魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第百三十八話 脱輪・後編

〈君、少し落ち着きなさい。これじゃあ、君への朗報も伝えられない〉

 

 第三者の声に、光宣は呆気にとられた。魔法を止めてしまう程だ。

 そんな彼含め、皆が音の発生源を追う。

 

〈周胤、映像の準備は?〉

 

 それは、周胤がいつのまにかに取り出していた円筒形の機械、真夜たち世代ですら懐かしさを感じるwebカメラ、360度カメラ・マイク・スピーカーを兼ね備えたそれから発せられていた。

 周胤はその声の主から受けた指示を全うするように、自身の背後に有った、会場備え付けのスクリーンを下ろしている。

 開かれたスクリーンに、周妃が自前で持ってきたプロジェクターで以って、映像を映し出す。

 14歳程の、アジア人らしい特徴を持つ少女が、足を組んで座っている尊大な姿を。

 しかし、プロジェクターもwebカメラも、電源コードが何処にも刺さっていない。これ見よがしに、丸く纏められたコードが各々の機械の傍にある。

 

〈……うん。映ったみたいだな〉

 

 足を組み替えたり、伸びをしていたりした少女。彼女は自身の行動と映像が別でない事を確認し、佇まいを整えた。と言っても、足は組んで頬杖まで突いているが。

 

〈初めまして。九島家の方々、四葉家の方々。俺は(ティエン)。一応、そこに居る奴が利用しようと所属している組織の主だ〉

 

 スクリーンの横に控えた周胤を、映像で指差す少女。彼女は(ティエン)そのもので間違いない。

 今俺が、必死に動かしているのだから。

 

 これは、万が一にも俺と(ティエン)を繋げられないようにした、茶番である。

 ただ、俺としては大変だ。右手・左手にそれぞれコントローラーを持って、2キャラを同時に操っているような状態なのだ。正直、俺の方の動きが固くなっているので、俺が注目されている時には、露呈するのが怖くて使えたものではない。

 澪がさりげなく俺の方に微笑みかけているのだが、本当に勘弁してほしい。

 

〈さて。九島光宣、君に朗報を伝えたい。俺は、君の病弱体質を治す事ができる。君の想い人が抱える魄の問題も、俺なら改善する事ができる〉

 

 映し出されている(ティエン)は、まっすぐに光宣を見る。カメラ越しであるはずなのに。

 それを気にした様子は皆にない。少なくとも俺からはそう窺えない。

 それ以上に、希望の光を見たような光宣の様子が目立ってしまったが故に。

 

「……治せるんですか。……桜井さんも、僕も」

 

〈断言しよう、可能だ。あくまで俺の感覚的なモノだが。五輪澪の症状も魄の問題により起こっていたモノだった。そういう意味では、君らの症例に対する施術は初めてではない。ま、施術例が少ない事には変わりないし、全く同じ症例という訳でもないから、100%手術が成功するとも言い切れないんだけど〉

 

「試してくださいっ、僕に!」

 

 (ティエン)が失敗の可能性を仄めかしているのに、光宣は縋るように、自身を差し出してきた。自分の苦しみを取り払うために、想い人の未来に安心を約束するために。

 

「……対価は?我々九島家に、何を求める」

 

 光宣を制すでもなく、取引を拒絶するでもなく、対価次第といった態度を示したのは、真言だった。

 

「真言!」

 

「父上、これは千載一遇の好機です。我々の血族が、より魔法師としての完成に近付ける、何よりの」

 

「それでお前は我が子を差し出すと言うのか!我が孫を差し出させるのか!?」

 

「『差し出す』?異な事を言う。これは光宣のためでもありましょう。あの子の()()()()()のですから」

 

「真言……!」

 

 烈と真言が言い争う。両者のスタンスは真逆どころではない。そも、光宣に対する認識が違いすぎる。前者は守るべき孫だと、後者は直すべき欠陥品だと。これでは和解など、有り得るはずもない。

 

「お祖父(じい)様、心配しなくても大丈夫です。これは父さんが言うように、僕が望んでいる事です。だから、大丈夫です」

 

 光宣は、烈と言葉を交わす。

 

「光宣……。そうか……。私の愛は、お前にとって枷でしかなかったか……」

 

「決して枷なんかじゃありません。ただ、守られ続ける子供では、ありたくないんです」

 

「……そうか。……そうだな、……子供は、巣立つものだったな」

 

 前に進もうとする光宣。そんな彼に相対して、烈は寂しそうであり、嬉しそうでもあった。自分の愛は、孫をちゃんと育めたのだと。

 

「父さん。対価は僕が払います。だからご心配なく」

 

 光宣は次に真言へと言葉を投げつける。まさに、一方的な、突き放すようなモノだ。頭は冷えたが、怒りは冷めぬようだ。

 

「好きにしなさい。私は私の方で、彼女らと取引する」

 

 突き放された真言の声音は、全く波打っていない。光宣に嫌われても、何の感傷もないようだ。

 

〈あー、失礼。残念ながら予定が混んでてね、すぐに手術とは行かないんだ〉

 

 そんなシリアスな雰囲気に、(ティエン)は緩い空気を持ち込んだ。

 皆の目つきが胡乱になる。焦燥を露わにしているのは、光宣だけだ。

 

「そんなっ……!ここまで思わせぶりな事しておいて、それはないでしょう!?」

 

〈君の気持ちは分かってる、分かってるんだが……。こっちは新興組織として、やらなくちゃいけない事が山積みなんだ。契約内容を書面で送るし、後でその内容を詰める時間を設けるから、少し待っててくれ。ほら、家族と話し合うとか、考えを見つめなおすとか、そういう時間だと思って、な?〉

 

 焦燥と不安をぶつける光宣。そんな彼に申し訳なさそうな様子で応対する(ティエン)

 ここに居るほとんどの者(勇海も洋史も含めて)が困惑する。『こいつ、本当にマフィアのボスか?』と。

 困惑していないのは、俺と周妃は当たり前として(もちろん困惑している演技はしているが)、焦燥にかられる光宣と、クスクスと笑っている澪くらいか。

 

「そんな時間は必要ありません!」

 

〈分かった、分かったから。……うーん、……3ヵ月はかかるかなぁ〉

 

「1ヵ月!」

 

〈無理!2ヶ月半!〉

 

「1ヵ月半!」

 

〈2ヵ月!頼む、これ以上は本当に無理なんだ!〉

 

「……言葉を違えないでくださいね。違えたら訴えますからね!」

 

 待機期間の交渉で、(ティエン)は光宣とどうにか折り合いをつけ、光宣に怒鳴られながらも胸を撫で下ろす。

 周り(勇海・洋史・周妃も含めて)は困惑を深めて遠い目をしている。

 俺も遠い目をしている。これから2ヶ月でベゾブラゾフと『ディオーネー計画』推進派を片付けねばならない事に。

 澪は腹抱えて笑っている。

 

〈……ゴホン。では。お忙しい中、お集まりいただきありがとう。君たちと良い関係を築ける、そんな未来を望んでいるよ?〉

 

 (ティエン)は、逃げるように流れをお開きへ持っていこうとした。

 そこで、俺が口を挿む。

 

「1つだけ、今訊きたい事がある」

 

〈……何かな?四葉十六夜〉

 

 俺は、(ティエン)と話す。同一人物であるという線を微塵も残さないために。

 

「お前は『聖女』か」

 

 その言葉に目を見開いたのは、(ティエン)、真夜、そして達也だった。

 (ティエン)は演技だが。真夜と達也の反応を見る限り、真夜だけでなく、達也も『聖女』の事を聞かされているようだ。東道からか、真夜からかは分からないが。

 達也も聞かされているのは少し予想外だったが、なら、なおさらこの問答は彼らの思考を鈍らせるモノとして、大きな意味を持つだろう。

 

 とかく、演劇を続ける。

 

〈……なるほど。成程成程!貴方が今代の『英雄』だったか!通りでだ!〉

 

 (ティエン)は感情が失せたような真顔から、歯茎を曝す程に口の端を吊り上げた。

 正直に話すと、真顔はただの操作ミスである。でも、衝撃を受けたように見せられただろう。

 

〈我らが偉大な先達よ。敬意を以って、1つお答えしよう〉

 

 不敵な笑みを浮かべ、(ティエン)は告げる。

 

〈俺は人類を憎んでいない〉

 

 『聖女』かどうか。それを置き去りにした答え。

 それを聞いて、俺は眼の笑っていない微笑みを返す。またになるが、目が笑っていないのは操作ミスである。

 

「良かった。なら、後は日本を、四葉を巻き込まないでくれ」

 

〈承知した、『英雄』様。しかし、そちらで少し商売をする事は許してほしい。俺には望みがあるんだ〉

 

「俺からの返答は変わらないよ。こっちを巻き込まないでくれ」

 

〈了解了解。亡命ブローカーとか、人材派遣とかもしてるから、たまには御贔屓に〉

 

 (ティエン)が不敵な笑みを浮かべたまま、その映像は消える。プロジェクターが機能を止めたのだ。元より電源なしにどう動いているのか分からない代物だが。

 ネタ晴らしすると、俺の『付喪神』だが。

 

 疑念が溢れる。皆の視線が俺に向く。澪はずっと笑顔だが。

 

「こちらの話は以上でございます。(ティエン)老板娘(ラオバンニャン)が申しました通り、詳しい話はまた後程」

 

 周りの雰囲気を意に介さず、周胤は自分の用事を締める。

 

「それでは、失礼いたします」

 

 持ち込みの道具を革製のトランクケースに収め、恭しく一礼してから、この会場から出て行った。

 俺も倣うように、そそくさと外へと足を向ける。もちろん、それで逃げられる訳はないのだが。

 

「十六夜君」

 

 烈が、小さな声量に反して大きな迫力のある声を、俺の背中へと叩きつけた。足を止めなければならないと、本能的に思わされる声だ。もしかしたら、精神干渉系をひっそり込めていたのかもしれない。普通に、魔法に依らないただの話術とも思えるが。

 何にせよ、俺は振り向く。

 

「どうかしました?老師」

 

「『聖女』や『英雄』というのは、私たちには話せない事かね」

 

 俺の白々しさを踏みにじるように、烈は核心に迫った。

 『聖女』と『英雄』というのは、あまり他人に聞かせられない機密事項だ。それでもこの場で話を出さねばならなかったという事は、喫緊の問題という事だ。

 烈からしてみれば、あからさまに逃げようとしている俺の様子から、そう察するには余りあるだろう。

 

「我々『四葉』でも、一部の人間にしかスポンサー様から聞かされていない、そんな危険分子。それが『聖女』だとご認識ください」

 

 機密事項、かつ、喫緊の問題であるという烈の推測に、俺は正確な事実をぼかしながら丸を付けた。同時に、これ以上は踏み入るなと、警告もしている。

 

(ティエン)と名乗るあの子は『聖女』自身ではなかった。しかし、関係者ではあった。そういう事だろう?」

 

 烈は(ティエン)と俺のあの少ない問答で、そこまで読み解いた。俺の思惑通りに。

 俺は思わず笑顔を浮かべる。

 

「『英雄』の方も聞かせてもらえんかね。君がそうだとなれば、私は興味が尽きんよ」

 

「神秘の継承者だと思っていただきたい。脈々と神秘を受け継ぐ者。それが『英雄』です」

 

 烈から暗に、君に付きまとう、と言われたので、俺はこっちもぼかして事実を告げた。数世代に1人だけ『リライト能力』に目覚めるのだから、その表現は間違ってもいないだろう。

 

「……ふむ、難しいな」

 

 顎に手を添える烈。さすがの老師も、この程度の情報では真相を窺い知れないようだ。出来たら怖いが。

 

「十六夜君。君が帯びる使命を測り知る事は難しい。だが、力を貸す事は難しくない。いつでも頼ってきなさい」

 

 烈は、俺をそう優しく諭した。俺の警告を聞き入れ、自身から深入りする事は止めたのだろう。でも、そっちから巻き込んでくるのは違反にならないだろうと、穴を突いてきている。

 まったく、食えない先人だ。

 

「機会がありましたら、手をお借りします」

 

 俺は年輪を重ねたような老師に敬意を評し、その言質を渡した。必要だったら戦力に数えると、こちらも言質を取っているので、両者痛み分けと言ったところだ。

 

 笑顔で口を結んだ烈を見納め、俺は止められていた足を動かす。

 真夜も司波兄妹も、九島の3人にお辞儀してから、俺に続く。

 そうして四葉一行は、先んじて周妃が開けていた門を潜り、この場を辞すのだった。

 

 俺は、全ての追及を見事受け流した―――

 

「十六夜、聞かせなさい」

 

―――訳はない。

 真夜は同じリムジンの中という、どう足掻いても逃げられない状況を作りこんでいた。丁寧にも、真夜、俺、司波兄妹のそれぞれが乗ってきた計3台のリムジンを2つ帰して、である。

 その文章で分かる通り、司波兄妹も同乗だ。

 

「深雪に聞かせて良い話かい?」

 

「深雪さん?これから十六夜について、達也さんにも話してある事をお伝えします」

 

 無駄な足掻きと分かっていたが、真夜によってものの数秒で打ち崩された。

 そうして、真夜は深雪に伝える。

 

 所有者自身の遺伝子を書き換える異能『リライト能力』の事。

 『リライト能力』を持つ者が『英雄』と呼ばれる事。

 それに対成す存在、記憶を継承する者たち、『聖女』の事。

 俺が、『英雄』であり、『聖女』である事。

 

 それらを伝えられた深雪は衝撃を受け、少しの間、開いて塞がらない口を両手で隠していた。

 というか、俺も衝撃を受けている。

 

(達也にもそこまで共有してるのかよ……。ただ、『アウロラ』、生命力を使っている事は伏せてたな……。達也にもそれを伝えていないのか?いや、それより……。遺伝子を書き換えられるって、達也も知ってるのか。だが、俺に対する達也の態度を見る限り、『四葉十六夜』に『リライト能力』が芽生えたと受け取っているのか。……真夜も分かってるな。実の血縁者、疑似的な弟じゃないとバレたら、達也がどう出るか分からん)

 

 達也に遺伝子を書き換えられる能力の所持を知られている、というのは致命的だが。達也が俺の事を『四葉十六夜』に成った誰かであると思い至っていないのは、まさに首の皮一枚だ。

 後で隠していた事を謝って、応急処置をしよう。

 

 そう思考し終えたところで、深雪が言葉を紡ぐ。

 

「十六夜、私にも聞かせて。どうして、貴方が『聖女』のはずなのに、他人を『聖女』であると疑ったの?」

 

 深雪は、俺を真っすぐ見ていた。

 俺はその思考能力に舌を巻く。よく、真夜から今さっき聞かされた話と、俺が(ティエン)としていた話の、その矛盾点に気が付けるものだ。

 

 皆の視線が俺に向く。周妃は目を伏せているが。

 四葉の3人が抱く疑問は、皆同じだったようだ。真夜も達也も、深雪と同じく、その矛盾点に気付いている。

 

 そう。俺が『聖女』のはずなのに、(ティエン)を『聖女』と疑うのはおかしいのである。

 しかし、皆は勘違いしている。

 俺は、俺自身が『聖女』だと認めた事は、一度だってない。

 

「……俺には分からないんだ、俺が本当に『聖女』なのか」

 

 俺は静かに告げた。真夜と深雪は神妙な顔になる。達也だけ、目を見開いている。

 達也の反応が他と違う事は気になるが、俺は話を続ける。

 

「『聖女』はその名称通り、女性にしか継承されない。東道閣下はそう言っていたね?それで、男である俺への継承は、隠していた切り札なんじゃないかって」

 

「……貴方からすれば、違うのね?」

 

 真夜が俺が語ろうとしている懸念を察した。

 

「俺は、見せ札なんじゃないかと思ってる」

 

 男である俺への継承は、切り札ではなく、そう偽った見せ札である。

 俺は騙っていく。

 

「東道閣下の話を聞いていた限り、『聖女』の記憶継承は、一部だけという俺のケースは有り得ない。そう窺えた。最終的には判断を覆してくれたけど。今まで男に継承されるケースは存在しなかったから、何かしら、俗にいうバグが起こったのかもしれないって」

 

「でも、貴方はそう思っていないのね?貴方の記憶継承はバグではなく、誰かの故意だと」

 

 真夜が言葉にしてくれた俺の結論に、俺は頷く。

 

「……俺という偽物を仕立て上げ、本物が息を潜めているかもしれない。俺は、それが怖いんだ」

 

 俺は不安を顔に張り付けた。

 そんな騙りを受け、真夜と司波兄妹は思考する。

 

「十六夜。お前はあの(ティエン)という少女、どう思う」

 

 達也は話を、(ティエン)が『聖女』かどうかに持ってくる。

 しかし、その答えは達也も分かっている事だろう。

 

「『聖女』本人ではない。ただ、繋がっているのは確かだ。俺が『英雄』である事を即座に見抜いたし、俺の事を『我らが偉大なる先達』と言っていた。最有力は、『英雄』か『聖女』、その先代のシンパ。次点で、今代『聖女』の息がかかった組織、だな」

 

「その可能性があるなら、探りたいわね……。取引すべきかしら」

 

「水波ちゃんを差し出すのですか!?」

 

 探りを入れる方法に頭を回したのが真夜。その方法を水波の事を繋げてしまったのが深雪だ。深雪は、水波を得体のしれない相手に渡す事を忌避し、声を張っていた。

 

「相手の提示した取引をそのまま呑む必要はないでしょう。相手が望んでいるのは、魄治療の被検体。代わりを用意する事は、別に難しくないわ?」

 

「そもそもあの取引に乗る必要もない。亡命ブローカーや人材派遣もやっていると、奴は言っていた。そっちで取引した方が良いでしょう」

 

 水波の代わりを用意するという真夜へ、達也は別案を提示した。代わりの犠牲者を用意するというのは、達也にとって、いや、深雪にとって本末転倒であると考えたのだろう。達也は深雪が罪悪感を抱かぬよう、犠牲者を出さないような方法を提示している訳だ。

 

「水波さんに治療を受けさせるのかについては、受けるだろう光宣さんの術後経過と、本人の意志も考慮に入れよう。……俺は、水波さんが受けたいと言うなら、受けさせるべきだと思うよ」

 

「健康被害が出なくても、俺は受けるべきではないと思う」

 

 俺は相手の提示した取引そのままを、患者の意見次第で前向きに受ける意見を出したのだが、達也から否定が入った。

 

「十六夜。お前なら気付いたはずだろう。あの周胤と名乗った男は、パラサイト憑依者だ」

 

 達也の断言。確たる証拠があるはずはないのだが、そう言い切られると、俺も言い逃れができない。

 

「……変質してるんだろうな。少なくとも、俺と同種ではない。でも、『付喪神』を使っていた辺り、同質だろう」

 

「やはり、あのカメラとプロジェクターは『付喪神』だったか」

 

「『付喪神』はパラサイトの力を使ったモノなの?」

 

 俺の回答で納得している達也の横、疑問符を浮かべる深雪が居た。

 そういえば、この場に居る中で、深雪だけには『付喪神』の詳細を教えていないと、思い当たる。

 もう隠す事でもないだろうと、パラサイトの分離体を使っている云々を明かせば、深雪も話に追いついく。

 

「『付喪神』、パラサイト憑依者であれば使えてしまうモノなのね」

 

「同じ発想ができた人は少なそうだけどね」

 

 深雪と俺で『付喪神』について話し終えたところで、達也が話を戻しにかかる。

 

「俺は、パラサイト憑依者モドキの治療なんて、受けさせたくない。最悪、水波をパラサイト憑依者にすると言い出すぞ」

 

 達也の懸念はご尤もであり、深雪が青ざめるくらいには想像しやすい未来である。

 俺は真相、というか舞台裏を知っているし、出来れば水波を治療したい。どうにか相手の取引を受けるように、皆の考えを持っていきたいところだ。

 

「いや、それはない。同じ治療を受けた澪さんがパラサイト憑依者になってないからな。ま、水波さんに別の施術をする可能性は、ないでもないが」

 

 かと言って、怪しい奴の治療を全力で推奨するのは怪しすぎるので、あくまで達也の上げた懸念点を潰していくしかない。おまけに、俺も懸念点を上げて、推奨している雰囲気を中和しなくてはならない。

 これは、俺の思惑は成就するのだろうか。

 

「深雪さんの守護者(ガーディアン)を差し出すかどうかは、九島光宣の術後経過を見てから判断しましょう。それに、私も彼女の意志を尊重します。彼女が受けたくないというなら、私も受けさせず、以降は深雪さんの家政婦にします。それで良いわね?達也さん」

 

 真夜は現当主としての強権を振るい、この話し合いを纏めに掛かった。意見の対立が明白だったから、その対立を深めたくなかったのだろう。達也や深雪が矛を収められるよう、水波にも配慮するという譲歩もしている。

 

「十六夜?貴方の恐れも分かります。だから、あの組織とは接触を続けます」

 

 真夜は俺にも譲歩して、(ティエン)と今後取引を行うと約束した。

 どうやら、俺が取引に乗り気だったのは、(ティエン)を探り、『聖女』を探したいためと、解釈してくれたようだ。

 

 真夜が纏めた意見は、保留とも言えるようなそれだったが、今のところ達也にも俺にも不都合はない。

 故に、俺も達也も、真夜に頷きを返すのだった。




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 次回の更新は、8月25日の予定です。
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