とあるシスコンの学園生活   作:新戸よいち

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 ハンバーガー好きな少女の名前、湾内絹保さんと言うらしい。わんない きぬほ、だ。だからオレは彼女を湾内さんと呼ぶことにした。それは良いんだけど、湾内さんはオレのことを佐天様と呼ぶことに決めたらしい。

 

 いや、様って。様って!オレはどこのお偉いさんだよ! そういうプレイとかって思われるかもしんねぇじゃん!

 

 やめてくれと必死に伝えたんだが、これだけは譲れないと湾内さんは食い下がった。

 

 何で? 常盤台って生徒の降り幅大きすぎない? 様付けしてくる娘もいれば類人猿とか、オレを罵倒するやつもいるんだけど。出会い頭に雷パンチかまそうとするやつとか、電気ショックどころか十万ボルトキメてくるやつとかな。二人だけなんだけども。

 

 いやー、やっぱり。常盤台はお嬢様学校なんだな。あの二人のせいで、野蛮な女しか居ない学校ってイメージになりかけてたけど、大半はきっと湾内さんみたいにおしとやかで、こう大和撫子ってぇの? そういう女の子が多いに違いないな。

 

 あ、てかさ? 大和撫子よりも、佐天涙子のほうが良くない? そっちのほうが褒め言葉じゃね? 世界三大美人とか、あんなん余裕で完封出来る涙子ちゃんのほうが、大和撫子より凄いし。つまり、涙子ちゃんは天使。辞書に載せろよ。義務教育だろ、義務教育。

 

「あの・・・佐天様? 」

 

 おっと、思考に耽り過ぎたな。湾内さんがオレを心配そうに見てる。ごめんごめん、世界の常識について考えてたんだ。

 

「あぁ、何でもないよ。ちょっと考え事をだな 」

「そうなんですか? 佐天様もお悩みになることがあるんですね 」

 

 何だよ、オレが悩みなしの能天気野郎とでも言いたいのか? 常に悩んでるってーのに。涙子ちゃんのことか、妹のこととか、エンジェルのこととか。

 

 ん、てか待てよ・・・? も、ってことは、湾内さんは何か悩んでるんだろうか?

   

「湾内さんは何か、悩み事でもあんの? 注文方法とか? 」

 

 そうそう、湾内さんなんだけどハンバーガー好きな割に、注文する時とかわたわた慌ててさ。あれか? チェーン店は来ないタイプなのか? 見る限り箱入り娘っぽいし、こう・・黒毛和牛100%の一つ何千円とか、何万とかする最高級のハンバーガーとか食べてたりするんだろうな。考えただけでうまそう。

 

「・・・っ! いっいえ、そのようなことは・・・一つも無いとは・・・・・・・言い切れません・・・ですが・・・ 」

 

 あわあわと狼狽えている湾内さん。あっちもこっちにも目をやって、目に見えて動揺してる、テンパってるな。しまいには下向いちゃったし。チラチラってオレのほうを見てくるけど。

 

 まぁここは人生の先輩として、オレが悩める少女の悩みを聞いてあげよう。思春期って苦悩する時期だしな。

 

「案外さ。人の悩みっつーのは一人で溜め込むには大きすぎるし、他人に話すにはちっぽけすぎるもんなのさ。前から見てるだけじゃ、その壁の厚さってのは分からないだろ? 上から見たらすっげぇ薄い壁かもしれねぇのに 」

 

 こう、かっこよく頬杖をついたオレ。大勢の学生が歩く雑踏を眺める。

 

 あぁ、言い忘れてた。オレと湾内さんは窓を目の前にした、カウンター席な。テーブル席満員だった。休日昼間のバーガーショップって、人が蟻の群れみたいに溢れかえっててさ、春なのに夏かと思ったよ。暑すぎ。

 

「・・・お、お友だちとはどのように作るの、でしょうか・・・! 」

 

 あー、なるほど。そうだよな、入学したてって、友人作りが一番のミッションだもんな。湾内さんって積極的なタイプには見えないし、悩むのも分かる。それにしても友人じゃなくてお友だちって言う所の辺り、必死さが見て取れんな。

 

「友達かぁ・・・どのようにって言われても、難しい問題だよな。だってオレと湾内さんは友だちになったのに、どうやってなったのかは上手く説明できねぇし 」

 

 話し掛ければ出来るんじゃね? 何て身も蓋も無いアドバイスはオレはしない。アドバイスっつーのは、相手に合わせた的確なものを出すもの。それがアドバイスなんだ。

 

「ではどうすれば・・・ 」

「いいか、湾内さん。友だちは、会話か遊びから出来るもんなんだ 」

「遊び・・・ですか? 」

「そう。よく知らない子が混じってる鬼ごっことかでも、気づけば仲良くなってたりするだろ? 」

「・・・鬼ごっことはなんでしょうか? 」

 

 おいおい、マジか? 鬼ごっこ知らないの? 仕方無い・・・仕込むか。学園都市最強のアソビストと言われてるオレが、直々に湾内さんをコミュ力MAXの人脈人間にしてやるぜ!

 

「鬼とは・・・いったいどのような遊戯なんでしょう・・・想像もつきません・・・」

「鬼ごっこってのはな。一人が鬼になってだな、捕まった愚鈍なやつは・・・」

「捕まってしまった方は・・・ 」

「鬼になってしまうんだ! 」

「ひっ! 鬼になってしまうのですか?!」

「そうだよ。鬼になって、人間を捕まえるだけの血に飢えた怪物になり下がるんだ 」

「ひぃぃっ! そんな恐ろしいものが存在するなんて・・・! 」

 

 ・・・やばい面白い。純粋すぎる。普通にルール説明しようとしたのに、そんな息の詰まった顔されたら、なぁ? 虐めたくなるよな、オレ悪くない。

 

「まぁ、冗談はさておき 」

「・・・ほっ・・・じょ、冗談なんですね。良かったです・・・ 」

「流石に常盤台に通うような御高く留まったエリート中学生たちが、校庭でこの指止まれっつったって乗ってくるわけが無いから鬼ごっこはボツ 」

 

 てか、もしかしたら鬼ごっこを越えた阿修羅ごっこ、魔王ごっこ、みたいになるかもしれないし。捕まえるためにフルで能力ブッパみたいな。容易に想像できる。逃げるやつを嬉々として焦がす悪魔(ピカチュウ)が。怖すぎ。

 

「ここはやっぱり、身近な人から仲良くなるのが友人作りの近道だな。隣の席とか。同じクラス、部活、その辺り中心に攻めてこう 」

「な、なるほど! 勉強になります!」

 

 共通の話題があるのが一番いいんだけど、それを今は期待しないどくとして。じゃあ、どうするか。やっぱこれでしょ。

 

「湾内さん、指出して 」

「指・・・ですか? こうでしょうか?」

「違う違う、人差し指だけ。こうやって 」

「こ、こうでしょうか? 」

 

 オレと湾内さんは両手の人差し指を、互いに差し合うように突き出す。そう、足し算だ。いや、この遊びの名称は全国で違うらしいけど。

 

「これはいったい・・・? 」

「これで、こう 」

「あっ・・・、・・・っ 」

 

 オレの人差し指が湾内さんの人差し指をダイレクトアタック。って、めっちゃ顔赤くなってる?! 店に入った時も思ったけど、もしかして接触NG!?

 

「・・・あの・・・?」

「こうしたら、こう 」 

 

 くっ、だがしかし。口頭での説明ってムズいんだ。習うより慣れろって言うし。だからオレは背に腹はかえられんと、湾内さんの手を取る。オレが叩いた方の手、人指し指を伸ばしている手、その手の中指をしっかりと開かせる。まぁ、簡単に言うとピースみたいな感じ。

 

「・・・はぅ、・・・ぁ 」

 

 何だかこう、押し殺すような声が聞こえるんだけど。あれか、殺意を持たれてるのか? 顔上げたら、オレを射殺さんとばかりにガン付けられてたりするのか?

 

 ほっ・・・手ぇ離して顔上げたけど、どうにかそんなことは無かったぜ。ただただ顔が赤いだけだ。ちょっと涙目になってる気がするけど、気のせいだな! 気のせい! あんまり深く考えると傷付きそうだから、やめておく。

 

「だからだな、つまりは・・・一本の指で叩かれたら、一つ。こうやって二本の指で叩かれたら、二つ。その本数プラスするってことだな 」

 

 あまり触れないように颯爽と、見本を見せるように、湾内さんの指でオレの指を叩いた。そして二本の指で叩かれたオレの手を、湾内さんに見せ付けるように、中指、薬指、と順に開かせる。

 

「これを繰り返して、相手の指をパーにした方の勝ち。三で三を叩いてもオーバーキルにはならずに、一つに戻るからそこは気をつけてな 」

 

 自分の手で追加の説明。デモンストレーションってやつだな。

 

「は、はい! わかりました! 」

「これを隣の席の子とやれば、仲良くなれるの確実さ。もう一時間で親友、って感じになれるぞ 」

「す、凄いです! 」

 

 ちょっと言い過ぎた感はあるけど、そんくらい効果があると思ってた方が湾内さんも友人作り目的で話し掛けるのに、躊躇する可能性も低くなるだろうし。双方どちらかが積極的にいかなきゃ、友人は作れない。

 

 さて、これにてオレの仕事は終わりだな。残ったハンバーガーを食べてっ・・、終わり。解散。

 

 一口サイズのバーガー片手に席を立ち上がろうとしたオレ。不意に窓の外に見えたのは、見慣れたエンジェルだった。そう、涙子ちゃんだ。左右に花と性悪ツインテがいるようにも思えたが、そこは見ないでおこう。花は百歩譲るとしても。

 

 あれ、何か涙子ちゃん驚いてね? ビックリ仰天って顔してね? うお、何か凄いイイ顔になったし・・・あ~超可愛い! 純度100%の可愛さ! 100%果汁のオレンジジュースより濃いぞ! 食ってたハンバーガーが黒毛和牛なんて目じゃなくなった! もはや涙子ちゃんバーガー! ワンコインどころかアタッシュケース満杯の札束でも買えない価値!

 

 ・・・ん? なんだ? 何を伝えたいんだ? 涙子ちゃん? グッジョブ? サムズアップ? ハッ・・・そーゆーことか!!

 

 いっせーの、せ・・・っか! 確かに、その遊びもなかなか友だち作りに便利だ! 流石、涙子ちゃん! 

 

 よし、オレからいくぜ! いっせーの、せっ!

 

 ・・・ ・・・ ・・

 

 ・・・あれ、違うのか!? 涙子ちゃん!? 何そのあからさまなガッカリ顔?! お兄ちゃん何か間違えた?!

 

「・・・あの、どうかいたしましたか? 」

 

 慌てふためくオレの耳に聞こえたのは、隣の湾内さんの声。窓の外に向けて親指を上げているオレを、凄い不思議そうな顔で見ていた。

 

 しかし、オレはそれを気にしない! 今は涙子ちゃんを優先しなけれ・・・ば・・・? 何か、凄い怒髪天?! 怒ってらっしゃる!?

 

 なんで?! くっ、分からない! 湾内さん、涙子ちゃんと同世代の君なら・・・って、ん? 何だ? 湾内さんと・・・話をしてろ・・・?

 

 涙子ちゃんは、オレが隣を向いた時にだけ満面の笑みを浮かべ、こくこくと頷いている。その天使の隣で、凄いドン引いた顔、苦虫を噛み締めてってか、苦虫を舌で味わってるような顔でオレを見る性悪ツインテが居る気がするが、これは無視。

 

「佐天様・・・? 」

 

 オレは観念した。涙子ちゃんを怒らせたくは無い。席に座り直す。隣を向いた。親指を立てた。仕方無い。もう一つの遊びを教えよう。

 

「これはだな、指の本数を当てる・・・・・・・・・・・・・」

 

 そしてオレは湾内さんに長い時間、友だち作りのための遊びを教えた。無論、休日が潰れた。オーマイゴッド。オーマイエンジェー。

 

 

 

 ▼▼▼

 

【涙子ちゃんサイド】

 

「うわっ! まも兄!? 」

「どうしたんですか? 佐天さん? 」

「いやほら、あれっ! あれっ! あれまも兄だよね?! 」

「あー・・・そう、ですね 」

「どうかしたんですの? 」

「あっ、白井さん! あれ、あれですあれ! 」

「うげっ・・・非番の日にあんな男を見ることになるなんて・・・今日は12位ですわね・・・ 」

「あはは・・・でも、まさかまも兄がデートしてるなんてねぇ・・・ファイトっ! 」

「あれ、佐天さん。こっちに気付いたみたいですよ?」

「うわ、まも兄なにやってんの・・・? 」

「気持ち悪いですわ 」

「あっ、白井さん! あの隣の人、白井さんと同じ常盤台の人じゃないですか?! 」

「・・・わ、わたくしのクラスメイトだった気がしますの・・・話し掛けるのは、控えた方が良いみたいですわね・・・ 」

「ちょっ、まも兄! デリカシーどこいってんの?! あたしの方ばっか見てないで、隣見てなよ!! 」

「・・・佐天さんの声、聞こえてるんですかね? 」

「はぁ、・・・もう行きますの。あんな男見てるだけ、馬鹿になりますわ 」

「そ、そうですね。佐天さん、行きましょうか 」

「うー・・・凄い心配だけど、・・・そうだね・・・信じたくないけど、まも兄を信じて・・・行こっか 」

「で・・・どうしますの? 」

「あっ、白井さん! あっちの方に新しく出来たお店があって・・・・・・ 」 

 

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