ああ、西日が目に染みる。学校終わりのハイテンションな雑踏が煩わしい。目の前を通る人、人、人、の圧巻と言うべき光景がもう、紫外線よりも目に痛い。
さて・・・現状を説明するか。
オレは今、うざったいほど混雑している放課後の繁華街にいる。歩いてはいない。近くにあったビルの脇に立っている。詳しく言うと、人を待っているんだ。
お察しの通り、その相手は何を隠そう湾内さんだ。あれやあれや、いつの間にか前回の話で遊ぶ約束をしていた、あの湾内さんだ。ん、いま普通に言ったけど、前回ってなんだ? まぁいいや。
あの後断ろうと思ったんだけど、何か忍びなかった。と言うより、やっぱ無理な雰囲気だった。てことで、待ち合わせ場所に決めたこの場所にて、オレは今現在、湾内さんを一人暇しながら待っているところだ。
届いたメールによると、常磐台は終わるのがオレの学校よりも少し遅かったらしい。心からの謝罪の気持ちのこもった文字の羅列。そんな湾内さんからのメールを眺めつつ、オレは今日のプランを今更ながら練る。
そして思ったんだけどさ・・・
今時の中学生って何して遊んでんだ? 全く持って分からん。しかもお嬢様相手だし、生まれも育ちも平民、小市民なオレが満足のゆくエスコートを出来る気がしない。
率直に言うと帰りたい。もう猛烈に帰りたい。しかしながら誠意のこもった謝罪のメールを読んだ手前、『帰ります』なんてメールをオレ側から送るわけにはいかない。だってもんすごく良心が痛むし。
はぁ、どうしたものか。適当に近くの店とか調べてっけど、あんまめぼしい場所もねぇし。
もう公園でいいか? オレの缶蹴りテクでも見せる? 相手が小坊の鼻っ垂れなら、それでオッケーなのになぁ・・・流石に中学生にはなぁ・・・
深い深い溜め息が漏れる。オレは頭を抱えた。良案が思い付かない。オレは諸葛孔明になれないのか。こんな難題をどうしろってんだ。まだ白井と喧嘩してた方がラクってもんだ。
つーかさ、つーかよ? 前提から覆してわりぃけど、花の女子中学生がオレなんかと遊んで楽しいのか? わっかんねぇなぁ、お嬢様の考えることは。
紅茶の造詣に深そうで、日傘が似合いそうで、花に優しく話しかけてそうな典型的お嬢様が、オレみたいな道端の小石と遊ぶ意義が分からん。お礼なら別に、前ので済んでるし。
「も、申し訳ございません! 」
うんうんと思考回路をフル活用している途中、息の切れた荒い呼吸、焦りを含んだ悲痛な声、つまるところ誰かの謝罪がオレの思考を中断させた。
十中八九、湾内さんだ。十中一の大穴で、白井かもしれない。今までの行いをオレに謝りに来たのかも。・・・すまん、ありえないな。妄想でもありえない。まず声も違うし。
オレは顔を上げると、出来る限りの爽やかな笑顔を作った。いちおう高位能力者だし、研究所に住み込みしてたっつー強キャラ的な過去のあるオレ。笑顔には自信があるぜ。この笑顔で修羅場を生き抜いたことだってあるんだ。キラッ。キリッ。
「誘った手前、佐天様をお待たせしてしまうなんて・・・っ 」
「いや、湾内さんは悪くないって。それに・・・待ってる時間もデートの内って言うだろ? ゆっくり来てくれてよかったのに、わざわざ急がせちゃってゴメンな 」
潤んだ瞳に乱れた髪、滝のような汗。今にも額を地面に擦り付けそうな勢いの湾内さんがそこにはいたので、それはもう優しくオレは語りかけた。某ヒロインの名言もついでに言っとこっと。
・・・やべっ。漫画そのまま引用したから、デートっつっちまった。これぜってぇ引かれるだろ。
「あっ、今のは 」
慌てて元ネタでも説明をしようとするも、言葉は続かない。
なぜかと言うと
「で、でーっ・・・あぅ・・・っ 」
湾内さんがぶっ倒れそうになっていたからだ。アスファルトに受け身なしで転倒させるわけにはいかねぇから、背中に手を回し、どうにかこれを支える。めちゃくちゃ熱い。顔なんて、溶鉱炉みたいに真っ赤だ。心なしか湯気が出てる気もする。
ね、熱中症か!? 脱水症状!?
「湾内さん!? 大丈夫か!? すぐ病院に───ッ! 」
「だ、だいじょ、で・・・っ!? 」
スマホを取り出し、119を入力しようとしていると、不意に腕の中の湾内さんと目が合った。まつげの本数も数えられそうな至近距離で。やっぱり顔が赤すぎる。
容態を確認するため、まじまじと湾内さんの表情を眺める。さらに顔は赤くなっていく。溶鉱炉どころか、太陽に錯覚するレベルだ。大丈夫という単語さえ、切れ切れだ。
声さえ届いてるのか不安になる。オレは更に距離を詰めた。さっきよりもなお、顔が近くなる。
すると、湾内さんが
「△〒▲‡▲¶△#※%!? 」
たぶん日本語では無い、聞き取れない言語を発すると共に、爆発した。例えとか比喩表現でなく、そのまんま爆発した。もしくは噴火した。
それを最後に腕の中でくったりと、湾内さんは力無く項垂れる。電源の切れたロボットのようだ。
「わ、湾内さん!? おい、おぉーーいッ!! 」
オレは必死に語りかけるも、ついぞ湾内さんが起きることはなかった。
ところ変わって現在地、のんびりな雰囲気の流れる公園に、オレは今いる。
人通りの多い繁華街では、ジロジロと痛いほどの視線がオレを射ぬいていた。通報までしようとする人もいたくらいだ。
まぁ、しゃーない。あの辺は強引なナンパスポットでもあるしな。常盤台の制服を着た湾内さんを、ガクガクと揺さぶるオレが
そういうわけで、避難する目的と介抱する目的もあって、オレは湾内さんをかついで公園に走った。
ベンチに座り、さすがに硬いところに寝かせるわけにもいかず、誰得だと思うが湾内さんに膝枕をした。風紀委員は元より、警備員に見られたら逮捕は免れない状況だったと思う。
そして今さっき、湾内さんが起きたところだ。起きたと言うより、飛び跳ねたっつー感じだったけど。
「もう大丈夫そ? 」
「は、はい・・・ 」
幸運にも熱中症では無かったようで、今は顔色がそうでもない。つっても赤いことには赤いけど、しっかり返事ができるまでに回復してる。
「申し訳ございません・・・ご迷惑をおかけして・・・ 」
しかし沈痛の面持ちをしているのが、真面目な湾内さん故だろう。ずーん、という擬音さえ聞こえそうだ。
この状態じゃ、下手な慰めをしてもな・・・
なら
「うしっ、遊ぶか! どこ行く?オレあんま落ち着いた場所とか知らなくてさ。湾内さんオススメの場所とかあったら、聞きたいんだけど 」
当初の約束通り遊ぶだけだ。
突然立ち上がり、唐突な提案をするオレに面を食らったらしい。湾内さんは目をパチクリさせている。
「オレが選ぶとゲーセンみたいに、
まぁでもやっぱり、お嬢様を連れていくには、場違いな場所しかオレは思い浮かばない。なので、いっそのこと湾内さんに丸投げしよう。茶道教室でもオペラでもどこでも甘んじて受け入れる覚悟だ。
「い、いえっ・・・そんなこと・・・ない、ですっ! 」
しかし、湾内さんはそんなオレに気を遣っているのか、普段のか細い声とは違う、はっきりと意思のこもった声で否定をした。
「さ、佐天様が・・・お選びになったのなら・・・ど、どこでも・・・」
な、なんてええ子なんだ・・・オレなんかにそんな気遣いしてくれるなんて。白井に少しでも真似してもらいたいもんだ。本当に同じ学校なのか?
しかしこうまで言われて、年下に言わせといて、丸投げするほどオレはへたれじゃない。なら、やっぱりオレがエスコートしよう・・・
「わかった。湾内さんの期待に応えられるかは分からないけど、オレに任せてくれ。じゃあ、行こっか─── 」
いざ行かん!
「───ゲーセンへ 」
しゃーない。ゲーセンしかやっぱ思い浮かばなかった。