オレには一つ癖がある。癖と言っては何だが、寝起きが悪い。なぜそんなことを言ったかっつーと、いまオレの目の前にはベッドがある。
天井じゃなくてベッド。むしろ、天井はオレの背中とハグしてるトコだし。
重力操作って能力は便利なんだけどさ、こう寝てるときとかたまに誤作動起こしてさぁ~・・・浮いちゃうんすよ。つまるところ、皆にイメージしやすくするとオレは天井で寝てるって感じだな。
「はぁー・・・ねっみぃ・・・涙子成分が足りてねぇ・・・足りてねぇよぉ・・・・・ 」
昨日はなんやかんやで涙子ちゃんに全然会えなかった。十数年付き添ってきた股間のマイサンも依然として絶賛健在中でもある。
まぁ、率直に結論だけを言うと、女の子になれなかったし、常磐台生にもなれなかったし、JCはおろかJKにも、JSにもなれなかった。
何十分にも渡る舌戦をあのカエル顔の医者と繰り広げ、満身創痍の状態で路地裏に戻ると、既にバナードも腹黒ツインテールもおらず、愛しの涙子ちゃんの残り香すら無かった。オレはひとり泣いた。
『君が何を考えているのか、全くもって僕にはわからないよ 』
『頭の治療を優先するべきなんじゃないかな? 』
『チ○コは男の魂。侍の刀と同じだと僕は思うけどね。それを無くしたら、君は君じゃなくなるよ 』
頭ん中では、昨日のことがまるで昨日のことのように思い出せる。ん? おかしいな? 文章的におかしい。まぁ、そう冷静にいられないくらい、昨日の病院イベントは酷いもんだった。
何故って? そりゃ、あれだ。病院の受付で、チ○コについて声高々に語り合うなんて、思い返せばアホすぎた。危うく前科ものになるとこだったかもしれねぇし。オレもあっちも。
だけどそれでも、涙子ちゃんの愛を思えばオレは、前科がつこうが女になろうと思えた。しかし、あるくだりがオレを突き動かした。
『実の兄が突然性転換していたら、思春期の女の子には厳しいものがあるんじゃないかな。まぁ、素直に言うと気持ち悪がられるよね 』
『きもち・・・わるがら・・・れる・・・?! 』
『いやなんで君は、そんなに驚いているのかな? 普通に考えられうる、というよりも避けられないことだよね? 』
想像してみた。涙子ちゃんが女になったオレを見た
結論を出した。
これ、確実に嫌われる案件だ。聞いたことがある。兄妹仲拗れる案件第二位は、兄が姉になった時だ。友達との時間を邪魔されるのの次に悪辣な行為だったんだ!
そしてオレはその場に崩れ落ち。泣いた。男泣きだ。バスケがしたい男並みに、泣いた。
『先生・・・!! 涙子ちゃんに・・・すっごくカッコ良いって・・・言われたいです・・・・・・・ただ、それだけなんです・・・・・!! 』
ただ
先生はそんなオレを見て、こう言った。
『妹が兄を嫌う理由は大抵、生理的なものか、力で支配されたか。でも君を見る限り後者は違う。ジャイアニズムを使うには見えないしね。むしろ、オレのものは妹のもの、とでも考えていそうだ 』
『・・・どういうことですか・・・? それならオレは該当しない! 涙子ちゃんのものを奪うなんてしてないし、ましてや暴力なんて! ただ毎日成長を見守っているだけで! すくすく育つのを見ていたいだけで! 観察日記とかつけちゃってるだけで! それだけのありふれた兄です!! 』
『うん、生理的なものだね 』
『えっ? 』
『いやなんで、そんなに不思議そうな顔をするんだい? 考えうる限り、唯一世界中の人間が同じ結論を下せるだろう、議題だよね? 』
『えっ? 』
『いやだからね? 考えてみてごらん。もし君が近しい人間に、プライベートが筒抜けにされていたら、日記のネタにされていたら、どう思う? 』
『それが涙子ちゃんならオッケーです。むしろウェルカムです 』
『やっぱり頭の治療を先にするべきなんじゃないかな? 』
『だからね、まず君は兄としての・・・・・・・・・・・・ 』
そしてオレは長々と授業を受けた。いわく、妹とは適度な距離を保つべし。いわく、触れすぎると花は散る。いわくいわくいわくいわくいわくいわく!!!!
そして前述の通り、路地裏にふらつきながら向かったが涙子ちゃんはおらず、気付けば家で寝ていたらしい。
手が震える。別に隠された封印が解けそうとか、そんなことは無い。ただ俺的レベル6、涙子ちゃんの絶対能力、
「ヒデェ顔してるな・・・オレ 」
鏡に手をつく。歯を磨きに来たオレの顔はどんよりとした、曇り空だった。鏡にくっきりと紅葉の痕が刻まれる。
「今日は休み・・・か 」
カレンダーを眺めた。歯磨き粉がいやに甘い。机の上の日記帳。昨日の分は、書かれていなかった。
カーテンを開くと満点の青空。満天じゃなくて、満点だ。綺麗な青空だった。だけどオレの心は雨模様。雨のち、台風。台風のち、隕石だ。ハルマゲドンだ。ハゲドン。
ルイコニウムを一日適量接種できないだけで、オレの身体は持たないらしい。ああ・・・目が霞むぜ。クッ、これはもうダメだ。日光を浴びよう。ただでさえ暗いのが、さらに暗くなっちまう。
歯磨きを終え、服を着替え、時計を見るともう正午を迎えていた。随分と長く眠ってたもんだな。
玄関から出る。春の日差しは心地好く、夏や冬に比べると爽やかでオレは結構好きだ。
さぁて、今日も愛しの涙子ちゃんウォッチングを~・・・あ、控えろだ? なーに言ってやがる? そんなことで控えられるほどオレの愛は、歯磨き粉のように甘くはねぇ・・・ッ!!
繁華街は今日も賑わっていた。まぁ休みだから仕方無いか。飛ぶのは控え、歩くオレ。すれ違う人を眺め、そしてため息をつく。
涙子ちゃんの探索をした結果。いまは寮にいるらしい。流石のオレも、寮への突撃は不味いくらい知っている。女子寮だしな。いや別に? 共同の寮なら突撃したとか、無いですし? てか、男女同寮とか許しませんし? うん、他意はない。
そしてするべき事がない。暇だ。退屈だ。だからといって別に御坂とか白井に、会いたいわけでは無い。あれはもう災難だから。
飯でも食べに行こう。オレはそうすることにした。こんなことなら上条とか、土御門とか、青ピを誘っておくべきだったなぁ・・・
休日の学園都市、カップルの多いこと、多いこと。彼女を欲しいとは思わないが、心にクるものはある。そしてそう感じているのはオレだけでは当然無く、その為に必死に女子に声をかけ、彼女作りに励む男も多い。
繁華街とはつまりは、青春のデパートなのかもしれないな。カップル、一人身、野郎の集団、などなど様々な人種がいる。
そしてオレはその中で一人寂しく、妹にも会えずに、孤独にハンバーガーを貪るんだ。ひもじいよぉ・・・涙子ちゃん・・・
春の陽気に包まれてるのに、長袖まで着てるっつーのに、寒いぜ・・・
そんな孤独で悲痛な背中をしていたオレの背後から、声が聞こえた。
「あ・・あ、・・・・あのっ・・・! 」
聞き覚えがあるようで、ほとんど無い。か細い声だった。オレじゃなきゃ聞き逃しちゃうね。
なんだなんだ? カツアゲか? 今のオレは虫の居所が悪いぞ? ヘラクレスがチ○コを挟もうとしてるくらいだぞ?きっと、たぶん。
「・・・ん?・・あぁ、えーっと? 」
振り返った先には、見覚えのある制服に身を包んだ少女がいた。その制服にオレは好感を持てない。つーか、血気盛んな女のイメージしか出てこねぇ、主に二人のせいで。
本体の少女の方には見覚えが無い。わけでは無いのかもしれない。どこかで見たような気もするし、違う人に呼び掛けたのにオレが間違えて振り返った可能性もある。半々だ。
「・・・先日は・・・そのっ! お、お世話になりました・・・お助けいただき・・・本当にあ、ありがとうございますぅ・・っ! 」
声が裏返っていた。深々と下げた頭から、唯一見える耳も真っ赤だ。
オレ、何かしたっけ? 先日? ここ最近は涙子ちゃんを見て、涙子ちゃんを見守り、涙子ちゃんを陰ながらサポートしていた、それだけのは・・・あっ! 思い出した! 御坂の身代わりとなって貰った、ロリコンクソヤンキーに絡まれてた女の子か!
「あー、あの時の。あの後、大丈夫だったか? 御坂に因縁つけられなかったか? いきなり電撃ぶっ放して来たり、喧嘩売られたりは? 」
「いっ、いえそのようなことは・・・御坂様もとても優しく・・・ 」
「優しく? 恐ろしくじゃなくて? 」
「・・はっ・・はい・・わたくしのようなものにも・・・とても優しくしてくださって・・・ 」
御坂が優しいって、明日は雷が降るんじゃねぇの? いやもう文字通り。
「わ、わたくし・・・あの時はお礼もしっかりと言えず・・・申し訳ありませんでした・・・ 」
「ああ、気にしなくていいよ。オレもあの後急ぎの用があったから 」
涙子ちゃんウォッチングという、ビッグな用事がな!
「ご用事・・・あのっ、本日は・・・お時間がありますでしょうか・・・? 」
「悪い。あいにくこれから、あそこに飯を食い行くトコでさ 」
恐る恐るといった様子でオレを見つめ、いや体格的に上目で見つめてくる少女。オレは世界的に有名なバーガーショップを指差す。
「わ、わたくしもご一緒して・・・よ、よろしいでしょうか・・・?! 差し出がましいとは・・・分かっています・・・だ、ダメ・・・・・・ですか・・・? 」
花粉症か? 目が潤んでるぞ? 目薬いるか? あ、持ってねぇや。しかし、なんだ? 別にハンバーガーを食べるくらいでそんな、必死に。
あれか? お嬢様に見えて、ジャンクなフードが好きなのか? 意外だ。断る道理も無いし、てか何か放っとけない感じもするしな、イイぜ。
「あ、ありがとうございます・・・! 」
「にしても・・・好きなんだな 」
「・・・・っ?! ・・・ひ、一目惚れは、はしたないと・・・思いますか・・・? 」
ハンバーガーに一目惚れ? 女なのにそんなに食べてはしたないとか、女なのに食い過ぎだろ、とかオレは別に思わないけどな。良く食べる女の子は可愛いよな、なぁ?
「いや、オレなら嬉しいな 」
自分の作った料理にそこまで熱を持ってくれたら、そりゃ嬉しいだろうさ。昔、まだ幼かった涙子ちゃんにオレの作ったものを食べて貰ったときは、そりゃあ嬉しかった。クク、思い出しただけで頬が緩むぜ。笑顔が止まんねぇ!
「っ・・・?! そ、うですか・・・」
あれ、さっきよりこの娘顔赤くね? もう紅くね? 紅じゃん。マグマ? あれか? ハンバーガーが食べたくて仕方無いのか? しゃーないなぁ。ほら、行こっか。急がば回れ、善は急げっつーだろ?
手を引いてオレは、バーガーショップへと走った。風より早く。