「はい、おしまい・・・っと 」
パンパンッと二度手を叩きながら、オレは改めて周囲を眺める。
映る光景は死屍累々、と言ったとこか? オレの目の前には現代アートと言われたら信じちゃいそうな感じで、壁にめり込んでる二人の男。
昔テレビでやってた迫ってくる壁の隙間の形に合わせて、同じポーズをして避けるみたいなヤツを連想してくれ。アレの愉快なポーズで壁にめり込んでる感じだ。ピラミッドとかの壁画に書かれてそう。
そして足元には男と女が一人ずつ。どっちも意識は完全に失ってる。てか、死んでないか少し心配になってきてるレベルで地面をベッドにぐっすりだ。
他に周囲には人影無し。ついでに今の現在地を言うと、薄暗い路地裏ってトコだ。
「おお、すげぇな。コイツら生きてんのか? 」
訂正、周囲に人影はあったらしいぞ。オレは声の聞こえた方に顔を向けた。
そこにいたのは、どう見ても優等生じゃないチンピラって見た目をしたヤツだった。不幸にも知ったツラだったので、ブッ飛ばすのはやめておいた。
「なんだ、
オレは目の前の男の名前を口にする。
「
あ、そうだったっけ? わりぃわりぃ、久しぶりだからすっかり忘れてた。
「冗談だよ。何でお前がここにいんだ? 駒場さんは? 」
見た目から分かると思うけど、浜面はスキルアウトだ。そりゃ路地裏は縄張りみたいなもんだけどよ。
「別に俺がここにいたっていいだろ。そんで駒場さんはいつもの拠点の方だ 」
「へぇ 」
「おい、聞いといて失礼だな!? もっと興味持てよ! 」
いや、聞いといて何だけど全く興味なかったわ。感想は涙子ちゃんに会いたいしか出てこねえ。
「にしても派手にやったな 」
「ああ、もっとド派手にしてやろうか? 芸術点的にはまだモノ足りないからな。特に下の二人だ、コイツらにゃ十二分に改善の余地があるぜ。頭からコンクリに植え付けて、文字通りの生け花にするってのも悪かなさそうだと思わねぇか?
足元に倒れている二人を眺めながら顎に指を添え、真っ白なキャンバスを前にこれから書く絵の構図を考えている芸術家のように考え込む。
「おいおい、大概ワルの自覚がある俺でも流石に引くぜ・・・華道じゃなくて外道ってか? そんで俺の片鱗が残ってねぇだろその呼び方は!? それだとただの馬鹿じゃねぇか!? 」
そうやって浜面が何かを喚いているが、オレは全く意に介さない。
「おい、聞いてんのか!? 」
「効いてるよ、効いてる・・・これはパンチが効いてるぜ・・・早速取り掛かろう。そんで写真に収めてネットで拡散すれば、新たな現代アートの金字塔は間違いなしだな。後世に名を残すにちげぇねえ。作品名は更地の花園がイイな 」
「怖い、怖いよこの男!? 俺たちスキルアウトなんて足元にも及ばねぇナニかだよコイツは!!」
まずは無重力状態にして、軽くしてから引っ張り上げて地面に垂直に・・・
「おい、待て! 本気かよ!? 本気だったの!? 片方は女だぜ!? 」
「
「それお前の家族だけだろ!? それと何だよ、その呼び方!? ちょっと嬉しくなってる俺がいるよ!! 」
ったく、しゃーねぇ。やめといてやるか。ま、教育は出来たろ。路地裏がトラウマになる程度にゃ。
「ほっ・・・何で俺が胸を撫で下ろしてんだろうな・・・ 」
下から横に視線を戻すと、浜面はどこか遠い目をしていた。オレはその言葉を聞いて、涙子ちゃん撫でてぇ・・・そう思った。
さて、こんなもんで前座は程々にしておいて・・・
「なぁ、お前がここに来たのは無能力者狩りの件ってコトでイーよな? 」
「なんだよ藪から棒に。てかあれ、それ言ったっけ? 」
「言わなくても分かる、オレ天才だから。能力者による一般人狩り、最近酷くなってんだろ? 風紀委員の方でも似たような案件をちょっと前にやったんだわ 」
少し前の記憶を掘り起こし、逆に堀り進めすぎたせいか、顔が少し痛んだ。
「お前がそこまで分かってくれてんなら、心強いぜ。今にも沈みそうな泥の小船から豪華客船に早変わりだ」
「清廉潔白な一般人にゃそれでいいけど、お前の乗る船はタイタニックな。一等級の豪華客船だ、よかったじゃねえか 」
「それ沈むやつじゃねぇか!? 」
「沈まねぇよ。むしろ昇るんだ 」
「真っ当に昇天してんじゃねぇか!? 俺も普通の船に乗せてくれよ!! 」
何でだよ、お前は別に氷山に頭ぶつけてもオレは悲しまねぇよ。むしろ一番爆笑してやってもいい。手を叩きながら笑ってやる。
「もとを正せばお前らが原因なんだろ? ま、その辺はどうでもいいけどよ。オレの妹に何かあったら、辞世の句を考えるこったな 」
色々と調べてみたが、やっぱこの無能力者狩りの発端はコイツらスキルアウト側にもあるらしい。ヤンキーチンピラ紛いのことしてりゃ、それはそうなるとは多少は思うぜ。
けど『正当な報復』つって、それを無関係の一般人にぶつけんのは間違ってるけどな。分かったかーお前ら? あ、気絶してるから聞いてねぇや。
「駒場さんもこの件に関して色々と考えてるぜ。それこそ物騒なことまでよ 」
「オレの目の届かない場所、オレの付近、そこでやんなきゃ大概は許してやるよ。けど・・・ 」
「けど、何だよ? 」
「あんま変な気を起こすのはやめた方がいいっすよ、そう駒場さんに伝えておきな 」
だってこのまま物事をスタコラ進めさせたら、それこそ取り返しのつかないことになっちまう予感がビンビンすんだよな。実験対象として貴重な能力者を無能力者が狩るなんて、ココの頭のネジが一本も無いお
「ああ、言っといてやるよ。にしても、俺と駒場さんに対する態度が全然違くねぇか? 」
「たりめぇだろ。この学園都市で、駒場さんは尊敬出来る人だとオレは思ってるかんな 」
「ほほう、それは
「色々とあっけど、一つの芯が通ってるやつをオレは嫌いになれねぇよ 」
あの人見た目は厳ついし口下手だけど、中身は今時珍しい情に厚い
「なら俺も尊敬しろよ 」
「え、お前に芯あんの? 」
「俺を何だと思ってんだよ!? 」
「手癖の悪いチンピラ 」
「うおおおオオオ!! 間違ってねぇと言い切れねぇのがツラいっ!! 」
ほら合ってるじゃねぇか。てかやめとけ、壁叩くのは。手が痛くなるぞ。
「まだあの女の子とも親交は続けてるんだろ? 1月だかの事件のやつ 」
「ああ、あの舶来って駒場さんが呼んでる娘か? よく懐いてるよ 」
「だったらそれこそ、やめとかせろよ。命あっての物種だ。下手に危ないこと考えてたら、その女の子にまで危害が及ぶかもしんねぇし。それは本意じゃないだろ? 」
「分かった。伝えといてやるよ 」
絶対伝えとけよ。学園都市の闇は、こんな表面化した浅瀬とは全然違うんだからよ。生きるか死ぬか、もしくは死ぬ以上に目も当てらんねぇコトになる可能性だって大いにある。
「ま、そうさな・・・もう一個だけ、伝言頼むわ
「誰が伝書浜だ! 最後の文字はトだろ普通! いやトでも良くねぇけどよ!? 」
確かに良くなかったな。鳩に失礼だったぜ。
ま、それは置いといて話の続きだ。
「どうしようも無くなったら、オレに言ってくれ。レベル5が相手じゃなけりゃ、大抵のヤツには負けねぇよ 」
「お前が勝てないレベル5って、どんだけ常軌を逸してんだよ・・・ 」
人として逸してるヤツばっかだよ、ホント。そう考えると御坂はまだ・・・マトモだな。削板も、まぁ・・・マトモか。
「んじゃ、オレは行くぜ。やることあるし 」
「おう。あ、おい佐天 」
「んだよ。お前に割く時間は今日の分はもう使い切ったんだけど。閉店のシャッター下ろしたんだけど 」
「俺に割ける時間短いな!? まだ5分も経ってねぇだろ!? 」
もう5分も経ちそうの間違いだろ。秒数に変えたら300秒だぜ? オレ換算だとそのまま300分に相応するよこれは。
「で? 」
「助かったぜ。コイツら無能力者狩りの奴らだろ? ありがとな 」
そう言って、珍しく頭を下げる浜面。オレは周囲を一度ぐるりと見渡してから、肩を竦める。
「妹の為だ。感謝されることじゃねぇよ。襲われてたのがお前だったら、パイプ椅子でも持ってきてポップコーンとコーラ片手に高みの見物キメてるし 」
「おい、俺でも助けろよ!? スプラッターものの映画になったらどうすんだ!? 」
「嫌いじゃねぇぜ、スプラッター系 」
「映画の好みの話はしてねんだよ!!」
「雰囲気作りにサングラスも掛けとくか 」
「いっちょまえに3Dで堪能してんじゃねぇよ!? 」
「馬鹿言えよ。血しぶきまで飛んでくるんだぜ 」
「4DX!? 」
ったく、うるせぇな。狭い路地だから声が反響すんだよ。さっきから。
わめく浜面に背中を向け、オレは明るい路地の方へと歩き出す。片手をダルそうに上げて2、3度横に振った。
「駒場さんにも小太郎にも、よろしく言っといてくれや。浜面さん 」
「いや半蔵な 」