第十話 前準備
2095年7月11日
昼休み。俺は風紀委員会本部にて、いつも通り活動記録をまとめる仕事と、居合わせた摩利に頼まれた追加の仕事をこなしていた。
「君が毎月しっかり活動記録をまとめといてくれて助かった。これなら次期風紀委員長への引継ぎも楽できるな」
摩利は俺の仕事ぶりをそう褒めてくれるが、そもそもこれは現風紀委員長の仕事ではないのか、という言葉は飲み込んでおく。俺は黙々と引き継ぎのための資料を作る。
「九校戦が終わったらすぐに再編成だから、この手の仕事は早めに準備しておくに越したことはない」
実際手を動かしているのは俺なのだが、彼女は得意げだった。まぁ、俺はそもそもこの手の文書作りは一人でやりたい性分だから構わないと言えば構わないのだが。
「九校戦、もうすぐですね。既にメンバーの目星はついているので?」
手を動かしながら、頭の余剰リソースを会話に割く。さすがに黙りっぱなしでは失礼である。
「本戦はほとんど決まっているな。新人戦の方はまだ検討中だが、君が選ばれるのは確定だろう」
定期試験の実技成績2位かつ理論成績2位、総合成績2位である俺には全く疑う余地がない。因みに実技と総合で深雪に負けて、理論で達也に負けた形だ。全体の順位に関しては、知人たちの成績を見る限り、原作の順位に俺が2位で割り込んで、一つずつ下にズレたようだった。
「参考までに聞いておくが、君はどの種目が得意そうだ?」
「そうですね。スピード・シューティングとモノリス・コードなら勝てそうでしょうか」
射撃技術と白兵戦で学生レベルの魔法師に負けることはそうそうないだろう。さすがに、三高の
「ほう、確かに普段の十六夜くんなら妥当なところか」
俺の魔法技能を風紀委員の活動で見ているために納得といった摩利である。
「だが、100個の的を射抜くのはエア・ブリットだけでは難しいんじゃないか?モノリス・コードの方も直接攻撃は無しだからな」
「ご心配なく。いちおう手は考えてありますから」
彼女は俺のその発言に戦意を感じてにやりと笑う。
「そうか。君がそう言うなら私の方からその二つに推薦しておこう」
「ありがとうございます。と、一旦このあたりで切り上げましょう」
切りのいいところで作業を終わらせ、俺は席を立つ。
「では、また後ほど」
「ああ」
そろそろ昼休みの終わりを示すチャイムが鳴る時間だ。
◇◇◇
2095年7月20日
九校戦メンバーがエンジニアも含めて公表され、発足式を終えていた。もちろん、達也も深雪のCADを整備している事実を受け、さらに選手たちの前でエンジニアとしての実力を示すことで服部に推薦され、エンジニアとして参列していた。俺もスピード・シューティングとモノリス・コードの新人戦選手に正式に選ばれ、それぞれの種目の練習が始まっている。
そんな忙しない日々が続く夜。俺は自宅ではなく、裾野基地のとある一室に居た。
「突然の訪問を受け入れて頂き感謝します」
「特尉から事前に訪問の旨を受けていたから問題はない。強いて問題にするなら、四葉の次期当主殿が我々と会談しているくらいか」
俺の目の前に居るのは、国防陸軍第101旅団・独立魔装大隊隊長、
しかし、俺は周りから『四葉の次期当主』と認識されているのには驚きだったが、そうなるのも仕方ないと思い至る。魔法師界広しといえど、『四葉』を名乗っているのは真夜と俺の二人だけなのだから。
「ええ、あまり軍への関与を疑われるのも良くありませんので。失礼ながら本題を」
俺は懐から、ある情報が入っている端末と文書を彼らに差し出した。これが本命であり、彼らが毛嫌いする十師族を招き入れた理由である。風間は文書を手に取り、真田は端末の方から情報を自身の端末へと移す。
「富士演習場南東エリアに侵入した下手人の情報、手引きした
彼らに手渡した情報は、今回九校戦で騒動を起こす香港系国際犯罪シンジケートの情報。彼ら独立魔装大隊が追っていた者達であり、俺が真夜に頼んで調べ上げてもらったモノだった。
「まさか、四葉が動くとは……」
真田がそんな内心を溢す。
「彼らはどうやら九校戦を賭け事の対象にしていたようで。おとなしく観戦するようなら手を下すつもりはなかったのですが、妨害工作を仕掛けられているならばその限りではありません。運営に紛れ込んだ工作員も洗い出してあるので、彼らの拠点へ乗り込む直前に運営委員会に情報を渡す予定です」
原作知識で罠を仕掛けるのが分かっているのだから、大人しくかかってやる奴はいない。今回は根深い問題でもなく、幹部連中を抑えてしまえば解決する程度なので原作改変も辞さない態勢を取ったわけだ。
「次期当主の身を案じて、というわけか」
「俺も母も心配性なもので」
あえて次期当主というのは訂正しないことにした。深雪と達也の後の事を考えれば都合が良いだろう。
「情報封鎖はこちらでしますが、突入のメンバーに俺を加えることと達也を加えないことが条件です」
「君が加わることと特尉を除く理由は」
「達也の方ですが、達也は学生や技師として今忙しい身ですから。過労で倒れられたら四葉としての仕事に支障をきたすかもしれません。俺の方は、最近十師族による抑止が緩んで来ている気がしたので、俺自ら動いて少しは締めようと思いましてね」
要約すれば、達也の労働を減らしたいというのと、四葉が動くことによって外国からの手を抑えたいというところだ。達也は九校戦のおかげで担当選手のCADの調整で忙しい。深雪に対しては念入りだし、雫に対しては試作CADや新魔法を提供するくらいだ。俺は四葉がいるのに構わず起きる事件を憂慮してのことである。まぁ、達也が過労で倒れるかどうかは知らないし、俺が動くことでの抑止もおそらくそれ程意味がないとは思うが。
「……条件を呑まなかった場合は」
「手を貸さないだけで特に何もありません。正直言ってしまえば、この条件は俺の我儘みたいなものですから」
そう、断っても相手にリスクは一切ないのだ。むしろ、四葉と手を組むというのはあちらにとってデメリットとも考えられるかもしれない。だから、この条件は本当に俺の我儘。しっかりと事件を解決できたのか確認したい自身の保身なのだ。
「ですが、見てみたいと思いませんか?あなたたちが四葉の次期当主と噂する男の力量を……」
俺は蛇のように邪悪に笑って、そんな誘い文句を言って見せた。
◇◇◇
2095年7月24日
時刻は夜。場所は横浜、より厳密にいえば横浜グランドホテル前。目的は、香港系犯罪シンジケート『無頭竜』の東日本総支部の壊滅。俺と目的を同じくする国防陸軍第101旅団の風間玄信がここにいた。彼は俺とともに敵本陣へと乗り込むようだが、ほぼ俺を見定めるための口実だろう。それを指摘するつもりも、拒否するつもりもない。彼らとは協力関係であり、そしてそれは無意味であるからだ。
「セキュリティハックの完了を確認。作戦を開始する」
風間は部下からの通信でこのホテルのセキュリティ無効化を確認し、俺に行動を促す。
「では作戦通り、先陣を切らせていただきます」
彼らとの打ち合わせ通り、俺は奥の手を発動して何気なくホテルの入り口を潜る。先ほどまでこちらを注視していた風間だったが、
◇◇◇
横浜グランドホテルの最上階より一つ上の階。一般人は存在すら知らない階層に、俺は姿を隠すこともなく悠然と歩いていた。通ってきた道には、意識なく横たわる者達がいる。俺はある一室の前で止まり、自然な様子で扉を開ける。
「これはどういうことだ!なぜ我々の工作が暴かれている!」
「どうもこうも、今回の九校戦には一条・七草・十文字、
「止めるべきだと、私は進言したぞ……!」
「最後は賛同していたではないか!」
その部屋で話し合いをするのは3人の男性。無頭竜の幹部たちである。どうやら九校戦運営委員会に潜ませた手先たちが捕らえられた報を受け、失敗を悟り仲間割れを始めているようだ。彼らは
(ここにいるのは、幹部3人と手下3人。手下はおそらくジェネレーター、か)
壁際に屹立した者達を確認する。物言わず、目の前の惨事に眉一つ動かさないことから、『ジェネレーター』と呼ばれる自意識を剥奪された魔法師の成れの果てであることを察した。俺はまずその者達を無力化する。ジェネレーターとはいえ、意識が無ければ魔法も使えまい。
「なんだ、何が起きた!?」
幹部たちはいきなり倒れ伏した手下を見て、理解できぬ事態に激しく動揺する。が、その動揺もすぐに終わる。彼らも同様、俺の手によって気絶させられた。
「これは……」
終局したところに入室してくるのは風間玄信。彼は倒れている者らを見るだけで、俺を見ていない。
「失礼、風間さん。もう終わりましたよ」
俺は先ほどまで発動していた魔法を解く。
「!……それが、君の精神干渉系魔法か」
「ええ、俺固有の魔法、『アンキンドルドゥ』と呼んでいます」
四葉の血筋なら、精神干渉系に高い適性か、独特で強力な魔法演算領域かを持つ。リライト能力による後天的な四葉である俺も御多分に漏れることなく、精神干渉系魔法を得意とし、固有の精神干渉系魔法を持っていた。
「認識阻害に、記憶操作か……」
風間は少なくない恐れを口にする。彼が言ったように、『アンキンドルドゥ』は認識阻害と記憶操作を兼ねる。効果範囲は自身を中心とした最大半径1kmという広範囲であり、精神干渉系としては稀有な個人ではなく範囲を対象とするものである。その範囲内では、術者である俺を認識することができず、俺を思い出す事さえできない。だからこそ幹部たちはさっきの発言中、俺の存在を忘れ、四葉の関与を口にしなかった。まぁ範囲内から出たり、魔法を解けばすぐに思い出すが。
「効果は凶悪ですが、やはり協力には向きませんね。味方も効果範囲に入ってしまうんですから」
この魔法のデメリットはそれである。対象が範囲であるため、味方だろうが問答無用に効果を適用する。
「何はともあれ、これで作戦終了ですね。彼らの身柄はそちらでお願いします」
「ああ。協力、感謝する」
「こちらこそ。俺の我儘な条件を呑んでいただき、ありがとうございました」
彼の俺に対する警戒心を気にも留めず、一礼した後に俺は悠々とその場から離れた。ここですべきことは終わり、今回起こる事件を未然に防げただろうと一旦安堵した。
◇◇◇
2095年7月27日
昼休み。九校戦に対して何の憂いもなくなった俺はいつも通りベンチに腰を下ろしていた。いつものように周りからの少なくない好奇の視線を感じつつもどうにか意識しないことに慣れた中、今まで感じていた視線とは気色の違うものを一つ知覚していた。
「はぁ……。いつまでそうしてるつもりなんだい?」
俺はその視線を向ける者がいつまでも出てこないことに待ちくたびれて、発生源の方へ言葉を投げる。
「き、気付いてたのか」
「視線には敏感でね」
俺の言葉でようやく少年が木の影から姿を表す。
「初めまして、
その少年は少し遅れて達也一団に加わった吉田幹比古だった。俺は最近達也一団の集いには混ざっていないので、ここが彼との初対面になる。
「僕を知ってるのか!?」
気弱に怯える幹比古ではあるが、知っていて当然だと思う。幹比古自身が『吉田家の神童』なんて呼ばれていたことを忘れているのか、思い出したくもないのか。
「そんなに深くは知らないな。ただ、理論の成績が随分と良い二科生が居て、『吉田』なんて苗字だから少し興味を持っただけさ」
『吉田家』は古式魔法の家として有名であり、古式魔法師と現代魔法師の間には溝がある。だからこそ、現代魔法の学び舎である魔法科高校に入る古式魔法師は少ない。幹比古は自覚がないと思うが、彼は彼で目立つのだ。
「そうか……」
「それで、何か用かな?」
恐れが先行してか、気後れしてばかりで話が進まない彼を促す。
「……君に訊きたいことがあるんだ」
「訊きたいこと?」
決心したように気を引き締める幹比古。俺は彼が訊きたいことというのを予想できなかった。
「モノリス・コードの練習を見ていて感じたんだ。君の魔法展開速度は、実技の成績で優れている深雪さんよりも早い」
モノリス・コードやアイス・ピラーズ・ブレイク等いくつかの練習は他の生徒にも見学できるようになっていた。選手を目標とさせるためか、競技の性質上見学できるような場所でしか練習ができないためかは知らないが。そこで深雪と俺の練習を見たのだろう。使っている魔法が違うために魔法の展開速度など比べようがないはずだが、直感的に何か感じたのかもしれない。
「それで、どうすれば魔法を早く発動できるのか教えてほしいんだ」
切羽詰まったというか、何かに追い込まれているように真剣な目をしていた。それで彼が俺を頼ってきた理由を何となく理解した。彼はスランプを抜け出すために、『四葉』の知識を借りたいのだ。
「どうすれば早く発動できるか、というのは多分俺が使ってる手を教えても幹比古さんの身にはならないだろうな」
俺の魔法展開速度が早いのは、簡単な話、起動式の時点で変数や穴あきが少ないからだ。起動式の時点でほぼ完成した魔法であるから、魔法式として完成させる手間が少なくて済む。万能を求められる魔法師としては魔法の汎用性がなくなるので避けられる手法だが、超人技能を誤魔化すために早く魔法を発動したい俺ならではの手である。
話は戻るが、この手法は起動式が無ければ使えない。そのため、起動式を使わない古式魔法ではこれが使えないのである。古式魔法師であり、CADを使っていないが故に起動式も使っていない彼に教えても、意味がないのである。
「そんな……」
彼の様子は最後の希望が断たれたと言わんばかりだ。
「だけど、俺から別の案を提示できるよ。でもこの案は君の魔法を、『吉田家の魔法』の秘密を、最悪解き明かしてしまうかもしれないけど」
「構わない!教えてくれ、どうすればいい!?」
藁にも縋るとは彼の今の状態を言うのだろう。秘密を抱える人間としてはあまりにも浅慮過ぎる態度だろうが、何としてでも前に進もうとする彼には好感が持てる。
「じゃあまずは、達也の時間を貰わないと、だな」
「た、達也の?」
今の話に全く関係が無さそうな達也の名前が出されて困惑したようだ。説明を省いたためにそう思えるかもしれないが、この案は達也が居なければ始まらない。
「ああ、達也に君の魔法を見てもらって起動式を組んでもらうのさ」
◇◇◇
放課後。俺は達也に話をつけ、どうにか彼の時間が取れた。
「この忙しい時に悪いな、達也」
「全くだ。俺の過労を心配してくれてると思ったんだがな」
少しばかり睨んでくる彼から俺は顔を背ける。
「すまない、達也。でも僕には君の力がいるらしくて」
「気にするな、幹比古。俺は別に責めてないし、了承したからここに居るんだ」
幹比古の弁護によって達也の視線から解放される。
「それに、雫も十六夜に用があるらしいからな」
達也は俺たち以外のここにいるもう一人、雫に意識を向けた。現在達也の時間の多くは、彼女の調整に付き合っているため、彼女の了承もなければこの時間は設けられなかったし、今居る第二演習場も予約できなかった。この時期は九校戦選手が練習のためによく演習場を用いる。そのため、選手が予約を優先されるし、本戦の方が得点も多いために本戦選手を優遇し、新人戦選手は雰囲気的に個人では借りづらい状態にあった。
「今回は色々とありがとう、雫さん。俺で良ければ協力するよ」
「うん、遠慮なくアドバイスをもらう」
アドバイス程度で力を貸してくれるなら是非もないが、彼女が俺を頼るような事とは何だろうか。
「じゃあ俺たちは整備室の方に行ってるから、雫のことは頼んだ」
「ああ」
演習室に備え付けられたCAD整備室へと達也は幹比古を連れて行く。ちなみに、CADは風紀委員の備品を適当な理由を付けて持ってきたらしく、それを幹比古に使わせてみるそうだ。俺を睨んではいたが、吉田家の古式魔法を分析できるので割と乗り気だったようだ。
「それで、俺にして欲しいアドバイスって何かな?」
彼女の実技成績は3位。俺が2位であるから俺の方が優れていると言えば優れているだろうが、雫が競技中おもに使うのは振動系魔法。その振動系魔法だけで見れば、彼女は俺より優れていた。少なくとも達也が作った振動系魔法『
「前に複数CAD同時使用が得意だって言ってたから。そのアドバイスを貰いたいの」
彼女は腕輪形と拳銃形のCADを俺に見せる。それで俺は原作にあったことを思い出した。
「汎用型と特化型を同時に使うことで、双方の欠点を埋めようとする作戦か。達也が思いつきそうなことだな」
彼女は俺の言葉を頷きで肯定する。そう、彼女は今回のアイス・ピラーズ・ブレイクで切り札としてその作戦を達也より提案されていた。だが、この作戦はCAD同士の干渉波を抑える技術が使用者に求められる。一朝一夕で習得できるものでは決してない。
「雫さんならそこまでしなくても勝ち上がれると思うんだけどな」
「でも、ここまでしないと深雪に勝ち目すらない」
彼女の表情は、いつもは変化に乏しくて感情が読みづらいが、今はとても強い熱意がはっきり感じられる。
「分かった。俺ができるアドバイスならするよ。でも、こればっかりは個人の感覚だ。俺の感覚と雫さんの感覚は違うだろうし、参考にならないかもしれないが」
「それでも聞きたい」
彼女はまっすぐ俺の目を見つめる。その目には俺への信頼や期待が込められているように思えて、何故か心が痛むが、『魔法科高校の劣等生』における重要人物である雫の為にそれを気にしている場合ではない。
「……俺の場合は、自身の中のサイオンを感じ取れるようになったのがこの技術習得の鍵だったな」
「自身の中の、サイオン?」
魔法師はサイオンを知覚する感覚があるが、それは起動式として等の魔法師から外に出た場合だけだ。魔法が使えるのだから、魔法師の中には常にサイオンがあるはずだが、それを初めから知覚できる者はいない。彼女にとっても非常識であるため、疑問を呈したのだろう。
「ああ、俺たちは魔法師だから内に有って当然だが、魔法師じゃない人にはサイオンがない。じゃあ俺のどこにサイオンがあるのか考え続けた時、俺は自身のサイオンが血管に沿うような形で流れている、そんな風に感じ取れるようになった」
「どこにサイオンがあるのか考え続けた」というのは事実であるが、それはリライト能力によって自身を魔法師に書き換える前のことである。サイオンというのがそのように内にあるイメージをして書き換えたため、今でもそのように感じ取れる。
「……すごいね」
彼女は何かに感心しているようだが、俺は何処にそんな要素があったのか分からず首を傾げた。
「魔法師と魔法師じゃない人の違いなんて考えたこともなかったし、サイオンがあるのが当たり前ってずっと思ってた」
「まぁ、普通はそうだろうな」
俺のように魔法師として書き換えなければならない機会でもなければ、そうそう考える題目ではないだろう。そんな機会に恵まれたが故の副産物に感心されても、俺はむず痒くてしょうがない。
「とりあえず、全く非科学的で申し訳ないアドバイスだが。自身の中のサイオンに意識を集中してみると良いよ」
「うん……」
俯き不安そうな彼女。俺はそんな彼女を初めて見た。
「何か心配かい?」
「うん、あと1週間くらいでCADの複数同時使用までいけるのかなって」
雫には時間がない。試合まで1週間とちょっとであり、練習に打ち込める期間はもう3日しかない。俺は彼女を励ますべく、前世で聞いたとある言葉を思い起こした。
「『お前を信じる、俺を信じろ』」
「え?」
「雫さん。もし自分が信じられないなら、他の誰かを信じてみると良い。君ならできると信じてくれる誰かを信じてみればいいんだ」
言葉を発している途中で胸が疼いたが、訳も分からないので無視し、俺はそれを隠しながら彼女に諭した。
「達也の作戦なら、丁度いいから達也を信じてみるのはどうかな」
「……」
「……どうしたんだい?」
何も答えず数秒こちらを見つめられればさすがに戸惑ってしまう。
「十六夜さんは、私ならできるって信じてくれる?」
「ああ、もちろん。雫さんならできるさ」
原作では彼女だけの力でそれを可能にしていた。そもそも俺の助言などなくても彼女ならできるはずなのだ。俺から疑うことは一切ない。
「ありがとう」
彼女から微笑みは俺にとってとても眩しいもので、謂れのない罪悪感を覚えた。
風間玄信:『四葉』を名乗りながら深雪のように護衛が居るわけでなく、しかも単身で四葉から離れているため、護衛が要らぬほどの強力な魔法師と疑っている。それを見定めるべく作戦に協力させ、尚且つ彼の実力が試しやすい作戦を立てた。作戦結果を見て、疑いは確信に変わり、十六夜のその余裕な様子から、まだ奥の手があることを予想し警戒する。現状、戦闘級・戦術級としてなら達也以上の脅威ではあると判断している。
『無頭竜』の幹部3人:『無頭竜』では立場が危うい状況となっており、名誉挽回するべく部の悪い賭けに出ていた。しかして名誉完全返上する結果となる。捕らえられた後に国防軍の方で尋問されるが、『無頭竜』の情報は既に古いモノであり、有益な情報は強いていうなら持ち込んだジェネレーターの安置所と
『アンキンドルドゥ』:魔法師としての十六夜の奥の手であり、十六夜固有の精神干渉系魔法。その効果は効果範囲内の全生物に対して、術者を認識する事と術者に関する情報を想起する事の阻害。無生物に対する干渉は認識されないが、生物に対する干渉は認識される。効果範囲は術者を中心とした最大半径1kmの球。効果範囲内の生物全てを効果対象にする、個人に対してではなく範囲に対して作用する魔法である。弱点として、効果対象を区別できない事・長時間発動できない事・この魔法発動中は他の魔法が使えない事が上げられる。
『アンキンドルドゥ』というネーミング:英語の「Unkindled」の意味、「火がつけられていない」から転じて、「灯っていない『火』を『火』と認識できないし、そこに『火』がつくと誰も思わない(≒覚えていない)」という表の意味を込めたネーミング。十六夜本人しか知らない真の意味は「Rewriteの篝の力」に似ていなくもない魔法だが、「俺は篝でもなければ、まして『篝火を掲げし者』でもない」という皮肉と自嘲を込めたモノである。
吉田幹比古:前日の喚起魔法の練習で、人に話しかけられただけで魔法を暴発してしまったことから、まさに藁に縋る思いで十六夜からの助言を願う。スランプの解決策を提示してくれた十六夜には感謝している。が、何故会ったばかりの人間である自身に対してすぐに解決策を出せたのかが分からず、未だ彼に対する恐れが残る。おかげで十六夜に感謝を伝えられずにいる。
風紀委員からCADをかっぱらってくる達也:しかしこの技術者、ノリノリである。
閲覧、感謝いたします。