「はぁ・・・どうしてこうなんだよ。俺はただ涙子ちゃんと一家団欒の時を過ごしたかっただけだっつーに・・・ 」
喧騒の中、オレは一人深い愚痴を溢す。それに呼応するように
「奇遇ですわね、わたくしもですの。初春や佐天さんならまだしも・・・こんな男にお姉様との時間を邪魔されるなんて、最悪ですわ 」
と、オレの前から聞こえる声。その声の方へと目を向ければ、そこにいるのは皆さんご存じ性悪ツインテールこと、白井。はぁ・・・やっぱり幻じゃなさそうだ。
そしてその白井の隣には
「なによアンタ。こんな可愛い娘たちに囲まれてんだから、少しは嬉しそうにしなさいよ。ホント失礼なヤツね 」
皆さんご存じ暴れピカチュウこと、御坂。
オレ的一番会いたくないランキングの二大巨頭が勢揃いしてやがる。頭はデカくても、一部は慎ましいけどな。それに倣って態度も少しは慎ましくなってくれよ。
「オレだってさっきまでは嬉しそうにしてたっつーの。涙子ちゃんという女神が近くにいてもなおこんな気分はオレだって初めてだわ。驚きだよバッキャロー 」
「うわ・・・アンタってマジでシスコンだったのね。引くわぁ・・・」
「うっせ、世のお兄ちゃんは皆シスコンだ 」
「なわけないでしょ 」
いやいや絶対そうだろ。先に産まれるってことは、後に産まれてくる妹とか弟を全力で守るべきって神の思し召しなんだからよ。なぁ、涙子ちゃん!
「まも兄、あたしを見ないでよ。それに絶対ちがうと思うし 」
「すまん御坂、お前の言うとおりだ。なわけないな 」
「少しは自分の意見持ちなさいよ 」
「涙子ちゃんの言うことが間違ってるわけないからな 」
「・・・あ、そう 」
何とも表現しづらい目でオレを見る御坂。なんだよ、オレ何か間違ったこと言ったか? 人間ごときが女神の言うことを否定するなんて、不敬にもほどがあるだろ。
「お姉様。こんなのは放っておいて、わたくしと親睦を深めますのっ! 」
「だーーッ!! こっちもうっとおしいわね!! だから私はアンタの姉でも何でも無いって言ってるでしょーがぁっ!!! 」
「ああん、お姉様のいけずぅぅぅぅ!!!」
オレの目の前で繰り広げられる醜い争い。御坂は抱き付こうとしてくる白井を引きはがすように手で顔を押しているため、白井の顔は酷いもんだ。
オレはそんな光景を直視していたくなくて、視線を横に向けた。そこには花畑が広がっている。
「・・・なぁ、前にお前の言ってた意味がわかったよ。あれは確かに気持ち悪いな 」
「いえ、・・・あれはこれとは無関係ですけど・・・同感です 」
初めてオレとフシギバナの心が重なった気がした。なつき度上がった? てか、あれは確かに喜怒哀楽のカテゴリーに入れたくねぇな。ああなったら人間おしまいな気がするぜ。
「白井さんがまも兄みたいになっちゃってる・・・ 」
「ですね・・・ 」
「えっ!?」
いや待って涙子ちゃん?! 誰が誰になってるの!? さすがに涙子ちゃんの言うことでも結構受け入れがたいよそれは!! こんなのと一緒にしないでくれ!!
「佐天さん。とりあえず私たちは選んでましょうか 」
「そだね。そうしよっかー 」
そう言ってメニューを広げ、料理を選び始める涙子ちゃんと初春。
あ、そうか言い忘れてたな。今オレたちはショッピングモール内にある、レストランに来てんだ。
目の前の席には白井と御坂、そんでオレの座る方には涙子ちゃんと初春。なぜか真ん中には初春が座ってる。空気読めよ、こんにゃろう。そこが涙子ちゃんの席であるべきだろうに。むしろオレの膝の上でも良かったけど!
ついでに今に至るまでの説明でも簡単にしてやろう。感謝しろよな。
あの後に服屋での買い物を終えたオレたちは、ランチをしようとこの店に来た。そこまではまだ良かった。白井と御坂が現れるまではな。
『あれ、何よアンタ。いいご身分ね。二人も女の子連れて、両手に花ってわけ? 湾内さんは呼ばなくていいの? 』
『なんだ御坂か。違うな、全身に女神だ。確かに現実的に花もいるけどよ。てか何でそこで湾内さんが出てくんだ? 』
『そんなの決まってるじゃない。理由は言わないけど 』
『お姉様! やっと見つけましたわ! こんな所にいらしたんですのね!! 』
『げっ・・・何でアンタがここに・・・ 』
『ひとえに愛ですわっ!! 』
『公共の場で変なこと言ってんじゃないわよ!! 』
『よし、涙子ちゃん。初春。違う場所で飯でも 』
『・・・あなたもいらしたんですのね。お姉様こんな男と話してはいけませんわ。変態がうつりますの 』
『それならとっくにアンタはうつってんじゃないの・・・ 』
さてもうこの辺でいいか、回想は・・・あまり思い出したくねぇし。まぁこんな感じで今に至るってのだけ、分かってくれたならそれでいい。
今日のオレの気分的には御坂単体、もしくは白井単体ならまだウキウキモードを継続できた。なのに二人で来るとか、聞いてねぇよそんなの・・・説明書に記載しといてくれよ。
まあ唯一良かったことと言えば、涙子ちゃんが御坂に尊敬の視線とかを向けなかったことだ。ついでに見る限り白井の株も下がってるしな。やったぜ!
「なんでガッツポーズしてるんですか? 」
「漁夫の利ってのを知れそうでよ 」
「たぶん他が下がってもお兄さんの株は上がらないだだだだだっ!! 」
「こらこら駄目だろ? 頭にサラダ乗っけてたら、盗み食いと思われたらどうすんだ 」
「思われないですよ!ぜったい! 」
いやいや思われるだろ。オレならなに頭にうちのサラダ乗せてんだ! 食い逃げかぁ?! つってブッ飛ばしてやるね。
「うう、ひどいです・・・」
頭を抱えながらか細い声でそんなことを言っている初春。その隣で涙子ちゃんがニヤニヤしているのが見えた。やばい超可愛い。引き伸ばしてポスターにしたい。
「いやぁ、ほんとにまも兄と初春って仲良いよね。もしかしてあたしに隠れて付き合ってたりする? 」
『涙子ちゃん(佐天さん)それは無いぞ(です)ッ!! 』
そんな不名誉すぎる言葉にオレはすぐに首を振る。頭を抱えていたはずの初春もオレと同じように、食いぎみに首を振っているのが見えた。
「ほら息ピッタリじゃん! 」
オレと初春を目を輝かせながら指差す涙子ちゃん。やばい超可愛い。銅像にして後世まで残したい。語り継がせたい。
「いやぁでもよかったわー。初春ならまも兄を安心して任せられるね 」
「だから違いますよ! 佐天さん! 」
「仕方ないな。涙子ちゃんがそう言うんなら、初春。オレたち付き合っても 」
「少しは自分の意見もちましょうよ!! ぶっとばしますよっ!! 」
「冗談だよ、そんな怒るなって 」
修羅もかくやの顔をした初春。そんなにオレが嫌か。オレってナイスガイでイケメンで家族想いで涙子ちゃん大好きの好物件だと自分では思ってるんだけどな。
「えーあたしはいいと思うんだけどなー 」
「オレは涙子ちゃんがいればそれでいいよ 」
「普通に気持ち悪いよ、まも兄 」
「がはっ・・・ 」
ズコンッ、勢い良く机に突っ伏すオレ。額が痛いし顔中痛いが、一番痛むのはオレの心だ。もう駄目だ死のう。そして風になるんだ。涙子ちゃんの生きる酸素になるんや・・・
「なんかもうこの光景に慣れてきましたね 」
「さっきも言ったけど、まも兄はこりないからねえ・・・ 」
白井、御坂。今ならオレはお前らに焼かれようとも蹴飛ばされようとも、甘んじて全て受け入れる。だから頼む、介錯を頼む・・・
「でも佐天さん。ずっとこのままでいられると・・・隣に座る私としてはちょっとあれですね 」
「だね。ほらまも兄起きて。冗談だから 」
「涙子ちゃん。初春。どれにするんだ? オレが出すから、気にせず好きなもん頼みな 」
「やっぱり立ち直るの早すぎませんか? 」
メニューを眺めるオレを眺める初春。このストレス社会ではいかに早く立ち直れるかが鍵だぞ。覚えておけ、ワトソンくん。
「あら、ホント? アンタも気が利くじゃない 」
「お前に奢るとは言ってねえよ 」
「まぁ当然ですわね。わたくしとお姉様のような淑女に出させるなんて、男が廃りますもの 」
「淑女の意味を今すぐ調べてこい 」
ったく、奢るのはこの際構わないけどよ。奢られる側の態度が気に入らねぇぜ。てか最近は奢ってばっかじゃないか、オレ。涙子ちゃんの場合は奢りと言うカテゴリーには入らない。だがしかし、他のヤツに払ってばっかりな気がする。
「今調べましたわ。お姉様とわたくしと出てきましたの 」
「教えろその検索サイト。今すぐブッ壊してやる。てか何だよ、さっきからお前。お姉様だのお陰様だの、遂に頭がおかしくなっちまったのか? テレポートしすぎて脳ミソだけ宇宙に飛んじまったのか? 」
「気持ち悪い目と顔で妹を見ている輩だけには言われたくありませんわ 」
「よし、表に出ろ。人生の先輩として礼儀を享受してやっから 」
「望むところですわ 」
ゴキゴキ、指の骨を鳴らす。こいつには教育が必要みたいだな。風紀委員に相応しい健全な心と精神を教えてやる。
「まぁまぁ、落ち着きなさいよアンタたち 」
「そうですよ。お店の中ですよ 」
「まも兄 」
視線がオレと白井に刺さる。涙子ちゃんに言われたら、しゃーないな。白井の方を見ても大人しく座り直しているし。
「んで・・・疑問には思ってたから、改めて聞くけどよ。お前らいつの間にそんな仲良くなったの? 」
「別に仲良くはなってないわよ。勝手にこいつが付きまとってきてるだけで 」
「そんなの決まっていますわ。お姉様という
「ハハッ、気持ちわりぃや 」
「ぶち殺しますわよ 」
体を抱き抱え、くねくねと動く白井は目に毒だ。文字通りの意味で目に毒だ。率直に言って気持ち悪い。あ、声に出ちまってたか。白井が鋭い目で睨んできてやがる。
「あの、大変そうですね 」
「あなたも大変そうよね。佐天さん? アイツの妹だからそうよね 」
「は、はいっ。そうです。御坂さんと呼んでも大丈夫ですか・・・? 」
「ええ、もちろんいいわよ 」
オレと白井を他所に親睦を深め始めている涙子ちゃんと御坂。まずい、このままではオレの立つ瀬が!
「でも、安心しました。あたしレベル5の人は変な人が多いとなぜか思っちゃってて・・・ 」
「あー・・・まぁ、そうなるわよね。身近にいるのがあれだと 」
「あはは! 」
いや待て、まず第一にオレはレベル5じゃないぞ。確かに涙子ちゃんといる時に削板に会った事とかあったから、その認識になるのは間違ってないけどさ。と言うよりその認識通りレベル5って頭おかしい奴らの集まりだしさ。
てか何笑ってんだ花。お前はこういう時は苦笑いするのが掟だろうが!
「はぁ・・・どうしてこうなんだよ。俺はただ涙子ちゃんと一家団欒の時を過ごしたかっただけだっつーに・・・ 」
「それは一字一句さっき聞きましたわ 」
また愚痴を溢すと、白井が鬱陶しそうにそう言った。
「んで、お前はなに頼むの? 」
「何ですの急に 」
「ファミレスなんだから飯を食う場所だろ。話す場所じゃねえよ。御坂もほら、とっとと決めろ。涙子ちゃんはゆっくり決めてくれ。むしろ端から端まで頼むまである 」
白井と御坂にメニューを渡し、というより押し付ける。涙子ちゃんには笑顔を向けた。初春お前は早急に決めろ。
「うわ、ホントやっぱシスコンね 」
「変なカエル好きよりはマシだ 」
「変なカエルじゃない、ゲコ太よ!! 」
「変なカエルじゃねーか 」
いま思い返してもやっぱあれは変なカエルだろ。あれを好きになれってもはや何かの刑だよ、刑。
「アンタね、ゲコラーは結構多いのよ? この前はアンタと同じ男でもスマホにつけてるヤツいたんだから! 」
「へぇ 」
「私そいつ少し見直しちゃったわよ! 」
そんな奇特なやつもいるもんなんだな。なんか似たようなエピソードをどっかで聞いた気がするけど、どこだったかは思い出せないな。
「初春、メニュー見せてくれ 」
「ちょっと聞いてんの?」
「はいはい。ゲコラーは多いですよ、多いです。ちまたで噂っす 」
「信じてないでしょアンタぁ・・・! 」
初春の持っていたメニューを覗き込みながら、オレは適当に話に合わせる。よいしょしたはずなのに、なんで怒ってんだか。
まあそれは気にしないで、オレは食うものを選んだ。
涙子ちゃんと二人きりでのショッピングは叶わず、三人の邪魔者が入った今日。
オレを置いて会話をする女性陣を見ながら、これはこれで悪くないな、そうオレは思った。てかそう思わなきゃやってらんねぇし。
そんで最後に言えることは、涙子ちゃんはやっぱ女神!!
評価とか諸々ありがとうございます。嬉しいです。