魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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※今話は少し短い(7000字以下)です。ご了承ください。


第百三十四話 敵の線引き

2097年6月1日

 

 情勢は、四葉家、というか達也優位に傾きつつあった。

 それは、今日までに放送された、3つの報道が起因となっている。

 1つ目は、28日に報道された、インド・ペルシア連邦の記者会見。

 記者会見を開いたのは、戦略級魔法『アグニ・ダウンバースト』の開発者、アーシャ・チャンドラセカールだ。

 

『私たちはUSNAの国家プロジェクトである金星開発計画ではなく、日本の一企業・FLTが発表した恒星炉計画を支持します』

 

 アーシャは多くの記者を目の前にしながら、堂々とそう言い切ったのだ。

 あくまで、彼女が所属する大学の教授としての発言ではあった。

 しかし、国の戦略級魔法を開発した技術者であるため、彼女と政府は切り離せるものではない。そも、USNAを煽りかねない内容だというのに、政府が一切の規制を掛けずに世界へ公表しているのが答えだろう。

 

(まぁ、『彼女が勝手に言った事だ』なんて、もしものための予防線を張ったのかもしれないな。せこいが、せこくなければ居並ぶ大国と渡り合えないしな)

 

 とかく、アーシャは完全に達也寄りで、インド・ペルシア連邦は少なくともUSNAに味方していない、という事だ。

 

 2つ目は、29日に報道された、トルコの国家公認戦略級魔法師に対するインタビュー。

 インタビューを行ったのは、USNAの野党系テレビ局。

 連日、公認戦略級魔法師、そしてその関係者にスポットが当たり、国家公認戦略級魔法師に対する世間の注目度は上がっている。故に、そのテレビ局はその注目度にあやかりたかったのだろう。

 

『あくまでも私個人の意見ですが。魔法の平和利用、その道が複数示されている現状を、私は嬉しく思います。これは、これから魔法の平和利用がもっと増える兆しだと、私は考えているからです。だからこそ、それらの道を摘み取るのは控えるべきでしょう』

 

 トルコの国家公認戦略級魔法師であるアリ・シャヒーンは、そう、小さな可能性の芽も尊重すべきだと、熱弁していた。

 ただ、『摘み取るのは控えるべき』という言葉から、『ディオーネー計画』に対する牽制が透けて見える。

 

(周の情報網によると、このインタビューはシャヒーンが根回ししたっぽいからな。USNAと新ソ連に共同路線を張られるのが嫌だった、という事か……。ま、どういう思惑にしろ、こちらにとっては利があるから、良しとしよう)

 

 アリ・シャヒーンは味方ではなく、敵の敵であると、俺は一旦判断した。別段、こっち、というか日本を狙っている様子はないので、放置で良いだろう。

 

 そして、3つ目が、30日に報道された、俺のお気持ち表明である。

 達也にしつこく勧誘してくるUSNAに対し、俺はお気持ちを文書にしたためて、日本魔法協会から発信させたのである。

 

『USNAが我が兄・司波達也に対して複数回行っている交渉、『ディオーネー計画』参加への要請に、私、四葉十六夜は遺憾の意を表明する。現在、司波達也はエネルギー生成及び魔法の平和利用に関して、非常に有意義な事業、『魔法恒星炉エネルギープラント計画』に取り組んでいる最中である。当計画の実行には司波達也が必要不可欠である。反して、USNAの『ディオーネー計画』には特段、司波達也の存在が必要不可欠とする要素が見受けられない。なのに、要請は執拗なまでに繰り返されており、私は、USNAの計画に金星開発以外の思惑があるのではないかと、邪推してしまっている。素直な気持ちを明け透けに語るのであれば、兄に迷惑を掛けられるのは非常に不愉快であり、これ以上要請が繰り返されるのであれば、私個人としてはUSNAとの今後の関係を再考すべきかと、悩んでしまう』

 

 ちょっと長いので要約しよう。

 つまりは、しつこい要請にこっちは辟易してるし、お前たちの思惑はもう読めている。これ以上続けるようだったら、こっちも相応の対応をさせてもらう。という事だ。

 そんな事を、ちょっと背伸びした子供らしい稚拙さがある、故に感情的になっている事が如実に伝わるだろう文章に、俺は仕上げたのである。

 ちなみに、前述の文章は30日にテレビニュースで読み上げられた上、日本魔法協会のホームページでいつでも読める状態になっている。

 

 『ディオーネー計画』の参加要請について、俺はもうその対策を達也に丸投げするつもりだった。達也に任せた方が安牌だろうし、俺から何か手を打つのは余計だろうと、そう考えていたからだ。

 ただ、そう考えているところに、十三束鋼が来た。日時にして、28日の出来事である。

 

『よ、四葉君。司波君と話したい事があるんだけど……。取次とか、してもらえませんか?』

 

 『四葉君』と呼ぶ事すらタドタドしいくらいに、俺との交流がない彼。それでも、切羽詰まったようにお願いしてきたのである。

 勇気を振り絞って俺に縋ってきたのは火を見るより明らかだったので、俺は彼がそうした訳を尋ねたのだ。

 

『母が、心因性の胃潰瘍で、今入院してるんです……。その、司波君を金星開発計画に参加するよう、説得してほしいと、色々なところからお願いされて……』

 

 ストレスで倒れた彼の母、十三束翡翠(ひすい)。彼女は日本魔法協会の会長に在任中で、『ディオーネー計画』に振り回され、USNA政府だけでなく日本政府にも迫られ、されど相手にしなければいけないのは『四葉』という事で、その重圧に耐えられなくなったそうだ。

 日本魔法協会の会長なんて二十八家以外のナンバーズが持ち回りでやっているような、有体に言えば貧乏クジだ。十三束翡翠は、その貧乏クジを一等酷いタイミングで引かされたのである。

 強い使命感で就いた役職ではないのだから、国際問題に振り回される、頭と胃が痛くなるような仕事なんて、耐えられるはずもない。

 俺は十三束翡翠に、純粋な同情心を抱いた。

 

『つまり、USNAがこれ以上突っかかって来ないようにすれば良いんだな?』

 

 同情心から手を差し伸べようとした俺は、そんな言葉を十三束鋼に返したのだ。

 で、達也の説得なんて誰にできるはずもなく、そもそも俺含めた四葉家がそれを許すはずもないので、代替案を、というか根本的な解決に乗り出した。

 乗り出した結果が、前述のお気持ち表明である。

 原因は全て『ディオーネー計画』に達也の参加を強要しているUSNAにあるのだから、そっちを解決すれば丸く収まるだろう。

 ちなみに、お気持ち表明が読み上げられたテレビニュースを見ただろう十三束鋼からは、『あの、あれは……。いや、うん……。助けてくれて、ありがとう……?』と、表情もニュアンスも微妙な感謝をいただいた。それが31日、第一高での出来事である。

 

 さて。ここまでの経緯を振り返ったところで、現在に戻ろう。

 

 前述のお気持ち表明。怒りが伝わってくる文面、当人である俺が直接読んでないのが却って恐怖を煽るそれに、USNAが何の反応も示さないはずがない。

 特に、同じUSNAでも、『ディオーネー計画』を疑問視している派閥、あるいは『四葉』との敵対なんて考えたくもない集団は、保身に動く。

 

〈ミスター・ヨツバ。今回の会談に応じてくれた事、感謝する〉

 

 俺との連絡手段を持つUSNA軍大佐、ヴァージニア・バランスはヴィジホンではあるが、こうして俺との話し合いに臨む程だった。

 まぁ、彼女は自己の保身というより、純粋な愛国心による行動だろうが。

 何にせよ、こうして和解に乗り出してくれたのだから、『ディオーネー計画』の連中とは比べるべくもない誠実さを彼女に覚える。こっちの都合(土曜なので普通に午前授業だった)に合わせて、昼過ぎに予定してくれた事も、好印象である。

 俺を『ミスター・ヨツバ』と持ち上げているのは少しマイナスポイントだが。それを計算に入れても、彼女は普通に友好相手と認定して良いだろう。

 

「いえ、こちらこそ感謝しています。会談を希望した事は、貴女が達也へのしつこい要請に納得がいっていない証明であり、『ディオーネー計画』がUSNAの総意でないという証拠でもある。それは、俺にとって何よりの吉報です」

 

 俺はバランスの誠意に応え、友好的な態度を取った。バランスの強張った顔が、少し解れたように思える。

 

〈改めて明言するが、本国は貴国との共栄を望んでいる。合わせて、このような事態は本意ではない。ないのだが……。ミスター・シバに対し、過剰なまでの警戒心を持った者が本国に多く居る、というのが偽らざる真実でもある〉

 

 バランスは慎重に言葉を選んでいた。相手の神経を逆撫でしないように。さりとて、噓は吐かないように。

 実に誠実であり、先の先まで見据える視野の広さである。嘘を吐いてそれがバレたら、より怖い現実が待っていると分かっているのだ。

 

「……、まずお聞きします。どうしてその方々は、そこまでの警戒心を持ったのでしょうか?」

 

 俺は彼女が、彼女たちUSNA軍が、USNAが、何処まで知っているのか詰問した。バランスの誠実さと視野の広さに付け入る。

 

〈……『ディオーネー計画』の発表者、エドワード・クラークより、司波達也が戦略級魔法師であるという情報がもたらされた。『灼熱のハロウィン』で使用された質量・エネルギー変換魔法『マテリアル・バースト』の行使者であると。……情報の入手経路までは聞かされていないが、USNA軍は確度の高い情報として扱っている〉

 

「なるほど。達也が日本の非公式戦略級魔法師である事は、既にUSNAには露呈していると。新ソ連も『ディオーネー計画』に協調している事から、新ソ連にも露呈しているでしょうね」

 

〈……この情報が共有された場には、イギリスの『十三使徒』、ウィリアム・マクロードも居た〉

 

「イギリスにも、ですか……。……、ミス・バランス。それを教えてくれた事、感謝します」

 

 自身らが、少なくともバランスの派閥が四葉の敵でないと、示したいのだろう。彼女は少し躊躇しながらも重要な情報をこちらに流し、好感度を稼ごうとしている。

 そこまでしてくれなくても俺は既に友好相手と認定しているのだが。何はともあれ、原作知識と照合できた事に、俺は素直な感謝を送った。

 

「貴女方が、少なくとも貴女の派閥が俺たちの敵ではない事は分かりました。では、貴女の派閥は、我々の敵を、『ディオーネー計画』推進派を抑制する事はできますか?」

 

〈……ミスター。残念だが、所属組織が違いすぎる。私は軍で、彼らは科学局だ。政府からの指令で手を取り合う事は多くあるが、お互いがお互いに指図できる立場ではない〉

 

 苦渋の表情で所属が違うと述べたバランス。彼女にとって、これは賭けに等しいのだろう。

 何せ、責任逃れと取られても仕方のない文言だ。彼女の言葉は、ミスを犯したのは別の部署だ。私たちの部署は関係ないと、責任を押し付けて切り離しているようなモノ。

 そんな言い逃れを、『四葉』が許容してくれるのか。

 彼女は、賭けに出ている。

 

「端的に訊きましょう、ミス。我々が敵の排除を謳った時、貴女方は誰を差し出せますか?」

 

 許容はしてやる。だから生贄を差し出せ。

 俺はそう、脅しにかかった。

 

〈…………エドワード・クラークは、USNA国家科学局の中でも、後ろ暗い噂を持つ人物だ。それに、科学局内での彼の派閥を、同じ局内でも煙たく思う他派閥が少なくない〉

 

 エドワードを生贄に捧げる。彼なら、殺しても問題ない。

 バランスは、言外にそう吐露した。まさしく、身を切るような思いで、彼女は生贄を差し出しているのだろう。『四葉』との全面衝突を回避するためには、致し方のない犠牲、コラテラル・ダメージだと。

 

「ありがとうございます、ミス。念のために言っておきますが、我が家もまだそこまでは考えていません。穏便に済む、和解の道を望んでいます」

 

〈……我々も同じ思いだ〉

 

 俺から満面の笑みを向けられているバランスは、酷く疲れているようだった。どの口が、と漏れそうになったのを必死に抑えたような。難局を乗り切って仕事を切り上げようとする、サラリーマンのような。

 そんな状態の彼女には申し訳ないが、今日付けの仕事を言い渡す上司のように、告げなければいけない事がある。

 

「そういえば、かの科学者には後ろ暗い噂があるという事でしたが。彼が七賢人(ザ・セブン・セイジ)の1人だと、USNAの方でも疑っているのですか?」

 

〈な、え、エドワード・クラークがセブン・セイジ!?〉

 

 仕事終わりだと気が緩んでいる部分もあったのか、俺の爆弾発言に平静を繕えず、バランスは取り乱した。

 完全に不意打ち、というヤツである。悲しい事だが、USNAはエドワードがフリズスキャルヴの卸元だと探り当てるどころか、七賢人と疑う事すら出来ていなかったようだ。

 

「彼の息子、レイモンド・クラークが七賢人(ザ・セブン・セイジ)の1人であると、自供を得られました。父が国家科学局の人間とはいえ、一般家庭の子供がそうであると考えると、その子供の父も七賢人(ザ・セブン・セイジ)であるという可能性が浮上します。一番厄介な事は、エドワードが七賢人(ザ・セブン・セイジ)の用いるハッキングツールの開発者である可能性もある事です」

 

〈ま、待ってくれたまえ、ミスター!そう情報を浴びせかけられては、こちらの理解も追いつかない!〉

 

 さすがにぶちまけ過ぎたようで、バランスは手まで上げて制してきた。

 その後はすぐに情報を噛み砕くべく、彼女は両手で頭を抱えている。俺はバランスがお目目グルグルしている様子を幻視する。

 

〈……クラーク親子は子が七賢人(ザ・セブン・セイジ)であるため、親も七賢人(ザ・セブン・セイジ)である可能性があり、さらには親がハッキングツールの開発者である可能性もあると。……ああ、理解した。後ろ暗い噂というのも、七賢人(ザ・セブン・セイジ)であるが故の不審な行動が見受けられた事が火元かもしれないな〉

 

 大国の軍で大佐まで上り詰めているのは伊達ではなく、その思考能力でもって、バランスは早急に情報を噛み砕き終えた。

 彼女は姿勢を正し、俺との話し合いに戻る。

 

〈ミスターからの疑惑であれば、調査に動くに足る。我が軍だけでなく、警察当局にも調査に動いてもらおう〉

 

「優秀なハッキングツールです、ハッキング履歴などは残っていないでしょう。しかし、優秀であるがゆえに、高い演算処理能力を持った機器は物理的に存在するかと」

 

〈……彼の私有地に立ち入るには、今は大義名分がない。最悪は、容疑を偽装して、捜査令状を発行する、そんな強硬手段に出なくてはならないかもしれないが。どちらにせよ、時間は掛かってしまうだろう〉

 

「公的機関に調査されている。それだけで、人の社会的地位は揺らぎます。それで『ディオーネー計画』にも懐疑の視線が向けられれば、こちらとしては御の字です。それに案外、彼の立場が揺らいでいるところを狙って、密告者が表れてくれるかも」

 

〈身辺調査か……。警察には、そちらを勧めてみよう〉

 

 俺がエドワードを調査するように唆してみれば、トントン拍子で話が進む。バランスの中では、俺がエドワードに七賢人(ザ・セブン・セイジ)の嫌疑を掛けた時点で、もう追い落として良い人物だと決まったのだろう。

 ホワイトハッカーとしての仕事でなければ、ハッキングは普通に犯罪で、悪名轟く七賢人(ザ・セブン・セイジ)となれば、最早重犯罪者なのだから。

 

「改めて。ありがとうございます、ミス。我々『四葉』の敵が、USNA全体ではなく、ただの1派閥であると知れた事に、胸を撫で下ろす思いです。さすがにUSNAで『大漢崩壊』を再現するのは、世界への影響が大きすぎますからね。ミスには、本当に感謝しています。末永く、よろしくお願いしますね?」

 

〈……。こちらこそ、スエナガク、お願いする〉

 

 平静に、これからの友好を願った言葉を返したバランス。『スエナガク』と片言になったのは、きっと慣れない日本語だったからだろう。

 俺は、バランスの首に流れる汗については、見なかった事にする。

 

 そうして、俺はバランスとの通話を終えた。

 その後に、この通話の顛末を真夜(彼女は会談について事前に知っていた)に報告する。

 語って聞かせて、2・3誉め言葉を貰って終了。特筆すべき事はない。

 

 やるべき事を済ませ、日常に戻ろうとした時だ。

 

大人(ターレン)、ご用事はお済でしょうか?お伝えしたい事が……」

 

 歩み寄ってきた周妃の顔が、いつになく固かった。

 

「ベゾブラゾフが、戦略級魔法を日本へ向けて使用する準備に取り掛かっていると思われます」

 

「……、はぁあ!?」

 

 俺はその報告に、思わず声を荒げてしまうのだった。




 閲覧、感謝します。
 次回の更新は、6月23日の予定です。

※ユーザー名を変更いたしました。本作執筆に大きな影響はないですが、詳しくは以下の活動報告をお読みいただきたく思います。
私信:ユーザー名を変更した事について(2024/06/08)
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