とあるシスコンの学園生活   作:新戸よいち

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「う、嘘だよな・・・? 」

 

 決めていた待ち合わせ場所にて目の前に現れた男を一目見て、口から漏れた第一声。それは自分でも驚く程度にか細く震えた声だった。

 

 春から夏へと向かう微睡みそうな陽気の中、頬を伝ったのはガタガタと震えそうになるぐらいに冷気を帯びた滴。純度百パーの冷や汗だ。

 

 オレをそんな精神状態にした元凶が、食って掛かるように口を開く、

 

「それはこっちの台詞やよ! まもりんなんやねんその格好は?!何で今日に限ってそんなに気合い入ってん! ボクのヒロインも奪る気なん!?それは強欲にもほどがあるんやないの?! 」

 

 それはオレに思いっきり唾が掛かりそうな心からの叫びだった。身振り手振りの大袈裟な喋り方だから、手に持っている薔薇の花束が散りそうになってるし。

 

 つーか何だよ薔薇の花束って!? 真っ赤な薔薇だし! しかもその前に格好どうなってんだ!? コイツ白いタキシード着てるんですけど?! 白いタキシードに赤い薔薇ってドラマでしか見ないコンビネーションですね!? ここ日本だよな?!

 

 青い髪も相まってコイツ目立ちすぎだ! 待ち合わせ場所を繁華街にしたのは間違いだった! 周りの視線が痛い!

 

「いや待て、まずオレのターンにしてくんない? 何なのお前? 初対面で何をする気なの? 」

「何って挨拶やないの! 女の子に会う時のマナーやん! それに相手はお嬢様なんやから! 」

「どこの国のマナーだよ・・・イタリアの男でも多分そこまでしねぇぞ・・・ 」

 

 オレは頭を抱えそうになる。てか抱えてる。青ピがこんなにアホとは思っていなかった。常盤台にどんなイメージ持ってんだ。

 

 湾内さんゴメン!まだ見ぬ友人さんもゴメン!オレが悪かった! ドタキャンしてくれ! 頼む!

 

「・・・はぁ・・・ 」

「溜め息つきたいのはこっちやで!?その格好ほんまになんやねん?!まもりんのアホー! 」

 

 青ピがオレを指差して何か喚いている。元気だなコイツ・・・自分を客観視しろよ。ヒロイン()からドン引きされるの確実なんだから。

 

 目の前にいる天文学的な馬鹿から現実逃避がしたくて横を見た。何かの店の窓に反射する自分の姿が見える。涙子ちゃんに選んで貰ったオシャレな服を着たオレが。

 

 まぁハッキリ言うと、めっっっっっっっっっちゃカッコいい。涙子ちゃんが女神だから、血的にそれは当然なんだけど。家で鏡を見た時に、色々なポーズを決めたくなった程度にはカッコいい。まぁそれは決めたんだけど。

 

 都市外には涙子ちゃんと同じく最愛の弟がオレにはいるが、成長したらオレ以上のイケメンになるのは間違いないと鏡を見ながら思った! その未来に鼻が高い!

 

「何って妹に選んでもらった服だよ。間違ってもお前触んなよ? ブッ飛ばすぞ 」

「こんなのひどいやんかー!? どう考えたってボク引き立て役にしかならんやないのぉー!! まもりんは悪魔やーっっ!! 」

「そんな格好で着た時点でピエロは確定だろ・・・ 」

 

 キワモノ丸出しの格好で激しい動きで大きな声でほぼ泣きそうになりながら叫んでる青ピは完全に不審者だ。ホントに周りの目が痛い。

 

 ごめんなさい、皆さん。誰かが迷惑かけて。コイツは友人じゃないんです。たまたま予定してた待ち合わせ場所が被った知らない人なんです。

 

 オレは周囲をぐるりと見渡し、申し訳なさそうな目を辺りに向ける。こっちの様子を伺っていたうちの数人と目が合った。全員女の子だった。こんな不審者に警戒するのは当然だよな。マジですんません。

 

「キャーッ! わたし今あの人と目が合ったよ!」

「えーっ!ほんとぉ!? 」

 

 そしたら何か叫ばれた。

 

 え、オレも不審者の括りに入っちゃってます?! んなアホな!? それは違うよ! 誠に遺憾だよそんなの?!

 

「お前のせいでオレも変なやつだと思われてるんだけど 」

「今のでそう思うのはまもりんだけやー!! やっぱりハーレム主人公やないのー!! 不公平やー!! 」

 

 いやどう見たってそうだろ? 叫ばれてんだよ? いま傷付いてるからな、オレ。見る限り顔を真っ赤にするぐらい怒りに染めちゃってんだぜ? お前はこういうのに慣れてるかもしんないけど、オレは慣れてねんだよ!

 

「神様こんなのあんまりやよー・・・!! 」

 

 ひたすら不平不満やらを高々と叫ぶ青ピを横目に、オレは肩を落とす。完全に仲間だと認識されてる。もうお天道様に顔向けできねー! どんなツラで明日からここを歩けんだ!?

 

 ・・・つーか、よく考えたら今日はやけに声を掛けられた気がする。いや、掛けられた。ここに来るまでに何人ものこれまた女の子から。もしかして、オレって普通に不審者なのか・・・?

 

 聞いたことあるぞ。小学生とかは怪しい人には先制攻撃の挨拶をするって・・・それと同じなのか!? オレって・・・コイツと同類なの・・・ッ?

 

「何でそないに悲痛そうな目でボクを見るんよー!? まもりん!? 」

 

 不審者だったのか・・・オレは・・・湾内さんに悪いな・・・そのお友達にも・・・オレとコイツといる場所なんて見られたら、末代までの恥になりかねない・・・常盤台でのイジメに繋がるかも・・・ここはもう帰ろう・・・詫びの連絡を入れて・・・

 

 自分の立ち位置を理解したオレは濁った瞳でスマホを取り出した。連絡先をスライドして名前を探している最中に、

 

「さ、佐天様っ・・・! 」

 

 という声が聞こえた。遅かったか。ちくしょう。

 

「・・・ 」

 

 オレはほんの少しだけ、顔を上げる。

 

 赤い顔をした湾内さんがいた。その近くには常盤台の制服を着た友人らしき黒髪ロングの女の子も。湾内さんと同じように清い心の雰囲気を感じる。心が重くなる。

 

 こんな善良な娘たちを不審者の一派と思わせるなんて、オレはなんて最悪な人間なんだ・・・

 

「ゴメン・・・ 」

 

 伏し目がちに謝罪の言葉が口から自然に出た。湾内さん、オレは早く謝るべきだったんだ。青ピばっかり棚に上げてたけど、オレも同類だったんだから。そんなのと交流を続けてくれた慈悲深さに感謝しかない。

 

 今のオレは窓も鏡も見なくて分かる。暗い顔をしてるってことが。言い方を変えれば物憂げか・・・青ピ、お前も俺と一緒に謝罪をしよう。そして菓子折を渡して素直に帰ろうぜ・・・

 

「あ、っ・・・ぅ・・・! 」

 

 湾内さんの声は続かない。嗚咽らしき何かは聞こえるけど・・・声も出せないぐらいに不審者なんだろうな、オレたちが。でも事実から逃げちゃいけないよな。怖いけど、湾内さんの顔をちゃんと見よう。受け止めよう。自分の立ち位置を・・・

 

 改めてちゃんと顔を上げた。トマトみたいな顔色で倒れそうになっている湾内さんが見えた。前回もこんなのあったっけ。あの時もきっと、周りの女の子達みたいに怒りに耐えてくれてたんだな・・・

 

「湾内さん、今までホントに・・・ 」

 

 これまでの感謝を込めて、最後に別れを告げようとオレは意を決した。けれどその言葉は続かなかった。

 

 なぜなら、

 

「わ、湾内さん! お気をしっかり! 」

「まもりん! 今の顔はズルいで! あかんてそんなん! 」

 

 他ならぬ周りの二人によって。

 

 湾内さんの友人が、バランスをいつ崩しかねない湾内さんを支えている。

 

 青ピがオレの胸ぐらを掴んでいる。おい待て、涙子ちゃんの選んでくれた服に触んな! というかなんだよ! オレの一世一代の別れの言葉だぞ!? 邪魔すんな!

 

「な、何だよ? 青ピ、オレはただこの菓子折と感謝の言葉を最後に伝えようと思って 」

「鈍感系はもう古いて! まもりん! 」

 

 だから鈍感だったけど気づいたろうが! オレは不審者なんだ! お前と同じ女の敵だったんだ! それに気付いたんだよ!

 

「大丈夫でしたか・・・? 落ち着きましたか・・・? 」

「は、はい・・・泡浮(あわつき)さん、申し訳ございません・・・」

 

 湾内さんの友人は泡浮さんと言うらしい。今は背中を擦っている。湾内さんも落ち着いてきたのか、顔色が少し赤いぐらいになっていた。

 

「おい、離せ。けじめを付ける 」

「まもりん? けじめって何の?! 」

 

 青ピの手を離させると、オレは二人へと歩を進める。手に持っている高級店で選んだ菓子折、青ピだけが迷惑なんて考えてオレを含んでいなかったことに今さら自嘲しそうになるが、それを真剣な顔で差し出した。

 

「湾内さん・・・それと泡浮さん、だよね? 今日はゴメン。これなんかじゃ足りないと思うけど、オレの気持ちなんだ。受け取って欲しい 」

 

 菓子折の内容は飴玉だ。キャンディだ。異性に渡すのに縁起がいいと店員さんが言っていた。一番高いやつにした。けど、これで許して貰えるとは思ってない。

 

「さ、佐天様・・・ふあ・・・ 」

「あ・・・ありがとう、ご・・・ございます・・・っ 」

 

 どうにか受け取ってはくれたから、ひと安心だ。湾内さんはもとより、泡浮さんの方も顔が赤くなっている。初対面で怒らせるなんてやっぱり、オレは駄目なやつだ・・・

 

 そう思っていたら、強い力で後ろに引っ張られる。ほぼ泣いているような顔の青ピが見えた。薔薇もほぼ散ってる。

 

「ボクのヒロインまで奪らんといてよぉーー!! まもりんの鬼ぃー!! 」

 

 青ピは良く分からないことをほざいた。今のオレはそんなのに付き合う気力も、ツッコむ元気も無い。

 

「青ピ、もうやめよう。オレたちは仲間だ。女の子に迷惑しか掛けられねぇ存在なんだよ。ほら、見ろよ。二人を 」

 

 二人とも見る限り泣きそうになってる。赤い顔で涙の溜まった瞳なんてこんなの・・・恐怖を感じてるとしか思えない。本当にごめん。それしか言えねぇよ。

 

「赤面して潤んだ瞳の美少女は眼福なんよ! ありがとうまもりん! けどちゃうねん!! 」

 

 何を言ってるんだコイツは。怯えてる少女を眼福とか不審者通り越して犯罪者だっつーの。

 

「まもりんホンマいつか刺されるで!? ボクは美少女からの包丁も愛として受け止められるけど!! 」

 

 刺されるほどオレって嫌われかねないのか・・・くそ、どうしたら真人間になれるんだ。不審者から脱出出来るんだよ・・・っ!

 

 先の見えない暗闇に気分がまた落ちる。

 

「青ピ、もうオレたちは帰ろう 」

 

 そう言って踵を返そうとする寸前、視界の先の二人が姿勢を崩すのが見えた。コンクリートの上で受け身も取らずに倒れたら、怪我は免れない。

 

 オレの行動は迅速だった。嫌われるのはもういい。けど、痛い目に合うのは避けさせたい。

 

 能力を使った。二人を無重力状態にさせる。もうこれで倒れはしない、けど意識が薄れてるだろう状態でこれを維持させていたら、上下左右のどこにでも飛びかねない。下手したら頭から地面に行く。

 

 駆け寄った。極力触れないように支えるしかなかった。青ピに任せても良かったかもしれないけど、変なところ触りそうだからそれはやめといた。

 

「本当にゴメン。すぐに離れるから、まずは意識をしっかりと・・・ 」

 

 湾内さんも泡浮さんもとんでもなく顔が赤い。この状態をすぐにやめなければオレは逮捕確定だ。

 

 二人の顔を覗き込んだ。光が微かに灯っている不明瞭な瞳。寝起きのような状態のそれを眺め、二人に声をかけた辺りで、

 

「「△〒▲‡▲¶△#※%!?」」

 

 爆発した。

 

 何か良く分からない言語で、本当に爆発した。

 

 デジャブを感じた。




改めて漫画読んだけど、泡浮さんも可愛いっすよね。
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