もしも八幡とあーしさんが運命の赤い糸で結ばれていたら   作:しゃけ式

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エイプリルフールなので「もしも八幡と材木座が運命の赤い糸で結ばれていたら」を書こうかなと思っていたのですが、冷静になったらどこに需要あんねんと我に返ったので1話を八幡視点で書いてみました。一つも嘘要素がないというね()


1話 八幡視点

 赤く色付いた葉が季節を思わせる。乾いた風に身震いしながら、俺は薄明に照らされた街を歩いていた。

 

 

 基本外になんざ出ずかつ講義も飛びまくってる俺が出歩いている理由。別にバイトに精を出しに行くわけでも、居もしない恋人に会うわけでもなく、単純に夜飯をどこで食べようか悩んでいるのだった。

 

 

 何? 一人暮らしのぼっちはコンビニで買った惣菜をおかずに米を食べる? その通りだ。平時なら俺はこんなことするはずもない。

 

 

 ではそうする行動原理とは。俺は思考が面倒臭くなって目に付いた居酒屋へ入る。

 

 

 店構えは少し小汚いが中は割と綺麗で、また掃除が行き届いているのかゴミひとつ無かった。それに中々広い。

 

 

「おひとり様でしょうか?」

 

 

 毎回思うが何で一人に敬称を付けるのだろうか。これはつまりぼっちは偉いってことでQEDだよな? 様なんて王かかまくらにしか付けないし。かまくら様は俺が家を出るまでついぞ懐いてくれなかった。ぴえん。

 

 

「はい」

 

 

 二人の時に二名様なんて言わない。実際は二人で店なんてほとんど入ったことがないから知らないだけだとか言うなよ。

 

 

「生憎混みあっておりますので、相席になるかもしれませんがよろしいですか?」

 

 

「え」

 

 

 ぼっちに相席とかバカか? 遠回しなぶぶ漬け的な?

 

 

 ……が、まあ今日だけは良しとしよう。ここに来た意味にも繋がるかもしれんしな。

 

 

「……まあ、はい」

 

 

「かしこまりました。……安心してくださいね、ちゃんと女の子をお通ししますよ」

 

 

「なんの気遣いだいらねえよ」

 

 

「おひとり様ご来店でーす!」

 

 

 やっぱ飲食で働くやつはお化けだな。コミュ力ゴースト。くわばらくわばら。

 

 

 俺は奥のふすまで仕切られた狭い個室に案内される。俺を含め丁度二人くらいしか入らなさそうなところで、サシ飲みしてくださいと言わんばかりの作りだった。

 

 

「では、お決まりでしたらお飲み物だけでもお伺いしますね!」

 

 

「決まってないから水で」

 

 

「え……あ、はい。お冷一つですね」

 

 

 何故かオーダーを聞くなり硬直する店員。何だ? 初めに水はおかしいのか? やっぱり“ノリ”ってのはわからん。

 

 

「えと、あと砂ずりあったらそれも」

 

 

「かしこまりました。では少々お待ちください」

 

 

 店員はペコりと礼をして厨房へと戻っていく。店に来たのに金になる物を頼まなかったから変な顔をしたんじゃないのか。だから別段食べたいとも思っていない砂ずりを頼んだってのに。経験値が足りなさ過ぎる。

 

 

 やがて運ばれてきた水と砂ずりを口にしながら、手持ち無沙汰になった俺はポケットから煙草を取り出す。慣れた手つきで一本取り出すと胸に下げている土星を模したペンダント型のライターで火を点けた。

 

 

 初めの不味い煙は雑に吐き出し、二回目からじっくりと味わう。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 平塚先生に憧れて吸い始めたそれは、あの人の吸うセブンスターとは違いピースライト。甘党の俺には辛いセッタは合わず、適当にコンビニに置いてある銘柄を片っ端から試した結果こいつが残った。選ばれたのはピースライトでした。本当はインフィニティにしたいがあれは高いしな。あと軽い。

 

 

 灰皿にトントンと灰を落としていると、呼んでもいないのに店員が中へ入って来た。こいつコミュ力マジでヤバすぎない? サボりにここ選んだってこと?

 

 

「すみません、相席ですが大丈夫ですよね?」

 

 

「断定かよ」

 

 

「初めにそう伺いましたので!」

 

 

「……ん」

 

 

「あはは、大丈夫ですよ。綺麗な女の人です」

 

 

「誰もんなこと心配してねえよ」

 

 

 まだ半分程残った煙草を灰皿に押し付け火を消す。まさか本当に相席をすることになるとは。

 

 

 

 

 

 まあでも、“ノリ”を知るためならもしかすると良いかもしれないな。

 

 

 

 

 

 店員は一つウインクをしてまた個室を出ていく。遠くからおひとり様ご来店ですと大きな声が聞こえてきた。ドキがムネムネしてくる。

 

 

 

「それではメニューが決まり次第お呼びください」

 

 

 再度顔を出した店員は確かに女を案内し、そそくさとホールへ戻って行った。ちゃっかり気遣いを見せているところが逆に癪に障る。

 

 

 

 

 

 ──入って来た女の顔を見た時、俺は思わず瞠目してしまった。

 

 

 

 

 

「あー、どうも。あーしのことは気にせず飲んでいてください」

 

 

 見知った顔のそいつは、特徴的な一人称で俺に話しかけてくる。見れば見る程高校の頃の記憶そのままだ。

 

 

 三浦優美子。クラスのトップカーストのそのまたトップであり、由比ヶ浜や葉山と仲の良かった女子。

 

 

 ……この様子だと、多分俺には気付いていないな。

 

 

「同い年くらいっすよね? あーしハタチなんすけど、何歳くらいですか?」

 

 

 同じクラスにいたのだから同い年に決まってる。別に留年なんてお互いしていない。

 

 

「同じだ」

 

 

「ならタメで良いや。てかあんまり喋んない方が良い?」

 

 

 確定だな。にしても忘れられてるのか、ちゃんと顔を見られていないのか。……どっちにせよ胸に来るものがあるな。また特に仲が良かったわけでもない。

 

 

 ただ俺が俺だと気付かれた時、面倒なことになりそうだ。とりあえず言っておこう。

 

 

 

 

 

「お前、気付いてないのか。三浦」

 

 

 

 

 

「え? ……もしかして、あんたヒキオ?」

 

 

 

 

 

 三浦は目をパチクリとさせ俺をまじまじと眺めてくる。

 

 

 ……今日は飲み会に誘われたから予行演習(一人でだが)に来たってのに、これは何のいたずらだ。

 

 

 

 

 

 ──この時の俺は、まだこいつが後の結婚相手になるとは露ほども考えていなかった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「何年ぶりくらいだっけ。二年くらい?」

 

 

「そりゃ卒業したのが二年前だからな。少なくとも俺はお前と会った覚えがない」

 

 

「てかアンタなんで一人で飲んでんの? まだ友達いないとか?」

 

 

「それはブーメランか? まあ友達はいねえけど」

 

 

「あーしは人が捕まらなかっただけだしセーフ」

 

 

「何がセーフなんだ……」

 

 

 意味のわからない暴論にツッコミながら水を流し込む。喉を通る冷水が気持ち良い。

 

 

「とりあえずあーし頼むけどヒキオも生でいい?」

 

 

「ああ。あと言っとくが俺の手持ちは少ないからな」

 

 

「別に奢ってもらうとか考えてないし」

 

 

 俺は真の男女平等主義者だ、つって。最近の女は奢られることに昔言われていた程魅力を感じない、ってか前に言われすぎて逆に気にしてるらしいからな。違ったら文句はGoogle先生に言ってくれ。

 

 

 三浦は店員を呼ぶと生二つに食べ物をいくつか頼む。エイヒレ頼んだのはナイスチョイスだ。謎に癖になるあの味は何なんだろうな。

 

 

 注文のせいで一旦会話が途切れる。俺は無意識に煙草の入ったポケットへ手を伸ばすが、今は三浦がいることを思い出した。

 

 

「なあ、お前煙って大丈夫か?」

 

 

「へ? ……ああ、煙草?別に大丈夫だけど」

 

 

 理解があるやつで助かった。俺は箱から煙草を一本取り出し、今度はポケットではなく机の上に投げ出す。

 

 

 いつも通りペンダント型のライターで点火すると、何故か三浦はその様子をじっくりと観察していた。

 

 

「なんか洒落てるもの使ってんじゃん」

 

 

 ああ、これが珍しかったのか。確かに普通はコンビニのライターか、居てもジッポだもんな。

 

 

「平塚先生いただろ? あの人が誕生日にくれたんだよ」

 

 

 あの日のことを思い出しながら一応三浦に気を遣って上へ煙を吐く。白い煙は換気扇へと吸い込まれていった。

 

 

「てかその煙草の匂い甘っ。そんなんあるんだ。なんかアイス? というかカステラっぽい」

 

 

 よく気付くな。吸う側の反応ならともかくピースの副流煙で甘いとか普通分からないだろ。ブラックデビルだったか、煙草屋にしか置いてないような銘柄のやつなら副流煙でも充分甘いらしいが。ネットにはフィルターまで甘いとか書いてあったが本当なのかね。

 

 

 それはそうと、煙草は甘い物に限る。何故なら。

 

 

「人生が苦いもんなんだ。煙草くらい甘くさせてくれ」

 

 

「それコーヒーの時にも言ってたっしょ?」

 

 

「なんで知ってんだよ……」

 

 

 どうせ由比ヶ浜辺りから聞いたんだろうと当たりをつけ、長くなった灰を灰皿へ落とす。

 

 

「あ、そうそう。別にあーしに煙がかかることくらい気にしなくて良いしね」

 

 

「そりゃありがたい」

 

 

 煙を吸って今度は三浦の横辺りに吐く。正面から浴びせるのは流石に違うと俺でもわかる。一応のエチケットだ。人の前で煙草を吸っておいて何を言うとは思うかもだが。

 

 

 三浦は俺を見て、あ、と口を開く。

 

 

「煙草はマジで体に悪いから気付けな」

 

 

「ああ……。そういやお前オカン属性あったな」

 

 

「誰がオカンだし」

 

 

 さっきの店員への注文の気配りなんかもそれだろうか。二年前がフラッシュバックして少し懐かしくなった。

 

 

 コンコン、とノックされると店員が中ジョッキを二つ運んでくる。帰り際にまた俺にウインクをしやがった。いらねえよバカ。

 

 

「さて」

 

 

 俺は取っ手を持ち早速飲もうとする。だが何故かその様子を見て三浦はポカンと口を開けていた。

 

 

「え? 乾杯しないの?」

 

 

「むしろなんでするんだ。別にめでたくないだろ」

 

 

「こういうのはノリだから!はやく!」

 

 

「お、おお……。これが“ノリ”な。なるほど」

 

 

 思いがけないタイミングで一つ学んだ。“ノリ”ってのは感覚で知れってことだな。俺は三浦とジョッキを鳴らし、一気に半分以上飲み干した。結構来るものがあるな……。

 

 

 ふと正面を見ると、三浦は口に含んだ程度しか飲んでいなかった。

 

 

「あれ、こういうのって一気にいける所まで飲むのが礼儀なんじゃねえの?」

 

 

「もしそんなのが礼儀ならアル中で死ぬ人が倍増するし」

 

 

「なるほど。他には何かないか?」

 

 

「他?」

 

 

「ノリのことだよ。知ってて損は無いだろ」

 

 

 というかそれを知りにここに来た。

 

 

「……ま、強いて言うなら勧められた酒は断らないことかな。断られるとなんか盛り下がるし」

 

 

「なるほどな」

 

 

「どしたん、別にあんたが覚えたところで使う機会ないっしょ」

 

 

「……」

 

 

「?」

 

 

 三浦は小さく首を傾げる。言い淀んだのが気になったのか、無言で俺の続きを促した。

 

 

 ……これを言うと、笑われる気しかしないが。

 

 

「実は、なんか飲みに誘われた」

 

 

「練習してたんだ。可愛いとこあんじゃん」

 

 

「飲みなんてほとんど行かないからな。てか可愛いとか言うな気色悪い」

 

 

「あんたがね」

 

 

「……ごもっともで」

 

 

 三浦はまた店員を呼んで俺の二杯目を注文してくれる。何でも良かったから適当にハイボールにしたが、正直あんまりハイボールは好きじゃない。だがここでカシオレなんかを頼んだらなおのことバカにされる気がする。甘いから好きなんだがな。

 

 

「ねえ、話戻るんだけどそのペンダントマジでカッコいいね。ちょい見せてみ?」

 

 

 俺は特に拒否することもなく、首からライターを外す。そんなに珍しいのか自分でも火を点けてみたり首に掛けてみたりしていた。

 

 

「ちょいトイレ」

 

 

 俺はそんな三浦を後目に、トイレへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でさぁヒキオ、そん時その男がさ!!」

 

 

「お、おお。というかその前に。お前、時間大丈夫か? そろそろ十時回るぞ」

 

 

「え、嘘!? マジじゃん!」

 

 

 腕時計でもう一度時間を確認すると、三浦と相席になってから既に二時間以上が経過していた。お互いアルコールが入ったからか、途中からは会話が途切れることなくずっと話していたな。

 

 

「そろそろ帰るか」

 

 

「……わかった。はい、あーしの分」

 

 

 そう言って三浦は机に三千円を置く。割り勘と言えど二人分にしては少し多い。俺は顎を触りながら逡巡する。

 

 

「やっぱ良いわ。ここは俺が払う」

 

 

「へ? まあ奢ってくれるんならありがたいけどさ。あんた持ち金少ないんじゃなかったの?」

 

 

「これくらいならなんとかなる」

 

 

「……もしかして、これもノリを意識してる?」

 

 

「うるせえ」

 

 

 図星を突かれた俺は雑に金を三浦へ突き返し、会計に向かう。だから店員、一々にやにやすんな。あとウインクやめろ。ちょっと上手いのが腹立つんだよ

 

 

 外に出ると流石は秋の夜。肌を撫でる風は冷たく、身体がぶるりと震えた。

 

 

 そして俺の影に隠れる三浦。若干あざとい。

 

 

「なんだよ急に。……うぅ寒ぃ」

 

 

「風よけ。こっちもクッソ寒いし」

 

 

「そうか。それとお前も電車か?」

 

 

「うん」

 

 

 短く答えた三浦はごそごそと自分のカバンを漁っている。目当ての物を見つけたのか、もこもこと暖かそうな手袋を取り出してはヒキオ、と俺を呼んだ。

 

 

「手袋片っぽだけ貸すから、はい」

 

 

 俺は勧められるがまま左手の手袋を受け取ると、今度は左手を差し出される。

 

 

「この手はなんだ? 金でも取るのか?」

 

 

「アホかっつーの。あーしは左手が寒いし、ヒキオは右手が寒いっしょ? なら手、繋げばいいじゃん。ん!」

 

 

 再度左手を突き出す。俺は手持ち無沙汰な右手をどうしようか虚空をさ迷わせたが、観念して手を繋いでみる。

 

 

 ……意外と暖かいな。それに柔らかい。

 

 

 手を繋いだのは寒さとアルコールのせいだ。普段なら手袋すら受け取らないし、仮に受け取ったとしても手はポケットに入れるはず。

 

 

 だってそうだろ。傍から見れば完全に恋人の図。それも三浦となんて、昔の俺が知ったら確実に笑う。

 

 

 ちら、と三浦を横目で盗み見る。頬が紅潮しているのは寒さとアルコールのせい。俺が手を繋いだのと同じ理由のはずだ。

 

 

 それ以外に何かが介在する余地なんてない。俺と三浦は二年ぶりにたまたま相席しただけで、特別な何かがあるのならばこれまでにも何かイベントが起こっているだろう。

 

 

 運命の赤い糸、なんて。そんなおとぎ話、俺と三浦には似合わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アイツ、ライター持っていきやがったな」

 

 

 家で煙草を吸おうと思った時、俺は初めてその事実に気付いたのだった。

 

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