2097年2月22日
〈皆様にはまず結果からお伝えします。箱根で自爆テロを手引きした犯人は、USNA軍の協力の下、私たち捜索班が処断致しました〉
テレビの画面に映し出される映像にて、俺はジード捜索の代表として立ち、発言していた。脇には克人と七草智一、そしてベンジャミン・カノープス少佐が控えている。
彼らの背後にあったスクリーンには、カノープス少佐の手によってジードが船もろとも真っ二つにされている動画が流され、さらにジードがテロ事件を手引きした証拠となる文書が複数表示されている。
動画は、周妃がチョウゲンボウの『付喪神』にカメラを持たせる事で撮影したモノだ。証拠の文書も、そのほとんどが周妃によってもたらされた物であり、あいつの功績は計り知れない。俺からの褒美が欲しくて全力を出したのかもしれない。
〈我々は同じくテロリストを追っていたUSNA軍と手を組み、その追跡に成功していました〉
USNA軍との連携も証拠を提示するため、カノープス少佐を指し示して彼に一歩前に出させつつ、またスクリーンの方で協力する旨をしたためた文書を表示する。その文書は昨日USNA軍側と話し合って偽造した物だ。
〈しかし、テロリストが狡猾だったため、公海を目前にする場まで逃げられてしまいました。もし公海まで逃げられてしまえば、それ以上の追跡は他国との衝突を招きかねません。だから、我々はその場でテロリストを処断するしかありませんでした。かのテロリストに罪を償わせる事ができなかったのは、俺の未熟故です。本当に申し訳ありませんでした〉
当初の目的、テロリストの捕縛ができなかった事を、顔に謝意を張り付けながら謝罪する。
その告げられた結果と謝罪により、民衆の意見はおおよそ3つに別れた。
テロリストを処断できた事だけでも素晴らしいと褒め称える意見。
十師族直系が主導の組織なのだからやはり不甲斐ないとする意見。
それらと別方向で、俺たち直系ではなく、その仕事を任せた十師族当主側に問題があると非難する意見。
以上の3つだ。
〈しかし、テロリストは間違いなく処断しました。それは俺だけでなく、USNA軍も証言してくれます。皆様が此度のテロリストに脅えなくて良い事だけは、四葉家当主直系たるこの四葉十六夜が保証いたします〉
ただ、様々な意見を持ちながらもその心情は、その俺の保証により1つに集約する。何にせよ、自爆テロに巻き込まれる事はないのだと。
それにより安心感を得たからだろう。元々好意的な人たちだけでなく、捕縛失敗に対しては厳しい意見を持っていた人たちも、その多くが俺たちに肯定的だった。不甲斐ないが、将来性はあるとか、責任感はあるとか。当主たちは駄目だが、あの直系たちは信頼できるとか。
まぁ、そこら辺の民衆意識は後々どうとでもできるので、今は気にしなくても良いだろう。今気にすべき部分は、別にある。
今気にすべきは、目の前にいる男性の事だ。
「……と、表向きはこうなっています。裏の話は聞きますか?」
俺はテレビから目を離し、目の前にいる男性患者へ声を掛ける。誰よりも健康そうな彼を『患者』と称するのは違和感があるが。
「……いや、聞かん。しがない警官1人が真実を聞かされたって、どうせ上からの圧力かかってどうしようもなくなる。……それより、聞きたい事がある」
男性患者は、言い逃れを許さぬように、俺を睨みつけた。それはそうだろう。何せ彼は――
「貴方が求める限りの真実を話しましょう。それが、俺の義務だ。千葉寿和さん」
――ジードの魔の手にかかり、死んで
「……俺に何をしたんだ」
「……まず初めに、貴方は敵に操られる精神干渉系にかかっていた。それを、四葉が対抗魔法として開発した精神干渉系で解いたのです」
「ふざけないでくれ!」
寿和は叫ぶ。しかしその叫びは、敵に操られてしまった事実を受け入れられない故のモノではない。
「俺の体の変化について、身体能力が上がって、食欲も以前より旺盛になった事について、何の説明にもなってないじゃないか!」
その叫びは、教えられた事実と自身の現実に相違がある故だった。
彼は、俺の言う事が嘘だと分かり切っていた。その嘘を騙される気もなかった。
「……これは表向きの情報です。……貴方には、真実を知る権利がある。でも、その真実を聞けば貴方は、事件の真相なんかより重い責任を背負う事になりますよ」
「……俺の体の事だ。知らないままだったら、不安すぎて頭がおかしくなっちまう」
俺が凄む事での脅しにも屈せず、真実を聞く覚悟を決める寿和。彼は、教えなかったら暴れると暗に脅し返してきた。
俺も、真実を話す覚悟を決める。それが、人を勝手に実験台にした事への贖罪だ。
「最初から行きましょう。貴方は今回テロを起こした男、ジード・ヘイグの魔法にかかりました。その魔法が『
「……正直、死んだ自覚はあるんだ。浅黒い肌の男、多分ジードって野郎だったんだろう。そいつに何かされた記憶も、それから君と戦った記憶も、ぼんやりとある。でも、おかしいじゃないか。どうして俺は、今生きてる」
自身が
「……表現が難しいのですが、あの魔法は対象を完全に殺す魔法ではなかったようです。言うなれば、対象を特殊な仮死状態にしていた。だから、貴方にも意識があったのでしょう。自意識は、なかったでしょうが」
「……ただ仮死状態にするんだったら、魔法を解いたら仮死状態が解かれるんじゃないのか?」
「ただの仮死状態ではありません。『特殊な仮死状態』です。……一応、その『特殊な仮死状態』について、今回の術者自身が記した文書があります。残念ながら、現代魔法師である我々に理解できるような文書ではありませんでしたが」
俺は『特殊な仮死状態』の事を理解できない寿和に、周妃がジードのアジトを見つけ出して掘り起こした文書を手渡した。
ただそれは、現代魔法用語ではない、オカルトとすら感じる単語が羅列された、最早怪文書と呼ぶにふさわしい文書である。当然、俺や四葉は読み解けておれず、自然、寿和も文書に苦い顔を向けるばかりだ。
「四葉が読み解けた限りの知識で説明しますが。『僵尸術』は、対象を殺す事により生命力を抜き出し、死体にそれをプールする。さらに、その生命力をサイオン操作する制御力に変換する事で死体を操り、魔法力を一時的に増大させる事も可能とする魔法、のようです」
「生命、力……」
俺が語った魔法の効能に、寿和は信じられずに半ば放心していた。
無理はない。何せ、文書を読み取ったように語っているが、これは達也が『エレメンタル・サイト』で視た現象を、生命力という存在不確かなモノがある前提で組み立てた仮説にすぎないのだ。
達也の仮説じゃなかったら、四葉どころか俺も鼻で笑っているところである。
とりあえず、俺もその仮説を真実として、寿和への説明を続ける。
「貴方は殺されたが、生命力は貴方の体に丸々保存されていた。無論、貴方を操るエネルギーとして消費されておりましたが、その大部分は確かに貴方の体の中にあった」
「……じゃあ、何か。その俺の生命力と、俺の体を繋ぎ直したって言うのか」
「言い得て妙ですね。おおむね、その通りです。繋ぎ直すのに、また貴方の生命力を消費してしまった訳なんですが」
「あり得ない!」
自分で適切な表現をしておいて、寿和はその事実を疑った。疑い過ぎて、生命力が大分使われている事を聞き漏らしていないか、俺は少し不安を抱く。
「『生命力』?そんな、科学でも、魔法学でも立証できないモノを使う魔法なんて、あるはずがない!」
「では、実証しましょう」
理論的に事実を否定してくる寿和に、俺は仕方ないと証拠を見せる事にした。
その俺の言葉から『僵尸術』が使われるものと勘違いした寿和は身構える。しかし、実証に用いるのは『僵尸術』ではないしリライト能力でもない。
まず俺がある物を取り出す。それは、見るからに金属製のブロックと、食事に使われるようなナイフだった。
俺はその金属製のブロックを、ナイフで切断する。これ見よがしに、緩慢な動きで。バターでも切っているかのようにナイフを滑らせていけば、ブロックは綺麗に2つになった。
「……は?」
「種も仕掛けもありません」
呆ける寿和の前に、俺は種も仕掛けもない事を確認させるため、2つになったブロックとナイフを置く。
彼がそれらを手に取って、ブロックがしっかり金属製で、ナイフもこれといって特別性でもなんでもない市販品で、それらに一切の魔法的痕跡がない事を確認する。
彼は、呆けた表情のまま固まる事となった。
「さて、これが『生命力』云々と何の関係があるのかと言えば。『生命力』を用いた身体能力の強化で得た俺の能力という話。そして、おそらく貴方の体に起こってしまった事の話です」
「……嘘、だろ」
ここまで立証してようやく、寿和が否定しきれなくなった。自身の変化、実際自分の体に起こっている事なのだから、否定しようもないだろうが。
「この能力は『生命力』を用い、身体を強化・変化させられる力です。だから、貴方の体を、一度切り離された『生命力』と繋がるよう、変化させる事ができた。副次的に貴方の体を強化させてしまったのですが。その点だけは申し訳ない。なにぶん、被験者は俺と貴方しかいなかったもので」
「……」
説明する俺に向けられる寿和の目は、「マジかよ」と驚きを如実に伝えていた。
「この『生命力』を扱う能力は科学的に立証されてないだけあって、四葉でも俺以外用いる事ができません。だから、貴方の命は救えましたが、貴方の部下までは救えなかった」
「……そう、か。……稲垣は。……いや、こんな訳の分からない事にあいつを付き合せなくて良かった。四葉の実験に付き合うくらいなら、安らかに眠った方がマシだったかもな」
現実と受け入れだしたが、あらぬ方向に理解が飛んでいっている寿和。どこから実験させる話が出てきたのだ。
「……あの、一応言っておきますが。ちょっと口封じはするだけで、別に四葉に幽閉したりはしませんよ?」
「……マジで?」
「……マジですけど」
「……ヤバイ、ちょっと泣きそう」
泣くのがそこなのかと、ツッコみそうになる。部下の死で泣いてやれ、覚悟はできていたのだろうが。
「俺の話を、信じるって事でよろしいですか?」
「話の半分も理解できてないけどな。まぁ、仮死状態にして操られて、それの解除のために特殊な施術をしたって事だろう。で、その副作用で身体能力上がって食欲増進と。操ったのは古式魔法で、解除したのは四葉の技術だ。そういう訳が分からない事も起こるだろう」
「……」
最初からそういう理解でさっさと受け入れて欲しかった、なんて言葉を俺は呑み込んだ。
何にせよ、寿和が現状を受け入れてくれたのだ。これで話が進められる。
「いくつか質問、良いか?」
しかし、話を先に進めだしたのは寿和の方だった。
「もちろん」
「『生命力』を使ったって事は、俺の寿命って縮んだりした?」
「ええ、確実に縮んでいます。ジードの魔法と、俺の施術で、確実に。そして、残りの寿命については、残念ながら分かりません。『生命力』の総量を測る技術は、さすがの四葉も持っていませんので」
「目安とかも、なしか……?」
「残念ながら。先程も言いましたが、被験者は俺と貴方しかいませんので」
「そうか……」
寿和は神妙な顔で俯く。俺には、余命が分からない事への恐怖と不安によるモノに映った。
「なら、早く結婚しないとな」
全くのお門違いだったが。
「……は?」
「いや、こう見えても千葉家の長男でな。跡継ぎ問題には煩いんだよ。修次がもう良い感じだからそっちに投げたいところだが、しかし兄としてその問題を弟に押し付けるのはどうかとも思うんだ」
「……」
寿和は、結婚の事を考えていた。
理解はできなくはない。名家の長男となれば、子供を作る事、跡継ぎを育てる事は1つの使命だ。生い先が短くなったとなれば、今まで遠ざけていたその問題も目の前までやってくるだろう。
まぁ、寿命が削れたと知って、最初に考えるのがそれかと、俺は神妙な表情を浮かべてしまうが。
「この際だから、藤林さんにプロポーズしてみるか……。うん、そうしよう。駄目で元々。脈ありならめっけもんだ」
なんだか交際相手まで目星を付ける始末。始末に負えないとはこの事か。
「おっと。まだしたい質問があるんだった」
「……どうぞ遠慮なく。答えられないものはそう言いますので」
「ありがとう。じゃあ遠慮なく」
どんなしょうもない質問が飛んでくるかと、緩んだ空気のままで構えてしまった。
そんな俺に不意打ちが飛んでくる。
「君は、その施術で魔法師になったのか?」
思わず、俺は呼吸を忘れてしまった。
「君の身の上的に狙われやすいのは分かるんだが、それでも我が子を15年も隠し続けるとは思いづらくてな。九校戦見る限りでも世代屈指の魔法師だろう、君。そんな君をそこまでの手間をかけて守るかってな。俺が親だったら、むしろ『自慢の息子だ』って自慢したくて、きっと我慢できないな」
だから、寿和がそのまま推測を連ねる口を、塞ぐ事ができなかった。
「それで、身体を強化するに留まらず、変化させる事も可能な技術があるって言うじゃないか。もし仮に、俺の息子が魔法師として欠陥を抱えてたら、息子の寿命を削ってでも使っちまう気がするんだ」
寿和は推測をつらつらと語っていく。
魔法師の子供が魔法を使えない事により引き起こされるだろう諸問題。魔法師の名家・千葉家の長男だけあって、それらを予想しやすいのだろう。自分の視点、自分がもしそういう立場になったら、という仮定の意見まで述べてくれた。
それが、彼の、いや、俺の小さな不幸だ。
「俺がそうなんだから、四葉も君に―――」
「その好奇心は貴方を殺すぞ。千葉寿和」
「―――っ!」
寿和がしようとした話の先を、決定的な明言を、俺は殺意も混ぜて制する。それが功を奏し、彼の口を塞ぐ事ができた。
「最優先の禁則事項だ。その推測を他人に語る事を禁じる。破った場合は、分かっているだろう。貴方に施術をしたのは俺だ」
「わ、分かった……。命を救われた上に自由にしてもらえるんだ、従うよ……。変な事を訊いて、悪かった……」
「分かってくれたら良いんです」
まるで命運はこちらが握っているかのように脅せば、寿和は素直に従ってくれる。充分に彼を掌握できたと、その時点で俺は殺意を収めた。
「他に質問はありますか?」
「……いや、大丈夫だ」
まだ訊きたい事はありそうな寿和だったが、これ以上地雷は踏みたくないらしく、ここまでで好奇心を抑えている。
「そうですか。では、こちらからいくつか説明しなければいけない事を。……体、動きますか?」
「ん?あ、ああ。医者からも、ここにいる患者の誰よりも健康体だと言われてるよ」
「では、少し場所を移しましょう。着替えを用意させますので、着替え終えたら使用人に声を掛けてください。使用人に案内させますので」
「……、まぁ、了解」
まだ説明が済んでいないというのに急な場所変更。疑問は尽きないだろうが、さっきの脅しもあったためか、寿和は素直に従ってくれた。
そうして俺は寿和と一旦別れ、使用人に指示を出す。それから所定の場所に向かった。
向かった場所は、四葉の里にいくつかある鍛錬場、その1つだ。
今更だが、寿和が入院していた病院は、四葉本宅を中心に様々な四葉所有施設がある四葉の本拠地、四葉の里にある一施設である。
本来、四葉の人間・使用人以外立ち入れないこの場所に寿和がいる理由は、四葉でもトップシークレットである俺のリライト能力を彼に用いたからだ。間違ってもその事が露見しないよう、経過観察はこの四葉の里でするしかなかったのだ。
閑話休題。
そんな四葉の里になる鍛錬場で、俺は寿和を待つ。
そうしていれば、そう待たずに寿和が運ばれてきた。そう。目隠しして車椅子に座らせられる形で、運ばれてきたのだ。
先述しているが、ここは四葉の人間・使用人以外立ち入れない場所。故に内部構造もできる限り記憶されないよう、そういう措置を取っている。
「……分からなくはないんだけどな?」
ようやく目隠しを外して自由になった寿和も、以上の事情は分かってくれているようだ。なので、俺は彼の不満を微笑みで受け流す。
「……それで、何を説明するんだ?」
「貴方の得た力についてです」
眉間の皴を解そうとしている寿和から促されるように、俺は携えていた日本刀を鞘から抜き、用意しておいた金属製の柱を切り捨てる。これまた、バターでも切るように緩慢に。
「……さっきも見たが、未だに信じ難い光景だな」
「身体を強化あるいは変化させる施術を受ける事によって、副次的に得られる能力です。これも観測例が少ないですが、俺のような異常な切断能力を得るのを伐採系、固有魔法を新たに得るのを汚染系と、分類しています」
「…………あのぉ、また禁則事項に触れそうなんだが」
俺の言葉におかしい点があると気付いたのだろう。寿和は気まずそうにしながら発言許可を求めるように挙手していた。
「……君以外にもそういう能力を得た人間がいるのか?」
そう。俺だけだったら伐採系以外の分類があるはずない。なのに、それ以外の分類があるという事で、自然、寿和は俺以外に特殊な能力を得た存在がいる事に気付いたのだ。
「ええ、います」
「ああ、良かった。これ訊くのは禁則事項じゃないのか」
「他言は禁則事項ですけどね」
「……知ってた」
寿和は俺の怒りを買わなかった事に胸を撫で下ろしつつ、増えていく禁則事項に肩を落とす。
「この『生命力』を扱う能力は、自在に扱える者こそ俺しかいませんが、多くの偶然が重なって使ってしまう人もいるようでして。汚染系の能力を得た人はそっちになります」
「じゃあもしかして、誰でもそういう特殊能力を得られる可能性が―――はいはい分かりました!これは推測する事もタヴーな禁則事項ね!」
寿和がまた余計な推測を語りだしたところで俺が殺意を一瞬漏らせば、実に察しよく推測を止めてくれた。物分かりが良い人間は大好きである。
これ以上余計な推測を彼がしないよう、俺はさっさと説明の続きに戻る。
「こうした特殊能力に目覚める人間を、俺は『超人』と呼称しています。常人ができない事をやってのけるという点で、人を超えていると評せますからね。それに、身体能力も人を超えています。ついでに食欲も」
「ああ、その特殊能力と異常な身体能力、それに食欲増進もセットなのか。なるほどな」
ここで全てが繋がったと、寿和は得心した清々しい顔になった。
「ちなみにお聞きしますが、貴方はどちらで?」
「……多分、汚染系だな。まだ試してないが、何か、できる気がするんだ」
「試しますか?」
「よろしく頼む。……その刀、借りて良いかな?」
俺は寿和に汚染系能力を実践してもらうべく、喜んで刀を貸す。
そうして、寿和は千葉家らしい綺麗な構えを取って、金属製の柱を正面に見据える。ただ、その柱は明らかに刀の間合いに入っていない。これでは伐採系だったとしても切れないだろう。
「………。っ、ぜあぁぁぁぁぁぁ!」
寿和が凄まじい気迫と発露しながら、上段から刀を振り下ろした瞬間だった。
刀の間合い外、刃が届かぬところにあるはずの柱が、斜めに滑り落ちたのだ。丁度、寿和の剣筋を沿うように。
「……切ったという情報を対象のエイドスに書き込む魔法?」
「……悪いが、原理はさっぱりだ。単純に、切れると思ったら切れた。だけど、何でもは切れないだろうな。切れる自信のない物は多分切れない」
寿和に芽生えていた固有魔法。それはやはり壬生と同じで、感覚的な魔法だった。ならば、壬生の『雷切』と同じく、魔法式を書き出す事はできないし継承もできない、彼だけの魔法だろう。
「とにかく。これで貴方が汚染系である事が確定しましたね」
「この魔法の使用も禁則事項だったり?」
「そこまで縛るつもりはありません。超人的な身体能力も合わせて、ご自由にお使いください。ただ、身体能力の方は魔法であると誤魔化していただきたい」
「まぁ、そうだよな。リハビリって名目で運動させてもらってたりしたが、自分でも度肝を抜かれる身体能力だった。あれは魔法って誤魔化さないと拙いよな」
超人的な身体能力、超人技能を衆目に曝すのは拙いという理解はしっかりあるようで、魔法によって誤魔化してほしいという条件はあっさり呑み込んでくれた。
「誤魔化し用の魔法はこちらになります。拳銃形特化型CADの扱いは?」
「大丈夫、取り柄が剣だけなんて事はねぇさ。警察だからな、中距離魔法も使えないと。……でも、カートリッジ機構は使い慣れてないかなぁ」
俺が起動式ストレージをカートリッジ化しているCADを手渡せば、寿和は言葉の途中なのに自信を失くしていった。
「使い慣れてくださいね。汎用型だと起動式の展開速度がどうしても足枷になりますので」
「言われてみれば。魔法の発動を待つのはもどかしくなりそうだからな。……分かった、慣れるように努力するよ」
寿和は少しげんなりしながらも、溜息1つでその溜飲を下げた。そうして、俺から手渡されたCADを懐に収める。
「さて。これで俺から話すべき禁則事項と説明は以上です。それ以外は、母上も交えてになります」
「……これから、俺は四葉現当主とその直系に囲まれなきゃいけなのか」
重要な部分が終わったが、まだまだ話し合いは終わらない。寿和は下げた分以上の溜飲をため込んだように、俯いて項垂れるのだった。
『この際だから、藤林さんにプロポーズしてみるか……』:1つのカップル成立が約束された瞬間である。
千葉寿和の超人スペック:超人の中でも下の下。Rewriteで言えばガーディアンに入りたての西九条灯花レベル。それでも短距離走世界記録保持者のペースで数㎞は走れる(超人になった壬生紗耶香とほぼ同等)。
千葉寿和の固有魔法『一閃』:既存の魔法体系に当てはめるなら加重系魔法に分類される。また、『基本コード』、『加重系統プラスコード』の発展形とも言える。対象にした作用点に刃物で切るような圧力をかける事で、作用点を結果的に切断する。干渉力は切断する物体にかかっているのではなく、作用点のみにかかっているため、対象が持つ魔法対抗力の影響を受けづらい。寿和であれば、深雪レベルの対抗力は突破し、魔法を発動できるだろう。
千葉寿和はこの魔法を感覚的にしか使えないのもあって、対象の切断を強くイメージする必要があり、それに合わせ、そのイメージをするための集中力も必要となる。
千葉寿和の汚染系能力:身体機能である魔法演算領域を強化され、加重系魔法への適性が飛躍的に上がっている。彼は加重系のみではあるが、並の魔法師を凌駕する事となった。それ以外の魔法適性は以前と変わりない。
閲覧、感謝します。