とあるシスコンの学園生活   作:新戸よいち

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「さてと、そんじゃま・・・お仕事のほうでも始めていきますか 」

  

 コキ、コキ、と二度首を鳴らしてから、気怠げにそう呟いた。眼下の男たちが驚異になりうる可能性は殆どゼロからもう、ゼロに変わっている。ミジンコ並の敵だ。秒で仕留められる。

 

 しかし、念のため、行動する前に改めて人数の確認でもしておくか。一人でも漏らしたら恥だし。

「ひーふー、みー・・・フォー、ファイ・・・ 」

 

 えーっと・・・六人か。ぬるいな。

 

「しら「言われなくても分かってますわ 」

 

 ・・・最後まで言わせろよ。せめて名前くらい。そんな食いぎみに被せてくんじゃねぇっての。

 

 全く可愛げがねぇ。涙子ちゃんをすこしゃあ見習えよ。

 

 オレは溜め息をつきながら、頭をガシガシと掻き回した。すると、何らかの違和感が身体を巡る。なんだ? 

 

 ・・・良く見ると白井がチラチラ、とオレを見ていた。暗に何か伝えようとしてっけど、コイツ念話(テレパス)使いじゃねぇから良く分からん。中身の無いむず痒さと違和感だけが、白井の視線から生じている。ハッキリ言うと、居心地が悪い。

 

 白井をガキの頃から知っているからこそ、こいつの性格からして、このまま無視を続けてもこの状況が進展しないのは、明白に分かり切っている。気乗りしねぇが、オレから切り出すしか無いか・・・

 

「何だよ 」

「手を出さないでくださいまし。わたくし一人で終わらせますわ 」

 

 何を言うかと思えば、今さらそれか。そりゃオレの台詞だっつーの。オレなら秒殺できるし。

 

「わたくしは風紀委員ですの 」

「んなの知ってら。わがまま言うなよ。それならオレだって一人で出来る 」

「そんなのわたくしも知ってますわ 」

「じゃあ何だっ「ここで見ていろって言ってんですの!! 」

 

 な、何だよ? 情緒不安定かよ? いきなり大声出して・・・下に聞こえてねぇか? バレてたら意味ねぇぞ・・・

 

 ホッ・・・バレてはねぇみたいだ。にしても、何を怒って・・・

 

「わたくしは風紀委員ですの 」

「さっき聞いたって 」

「あなたは″元″風紀委員。いわば部外者ですの 」

「どぅあーかーらー、何で今さら? それならもっと最初の段階で言えよ固法さんに 」

 

 ほら、こんなこと言い争ってる間にもう少しで爆心地着きそうだぞアイツら。さっさと始め・・・

 

「わたくしはもう、昔のわたくしじゃありませんわ 」

 

 飛び降りようとした瞬間、聞こえてきた言葉。何らかの決意を込めた力強い二つの瞳がオレへと向けられる。途端に金縛りにあったように、ピタッとオレの身体は動かなくなった。いや、動けなくなった。

「白井・・・? 」

「あの頃のように・・・、無いんですの 」

 

 自分の口腔内に言葉を留めるように、モゴモゴと話す白井。不明瞭だ。途中の声が良く聞こえない。だけど、『何て言った?』なんてそんな、追及することは出来ずにいた。

 今の白井にそう聞き返すのは、何故だか憚られる。

 

 何か秘めたるものが、譲れないものでもあるのか。オレはそれが分からないほど馬鹿じゃ無いし、それを聞くほどデリカシーが無いわけでも無い。

 

「・・・はぁ 」

  

 仕方ない、花持たせてやっか・・・初春じゃないけど。

 

「やれよ、一人で。良くわかんねぇけど、やりたいんだろ? じゃあやれよ。俺は物理的にも、日本語的にも、立場的にも、ここで高みの見物しててやっからよ 」

「ええ、やらせてもらいますわ 」

 

 オレは座る。落下防止のための柵を背凭れに、まるで自宅のソファのようにリラックスしながら、高所恐怖症なら足がすくんで汗がだらだらになりかねない場所で、難なく座る。

 

 隣で白井が飛び降りた。この都市以外でなら自殺志願者と見紛われる勢いで、屋上から飛び降りた。

 

 スカイダイビングもかくや、降下中の白井の背中をぼんやりと眺める。すると、パッとその姿がオレの視界から消えた。

 

 『瞬間移動(テレポート)

 

 とんだチート能力だと改めて思う。瞬間移動とかずるくね? 脳に釘とか、どんな小さいモンでもテレポートされたら終わりじゃん。その場でお陀仏じゃん、くわばらくわばら。

 

「なっ?! んだこりゃ!? 」

「げっ、まさか?! 」 

  

 最後尾とその一個前。未だ狭い路地でもたもたと動いていた無防備なウスノロたち。紙を画鋲で固定するかのように、昆虫の標本のように、その二人の袖や裾が金属の矢によって、壁にガッチリと縫い付けられる。身動き一つ取れない様子だ。自慢の能力も満足に行使できないらしい。

 

「な、なんだよ!? どうかしたか!? 」

 

 後ろから聞こえた仲間の声に、やっと異常に気付いた男たち。爆心地に背中を向ける形でその場で四人は振り返ると、手を突き出すように構えた。その手はすぐに光る。

 

「くらえっ! 」

『オラぁぁぁッッッ!! 』

 

 恐怖心にかられたのか仲間も気にせず、ただそこにあるだろう驚異を排除しようと能力をブッ放つ男たち。これを見る限り、発火や念動みたいな感じのが使えるみたいだな。

 

 一般人ならひとたまりもないだろう複数の力が混ざった奔流が、グングンと路地を直進している。

 

 白井は余裕で避けられるだろうけど、白井にやられた二人はそうもいかない。重傷者を出すのは面倒だ。しゃーねぇな。これは手伝うに入るか? まぁいいや。おらよ。

 

「おおぉぉぉい!! まって! 」

「バカヤロー!! 死ぬぅぅぅ!! 」

 

 情けなく泣きわめく声がやかましい。さっきと同じように当たる直前で、圧を掛けた。落ちすぎるフォークに似た軌道で、地面に激突、奔流は砂埃を上げて爆発を起こす。

 

 埃や鉄屑はかかっけど、まぁ直撃するよりマシだろ?

 

 そう思ったが、当人たちは恐怖から、それを感じる間も無く既に意識を失っているようだ。口からは蟹のように、泡を吹いている。

 

 やーっぱレベルが高くても、自分より弱いもんを虐める目的にしかそれを使えないチキンどもだな。やられる側になれば、こんな簡単に気絶するとは。

 

 無様な屍を見て呆れている間にも、状況は着々と進行しているらしい。戦いの余波とも言える騒音を現在進行形で奏でている方向へ、オレは視線を向けた。

 

 そこでは白井が舞っていた。そんな風に見えるほど優雅に、そして圧倒的に、蹂躙している。小学生のガキvs虫レベルの争い・・・むしろ争いにもなっていない。負けるビジョンが見えねぇ。むしろ相手側に対しての慈しみの心さえ芽生えそう。

 

 オレが風紀委員を抜けてから、更に強くなってら。てか、強くなりすぎじゃね? スライムがスライムナイトになったくらいの変わり様なんだけど。

 

「クソッ、ちょこまかと!! 」

「こんなん当たるわきゃねぇ、どうすりゃいい!!? 」

「当たらねぇなら、当てるだけだ!! うおおぉぉぉぉ!! 」

 

 いくら火球を飛ばしても掠りもしない事に苛立ちが募ったのか、男は拳に火炎を纏わせ「ファイアーパンチッ!!」と何の捻りも無いネーミングセンスの必殺技を繰り出した。

 

 しかし、当然ながら、全くもって当たるわけが無い。だって、物理的に距離が足りてねぇし。

 

 宙に浮かび、テレポートを行うケーシィに対して単純な拳による打撃は

 

 

 こうかが ない みたいだ

 

 

「うおおおおぉぉぉッッッッッ!!!!! 」

「キーキーやかましいですわ 」

「ぶごっ!?!? 」

 

 うわっ、痛そ。パンチってやっぱ隙が大きいな。当たらなきゃ無防備になるだけだ。

 

 にしても、・・・顔面にドロップキックはどうよ? 顔に足跡ついてっし・・・鼻が折れてないの祈っとく。

 

「挟み撃ちなら一発は当たんだろ!! 」

「その顔に消えない傷跡つけてやる!! 」

「あ、待て! そいつテレポーターだから、忘れてんの!? 」

 

 蹴られぐったりと地面に倒れ込んだ男の傍らに、ほぼ同時に着地する白井。前と後ろを挟まれている。やっと静止した白井を見て、油断したのだと勘違いしたらしく、同時に攻撃を行う。

 

 それが当たる寸前に白井の姿が彼らを嘲笑うように消え去り、結果として同士討ちを誘発した。

 

「あ、わりぃ。俺死んだ─── 」

「のぁぁぁぁ!? ごふっ・・・! 」

「このバカッ!! 」

 

 一人には念動力で飛ばされた鉄の塊が盛大に直撃し、もう一人はアイキャンフライと空を飛ぶ。風力使い(エアロシューター)か? あ、てか痛そ。受け身取らずにコンクリートに落下とか、大丈夫か?

 

「後はあなた一人ですわね。痛い目見たくないのなら、速やかな投降をオススメしますわ 」

「・・・甘く見てもらったら困る。俺とてレベル3のはしくれ。誇りはある。戦わずして、負けは有り得ぬのだ 」

 

 何か急に強キャラ感出してきたぞアイツ。口調迷子か。何だそのファイティングポーズ。お前さっきまでの見る限り肉体強化系では無かったろ。

 

 白井は白井でそんな心底うざったそうな顔してやんなよ。もっと真摯に対峙してやれよ。もとい退治してやれよ。

「ぬぁぁぁぁぁ!!!!! 」

 

 自分を鼓舞する雄叫びを上げ、顔の前で両手を合わせ、そいつが何かしている。何かは分からん。

 

 白井は興味無さそうに、ふぁさっと一度だけ髪をなびかせる。そして、脚に触れた。

 

 カンッ、と火花を散らせながら甲高い音が路地に響く。

 

 その音は男の足元からだった。正確には爪先の、ほんの少し手前。チョークにも似た金属の矢が、コンクリートに突き刺さっていた。もし白井がガチだったとしたら、指が焼き鳥みたいに串刺しになったに違いない。

 

「お縄につかせて頂きます! どうぞ!! 」

 

 途端に両手を差し出し、自ら手首を晒して手錠を掛けやすいようにしたのは、今の今まで雄叫びを上げていた輩だ。

 

 諦めはやっ。おい、誇りはどうした。埃の間違いかよ。

  

「えぇ、それでいいんですの 」

 

 白井が手錠を掛けるとこを見てから、オレはスマホを取り出す。まぁ、既に解決済みとは向こうに伝わってると思うけど。

 

「終わったぞ 」

『はい、もう知ってます。いま警備員の方々がそっちに向かってるはずです 』

「あ、そう。仕事はえーな 」

『それにしても・・・良かったです。私てっきり白井さんと本気で喧嘩してるのかと思って・・・心配しちゃいましたよ 』

「アッハッハ、演技力の高さには自信があっからな・・・っと、まぁ心配かけてわりぃわりぃ 」

 

 ホントは最初の予定とは全然違ったけど、熱の入りようとか・・・白井普通にオレ罵倒してきたし。てか足いってぇ。あの高さから飛んだら当たり前か・・・

 

「もう少しで来るってよ 」

「分かってますの 」

 

 スマホを前に突き出しつつ、全員の拘束を終えて手持ち無沙汰な白井へと話し掛ける。

  

『ふぅ、白井さんも人が悪いですね。あんなチクチクした雰囲気は、そこに居なくても胃が痛くなりそうでしたよぉ 』

 

 初春は明確に安堵の思いを込めた声色で、深い息を吐きながらそんなことを言う。

  

「敵を欺くにもまず味方から、と言いますのよ。初春」

『良かった。本当の本当に、ただの演技だったんですね 』

 

 また初春が深く息をついた。

   

「ああ、モチ。そりゃ演技に決まってるじゃねぇか。な? 」

「ええ、勿論ですわ。決してわたくしはこの男をノータリンと何て、万に一つも思っていませんの 」

「おう、オレも決してこいつを高慢ちきで一部が貧しい女とは思ってないぜ 」

「奇遇ですのね、類人猿 」

「ホントだなAA 」

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

『あの・・・本当に演技だったんですよね・・・? 』

 

 嵐の前の静けさの後、か細い声がスマホから聞こえてくる。それに毒気を抜かれたように、身構えようとした手を収める。白井も同じだ。

 

「純度100の演技だってぇの。純然たり明白で分かり切った演技だ。さて、もうお巡りさんも来たことだしオレは帰るぞ。もう切るぞ、さいなら 」

 

 少し遠くから足音が聞こえた。一人や二人でなく多数の足音だ。オレは通話を停止しようとスマホに手を伸ばす。

   

『あ、はいっ! お疲れさまでした! また今度! 』

「またも今度もねぇよ。そんなひょいひょいボランティアなんてしてられっか。何よりも優先したい天命があんのに 」

『佐天さんのスト 』

「愛の守護者、だ! 」

 

 忌々しいその単語を聞くより前に、勢い良くスマホを指で突いた。初春の声はパッと聞こえなくなった。

 

「そんじゃ、後は任せたぞ 」

「・・・ 」

 

 くるっと方向を転換し、足音の方へと歩いていく。つまりは大通りの方向だ。何歩か歩いてから、いやに背後からの視線を感じる。無視は別に気にしないが、この違和感はなんだ。

 

 まさか・・・闇討ちか?

 

「おい、何か言いたいことあんの? 」 

 

 すぐに振り返ると、俯く白井が見えた。オレは声をかけた。

 

「別に・・・何もありませんわ 」

「嘘つけ 」

 

 はぁ・・・何だ? 一体なんだってんだ・・・

 

 いや、待てよ。この状況には既視感が・・・

 

 一、二時間ほど前の会話を思い返す。初春に見せた写真。白井の研修時代。まだ可愛いげがあった時期だ。

 

 それを思い出すと、途端に目の前の白井とその時期の白井が重なった。フラッシュバックってやつだ。低い身長がもっと低く見える。

 

 しゃーねぇ。白井の頭へと手を伸ばす。

 

「良くやった。ナイスファイト 」

 

 くしゃ、と少し乱雑に髪を撫でる。多分この状況は、あの写真とぴったり一致するだろうな。 

 

「見ないうちにお前も立派なジャッジメッ 」

「ふんっ! 」

 

 労いの言葉をかけようとした瞬間に目の前にはためくスカートと、靴底が見えた。そこでオレの視界は暗転する。

 

「淑女の髪に許可も得ず触れるなんて、万死に値しますわ」

 

 遠くでそんな声が聞こえた気がした。

 

 意識も暗転してきた。もう何も考えられない。

 

 ただオレがハッキリと分かるのは、顔面にドロップキックを受けたということだけだった。

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