とあるシスコンの学園生活   作:新戸よいち

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 繁華街を抜け、人の通りが少なくなった街道を銃弾のように真っ直ぐに突っ切っていると、オレの目には見慣れた愛しき天使の背中が見えた。

 

 よし、この距離を保てオレ。バレたら危ない。何てったって、涙子ちゃんは今楽しそうに隣に歩く女の子と話している。状況をよく観察しろ、お邪魔して良さそうな時に乱入するんだ!

 

 ササッ! 綺麗に並列するビル群、建物の影へと足早に隠れ、オレは顔だけを恐る恐る出して二人を見る。

 

 あれ? そういや・・・あの娘はオレ知らんな? 涙子ちゃんの友達といやぁ、アケミちゃんにむーちゃんにマコチンちゃんって三人組だったよな? それじゃ、中学からの、親友ならぬ新友って奴か。

 

 ん? ・・・んー? なーんか、あの娘見たことあるぞ・・・? あの頭・・・花、フシギバナじゃなくて・・・どっかで・・・

 

 何ヵ月か前か? いやでも、何かホント気持ち悪いくらい喉元まで出かかってるのに・・・んー? あと一歩、思い出せんなぁ・・・

 

「初春っ! 公園にアイスの屋台が来てるらしいよ、行こっ! 」

「ええっ!? 佐天さん、寄り道しないで帰るって言ったじゃないですか!? 」

 

 うんうん、涙子ちゃんは今日も天真爛漫でイイな。というか、やっぱり見たことあるんだよなぁ・・・あの花頭・・・まっ、思い出せないならソレまでの記憶だな。よし、追い掛けよっと。

 

 手を繋ぎ、というか花頭ちゃんの手首を掴んで強引に連れて走る涙子ちゃん、すかさずオレも後を追って適切な距離を保ちながら走る。

 

 ひそひそ、辺りを歩く通行人がオレを指差し、携帯なども取り出そうとしている人も見える。何だ? もしかしてチャック下りてる? いや、そんなことねぇよな。うん、ねぇな。

 

 

 周辺の人の目には、うら若き少女二人を追い掛ける不審な少年として映っており、言うなれば完全なストーカー。

 しかも、顔は緩んでいてだらしないし、時折もう一人の髪の短い少女の頭を見て考え込むように眉を潜めているのだから、怪しさ満点である。

 少年と二人の少女だけは気付いていない。

 

「ちょっと・・・アレ見て 」

風紀委員(ジャッジメント)呼ぶか? 」

「いや、それより警備員(アンチスキル)のほうがいいんじゃないの? 」

 

 どうやら付近に不審者がいるらしいぞ。何てこった、学園都市の治安は酷いなオイ。ナンパするロリコンはいるし、誰かは知らんがやばそうな不審者もいるなんて。

 

「す、すいません! 不審なストーカーらしき人がいるんですが・・・ 」

 

 どうやら一人は通報までしたらしい。これは本格的にやばいストーカーに違いないな。ったく、涙子ちゃんを標的にでもしてみろ・・・欠片すら残してやらんからな。

 

「・・・はい、・・・はい・・・繁華街から少し離れた道で・・・ 」

 

 ほへぇ、それってこの近くじゃないか? どれ、涙子ちゃんに仇なす未来の悪の芽を摘んでおこうか。

 

 どこだ? ・・・ん、何で皆こっち見てんの? もしかして、後ろにいるのか!? 居ないじゃん。それじゃ、横か! 上か! はたまた下か!?

 

「ひいっ!? 」

「うわ、こっち見たぞ! 」

「は、早く来てください! ストーカーが不審な動きを!! 」

 

 まさか、オレには見えない透明人間? そんな能力者がいるとは聞いた事が無いんだけどなぁ・・・あれ? 花畑の娘も電話してる? 通報?

 

「ええー!? ふ、不審人物が近くにいるんですか!? む、無理ですよ! 私、白井さんみたいに出来ません! 」

 

 何だ何だ? 涙子ちゃんはワクワクした顔してるけど、刑事ドラマみたいな展開? んー、オレが捕まえてやりてぇけど・・・まずそのストーカーが分からないからなぁ・・・

 

「う~・・・分かりましたよ・・・私が一番近いんですもんね・・・ 」

 

 ガックリ、肩を落として携帯を仕舞う花畑ちゃん。そして、何かを取り出すと腕に巻くのが見える。緑と白の色彩、盾の紋章。

 

 確か・・・風紀委員の腕章だっけ? 懐かしいな~、オレも昔は入るまでしつこく勧誘されたっけ。面倒なんだよな、書類とか、何か訓練的なの。あと仕事。

 

 ん? というか、こっち見てない? あれ、バレた? つか、涙子ちゃんはあちゃ~・・・って頭抱えてるし。

 

 ストーカー、皆見えてるのか? あ、オレの前まで来た。てか、凄い緊張してない? 俯いてるから顔見えないよ、花しか見えないよ。

 

「じゃ、風紀委員(ジャッジメント)です! あなたをストーカー容疑の現行犯として拘束させて貰います! 」

 

 んん・・・いま、何つった? というか、容疑の現行犯って何? 現行犯ならそれもう、ストーカーとしてみなしてない?

 

 つか、オレ違うからね? アレか? やっぱりオレの後ろにいたり・・・上に下にも横にも、前にはこの娘がいるし・・・え、オレ!?

 

「お、大人しくしてて貰えれば・・・手荒にはしませんから・・・私もそっちのほうが嬉しいですし・・・ 」

 

 いやいや、待ってくださいよ旦那。急に何を言われるかと思えばストーカー? 名誉毀損甚だしいぞコレ。オレはただ単に、マイエンジェルの守護をしてただけで一切つきまといのストーカーなんてした記憶は無いんだが。

 

「いや、タイム。ちょっと待ってくれないか? これは冤罪だとオレ思うんだ。ストーカーなんてそんな訳無い! オレは涙子ちゃんを見守ってただけだ!! 」

「グレーが確実な黒に変わりましたよ!? さ、佐天さん! 気を付けてください! この人は佐天さんを狙っているらしいです!! 」

 

 涙子ちゃんが苦笑いを浮かべながら、近付いてくる。

 

 何てことを言うんだこの花は、許さん。涙子ちゃんの中のオレの頼りがいのあるナイスなお兄ちゃんイメージが崩れてしまったら、お前なんて花としか呼んでやらんからな!

 

「・・・あー、えーっと・・・初春・・・言いにくいんだけどさ・・・一応、その人あたしのお兄ちゃんなんだ・・・あはは・・・ 」

「・・・えっ!? ほ、本当ですかソレ!? 」

 

 本当ですか? とは何だこの花! オレが涙子ちゃんの兄じゃダメか!? くー、重力使ってその辺の鉢植えにでも沈めて・・・ごほん、植えてやろうかしら、コラ。

 

「というかさ・・・まも兄がなんでここにいるの!? あたし知らないよ!? 」

「それはつまり、愛ゆえに! 」

「・・・はぁ、まも兄さぁ・・・そろそろ、うっとおしいよ 」

「はうっ!? 」

 

 日本刀より研ぎ澄まされ、切れ味抜群の言葉の斬撃がオレの心を切り裂いた。瞬間、オレの身体は糸の切られた操り人形のように、くたりと一切の力を奪われ道に突っ伏す。

 

 オレもう死ぬ。死ぬ、墓掘って埋まる。宇宙葬にでもなるのもいいな、そんで惑星になって涙子ちゃん星を作るんだ・・・

 

「あのー、佐天さん? 大丈夫なんでしょうか・・・アレ・・・ 」

「あー・・・大丈夫大丈夫。まも兄はああでも言わなきゃ、止まってくれないからねぇ・・・ 」

 

 暫く、ずっと突っ伏していると、やがて他の少女の声が聞こえてくる。風紀委員の増援だろうか。何か、聞いたことあるような。

 

「風紀委員ですの! 初春、犯人はどこに・・・あら、これは何ですの? 」

「あっ、白井さん。これは・・・えーと、不審ですけど・・・ストーカーでは無かったです 」

 

 はは、今なら拘束しても構わないぞ~・・・無期懲役でも何でも甘んじて受け止めてやらぁ、アッハッハ

 

 『ちょっ、初春! あの人知り合い!? 常盤台の制服着てんじゃない!! 』

 『へっ!? ええと、あの人は白井さんと言って・・・風紀委員の関係の人で・・・ 』

 

 オレも常盤台に入っとけばなぁ・・・性別が変えられたらなぁ・・・きっと涙子ちゃんに尊敬されるお姉ちゃんになれたんだけどなぁ・・・

 

「・・・どうかしたんですの? それよりも、こちらの対処をしませんと 」

「あっ! すいません! ほら、まも兄起きて!! 起きたらさっきの無かったことにするから! 」

「ふっかーつ!! って、アレ? 白石どうしたこんなトコで? 」

 

 一人増えていた少女、オレはそいつに見覚えがある。オレ的一番会いたくない人ランキング第二位『白井黒子』

 

 御坂とツートップを誇る常盤台の悪魔だ。オレはこの二人にイイ思い出が一切無い。恐ろしいほどに無い。

 

 というか、御坂と白井でこのランキング独占できると思う。まだこの二人はタッグを組んでは来ていないが、なんかオレの勘が未来の悪夢を想定させる。

 

 何か、四月の終わりには白井は御坂と行動を共にしてるんじゃないだろうか? まぁ、無いか。白井はともかく、御坂はアイツ生粋のぼっちだし。

 

「わたくしは白井ですの! 全く・・・久しぶりに見ましたわねあなた。てっきり、どこぞでくたばったのかと思っていましたわ 」

「あれ、白井さんの知り合いでしたか? 」

「ええ、あまり知られたく無い知り合いですわ 」

「おお奇遇だな? オレもだ 」

 

 バチバチ、御坂の電撃とは違う火花がオレと白井の間で弾け、その険悪さを周囲にも分かりやすく現している。いやホント、御坂とコイツは馬が合わない。だって、二人とも馬と鹿だもん。突っかかる猪馬鹿だもん。

 

「「うわー・・・ 」」

 

 数十秒、みっちりとメンチを切り合ったオレ達、どちらが先かも分からないほぼ同じタイミングでそっぽを向き合う。

 

「というより初春、あなたもこの男に一度は必ず会っているはずですわよ・・・? 」

「え・・・本当ですか白井さん? 」

「・・・フシギソウ・・・ 」

「あっ!! あの時の!! 」

 

 うんざりとした様子の白井、いやオレがその顔側だからね? つか、ん? 何て言った? 何を伝えた? 花畑ちゃん何か思い出したみたいだぞ、指差してきたぞ。

 

「あの! 郵便局の時です! あの時は助けていただいてありがとうございました!! 」

 

 郵便局ぅ? あー、何かそんなことあったような・・・涙子ちゃんが第七学区の中学に進学するから、オレも第七学区にある校則緩そうな高校を下見しに行ったなぁ~。

 

 そん時、強盗事件が起こったような・・・フシギソウみたいな女の子が泣いて助けを求めてたっけ? そうそうこんな顔の・・・えっ!?

 

「進化したのかフシギソウ! あんときゃ、まだ左の頭にしか生えてなかったろ!? おー、立派にフシギバナになって・・・ 」

 

 驚愕だよ驚愕! いまは頭一面花畑だぜ!? 数ヵ月でこうも茂るか? 花にも成長期があるんだな、きっと。

 

「あれ? まも兄も初春と知り合いだったの? 」

「ま、色々とあってな。涙子ちゃんと同じ学区で生活する為にお兄ちゃん頑張ってたのよ一時期。そこら中走り回ってたな 」

 

 てか、待てよ・・・? つまり、このフシギバナの花畑のせいで・・・

 

「こんにゃろ! お前のせいでなー! お前のせいでなー! オレは毎日毎日怒れるピカチュウに追い掛け回されることになってんだぞフシギバナ!! 経験値稼ぎをしようとしてくるんだ!! 」

 

 そう。強盗事件には、御坂も控えめに関わっていたのだ。この二人は知らないとは思うが。

 

 あん時ド派手に救出活動したせいで、アイツに目を付けられたんだからな! 八つ当たりだが許せん!

 

「な、何ですかー!? 良く分からないですけどごめんなさい! ごめんなさい! 」

 

 フシギバナの頭を掴んで、前後にガクガクと揺らし続ける。オレの怒りを知れ!

 

「まも兄、そんくらいにしといてね? 初春、目を回してるし 」

「当たり前さ、涙子ちゃんの友人を傷付けるわけないだろ? 」

 

 ハッハッハ、そうだった。フシギバナはポケモンじゃなくて友人だったな。すまん、ちっと暴れピカチュウの恨みを込めすぎた。

 

「うぅー、佐天さ~ん!! 」

「はいはい、いい子だねぇー初春 」

 

 仲良きことは美しきことかな。

 

 てか、白井の視線が痛いんだけど、何? 聞きたいことでもあるの? それとも暴言でも考えてんの? それなら、オレは八百万を超える暴言のマシンガンで返してやるからな。

 

「あちらがあなたがうざったいほど良く話題にする妹の方ですの? ・・・あなたとは似なくて良かったですわね 」

「まぁな。でも、オレの妹は・・・白井みたいな高慢ちきの性格にもならなくて良かったと思うわ、ホント。反面教師ってか反面教授とかだよな、お前。世の中の小学生、人格の形成中の人全てのお手本になって欲しいぜ。あ、勿論反面の 」

 

 いやー、もうホントね。オレ、コイツのせいでツインテール嫌いになってきてるからねマジ。世の女子全てのツインテール、リボンを外して天使の黒髪ロングに統一したいレベル6。

 

 あ、このレベル6ってのは、最大級に統一したいという気持ちを表す言葉な。

 

「・・・あら、おかしいですわね。わたくし、猿が日本語を話してるのが見えますわ。疲れているんでしょうか? 」

「あぁ、おかしいな? 今日の天気は学園都市全域が雲一つ無い快晴って聞いたけど・・・樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)もミスをするらしい。赤い雨が降るぞ、この場所だけ 」

 

 ゴゴゴゴ、暴風雨を幻視するのは二人の近くにいた少女達、目をクシクシと擦り、また見つめてはグリグリと強めに擦っている。

 

「う、初春・・・あれ、どうなると思う? 」

「あわわわわ・・・わ、分かりません 」

 

 そして二人はぶつかり合い、学園都市の一部を全壊させる激戦へと変わり、そのバトルは三日三晩休憩無しで続いた。いや

 

「あなた達、何をしているの? 」

 

 真っ赤な嘘だ、そんなに激戦は続かない。

 

「ど、どうしてここにおらっしゃるのでしょうか・・・? 」

「こ、固法さん・・・? 」

 

 背後には眼鏡を掛けた女性がいた。猛烈な重圧を感じる、あぁ、ダメぞコレ・・・

 

 敢えなく、オレと白井は開戦前に終戦を遂げた。世界一短い喧嘩は、第三者の介入で終わったのだ。

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