最初に言っとくか、今日のオレはウキウキワクワクだ。 踏み出す足も自然にスキップになってしまうくらいには、ウキウキだ。この気分を分かりやすく例えるなら、そう・・・ずっと待っていたゲームの発売日、これに尽きる。
いや、すまん。遥かにそれ以上だったわ。
さて、なぜオレがこんなにエキサイトしているのか知りたいか? その理由は単純明快。口にする必要もない程度に、単純明快だ。まぁ、だが皆にもオレの幸せを共有してやる目的で教えてやる。
なんとなんとなんと!! 今日はッ!! 涙子ちゃんとのドゥェートォッの日だからだッ!!
いやー、なんだろうな。言い様のない笑いが止まりまへんな。常に口角があがっちまう。今のオレは不審者と思われても、弁解の余地はねぇレベル。
そんぐらいホント幸せだなぁ・・・なぁ・・・おい・・・それなのにどうして、どーして、お前がここにいるんだ? 教えてくれよ、初春さんよぉ・・・! 」
「まぁまぁ、別にいいじゃないですか 」
隣を歩く花畑をオレは鋭い視線で睨みつけた。当の花畑は何の非も無いですよ、そう言わんばかりで、オレの視線をものともせず、そんなことを悪びれもせず言いやがる。
いやマジで、なんでお前がいんだよ。あれか? デリカシーすらその花の栄養にされちまったのか? 普通さ、家族水入らずの邪魔はしないだろ? その花には水がいるのかもしんねぇけどさぁ・・・オレと涙子ちゃんの間には水も油もいらねーんだよこんにゃろう。
「それに佐天さんから誘われたんですよ、わたし。そんなこと言われてもしょうがないじゃないですか 」
「オレ佐天だけど、お前誘った記憶ねーんだけど 」
「揚げ足とりはやめましょうね。お兄さん 」
「はぁ・・・ 」
涙子ちゃんがしたことだし、オレからはもう何も言えねぇ。ため息をつくことしかできねぇ。てかこいつマウントだけ取りやがって。オレだって涙子ちゃんから誘われてぇっつーに・・・
羨ましいとは言いたくねえけど、めっちゃ羨ましい! もはや怨めしい!
初春をまた睨みつけ、指を銃のように構えようとしたところで、
「おーい! 初春! まも兄! なにやってんのー?遅いよー! 」
と、前の方から祝福を告げる福音が聞こえた。その声を聞くとなぜだか心のわだかまりは全部消え去り、オレは穏やかな気持ちだけになっていく。
きっと、世界はかくあるべきなんだなって・・・アラソイ、ヨクナイ。セカイヘイワ。ミンナ、シアワセ。
「ああ、ごめんごめん。ちっとばかし世間話をしててさ 」
小走りで天使兼女神である涙子ちゃんへと距離を詰めていくと、それだけで深い後光によりオレは浄化されそうになる。近づくことすら難しい、まさに太陽なんだなー。つくづくオレはそう思った。
「へぇ・・・そっかぁ。もしかして、あたし邪魔だったりしちゃうかなー? 」
「天地がひっくり返ってもそれはないぞ!! 涙子ちゃん!! 」
隣に並んだタイミングで、涙子ちゃんがそんなことを言うので、即座にオレはそれを声高々に否定する。むしろ邪魔なのはあの花畑に尽きるぜ! このデパートのどっかにある花屋で、あいつ売ってやろうかな。
あ、そういや言い忘れてたっけ? 今日のデートは、デパートでショッピングって感じだ。どうだ、羨ましいだろ。涙子ちゃんと買い物だぜ! だははのだっはっはーーーー!!!!
「今日もまも兄は、やっぱりまも兄なんだなあ・・・ 」
「ですね・・・目線が痛いですよ・・・ 」
あっと、いつの間にかオレの心の幸福が漏れ出てやがった。でもまぁ、しゃーないな。涙子ちゃんとデートだからな。少しくらいは許してくれ。むしろ幸福のおすそわけと思ってくれ。だっはっはーーー!!
「あっ、そういえばまも兄 」
「ん、どした? 」
「立ち直るの早すぎませんか? 」
ピタッ、と口角の向きを戻す。常春だか青春だかが何かを言ってるが、それは無視しとこっと。
で、涙子ちゃんはオレに何の用だろうか? お兄ちゃん、全財産でも全能力使ってでも涙子ちゃんの頼みごとだけは達成する所存だぜ!
「まも兄って服とかもってたっけ? 」
「もってる、もってる。Tシャツとか 」
「へー、何着? 」
「3枚くらい 」
「すくなっ! 」
学園都市って殆ど制服で過ごせっから、外に比べりゃ全然服とかいらねんだよな。下に着るインナーさえ数枚あれば、ローテーションで回せるし。まぁそれ差し引いても、オレは少ないほうだとは思うけど。
「デートの時とかどうすんの!? 」
「涙子ちゃん以外としないしな 」
「まも兄はシスコンこじらせすぎだって! 」
「あはは・・・ 」
そう言われても事実だしなー。上条とかじゃあるまいし。
「初春、これはもうあれだね。あたしらでまも兄をコーディネートしてあげなきゃダメだね 」
「そうですね 」
なんだって? 涙子ちゃんのコーディネート? おいおい、最高じゃねーか! よっしゃーー!! 服だけに文字通り肌身離さず常日頃、年がら年中それだけ着て生きてやるぜ!
頭に花咲かせてる前衛的すぎるファッションセンスを持つやつにはコーディネートされる筋合いねーけど、まぁ涙子ちゃんに免じて、その辺は許しといてやろう。
オレのいく末をあれやこれやと話し合っている涙子ちゃんと初春。その少し後ろをオレは歩いて、目当ての服屋へと向かう。あんの花畑め、ズルいぞ。
「よし、ついたついた 」
初春の背中に向けて陰陽師さながらに呪詛を唱えてたら、いつの間にか服屋の前に辿り着いていたらしい。涙子ちゃんの天女の調べみたいなその声で、オレは我に返る。そして、こう、思うんだ。この声を目覚ましにしたいってな。
「まも兄・・・よく分かんないけど、やめてね。なんか気持ち悪いよ 」
「がはっ・・・! 」
そんな心のうちも一切声には出していなかったはずなのに、涙子ちゃんは眉を潜め、なんとも言いがたい視線をオレに向けている。それと同時に飛んできたのは、オレの心を切り裂く斬撃。
御坂の電撃とか、白井のドロップキックとか、削板のストレートとか、そんなチャチなもんとは比べ物になんねぇ・・・
足に力が入らない。崩れ落ちそうだ。ガクガクと全身が悲鳴を上げている。そんで心の中はどしゃ降りだ・・・雨というか特大の雹が降ってきてる・・・
「佐天さん、前もこんなことありませんでした? 」
「まも兄はこりないからねえ・・・ 」
「あ、でも今回は倒れてませんね 」
もうオレは駄目だ・・・涙子ちゃんに気持ち悪がられたら、この先の人生、オレに生きる意味ねーぞ・・・
「あの、佐天さん? お兄さん真っ白になってきてませんか? 」
燃え尽きたよ・・・真っ白にな・・・
「あーもう! まも兄! うそだから! さっきのはうそだから、さっさと起きて! ほら、はやく! そうじゃなきゃ、ほんとにまも兄が気持ち悪くなっちゃうよ!! 」
「ふっかーつ!! よし、涙子ちゃん! 服を見に行こう! 」
「立ち直るの早すぎませんか? 」
いやー、みんな! 空ってのはこんなに青いもんなんだよ! 人生って素晴らしい! ビバ人生、ビバ涙子ちゃん! 迎春だか立春だかが何かを言ってるが、それは無視しとこっと。
「さてさて、どうしたものかにゃー 」
「佐天さん、男性用はあっちの方ですよ 」
そういや、いつぶりだっけなー。 こういうとこに来んの。高校の入学前に少し準備しに来たくらいで、それ以降は縁が無かったっけ。
にしてもさ。服屋ってのはどうしてこんなに、疲れるんだろうな。ここだと普段の何倍も足に負担が来る気がすんぞ。なんかそういう装置付けられてんじゃねーか? AIMジャマー的なやつ。
数歩で椅子に座りたくなるぜ。だがしかし、今日はいつもと違うところがある。涙子ちゃんがいることだ! オレのために服を選んでる姿を見てると、視界が滲んでくるぜ・・・くーっ!
ビデオカメラでも回して、アルバムにこの素晴らしすぎる光景を保存しておきたかったな・・・くそ、オレのバッキャロー! なんで持ってこなかったんだ! アカシックレコードをみすみす逃しやがって! くそ、かくなる上は網膜に焼き付けるしか!
「あの、佐天さん 」
「どしたの初春? 」
「あれ大丈夫ですか? 」
「あー、大丈夫大丈夫。それよりこれなんてどうよ? 」
邪魔だ、花! うちのホームビデオだぞ! かけっこ撮ってる時に画面に写り込む他の児童の親かお前は!
「まも兄 」
「ん、どした? 」
「これ着てみて 」
服を選び終えたのかオレの前に歩いてくる涙子ちゃん。異論なんて当然ながら根本的に存在しない。渡された服に即座に、着替えに向かう。
「ふむふむ、我ながらけっこーいいセンスしてるよねー 」
「馬子にも衣装・・・ってやつですね 」
涙子ちゃんは頷きながらそう言い、初春はそんなことを言っている。狭い試着室の中、オレは促されるままに着替え続けた。
女児のバービー人形レベルで、着せ替えを続けた。もうなんか、目的違って来てないか? まあ涙子ちゃんが楽しんでんなら、オレはいーんだけどさ。
そう思いつつ、渡される色んな服を着こなすオレ。まあ涙子ちゃんっつーキング・オブ・女神と同じ血が通ってるわけだから、オレも中々のイケてるメンズなんだよなーこれが。
「おー・・・まも兄は口さえ開かなきゃ、かっこいーし尊敬できるんだけどなあ・・・ 」
「ですね・・・ 」
なんでだい!? 普段のオレも愛のガーディアンをしてるかっくいー紳士だよ涙子ちゃん!! もはや騎士だよ、騎士! 初春はお前あとで覚えとけよ!
そんで、どれだけ着替えたのか覚えてねーけど、ひたすらその後もオレは着替え続けた。ここパリコレ会場だっけ? そう思えるくらい。
やっとのことでオレの服を選び終えれば、次は本題である涙子ちゃんの番だ。
「涙子ちゃん、かあいいなぁ!! 」
「・・・ほんとにそう思ってる? まも兄さぁ・・・全部、そう言ってない? 」
いやだってさ、何着ても似合ってんだからしゃーない。元が良すぎるんだよなー! 女神には何着せても女神なのよ! これマジで!!
そんなこんなで涙子ちゃんの服も選び終えると、オレは初春の方を見た。
「あれ、初春。お前いーのか? 」
「え、わたしですか? わたしは大丈夫ですよ。あんまりお金もありませんし 」
「おいおい、んなの気にすんなよ。俺が払ってやるよ 」
「お兄さん・・・ 」
「んで、あっちの花屋でいいか? 」
「わたし花じゃありませんよ!!! 」
え、違ったの? キョトンとした顔で初春を見返すと、更にメロスは激怒したので、しゃーねえな・・・オレは花の根っこに機嫌取りを伺うことにした。
怒る初春とそれを見て笑っている涙子ちゃん。その光景を見ながら、オレは思った。
白井とか御坂がいなけりゃ、平和でいいなー!
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