ジャベリン先輩の強引な押しと圧力に屈してイッセーと木場、俺と南極とかは、こうして建物の裏庭に設置されてしまった露天風呂の近くへとやってきました。
カッポ~ン!
「こういう音がすると思うけど、どこからこの音が風呂場のシーンで出て来るんだ?」
俺は独り言ちながら辺りに首を巡らせると俺の後ろでICレコーダーとバスタオルの両端を手に持ってニヤニヤと嗤う、タオル全開姿の南極と目が合った。
謎の蝙蝠! 仕事してんじゃねえよ! 南極に隠すモンが付いてねえだろ!
「このド畜生……」
「黙んな、馬鹿ども」
俺が南極に殴りかかろうとした時、ジャベリン先輩が俺を制止してきた。彼女の言葉で俺は我に返り、声を押し殺す。
ここは今、俺達にとって戦場の入り口、命と名誉を分ける死線だ。ここを逃げ帰って敗走兵になるか、それともここを突き進んで英雄となって死ぬか。男としての生死を分かつ……。
「下らねえ妄想なら他所でやりな、クズが」
この時渡、クズ認定されました。
「しかし、どうして気配を消すという特訓にこんな事をするんですか?」
「お前等を鍛えるのに丁度良いからだよ。覗きを兼ねてやる方がやる気も出るだろ?」
ふと不思議に思ったのか問いかける木場に対してジャベリン先輩はさらりと酷い事を口走る。でもそれが嬉しいだなんて口が裂けても……。
「あざーっす!」
馬鹿が居たぁーっ!
そうこうしながらも俺達一行は、何とか露天風呂を覗き込めそうな林の中に到着した。まさか建物を回り込んで10分近くも時間が掛かるだなんて思って無かった。意外と大きかったんだな、この建物。
眼下に見える壁と思しき木の板の向こう側からは美少女達のキャキャウフフな声が漏れ聞こえる。どうして眼下なのかと言うと俺達は今、ジャベリン先輩の指示で樹上に居る。距離としては10メートルもあるかどうかの意外な近距離だけど、ここが対象には気配の届かない範囲だそうで。
「はわぁ~、部長さん、やっぱり大きいですぅ~」
「そ、そうかしら? でも大きいのも困りものなのよ」
「そうですわねぇ、良く肩が凝ってしまいますしぃ」
湯気に阻まれた景色の向こうからアーシアとリアス、朱乃の声が出てきた。奴らは今、風呂の中か? この話をしている以上は風呂の中と信じてる!
そんな声だけの状況下だというのに、興奮が隠しきれない馬鹿が居る。
「うおぉ~っ、むほぉ~っ」
「馬鹿が、気配を消せよ」
俺の隣で樹にしがみ付きながらムホムホと鼻の下を伸ばして興奮しているイッセーを樹の向こう側からジャベリン先輩が拳で諫める。
「気配を消す基本は自分の姿を影に隠して息を周りに同化させ、気配を周囲に溶け込ませるんだよ」
「もう無理なヤツが居ます」
レクチャーを始めた先輩に対して俺は無粋ながらも言うしか無い暴走者を告げる。俺の視線の先、2本向こうの木の枝の上では南極が恍惚気に夜風を楽しんでいる、バスタオルを首に下げて。
しかしそんな彼女を見ても先輩は咎める気配を見せない。
「良いんだ、アイツは今回の安全策なんだよ」
「安全策?」
「囮とも言うんだけどな」
先輩の言葉で俺は南国を連れてきた事に合点が入った。あれだけ目立つ行動をするんだ、俺達の逃げる時間も稼いでくれることだろう。
俺はそう思ってた。この時までは。
「ねえ! そこに居るの! 南極さんでしょ? そんな所に居たら風邪をひくわよ? こっちに来て入りなさいよ!」
「はぁ~いっ!」
リアスに見つかり、露天風呂へと誘われてしまった彼女はそのままリアス達の方へと……。
待て! 行くんじゃねえ! 俺達も連れてって、いや違う!
俺達は囮と言う安全策の一つを失った。