とあるシスコンの学園生活   作:新戸よいち

10 / 22
あけまして、おめでてぇ


10

 オレこと佐天眞守は今現在、超絶怒濤の勇猛果敢にスペシャルなミッションを遂行している所である。そんな忙しく多忙なオレに向かって、背後から悪びれもせず声を掛けてくる存在がいた。

 

「嫌ですよ。オレにメリット無いじゃないっすか 」

「まぁまぁそう言わずに、ね? 」

 

 腕に緑の腕章を備え、眼鏡を掛けた年上の女性。つーか、固法先輩その人である。

   

「ていうかオレとジャッジメントもう関わり無いっすよね? とうにやめたはずなんすけど 」

「大丈夫、そこは心配しないで。まだ籍はあるわよ 」

「嬉しくねぇっす 」

 

 何よりも優先すべきミッションの途中なので、多少素っ気ないのは勘弁して欲しい。オレはミッションに集中したい。しかしオレにも目上の人間に対する礼儀はある。固法先輩の表情は分からないが、声だけでもちゃんと返してるオレは優しい男だ。

 

 つーか、ジャッジメントだかハラスメントだか知らないけどさぁ? そんなんさぁ、オレが戻らなくても余裕だろ。何故って? そりゃあ

 

「そもそもチンピラなんて白井がいりゃ充分でしょうが。オレがわざわざ手伝わなくても、アイツならその程度の仕事は完璧っすよ。ちょちょいのちょいのお茶の子さいさいですって 」

「それはそうかもしれないけど 」

 

 固法先輩の話はよく聞いていないが、チンピラだか何かがここ最近暴行事件を起こしていると言っていた気がする。確かにそれは怖いな。しかしチンピラに成り下がる奴らは精々いってもレベル3が関の山。だから、白井がいりゃ充分なのはガキでも分かる話だ。

 

「じゃっもうこの話は終わりで。オレ忙しっすから 」

 

 キッパリと言い切ってやったぜ。よし、これにてもうこれは閉廷。さてさてズームを・・・

   

「佐天くん。・・・ひとつ聞いてもいいかしら? 」

「なんすか? 」

 

 何だよぉ、いいとこだっつーのにさぁ・・・KYか固法先輩は。

  

「何してるの? 」

 

 何してるだぁ? そんなん決まってるだろうが!

 

 オレは双眼鏡から目を離し、ここで遂に固法先輩の方を向き 

   

「地に舞い降りた天使を見守ってるんすよ。俗世の穢れにでも触れられたら困りますからね 」

 

 フッ、とオレは肩を竦め、何を言ってるんだ・・・常識だろうが。そう言いたげに固法さんに持論を、いや! 世論を述べたッ!

 

 きっと今のオレの顔は、アカデミー賞を受賞・・・いや、総ナメできそうなほどの迫真顔に違いない。主演男優賞は言わずもがな、主演女優賞もいけそうだぜ! いやそれは無理か!! だって涙子ちゃんが総ナメするだろうしな!! 主演女神賞的なやつを!!

 

「連行するわね 」

「な、冤罪だ?! 」

 

 固法さんは抑揚のない口調で、淡々と平坦にオレにそう言ってきたので、オレは抗議の声を上げる。

 

 冤罪だー! エンザイダー!! おっ、何かヒーローっぽくなった! 無職戦隊エンザイダーみたいな! うわつまんなそう。主役が不当な罪でリストラされたおっさんっぽい。

   

「現行犯。目の前で犯罪行為やられてるのに、冤罪も免罪も無いわよ」

 

 そんな夏休みの受かれた小学生でも考えないだろうことを考えていたオレ。固法さんは可哀想な人を見るような目で、可哀想なオレを見ていた気がした。

 

 オレが風紀委員在任中に見たどんな犯罪者にも向けていなかった、そんな目な気がした。可哀想な人を見る目、というには今思えば哀愁が強すぎる気がした。僕は悲しくなった。

 

「・・・そう言えばレベルは幾つなの? 」

 

 文学的にモノローグを語っていると、固法さんは不意にそう尋ねてきた。

 

「涙子ちゃんっすか? オフレコで頼みますよ? 実はここだけの話なんすけど・・・」

 

 オレは一度周囲に誰も居ないかを確認してから、それに答えるべく固法さんに近付き、内緒話をするように耳元に顔を寄せ

   

「・・・レベル6なんすよね。可愛さの 」

 

 そう囁いた。

 

「そう 」

  

 国家機密を話すくらいの心持ちと面持ちでオレが伝えたと言うに、固法さんは一言でそれを一蹴した。これが世に言う返し刀である。違うか。

 

「聞いといてなんなんすか。もういいっすよね? 俺集中しますから」

 

 拗ねた。せめてえー、そうなの?! とか! ワオ!! とかのリアクションがあってくれてもいいじゃないか。しかしそんな子供じみた感情を固法さんにぶつけるわけにもいかないので、オレは手元の双眼鏡に逃げることにした。

 

 因みに現在地は公園の茂みの中である。マイエンジェルは滑り台付近にいて、楽しそうに公園内での遊びを謳歌している。いやー、世界平和の極致だなこの光景。

  

「ここ最近頻発する高位能力者によると見られる暴行事件。被害者はその大半がレベル0、もしくはレベル1。佐天くんの妹さんも、ターゲットになりうるわね。本当に物騒な話よ」

 

 未来永劫、涙子ちゃんの平和が続きますように・・・と祈りを捧げていたオレの耳に聞こえてきたのは、聞き逃せない言葉だった。ピシッ、と何かにヒビの入る音が響いた。

 

「詳しく」

 

 それは双眼鏡の悲鳴だった

  

 涙子ちゃんをトゥアーーゲットゥォ?! 暴行ォ?! んだとコラ! 殺しますよホント! 影も形も無くすぞゴラァ!!

  

「内容、一切聞いてなかったのかしら? 私結構頑張って説明してたんだけど」

 

 すまん、ついで程度にしか聞いてなかった! だってエンジェルウォッチングだぜ?! だぜ?! そりゃそっち見るでしょ聞くでしょ! 耳をすませばでしょ! 遠くの声拾うために!!

 

「聞いたか聞いてないかの二択で言えば、涙子ちゃん見てましたね。はい」

「三択じゃないの 」

 

 そうとも言う。

 

「で、固法さん。何でしたっけ? どこのゴミが国家遺産。いや銀河遺産に手をかけようとしてるんでしたっけ? そんな不届きもんはオレが消しますからハリーアップ 」

「無能力者狩り、良くある話よ。でも、一週間に23件。最近、格段に増えているのよね 」

「誰の女神が無能だって??!! 」

「落ち着きなさい 」

 

 こんなの落ち着けっかぁ! マジでシメるから覚悟しろよ犯人! どうせ大方開発に行き詰まった、レベル3相応のやさぐれエリートの仕業に決まってら! 抵抗できない丸腰の相手をターゲットにするシャバ僧にゃ、オレが必ず正義の鉄槌を下したる!

 

「佐天くんそれ 」

「何すか? あっ 」

 

 気付けば双眼鏡が冥土に送られてやがっていた。これはさしもの冥土返し(ヘブンキャンセラー)も返してこれない逝きっぷり。ほぼほぼ持つとこはひしゃげて粉になってるし。

 

「方針のほうは、あの子も混ぜて支部で話しましょう 」

「あの子? 」 

「白井さん 」

 

 手のひらを叩き、粉を落としていると固法さんが悪魔の名前を告げた。鏡はないが、自分でも渋い顔をしているだろうと分かるそんな表情にオレは変わり、唇を尖らせる。

 

「一人で充分っすよ。涙子ちゃんの為ですから一人で 」

「いいじゃない。昔はよく一緒に仕事してたんだから。名コンビ復活よ、復活 」

「そんときゃまだまだ可愛げがあったっすっからねぇ・・・ 」

 

 まだ多少の愛嬌があった昔の白井を思い出す。溜め息が漏れた。身長も今より小さく、高飛車の片鱗はあったがそれもガキの特徴かと長い目で見れて見逃せたあの時代が懐かしい。

 女の成長は早いと聞くが、早すぎるだろ。いや涙子ちゃんは常に可愛いけどな? 小学生の時も今も変わらず。

 

「まぁ確かにそうよね。佐天くんの後をちょこちょこ追いかけてたトコとか 」

「時の流れは無情だと改めて実感しますよね 」

 

 白井がまだ風紀委員でなく志願生であった時の思い出を振り返りながら、しみじみとオレは呟いた。

 

  公園からは甲高い声が響いていた。オレは名残惜しげにその声に背中を向け、声の主である女神の安全な学校生活の障害になりうるチンピラ共を打ち倒すべく、この前ぶりの風紀委員の支部に向けて固法先輩と共に歩き始めた。

 

 上を向くと、空は青かった。 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。