魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第百三十二話 大人たちの事情、子供たちの私情

2097年5月26日

 

 画面に映る、記者会見の様子。

 記者会見の会場、その正面奥にある大型スクリーンには、『魔法恒星炉エネルギープラント計画』と、表示されていた。

 それから分かる通り、この記者会見は、達也による恒星炉計画の公表である。

 会場に達也が現れれば、カメラマンは一斉にシャッターを切った。話題の人物に連れられた男に誰何(すいか)の関心を抱きながら。彼らは、カメラマンもこの場に集う記者も、その男が牛山と言う名であり、その正体が如何なるものか、この瞬間まで知らなかった。

 

 達也、そして牛山が壇上に上る。マイクの前には、2人並んで立つ。

 

〈FLT開発チーム『トーラス・シルバー』において、ソフトウェア開発を担当している司波達也です〉

 

〈同チームにおいて、ハードウェア開発を担当しています、牛山欣治(きんじ)と言います〉

 

 2人の発言に、会場は一気にざわめき出す。

 皆、達也が『トーラス・シルバー』だと、推測していた。決定的な証拠はなかったが、技術者たちが漏らす考え、若者たち、特に魔法科生の噂話から、そこまでは推測できていたのだ。

 しかし、あくまで達也は『トーラス・シルバー』というチームの一員。そこまで推測できている者は、この場には1人も居なかったのだ。

 

 そこからしばらくは、『トーラス・シルバー』についての問い詰めだった。達也こそが『トーラス・シルバー』だろうと。FLTは『トーラス・シルバー』をただ1人の技術者のように見せかけていただろうと。

 もちろん、達也はそれらの問い詰めを切って捨てていく。『トーラス・シルバー』はチーム名義であり、個人ではないと。『トーラス・シルバー』が1人の技術者であるという世間の推測を否定した事はないが、肯定した事もないと。

 そうして切って捨てた後、さっさと本題に入りたかった達也は、それらの興味関心も切り捨てる言葉を吐く。

 

〈皆様が強い関心を抱く『トーラス・シルバー』について、まず1つお伝えしたい事があります。それは、開発チーム『トーラス・シルバー』を解散し、以降『トーラス・シルバー』としての活動を凍結させる事です〉

 

 その達也の言葉に、ざわつきは収まる。皆、その言葉に理解が追いつかなかったのだ。

 

〈同チームのソフトウェア開発を担当していた私は、FLTの新事業に移ります。それこそが、『魔法恒星炉エネルギープラント計画』です〉

 

 記者たちが呆けている内に、達也は本題を口にした。傍からしたら、やっかみに付き合ってられないというような、太々しい態度である。

 ここまで来て理解が追い付いた記者たちは、その本題を理解する土台を作るべく、周りの記者と小声で話し合っていた。

 この時間は本題を呑み込んでもらうのに必要な時間だろうと、達也は静寂が訪れるのを待つ。

 そうして約2分後、静寂が訪れた機に、達也は再び口を開く。

 

 語るのは『魔法恒星炉エネルギープラント計画』の概要。

 魔法による核融合炉・魔法恒星炉の実用化、それによるエネルギーの生成と供給。魔法恒星炉実用化の初期段階では、電力を生み出しながらも、本土にはその電力で生成した水素を送る事。直接電力を送らないのは、世間が抱くだろう安全性に対する懸念を緩和するためだという事。

 予期せぬ事故の被害、その心配を抑えるため、魔法恒星炉を置く設備、プラントは本土から離した場所に建設されるのだ。そのため、送電ロスが想定されるので、直接送電よりロスが少ないだろう水素燃料を供給する形を取ったのである。

 また、海水を材料に水素を生成するので、ついでとばかりに海水中の有害物質を取り除き、以って海洋環境浄化に貢献する事を掲げている。

 

 話のネタ、人々が関心を示すニュースに対する嗅覚は鋭い記者たち。彼らは『トーラス・シルバー』についてよりも、その事業計画の方が人々の関心を引くだろうと、そちらへの質問にシフトしていく。

 まぁ、残念ながら、追及は人々の関心を引く、ゴシップ的な方面だが。

 

 魔法恒星炉の稼働には相当数の魔法師が必要だろう、という質問。これに達也が是と応えれば、何処からそんな発想が出てくるのか、魔法師の独立国家建国を懸念する声が上がった。本土から離れた土地、相当数の魔法師、それくらいの材料でその発想に行き付くのは、とりあえず想像力豊かと評しておこう。

 この後も、コメディーだったとしたら面白い質疑応答が続くのだが、動画再生はそこで打ち切られる。

 そう。流されていた映像は、録画映像だったのである。予定された記者会見が土曜、つまりは本日日曜日からしたら昨日に当たる日なのだから、当然と言えば当然だ。

 

 では、なんでそんな映像がお披露目されていたかと言えば。

 今、俺と達也が座る横には克人と澪が居て、全員で眺める()()()()()()()には、十師族当主らが映し出されているからだ。

 

〈記者会見の再確認は、ここまででよろしいでしょう〉

 

〈最後まで見なくてよろしいのですか?〉

 

〈最後まで見るべきでは?特に、『実弟に許可は得たのか』と質問された段は〉

 

〈……八代殿、六塚殿。吉報に浮かれるのは分かりますが、抑えるべきではないでしょうか〉

 

 二木舞衣が取り仕切っているところで、笑顔で茶化す八代雷蔵と六塚温子。五輪勇海は、そんな2人を、恐る恐る諫めた。

 ただ、他に諌めるないし苦言を呈する者は出てこない。面持ちから察するに、他は呆れているだけ、と言った様子だが。

 ちなみに、温子が指摘した段は、達也が『許可を出されなければやっていない』と、無駄に誇らしく言った段である。弟の言いなりと取られてもおかしくないその返しを、何故誇らしげに言い切ったかは謎である。

 

〈彼の計画が実現するのであれば、もはや『ディオーネー計画』へ送り出すのは悪手でしょう〉

 

 真面目な雰囲気になったところで、話を当初の軌道に乗せるのが、七宝拓巳だ。

 そう。今回こうして十師族当主が揃っている理由は、この記者会見直後まで総意だった、『ディオーネー計画』へ達也を送り出すという話を、結局はどうするのか話し合うためである。

 記者会見、『魔法恒星炉エネルギープラント計画』には十師族当主らの意見を揺るがすだけの効力が合った訳だ。

 そして、七宝拓巳の意見は、送り出さない側に傾いている。

 

〈実現性が高ければ、の話です〉

 

〈実現性もそうだが、魔法恒星炉の稼働に関わる魔法師の拘束時間も、当家は懸念している。エネルギー供給を目的とするなら、炉は常時稼働させねばならないが。その場合に考えられる拘束時間は殺人的になるだろう。魔法演算領域の負荷も、同じくだ〉

 

 送り出す側かどうかはともかく、『魔法恒星炉エネルギープラント計画』に否定的な意見を出したのは、三矢元と一条剛毅だ。

 特に、最近まで魔法演算領域のオーバーヒートで床に臥せていた剛毅は、その辺りに神経質になっているのだろう。その目は非常に鋭い。

 

「実現性は、去年第一高校で行った常駐型重力制御魔法式熱核融合炉の公開実験で証明したつもりです。あの時の稼働役は優秀なメンバーでしたが、現在は彼女ら程の技量がなくても稼働できるよう、最適化している最中です。拘束時間については、こちらも解決するための技術が実用化間近です」

 

〈その技術とは、どういったモノなのですか?〉

 

瓊勾玉(にのまがたま)です」

 

「達也!?」

〈達也さん!?〉

 

 初手ではぼかした回答をしていた達也。しかし、弘一からの詮索にはノータイムで、しかも明確に応える。その行動に、俺と真夜は思わず驚きの声を上げた。

 俺たちのその反応が良くなかったのだろう。与太話、あるいはどうしても真実を明かしたくないための出任せと捉えていた他の者たちが、真実味を感じ取っては各々呆気に取られる。

 まさか、魔法式を保存できると噂されるオーパーツが『四葉』の手元にあり、しかも、それを重要なプロジェクトに組み込んでいるなんて、と。

 この時点で、他の者たちは噂でしかなかった瓊勾玉(にのまがたま)の機能が本当であると、断定した事だろう。

 

「どういう事だ、司波。まさか、お前の手元にあの聖遺物(レリック)があると言うのか……?」

 

 詮索を続けるのは克人。彼は皆が呆気にとられた原因を代表すると言うより、呆気にとられ過ぎてその思いが漏れた、という感じである。達也の呼び方もプライベートのようになっているし。

 

「FLTが複製の依頼を受け、その現物と思われる物を預かっています」

 

 克人の詮索にも、依頼主・所有者を隠しつつも、素直に真実を話す達也。聖遺物(レリック)を所持し、なおそれの複製を依頼する組織なんて、ほぼ何処の組織か言っているようなものだが。

 

「達也、お前、何を……」

 

「ここまで腹を割る必要がある。そうだろう?十六夜。今優先すべき事は、俺が放出するのに惜しい人材である事の証明だ」

 

 どうしてそこまで素直に話したのかと思えば、聖遺物(レリック)を預かっている事よりも、そちらを優先した、という話だった。

 得心が行ったし、たぶん達也がやらなければ、俺が別方向でやっていた、とは思う。たぶん、俺がやる方向は達也を『グレート・ボム』行使者と明かす方向になっていただろう。個人的には、俺の考える方向の方がリスクは少ない気がするが、達也はそれで得られる評価では足りないと踏んだのだろう。

 達也が欲しかったのは、聖遺物(レリック)が複製できる人材という、唯一無二の評価だった訳だ。

 確かに、その評価なら誰もが手放す事を惜しむだろう。

 

「確認しますが。達也殿は瓊勾玉(にのまがたま)、魔法式保存機能を持つ聖遺物(レリック)を複製できると、確証を持っているのですね?」

 

「実用化間近であると、再度お答えいたします」

 

 澪からの追及、笑顔に隠された鋭い眼光に晒されても、達也は堂々と言い切った。

 

〈1つ、よろしいか。その技術が実用化された時、君はその技術を公開するつもりはあるのでしょうか〉

 

「技術は公開する予定です。しかし、複製品そのものを世に広めるつもりはありません」

 

 七宝拓巳が『四葉』による技術独占を疑ったが、達也は()()()公開すると宣誓した。しかし、その技術(ソフトウェア)を動かせる瓊勾玉(ハードウェア)は広めないとも付け足している。

 これが独占と何が変わらないのか。達也からすれば、瓊勾玉(にのまがたま)を複製する技術がない他が悪い、という意見なのだろうが。

 ただ、皆は理解した事だろう。達也は瓊勾玉(にのまがたま)を複製できる、替えの効かない唯一の人材である事を。もし達也を放出なぞしようものなら、最悪他国にその複製品が流されると。

 

〈我が五輪家は、司波達也殿を『ディオーネー計画』に参加させるべきでないと考えます〉

 

 ここで改めて、五輪勇海が自分の意見を明確にした。

 このタイミングなのは、他家が瓊勾玉(にのまがたま)の複製品を供給するように脅迫するのを牽制したかったからだろう。他家がそうして供給を受けられるようになる事を避けるために。という思惑を読ませつつ、俺の味方をするために。

 

〈四葉殿のご子息を派遣する事について、六塚家は元より反対していた〉

 

〈八代家も同じくです。『ディオーネー計画』への同調で得られる利益は、日本の技術者を他国に送り出す損失に見合ったモノではありません。その技術者が司波達也殿であるなら、なおさらの事です〉

 

〈七宝家も、司波達也殿の派遣に反対します。『魔法恒星炉エネルギープラント計画』の実現性は十分に示され、問題点も、目立つモノは既に解決策がある様子。司波達也殿自身も、その将来性は計り知れない。金星のテラフォーミングに専念させるべきではないでしょう〉

 

 五輪勇海と同意見である事を即座に示したのが、六塚温子、八代雷蔵、七宝拓巳だ。彼女ら、少なくとも前2人は初めから意見を変えていない。

 

〈一条家は結論を保留させていただく。目に見える功績が示されねば、大衆も納得はしない〉

 

〈三矢家も同じく。『ディオーネー計画』への同調は、USNA、そして新ソ連、ひいては以降同調するだろう国々との協調を図る目的もあった。それと同等の成果を示してもらえなければ、首を縦には触れない〉

 

 一条剛毅と三矢元は意見を保留。どちらも大局を見ての考えだ。間違っていると非難するのはお門違いである。

 

「……十文字家も、保留させていただきたい。……『ディオーネー計画』への同調という選択肢を捨てるのは、時期尚早でしょう」

 

 十文字克人は、考えあぐねた末にその意見を絞りだした。彼は色々考えすぎて揺れているようだ。

 

〈二木家も意見を保留します。『魔法恒星炉エネルギープラント計画』は意義あるモノですが、『ディオーネー計画』も意義あるモノです。どちらがより有意義なのか、それは今の段階では決められません〉

 

 二木舞衣は、両計画の有意義性に着目し、まだ結論付けずに居た。ただ、吊り合っている天秤が傾けば、即座に傾いた側へ立ちそうである。

 

〈七草家も保留します。魔法の平和利用という点で、『魔法恒星炉エネルギープラント計画』には現実感があり、対する『ディオーネー計画』には夢がある。どちらも大衆に響きうる謳い文句です〉

 

 七草弘一も保留。こちらは、どちらがより大衆を納得させられるか、という点で天秤が吊り合っているようだ。二木舞衣と同じく、天秤が傾くのを待っているのだろう。

 これで、十師族・10の内、9の意見が出そろった。

 残るは、分かり切っている四葉家の意見である。

 その意見を、年長者である二木舞衣が訊く。

 

〈改めて尋ねましょう。四葉家はどのようにお考えですか?〉

 

〈意見は変わりません。本人の一生に関わる事ですので、達也本人の決断に任せます〉

 

 選択権は達也に譲る真夜。達也自身は『ディオーネー計画』に参加するつもりはないので、これは『ディオーネー計画』参加への反対を示しているも同義だ。

 

〈反対5票、保留5票ですね。では、今しばらくは様子を窺いましょう。皆さま、それでよろしいですね?〉

 

 二木舞衣がそう意見をまとめれば、皆はそれに同意するよう、それぞれ頷く。

 

〈司波達也殿。全ては貴方のもたらす功績に掛かっていると言っても、過言ではありません〉

 

「承知しております」

 

 二木舞衣の忠告を、達也は真正面から受け止めた。言われるまでもないとばかりの不敵さだ。普通だったらその態度が生意気に映って気分を害しそうなものだが、二木舞衣は、微笑んでいる。

 

〈期待しています。……、それでは、私はお暇します〉

 

 二木舞衣は、二木家としてではなく、ごく個人的な声援を送って、この場を辞した。案外、良いお婆ちゃんなのかもしれない。

 

 まとめ役たる二木舞衣が居なくなったのを皮切りに、それぞれがそれぞれ別れの言葉を言って、通話を切っていく。

 ちなみに、去り際に六塚温子が『第二回『若手会議』を楽しみにしている』と言い残していった。

 

「……四葉、司波。……今回、お前たちの味方ができなかった事を謝罪する。そして、お前たちの方から十師族と手を取ってくれた事を、感謝する」

 

 十師族が顔を合わせた会談の終わり、その数秒の沈黙を破ったのは、克人だった。彼は、頭を深く下げている。

 

「謝る必要はありません、克人さん。貴方にだって立場がある。むしろ、味方になれずとも敵にならない選択をしてくれた事、こちらからも感謝させてください」

 

「手を取り合った、というのも語弊があります。我々の方が立場が弱かったからこそ、こちらから譲歩しなければならなかっただけの事です」

 

 俺と達也はそれぞれ、克人の頭に乗っているだろう重荷を下ろさせる。達也はリップサービスとかではなく、本心から言ってそうだが。

 

「それでも、だ。お前たちの先輩だった者として、お前たちばかりに負担を強いてしまっているのは、俺としては立つ瀬がない。……何かあれば、連絡してくれ。立場があるせいでいつも力を貸せる訳ではないが、可能な限り助力しよう」

 

 克人は、沈んだ表情をしながら携帯端末をこちらへと突き出した。俺と達也はお互いをちらりと見つつ、達也の方は目を伏せた。俺に委ねる、という事だろう。

 俺はちょっと苦笑しつつ、俺の方だけ携帯端末を取り出した。そうして、無線通信により、克人と俺は連絡先を交換する。

 克人は、達也と連絡先の交換ができず悲し気に視線を下げながら、ゆっくりと携帯端末をしまい込んだ。

 

「円満に終わった事は喜ばしいですね。でも、私の仕事がなくなってしまいましたわ?十六夜様、何か私に頼みたい事などはありませんか?例えば、外の下手人を退治してほしい、だとか」

 

 微笑みを携える澪は、ごく平静な態度で、外の下手人に言及した。魔法発動の余波、サイオン波を感じ取っていたのだろう。伊達に戦略級魔法師ではない。

 先ほどの会談に気負い過ぎて気付かなかったのだろう克人。彼は目を見開き、驚きを露わにしている。対し、俺と達也は表情を変えない。俺も達也も、サイオン波を感じ取っていたし、下手人が居る事に身に覚えがあるのだ。

 

「その必要はありませんよ?既に国防軍が動いています」

 

 そう。身に覚えとは、国防軍関連。もっと言えば、下手人は国防軍情報部特務で、その対処に動いてくれているのは独立魔装大隊である。

 達也の孤立演出は効いたようで、特務の誘き寄せは成功したのだ。

 そして、特務の捕縛も、もうそろそろ済む頃だろう。

 

 そう考えていたら丁度、インターホンのチャイムが鳴る。

 俺は『失礼』と断りを入れてから、インターホンを窺いに行く。達也も澪たちに目礼してから俺の後に付いてきている。

 そうして、2人でインターホンの画面を覗いたのだ。

 

〈たーつや君、いーざよーい君。あーそびーましょ〉

 

 何故か、そこにはエリカが映されていた。青筋が立っているのまで見える。

 俺と達也は真顔になり、速足で玄関へと向かった。

 扉の施錠を解除する。デジタル式・アナログ式併用であるため、アナログ式の開錠による『ガチャ』という音は、外まで聞こえていたのだろう。

 そのため、扉を開けた瞬間に腰が入っているだろう拳が飛んできた。俺は条件反射でアームロックしてしまうが。

 

「いだだだだだだ!ちょ、ギブ、ギブアーップ!」

 

 エリカはギブアップを示すようにタップしてきた。

 俺はそのままエリカを封じ込めつつ、他の来客を確認する。

 エリカが来ているのだから予想できていたが、レオ、幹比古、美月、ほのか、雫の姿もそこにあった。

 そして、独立魔装大隊の風間も居て、武装警察官といった装いの千葉寿和も居る。

 一周回ってどういう状況か分からない。

 

「……誰か、説明をお願いします」

 

「説明も何もないわよ!この、友達を頼るって事を知らない馬鹿兄弟!そこに居る風間っていう人が千葉家に協力を申し込まなかったら、あたしたちは危うく国防軍同士が争ってる所に突っ込むところだったじゃない!」

 

「……オーケー、把握した」

 

 アームロックの痛みに耐えながら、叱責ついで状況説明をしてくれたエリカ。それで、俺は完全に把握した。

 要するに、だ。

 おそらく、風間、あるいは佐伯が、国防軍の部隊同士で争う事の危険性、最悪は国防軍内部の大きな派閥間抗争となる事を恐れた。

 なので、国防軍外部で、国防軍に対しても法的強制力を持つ機関、警察を頼りたかった。

 そこで、達也・俺関連とくれば動いてくれるだろう千葉家に話を持ち込み、以って千葉の息がかかった警察部隊を動かした。

 そして、そもそもエリカたち達也一団は元々ここに乗り込む予定だったので、警察と共に乗り込んできた。

 という事だろう。

 

 ここで、1つ問題がある。

 誰が、エリカたちに達也が潜むこの場所を教えたか、である。

 

「……十六夜?達也様?」

 

 エリカたちの影から声が、そして冷気が伝わってきた。

 ああ、誰がこの場所を教えたのか。考えるまでもない。

 その人物、声の主は、自然と別れた人垣を通り、俺と達也の目の前まで迫る。

 

「……深雪」

 

 そう。冷気を伝えてきているのも、エリカたちにこの場所を教えたのも、合わせて俺と達也を笑顔で威圧しているのも、全て深雪だ。

 俺は思わず顔を強張らせる。

 

「十六夜?達也様を孤立させたのは全て演出であると、親戚が快く教えてくれました」

 

 冷気が漏れ出る深雪の笑顔が何よりも物語っている。快く教えてくれた、なんて嘘だ。亜夜子か文弥か、または両方か、脅迫されて口を割ってしまったのだろう。2人は達也への連絡役として、孤立が演出であると知らされていたのだ。

 それで、深雪の元へ連絡に行った際、恐喝にあった、という訳だ。

 後で骨を拾ってやりたいところだが――

 

「十六夜、達也様。座りなさい」

 

――それは、俺の骨が残っていればの話である。

 

「待て、深雪。これは十六夜の立てた計画で」

 

「正座」

 

 深雪の有無を言わさぬ気迫に、言い逃れしようとした達也と、主犯扱いされている俺は、正座を余儀なくされるのだった。

 この後無茶苦茶説教された。




原作との差異・真由美と摩利の不在:事前にした十六夜との会談で達也を説得する事はほぼ不可能だと察していたので、説得要員に真由美と摩利を呼ぶという発想を、本作の克人はしていない。五輪澪という、実力行使しろと言わんばかりの増員も居るので、荒事になる事はほぼ確定(克人の中では)。なので、そんな火中に真由美と摩利を放り込むなんて、克人はなおさら考えられなかった。

原作との差異・深雪(と水波)の不在:深雪たちは『誓約』解除のため、前日には達也の居る伊豆の別荘に訪れていたが。達也は克人&澪との戦闘を想定しており、その戦闘から無傷で彼女らを守り切れる自信はさすがの達也もなく、彼女らに家へ帰るよう、頑張って言い含めたのである。

武装警察官といった装いの千葉寿和:SMAT(特殊魔法急襲部隊)に転属した。ちなみに、転属を推され始めた頃はエリカに振り回されるだろう事が嫌で渋っていたのだが。『SMATなら、国防軍と協力する事も多いでしょうね』と藤林にそそのかされ、現在に至る。その事を時々エリカに弄られている。

脅迫された黒羽姉弟:達也説得会談について情報共有するため、前日に深雪の下へと訪れたのだが。澪が出てくるという、普通なら達也と十六夜の身を案じてしまいそうな情報を知りながらも平然としていたので、その違和感を深雪に追及される事となったのである。後、どちらが先にお風呂で体を温めるか、ちょっとした言い争いになった。ちなみに勝者は亜夜子である。

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 次回の更新は、5月26日の予定です。
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