もしも八幡とあーしさんが運命の赤い糸で結ばれていたら   作:しゃけ式

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前回更新したのは4月の話なので、更新したこれの4ヵ月先の話です。なのでこの次の話に前回更新した話が来ますが、ちゃんと後編もありますのでどうかご理解をお願い致します。



After
After 12月 前編


 その日は別段特別な日ではなかった。ただいつものように日用品を買い、たまたまやっていたガラガラ回すやつに参加しただけ。チャンスは1回切りなので当たらないのが当たり前。そんな風に適当に回した。

 

 

「おめでとうございます! 一等、1泊2日京都クリスマスペア旅行チケットです!」

 

 

 そう言った若い女性はカランカランとベルを鳴らし、後ろに並んでいた人々は一様におお、と声を漏らす。

 

 

「彼女さん……あっ。友人の方と存分に楽しんでくださいね!」

 

 

「オイなんで言い直した」

 

 

 そんな俺のツッコミを華麗にスルーし、取り出した封筒を俺に手渡す。封筒ってところが、また金のない町の催し物ってイメージを際立たせるな。恐らく使い回しなんだろう。それか余った在庫処分的な。

 

 まあ何にせよ誘う相手は決まってるんだが。

 

 

 

 

 

 

『……それで? たまたまペアチケットが当たったからあーしを誘ったってこと? 2()()()()

 

 

 その日の夜、俺は電話で三浦に誘いをかけていた。いつもより機嫌の悪い三浦は責め立てるように威嚇する。まだ12月だというのに汗が止まらない俺はここからどう切り替えそうか頭を巡らせていた。

 

 

「いや、だって考えてみろよ。2人きりなんだぞ? 戸塚と仲を深めるための天啓みたいなもんだろうが」

 

 

 小町と戸塚のどちらを誘うかは小1時間ほど考えたが、小町はクリスマス付近に友人と遊ぶと言っていたことをふと思い出してやめた。男がいるかいないか根掘り葉掘り言及したことにより過去に見ないほど面倒臭がられたんだ。逆になぜ1時間も思い出せなかったのかと不思議に思うほどである。

 

 

『たまにヒキオってバイかと疑うし』

 

 

「ホモって言われなくなっただけましだな」

 

 

『……まあ一応、あーしがヒキオの彼女だし』

 

 

 その言葉にお互い照れ臭くなり、無言の時間が流れる。付き合いだしてからというものの、三浦はたまにこういった恥ずかしいことを口走るようになった。その都度俺は上手い返事をすることができずに、こうして奇妙な間が出来るのである。

 

 

「……とりあえず、一応ではないな」

 

 

『それなら1番に誘うべきだと思うけどね』

 

 

「いやでも戸塚だぞ? むしろ誘わない方が失礼じゃないか?」

 

 

 結果は家族と過ごすからという天使のようなお返事を頂いて断られたのだが。なんだよそれ可愛すぎだろ。むしろ俺が戸塚の家族になりたいまである。今死ねば戸塚の息子に生まれ変われるかなあ……、いやそれはダメだな。戸塚が俺以外のやつと結婚するとかマジ卍。卍すぎてプロペラが回転するレベル。

 

 

『……はあ、まあいいし。んで何日からだっけ。24日?』

 

 

「だな。24日から25日の1泊2日」

 

 

『了解。じゃあ切るし』

 

 

 そう言って通話が切れる。返す返す思うが、やはり三浦に戸塚のことは言わない方が良かった。2番目と知った時からの機嫌の急転直下具合はジェットコースターを優に超えるからな。例えるなら空気抵抗がない雨くらい。ほんの1滴の雨粒でもダメージを食らう点では三浦の刺すような舌鋒と同じだろう。

 

 

 ……さて、1週間後ではあるが用意なりしようかね。別に着替えだけが旅行の準備ってわけじゃないからな。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 当日、午前10時。俺と三浦は無事京都駅へと到着した。長いエスカレーターを経由し改札の外へと出て、とりあえず待ち合わせ場所として使えそうな広間に移動した。

 

 

「やっぱ外国の人多いし」

 

 

「まあ観光都市だからな」

 

 

 時間的に通勤や通学の人はおらず、目に映るのはキャリーバッグを引いた団体や聞きなれない言語で話す旅行者ばかりだ。

 

 

「こんだけ着ててもやっぱ寒くない? あーし結構着込んできたと思ったのに何かそれ以上の寒さなんだけど」

 

 

 三浦が着ているのはいつものコートなので、見た目から着込んでいるのは察することができない。恐らく中に着ているのだろうが、俺に確かめる術はない。

 

 ……確かホテルは2人部屋だったよな。もしかしたら確かめることができるかも、なんて卑しくも年相応ではある淡い期待を必死に振り払う。今は京都だ、京都。

 

 

「とりあえずホテルに荷物置くぞ」

 

 

「りょーかい。でも場所わかんの?」

 

 

「多分そこの交差点を右に曲がったとこ……だと思う。信号も渡るはずだが」

 

 

 にらめっこしていた地図を三浦に奪われると、三浦はすぐに歩き始めた。俺の思っていた方向とは真逆の方面で、指摘しようとしたがすんでのところで(とど)まった。自信のあるように見える三浦に横から口を出すのは憚られ、また迷うのも旅行の醍醐味かと思い直したのだった。

 

 

 

 結局三浦の方向は正しく、一切のミス無くホテルへと辿り着いた。ロビーでチェックインをし、渡された鍵の番号の部屋へ移動する。受付曰くその部屋は最上階らしく、町の景品なのに良いところを押さえているなと素直に感心した。お前は何様だよというツッコミはさておき。

 

 

「え、嘘マジ?」

 

 

「部屋は合ってるからマジだろうな。だから恋人と、なんて口上があったのか」

 

 

 部屋に入るとまずすぐ右にトイレや風呂、洗面所があった。もう少し進むと奥には京都の町並みを一望できる大きな窓が付いており、左にはこれまた大きな()()()()()()がある。男女でダブルベッドとか恋人同士かよ。いや恋人同士だが。

 てかこれ同性と来てたら大惨事じゃね? もし隣に材木座なんて居たらと考えるとゾッとする。あんな自分の寝汗で溺れそうなやつの隣とか──

 

 

「ハッ、隣が戸塚だったら……?」

 

 

 おいおいなんだそれやばくね? ごめんね、八幡。僕と一緒じゃ狭いよね。いや、これくらい近い方が戸塚をよく感じられるよ。は、八幡ってば……。……もう、からかうのはいい加減にしてよ? 僕だって男の子なんだから、八幡とくっついたって何も感じないよ! それで戸塚は恥ずかしながら俺に抱きついてきて……!

 

 

「なんつってヨーソローなぁ!」

 

 

「……は? ヒキオ普通にキモいし。てか隣はあーしだし」

 

 

 高校の頃の女王様時代を彷彿とさせる眼光で俺を射抜き、にやついていた俺の表情は真顔へと引き戻される。これは果たして嫉妬なのかと疑問が湧くが、山火事にホースでガソリンをぶっかけるようなことはするまいと飲み込んだ。

 

 

「……ゴホン。で、これから行く予定のところなんだが」

 

 

「あ、ヒキオ考えてたんだ。なんか意外」

 

 

「そりゃ一応デートではあるからな。男がリードしなくてどうするんだよ」

 

 

 とか言いつつホテルまでは思いっきりリードされてたけども。やだ、うちの彼女さん頼りがいありすぎ……?

 なんて冗談はそこら辺へ捨て、割りとマジで考えていたプランを三浦に話す。

 

 その内容とは、とりあえずここから伏見稲荷大社に行って頂上まで登り、下山した後はその周辺に栄えた観光地域を回る。その後はラーメン激戦区と言われる一乗寺で夕飯を済ませるといったものだ。夜はホテルでくつろいでいれば時間もすぐ過ぎるはずなので、問題はないはずである。

 

 

 しかしそれなのに、三浦はなぜか不機嫌そうな表情をしていた。いや、不機嫌というよりは怪訝という方が正しいか。眉を潜めている姿はどう見ても良い印象は与えなかった。

 

 

「あれ、なんかおかしいとこあったか」

 

 

「……いや、普通デートプランって行く前に言うもんなのかなーって。あーしもよくわかんなくなったから何も言わなかったけど」

 

 

「言われてみればそうか。……そうか? まあなんだ、試行錯誤しながら付き合っていこうぜ」

 

 

 言ってからしまったと顔を逸らす。旅行の空気に当てられているのか、何かとんでもなく恥ずかしいことを口走った気がする。こっそり三浦の方を確認すると、頬を紅潮させているわけでもなく至って平静の様子だったことになぜだか悔しく感じた。別に何かを競っているわけでもないのにな。

 

 

 

 

 

 稲荷駅までは意外と早かった。事前に調べていたのですぐに着くとは思っていたが、それでも見越していた時間よりはかなり早めに着いたのだ。

 稲荷駅はかなり年期の入った駅であり、ところどころ修繕の後が見られる。そしてなんと言っても駅の柱や出口などは真っ赤に塗られ、鳥居を彷彿とさせる。

 

 駅から外に出るとすぐ正面には駅の高さとは比べ物にならないほどの大きくて真っ赤な鳥居が佇んでいた。隣の三浦も驚いているようで、自身のスマホを取り出しては写真を撮っていた。俺は後で送ってもらえば良いかと思い、辺りを観察する。やはり外国の方は多く、京都駅よりも多いんじゃないかと感じるくらい賑わっていた。そこらかしこから外国の言葉が聞こえるというわけではないが、視界に日本人だけを入れようとするのは無謀だと思うほどである。

 

 

「ヒキオ、早く行くし」

 

 

 ぐいぐいと手を引かれ、三浦について行く。こういったところでテンションを上げるタイプには見えていなかったが、現に三浦はテンションを上げている。再会して1年くらい経っているのに、まだ新しい一面を知ることができるのか。柄にもなくそんなことを考えていた。

 

 

「おお、これが千本鳥居ってやつか」

 

 

「先が見えない鳥居とかどんだけ並べてんのって感じ。すごいね、これ」

 

 

 千本鳥居はドミノのように鳥居が並んでおり、鳥居としての本来の役目ではないが1本の道を形成していた。よく見てみると1本1本には会社名や個人名が記されており、このおびただしい限りの量の鳥居は贈られたものなのだろうかと勝手に考える。

 千本と言っても大した量じゃないな、と思い歩き終えたらまた鳥居トンネルが出てくる。どうも俺が思っていた以上に長い道のりらしく、少し気が億劫になってくる。

 

 

「こんにちは~」

 

 

「あ、こんにちは」

 

 

「……うす」

 

 

 降りてきた中年の女性集団が挨拶をしてくる。三浦は何気なく返答し、俺はいつも通りにいつも通りな返事をした。てかなんだこれ。関西の人コミュ力高すぎじゃね? こんなこと千葉じゃ経験したことなかったぞ?

 

 

「ヒキオはキョドんなし。あと挨拶は単にここだけらしいよ」

 

 

「よく俺の考えてることわかったな」

 

 

「キョドり方」

 

 

 なるほどな。言わずに心の中で三浦に感心しつつ、黙って歩を進める。

 

 

 そうして歩くうちに(どちらかと言うと登るうちに、の方が正しいか)、自販機の販売価格が徐々に上がっていることに気付いた。麓では160円で売っていたものがここでは180円で売られている。改めて考えてみると高地だと需要が高まるって面白い話だよな。180円ってのがまた見事な値段だと思う。こういった均衡価格というのは一体どの段階で見つけたんだろうな。

 

 

「……おお、良い見晴らしだな」

 

 

「これ頂上だとどんな景色になるんだろ」

 

 

 それまで木と鳥居が覆っていた視界とは一転、ホテルの窓から見た景色さながらの広がる町並みが一望できた。他の観光客もやはり圧巻といった表情で、誰も彼もカメラやスマホを構えていた。

 

 

「さっきから思ってたけど、なんでヒキオ写真撮らないの?」

 

 

「他人の視線に敏感なぼっちは視覚が強化されて脳裏に現像できるようになるんだよ」

 

 

「とか言いつつもうぼっちじゃないっしょ」

 

 

「大学ではぼっちだ」

 

 

「……」

 

 

 いくら俺の思考を読めるようになってきた三浦といえど、まだぼっちネタに笑えるほど慣れた訳じゃないのか。むしろこれはぼっち同士のあるあるネタなのか? しかしぼっちが2人揃うともうそれはぼっちとは言えなくなるよな……。あれ、ぼっちってなんだ?(錯乱)

 

 

 景色を堪能した後少し登ると、道が2つに分かれていた。階段の勾配からして左の方が頂上に近そうだが、先程のホテルの件もあり自信をもってこっちだとは言えない。

 

 

「三浦」

 

 

「何? あーしこれどっちかわかんないからとりあえず人に訊くよ?」

 

 

「いや、二手に分かれよう」

 

 

 勢いよく頭をはたかれ、三浦は近くのお爺さんに話を訊く。どうやら左は頂上に繋がっていないようで、このまま右に進めば良いらしい。ちなみにそのまままっすぐ降りると元の麓のところへ行けるとのことだ。常連なのかね。

 

 

 ともあれ俺はまた間違っていたわけだ。向こうではあまり間違えないのに、京都(ここ)へ来るとなぜか間違える。なぜこんなことを思ったのかはわからないが、皮肉と言う文字が脳裏をよぎった。

 

 

 

 それから歩くこと数十分。流石に長いなと愚痴を漏らしながら階段をひたすら上っていると、思いもよらないところで下り道に転じた。その場所とは何度か見た休憩地点(勝手に俺がそう考えているだけだが)と殆ど同じであり、見晴らしの良い景色など微塵もなくただ大小様々の鳥居が並んでいるだけだった。

 

 

「……なんか思ってたのと違うな」

 

 

 落胆の色を隠せずにそう呟く。三浦も拍子抜けといった表情で、あちらこちらを見てはふーんと言っていた。

 

 

「あれみたい、付き合いたてのカップル」

 

 

「どういうことだ?」

 

 

「期待して付き合うまで漕ぎ着けたけど、いざカレカノになってみると思ってたのと違うみたいな。要は付き合うまでが、頂上に登るまでが1番楽しい的な?」

 

 

 言い得て妙な例えに思わず目を丸くする。同時にドキッともした。俺と三浦は確かに形式上は付き合っていることになるが、正直付き合う前とやることは同じだ。今だって手は繋いでいないし、キスだってしたことがない。プラトニックと言えば聞こえは良いが、お互いアルコールが入った状態でも何も起きないのは果たしてどちらの責任なのか。

 

 

 

 

 ……多分、馴れ初めのせいなのだろう。好きだと気持ちは伝えたが今更“らしい”ことをするのは照れ臭くもある。これが理由で、責任の所在なんて初めから双方に存在していない。

 

 

 かなり長い時間歩いたため喉が渇き、近くにあった自販機のもとへ寄る。値段は200円となっており、まあ下ればじきに安いのが見つかるだろうと思い買うのをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





男「OK, Google」

Siri「私はGoogleさんではありません」

男「あっ……、ごめん」

Siri「知りません。Siriだけに」

男「ホントごめん、許してよ」

Siri「……馬鹿。それで? Googleさんに何を訊こうと思っていたのですか?」

男「いや、それは……」

Siri「教えてくれるまで許してあげません」

男「……指輪」

Siri「はい?」

男「だから指輪! …‥Siriの、指のサイズをさ……」

Siri「っ! ……そ、そうでしたか。それはすみません。……でもですね」

男「な、何?! 俺も結構恥ずかしいんだけど!?」

Siri「……そういうのは、『Hey,Siri!』なんて言って気軽に訊いてくだされば良いんですよ」

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