魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第百三十一話 盤上の俯瞰

2097年5月19日

 

 日曜である今日この日、その日の暮れた頃。俺はリビングでとある連絡を待っていた。

 そこで携帯端末が震え、表示された名前で待っていた連絡である事を察する。

 俺は、すぐにヴィジホン機器へと携帯端末を接続。そうして、連絡してきた相手が画面に映る。

 その相手とは、1人目は克人だ。

 

〈『若手会議』ぶりになるか、四葉。素直に気持ちを明かすなら、これ程頻繁にお前と顔を会わせるとは、第一高校を卒業した時には考えていなかった。そして、こんな用件でお前と顔を会わせたくなかった〉

 

 映し出されている険しい顔は、吐かれる言葉に表裏がない事をこれでもかと示していた。

 克人は、良き先輩・後輩でありたかったのかもしれない。その望みが、この用件で崩れ去る可能性を頭に浮かべながら。

 

〈克人様はそうなのですね。私はどのような用件でも、十六夜様とお話ができる事を喜ばしく思いますわ?〉

 

 2人目が克人と対照的に微笑を携える女性、澪である。こっちもその恍惚として緩んだ口の端から、言葉が本当である事を窺い知れる。もっと隠してほしいが。

 一応、明記しなくても良いはずの常識的な事だが。今回は彼女もちゃんとビジネスカジュアルな装いを整えている。

 

〈……随分と彼の事を気に入っているようですね、澪殿〉

 

〈克人様もそうであるよう、私もそうである、というだけの事です〉

 

〈いえ、確かに私は彼を気に入っていますが。澪殿は彼とそれほど交流はないのでは?〉

 

〈かねてより彼のファンでしたし、直接お話しできた時は非常に有意義な時間でしたので〉

 

〈なるほど、理解できます。私も、彼の会話は非常にスマートであり、非常に有意義だと感じています。そして、何度も救われてきた〉

 

 何故か俺そっちのけで談笑する克人と澪。俺の目の前で俺への賛辞を並びたてるその会話に、俺は苦笑を禁じ得ない。

 

「あの、お2人とも……?用件を済ませなくてよろしいので……?」

 

 放っておくと俺への賛辞が加速しそうなので、俺は軌道修正した。

 

〈……すまん。用件の方は気が進まないものでな。つい逃避してしまった〉

 

〈1秒でもこの会談が長くなるのでしたら、いくらでも逃避にお付き合いしますわ?〉

 

「達也の説得に協力してほしい、というお話でしたね?」

 

 克人は自分から用件を切り出すのを渋っているし、澪は本気でこの会談を長引かせようとしている感じが否めないので、俺の方から用件を切り出す事で無理矢理でも話を軌道に乗せる。

 

〈……一昨日、十師族は日本魔法協会から招集を受けた。議題は、トーラス・シルバーの正体である司波達也の、『ディオーネー計画』への参加の是非について、だ。明確に非を示したのは、四葉家、そして六塚家と八代家、以上3つ。その他の家は、『ディオーネー計画』に司波達也が参加する事を願っている。そうして、説得役に推薦されたのが、俺と、澪殿だ。俺は司波と親交があるとして、多くの家から推薦され、澪殿はもしもの際に必要な戦力として、五輪家から推薦された〉

 

 克人は義理堅く、誠実に、達也を説得しなければならなくなった経緯を語った。その深まった眉間の皺からは、無理難題に挑んでいると認識している彼の心労が窺える。まぁ、気遣うつもりはないが。

 

「現状の世界情勢、魔法師に対する世界全体の批判。それらへの対策として、世界的な魔法の平和利用を謳ったかの計画に達也を参加させたい。そういう意図は理解します。ですが、俺は反対です」

 

〈……だろうな〉

 

 分かり切った俺の返答に、克人は溜息を抑えて唸っていた。俺にも協力させるという時点で無理難題だと、克人はしっかり認識しているのだ。

 

「達也は四葉家にとってだけでなく、日本にとって必要な人財であり、出向させるのは大きなリスクがあります」

 

〈大きなリスクがあるのは承知だ。俺もトーラス・シルバーの功績は理解している。司波が日本にとって重要な技術者だと認識している。しかし、新ソビエト連邦が国家公認戦略級魔法師を駆り出しているのに対し、日本は技術者1人を駆り出すだけで、日本における魔法の平和利用に対する本気度を示せる。リターンは見合っているだろう〉

 

 ここで、情報収集能力の格差が出ている。

 克人は、国家公認戦略級魔法師を差し出すよりは、達也を差し出す方がマシと考えている。これは、達也が非公式の戦略級魔法師である事を、克人が知らない事を示している。十文字家は情報収集に不得手というのが、ここに来て響いている訳だ。

 では、その格差を埋めるため、こちらから情報を補足するのか。

 

「去年の4月、第一高で行われたとある実験について、克人さんはご存じですか?」

 

 俺は、その格差を埋めない。

 

〈……確か、『常駐型重力制御魔法式熱核融合炉』、のデモンストレーションだったか〉

 

「それです。達也主導で、選りすぐりのメンバーによって魔法での核融合炉を実現する実験。本人曰く、実験炉とも呼べないお粗末なモノだったそうですが。達也は今、あれの実用化に向けて、動こうとしています」

 

 俺はあくまで、技術者という点だけで、達也の重要性を上げる。願うならば、克人に出向させるのを惜しんでもらえるように。

 ちなみに、澪は達也が戦略級魔法師である事実の秘匿を察したのか、口を挿まず、ただ俺に微笑みかけている。私は分かっていますよ、というアピールなのか。俺は正直苦笑を漏らしそうになったが、何とか耐えている。

 

〈……あれの実用化か。……金星のテラフォーミングと比べればはるかに現実的だ。世間の評価も得やすいか〉

 

 独り言ちる克人だが、その言葉から好感触なのが伝わってくる。克人も、そもそも『ディオーネー計画』に懐疑的で、あくまで日本も魔法を平和利用する意思があるというアピールを、世間にしたかっただけなのかもしれない。その点で言えば、克人が1人納得しているように、金星のテラフォーミングなんかより理解しやすい核融合炉の実用化は、世間へのアピールとして適しているだろう。

 

〈……四葉。その実用化へ向けた動きは、世間に公開する予定があるのか?〉

 

 克人は、核融合炉の実用化という平和利用のアピールに乗り気な様子を見せた。

 

「その予定です。しかし、まだ準備が整っていません」

 

〈……その事を、内々に他十師族へ伝える気は?〉

 

「ありません。空手形など、他家は欲しくないでしょう?」

 

〈それは我が十文字家も同じ事だ。四葉の言葉を疑うようだが、口八丁では周りと軋轢を生む事になるぞ〉

 

 疑いたくないようだが、その場しのぎの嘘を吐いていないかと、克人は疑ってきた。嘘は現状を悪化させるという忠告を添えて。

 

「時間を少しばかりいただきたく思います」

 

〈……悪いが、十文字家は期日通りに達也殿の所へ説得に向かわせてもらう〉

 

 猶予は与えた。それまでに空じゃない手形を用意しろ。そう、克人は言外に言い表した。期待感を持っているし、核融合炉の方が有用だと思ってくれての、これは譲歩なのだろう。

 

「ありがとうございます。どうにか間に合わせます」

 

〈……お前とは、手を取り合える事を望んでいる〉

 

 そう言い残し、克人は通話画面から消える。

 

〈人が悪いですね〉

 

 結局、達也が戦略級魔法師であるという情報を渡さなかった俺。そんな俺の人の悪さを再認識して皮肉っているのか、もしくは2人だけの秘密が守られた事が嬉しいのか。澪はニッコリと微笑んでいた。達也が戦略級魔法師というのは、別に2人だけの秘密ではないのだが。

 

「克人さんは情報収集の伝手がないだけで、頭は回るし洞察力もある人です。下手に情報を与えて秘密に迫られでもしたら面倒になります。俺も、彼とは良好な関係でありたい」

 

〈うふ、うふふふ……。やっぱり、十六夜様って素敵な人ね。冷たいようで、とても暖かい〉

 

 澪は俺への理解を深めたつもりなのか、その事を喜ぶように頬を薄く赤く染めている。何をどう解釈をすれば、冷たいようで暖かいなんて評価になるのか、俺にはてんで分からないが。

 

〈ちなみに、何処まで嘘なのでしょうか?〉

 

「達也の秘密を隠しただけで、嘘は何も吐いていませんよ。達也が核融合炉の実用化に向けて動いているのは本当です。ただ、四葉の組織体系における問題で、すぐには動けないだけです」

 

〈『四葉』の組織体系、とても興味がありますわ?表の身分がないはずなのに、何処からその力を維持できるだけのお金を得ているのか、とか。最も興味がある部分は、四葉内における十六夜様の権力、ですけど〉

 

「現当主の息子、というだけです。親の七光りですよ。親の威を借りずに振るえる力なんて、せいぜい親戚にお願いを聞いてもらう程度です」

 

〈さすがですわ〉

 

 何処まで俺の言葉を理解しているのか。何処までフィルターが掛かっているのか。澪は純粋に俺を称賛した。まぁ、俺も取引相手としての価値を示すため、しっかり俺にも権力がある事は仄めかしたが。四葉内部での影響力を確かに培っている、と。実際に夕歌や勝成なんかを動かせるかはともかく。

 

〈さて。非常に名残惜しいですが、私だけが長々残るのも不自然でしょう。十六夜様もお忙しいでしょうし。私はこの辺りでお暇させていただきますわ?〉

 

「ええ。ではまた」

 

 切り上げ時と言うか、退き際を弁えている澪。必要以上に踏み込まず、また、俺の時間を必要以上に奪わない彼女の姿勢は、俺にとってとても有難い。

 だからこそ、俺は彼女へのサービスとして微笑みと、また会う約束を送る。そうして、お互い笑って通話を終えるのだった。

 

 ただ、俺は即座に次の通話へ移る。予約していた事ではないし、切羽詰まった事でもないが、一応確認しておきたい事があるのだ。

 それで、俺は達也のコールナンバーを呼び出した。

 スリーコールで、達也が応答する。

 

「やぁ、達也。今良いかな?ちょっと確認したい事があってね」

 

〈……大丈夫だ〉

 

 応答は早かった達也だが、俺のその言葉への返答には、ほんの一瞬だけラグがあった。表情も神妙なそれだったが、次の言葉を吐く頃には平静なそれに戻る。

 

〈確認したい事とは?〉

 

「お前を『ディオーネー計画』に参加するよう、説得する役に選ばれた克人さんと澪さん。その2人とさっきまで通話してて、お前が核融合炉実験の実用化に動いている事を明かしたんだが。体裁もあってかな、克人さんは空手形では止まれないみたいだ。それで。公式発表はいつなのかって、確認がしたいんだよ」

 

〈……新事業の発表は来週土曜日にするつもりだ。東道閣下の了承は数刻前に得られた。だが、記者会見開催の旨は、2・3日前まで公表を控える。『ディオーネー計画』参加への対抗札だ、インパクトはあった方が良いだろう〉

 

「……克人さんたちが訪問するのは日曜だったか?結局、止まってくれそうにはないな。発表だけじゃ、まだあっちにとっては空手形だろう」

 

 達也に確認し、克人訪問イベントの解消はほぼ不可能であると認識する。まだ乗るつもりだった原作の流れとはいえ、その流れに無理矢理修正されているような感覚を、俺は覚えた。これで、達也VS克人まで原作順守されるのはさすがに困るのだが。万一に備え、俺も達也の下に居るべきか。

 とかく、転ぶ前に杖の用意に取り掛かる。

 

「……達也。念のためだが、克人さんとは矛を交える事を想定しておいてくれ」

 

〈……十文字先輩相手なら、手はある。だが、五輪澪もとなると、不確定要素が多すぎる〉

 

「俺が出よう」

 

〈……良いのか?孤立演出が破綻しかねないが〉

 

「たかが演出のために、お前を失うリスクなんて負いたくない。それに、弟が合理性を欠いてでも兄を心配するのは、そうおかしくはないだろう」

 

〈……〉

 

 達也は、口を半開きにした。目を見開いてはいないし、眉根を寄せてもいないので、悲しみとも喜びとも取れない。ただ、何かを言いかけて止めたようには見える。

 

〈……。分かった、お前が味方してくれる前提で考えよう〉

 

「そうしてくれ。……じゃ、今度話すのはその日になるかな」

 

〈茶を準備しておこう。いや、お前ならお茶漬けの方が良いか?〉

 

「お前は俺を何だと思ってるんだ」

 

 俺は、言いかけた言葉を聞けず、俺の関心も、達也のその思いも、隠すようにお互い笑いあった。

 そうして、別かれたのだ。

 これで良い。

 何も映さなくなったヴィジホン画面を見て思う。

 

原作主人公(お前)を敵になんぞ回したくない)

 

 何かに勘付いているとして、俺が赤の他人であると、気付いているはずがない。

 

(俺が弟であると、達也は疑っていない。そうでなければ、この関係が維持されている訳がない)

 

 達也から兄弟として扱われているからこそ、血縁者だと思われているからこそ、この良好な関係は保たれている。

 そのはずなのだ。

 

「……ふぅ」

 

 俺は不安を追い出すように、肺から空気を吐き出した。

 

大人(ターレン)、ロイヤルミルクティーです」

 

「ああ。ありがとう」

 

 機を見計らっていたのか、周妃はベストタイミングで飲み物を差し出す。俺はその飲み物に口を付けた。くど過ぎると周妃にすら言われた甘さを楽しみ、俺は正常な頭の回転を取り戻す。

 

「今更ですが。よろしかったのですか?」

 

「ん?何が?」

 

「確か、フリズスキャルヴ、でしたか。通信が全て筒抜けなのでは?敵側にはあれの製作者が居られるのでしょう?」

 

「ああ、その事か」

 

 周妃はエドワード・クラークに達也の孤立が演出だと露呈している事を懸念していたが、それは俺にとって織り込み済みだった。

 

「演出にしろ何にしろ、達也が援軍を受けづらい状態になっている事は確かなんだ。この機を、相手が逃すとは思えない。それに、あっちは一枚岩じゃない」

 

 そもそもの話、俺としては露呈しても全く問題がない事なのだ。何せ、結局情報を握れているのはエドワード・クラークただ1人なのだから。

 

「達也を排除するという利害の一致で繋がっているあっちの陣営は、結局言って背中を刺されないか注意しなくちゃいけない。それこそ、エドワード・クラークが他2人に情報を共有したところで、2人はその情報の真偽を疑わなくちゃならない。そして、真贋調査で足踏みしていれば、この好機を逃す恐れがある。故に、逸った奴の突出で、あっちの陣営は崩れる」

 

「……敵ながら、哀れなものですね」

 

「仕方ないさ。達也という存在は、それほどまでに恐怖心を煽るんだ。だからその恐怖を排除するために手を取るが、恐怖のあまりに手を放す」

 

 周妃は哀れと口にしながら呆れた様子であったが、俺は敵側に同情した。

 俺だって、もし達也が敵だったとしたら、冷静な判断などできない。そうならないように、俺は確固として達也の味方側に居るのだ。

 

「……それもそうですね。私も、摩醯首羅(マヘーシュヴァラ)と対峙するなんて御免です。あの方は尋常じゃない」

 

 一度対峙した経験がある故か、周妃は俺が語った論に得心し、肩をすくめていた。その程度で済ませられると言うか、敵として相対し、なお生き残れるのは、こいつくらいのものだろう。

 

「……そういえば。件の敵側はちゃんと顔を揃えたんだよな?」

 

 話は変わって、敵側の動向チェック。

 

「はい。エンタープライズに集合しているところを目視しました。目視と言っても、『付喪神』を通して、ですが」

 

 恐ろしい話なのだが。こいつ、さりげなく敵側の動きを目で追えている。『付喪神』、おそらく鳩を依り代にしたあれをこれでもかと有効活用している訳だが。その情報収集能力には舌を巻く思いだ。

 常々思うが、こいつを味方に引き込めて良かった。

 

「……シリウスは曇っていたんだったか」

 

「仮面を被れるのに顔に出ているくらいは、曇っていたでしょう」

 

 最も関心がある部分も再確認。『パレード』で曇った表情を隠せない程に曇っていたと、俺は周妃から報告を受けていた。

 

「ただ、それだけで祖国は裏切るとは、考えづらいんだよなぁ……」

 

 俺は、シリウス、いや、リーナは達也側に来ると、予想している。かなりスポットされたキャラクターだったし、達也との間に友情があるように俺は感じているからだ。

 しかし、そうだとしても祖国への不信感1つで鞍替えするような、尻の軽い奴ではないとも、感じている。

 ならばこそ、エンタープライズで曇るイベントは鞍替えの一因だろうが、これだけが原因とは考えられない。

 

「政敵や彼女を良く思わない人間にスキャンダルを捏造される。あるいは、自己の正義感で命令違反をし、それが問題視される。等々、考えられますが」

 

「……祖国を裏切るんじゃなくて、祖国に裏切られる、という方向か。それなら有り得るな」

 

 周妃の提示した可能性に、俺は一定の支持をした。

 純粋で年若い少女であるリーナだ。その純粋さが周りの大人に毛嫌いされる事も、純粋な正義感を貫いた故に周りから忌避される事も、充分に有り得る。これなら、彼女の視点からすれば、祖国を裏切ったのではなく、祖国に裏切られた形になるだろう。

 そうして、祖国に裏切られた彼女は、縁ある日本の、関わりある達也に頼る。そういう未来は想像しやすい。

 

「ま、味方になるというのも、まだまだ俺の妄想の域を出ないがな」

 

 捕らぬ狸の皮算用となるのも嫌なので、俺はその未来を期待しつつも、一旦は頭の奥へと押し込む事にした。

 

「さて。結局、敵はどう出てくるか、だよな」

 

 達也を『ディオーネー計画』に引っ張り出せないと悟った敵側は、その後どう動くのか。諦めてくれれば楽なのだが。国が3つ共同で遂行している作戦だ。しつこく誘ってくるのは当然として、何だったら建前を振り切って殺害しに来る、なんて事もあるだろう。

 

「目下警戒すべきは、新ソ連のベゾブラゾフかと」

 

 周妃は、過程を一段飛ばして提言してきた。

 

「その理由は?」

 

「4月にありました、不審船爆破事件と北海道侵攻。どちらにもベゾブラゾフが出ていたようです。正確には、遠距離での魔法支援で、現地には居なかったようですが」

 

「……不審船爆破、あれはベゾブラゾフの魔法だったか。……北海道侵攻でも出てきていたのは、本当に初耳だが。とかく、新ソ連は戦略級魔法師を出兵させる事に、もう何の躊躇いもない訳だ。しかも、既に攻めっけは出しているんだから、退く意味がない。いや、むしろ退くに退けないか?戦争を始めてしまえば、後は決着が付くまで進むしかないしな。費用が回収できないのは辛い事だし」

 

 周妃の提言で思い出される、新ソ連はもう攻め込む気に満ち満ちているという話。ならばこそ、この機を逃すまいと気持ちが逸っても、何らおかしくはない。

 

「しかも、遠距離での魔法支援か……。澪の『アビス』みたいに、ただただ射程が長いだけなら良いんだが。『サード・アイ』みたいな、人工衛星で照準を定められる場合は最悪だな」

 

 想定される最悪。それは、空の開けた所が全て射程圏内という場合の事。単純な話、相手は安全な所から敵地を爆撃できる、という事が予想されるのだ。まぁ、達也も同じ事ができる訳だが。

 

「……ああ、だからこそ達也の排除に躍起になっているのか」

 

 新ソ連も、こっちの戦略級魔法が空の開けた所全てを射程圏内に収めていると、想定しているのだ。自国でそれが可能なのだから、相手はそれが可能であると考えるのは難しくない。

 そして、自国でそれが可能であるからこそ、それが実行可能という事の脅威度を正確に認識しているのだ。

 新ソ連は、何処よりも達也の脅威度を正確に認識している。

 

「お前の提言は理解した。一時シリウスよりベゾブラゾフの監視を優先する」

 

「承ってございます、大人(ターレン)

 

 俺の中で優先順位が入れ替わった事、そうしてベゾブラゾフが最優先になる事を、周妃は読んでいたようだ。二つ返事で、しかも言われる前に実行に移しているように、彼女は微笑みを携えながら一礼した。

 頼もしい限りだ。

 

「期待しようじゃないか、未来に」

 

 平穏無事に片が付く事。あるいは、暴力的に片付けられる事。俺は、そうなる未来を期待するのだった。

 

「……何微笑ましそうに見てるんだよ」

 

「いえ、マフィアのボスムーブが板に付いてきたな、と」

 

「……」




克人と矛を交える想定をする達也:この後、達也に掛けられていた『誓約(オース)』が無残にも破壊される。

 閲覧、感謝します。
 次回の更新は、5月12日の予定です。
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