『学園都市』
東京都西部を切り拓いて作られたこの都市では、"超能力開発"が学校のカリキュラムに組み込まれており、二百三十万の人口の実に八割を占める学生達が日々『頭の開発』に取り組んでいる。
そんな異能力全盛の科学都市にて、一人の少年が猛烈な速度で移動をしている、その理由は一つ━━━愛ゆえに。
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オッス、オレの名前は眞守。まもるって読むんで。そして姓は佐天、フルネームは佐天眞守。年齢は十五、高校一年生。
この中二全快、どこもかしこも異能バトルが起きてそうな『学園都市』には、その能力毎に階級的なものがあって、レベル0からレベル5までで分けられてるってのは皆知っとる?
ま、厳密にはレベル6ってのもあるらしいけど、それは理論的に不可能というか、この都市最強の能力者が何かとある実験頑張ったら到達出来ますよー、というとてつも無いモンなんで除外しとくな。
因みにオレが開発を経て得た能力は『
あ、そうそう。他にもこの世界、能力開発せずとも、生まれ育った環境によって芽生える希少価値マジ高い『原石』ってのもおりまして、オレ一応ソレにも該当するんすよね。
つまり、専門的に言うところの『
というか、思うんだけど・・・原石っつー希少な人間の頭を弄くってまで、あったらしい能力を開発するなんてこの都市めちゃんこ恐ろしい。
まぁ、オレ自身が原石とか環境に因る後天的能力者なんて自覚があった訳がなく、言われてから気付いたところもあるんすけど。
んな訳で、そんな希少な能力者であるオレは、普通はこの都市最高位に当たる
そんなオレなんだけど、実は実に愛しい弟妹がいてだな・・・弟の方はこの都市に来ては居ないんだけど、妹は近隣の中学に属してるんですね。
その天使の名前は佐天涙子、黒髪ロングの正当派美少女で、とっても可愛いんだコレが。あ、口説こうとか考える不届きものは粛清な。オレの重力操作で宇宙までブッ飛ばしてやる。最後は無重力に包まれて死ね。
まぁ、でもオレは寛大だから・・・好きとか可愛いとか思うのは許してやる。でも、邪な感情とか下心は抱いたら瞬間即殺な。
それは置いといて実は今、オレは妹の通う柵川中学校の前に張ってるんだけど・・・涙子ちゃんぜんっぜん出てこねえ・・・
入学祝いの会でも近くのファミレスで開こうと思ったってのに・・・とほほ・・・
少年の言葉が示す通り、いまの暦は春━━━四月真っ只中である。
春とは言えど、未だ肌寒い事も多く、長く張り込みを続ける少年の手には暖を取る為の缶コーヒーが握られていた、しかしそれも既に冷めている。
そして、中学の前で張り込みを続ける不審な所作の高校生、当然周囲からの視線は痛い。
あれぇ? もしかしてすれ違い? 実はオレ来る前に帰っちゃった? おっかしいなぁ・・・よし、ちょっと探知しとっか
ん? 言ってなかったっけ? オレの本来の能力は"
この都市に居る愛する妹、涙子の居場所から何もかもを瞬時に察知出来る能力、そして━━━妹の身に危機が迫った時、妹の事を考えている時、神をも凌駕する身体能力を行使出来る異端な力。
「んっふふ、そうかそうか。そこか・・・ 」
涙子ちゃんハッケーン! えーと、繁華街を抜けた先、友人の数は一人。
ぐっ、これ邪魔したら嫌われるパターンか・・・? 友人との時間を邪魔されるって・・・兄妹仲の拗れる案件第一位の気がするし・・・いやしかし・・・んー・・・
まぁ、いい。とりあえず、追い掛けてから考えよう。あ、こらそこ、ストーカーって言うな! 言うなれば、愛の守護者だバカ野郎! カーディガン的存在のガーディアンだ!
さっき説明した通り、オレの能力は重力操作。実はコレってかなり便利なんすよね。敵を地に伏せさせて頭を垂れさせる事も出来れば、今みたいに
「うおっ!? 」
「えっなに!? 人間ロケット!? 」
重力の向きをオレんトコだけ横向きに変えてしまえば、かなりの速度で移動が出来る。理論として言えば、自然落下と同じなんだけど。慣れたらめちゃ便利。
あとほら、つまりさ。
飛べるんだよね、この能力。
重力を上向きに変えるだけ。
そんである程度の高さまで地面から離れたトコで、同じように横向きに変えちゃえば・・・あら不思議、空飛んでる。
まぁ、目立つから日中は飛ばないけど、夜はたま~に飛んでる。科学都市なのに、誰かに見られてたのか、とある本でUMA扱いされていたと知った時は少し笑っちゃった。
さてさて、涙子ちゃんはドコに・・・うわぁ、ナンパしてる人いるよ。しかも相手は中学生・・・ロリコンかな? チャラチャラした見た目のドヤンキーのロリコンとか、もう救いようないよコレ。
繁華街を抜けようと
標的にされている少女の纏う制服は、近隣に存在するこの都市有数の名門女子中学のものだった。
常盤台中学か。てか、あそこは凄い能力持ちしか入れないって聞くし、どう見ても不良の彼らでは勝てないんじゃないか?
この都市では、落ちこぼれの粗雑な不良よりも、お高くとまったエリートの方が力が強い。何故なら、能力があるからだ。学園都市と外部の都市とでは、その辺りの力関係が当然ながら逆転している。
「ヒュー、君可愛いね 」
「オレらがエスコートしてやろっか? 」
そういう訳で助けを入れなくても大丈夫、そう思ったオレが彼らの近くを通りすぎようとした時、そんな声が聞こえてくる。
「あ・・・あの・・・ 」
しかし、思っている展開とは違う流れが進んでいる。常盤台の女性なのにおかしいな、そう考えたオレ。
あっ、新入生か!?
この春入学したばかりでは、能力主義の派閥ガチガチのあの恐ろしい女の国に染まってないのは仕方無い。お嬢様が多い学校だ、男慣れもしていないんだろう、顔を恐怖と戸惑いで真っ赤にしているのが見える。
オレは飲み終えた手元の空き缶を彼らの一人に投げ付けた。
カコーン! 甲高い音を立てて頭に着弾したのを確認、ナイスコントロール! ストライィィィィクッ!!
「いでッ!? 何しやがるテメェ! 」
頭を押さえた男、そして二人、つまり三人組の男がオレの方へと詰め寄ってきた。
えー、コイツらこの見た目でロリコン? ちょっと、引くぞオレ・・・
間近で見ると、本当にもう正当な不良、柄悪い。付け狙う相手が女子中学生、しかも一年生だろ? 引くわぁ・・・
「あぁ・・・スマン。てっきり、ゴミ箱かと思っちまったよ 」
「んだとコラ!! 」
つかつか、ロリコンで中一スキーってこたぁアレだろ? 涙子ちゃんもストライクゾーンだろコイツら。コレは許されませんぜ。ここで粛清して、悪い芽は摘んでおかないと・・・
「テメェ! ぶっ飛ばし「おい、待て!! 」あ、何だよ? 」
一人の男が腕を振りかぶろうとした途端、後ろの一人がオレを指差すのが見えた。んん、ホント何だよ?
「コイツ・・・最強の
「なッ!? 」
「しッ、失礼しましたッ!! 」
・・・えー、終わりぃ?
一変した状況と顔を青くした三人はオレの前で何度も頭を下げ、蜘蛛の子を散らすように遠ざかっていく。
その場にオレと少女が取り残された。
「・・・まぁ、イイや。大丈夫だったか? 」
ガシガシ、毒気を抜かれたオレは頭を掻き乱し、ナンパをされていた少女に視線を向ける。
「あっ・・・あの・・・はい・・・ 」
良かった良かった、大丈夫だったらしい。ま、これでトラウマでも残されたら可哀想だもんね。繁華街は本来は物凄い楽しいトコだし。
それにしても、顔赤いな。本当に大丈夫か? って、やべ。涙子ちゃんにいつもしてるみたいに撫でちまった。年齢一緒だし、何かほっとけないなー・・・つか、さっきよりも赤くなってる?
「・・・ッ!! あ、あの・・・その、ありがとうござい・・・「ちょっと、アンタ! 白昼堂々とウチのコに手を出すつもり? イイご身分ねー? 」
「・・・げっ!? 御坂・・・ 」
「げっ!? とは何よ? アンタ、私が化け物にでも見えてるワケ? 」
この都市でオレ的一番会いたくないランキング堂々の第一位『御坂美琴』
その理由は単純明快、血の気の多い、猪突猛進の電撃娘だからだ。
喧嘩を売られた回数は数え切れず、その度にドローで切り抜けてきた。何故って? 勝っても負けても、何か悪いことが起きそうだからだよアホ。
「ここで会ったが百年目! 今日こそ決着つけさせて貰うわよ!! 」
「百年目もあるか! まだ一年目だ! ていうか、こんな娘がいるトコで暴れようとすんなバカ!! 」
「バカとは何よ!? あったまキタ!! 黒焦げにしてやるんだから!! 」
不味い、電気鰻より取り扱い難しいんだよこの娘。もうバチバチきてるからね、髪の毛逆立ってるからね、オレの。御坂の手なんて雷パンチ撃てそうだからね。
「・・・御坂、オレは今日やることあるんだなコレ。てことで・・・この娘よろしく! 送ってってやれよ・・・先輩!! 」
忍法変わり身の術。
オレは目にも止まらぬ速度で身体を翻し、少女の背後に回り込んではその両肩を掴み、グイッて御坂の前へと差し出すように押した。
「・・・えっ? ・・・あの・・・」
まだ困惑しているらしい少女、目まぐるしく変わる状況に付いていけていない。きょろきょろとオレと御坂の方を交互に見て、もじもじと身体を縮めている。
「なっ!? アンタ逃げる気!? つーか、何で私が!! 」
「その娘、また変な男に絡まれるか分からないからな・・・護衛だよ護衛。御坂がいりゃあ、まともな常人ならノコノコ突っかかっていないだろうし! そんじゃ、アデュー!! 」
「人を魔除けみたいに言うな! ちょっ、待ちなさいって!! 」
言うやいなや、オレは逃げるように繁華街の通りを全速力で突き抜ける。超落下!
「・・・っぶねぇ・・・御坂に絡まれたら一日潰れちまうトコだった・・・よし、心機一転! 待ってろ涙子ちゃん! 」
通行人にはぶつからないように器用に避けつつ、オレは涙子レーダーの信号を頼りに進んでいく。
そしてぽつんと立ち尽くす二人。
「・・・それじゃ、行く・・・? 」
「・・・は、はい・・・ 」
ぎこちなく会話をしながらも、少年に言われた通り、常盤台へと二人歩く少女の姿があった。