(くだん)の場所へ向かうとのことで、やっとか内心ため息をつきながら本屋を出た。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「ここ…?」

 

 

「そうだけど、何か問題でもあった?ここバイト先とか?」

 

 

「いや、そんなことはないんだけどな…」

 

 

 いつぞやの居酒屋。さらに言うなら3日前に行ったばかりの、2年ぶりに三浦と再会した居酒屋だ。

 

 偶然だろうが、俺はこの居酒屋には変な縁があるのかと適当に考えて中に入った。

 

 

「いらっしゃいませ、何名様ですか?」

 

 

「8人です。予約してた比企谷ですが…」

 

 

 勝手に俺の名前使ってんじゃねえよ。てか俺の名前使う方が面倒くさいだろ。一応珍しい名字に入るわけだし。

 

 

「ああ、はい。ではこちらへどうぞ」

 

 

 連れられるままに歩く。着いた場所は前にいた狭い2人席などではなく、大きく開けた宴会用の席だった。軽く見積もって10人くらいは入るだろうか。

 

 

「広すぎないか?」

 

 

 ついそう聞いてしまうくらいには、場違いな広さだった。

 

 

「え?まあ相手含めたらこんなもんじゃね?それともあれ?狭い方が女の子とくっつける的な?比企谷くんも案外やらしいじゃん!」

 

 

「……待て待て、俺ら4人じゃないのか?」

 

 

「そりゃまあ、合コンだし」

 

 

「え」

 

 

「言ってなかったっけ?ごめんごめん!だって比企谷くん見た目はカッコイイから相手喜ぶと思ってさ」

 

 

 なんの言い訳にもなってねえよ。てか見た目()ってクソ失礼だな。それよりも合コンて……っつかツッコミどころが多すぎて処理しきれねえ。

 

 そういやこいつらいつも4人組なのに今日はなぜか3人か。つまり俺は数合わせに使われたってことかよ。まあ下手に幹事とかやらされるよりはマシか。

 

 

「ちなみに相手の人数は?」

 

 

「4人。てかさっき8人ですって言ってなかったっけ?」

 

 

 言われてみれば…、いや覚えてねえわ。そん時は比企谷ですの印象が強すぎる。

 

 

「おっ、そろそろ着くみたいだぞ!お前ら服装直しとけよ!」

 

 

「言われなくとも、てかお前こそ髪の毛直したら?めちゃくちゃ外ハネしてるぞ!」

 

 

「うっせえファッションだよ!」

 

 

 やいのやいのと騒ぎ出す3人。これは俗に言うところの内輪ノリというやつだろうか。楽しそうではあるが、あそこに入りたいかと言われると閉口せざるを得ない。手持ち無沙汰(この場合は口無沙汰か?)な俺は、気持ち整える程度に髪の毛を手で触った。別にワックスやスプレーなんて洒落たもんは使ってないから本当に触っただけだが。

 

 

 

 ノックが聞こえると、それまで鏡やら櫛やらと騒いでいた3人はそれらをすぐさまカバンに直し、どうぞと茶髪が言う。

 

 

「こんにちは〜、今日はよろしくねー!」

 

 

 黒髪、茶髪、金髪1、金髪2と個室に入ってくる。いかにも女子大生ですと主張する姿に、思わず目をそばめた。

 

 

 ……てか嘘だろ、なんでここにいんだよ。

 

 

「え、ヒキオ!?ウッソなんでここにいんの?!」

 

 

 いつもの金髪縦ロール(名前は違ったはずだが、もう忘れた)にギャル系の服装、極めつけは胸に下がっている俺のライター。間違いなく3日前に出会ったばかりの三浦優美子だ。

 

 

「あれ、優美子知り合い?いいじゃんカッコイイ人じゃん!」

 

 

「んなの見た目だけだし。あ、あとこれ。前間違って持って帰ってたからさ、返すよ」

 

 

 首に掛けていたライターを外して俺に渡す。俺はああとだけ言ってそれを受け取り、首に掛ける。やっぱりこの重さは落ち着くな。

 

 ふと隣を見てみると、俺の左にいる3人は何が起きているのかわからず唖然としていた。そりゃぼっちだと思っていたやつが合コン相手のリーダー格と思しきやつと知り合いなら、困惑もするわな。多分それ以上に俺の方が困惑してるけど。

 

 

 ……変に縁があるのはこの店じゃなくてこいつ(三浦)か。

 

 

「と、とりま座ってよ!まずは自己紹介から、ね!」

 

 

 促されるまま4人は座り、自己紹介が始まった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「へえー、じゃあ三浦さんは比企谷くんと同じ高校だったんだ」

 

 

「そ。そんで一昨日くらいにここで出会ってライターを間違えて持って帰ってしまったってこと。あーしとヒキオにそういうのはないから」

 

 

 自己紹介を終えると、早速私とヒキオの関係について聞いてきた。疑る一同には本当に何も無いとしか言えないのだが、せめてもの代わりとして出会った経緯とこの前のことを話した。女友達はなあんだとテンションを収め、男どもも同じくなんだと息をつく。

 

 大方ぼっち臭いヒキオがなんで私と知り合いなのかと勘繰っていたのだろう。ほんと浅はかだね。

 

 

 どうでもいいが、相手の中にいる茶髪のやつは若干だけど隼人に似ている。爽やか系の顔にみんなをまとめようとする行動力。

 

 あとは、どこか滲み出る偽善臭さ。

 

 

「じゃ、ちょっとだけお花摘んでくるね?」

 

 

「はーい。了解でーす」

 

 

 取り巻きその1が答えるなり、私たちは部屋を出た。花?摘む?などと1人疑問を持つヒキオに説明したくなったが、置いていかれそうになりやめた。まあ誰か説明してくれるでしょ。それこそ爽やか茶髪辺りがね。

 

 

 

 

 

「ね、誰が良さげ?」

 

 

「まだ何とも言えないけど、見た目だとやっぱ比企谷くんじゃない?あと茶髪の人」

 

 

「名前くらい覚えてあげなよ〜。優美子は?」

 

 

 トイレでの会話。合コンの初めに女がトイレに行くと、しばしばこういった会話が始まる。

 

 

「あーしは特に。別に今日だって来たくてきたわけじゃないし」

 

 

「そう?優美子可愛いのに勿体ないなー」

 

 

「じゃあさ、あたし比企谷くん狙っていい?」

 

 

「「おおーっ!」」

 

 

「…え、マジで?」

 

 

 思わぬ発言につい聞き返してしまう。高校ではぼっち筆頭だったヒキオが、まさか合コンで狙われる対象になるとは。確かに顔は整ってるとは思うけど、それにしたって………、ねえ?

 

 

「うん。優美子が行くんならやめるけど、ダメ?」

 

 

 上目遣いでそう聞いてくる。

 

 

「女が女にやってもイラつくだけだっつの。あと別にいいから、あーしに確認とかいらないし」

 

 

 元々彼氏でもなんでもないし。様式美だとはいえ、少し癪に障った。

 

 

 ──それがどんな意味を持つのかは、その頃の私には見当すらつけていなかったけど。

 

 

 その後は誰が誰を狙うかしっかりと話し合い、トイレを後にした。ちなみにあーしは適当にやり過ごす係。男から狙われない程度に、適度に会話に参加するといった暇な係である。

 

 

 

 

 

「お、帰ってきた?とりあえず全員分の生注文しといたし、他にいるものがあったら言ってね」

 

 

 帰ってくるなり茶髪が早速気が利きますよアピールをする。この辺りの透けて見えるところが隼人と違うところだね。

 

 

「ねね、席替えしない?ずっと男対女の構図じゃ深まる仲も深まらないし!」

 

 

「いいじゃん、やろっか!割り箸はこっちが持ってるし、どんどん引いて!」

 

 

 やだ〜、エッチなこと考えてるでしょ〜。なんて言うが3人は本心ではウェルカムに違いない。こういうのであーしが当たってしまうと、この3人はすかさず助け舟を出す。それが傍観係の唯一の旨みであり、また4人の安寧のためでもある。

 

 

 引いた先はヒキオの隣であり、私が端っこだ。あーしの向かい側は茶髪で、ヒキオの反対の隣は先ほどヒキオを狙うと公言したあの子だ。

 

 

「比企谷くんって煙草吸うんだよね?なんかいがーい」

 

 

 早速話しかける。行動の速さは多分4人の中で随一だろう。

 

 

「え、あ、まあ。最近は3日だけ禁煙してたけど」

 

 

「禁煙?なんで?」

 

 

「えっと、あの。三浦にライター取られてたから…」

 

 

「なんかあーしが悪いみたいじゃん。随分偉くなったし?」

 

 

「元は間違えて持って帰ったのが原因だろ」

 

 

 ガチガチのヒキオは、私が小突くと途端に柔らかくなった。ちょっとだけ頬が緩む反面、向かい側が怖くなったりもした。

 

 

「もー、比企谷くん優美子にだけ打ち解けすぎ〜。もっとあたしとも話そ?」

 

 

 先ほど私にやった上目遣いを披露。また(ども)りながらもおうとだけ返したヒキオには、まさにてき面であった。

 

 

 

 

 それから私たちは思い思いに話し、頃合かと思ったのか茶髪が先ほども使った割り箸を出して王様ゲームをしようと言い出した。気落ちを隠せずにいたのか、斜向かいの友人に目で注意されてしまった。

 

 古いからこそ愛される。確かに距離を縮めるにはもってこいではあるんだけどね。

 

 

「「「王様だ〜れだ!」」」

 

 

 あ、私が王様。まずは一安心かな。

 

 

「じゃあ3番があーしの生頼んで。あ、足りない人の分も頼むね」

 

 

「え、ああ、うん…」

 

 

 どんなのが来ると思えば、期待はずれもいいところの内容が来て落ち込む取り巻き2。合計3つ頼んでから、ゲームは再開された。

 

 

「「「王様だ〜れだ!」」」

 

 

「お、俺か。なら1番は隣の人と手を繋ぐ!あ、繋ぎたい人の方でいいからね〜」

 

 

 結構えぐいのぶち込んでくるなこいつ…。別に内容自体は軽いものだが、繋ぎたい方という言葉だけで(くらい)が跳ね上がる。

 

 

 そんな可哀想な奴は誰かと思えば、なんてことはない。近くにいた。

 

 

「……俺か」

 

 

 呟くヒキオに思わず隣のやつはえ?え?マジ?などと色めきたっている。この場合ならこいつの性格上……。

 

 

「三浦。ん」

 

 

 案の定私に右手を差し出す。やっぱりと思う反面、ヒキオの隣が怖いから若干ビビる。

 

 

「一応聞くけど、なんで?」

 

 

 針のむしろであるヒキオに一応蜘蛛の糸を垂らす。飛びつかないなら飛びつかないでいい。船ほど高尚なもんじゃないし。

 

 

「え。……まあ、利き手が右だから?」

 

 

「あっそ。まああーしもなんも思わないから別にいいけど」

 

 

 言うなり出された手を握る。そういえば3日前も手を繋いだな、なんて思い出す。あの時とは差し出す相手が逆だな、とかそんな適当なことを考えていた。

 

 

 ……はずなのに。

 

 

「あれ、三浦さん顔赤くね?もしかして意識してた?」

 

 

「は、はぁ!?んなわけないし!!」

 

 

 急激に顔へ血が昇り、勢いに任せて手を引く。ヒキオはなんともないようだったのが余計腹立つ。1発腹にグーを入れてから、次だと催促する。

 

 

 

 ……いやマジで、意識してるとかそんなんないから!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




よう実最新刊読みました。新刊とか読むとそのタイトルを書きたくなる症候群どうにかしなきゃ…。

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