魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

112 / 179
第百十二話 幕間~派閥争い?~

2097年3月30日

 

 一昨日あった西果新島竣工記念パーティーは俺の方も達也の方も死傷者を出す事なく、無事収める事ができた。

 ただ、俺は五十里からかなり本気めにお叱りを受けた。『あれが演技だったのも、効率的な手段だったのも理解できる。でも、演技とはいえ、僕の大事な人を見捨てるような物言いをされた僕の気持ちを理解してほしい』と、いつも笑顔の彼が真顔でそう告げる程の本気度だ。さすがの俺も恐怖したし、謝罪したし、反省した。後日、五十里家と千代田家に菓子折りを持参する予定である。

 しかし、それは今日すべき事ではない。千代田と五十里が沖縄でまだハネムーン中(?)なのもあるが、主因は別にある。

 

 俺は今日この日、真夜から四葉本家に来るよう、呼び出されているのだ。何故なのかは、残念ながらまだ聞けていない。

 だから、その理由をしっかりと聞くため、沖縄旅行を終えてすぐに四葉本家へと参上している。この急用さえなければ今日も沖縄旅行ができていたために、雫には少し残念がられた。真由美は安堵しているようで、やっぱり少し残念がっているのを隠せていなかった。

 とかく、そんな嫁(候補)たちを振り切って、俺は真夜の目の前に居る。

 

「母さん。急な呼び出しだったけど、何か火急の用かい?」

 

「『火急』と言う程ではありません。しかし、今回達也さんからの報告で、気になる事がありました」

 

「気になる事?」

 

 達也からの報告だというのに、追及されるのが俺という不思議な状況。何か達也が告げ口のような事をしたのだろうが、俺に思い当たる節はない。

 

「……十六夜。……貴方はジャスミン・ウィリアムズに強い関心を示したようね」

 

「……まぁ、それは報告通りだけど。……追及されるような事かい?だって、遺伝子異常である一定以上の年を取らないっていう調整体だよ?母さんだって興味を持ったんじゃないかい?」

 

 いつになく真剣な顔をしている真夜。俺の疑念は深まるばかりだ。早く答えを聞きたいところである。

 

「確かに、私も年を取らない調整体というのには興味を持ちました。でも、達也さんからの報告を聞く限り、貴方と私は関心の方向が違うように思いました。私はかの調整体を研究したかったのに対し、貴方は手駒にしたかった」

 

「そうだね。俺は彼女を手駒にしたかった。でも、別に研究したくないとか、人体実験から保護しようとか思っていた訳ではないよ。単純に、人体実験だけで終わらせるには勿体ない程、諜報員として高い有用性があると思ってただけさ。だから、DNAマップの記録とか、なんだったら卵子の保存とかはしつつ、諜報員として動いてほしかった、という訳だよ」

 

 ジャスミンを保護しようとしていたなんて疑いをかけられているだろうかと、俺はそう疑われている前提で弁解した。

 でも、真夜の顔は固いままだ。

 

「……十六夜」

 

「……何?」

 

「……貴方は、その。……幼い見た目の女性が好きだったりするのかしら」

 

 ようやく真夜が自身の持つ疑いを言葉にしてくれたのだが、俺は思わず椅子から転げ落ちそうになる。

 どうしてそうなったのだ。

 

「……まず、その質問には否と返答するけど。……どうしてそんな疑いを?」

 

「いえ、だって……。貴方、雫さんとは婚約を結ぼうとしているし、七草の娘とはかつて同棲した上に、今は隣近所でしょう……?」

 

 この真夜の言葉には転げ落ちそうになる事はなかったが、代わりに俺は頭を抱える。

 雫も真由美も、10代女性の平均身長より低く、比較的幼い外見をしている。ある種、幼い外見という部分でジャスミンと共通しているのだ。

 俺が親密にしている女性も、今回保護しようとした女性も、どちらも幼い外見をしている。この事から、俺が幼女性愛者であるという疑いを、真夜に持たせてしまったようだ。

 そんな疑いを持たれてしまった本人たる俺は、『どうしてこうなった』と叫びたいところである。ぐっと堪えたが。

 

「……とりあえず、綺麗な女性は好きだと言っておくよ」

 

「そ、そう……」

 

 変に訂正すればより疑いを持たれかねないと、俺はあまり言葉を並べない。

 真夜はその短い言葉に疑いを晴らした訳ではなさそうだが、さらなる追及はしてこなかった。俺にこの議題を議論する気がない事を察してくれたようだ。

 

「で、では、話を戻しましょう。……十六夜、貴方はどうしてもあの工作員が欲しいの?」

 

「母さんの方で使いたいと言うなら、俺は諦めるよ」

 

 優先すべきは我欲より親孝行。その事を、俺ははっきり明言した。

 

「そうですか。……昨夜、東道閣下から忠告をいただきました。あれは『耳』だから即座に処分しろ、と」

 

「……なるほど、やっぱり情報共有に特化した魔法を持ってたのか」

 

「貴方はその事に一早く勘付いていたようね」

 

「いつも通り、ただの勘だよ」

 

 原作知識でジャスミンが『耳』であると知っていた事を誤魔化すため、嫌な予想が当たっていたとばかりに唸った俺。真夜はその予想を達也経由で聞いていたのか、俺の勘の鋭さを褒めようとする。なので、俺は先んじて謙遜しておいた。

 

「にしても、残念だな。これで、手駒にする案は完全に諦めるしかなくなった」

 

 俺は残念さを秘めていられなかったように、そう言葉を漏らした。

 実際は『僵尸術』・『付喪神』・『リライト能力』の合わせ技なら、『耳』である事も書き換えられると考えていたのだが。その合わせ技は隠しておきたいので、真夜の説得には使えない。真夜にジャスミンが『耳』だと知られてしまった現状では、真夜を説得しようがないのである。

 だから、ジャスミンを手駒にする案は、本当に諦めるしかなくなった。

 ジャスミンが手駒に欲しいと達也に聞かせた布石は、これで水の泡である。その話を達也が独立魔装大隊に流しておけば、独立魔装大隊が俺から何かを引き出す代価としてジャスミンを渡してくれる。そんな案を考えていたのだが、仕方のない事だ。

 ジャスミンを(ティエン)の方に渡す準備も周妃にさせていたのに、本当に残念でならない。

 

「……」

 

「……何?母さん」

 

「い、いえ……」

 

 真夜はまた真剣な顔をして俺を見つめていたが、俺が指摘すれば即座にその視線を逸らした。例の疑いはそこまで疑うべき事項なのだろうか。

 

「い、十六夜……。その、今夜はそ、添い寝を……」

 

「……俺が母さんを襲えば、疑いは晴れるって話?」

 

「ち、違います!」

 

 唐突に添い寝を要求してきたから、そういう話かと勘違いしたが、そうではないらしい。

 まぁ、さすがに俺も、真夜が幼女性愛者か確かめるために己が身を捧げるような人間だなんて、本気では思ってないが。

 

「と、とにかく、です。今夜は添い寝しなさい。これは命令です」

 

「……まぁ、はい。夜にはちゃんと出向かせてもらうよ」

 

 真夜から謎の命令が下された俺。一瞬訳が分からなかったが、なんとなく意図が読めたので、特に逆らわず了承した。

 

「達也からの報告が控えているでしょ?俺はそろそろお暇するよ」

 

「……ええ、また夜に」

 

 俺は羞恥心で顔を赤らめる真夜を見納め、部屋の扉を締める。

 

(しかし、『十六夜分』不足が真夜をあんな奇行に走らせるとは……)

 

 自室へと足を向けた俺は、そんな思案に耽る。

 そう。俺は、真夜が添い寝を命じた事、ひいては幼女性愛者の疑いを持った事の原因が、『十六夜分』不足にあると推測したのだ。

 

(ま、以前から『十六夜分』不足からなる奇行は度々あったしな。実の子供がいなかった事を考えると、そういう奇行に走るのも止む無しだろう)

 

 そうして俺は、真夜の奇行についてある程度納得ができる推測を組み立て、思案を終えた。

 そんな時、丁度近付いてくる足音を耳にする。足音の発生元へ目を向ければ、まだ少し離れているが、誰なのか視認できた。

 それは、あちらも同じようだ。

 

「十六夜」

 

「やぁ、達也。今度はそっちの番か」

 

 その誰かとは、達也である。俺が本家へ帰省するのに付いてくる形で、達也も本家へと仕事の報告をしにやってきたのだ。

 そんな達也と俺はお互い、遠目から望んでも誰なのか視認できている状態だったのだが。会話を始めたのは、声を掛けるのにおかしくない距離へ至ってからである。特に何かある訳ではなく、礼儀と言うか、親しさを示すためにその距離まで待った、というだけだ。俺も、きっと達也も。

 

「今更だけど。仕事の報告とは言え、こんなハードスケジュールにする必要はあったのか?」

 

「仕事もあるが、『ゲートキーパー』の開発進捗も報告するためだ。この前、実践機会を奪われたからな」

 

 『この前』とは、俺がジェームズとジャスミンを捕らえてしまった時の話である。

 達也が彼らに『ゲートキーパー』を仕掛け、『ゲートキーパー』を試験しようとしていた。だが、俺が彼らに抵抗を許さないまま捕らえてしまったため、結局『ゲートキーパー』が正常に作動していたのか、試験できなかったのである。

 当時も文句を言われたのだが、達也はまだ根に持っているらしい。深雪との沖縄旅行が中断されてしまう原因となったせいか。それとも、それで深雪が機嫌斜めになったせいか。どちらなのかは、想像の域を出ない。

 

「そう怒らないでくれって。今度、俺が試験に付き合うから、許してくれよ」

 

「別に怒ってはいない。お前が動いてくれたおかげで、深雪を危険な目に遭う可能性が排除されていたという部分はあるからな」

 

 そう怒っていないアピールをする達也。ならば、彼の眉間にまだ刻まれている皴は何に由来しているのだろうか。

 

「……雑談を続けている場合じゃなかったな。……また後で話そう」

 

「ああ、約束通りな」

 

 達也は真夜に呼ばれている事を思い出し、足を再始動させる。

 俺は、本家へ帰省する道中でしていた達也とお茶するという約束、それを再確認して、達也を見送った。

 達也の姿がこの長い廊下で視認した時と同じ大きさになったところで、俺も自室へと向かう足を再始動させる。

 俺はその足を少し早めた。人を待たせているが故に。

 

 

 

「おかえり、十六夜君。早かったわね」

 

 自室の扉を開けてすぐ、声で出迎えたのは夕歌だった。

 彼女は待たせていた人、その1人であるから、俺の自室に居る事への意外感はない。

 そして、待たせていたのは彼女だけではない。

 

「お待たせしました。夕歌さん、勝成さん、文弥さん、亜夜子さん。琴鳴さんと奏太さんも、ご苦労様です」

 

 俺は俺の自室で待たせていた全員に声を掛けた。

 元四葉次期当主候補だった面々は席に着き、従者である堤姉弟は勝成の後ろに控えている。

 

「……奏太さんは分かりますが、琴鳴さんも立ってるんですね」

 

 俺は勝成の守護者(ガーディアン)という事が先行して忘れそうになっていたが、勝成と婚約を果たしたはずの琴鳴が席に着いていない事を指摘した。

 結婚がまだとは言え、婚約者なら対等な関係として席に着いても良いのではないだろうか。俺は堤姉弟の分まで椅子を用意してあるし。

 

「十六夜君もそう思うわよね。ほら琴鳴さん、遠慮してないで席に座りましょうよ」

 

「い、いえ……。その、四葉分家次期当主である皆様方と席を同じくするなんて恐れ多くて……」

 

 どうやら夕歌が同じ指摘を既にしていたようだが、琴鳴は頑なに着席を拒んでいる。四葉の調整体という自己評価があるため、本能的に自身の身分を低く見積もっているようだ。

 

「なぁにぃ?私の勧めた席に座れないって言うのぉ?」

 

「い、いや、あの……」

 

「そこまでにしてくれ。琴鳴が困っている」

 

「勝成さんも、琴鳴さんには隣に座ってほしいわよねぇ?」

 

「琴鳴の意思を尊重する。それに、亭主関白になる気はない」

 

 夕歌がウザ絡みもとい揶揄っている訳だが、困っている琴鳴を助けるように、勝成がそれを制した。

 勝成の態度に頬を赤らめる琴鳴。それを拝んで満足したのだろう夕歌は、そうして大人しく制される。

 

「さて、皆さん。本題に移りましょう、と言いたいところですが。達也が来るまで待った方が良いですね」

 

「そうですね。四葉の未来について話し合うんですし、達也兄さんも居た方が良いと思います」

 

「未来についての話し合いと言うより、意思表明の方が正しいでしょうけど」

 

 本題に移ろうと思ったのだが、達也が居た方が良いと思い直す俺。その事に、文弥と亜夜子も賛同した。

 何せ、亜夜子が言ったように、意思表明をする場として皆集まっているのだから。四葉の次代として、どういう方針で動きたい、という意思表明を。

 

「あんまり除け者にすると、彼、警戒してしまうでしょうからね」

 

「ああ。特に、私と夕歌さんは十六夜君派閥だと認識されている疑いがある」

 

「派閥を作った覚えがなければ、作ったところで反逆するつもりもないんですけどね。というか、俺が派閥の長だったら、達也は警戒しますかね?」

 

「君が操られる可能性を警戒するだろう。彼はそれを嫌っているだろうし、君はそうなりかねない全体主義者だ」

 

 勝成の推測に、夕歌は軽く、しかして何度も頷いている。この2人はそういう推測をしているようで、その推測が当たった際、達也と敵対してしまうかもしれない事を恐れているようだ。

 分からなくもない。達也に敵認定されるかもしれないとなれば、俺だって全力でその可能性を排除しにかかる。

 勝成も夕歌もそうしたいからこそ、四葉本家へとんぼ返りしている訳だ。黒羽姉弟は別の理由と言うか、純粋に四葉の次代たちと一挙に会える貴重な機会だとして、とんぼ返りしてきたのだろうが。

 

「ぜ、全体主義者というのは、少し言い過ぎなのではないでしょうか……?」

 

 やはり、文弥たちは勝成や夕歌と思惑が違うのか、達也の警戒うんぬんではなく、そんなどうでも良い部分を掘り下げた。

 ただ、和を乱す程協調性がない訳でもない勝成と夕歌は、達也を待っている間の雑談として、その掘り下げに付き合うようだ。

 

「言い過ぎかしら?だって、あの七草の長女を隣に住まわせておいて、何も言わないのよ?十六夜君」

 

「それがわざとであり、七草と四葉の間を取り持とうとしている全体主義的な動きではないかと、噂になっているくらいだ」

 

「……噂になってるんですか?」

 

「私の個人的な友人たちから聞こえてくる噂だがな。ただ、ナンバーズの子息令嬢もその友人たちに含まれている事を、君には加味してもらいたい」

 

「……」

 

 俺は苦い顔をした。夕歌の揶揄い混じりな指摘も苦いが、勝成の弁はさらに苦い。

 

(何が『個人的な友人たち』だ。ちゃっかりナンバーズとも繋がって、情報網を構築しているじゃないか)

 

 四葉縁者らしく暗躍している勝成に、俺は内心舌を巻く。

 ただの友人関係、噂話をする程度の繋がりと侮る事なかれ。人々の本音とは常に、井戸端会議にて垣間見えるものなのだ。

 つまり勝成は、そういう人々が漏らす本音を拾い上げるため、そういう繋がりを持っている。おそらくは、かなり薄くも広い繋がりを形成し、多くの噂話、人々の本音を拾い上げている事だろう。

 そして、勝成が言う通り、その繋がりの中にナンバーズの子息令嬢が居る事は、加味して然るべき要点だ。

 それは、日本魔法師界において少なくない影響力を持つ家々が、俺を全体主義者と捉えている事を意味している。1つ2つなら四葉に影響を及ぼせる程の力はないだろうが、勝成の事だから繋がっているナンバーズは絶対に1つ2つではない。十数個と、想定しておくべきだろう。

 

(まぁ、俺が全体主義者扱いされたとして、何ら問題はないんだがな。甘ちゃんと勘違いされて、付け上がられない限りは)

 

 俺は勝成の言葉を苦言として聞き入れ、今は静観を決め込みつつも、こっちを利用しようと動いた者が出た時の対処について考えておく事にした。

 

「全体主義者と言えば、最近は『日本若手魔法師の旗手』と、担ぎ上げられていますわね。あまりされるがままに担ぎ上げられるのは、よろしくないのでは?」

 

 ここで、亜夜子からも苦言が飛んでくる。まぁ、苦言と言っても、純粋に俺を心配しているような言葉だが。真に呈する意味の苦言をする勝成や、揶揄い混じり夕歌と違って。

 

「……その辺りもどうなんでしょうか?勝成さん」

 

「……大勢は判然としないが、賛成、反対、様子見で3つ巴と言ったところだろう」

 

 いつの間にか『日本若手魔法師の旗手』として担がれている事に関して、実際の日本若手魔法師たちはどう思っているのか。勝成に尋ねてみれば、彼自身関心があって調べていたようで、簡潔に答えてくれた。調べた情報を頭の整理するためか、数瞬だけ間があったが。

 

「で、あるならば、機会を見て具体的に動きたいですね」

 

「……自分から神輿になるのですか?」

 

「神輿と言うか、相談役?いや、議長の方が正しいのかな?とりあえず、日本の若手魔法師としてどう動くべきか意見を述べて議論する、そういう役目を負いたいと思っているよ」

 

 亜夜子は俺が担がれるだけの象徴になると懸念していたようだが、もちろん、俺にそんなモノになるつもりはない。俺は日本若手魔法師の旗手として、より実績のある立場になるつもりなのだ。まぁ、旗手という程皆を導くつもりもないが。

 俺は、原作だとこれから訪れる予定である四葉の孤立を防ぎたい。

 だから、そのために日本の若手魔法師たちとは良好な関係を築きたいのである。

 

(確か近くに有力な若手魔法師たちが集まる場があったよな?『若手会議』、だったか。そこで動くのが好都合だろう)

 

 俺は上記の思惑を果たすため、原作知識から好機となるイベントを引っ張り出し、まずはそこで動く算段を立てた。

 

「ふむ。君は案外乗り気なのだな」

 

「四葉とはいえ、孤立は避けたいでしょう?」

 

「なるほど、利用し返してやるのね?ちょっと面白そうだから、私も一枚噛ませてもらえない?」

 

「俺が目をかけた魔法師って事で、議長補佐とかになります?」

 

「良いわね。その路線で検討しましょう」

 

 勝成は俺が日本若手魔法師の旗手を進んで担おうとしたのが意外そうであった。しかし、俺がそうである理由を聞けば、納得を得て一旦発言を控える。

 代わりに、進んで発言しだしたのは夕歌だ。悪だくみのような会話に興じているのだが、冗談半分なのか、あまり本気には見えなかった。もし障害がほとんどない状態で叶うならば、と言ったところだろうか。

 一応、どれくらい本気か試しそうと、口を開こうとした時だ。

 ドアがノックされた。

 

「十六夜、来たぞ」

 

 ドアをノックしたのは達也だった。どうやら、割と早めに真夜への報告が終わったようだ。あらかじめ報告書をまとめていたのだろうか。

 

「ああ、鍵は開いているよ?」

 

 とかく、『後で話そう』という約束を果たしに来てくれた達也を、俺は招き入れる。

 そうしてドアを開けて部屋の様子を収めた達也の目は、大きく見開かれた。ただ、それも一瞬だ。

 

「なるほど、そういう事か」

 

 達也は何故あんな約束をされたのか、すぐに理解したのだ。

 

「……席に着いても?」

 

 故に、達也は席に着くための許可を、この場に居る四葉の次代たちに求めた。自分からそうして許可を求めた辺り、この次代たちの話し合いに混ざる意欲はあるようだ。警戒心も薄いように窺える。

 

「許可の可否は議長がしなくちゃ、ねぇ」

 

「……そんな仰々しい場ではないんですけど。仮に決めるとすれば、誰が議長なんですか?」

 

「貴方でしょ」

「お前だろう」

「君だろう」

「十六夜さんじゃないんですか?」

「十六夜さんですよね?」

 

「……」

 

 夕歌、達也、勝成、文弥、亜夜子。以上5名から、満場一致で俺が議長に指名された。黒羽姉弟は分からなくないが、どうして他3人も声が重なるのか。

 とりあえず、この四葉の次代たちなら仲良くやっていけそうだと、俺は前向きに捉えておく。

 

「じゃあ、まぁ。達也、席に着いてくれ」

 

「ああ。……それで、具体的な議題は?」

 

「十六夜君が言った通り、そんな話し合いをする場ではないわ?単なる交流会よ」

 

「そうでしたか」

 

 素直に席へ着いた達也は仰々しい議題があるモノと勘違いしていたようだが、その勘違いを引き起こさせた一因である夕歌が訂正する。

 達也はそんな夕歌に懐疑心や敵愾心を覚える事なく、交流会をする場として肩の力を抜いた。

 

「交流会ではあるが、まず言っておきたい事がある。……私の家が、君に迷惑をかけた」

 

「ぼ、僕も。……黒羽家が、ご迷惑をお掛けしました」

 

「恥を晒した身内に代わり、謝罪させていただきますわ」

 

「私も。……ごめんなさい、達也君。貴方が虐げられている状態を、私は見過ごしてきてしまったわ」

 

 空気が緩んだというのに、流れを介せず謝罪から入った勝成。しかし逆に、それが良かったのかもしれない。

 皆、達也が不当な扱いを受けていた事について、今まで見過ごしていた。勝成が謝罪から入ったために、それを知らぬ存ぜぬと白を切るなんて事を許さない空気が出来上がった。

 だから、勝成の謝罪に続き、文弥、亜夜子、夕歌も達也に見過ごしてきた事を謝罪している。彼らの誠実さからいって、そういう空気が出来上がらずとも謝罪していただろが。

 ただ、こうして最初に謝っておく事が、今後の関係構築において大切であると、皆分かっているのだろう。故に、この空気に乗った訳である。

 

「……、謝罪を受け入れます。そもそも、俺は貴方たちを恨んでいないし、貴方たちが悪いとは思っていません。これは、貴方たちの親たちに対しても同じです。俺は俺が受けていた扱いが正当なモノだと考えています」

 

 達也は素直に彼らの謝罪を受け入れ、合わせて自身の考えを明かした。自身の扱いはあれで正しかったのだと、達也は平坦なまでに言ってのける。

 

「……私は、君の受けた扱いが正当とは思えなかった。君の貢献を考えれば、むしろ厚遇しても良いはずだ。……いや、取り繕うのは止そう。……私は、君の恐るべき力を考えれば、敬い、祀り上げる事が正しいと考えている」

 

 勝成は達也の考えを聞いた上で、さらに自身の考えを明け透けに語った。

 そう。勝成は自身の親世代と同様、達也を恐れている。ただ、対応が違うのだ。

 親世代は恐れた故に自身らから遠ざけようとしたが、勝成は恐れる故に近しい隣人になろうとしている。親世代のやり方は邪神への封印で、勝成のやり方は善神への崇拝という訳だ。

 その勝成の考えに文弥と亜夜子は顔を顰めていたが、逆に、夕歌は顔を強張らせていた。

 やはり、黒羽姉弟は達也に親愛を抱いており、勝成と夕歌は達也に恐怖を抱いている、という事なのだろう。

 

「勝成さんの考えは分かりました。だから端的に言いますが、俺は貴方が深雪の敵にならない限りはどうでも良いと思っています」

 

 達也は正しく端的に、自身のスタンスを宣言した。崇め奉られるのは、達也にとっても正直面倒なのだろう。こちらの機嫌を窺ってこられたところで、達也にとってはなんの利益にもならないし、何だったら深雪を守るのに邪魔となるかもしれない。

 だからこそ、達也ははっきり『深雪の敵にならない限りは』と、言葉にしたのだ。深雪の敵にならなければ、変にこちらを敬う必要はないという、達也の意思表示である。

 

「……分かった。深雪さんの敵になる気は元よりないが、改めて彼女の敵にならない事を誓おう。だが、時に対立しかねない意見をする事は許してほしい。私は、『四葉』という組織をより良くしていきたいんだ」

 

 達也の意思表示に応じて、勝成も自身のスタンスを示した。

 彼は『四葉』という組織に思うところはあるが、同時に帰属意識もあるようだ。だからこそ、『四葉』の悪い部分を是正したいのだろう。そのため、時として当主に反発する事もあるという事か。

 

「それで構いません。俺には組織運営に秀でた才などないので」

 

 達也は勝成のスタンスを良しとした。達也としても、『四葉』を是正したいという点では勝成と変わらない訳だ。ただ、帰属意識というよりは、深雪の身辺整理という観点だろうが。

 とかく、『四葉』を是正したいからこそ、達也は同じく是正したい勝成の意見を取り入れたいようだ。

 

「そうね。組織運営という事なら、十六夜君の方が秀でていると思うわ?」

 

「……どうして急に俺を槍玉に?」

 

「『槍玉』とは酷いじゃない。私は推薦しているだけよ、議長は十六夜君が良いって」

 

 意思表明する場だというのに、夕歌は何故か俺を持ち上げ始めた。

 いや、これは俺寄りで動くという意思表示か。あるいは、俺の好感度を稼ぎに来たか。

 俺が持ち上げられて喜ぶような人間でない事は把握していると思うのだが。

 

「良いと思います。和を整えるべき議論の場において、十六夜は適任でしょう」

 

 そして、その持ち上げに何故か乗っかる達也。心なしか、微笑んでいるように見える。それを見て、夕歌も微笑んでいる。

 もしや、遠回しに達也の好感度を稼ぐのが狙いだったのではないだろうか。どうしてこれで達也の好感度が稼げるのかは、俺には分からないが。

 

「確かに、議長は十六夜さんが適任だと思います」

 

「既に議長のような立場では?私たちはよく十六夜さんの下に集っているのですから」

 

 何故か文弥と亜夜子も俺を議長に推してくる。

 これは全体的に、面倒事を押し付けられているのか、責任ある立場を任せられると信頼を得ているのか。どちらで捉えるべきかは、悩みどころだ。

 

「……なんかみんなに推薦されてるけど、議長って必要なのか?」

 

「今後必要になったらそうなるという話だ」

 

「……」

 

 達也の言葉から考えると、面倒事を押し付けられている方かもしれない。

 

「じゃあ、議長が必要な場になったら、私は議長の方に付くわね?」

 

 夕歌はここで話を意思表明に戻した。どうやら彼女は、基本的に俺寄りの意見で動くつもりのようだ。

 

「ぼ、僕たちは達也さん寄りで」

 

「勝手に一纏めにされましたが、まぁ、文弥が言う通りです」

 

「……あえて言うなら中立だ。派閥の長を妄信すれば、暴走を引き起こしかねない」

 

「……別に、進んで派閥争いをするつもりはないのですが。十六夜が大きな間違いをするとも考えられない」

 

 夕歌に口火を切られた、どちらの派閥に属すかという話。

 背中を押されるが如く、文弥は慌てて達也寄りを表明。亜夜子も右に同じく。

 勝成は明確に自身の立ち位置を表明。俺と達也、どちらにも寄らず、間違いがあれば正す方針なのだろう。

 達也はそんな派閥作りをそもそも疑問視していた。『深雪の敵にならない限りはどうでも良い』という先述の通り、皆が暴走しない限りは、皆と対立するつもりはないのだろう。

 そして、この話を始めた夕歌はと言うと、収穫があったとばかりに笑みを深めていた。彼女は誰がどういうスタンスか単純にし、把握しておきたかったのかもしれない。

 

「達也君がそう言うなら、私たちに争う理由はないわね。では、次代の『四葉』のために、手を取り合っていきましょう?」

 

 対立煽りとなりかねない話題を振っておいて、夕歌はそう話を締めるのだった。




 ジャスミンとジェームズの処遇:十六夜の意向で、国防軍に引き渡されている。現在は、四葉の管轄にない国防軍の施設で拘留中である。一応、真夜は早めに処分するよう、国防軍に進言してある。

 閲覧感謝します。
 次回の更新は、8月27日の予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。