とあるシスコンの学園生活   作:新戸よいち

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 そんなこんなでゲーセンを出たオレと湾内さん。まだ外は明るいし、常盤台の方の門限は大丈夫そうだな。よし、ならこの辺で余裕を持ってお開きにでもして・・・

 

「じゃあ、湾内さんまた今度 」

 

 そう言って片手を上げ、爽やかに立ち去ろうとしたのも束の間、

 

「あれ、アンタ何してんのよ? こんなとこで 」

 

 なんて、唐突に背後から聞こえてきた声は、良い思い出が一つもないヤツのものだった。

 

「み、御坂様・・・っ!? 」

 

 湾内さんが、聞きたくもないその名前を声に出す。だよなぁ、やっぱりアイツか・・・

 

 ま、まさか・・・み、みさか・・・とでも、オレ言うべきかよ。こんちくしょう。神がいるならブッ飛ばすぞ。その座を早く涙子ちゃんにやれよ。全世界涙子ちゃんの慈愛の威光に晒されろよ。世界平和実現唯一の方法だぞ。

 

 しかし、ここは大人のオレ。くるりとその場で振り返る。

 

「そっちこそ、こんなとこで何してんだ? 」

 

 御坂の機嫌を損なわないようにと嫌そうな表情一つせず、質問のみを無難に投げ返すファインプレーを披露。これによって湾内さんの安全も確保だ。無駄に電撃を飛ばされることは無いはず。

 

「私は・・・って、フーン・・・へぇ・・・? 」

「何だよその顔は 」

 

 さて、その作戦自体は成功したものの、御坂はオレの傍らにいる湾内さんを見て、何か凄いムカつく顔になった。

 

 あらお邪魔しちゃったかしら、みたいな。私何でもお見通しよ、みたいな。噂と井戸端会議大好きなおばさんみたいな、そんな顔。

 

 女子供じゃなければ、老若男女の中の若男だったのなら、絶対おもっきり躊躇せず顔面ド真ん中ぶち殴ってんのは言うまでもない。

 

「湾内さん、ちょっといい? 」

「は、はいっ 」

 

 御坂がひょいひょい、と手招きをした。そのジェスチャーを示す相手は当然ながらオレでは無くて、隣にいる湾内さん。常盤台の先輩ということも相まってだろうか、御坂の元へと結構な早足で駆け寄っていく湾内さんの背中をぼんやりと眺める。

 

 そして、オレの前で堂々と始まった密談。 

 

 ・・・なに話してんだ? あんな耳元で。

 

 湾内さんに何かを囁いている御坂。頭を横に振ったりと、リアクション豊かな湾内さん。抱えているイルカさんも一緒に揺れてら。そんで、それをぽつんと一人で見てるのがオレ。もはや不審者。

 

 にしても・・・驚くほどのかやの外だから、めっちゃ手持ち無沙汰だな。もう帰っていーか? 御坂いるし、お二人で一緒に寮に帰っていただいてめでたしめでたしっつーことで・・・オレは細々とフェードアウトを・・・

 

 そう思い立ち、踵を返そうとした途端、それを予期してたかのように湾内さんから離れ、オレの方に歩み寄って来る御坂。にげられない!

 

 その顔はニヤニヤと言うよりニタニタ? 絶対なんか誤解してるよコイツ。

 

「アンタも中々いいとこあるじゃない! 」

 

 バシンッ、と勢い良く肩を叩かれた。いつつ・・・よく分からんけど、おっさんの労い方じゃねーかよ。雷パンチじゃなかったのは一安心だけど、一体なんだってんだ。

 

「今さらかよ。もっと早く気付いとけ、どう見てもいいとこしか無いだろこんな好青年 」

「うわ・・・自分で好青年とか言ったら台無しじゃない 」

「アホ言え、明確な事実を言っただけだっての 」

 

 いくら勝負挑まれようとも電撃ぶっ放されようとも、キレたりしていないオレはどう見たって好青年だ。むしろその恩恵にあずかってるお前こそ気付いとけよ。

 

「アンタねぇ・・・そういうのアレよ? ナルシストって言うのよ? 」

「失敬だな。事実を言っているだけなんだから、リアリストって言えよ 」

「はぁ・・・湾内さんも大変ねぇ・・・ 」

 

 目の前で盛大に溜め息をついた御坂。いやいや、湾内さんにはもっと真面目に、真摯に、静粛に対応してるに決まってるだろ。お前や白井じゃねーんだからよ。なぁ? 湾内さん。真摯で紳士だってぇの。

 

「わ、わたくしは佐天様とご一緒できるだけで・・・ 」

  

 オレの真摯なアイコンタクトが通じたのか、湾内さんは抱えているイルカをキツく抱き締めつつ、オレの弁護をうつ向きながらもはっきりと聞こえる声量でやってくれた。ありがとう! 今度なんか奢っちゃうぞ!

 

「アンタと湾内さん、ホント仲いいのねぇ・・・? 」

「当たり前だろ。オレと湾内さんは心で通じ合ってるからな。こうやって目と目を合わせるだけで何を考えてるのかだって筒抜け・・・ 」

 

 そう言って顔を動かすと、ふらふらと今にも倒れそうな病人みたいな平衡感覚で、顔を真っ赤にしている湾内さんの姿を視認する。オレは慌てながらも颯爽と湾内さんを支えた。

 

「わ、湾内さん!? 大丈夫か!? 」

 

 ね、熱か!? やっぱり熱中症とかだったのか!?

 

「何にも通じ合ってないじゃない 」

「後輩の危機に何をそんな落ち着いてんだ、早く119を! 」

 

 救急車を・・・って、あつっ! 肩とかめっちゃ熱い! やっぱりこれ絶対病気だ!

 

「はいはい、とりあえず離れなさいって 」

 

 一人だけ涼しい顔をしている御坂が、オレから湾内さんを奪う。なんかこの言い方だとドロドロの昼ドラみたいだな。てか何だ、電気ショックでもする気か。AEDの出番のある症状には見えねーぞ。

 

 御坂が湾内さんの背中をさすったりしている。それで治るとは思えないとオレは思っていたんだが、次第に湾内さんの顔色は赤から普通に戻ってきていた。こ、これが電気マッサージなのか・・・?

 

「にしてもアンタ、いつもこんな感じなの? 」

「なにがだよ? 」

「はぁ・・・湾内さんも大変ねぇ・・・ 」

 

 今さっき聞いた覚えがあんぞ。しかもそん時よりも断然深い溜め息だし。何だってんだ、釈然としねぇぞ。オレが何かしたのか? いや、全然思い当たらん。

 

「自分で考えることね。それでこれ、アンタがあげたのよね? 」

「ああ、そうだけど 」

 

 御坂がぬいぐるみを指差しながら、オレを見てきた。特に隠す必要も無いし、すぐに答える。オレに向けられた質問のためか湾内さんは答えないものの、コクコクと頷いているのは見えた。

 

「クレーンゲーム? 」

「おう 」

 

 ゲーセンの方に視線を一度向け、そしてまたオレを見る御坂。

 

「得意なの? 」

「はっ、愚問だな。ゲーセン荒らしのセンちゃんとは言わずと知れたオレの事よ 」

「その異名だと、アンタの要素どこにも無いじゃない 」

 

 まあ確かに嘘はついたが、オレの腕に嘘は無い。狙った獲物は中の配置によるが、千円以内には取れると断言出来る。

 

「湾内さん、ちょっとだけコイツ借りていいかしら? 」

「さ、佐天様がよろしければわたくしは・・・ 」

「御坂、オレのことは真っ先にオレに聞けよ 」

 

 ったく、人を物みたいに扱いやがって。にしても何だ? 欲しいもんでもあるのか? そんなら恩を売る目的でやってやるのもやぶさかではねぇけど。

 

「で、なにして欲しいんだ? 」

「あら、やけに聞き分けがいいじゃない 」

「どうせやらされる未来しか見えねぇから、とっとと終わらせた方が得だろ 」

「それはそうね 」

 

 少しは否定しろよ。何がそれはそうね、だ。潔いにも程があんだろ。お前は侍か。

 

「湾内さん、先帰ってても 」

「い、いえっ。わたくしもご一緒させていただきます! 」

「そ、そう? 」

 

 やけに食い気味だ。何だろう、ゲーセン気に入ったのか? だとしたら今日湾内さんをここに連れてきたのは、人生最大級の過ちだったと言っても過言じゃねぇぞ。

 

 まぁでもそういう訳で、湾内さんと御坂と共にまたゲーセンの中に足を進める。

 

「いやーホント良かったわ。私だけじゃちょっとね 」

「オレも良かったわ。電気で台パンとかされても困るし 」

「そんなことしないわよ! 」

 

 いや絶対するよこいつ、どっかの公園で自販機蹴ってるの見たことあるし。あまりに取れなくて怒りをゲームにぶつけ、放電して、ゲーセン内のゲーム全部ぶっ壊し、最悪閉店まで見える。ああ恐ろしや。

 

 そんなことを考えていると、気付けばクレーンゲームのコーナーに辿り着いていた。御坂の方を見る。

 

「んで、なにが欲しいんだよ。湾内さんの持ってるようなやつ? 」

「いや、違うわよ 」

 

 湾内さんの抱えるイルカを指差すと、御坂は横に首を振った。

 

 じゃあ、どれが欲しいんだよ。周りに目を向けていれば、御坂がとある筐体(きょうたい)に近付いていくのが見えた。その中に敷き詰められていたのは───

 

「ま、まさか・・・それか・・・? 」

「なによ、可愛いでしょ? 」

 

 ─── ゲボ太

 

「ゲコ太よ!! 」

「な、何だよ急に大声出して 」

「なんか言わなきゃいけない気がしたのよ!! 」

 

 こ、こいつ人の脳内まで読めるようになったのか? だとしたらレベル6の候補に名乗り上げたことになんぞ。

 

 にしても、ええ・・・まさか、身近にこいつを好む存在がいたとは・・・灯台もと暗しと言うべきか・・・なんと言うか・・・特異な美的感覚をしてるな。さすがレベル5、クレイジーだぜ。

 

 まぁ、オレが手に入れる訳じゃねーし・・・

  

「とにかく、取ればイーんだな? 」

「ええ、任せたわよ 」

 

 難易度自体はそうでもない。むしろ取り易い部類かも。変な見た目はしてっけど、変な形をしてるわけではねーし。

 

 御坂から軍資金を受けとる。それを入れて、ゲームスタート。

 

 巧みなクレーン捌き、首の辺りを挟んでゲボ太を持ち上げる。見た目はもう、首吊りだ。ぶらんぶらん体が揺れて、控えめにいって超気持ち悪い。湾内さんには見せたくないレベル。

 

 ごどっ、とそのまま穴に落としてゲームセット。感触としては谷底に落とした感じ。

 

「ほらよ。これでいいのか? 」

 

 取り出し口に手を入れ、ゲボ太を取っ捕まえると、御坂に差し出す。

 

「ゲコ太ぁっ! 」

 

 しゅばっ、目にも止まらない速度でひったくられた。猫か、おい。頬擦りまでしてるし・・・そんなにいいのか? 最近の中学生ってのはこういうのが好みなのか・・・? 涙子ちゃんも実は好きだったり・・・?

 

 湾内さんの方を見ると、そんな顔はしてなかった。じゃあやっぱり御坂だけの特性か。

 

「ま・・・まぁ、そんなに喜んでくれて良かったぜ。じゃーな。ほら、湾内さん行こっか 」

 

 やることはやったわけだし、御坂は放っておいて帰ろう。湾内さんを手招きし、歩き始める。

   

「え、なに言ってんのよ? まだ終わってないわよ? 」

 

 後ろから、そんな声が聞こえた。

 

「なんだよ、取ってやったろ? 」

 

 オレは振り向き様にそう言う。

 

「アンタそれ本気で言ってるわけ? まだピョン子とケロヨンがいるじゃない 」

 

 御坂は聞き馴染みの無い名前とともに、あっけらかんとそう答えた。ぴょ、ピョン吉? クレヨン?

 

「ほら、良く見なさいよ 」

 

 オレは不本意にもクレーンゲームに近づく。確かに、なんか違うのがいるような・・・いないような。いややっぱり、いないよな。

 

「アンタねぇ・・・ぜんっぜん! 違うでしょーが! 」

「湾内さん、わかる? 」

「は、はい・・・ 」

 

 そう答えた湾内さんの言葉の最後尾に『うっすら』と言う単語が付け足されていたのを、オレは聞き逃さなかった。

 

「よく見なさいよ、素人にも分かるようにリボンとか付いてるでしょーが! これがピョン子よ! 」

「あー、確かに・・・ 」

 

 そう言われると、そうだな。でも待てよ、クレヨンはいなくないか? クレヨンはいないだろ。ゲボ太とピョン吉だけだろ。

 

「ゲコ太とピョン子とケロヨン!! 」

「な、なんだよ 」

「なんかまた言わなきゃいけない気がしたのよ!! 」

 

 やっぱこいつテレパシーも習得したんじゃないのか?

 

「アンタ、相貌失認(そうぼうしつにん)ってやつじゃないの? 病院行った方がいいわよ 」

「余計なお世話だ 」

 

 人と人同士で、他人の顔が覚えられない、見分けられないのが相貌失認だっつーの。人がゲテモノの顔を見分けられないのは普通だ。

 

「じゃあその、そいつらも取ればいいんだろ? わーったよ 」

「ええ、お願い 」

 

 御坂との口論には端から勝てる気はしないから、オレは大人しく観念して、後の二種類をとっとと取ることにした。

 

 それはゲコ太よ! とか、それはナマコでしょ! とか、御坂のオペレーションを聞きつつ、オレは奮闘した。

 

 クレーンゲームには順序があり、本当に取りたいものがあれば周りを取ったりして、取り易くしたりとかの戦術もある。つまるところ、余分なカエルたちも取ることになった。

 

 保存用、観賞用、予備。ゲコラー(ゲボ太ファンの総称らしい)である御坂に渡しても、手に余った。

 

 なので湾内さんにもあげたし、オレも貰うことになった。ふざけろ、いらねーよ。

 

 ゲーセンの前でルンルン気分で帰っていく御坂の背中を眺め、湾内さんを見送っている最中、深い溜め息がひとりでに漏れた。

 

 帰宅途中に上条に遭遇したので、厚意であげた。開運のお守りなんだぜ、だから持ち歩けば不幸からおさらばだ、とか適当に言いくるめてやった。

 

 後日、上条から感謝された。なんか、絡んできた女がそれを見た途端に態度が軟化したらしい。その日は、追いかけられたりとかしなかったらしい。

 

 御坂以外にも、物好きなやつはいるんだなー・・・上条の話を聞きながら、オレはそう思った。




なんかいつもより少しだけ伸びがいいなと思ったら、少しだけランキングにのれてたみたいで、少しだけいつもより多めの人目につけてたみたいで、すこ・・・とっても嬉しかったです。
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