魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第百三十五話 照準

2097年6月2日

 

 日曜日。午前5時少し前。

 俺は、2時間前には起床し、身支度を整えたところで四葉が迎えに寄越したリムジンに乗っていた。

 何故かと言えば、ベゾブラゾフが日本へ向けて戦略級魔法を使う恐れがあり、攻撃目標となる可能性が最も高いのが達也で、次点以下が俺だからだ。

 前述の恐れについては、周妃からその報告を受けてすぐ、真夜と達也、そして澪、七草三姉妹へとそれぞれ共有した。

 

(脅威の度順で行けば、澪は普通に上位に入る。むしろ、若手のまとめ役兼四葉当主直系という俺より、体調が万全になった国家公認戦略級魔法師の方が、単純な脅威度は上のはずだ)

 

 そう懸念した故の、澪への共有だった。共有されたあちらは、『まぁ、王子様は私の身も案じてくださいますの?』と、無駄に頬を赤く染めた、まるで危機感のない様子だったが。その後はすぐに五輪家自前のシェルターに避難してくれたから、良しとする。

 

(真由美たちは、ベゾブラゾフが俺の避難に気付かずそのまま攻撃してきた場合に、彼女らがそのまま被害を受ける)

 

 戦略級魔法なのだから、当然被害を及ぼす範囲は広く、隣近所に住んでいる七草三姉妹が巻き込まれるのは必然だ。

 だから、彼女らには七草家へ避難するように願った。おかげで弘一にもベゾブラゾフの攻撃について知られるだろうが、嫌がらせするなら新ソ連の方だろうから、こっちに不利益はないので気にしない。

 

 とかく。そうして真由美たちと澪たちへの被害を抑えたところで、俺も四葉家東京本部ビルへと避難中な訳だ。

 

(問題なのは、一番狙われる可能性の高い達也だ)

 

 達也は今、伊豆に居る。旧山梨県にある四葉の村からも、東京本部ビルからも、遠くはない。

 だが、援軍に足る人員が居ない。

 当たり前の話だ。戦略級魔法を防御できる人員など、四葉家でも調整体・桜シリーズ、その中でもより秀でた者たちしか居ない。その人数はただでさえ少なく、四葉の村と東京本部ビルを守るので手一杯だ。

 強いて不幸中の幸いと言えるのが、その者の内1人が、深雪のお付きである桜井水波であり、彼女らが今達也の元に居る事だろうか。

 

(おかげで、俺は嫌な役回りをするハメになったがな……)

 

―水波さん。君には、命を懸けてもらう

 

 俺は、達也たちへと情報を共有した際に水波へ下したその命令を思い出し、自分の言動に思わず苦笑していた。

 

(ほぼ脅迫だな。逆らったら殺されるような関係で、死ぬかもしれない命令を下されるなんて。最悪、離反されるかもな……。達也と深雪も、言葉にこそしなかったが、俺に鋭い視線を投げかけてたし……)

 

 稼いだ好感度をだいぶ売り払ったかと、俺は司波兄妹及び水波との今後を考えて、頭が痛くなる。

 

(ま、達也たちが水波を殺さないように動くだろう。それこそ、水波なしで対処してしまいそうだが……。念のための保険は要る。要るんだが……)

 

 もし、司波兄妹及び水波で対処できなかった場合の保険として、俺は克人に連絡を取ったのだ。

 そうして克人に、ただ、達也を目標とした戦略級規模の攻撃が仕掛けられるかもしれないと伝え、十文字家の鉄壁を貸してほしいと願った。

 ただ、タイミングが酷く悪かった。

 

(所用で関東を離れているとはなぁ……。車飛ばしても間に合うかどうか、とは……)

 

 まさかの、克人の遠出である。しかもかなり離れているから、達也との合流は期待できないというおまけ付きだ。

 克人は合流を目指して動いてくれたが、結局は不確定要素なので、やはり水波を頼るしかなくなった。

 

(……信頼するしかないな。水波の実力を、忠誠心を)

 

 俺は思考を切り上げ、見えてきた四葉家東京本部ビルを望む。

 時刻は午前5時になろうとしていた。

 

 地鳴りにも似た空気の揺れを感じる。否、それは錯覚だ。

 事実は、魔法師としてのサイオンを知覚する感覚が、遠くで大規模な魔法が使われた事を、空気が揺れたように感じさせたのだ。

 

 午前5時丁度。達也を狙った戦略級魔法が、伊豆に放たれたのだ。

 

 

 

 戦略級魔法の余波を感じ取った後、四葉もにわかに慌ただしくなった。まぁ、次期当主とその婿殿の安否確認、及び事後処理があるのだから当然だ。

 俺も、真夜と共に様々な所からの電話対応で忙しかった。

 意外な事は、最初に連絡を寄越したのが、戦略級魔法が仕掛けられる事を共有していた面々ではなく、独立魔装大隊の風間からだった事だろう。

 

『戦略級魔法の着弾を目視、同時に観測と記録を着弾地点付近で行った』

 

 なんと、独立魔装大隊と言うか、第101旅団もベゾブラゾフからの攻撃を予期しており、戦略級魔法による攻撃の決定的証拠を掴むため、達也の別荘付近に潜んでいたのだ。

 予期した時点で共有しなかった第101旅団には、さすがの真夜も笑みを引くつかせていた。

 ただ、もう密接に関わる事はしないと両者間で取り決めたために、その対応はおかしくない。むしろ、事後にその事を報告してくれるのは、かなり良心的とも言える。まぁ、件の取り決め締結に踏み切ったこちらへの些細な仕返し、兼、決定的な決別を避けるための保身、なのだろう。

 

(何にせよ、日本から正式に訴えられる材料があるのは好都合だ)

 

 如何に『四葉』と言えど、直接敵国に乗り込むでもない限り、たかだか一組織の訴えでは効力が低い。世界的に価値のある効力を発揮するのは、やはり国家政府からの提訴だ。それをするための準備が、風間たちの行動であり、佐伯の策略だったと見える。

 そう読めていた俺と真夜は、風間たちに日本政府から提訴させる事を、約束させたのであった。

 

(次に連絡があったのは、夕歌さんだったか)

 

 続く連絡は、これまた直接は情報を共有していない夕歌から。彼女及び津久葉家の人間は、達也が伊豆の別荘に居る間、別荘周りに人除けの効果がある精神干渉系魔法の施工と維持をローテーションで行っていたらしい。

 夕歌から連絡が来たのは、たまたま彼女が当番の日だったからだろうだ。

 それで、人除けの範囲内に侵入者が居た事と、戦略級魔法による被害状況の報告を受けた。

 

(侵入者は、風間たちだったと)

 

 侵入者と聞いて驚いたが、その正体は直前に連絡を寄越してきた風間たちだったという話。

 風間は古式魔法師でも手練れとされる九重八雲の弟子であり、天狗術なる古式魔法の一体系を修めているそうである。

 古式魔法は『四葉』でもその対策がし切れていないため、そこを突かれてしまった訳だ。

 ちなみに、侵入を気付かせない天狗術の存在を周妃に尋ねてみれば、『隠れ蓑』という認識阻害効果を持つ古式魔法がある、との事だった。さすがの周妃も、というか周も、知っているのはその存在までだそうで、魔法式などの詳細部分を知らない事を恥じていた。

 とかく、侵入者については問題ないとして、次に思考すべきは被害状況についてである。

 

(被害は皆無。ツイてたな、全く)

 

 戦略級魔法を相手にして、まさかの被害ゼロ。

 正確に言えば、その後来た達也からの連絡で水波が倒れたとの事だったので、人的被害1だが。建物への被害はほぼなく、水波以外に傷病者が出たという報告は何処からも受けていない。

 これは、克人の存在が大きい。

 

(伊豆、というか達也の別荘が見える所までは辿り着いて。そこで攻撃魔法のサイオンを感知。即、辺り一帯に『ファランクス』を張ったと)

 

 克人から、その事を伝える連絡が俺の端末に届いたのだ。それで、克人は疲れが滲む声音でその事を伝えたら、挨拶もそこそこにすぐに連絡を打ち切っていた。

 さすがに、今回は強行軍が過ぎて、疲労困憊だったようだ。ビジネスホテルの部屋を確保できたからそちらで一泊するとも言っていた。彼を労う意味で、今回の顛末を共有する連絡は昼まで控えよう。

 

(それにしても。さすが、首都防衛の要にして最後の砦。戦略級魔法の被害を抑え込むとはな)

 

 十文字家は防衛に重きを置いて開発された『十』の魔法師家、その最高傑作。克人自身はその家で若くして当主を務められる才人だ。今回はその能力を十全に発揮し、役目を充分に果たしたと言えるが。戦略級魔法に対して被害ゼロで収めたのは、舌を巻く思いである。

 

(それで。被害も侵入者も問題ないって事で、夕歌さんには達也の元に行ってもらったんだよな)

 

 夕歌から連絡を受けている最中かつ彼女が指示待ちだったので、真夜とも相談してすぐに達也の元へ向かってもらった。

 正確に言えば、水波の元へ、だが。

 

(水波は、やっぱり魔法演算領域のオーバーヒートを起こしたか)

 

 達也からの連絡も、夕歌からの連絡中に受けた。

 端的に言って、自身と深雪は被害を受けなかったが、水波は魔法演算領域のオーバーヒートで倒れた、という連絡だ。

 『再成』は掛けて、サイオンもプシオンも体調も万全にした。だが、魔法演算領域のオーバーヒートを引き起こした原因だけは、達也でも『再成』しようがなかった。

 達也の『エレメンタル・サイト』は、まだそこまで観測できないようだ。

 つまり、水波の状態を一旦は万全に戻す事が可能でも、魔法演算領域のオーバーヒートを頻発させる恐れは付いて回る。そして、頻発させたせいで損耗する可能性がある魔法演算領域は、『再成』できないかもしれない。

 

『……ご当主様、十六夜。水波について、後でご相談させていただくと思います』

 

 達也は報告の最後をそう締めくくっていた。

 達也は、水波を今後も侍らす事に否定的なのだろう。水波の損耗を嫌って。桜井穂波(ほなみ)の最期を想起したくなくて。

 とかく。昼前には各所からの連絡、その授受を終え、一息吐ける、なんて事はない。

 

(さて。どう声明を発表すべきかな)

 

 俺は、今回の攻撃が新ソ連のモノであると断定し、新ソ連を非難するための、出来れば自然に『ディオーネー計画』への不信感を煽れるスピーチ原稿を書き上げなければならない。

 

「……最近なんだが、テレビに出ずっぱりな気がしてきたな」

 

 本部ビルで宛がわれた俺用の部屋で、横に控える周妃が差し出したロイヤルミルクティーに口を付けてから、俺は溜息を零すのだった。

 

 

 

〈本日午前5時頃、伊豆半島の高原地帯で発生した魔法による爆発。四葉家は、新ソビエト連邦の攻撃と断定し、また、使われた魔法は戦略級魔法『トゥマーン・ボンバ』であると推定しております〉

 

 集う記者の前には、堂々と声明を声にする俺の姿があった。

 緊急で開いたモノであったが、報道機関はこれを予期していたようで、記者もカメラも予想以上に集まっている。

 

〈日本政府の下には新ソビエト連邦による攻撃と判断できる材料がありますが、世界情勢の観点から、そして、相手国の良心を信じて、侵略者の指名を避けました。ですが、同じく判断材料がある四葉家は、此度の下手人を、明確な敵意を以って指名させていただきます〉

 

 俺が発表する前に、今回の侵略行為に対して抗議の意思を世界へ向けて発信したが、相手が新ソ連であるとは明確にしなかった。

 そんな中、俺は眼を鋭くした上で、相手国どころか個人を名指しする。

 

〈『イーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフ』!新ソビエトの戦略級魔法『トゥマーン・ボンバ』を、()()()()()()()()()使えるのは、貴方だけだ!〉

 

 敵に怒りをぶつけるかの如く、俺はその名を口に出した。

 『明確な意志を持って』とわざわざ付け足したのは、今回の『トゥマーン・ボンバ』使用者が、ベゾブラゾフではないからだ。

 『トゥマーン・ボンバ』での攻撃を防げたらすぐ、達也は『エレメンタル・サイト』で魔法の行使者を追ったのだが。そうして視えたのが、2人の女性だったそうだ。

 しかも、その女性たちから、人間として機能しているのか疑わしい、壊れたエイドスを読み取ったらしい。

 それで、達也はその女性たちが『トゥマーン・ボンバ』専用の調整を受けた調整体魔法師であると察し、俺は、その女性たちが『ジェネレーター』と呼ばれるような自意識を剥奪された魔法師である事を疑った。

 故に、その女性たち自身の意志では、『トゥマーン・ボンバ』を発動できないと踏んだのだ。同時に、その女性たちに『トゥマーン・ボンバ』発動を促せるのは、ベゾブラゾフだけなのだろうという事も同じく。

 何故なら、促せるのが誰でも良いなら、達也が読み取った行使者の位置と、風間たちや周妃が推定していたベゾブラゾフの位置が、同じである必要なんてないのだ。

 貴重な戦略級魔法師を一か所にまとめておくなんて、最悪一網打尽にされかねないリスクを背負ってまで、新ソ連政府が許すはずがない。

 

(そのリスクを負ったって事は、調整体たちとベゾブラゾフを一か所にまとめないと、少なくとも調整体たちは『トゥマーン・ボンバ』を使えないって事だ)

 

 リスクを背負わざるを得ないからそうした。そう推察できる。

 そして、その推察から、1つの仮説が生まれる。

 

(もしかして、『トゥマーン・ボンバ』は調整体の補助ありきか?)

 

 結局大本のベゾブラゾフが居なければ使えない戦略級魔法師など、正直使用に耐えるモノとは思えない。そんな使用に耐えないモノを抱えるくらいだったら、1人で『トゥマーン・ボンバ』を扱えるベゾブラゾフだけで充分なのではないか。

 でも、そうしていないという事は、そうできない理由があるのかもしれない。

 そんな推理から生まれた上記の仮説だ。

 

 閑話休題。

 

〈もし今回の攻撃にベゾブラゾフは関与していないと言うなら、新ソビエトにはその証拠を提示いただきたい!これは悪魔の証明を願い出ているのではない。日本が攻撃されたその時に、ベゾブラゾフが何処で何をしていたかを開示していただけるだけで良い。それが出来ないならば、我々四葉は、新ソビエト!貴方方を疑い続ける!〉

 

 少し感情的になっているように、俺は怒りを露わに声を上げていた。大人ならこの幼稚さは冷静さを持たない者と見なされる悪手だろう。まだそれが許される子供であるが故の、本気度の見せ方である。

 

〈……、皆様には、お伝えしなければならない事があります〉

 

 空気が変わる。先ほどまで敵への怒りを表していた俺は、委縮しているように声のボリュームを下げ、視線を下げていた。

 伝える対象も記者たち、ひいては国民だと言葉にした事で、より聴衆の耳が俺へと傾く。

 

〈何故、新ソビエト連邦が伊豆を攻撃したのか。それは、伊豆の地に、四葉所有の土地があるからです。四葉が別荘を構えるその土地に、我が兄、司波達也が滞在しておりました〉

 

 俺の発言に記者たちは驚きながらも、ある事を察する。

 

〈そう。今回の攻撃は、おそらく達也を狙ったモノです〉

 

 やはりと、記者たちが喜色を顔に滲ませていた。

 

〈国防軍の方がこちらに攻撃の兆候を連絡してくれた事、攻撃に対する備えに十文字克人殿が協力してくれた事。それらのおかげで、被害はゼロに抑えられました。しかし、我が兄がそこに居た事で、何の罪もない人々を巻き込むところだったのは、変わらぬ事実です。その事に関しましては、深くお詫び申し上げます。本当に、申し訳ありませんでした〉

 

 子供が真摯に頭を下げる姿。謝罪会見をする大人には挙って非難の言葉を浴びせかける記者たちも、良心の呵責が働いたようだ。皆揃って眉を下げ、努めて清聴を保っている。

 ちなみに、発言内にある国防軍の件は、事前に連絡をくれなかった事実とは異なっているが。風間との話し合いで、そちらのほうが世間体を考えたら良いだろうという事で、その事実を歪曲したのである。

 

〈今回の件から学び、一般市民を巻き込まぬよう、達也が主に腰を落ち着ける場所を移す事に決めました。一旦は防備が固められた四葉の拠点に。そして、ゆくゆくは、一般市民の住んでいない島、巳焼島(みやきしま)をその場所とする予定です。皆様もご存じかと思いますが、『魔法恒星炉エネルギープラント計画』において、恒星炉プラント建設する予定の島です。一時の拠点の方は、申し訳ありませんが、皆様の安全も加味し、伏せさせていただきます〉

 

 俺はあえて、非魔法師と魔法師を区別するために『一般市民』というワードを用いた。これは、非魔法師を巻き込まない意志が四葉にある事を伝えるため。それで、『非魔法師』という差別発言と取られかねない表現を避けるため、だ。

 ただ、『一般市民』と称してその区別から魔法師を排している事は、魔法師の人権軽視だと取られかねない懸念は残るが。今回は非魔法師の好感度を稼ぐ事が目的なので、苦肉の策である。

 

〈少し話を戻します。話は、新ソ連が、いや、ベゾブラゾフが達也を狙って攻撃した件です〉

 

 一般市民の謝罪はそこで切り上げ、焦点を敵の攻撃理由に変える。元々、そちらを話したいがために謝罪の言葉を並べたのだが。

 

〈ベゾブラゾフは『ディオーネー計画』への参加を表明しておりました。そして、達也は『ディオーネー計画』への参加を要請されておりました。では何故、ベゾブラゾフが達也を攻撃したのでしょうか?〉

 

 皆に、疑念の種を植え付ける。

 何故、同じ計画に参加するだろう仲間を(達也に仲間になる気なんてさらさらないが)、ベゾブラゾフが攻撃してきたのか。

 仲間になる気など、相手にもなかったのではないか。

 

〈かねてより、四葉十六夜はあの計画に疑念を持ち、その事を公言してまいりました。あの計画には、達也を陥れようとする何らかの思惑があるのではないかと。今回の攻撃で、それが確信へと変わりました〉

 

 再び、俺は目を鋭くしていた。

 

〈あの計画は、有力な魔法師を地球から追い出そうとする、魔法師追放計画だ!〉

 

 訊かされた俺からの嫌疑に、記者たちが騒めきだす。

 

〈現在の宇宙飛行技術をどう高く見積もっても、ほんの数日で辿り着くなんて事は出来ない。その分野の専門家ではないので、詳しい所要時間は分かりませんが。誰でも閲覧できるような情報では、探査機なら200日は掛かると言います。観測するだけの機械を乗せた物でそれです。搭乗者となる魔法師の力を使えるとして、宇宙船は金星まで何日掛かるのですか?〉

 

 俺は疑問を投げかける。金星に行くだけで、人が何日拘束されるのか。

 

〈そして、そんな長い時間を掛けてようやく金星に至り、テラフォーミングを始める。区切りの良いところまで、あるいは交代役が来るまで何日掛かるのでしょうね?是非とも、クラーク氏にお訊きしたいです〉

 

 この馬鹿げた計画の発表者は、どの程度正確に所要時間を計算しているのか。それにより発生する拘束時間を良しとしているのか。

 少なく見積もっていたら、膨大な拘束時間を良しとしていたら、ふざけるのも大概にしろ。そんな思いで、俺は牙を覗かせていた。

 

〈それで、作業の引き継ぎ準備をして、地球への帰路に就く。これまた、行きと同じ時間が拘束されます。やっとの思いで故郷たる星に到着。これで一安心。なんて事はありません。長い時間無重力空間で生活していたんだ。地球の重力に慣れるリハビリをしなくてはならない。国際宇宙ステーションに1ヵ月滞在した場合のリハビリ期間は、現在約1ヵ月と言われています。無重力空間の滞在時間にこのリハビリ期間が比例するのか分かりませんが。少なくとも1ヵ月のリハビリは約束されるのです〉

 

 行きにも作業にも帰りにも時間が掛かって、さらに帰ってきてもまともな生活ができるようになるのに最低1ヵ月は掛かる。

 そう考えただけでも、計画に従事した者はかなりの自由を奪われる。どれ程宇宙に憧れていればそんな仕事に従事できるのか、俺には想像できない。

 

〈さて、リハビリは済んだとします。さぁ、これからしばらく長期休暇だ。とは、なりませんよね?止めているテラフォーミング作業に戻るべく、現在その作業に従事している者たちと交代すべく、すぐにまた金星へと向かう準備に取り掛からねばなりません〉

 

 テラフォーミング作業を長く止めている訳にはいかないし、仕事を引き継いで交代しなければならないとなれば、なおさら早く仕事に戻らねばならない。

 

〈『ディオーネー計画』に従事する者たちは、その人生のほとんどを、その計画に拘束されます。従事する者には高い魔法資質を求められるので、増員は難しく、合わせて、各人員の休暇を長くする事も難しい〉

 

 人員を増やせないから、1人当たりの仕事の量・時間は減らせない。残業マシマシのブラック企業と同様になるのだ。

 

〈端的に、かつ再度言いましょう。『ディオーネー計画』は、本計画に魔法師を拘束し、宇宙に縛り付ける、魔法師追放計画です〉

 

 1回目と違って声を張り上げず、静かに、しかし気を漲らせて告げた。

 

〈ベゾブラゾフは、達也を追放したいがためにその計画を利用し、けれども上手くいかないから、直接的に排除しにかかった。俺は彼の行動をそう判断しております。故に、俺は今後、新ソ連を敵と見なし、相応の対応をさせていただきます〉

 

 とりあえず、俺はその宣戦布告で以って、ベゾブラゾフと新ソ連に対する態度をはっきりさせ、新ソ連側に対する発言を締める。

 

〈分からないのは、USNA側、より絞り込むなら、その中の『ディオーネー計画』推進派です。貴方方は、上述した問題点を解決しないまま、ただ自分たちのフロンティア・スピリッツに酔ってしまったのですか?〉

 

 新ソ連は敵と見なしたが、USNAはまだ判然としない。そう、公共の電波に乗せた。

 まぁ、推進派が敵なのは、バランスとの会談でもう分かり切っているのだが。俺は、新ソ連に責任を押し付けないかと、唆したいのだ。

 新ソ連とUSNAを同時に相手などしたくない。それこそ無謀と言うものだ。

 

〈貴方たちは新ソ連に騙されているかもしれない。そうだと気付いたなら、どうかお返事をいただきたい。貴方方は、USNAは日本の味方であると。四葉十六夜は、USNAが味方である事を切に願っています〉

 

 願っていると示すべく、俺は黙禱するように目を伏せた。

 これで、USNA側への態度もはっきりさせたのだ。

 

 そこからは、質疑応答。記者たちの質問に答えていくが、改めて訊いても実りがあるモノには感じられない。

 だから俺は、俺の記者会見、録画されたそれを流すテレビの電源をオフにした。

 

「魔法師追放に賛成な方々への反論として、魔法師の人権問題とかにも触れておきたかったが。主題から逸れてるから、主題を薄めかねないしな。次の機会で良いか」

 

 四葉家東京本部ビルの自室にて、俺は記者会見の反省を終える。

 

「さて。ベゾブラゾフを仕留める算段を立てないとな」

 

 野放しにするのは危険かつ、味方には引き込めない相手であるため、殺す事は決定事項。

 他国領土に籠った人間を殺す方法。本来なら頭痛がするだろう難題だが、俺は、おぼろげながらもその方法を組み立てていた。

 

「次、奴の仕掛けてくる時が楽しみだ」

 

 俺は算段が上手く行く事を妄想し、獰猛な笑みを浮かべるのだった。




克人の遠出:十山つかさに、この前達也との戦闘で助けてもらったお礼と、達也に対する認識共有、というお題目で呼び出されていた。新ソ連の攻撃を知っていた十山つかさの嫌がらせである。

『トゥマーン・ボンバ』を対処した司波兄妹と水波:司波兄妹が攻撃を事前に知れていたため、原作よりはいくつかの爆発を防げた。しかし、やはり大部分は処理できず、原作同様、水波が無理をして倒れる事となった。

疲れの滲む克人:『オーバークロック』で魔法演算領域を酷使した。魔法演算領域のオーバーヒートは、幸いにも発症していない。ただし、昼までビジネスホテルのベッドでご就寝である。

 閲覧、感謝します。
 次回の更新は、7月14日の予定です。
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