とあるシスコンの学園生活   作:新戸よいち

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 オレの目の前では現在、不可思議な光景が繰り広げられている。なんと、花がパフェを食べているんだ。不思議なこともあるもんだな。学園都市のマッドなサイエンティストに、是非ともこの件を研究して貰いたいもんだぜ。

 

「あの・・・なんですかその目 」

 

 すると唐突に花が話しかけてきた。これまた不思議なこともあるもんだな。植物なんだから、光合成で一生を終えればいいのに。

 

「なにかすごく・・・わたしの尊厳を奪われてる気がします 」

 

 スプーンを咥えながら、花の根っこ部分がオレを不満げに見つめてくる。にしてもこの花は、パラスみたいな構造になってんだなぁ。可哀想に。きっとこの下の部分はいずれパラセクトみたいに、死んだ目に変わってしまうに違いない。寄生されたばっかりにな。お悔やみ申し上げます。合掌。

 

「本当になんなんですかぁ・・・なんで急に手を合わせたんですか? 敬られてるんでしょうか? 」

「哀れんでんだよ 」

「なんでですか!? なんでそんな不機嫌なんです? 」

「何でだと思う? 」

「えーっと・・・ 」

 

 オレの質問に目の前の花、もとい初春はパフェを弄りながら首を傾げる。何度考えてもぴんと来ないらしい。オレはレストランに良くあるあの筒から、紙を取った。それを初春に見せつける。

 

「これを見ろ。なんでオレがお前に奢らなきゃならねーんだよ。せめて一歩譲ってこっちの料金で払うべきだろ」

「それ全然譲ってくれてないじゃないですか。一応、高位能力者なんですからたんまりと奨学金とか出てますよね 」

「あっても涙子ちゃん以外に奢る金があるか 」

 

 紙の下の方の文字をオレは示す。その紙、いわゆる伝票。その中の割り勘としての金額を見ながら、初春はそんなことを言った。こいつ黒い、黒いぞ。

 

「まぁ、もうその話はいいです 」

「いやオレにとってはまだ良くないからな 」

「白井さんについて聞きたいんですけど 」

「おい、オレの声届いてるか 」

「なにかしたんですか?」

「ああ、したな。てか、されたな 」

「え、なにをですか? 」

「おもっきりドロップキックされたな。しかも顔面に 」

 

 オレは自分の顔を指差す。すぐに初春は深いため息をついた。パフェを一口食べてから、またオレの方へ向き直る。次はじっとりとした目線で。

 

「そういうことじゃないですよ。こう・・・男女的な意味でのなにかをですね 」

「オレがあいつとなにかすると思う? 今度は一歩も譲らねぇぞ。オレの誇りと尊厳の問題だ 」

「ですよね。それならいったい、なにが原因なんでしょーか・・・」

「ちょっとドリンクバー行ってくる 」

「ちょっと待ってください! 普通、なにがあったんだい・・・? みたいに聞いてくる展開ですよね!? 」

「その展開をブチ殺す 」

「意味がわからないです! 」

 

 ったく、白井よりジュースの方が大事だっての。涙子ちゃんの話なら、断食(ラマダン)も辞さないけど。しょうがねぇ、聞いてやるか。微塵の興味もないが。

 

「んで、何があったんだ? 」

「あの日、白井さんの様子がおかしかったんです 」

「常におかしいだろ 」

「その言葉そっくりそのまま返します 」

「オレのどこがおかしいんだよ 」

「話続けますね。なんというか、白井さんが気持ち悪かったんです 」

「白井に聞かれてたら、お前消されるぞ 」

「いませんから大丈夫です 」

「ふーん・・・だってよ、白井 」

「へっ!? 」

 

 意味ありげな笑みを浮かべて、オレは初春の後ろを指差す。顔を青くして、初春はチーターもビックリの速度で振り向いた。だけどまぁ、誰もいないんだが。

 

「やっぱりいないじゃないですか! 」

「アニメだったらいるパターンだったんだけどな。やっぱ現実では無理か 」

「もう、びっくりさせないでくださいよぉ・・・寿命が縮みました・・・ 」

「もともと花の寿命は短いから、誤差だろ 」

「わたし人間です! 」

 

 初春が白熱の議論中の国会もかくやの勢いで、机を叩く。じゃあその花はなんなんだよ。アクセサリーの域じゃねぇだろ。しかしそれは言わないでおいた。

 

「そのですね・・・凄い嬉しそうな顔をしてたんです 」

「それのどこが気持ち悪いんだよ 」

「喜怒哀楽の喜のカテゴリーに置くには、ためらうレベルだったんですよ!」

「へぇ 」

「お兄さんが佐天さんを見るような目の気持ち悪さでした・・・すいません。それはさすがに言い過ぎました」

「何気なく失敬だな、おい 」

 

 ナチュラルに流れるように、罵倒が会話に入る。こいつまじで枯らしてやろうか・・・刈ってやろうか、こんにゃろう。

 

 怨恨を込めた視線を送ろうかと思った時、唐突に初春が口を押さえた。さっきよりも顔青くね。

 

「うぷっ・・・ちょっと、具合悪くなってきました・・・トイレ・・・」

「それパフェの食い過ぎだよな!? オレの気持ち悪さじゃないよな!? 」

「たぶんっ・・・うっ、・・・です 」

「多分なんだよ、どっちだよ!? 」

 

 気になる答えだけは聞こえず、初春の背中は遠くに消えた。一人残されたオレはこのまま帰ってあいつに勘定の全てを任せる。なんて考えも浮かんだが、やめておいた。

 

 

 

   

「一気に暇になったな 」

 

 ドリンクバーに行き、わざとどれにしようか迷う振りをしてジュースを入れて戻ってくるも、初春はまだいなかった。どすんっ、と強めに座る。

 

 永遠とも思える無駄なこの時間、何をするわけでなく、頬杖をつきメニューを眺める。暇潰しにとガキ用の間違い探しをしてしまう始末だ。しかもこれが案外、難易度高いし。

 

 白熱熱中、二つのイラストを見比べて長い時間うんうんと唸っていると、ポケットから振動が。何だ?

 

 スマホを取りだし、某SNSを開く。グラサンシスコン変態野郎だった。何やら妹の自慢話だったので、高速で長文を打ちオレも正々堂々とそれに受けて立った。

 

 また通知が来た。青髪オール変態野郎だった。どうでもいい内容だった。性癖を暴露されても困る。とりあえず妹の良さを長文で送った。

 

 また通知が来た。上条だった。何やら女に絡まれているらしい。助けてくれ、と言われてもな。とりあえず妹の良さを長文で送った。

 

 また通知が来た。湾内さんだった。とりあえず妹の良さを長文で送っ・・・りかけた。すんでで止めた。何気ない世間話をした。遊ぶ約束もした。断れる流れでは無かった。

 

 通知が来ない。オレは間違い探しの答えを得ようと、ググろうとした。

 

 その途中で、  

 

 また通知が来た。腹黒フシギバナだった。間違い探しの答えが書かれていた。腹いせに妹の良さを長文で送った。

 

 スマホをしまい前を向くと、やっぱりいつの間にか初春が戻っていた。

 

「何てことしやがる 」

「それ結構難しいですよね 」

 

 オレは怒りに歯を食い縛った。初春は反省の色も見せず、悪びれた様子も見せず、オレの手元のイラストを指差しながらそんなことを(のたま)った。

 

「分かってるなら邪魔すんなよ 」

「スマホ見てましたよね 」

「もう少しでいけたっつーに 」

「絶対嘘ですね。joseph's 間違い探し で検索しようとしてました 」

「な、見てたのか! 」

「バレバレですよ。あとこれ、なんなんですか 」

 

 初春がスマホの画面を向ける。そこには、オレの送った涙子教の聖典が写っていた。

   

「なんだかんだと聞かれたら 」

「答えてください、情けない 」

「答えてあげるが世の情けだろ 」

 

 邪悪な改変しやがって、ロケット団に謝れよ。悪の組織より悪だろこのフシギバナ。

 

「そんなことより、白井さんですよ! 」

「そんなにオレがドロップキックされた話を掘り返したいのか? 」

「ドロップキックではあの顔とつじつまがあいません。他になにかありますよね? 」

「とは言われてもなぁ・・・後なんかあったとしたら、ちょっと撫でちまったくらいだし」

「ん、今なんて 」

「いやだから、こう・・・労いの意味を込めて、昔みたいに撫でた。そしたらマジギレされて顔面を蹴られたって話だよ 」

「あー、謎は解けました 」

「嘘だろ 」

 

 え、なにこいつ名探偵? あのパソコン使いこなす能力といい、哀ちゃん的な感じ?

 

「やっぱあれか? 憎きオレを蹴飛ばしたから、スッキリして喜んでたとか? グヘヘ、って悪い笑顔で喜んでたのな? そうなんだな? 」

「ああもう、それでいーですよ 」

「おいぜってぇ違ぇだろ 」

「そうとわかれば、こうしてはいられません 」

「被害者のはずのオレはどうも分かってねぇんだけど 」

「パフェ、ありがとうございました 」

「奢るって言ってねぇんだけど 」

 

 自己完結を終えた初春、オレに頭を下げてから席を立って歩き始める。ジュースを飲んでから伝票を持ち、その背中を追いかけ、レジへと向かった。

 

「佐天さんには優しいお兄さんって、伝えておきますね 」

「ははっ、気にすんなよ。安いもんさ、このくらい 」

「扱いかたがよくわかりました 」

「え、今なんて 」

「いえ、なにも 」

 

 爽やかな笑顔で、初春の分まで会計を済ませる。途中で何か聞こえた気がしたけど、気のせいだったか?

 

「あ、また暇なときはぜひ支部に来てくださいね! 」

「気が向いたらな 」

「絶対ですよ! 」

 

 店を出てさて帰るかと思ったら、初春がそんなことを別れ際に言ってきたので、オレは行けたら行くレベルで便利な言葉を返した。

 

 去っていく初春の背中を眺め、オレは思った。

 

 最近、涙子ちゃん成分足りてねぇっ!

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