とあるシスコンの学園生活   作:新戸よいち

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 人通りの多い道を歩く。

 人口密度の高い、赤みがかった夕暮れ時の道。

 

 部活帰り、夕飯の買い出し、友と語らいながら店探し、などの様々な目的で歩く学生たちを尻目にオレと白井の二人は目的地へ歩いていた。

 

 二人は歩いていたと言っても、仲良く隣同士なんてことは当然ながら全くもって無い。

 

 涙子ちゃんに彼氏が出来るレベルであり得ないのだ。

 

 いや待て、この例えは適切じゃないな。みんな分かってると思うが涙子ちゃんは可愛い。とても可愛い。生まれる時代が違ければ十字教に代わり、涙子教が今の世界を席巻してたに違いない程度には可愛い。いや十字教なんて比にならない。対抗勢力ゼロの世界どこの国に置いても、人種関わらず涙子教に入ってるくらい可愛い。

 

 だからこそオレがさっき言った彼氏が出来ないとは、涙子ちゃんがモテないとかでは無く、高貴すぎて最高嶺の花的な意味で手を出せない存在と言う意味だ。

 

 涙子ちゃんがモテないとか可愛くないとか、そういう意味で捉えたやつは即殺対象なので宜しくゥ。

 

 さて、長々と語ったわけだが

 

 つまり正しい例えで言うと

 

 涙子ちゃんに告白しようなんて考える自身の低俗さと立ち位置と不釣り合いさを知らない不届きな男が現れ、そんなゴミ屑をこのオレが涙子ちゃんに想いを告げようなんて不敬な行動をする前に即殺しないレベルにあり得ない、になる。

 

 つまりは万に一つ、億に一つ、無量大数に一つにあり得ないのだ。

 

 それくらい、オレと白井が仲良く談笑しながら寄り添い歩くのはあり得ない。

 

 少し前に白井の背中がある。それを不本意ながら追いかける。そうやって目的地まで無言で歩く。

 

 さて、何故だろうか。普通ならすれ違う人と肩がぶつかりそうになる程度に人の多いこの時間帯なのに、誰ともぶつからない。その理由は一つ、きっと白井から滲み出る謎の威圧感だ。

 

 周りがオレたちを避けている。白井はモーゼだったのかよ。チラチラと向けられる視線は、カツアゲされてる最中にも似てるな。

 

 通報するべきか?

 どうしよ。

 気の毒に。

 関わらないどこ。

 くわばらくわばら。

 

 みたいな色々な意味合いのこもった視線たち。いや似てるだけでもっと違う意味での視線だろうけど、戦々恐々的な感じの。

 

 そんな物々しい雰囲気の中で、多数の視線の中で、白井の後をひたすらに追うこの状況。

  

 オレを堂々としたストーカーと勘違いする人間も出そうな絵面だが、腕につけている腕章のお陰でそんな不名誉はどうにか手に入れずに済んでいる。

 

 これ常人なら胃が裏返ってるだろうな、陸で溺れそうなくらいに重苦しい。あの百獣の王ライオンをもってしても、脱毛症になるんじゃないかっつーレベルのストレス。心なしか周りの奴らの顔色が悪い気がする。

 

 ん、あれ?

 

 気付くと目の前の白井の背中が無くなっていた。視線を右往左往と動かす。白井の髪だけが視界の端で見えた。

 

 あ、いつの間に。もう着いてたか。

 

 目的地の路地。そこへと向かう小さな空間が建物と建物の間にぽつん、と空いている。正規ルートでは無い裏道。そこを歩く白井の背中が見えた。

 

 当然ながらオレも同じように、その狭い道に入った。健康的な男子高校生の体格にはその道は合わず、壁に肩が擦れる。

 

 当たり前だがこんな場所をご丁寧に掃除する機械も、用務員もいないので、埃だらけの道に足を取られそうになり

 

「───づぁっ! っ! っ! いちー・・・ 」

 

 そしてどうやら鉄パイプ的なものが地面に転がっていたらしく、甲高い音が裏道に響き、爪先に鋭い痛みが響いた。つまりは派手に蹴った。

 

 オレはその場でぴょんぴょん、と片足を押さえながら跳ね、痛む指先、というより靴の先をさすりながらそこに息を吹き掛ける。そうしていると前方から謎の威圧感が。

 

 霞み潤む視界を頼りにそちらを向くと、白井がそれはもう虫を見るかのような目で、オレを睨んでいるのが見えた。

 

「少しは静かにしていただけませんの? 」

「・・・不可抗力だ。オレが進む道を阻んだほうが悪い 」

「注意力が足りてませんわね。足元がお留守ですわ。いえ、頭の方もお留守の間違いでしたわ 」

 

 こ、この女は・・・

 

 目の前で痛みを耐えてる人間に対して容赦なく毒舌での追い討ちを掛けるなんて、悪魔じゃねぇのかコイツ。風紀を守る前に人道を守れよこんにゃろう。涙子ちゃんみたいに慈しみと慈悲の心を覚えろっつーの・・・

 

 しかし、このまま言われっぱなしで終わるオレでは無い。少し先に進むと更に狭くなる道。今までのように普通に歩けるスペースでは無く、横向きになって歩く必要のある窮屈な狭さ。

 

 それでもスタスタ、と先に進む白井。オレはここで反撃に転じる。返事をせず、黙っていた口を開いた。

 

「悪いな。お前みたいなチビと違って、この道は俺にゃ狭すぎるんだわ。すげぇなお前。なぁ、白井。良くこんな狭い道を何不自由なく歩けるよ。つっかえがねぇんだもん、当然か」

「・・・喧嘩売ってますの? 」

 

 ギロリ、と鋭い視線が刺さる。

  

「まさか、一時的つっても天下のふーきいーんだぜ? AA(ダブルエー)ガンダム。喧嘩なんざ買うことも売ることもねぇさ 」

「うふふ、そーですわよね。わたくしも遺憾ながら同じですわ、類人猿 」

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

「あっはっは・・・ 」

「うふふ・・・ 」

 

 互いに笑い始める。狭い道に笑い声が大きく響く。どこまでも行き渡りそうな二人の笑い声。

 

「あっはっは・・・あははっ・・・! 」

「うふふ・・・うふふっ・・・! 」

 

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・  

 

 

 

  

『 ぶちコロす(しますわ)ッッ!! 』

 

 目の前から一瞬にして消え、そして上から聞こえてくる声。能力を使った白井。

 

 オレは盛大に迎え撃つように拳を突き出し───

 

 

「ビン・・・ッ!」

「ゴッ・・・ですの! 」

 

 

 ───白井の手を握った。

 

 

 

 シュンッ! ピシュンッ!

 

  

 刹那、奥深くから風を切り、こちらに向かってくる何か、それが暗闇に光る。

 

 

 それらはオレに当たらずに路地を通り抜けていく。打って変わって広々とした視界。瞬間移動。俯瞰的に路地を見下ろす。一瞬にして左右の建物から逃れ、上に避難してやった。

 

 表通りに被害がいかないよう、勢い良く進むそれらに強い重力をかけた。中規模の爆発が起きる。件の高位能力者たちのものだろう攻撃。オレたちを生意気にも狙ってたみてぇだが、残念ながら地面とキスで終わったな。

 

 オレたちはそのまま屋上に着地し、下の様子を眺めるように見下ろす。暗いのもあって、避けたのを見られてはいないらしい。数人の男たちの嬉々とした声が微かに聞こえてくる。

  

「とりあえず作戦 」

「成功、ですわね 」

 

 まさにとらぬ狸の皮算用と言える眼下の光景。仕留めた獲物を確認するように狭い路地に入っていく男たち。白井は屋上の端に腰掛け、脚を揺らしながらその様子を見ている。

 

 オレは呆れながら、白井はつまらなさそうに

 

「こんなんに引っかかるとは 」

「まだまだですわ 」

 

 自分から動きの制限される場所へと入っていく姿は、酷く滑稽にうつる。罠にかかってるとは知らず、哀れなもんだ。

 

「いやぁ~、入念に撒き餌を放った甲斐があったな 」

「ですの 」

 

 これまでの行動を思い返す。

 

 

 わざと人目につくように、表通りを歩いていたのも

 

 

「にしても風紀委員ってぇのもザルだな。まさか計画が筒抜けとは思ってねぇだろ 」

「 ああ。しかも、あんな目立つように歩いてりゃ対策もなおさら楽だしよ 」

「あの方向じゃこのルートしか無いもんな 」

 

  

 狭い裏道を通ったのも

 

 

「この狭さ。身動きも満足にとれやしねぇ。しかもあの状況じゃ回避のしようがねぇし 」

「全員でおもっきり撃ったしな。死んでなきゃいーけど 」

「ま、大丈夫だろ。なにせ天下の常磐台生だぜ? 」

 

 

 その狭い道で喧嘩をしたのも

 

 

「てか俺たちすげぇよ! 常磐台の風紀委員ブッ倒したんだぜ! あの有名なテレポーターを!」

「勝手におっ始めてくれて幸運だったな。あれなら避けれる筈がないぜ 」

「油断大敵っつーやつだ! くっくっく! 」

「しかもあれ、もう一人ってあいつだろ? 最強の大能力者だっけ? 」

「俺たち有名人になれるな! ただの風紀委員じゃなくてめちゃくちゃ強いやつらブッ倒してやったんだ! 」

 

 全てこの状況にするための布石。

 

 

「面白いくらいに上手くいきましたわね 」

「あーいう輩の行動パターンは読めっからな。おおかた、無能力者ばかりターゲットにした卑怯ものって言われてる現状に、不満があったんだろ。高位能力者ってのは大抵プライドが高ぇ奴らだからよ。ここらで有名な奴を倒して名を上げてやる、って思考に陥り易いのは目に見えてら 」

 

 まぁ、ここまで上手く釣れたのは驚きだ。我ながら自分の演技力の高さに笑いが止まらないな。すでに自分たちが上手く身動き出来なくなってるじゃねぇか。油断しきってんなぁ。獲物を仕留めた後だし、弛緩しちまうのはしょうがねぇけど。

 

 携帯片手に煙の上がってる場所へ向かう男たち。倒れてるだろうオレたちを撮影して、SNSで拡散でもするつもりか?

 

 ったく。しょうがねぇ奴らだ。

 

 

 コキ、コキ、とオレは首を二度鳴らす。 

 

  

「さてと、そんじゃま・・・お掃除のほうでも、始めていきますか 」

 

 

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