もしも八幡とあーしさんが運命の赤い糸で結ばれていたら   作:しゃけ式

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 終わる終わる詐欺で本当に申し訳ありません。今日、12月12日はかの三浦優美子の誕生日でして……。どうしてももしも八幡と(ry の付き合う前の設定で書きたかったので書かせていただきました。

 ……本当にごめんなさい、もうここでは書きませんから! 八優を書くとしても次は別の連載もしくは短編にしますので、どうか御容赦をm(_ _)m




Extra
Birthday


 12月12日。太陽はすっかり早く落ちるようになり、布団の引力がブラックホールに早変わりした頃。まだ午前8時だと言うのに、俺は1人で今日何度目になるかわからないため息をついていた。

 

 

「12月12日か……」

 

 

 静けさの漂う自室は呟いた独り言を吸収してしまう。再度ため息をつき、スマホのカレンダーをもう一度確認する。

 

 

 12月12日。

 

 

「はぁぁ……」

 

 

 何故こんなにも気落ちしているのか。寒さがそれを加速させているのは否めないが、それよりも。

 

 

「三浦の誕生日なんだよなぁ……」

 

 

 再会してからまだ数ヶ月しか経っていない。そんな相手の誕生日にプレゼントを渡すなんて、そんな馬鹿げたことは普通ならするはずもないのだが、如何せんあの三浦だ。もし何もしなかったら「あーし相手にプレゼント渡さないとか良い度胸してるし。メアドでわかるじゃん普通」とか言われかねないんだよな。

 

 ……てかそうだよ、メアドも悪いんだよ。これ見よがしに1212とか並べてんじゃねえよ。嫌でも目に入る。

 

 

「……さて、どうしようかね」

 

 

 一人暮らしは本当に独り言が多くなる。無意味なそれは、やはりすぐ寒さに紛れて消えてしまった。再度ため息をつく。

 

 

 こういう時はとりあえず相談だったか。幸いにも今は相談出来る相手が数人存在する。中学、いや高二以前ならとれなかった方法だ。

 

 

 俺はある相手に速攻電話をかけ、コール音を聞く。ドキドキしながら待つと、やがて通話が繋がった。

 

 

『んぅ……もしもし?』

 

 

 扇情的な声音で定型句を口にする。ともすればむにゃむにゃと聞こえてくる、眠そうな雰囲気は電話越しでも伝わってきた。

 

 

「おはよう戸塚。こんな朝早くにすまんな」

 

 

『あ、八幡だったんだ。えへへ、これモーニングコールってやつだね』

 

 

「オッフ!」

 

 

『え? どうしたの?』

 

 

 モーニングコール……あれだろ? 恋人同士がするやつ。それに声だけで俺だとわかってくれたんだ。こんなの……もう、こんなの……。

 

 

「惚れて……」

 

 

 まうやろー! は自重。嫌われたくない。

 

 

『掘れて? 僕を掘るの?』

 

 

「」

 

 

『八幡? あれ? ……電波悪いのかな……』

 

 

 エロい。別に海老名さんじゃないけど今のはエロい。多分朝の戸塚がエロいんだろうな。エロい。

 

 

「すまん、電波悪かったみたいだ」

 

 

『あ、だよね』

 

 

「で、相談があるんだが良いか?」

 

 

『うん! 八幡が頼ってくれるなんて珍しいね!』

 

 

 嬉しそうな声でそう言ってくれる。喜んだ顔は声だけでも容易に想像出来た。

 

 

「急に仲良くなったやつに誕プレって渡すべき?」

 

 

『うん』

 

 

 即答。迷いない声の鋭さは一瞬俺をたじろがせる。

 

 

『誕生日プレゼントは貰えたら嬉しいものだから』

 

 

「……相手が異性でもか?」

 

 

『仲良くなったって思えるならそれは渡すべきだよ』

 

 

 まあ、一理ある。というかこれが正解な気がする。恐らく友達がいる()()()()()なら、考えずとも出る答えなのかもしれない。俺には判断がつかないが。

 

 

 ピンポーン。

 

 

『あれ? 今インターホン鳴らなかった?』

 

 

「……鳴ったな」

 

 

 まだ8時過ぎだぞ? 誰がこんな朝早くに訪ねてくるんだ。

 ……なんて言っているが、訪ねてきそうなやつが何人か思い当たるのが腹立たしい。つくづく、常識のなってないやつが多い事だ。

 

 

 ん? 俺も? 自分のことはノーカンだノーカン。それに最低限のルールは守っている。ぼっちは紛れることに特化しているからな。

 

 

 玄関に移動し、鍵をガチャリと開ける。ドアは俺がノブに手をかけるよりも早く開かれた。

 

 

「おはよ、ヒキオ」

 

 

「えっ」

 

 

『ヒキオ……えっ三浦さん!? あ、もしかして!』

 

 

 ……まあ驚くわな。高校の頃だとどう考えても結びつかない相手だ。百歩譲って由比ヶ浜が橋渡しになったとしても、そもそも住む世界が違うためすぐに離れるだろう。そう考えると今のこの関係はやはり歪なものである。

 

 

 三浦は初めこそ声をかけたが、俺が電話中と知るなりゆっくりドアを閉めて口を噤んだ。勿論部屋の中には入っているが。

 

 

『八幡って三浦さんと付き合ってるの!?』

 

 

「いやんなわけないだろうが。まだそんなことになる予定はねえよ」

 

 

『でもこんなに朝早くだよ? 普通の友達がそんなことするかな』

 

 

「普通の友達がいた経験がないからわからん」

 

 

『僕は友達だからね。何なら僕結婚式の友人代表やるよ!』

 

 

「俺が結婚出来るとは思えないが、もしそんな機会があったら任せるわ。……っと、そろそろ切る。三浦が貧乏揺すりし始めた」

 

 

「別にしてないし」

 

 

 そう言う割には右足が元気だ。心做しか表情も険しくなっている気がする。

 

 

『うん、わかった。またね、八幡』

 

 

「おう」

 

 

 プッ。そこで通話は切れた。とりあえず三浦を居間へ迎え入れ、机を挟みコタツへ入って向かい合う。

 

 

「あー、さむさむ」

 

 

 三浦はハァと吐息で手を温める。室内でもこの寒さだ。外はひとしおだろう。

 

 

「ヒキオ、あんた結婚すんの? てか出来んの?」

 

 

「勝手に電話の内容聞いてんじゃねえよ」

 

 

「あ、友人代表とかどうすんのさ。あーし結婚式で友人代表のスピーチがない新郎とか見たくないからね」

 

 

「なんで来る前提なんだよ」

 

 

「あーしは多分結衣の友人代表するし、その流れで?」

 

 

 机に肘をついてこともなげに言ってのける。勝手に由比ヶ浜と結婚させるなよ。

 

 

「あ、何ならそっちは姫菜に任せるからあーしがヒキオの友人代表してあげよっか?」

 

 

「余計なお世話だ」

 

 

 それに俺には戸塚がいる。戸塚さえいれば他には何も……あれ? 戸塚と結婚したら俺どうするんだ? 友達いなくね?

 

 

「すまん、やっぱり頼むかもしれん」

 

 

「何、好きな人とかいんの? 意外」

 

 

「好きなやつというか……愛?」

 

 

「同性は結婚出来ないし」

 

 

 ぬ、なぜバレた。日頃戸塚愛をこいつにぶちまけてるからか? てか飲んだ時は何故か戸塚の話をしたくなるんだよな。それにどうせ三浦はもう一々俺を引いたりしないだろうから、ポロポロと口から零れてしまう。

 

 

 見方を変えれば、気を許した関係なのだろう。よく考えると気の置けない友人と呼べるやつは今の交友関係の中にはいないが、もしかすると三浦はそれに当たるのかもしれない。面と向かって言いはしないが、思うだけなら良いだろう。

 

 

「何か最近ヒキオもぶっちゃけるようになったよね。アルコールの力かもしれないけど、何て言うかな。気の置けない関係?」

 

 

「……」

 

 

「どしたし」

 

 

「結婚相手がお前とかいうオチはやめてくれよ。マジで」

 

 

 通じすぎていて気持ち悪いまである。ちょっとビビるレベルだ。

 

 

「は? いやないし。もしそんなことになったらあーし結衣とキスしてもいいから」

 

 

「突拍子が無さすぎる上に由比ヶ浜もとんでもない飛び火だな……」

 

 

「あ、そうだ。まあ別にこうやって話してても良いけど、用があるんだった」

 

 

「すまん今日講……」

 

 

「講義がないことはもう知ってるから、ほらおっちんして」

 

 

 立ち上がった俺を静止して再度座らせる。久々におっちんとか聞いたわ。幼児言葉とかますますオカン化が進むぞ。

 

 

 てかおっちんって何かエロくね? 具体的にはロリが(自主規制)

 

 

「今日は何の日でしょう」

 

 

「お前の誕生日」

 

 

「ちがっ……、え。何で知ってんの? てか何で答えれんの?」

 

 

「メアドにあるだろ」

 

 

 そのせいで今日俺が何度ため息をついたことか。わざわざ自分から出向いてくれて少しありがたさは感じているが、まあ別に言わなくてもいいだろう。

 

 

「てっきり5本指ソックスの日とか言うかと思ったし」

 

 

「んなこと今初めて知ったわ……」

 

 

 由来どこだよ。てか5本指ソックスなら左右の5本5本で5月5日とかにしろ。ただそれはそれで子どもの日と被るからとかいう嫌な現実が見えてきそうな案件だ。社会って怖い。

 

 

「誕プレとかねだりに来たのか?」

 

 

「ヒキオなら別に押しかけてもいいかなって。あーしも今日休講だらけで暇だし」

 

 

 何とも都合の良い話だ。軽く息を吐く。

 

 

「あっため息。あーしが来てそれするってことは喧嘩売ってるって意味で大丈夫?」

 

 

 ゲシゲシとコタツの中で太もも辺りを蹴られる。無理な体勢のためか三浦は顔が半分ほど机で隠れていた。

 

 

「喧嘩っ早いにも程があるだろ」

 

 

 俺も真似して右足で三浦を軽く蹴る。むに、と男にはない感触が足裏に伝わってきた。太ももだろうか。

 

 

「ちょっとヒキオ!?」

 

 

「ん? すまん太ももはダメか」

 

 

 まあ何せ見えないからな。とはいえとりあえず謝っておく。

 

 

「いや、太ももというかその奥というか……」

 

 

 もじもじと、三浦には珍しい照れを見せながら小さく呟く。太ももの奥……つったら、俺にはもう息子しかいないが……あっ。

 

 

「ちょ、ヒキオ何気付いてるし!! 変態!!! マジキモいし!!!」

 

 

「いや元はと言えばお前から……」

 

 

「あーし別にヒキオのち〇こなんか蹴ってないし!! うわもうホント最悪! エロ!」

 

 

「罵倒がガキみたいになってるぞ……」

 

 

 だけど、今のがその感触なのか……。いかんいかん、どこにとは言わないが血液が集まってきている。落ち着け俺。煩悩退散。

 

 

「ふぅ……」

 

 

「けっ賢者モードってやつ!? 触ってないのにイくとか何それヒキオ早っ!!?」

 

 

「おまっ、お前どんな間違いしてんだよはっ倒すぞ!!」

 

 

「押し倒すとかマジエロい! 近寄んなし変態!」

 

 

「言ってねえよ!!!」

 

 

 

 

 

 と、そんなことをして午前中は過ぎ。(くだん)の誕プレを買いに行けたのは昼食を摂ってからだった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「あんたよく覚えてるねそんなこと。流石八幡とかはあんま言いたくないけど」

 

 

「別に言っても良いだろ。それより優美子、お前今の話で1つ忘れてることがあるだろ」

 

 

 リビングでの会話。今日は日曜日で仕事が休みであり、ゆっくりと団欒を過ごしていた。

 

 12月12日ということで今朝思い出した記憶を話していたのだが、ある点が1つ。

 

 

「“もしそんなこと(俺と結婚すること)になったらあーし結衣とキスしてもいいから”」

 

 

「うっ……」

 

 

「よし、由比ヶ浜に電話かけるぞ」

 

 

 俺はすぐさまスマホを取り出し、電話帳の由比ヶ浜のページを開ける。

 

 

「いや待って! そんなことしたら雪ノ下さんに殺されかねないし、何より八幡あんた自分の奥さんが別の人とキスしても良いの!?」

 

 

「百合は別腹だ」

 

 

「ごめんホント待ってマジでダメだって!!」

 

 

 慌てて俺を止めるが既に通話ボタンを押した後。由比ヶ浜のことだ、恐らく3コール鳴らないうちに出てくれるだろう。

 

 

 

 

 

 雪ノ下ブチ切れ事件まで、後五時間──

 

 

 

 


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