魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第百二十九話 転ばぬ先の杖

2097年5月12日

 

 日曜日たる今日。澪との面会から2週間も経っていないのに、色々な事があった。

 1つ目は、5月2日。ギニア湾岸、ニジェール・デルタ地域で、戦略級魔法『霹靂塔(へきれきとう)』が使われた事について。

 ギニア湾岸地域は、大亜連とフランスが陣取り合戦しており、ニジェール・デルタ地域は直近に陣取り合戦で大亜連側が勝ち取った地域である。まぁ、もちろんその地域の住民は納得していないし、その納得していない気持ちをフランスが煽っている。

 そのため、ニジェール・デルタ地域解放を目指した解放軍だのテロリストだの反抗勢力が活発に活動しているのだが。大亜連は、その反抗勢力に戦略級魔法を放ったのである。

 

(おまけに、その日の内に戦略級魔法の行使者も公開。14歳の少女を、劉麗蕾(リウリーレイ)って名前や容姿毎、ね。かの国が失った戦略級魔法師の代役を立てるにしても、示威行為が過ぎる)

 

 大亜連は『灼熱のハロウィン』で自国の戦略級魔法師を失ったのだが、その事実を、周りには勘付かれていながらも、否定し続けていた。

 しかし、此度に至ってはその事実を認めつつ、しかし新たな戦略級魔法師を世に公開したのである。

 どう見たって、弱みに付け込まれないため、必死に取り繕っている。

 

(ただ、(たち)が悪いのが。劉麗蕾(リウリーレイ)って少女、おそらく本物の戦略級魔法師なんだよなぁ)

 

 達也や達也一団は、本物の戦略級魔法師を守るための影武者、という説を考えているようだったが。件の少女の立ち振る舞いは、少なくとも軍人のそれ。14歳でその様子が窺えるという事は、魔法資質を見込まれての英才教育だ。その時点で、俺としては本物の戦略級魔法師である説が濃厚になった。

 本物説の裏打ちは、周妃、そして澪である。

 周妃、というか周の情報網で、件の少女が本物の戦略級魔法師であるという情報が引っかかっていたし。澪の眼で、少なくとも件の少女が持つオーラは戦略級魔法師のそれであると確認させた。

 もちろん、上記2つについては俺個人の情報網なので、誰にも共有していない。

 だから、劉麗蕾(リウリーレイ)が戦略級魔法師であるというほぼ確定の情報は、達也一団及び四葉内で俺だけのモノである。

 

(次は、5月4日だったか)

 

 2つ目は、5月4日。大亜連国土、ニジェール・デルタ地域に近い軍事基地で、前述の反抗勢力による報復攻撃を行われた事について。

 反抗勢力の報復など、昨今の情勢としては珍しくない。そのため、対岸の火事として強い関心など抱かないのだが。使われた魔法とその規模で、関心を抱かざるを得なくなった。

 達也が開発した『アクティブ・エアー・マイン』が、戦術級魔法に相当する規模の被害を出したのである。

 

 日本の栄えある魔法辞典、魔法大全に載った魔法とはいえ、高校生が作った魔法だ(記載当時は制作者が非公開になっていたが)。おまけに使われたのは九校戦のスピード・シューティング。酷い言い方をすれば、子供のお遊びで使われた魔法である。

 そんな魔法に有用性を見出し、あまつさえ魔法式を手に入れる労を掛けたのだ。見る目がある、とは言える。だが、だからと言って、自分たちでその手の魔法を作るのではなく、式の入手に多少なりとも労力が掛かる魔法を入手してくるというのは、努力の方向性が間違っている感が否めない。

 

(まぁ、魔法大全は日本じゃ簡単に見られるし、軍機密の魔法よりは遥かに容易に盗用できるだろうが。そんな事をする奴が居るとは、達也も思わなかったんだろうな。戦術級規模で使う魔法師の存在も含めて)

 

 この事態を予想しろというのは、どんな天才も不可能という話である。

 そして、この話の面倒さに拍車を掛けるのが、『アクティブ・エアー・マイン』を殺傷目的で使った場合の効果だ。

 なんと、効果範囲内の人間を全身粉砕骨折の血袋にしてしまうというのだから、聞くだけで恐ろしい魔法である。

 そんな非人道な魔法であるがため、ニュースやネットで非魔法師思想の方々から非難の的にされている。的となっているはずの達也は何処吹く風だが。

 

(それで。それを受けての、5月10日のイベントだな)

 

 3つ目は、5月10日。日本全土に周知された、九校戦の中止について。

 『それを受けて』とは言ったが、中止となった主因は、去年の軍事演習じみた競技だ。少なくとも、九校戦運営側はそう言っている。

 しかし、中止の名目が情報管理体制の見直しとしてしまっている時点で、『アクティブ・エアー・マイン』の盗用を重く受け止めている何よりの証拠だ。

 

(多くの人間はその事に気付く。そして、不満の矛先を達也に向ける訳だ。あいつが『アクティブ・エアー・マイン』を作ったせいだと)

 

 本来、誰が悪いとも言えない事項なのだが。ならばこそ、悪目立ちしている存在を悪いと断定し、振り上げた拳を下ろしたいものだ。

 ただ、第一高ではその拳の降り下ろし先が達也にはなっていない。

 達也に対する第一高生徒全体の評価が、去年の総合優勝、及び一昨年の新人戦優勝、それらの立役者だ。有り体に言って第一高の皆は達也を悪く思っていないため、九校戦中止の件で達也を責める者はほとんどいない。

 逆に言えば、それらの評価をしていない者たちからしてみれば、非難しない理由がない、という事でもあるのだが。

 

(こうして、達也は大分社会的に追い詰められてるんだが。極めつけは、今日のイベントだよな……)

 

 4つ目は、本日5月12日。朝一番で世界中に報道された国際プロジェクト、『ディオーネー計画』について。

 USNA国家科学局に所属する技術者、エドワード・クラークが発表した、金星テラフォーミング計画である。

 まだUSNA単独の計画だが、世界中から著名な魔法学者を集めると、USNAは豪語している。

 

(厄介なのが。あの男、達也も呼び寄せる気でいる事だ)

 

 エドワードは、是非とも招聘したい魔法学者として、『トーラス・シルバー』の名を上げたのである。

 しかも、シルバーは未成年なので実名での呼称は避けると宣っており、『トーラス・シルバー』の正体を知っているようだった。

 

(……結局、達也はこの招聘をどう躱したんだろうな)

 

 原作において、達也はこの招聘を躱す気でいた。のだが、それでもかなり追い込まれたのである。

 そんな追い込まれた状態で達也はどう乗り切ったのか。

 残念ながら、俺にとっての最新刊、『魔法科高校の劣等生23』には記されなかった。その結果を、俺は知らないのである。

 

(ま、達也の事だからどうにかしたんだろうが。早めに対策を、それこそ原作より早く打たせるべきだな)

 

 最早使えない原作知識、知らない原作展開。それらを守る気は、俺にはもうなくなっている。

 

(そもそも、俺がどうしようと修正されるんだ。じゃあ、俺はもう好きにさせてもらう)

 

 未来が分からない。なのに、俺は自然と笑みを零した。

 端的に言って、解放された気分なのだ。その上を走るしかなかったレールから。

 

 という事で、俺は早速得た自由を行使すべく、達也と真夜のナンバーをコールする。

 

〈十六夜、何かあった……。あら、達也さんも呼ばれたのね〉

 

〈……俺だけでなく、ご当主様にも用事となると、余程の事か〉

 

 相変わらずワンコールで出た真夜は、ほんの少しだけ応答に遅れて現れた達也を見て、目を丸くしている。対して達也の方は、自身含めたこの3人での会議という事で、表情を固くしていた。

 

「『余程の事』かは分からない。でも、対処はしておいた方が良いと思ったんだ。『ディオーネー計画』について」

 

 真夜の意外感、達也の緊張感を少しでも(ほぐ)すべく、俺は早々に議題を開示したのだが。残念ながら、達也の表情はさらに固くなったし、真夜の方まで同様になる始末。

 俺は、表情を(ほぐ)す事を諦める。

 

〈『トーラス・シルバー』と名指しされていたが、集まっているのはまだUSNAの人間だけだ。日本人の俺を招聘できる程の力が、あの計画にあるとは思えない〉

 

「その想定は、1人でも国外の魔法学者が呼べた時点で瓦解する。そして、俺はあの計画に賛同する他国の人間も出てくると思ってる。賛同する中に、他国の戦略級魔法師が居たら最悪だ。非公式戦略級魔法師を弁護の材料にできなくなり、誰もお前を庇えなくなる」

 

〈まさか、協力する十三使徒が居るというの?確かに、ドイツのカーラ・シュミット、魔法の平和利用を目指すあの御仁なら、賛同する可能性はなくもないけど……〉

 

 達也は固い表情をしながらも平静を保っていたが、真夜は俺の懸念に動揺していた。

 その反応により俺の中にあった真夜への疑い、正確に言うとフリズスキャルヴに関する疑いがほぼ確定となる。

 だが、今は達也へのアプローチを優先する。

 

「賛同するのは、魔法の平和利用という点じゃない。危険な戦略級魔法師の追放という点だよ。達也を危険視した国が、達也を地球から追い出すべく、『ディオーネー計画』を利用する。何処の国がそうするかは分からないけど、案外、大亜連とかがそうするかもしれないね。後は、比較的近くで『灼熱のハロウィン』を見れただろう新ソビエト、とかかな。『マテリアル・バースト』の仕様に気付いているなら、この前の北海道侵攻、あれを防いだのも達也だと気付くはずだ」

 

 俺は曖昧な原作知識から『ディオーネー計画』の賛同者が新ソ連の戦略級魔法師だった事をどうにか掘り起こし、真夜たちの思考をその知識に添わせようと、それらしい言葉を聞かせた。

 2人とも異論を吐かず、視線を下げて熟考しているところを見るに、どうやら誘導は成功したようだ。

 

〈……USNAからしてみれば、俺だけでなく他国の戦略級魔法師も削れる策、という訳だ〉

 

 熟考から帰ってきた達也の第一声。やはり、達也も『ディオーネー計画』が危険な魔法師を追放するための策略だと、勘付いていたようだ。驚いていない真夜も、おそらく同様だろう。

 その事も、2人をうまく誘導できた要因かもしれない。

 

「達也含めて最低2人は持っていくつもりなんじゃないかな?」

 

〈……最悪、俺は国家公認となる事で、招聘を回避する事を考えていた〉

 

「それで回避できる可能性はあるだろうね。でも、俺はその可能性を低く見積もっている。賭けるに値しないくらいには」

 

 俺が吐き連ねる最悪の想定(原作展開)を、達也は(きた)る未来と仮定した上で自分が考える対抗策を回答してくれるが、俺はその対抗策を否定した。

 良い対抗策ではある。だが、成功率を下げている要因がある。

 

「国家公認戦略級魔法師の需要は、少なくとも日本では現在下降気味だ」

 

〈需要が、下降気味?〉

 

「理由は2つ。1つは、国民感情的な問題だ。大量破壊兵器の所持を、よく思う日本国民は多くない。それが魔法師となれば、国民のほとんどを占める非魔法師からすれば、良い非難の的だ」

 

 達也の疑問に、俺は答える。

 国民感情の問題。いつ自身に降りかかるとも分からない大量破壊兵器が、昨今は世界的に使用されてしまっている。なら、それが自身の降りかかる前に、2度目を体験する前に、その脅威を排除したいと思うのが生物の本能というものだ。

 特に、現在でも非核三原則を体面上守っている日本としては、なおさら大量破壊兵器に対する嫌悪感が強いのかもしれない。

 

「もう1つは、現存する日本の国家公認、五輪澪の存在。達也も聞かされているだろうが。最近、彼女の虚弱体質が改善された。以前より確実に、彼女は戦略級魔法師としての務めを(こな)せるだろう」

 

 五輪澪が回復した問題。今までは虚弱体質であるがために、あまり戦略級魔法師としての務めを果たせなかった彼女が、今は万全に動ける。

 故に、日本政府は現状で事足りると、判断するかもしれない。国家公認戦略級魔法師の増員は、必要ないと。後ろに、俺という国家公認となる事が予約されている存在も控えているし。

 1つ目の国民感情にも繋がるか。これ以上大量破壊兵器の所持数を増やして、国民の不満を煽りたくはないと。

 

 これらの問題は、結局国民も政府も必要性を感じてくれない限りは解決しない。国家公認戦略級魔法師を増員しなければ、本国の独立は維持できない。そういう、恐怖を体感させない限り。

 

「それにだ、達也。お前はヘイトを買いすぎてる。『若手会議』でもそうだし、『アクティブ・エアー・マイン』が盗用された件でもそうだ。もしかしたら、国家公認になっても送り出されるかもしれん。良い厄介払いだって。悪いが、お前はそれくらいヘイトを買ってると、俺は思ってるぞ」

 

 俺はあまり当たってほしくない予想を語り、達也の対抗策を執拗なまでに否定していく。

 俺としては、達也が現在想定している対抗策ではなく、想定を超えて追い詰められた場合の対抗策を出してほしいのだ。

 

〈だがそもそも、USNAが俺自身を、『トーラス・シルバー』ではなく『司波達也』自身を指名しない限り、こっちはいくらでも言い訳ができる。『司波達也』は『トーラス・シルバー』ではないと〉

 

「達也、お前の考えを徹底的に否定するようで悪いが。俺はお前が、『司波達也』が名指しされると思ってる」

 

〈俺を、『四葉(アンタッチャブル)』を恐れないと?〉

 

「USNA自体やあの発表者はもう少し慎重だろう。ただ、恐れ知らずと言うか、享楽的な奴は、度胸試しで後先考えずに動く」

 

 俺が『四葉』を恐れない馬鹿の存在を示唆するが、達也は思い当たる人物が居らず、顔をしかめている。

 

「達也。『ディオーネー計画』の発表者、エドワード・クラーク。そのファミリーネームに聞き覚えはないかい」

 

〈…………レイモンド・セイジ・クラーク!〉

 

 ファミリーネームもそうだが、『享楽的な奴』という俺からの人物評も合致したのだろう。達也は目を見開いていた。

 

「俺の勘が混じってるが。あの2人はおそらく親子だ。そして、フリズスキャルヴの開発者は、エドワード・クラークだろう。あの科学者は、洒落にならない玩具を息子に与えてる訳だ」

 

〈……お前の考え通りだったとして。それでも、レイモンドは動くか?〉

 

「その可能性が高いか低いかは、これから母さんに訊く質問の回答次第かな」

 

 俺は、『真夜への疑い』というカードを切った。

 俺の言葉、そして真夜の関与を訝しみ、達也はゆっくりと真夜の方へ視線を向ける。

 その真夜は、俺と達也だけで議論している時から、ずっと俯いたままである。ただ、フリズスキャルヴの段ではそこに苦みが混じり始めていたが。

 

「母さん、嘘偽りなく答えてほしい。母さんのフリズスキャルヴは、今機能してる?」

 

〈……していないわ。……丁度今月に入った時だったでしょう。私の手元にあるフリズスキャルヴが、機能を停止しました〉

 

〈なっ〉

 

 真夜の回答に驚きの声を漏らしたのは達也だった。

 真夜がフリズスキャルヴのオペレーター・七賢人だった事。真夜のフリズスキャルヴが機能停止した事。そんな二重の驚きに、さすがの達也も口を衝いてしまったようだ。

 

「これで、レイモンドが動く可能性は高くなった」

 

〈……何故だ〉

 

「フリズスキャルヴで遊べないからさ。他の七賢人が何を検索しているのか覗き見て、世界の裏側で起こる蠢きを知って悦に浸る。あるいは、他の七賢人の行動に介入して、自身が世界を動かしている感覚に酔う。それが、今は他の七賢人がフリズスキャルヴを封じられていてできない」

 

〈……ジード・ヘイグに、四葉真夜。なるほど、間違いなく要注意人物たちだ。とすると、フリズスキャルヴは要注意人物の動向を探るための物だった、という訳か。……あいつはシステムがオペレーターを選出していると言っていたが、嘘だったのか?〉

 

「多く居る要注意人物の中からランダムに選ぶ、なんて程度のシステムなんじゃないか?もっと高度なシステムだったら、優先順位をつけて、というのはありそうだが」

 

 達也は俺の考えを呑み込んでくれたようだ。だから、俺の考えを事実とした上で独りごちた言葉に、俺は雑談的に付き合った。

 

〈……十六夜。貴方の考えが全て合ってるとして、どうするの?〉

 

「先手を打ちたい。暴露される前に、自供しよう。達也が『トーラス・シルバー』の片割れだって」

 

 真夜によって促され、開示した俺の策。それに、真夜も達也も目をむく。

 

〈それじゃあただ自分たちから罠に飛び込むようなモノよ!〉

 

〈……まさか、俺を売るつもりか?〉

 

「そうだね。それだけなら、2人が言う通りになる」

 

 2人が考える結末を、俺は平静に、無表情で肯定した。

 2人は、息を呑む。

 

「達也。すまないが、俺が考えられるのは、そこまでだ。俺に考えられるのは、暴露されるより多少はマシという、より不利にならない方法だけだ。その不利をひっくり返す方法は、俺じゃ考えつかなかった」

 

 俺には分からなかった。結局、達也がそこまで追い詰められて、なお踏み留まれた方法が。原作で達也が打っただろう打開策が。

 俺には、これが限界だ。原作よりほんの少しマシな状況を作るのが、俺の限界だ。

 身の程は弁えている。だから―――

 

「達也。その先はお前が考えてくれ」

 

―――その先は本物(天才)に任せる。

 俺のような、原作知識があったから上手く立ち回れたような、紛い物でなく。暗闇の中でも足掻き続け、勝ち続けた本物(原作主人公)に任せる。

 

〈……俺はヘイトを買いすぎている。……国家公認戦略級魔法師になろうと、売られる可能性がある。……それは、俺の有用性が低いから。……魔法の平和利用という大義名分があるから〉

 

 達也は考える。与えられた情報を、自分が置かれた状況を精査し、何が有効打となるか。

 零れ落ちた言葉は、彼が回す思考の断片にすぎないだろう。

 ただ、その思考集中状態も長くは続かなかった。

 達也は、伏し目がちだった面を上げる。

 

〈恒星炉を使った、平和利用計画の立ち上げ。それが、俺が生き残る道だ〉

 

 結論を、達也は出した。

 

〈『恒星炉』というと、『常駐型重力制御魔法式熱核融合炉』の事ね。貴方が開発を進めていた〉

 

 『恒星炉』だけでは疑問を抱いた俺でも、真夜の翻訳で腑に落ちる。

 去年の4月だったか。反魔法師の政治家を追い返すために、達也が第一高でデモンストレーションしたモノ。

 達也は、あれを本気で実用化しようと計画している訳だ。魔法によるエネルギー革命を起こそうとしている。偏に、深雪を守るためだろうが。

 

〈ご当主様。FLT本社で記者会見を開く事、許可していただきたく〉

 

〈具体的な計画は、もう出来上がっているのね?〉

 

〈かねてより構想していたモノです。動き出すのは独立してからと〉

 

 真夜は計画が既に出来上がっているのか懸念したが、達也からしてみれば、計画が前倒しになった程度のモノだったようだ。その、『独立してから』という言葉が、何からの独立を差しているのか、すごく不安だが。

 ただ、その独立する段階をすっ飛ばしたという事は、達也自身、その段階の必要性は感じなくなっていたのだろう。とすると、まぁ、四葉からの独立を差しており、今は四葉内での立場が深雪も達也自身も確立できたから、その必要がなくなったのだと推測できるが。追及はせずにおこう。

 

〈……達也さんの考えは分かったのだけれど。そこまで大々的に動くとなると、私の一存では許可できないわ〉

 

〈分家の了承も必要だと?〉

 

〈スポンサーの了承です。特に、東道閣下の了承は必要不可欠となるでしょう〉

 

 ここで、四葉が後ろ暗い組織である事に、足を引っ張られる。

 四葉家は、表立った収入がない組織だ。裏の収入はあるが、それでも四葉家という組織を運営するには、どうしても援助してもらわなけれならない。いうなれば、四葉は株主に決算報告をして、後々の支援も賜れるよう、努力しなければいけない株式企業なのだ。

 だからこそ、新事業の立ち上げは株主に説明した上で、合意を貰わなければならない。

 それで言うと、『東道閣下』、東道青波は筆頭株主に当たる。彼の合意さえ貰えれば、新事業は問題なく立ち上げられる。逆に言うと、彼の合意が貰えなければ白紙になるのだが。

 

〈アポイントはどうにか取ってあげます。了承は、貴方の手で勝ち取りなさい〉

 

〈かしこまりました〉

 

 達也が生き残れるかどうか。それを、真夜は達也の手に委ね、達也はその責任を握りしめた。

 綱渡りにはなるが、可能性は繋がったのだ。俺は達也に綱渡りを強要しただけだが。

 

「お前に負担を押し付ける形になってすまない、達也」

 

〈問題ない。それに、お前の予想が正しければ、どちらにせよ負担を背負わざるを得なかった。そうなるよりは幾分か楽ができるとなれば、むしろ俺はお前に礼を言うべきだろう。ありがとう、十六夜〉

 

「そうか。なら、素直にその礼を受け取っておくよ」

 

 俺は貼り付けた罪悪感を、達也の謝礼で引っぺがした。

 

 後は、達也の計画、その内容を詳しく聞いて、この会議はお開きとなるのだった。




 閲覧、感謝します。
 次回の更新は、4月14日の予定です。

※誤字修正
・『『ディオーネー計画』の賛同者がドイツの戦略級魔法師』→『『ディオーネー計画』の賛同者が新ソ連の戦略級魔法師』(2024/03/24)
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