魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第十五話 運命の収束

2095年8月9日

 

「深雪、ほのかさん。ミラージ・バットの試合、見に行けないが心から応援しているよ」

 

 一高本部。上級生の一部とミラージ・バット及びモノリス・コード新人戦の選手、それぞれのエンジニアが詰めているその場で、俺は深雪とほのかに声をかけていた。ミラージ・バット本戦の選手である摩利は五体満足なので、深雪は代役とならずにそのまま新人戦に出場する。

 

「はい」

 

「私も、モノリス・コードの試合を応援してるわ。頑張ってね」

 

「ああ」

 

 互いの激励を済ませて、俺は少し離れたところに控えているモノリス・コードのメンバー・森崎駿と五十嵐(いがらし)鷹輔(ようすけ)の元に向かう。

 

「二人とも、今日こそが本番だな。深雪も応援してくれるみたいだから、頑張ろうじゃないか」

 

「ああ、言われるまでもない!五十嵐も、クラウド・ボールでの負けは気にせず、気合いを入れろ」

 

「あ、ああ」

 

 森崎の方は気合充分という感じだが、五十嵐の方は緊張が解けていないようだ。いつも通りと言えばいつも通りだが。彼は実技成績が良く、男子だけで見れば上から4番目になるのだが、どうも気弱な印象を受ける。しかし、いちおう練習は問題なく動けていたし、今更それを指摘しても仕方がない。原作で名前を見た記憶があるから、おそらくモノリス・コード新人戦程度なら充分に戦えると思う。そう思いたい。

 

◇◇◇

 

 モノリス・コード。3対3の魔法合戦を、まず各校4試合して勝利数の多い上位4校でトーナメント戦をする。魔法以外での攻撃は禁止されているが、その魔法での闘争は男子競技の花と言えるかもしれない。

 

 俺が所属する一高は初戦に六高と当たったが、そのステージとして森林ステージを選ばれたのが六高選手の運の尽きだったかもしれない。試合の様子を端的に表すならば、「俺が擬似ゲリラ戦で無双した」だろうか。長い狩りの歴史をその身に思い出させている超人の俺に、木々生い茂る視界の悪い戦場を提供する方が悪い。結果、あっけない勝利を一高が収めた。

 

 一回戦を制して二回戦へ。二回戦、()()()()()()()。そして、()()()()()()()。既視感と言うべきなのか、危機感と言うべきなのか。俺は原作との妙な一致に嫌な予感がしていた。が、何の確証もない。原作で起こった事故の原因は既に取り除かれている。俺は俺自身に杞憂であると思い込ませた。

 

「森崎さん、五十嵐さん。また攻めは二人に任せるよ」

 

「ああ」「うん」

 

 一高の陣地である建物の一室。二人に作戦の最終確認を済ませ、開始の合図を待つ。また守りは俺一人で行うが、市街地戦もまたゲリラ戦には都合がいい。何も問題ない。問題ないはずだった。

 

「え?」

 

 五十嵐が落ちてくる瓦礫を見て、そんな素っ頓狂な声を漏らした。それに構う暇も、助ける暇もない。「何故?」と問う時間すらない。俺の上にも瓦礫は落ちてきており、それの回避に専念しなければならない。超人の感覚で瞬時に頭上を埋め尽くす瓦礫の中から魔法で破壊出来る物を選別し、2丁のCADによるエア・ブリットで破壊。そうしてできた安全圏に体をねじ込む。俺は怪我を負うことなく窮地を脱して見せた。

 

「森崎さん!五十嵐さん!」

 

 しかし、その視界には瓦礫の下敷きとなった二人が映った。

 

◇◇◇

 

 森崎と五十嵐が裾野基地病院に搬送された後、俺は容体の確認のため病院に残った三巨頭に、一高の選手らがパニックにならないよう説明役を仰せつかり、一高本部に留まっていた。

 

「十六夜さん」

 

「十六夜、無事か?」

 

 すぐに俺の状態を確認すべく現れたのは雫と司波兄妹だった。

 

「無事だよ、俺はな」

 

「……他のメンバーは」

 

 俺の沈んだ表情から把握して、しかし訊かねばならないと達也は問う。

 

「診断結果はまだだが。俺の見立てでは、重傷だろうな。立会人が加重系で衝撃を抑えてくれたとはいえ、あの事故だ」

 

「あれは事故じゃない、四高の故意」

 

 雫の言葉には怒気が孕んでいるようだった。彼女はおそらく、四高選手が魔法を発動するのと同時に崩れる一高陣地を見て、その選手が『破城槌』を使ったと考えたのだろう。

 

「雫、滅多なことを言うものじゃないわ」

 

「ああ。まだ何の確証もない」

 

「だって!」

 

「雫さん、確かに事故とは考え難い。だが、その決めつけが独り歩きしてしまったら、もし虚偽だったとしても真実と思われてしまう」

 

 雫の怒りを司波兄妹は収めようとしたが収まらず、珍しく声を荒げたところを俺が諭す。

 

「十六夜さん……」

 

「今は事実が判明するまで耐える時だよ。如何に耐え難くても」

 

「……分かった」

 

 当事者である俺が落ち着いているのを見て、彼女も落ち着いてくれた。どうにかパニックを未然に防ぐ役目はしっかりと果たせたようだ。表層だけでも落ち着いているように見せるのは大変苦労する。顔では平静を取り繕い、脳内では疑問が渦巻き続けていた。原作と同じように起きた事態の原因を、俺の今持つ情報では予想すら思い浮かべられていない。

 

◇◇◇

 

 九校戦の本来スタッフオンリーである一室。今日に予定されていた分の競技が終わってから少しして呼び出された俺・克人・真由美は烈・真夜・九校戦の運営委員長である中年男性と相対していた。相対といっても、運営委員長だけは俯いている。

 

「今回の事故の原因は、運営委員に紛れ込んでいた賊が発端だ。賊自体は事前に洗い出して捕らえていたのだが、逃れた者が居た。その者が第四高校選手と運営委員数名を脅し、あの事故を起こさせたようだ」

 

 九島烈は運営委員長を睨みつつ、原因を淡々と述べる。

 

「賊を、取り逃していた?」

 

「そうだ。運営委員会はその報告をどこにもしていなかった。結果、今日まで放置されたのだな。安心しなさい。その賊も、もう捕まったようだ」

 

 俺はその事実を聞いて、とんでもないミスを犯していたことに気付いた。四葉に、賊を洗い出すことだけに留めるよう願ったのは俺だ。九校戦の運営委員会はほぼ公的機関。そこが、まさか賊を逃し、あまつさえその失態を隠すなど微塵も考えていなかった。

 

「賊が紛れ込み、取り逃した……。では、何故その賊が第一高校を狙ったのでしょうか」

 

 克人が耳聡く聴き取った不可解な点を問いだす。

 

「第一高校ではなく、四葉の人間を狙ったものよ」

 

「十六夜くんを、ですか?」

 

「ええ。賊の洗い出しと、その賊を紛れ込ませた国際犯罪シンジケート支部の壊滅。その一部は四葉が担当していました。その報復として、ということね」

 

 真夜の底冷えする笑顔からは少なくない怒りを感じる。狙われた本人である俺が無傷であるために、爆発は免れたといった形相だ。運営委員長が冷や汗をかいているのはこのせいだろう。

 

「第四高校と第一高校の処遇だが。第四高校はモノリス・コード新人戦を失格とし、第一高校は特例として選手の代役を許可された」

 

 運営委員長といえども、九島烈と四葉真夜に迫られれば特例などいくらでも許可するだろう。そうしたとして、彼の処罰がどうなるかは分からないが。

 

「予定されていた後2回の予選は明日行うのですか?」

 

「ああ。与えられる時間が少なくて済まないが、明日までに準備をしてくれたまえ」

 

「いえ、了解しました」

 

 克人は毅然と受け答えをする。が、余裕があると言った面持ちではなく、真由美も既に代役について思案しているようだ。

 

「以上だ。下がって構わんよ」

 

 克人・真由美・俺は一礼の後に退出し、すぐに一高幹部らをミーティングルームへと呼びだし始めていた。

 

◇◇◇

 

 ミーティングルームの中は、ミラージ・バット新人戦で深雪が見せた飛行魔法、そしてまたもや達也がエンジニアを担当した選手でのトップ3独占に浮かれる雰囲気がまるでない。むしろそれぞれが硬い表情で空気はガチガチに固まっていた。

 

「俺は、達也を代役とすることに反対です」

 

 その空気は事故によるものもあるが、俺の異議が一番の原因だろう。俺は達也に目立ってほしくない一心で反対している。今ならまだ、『魔工技術に突出した劣等生』で済む。しかし、モノリス・コードで活躍させてしまえば、彼の実力は間違いなく世間に広まることとなる。そうなってしまえば、俺の今までの苦労はほぼ水泡に帰す。

 

「十六夜くん、他に相応しい人がいないのよ」

 

「総合優勝は安全圏でしょう。新人戦優勝も、一高が予選落ちした上で三高が優勝しなければ問題ありません。後2回勝てばいいのでしたら、新人戦のメンバーから選べばいいはずです」

 

 真由美と摩利は困り顔で、克人以外の幹部らは成り行きを見守って静観している。

 

「四葉、あの事故を起こしてなお競技が中止されない事に、俺は訳があると考えている」

 

「……それはどのような?」

 

 克人の一切迷いのない様子に、彼が俺を打ち負かす回答があることを察するが、だからと言って子供の癇癪のように耳を塞ぐわけにもいかない。

 

「ここで試合を中止すれば十師族の力を示す場が一つ失われる。これは十師族の求心力を衰えさせぬための示威行為だ。そして、それは万が一四葉が三高以外に負けた場合でも綻ぶだろう。十師族の実力が疑われるからだ」

 

「……!」

 

 彼の言葉はまさに俺を打ち負かす言葉であり、俺は苦悶する。そう、俺がもし三高以外、一条以外に負ければ四葉の実力が疑われる。それは俺の贖罪に反している事でもあり、絶対に避けなければいけない事柄だ。

 

「司波以外に、四葉が絶対に勝てると思える者は居るか?」

 

「……居ません」

 

 俺は他の新人戦男子メンバーの実力をほとんど知らない。だから、実技成績が優秀だと言われたって、その実力を信じることはできないのだ。

 

「代役については分かりました。ですが、達也の説得は先輩方にお願いします」

 

「え?どうして?」

 

「俺のお願いなら、達也はきっと了承してくれるでしょう。ですが俺は、達也との友情を悪用したくありません」

 

 了承することは疑いようがないが、そうさせるのは友情ではない。()()()()()()()()()()()()()だ。彼を納得させる要因が強制であってほしくない。俺はそう願った。

 

「分かった。説得は俺たちだけでする。だが、ここには留まってもらうぞ。もう一人の代役を四葉と司波で話し合ってもらう」

 

 これ以上の妥協も出来まいと、俺は大人しく首を縦に振った。程無くして呼ばれた達也が現れ、達也の働きの労いをしてから代役への指名を話し出す。達也は俺を少しばかり見るが、俺は沈黙を貫く。俺の意図が伝わっているかは分からないが、達也は代役を拒絶する。しかし、克人からの説得に何かを感じ取った様で、感心しているようだった。

 

「たとえ補欠であろうとも、選ばれた以上、その務めを果たせ」

 

「……分かりました」

 

 達也は観念した、というより改心したという感じだった。

 

「もう一人の代役については四葉と決めてくれ」

 

「十六夜、誰か居るか」

 

 視線は俺に集まる。俺は達也への説得を聞きながら、ずっと考えていた。危険を冒すか、安定を取るか。

 

「……幹比古さんを加えよう」

 

 俺は原作改変という危険ではなく、原作遵守という安定を選んだ。

 

「幹比古なら確かに問題ないな。では、1-E・吉田幹比古を」

 

「えっ!?」「何っ!?」

 

「いいだろう。中条、呼んできてくれ。吉田幹比古ならメンバーとは別口で宿舎に泊まっていたはずだ」

 

「ちょっと十文字くん!?」

 

 克人は真由美や服部の驚きを意に介さず話を進める。

 

「状況が状況だ。例外が一つ二つ増えたところで今更だ」

 

 豪胆で大胆な判断だが、事実でありこの例外もさして否なく通るだろう。運営委員長は老師と四葉に睨まれているのだから。この場において克人の決断に驚くも、異議を唱える者はいない。ほぼ決定と言う空気を読んで中条あずさが幹比古を呼びに退室する。

 

「いちおう人選の理由を聞いてもいい?」

 

 異論がなくとも疑問がないわけではなく、その疑問を晴らすべく真由美は俺を見る。

 

「ええ。吉田幹比古さんを選んだ理由は、達也が実力を知る人間であり、搦め手に優れた古式魔法師だからです」

 

 俺の言葉に達也は頷いて肯定、同調する。

 

「達也くんが実力を知ってると言っても古式魔法師だし、最近は不調だと聞いていたけど。それに搦め手って」

 

「彼のスランプについては問題ないと思います。この前話した限り、快方に向かっているようですから。搦め手に関しましても、達也にとって作戦が立てやすくなる上に、古式魔法であるが故に現代魔法師では初見で対処しづらいという長所になります」

 

「ああ、なるほどね。達也くんのことを考えたら、そっちの方が大切そうね」

 

 それで納得された達也は少し眉根を歪めるが、策士である自覚もあるようで否定はしなかった。その後、ミーティングルームに来て訳も分からず呆然としている幹比古を半ば強制的に同意させて、作戦立案は俺たちに完全に任せるという事でこの会議はお開きとなった。

 

◇◇◇

 

「随分と思い切ったな、十六夜」

 

 俺が一人で使っている宿舎の一室。そこには作戦を立てるべく揃った俺・達也・幹比古と、何故かついてきたレオ・エリカ・美月がいた。そちらの3人についてはもうとやかく言わないでおこう。既に来てしまっている者を追い出すのは俺にとって難しい。

 

「思い切ったも何も、現状俺が選べる最善の人選だよ。達也は言うまでもないが、幹比古さんは心強い」

 

「いつの間にか随分と頼られてるのね、ミキ」

 

「僕の名前は幹比古だ」

 

 まだ呆然気味だった幹比古がエリカに小突かれて覚醒する。

 

「……どうして僕を選んだのかは訊かないし、達也と十六夜の力になれるなら嬉しいんだけど。その、何の準備もないよ?」

 

「試合用防護服は先輩方に準備を任せてある。心の準備については、すまないが誰を選んでもそうなっていたことだな」

 

「CADについては予備があるから問題ない。後は幹比古用に調整するだけだ。この前組んだ起動式ならそれほど時間もかからない」

 

 幹比古の逡巡は虚しいもので、もう賽は投げられているために逃げ場などない。幹比古は渋々と苦言を控えることとなる。

 

「時間も惜しい。作戦を立てよう。と言っても、難解な作戦を立ててぶっつけ本番じゃ高が知れてる。単純だが、俺がオフェンス、十六夜はミッドフィールド、幹比古はディフェンスを頼みたい」

 

「具体的には何をすればいい?」

 

「ディフェンスである幹比古はモノリスがある自陣の防衛だな。この前の魔法を見る限り、幹比古は陣地防衛に適した魔法が得意に思える」

 

「まぁ、確かに。陣地を儀式場に模せれば、効力を高められる魔法は多いから」

 

 古式魔法師かつ精霊魔法師である幹比古は、精霊の使役という性質上動きながらよりも一か所に留まる方が良いようで、達也はこの前幹比古の魔法を解析したわずかな時間で理解していたようだ。

 

「十六夜はこの中で誰よりもフットワークが軽い。その上に戦場を分析する力もある。適宜独自の判断で攻めか守りかを判断して貰った方が良い。それに、最悪モノリスに鍵となる専用の無系統魔法を打ち込まれても硬化魔法で割られるのを防ぐこともできる。十六夜が守りに回ればそんな事態にまでいかないと思うが、念頭に置いといてくれ」

 

「なるほど。割られたのをくっつけるのはアウトだが、そもそも割れていないならセーフか」

 

「ルールにそんな穴があんのか……」

 

「無茶苦茶な奇策ね」

 

 レオとエリカは達也の悪知恵に呆れている。

 

「その場しのぎでしかないがな。ところで幹比古、『視覚同調』は使えるか?モノリス探査に使えると思っているんだが」

 

「九重先生からは体術だけじゃなくて、古式魔法も教えてもらってるのかい?いちおう答えはイエスだけど」

 

「あくまで「そういうのがある」という知識だけだ。技術は教えてもらっていないし、教えてもらえたとしてもほとんどは使えないだろう。それで視覚同調を使った作戦だが―――」

 

 その後も作戦会議は続くが、他のE組メンバーは色々と置いてきぼりだった。

 

◇◇◇

 

 時刻は12時を過ぎた深夜。達也によるCADの調整は既に終わっているから解散となっており、各自しっかりと休むように就寝している事だろう。だが、俺は宿舎の一室で眠れぬままでいた。

 

 自責の念が狂おしいほどくるくると繰り返されている。過ぎた事件の原因を「俺のせいだ」と思い続けている。また、積極的に行った原作介入に関わらず、再び修正された道筋に疑念を抱いていた。

 

(俺は、少なくとも摩利は助けられたはずだ。それは間違っていない。だが、それが森崎さんや五十嵐さんを巻き込んだ免罪符になるか?原作でも「そうなっていたから」と言い訳するのか?)

 

 重傷を負った彼らには見舞いにこそ行ったものの、真相を明かすことはできなかった。それらは大人たちの手で内々的に処理されることが決まっており、選手の中で詳細に知っているのは俺・克人・真由美の3人となる。他の人にはただの事故として、細部をぼかした情報が知らされるだろう。そのために、俺が彼らに謝ることはお門違いになる。真実お門違いなのだろうが、俺にはそう思えなかった。

 

 ドアをノックする音が聞こえる。

 

「十六夜、起きているかしら」

 

「母さん?」

 

 俺は真夜の声と判別し、ドアを開ける。そこにはもちろん真夜が立っていた。

 

「あら、やっぱり起きてたのね。貴方のことだから思い詰めて眠れていないと思ったわ」

 

「母さん……」

 

 慈愛溢れる真夜に、俺は謝罪の言葉も懺悔の言葉も出てこなかった。

 

「十六夜。今回の件、貴方にはなんの責もないわ。貴方は危険を察知し、十師族としての役目を果たしました。責を背負うべきは未然に防げず、詰めを誤った私たちよ。だからね、十六夜」

 

 彼女は表情を曇らせ続ける俺に優しく抱擁し、背中を撫でる。

 

「貴方は何も悪くないわ。そして、もう大丈夫よ」

 

 子供をあやすように、優しい母のように、俺を慰める真夜。「違うんだ」と頭が痛む。「違うんだ」と胸が疼く。何が違うのか分からない。分からないからこそ俺はそれらを放置し、()()()()()()()()()()()()()抱擁を返す。

 

「ありがとう、母さん。大丈夫だよ。ごめんね、心配かけて」

 

 親不孝の贖罪のために、俺はさも母の愛を受け止めた息子を演じる。母に心配かけないようにと、立ち直ったふりをする。抱き合ってしばらく、ようやく真夜の腕が解かれるのを感じて俺も抱擁を止める。

 

「明日のモノリス・コード、応援しているわ」

 

「ああ、達也も出るからね。優勝してくるよ」

 

 本当の親子のように微笑み合う。俺がしている笑顔も、彼女がしている笑顔も、それが真に家族愛であるのかは、俺には分からなかった。




五十嵐鷹輔:魔法師界でも有名な『四葉』と『森崎』に挟まれて、自身もいちおうナンバーズであるのに胃が痛い思いをしている。森崎とは良好な仲を形成しているが、物腰低い十六夜の態度を見てもまだ『四葉』への恐れは拭えていない。でも実力は確かである。他に目立ちすぎる人が多すぎるだけで。

九校戦の運営委員長である中年男性:彼は今回の事で首が飛ぶことが確定している。

逃れた賊:彼らは九島烈の護衛に来ていた九島の使用人と九島烈の息がかかった日本軍部隊によりあえなく拘束された。

「違うんだ」:「叱責されたらされたで鬱陶しいほど落ち込んで死にたくなる癖に、あやされたらされたで「罰してほしい」ってか。お前はどこまで面倒臭い奴なんだよ」

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