魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第百五十話 執着・前編

2097年7月1日

 

 月曜日。

 約束の日、当日。

 

 俺達は、天祖山(てんそさん)を囲んでいた。

 囲いを作っているのは、主に七草家の手勢。人員数で言えば、やはり七草家が二十八家で群を抜いているだろう。飛びぬけた実力者が居なければ(あるじ)に対する絶対の忠誠心を持つ訳ではないので、組織力という面では、能力水準の高い血族で固まっている四葉家が競り勝つだろう。

 とかく、七草家の人員力があるために、山1つを囲い込む事に成功している。

 

 そして、本命戦力は一か所に揃っている。

 俺、周妃、司波兄妹。夕歌、その護衛2人。(ティエン)、周胤。克人、智一、それに幹比古。

 基本的に、俺、周妃、達也が前衛で、対リーナ戦には(ティエン)と周胤、それと幹比古がリーナを直す処置に動き、深雪がその護衛に就く。

 夕歌たちと、克人、智一は後衛だ。リーナを直す処置に動いたら(ティエン)たちを守りつつ、他の敵が邪魔してこないように牽制する。

 

(目的も共有されてないだろうから、リーナが単独で動く可能性もある。ただ、強さに惹かれて勝手に付いてくる者たちも居るかもしれない。リーナの援護に伝統派が何人か出てくるのまでは、予想しよう)

 

 敵の班分けは未知だ。多くを仮定しておく。

 

一、リーナ班が突っ込んでくる場合。

 リーナ単独なら、全員でリーナの拿捕に動く。リーナさえどうにかなれば後は消化試合だ。リーナを滞りなく直せれば、リーナがこちらの味方になって、消化試合は加速するだろう。

 リーナが仲間を引きつれて来たなら、まずはリーナとその他を分断。リーナへの対処に前衛である俺たちと(ティエン)たちが注力し、後衛がその他の牽制に力を割く。

 

二、レイモンド班が突っ込んでくる場合。

 レイモンドが先頭に居るか、後方に控えているかに限らず、俺たち前衛と(ティエン)たちはその対処に注力。後衛も対処に動きつつ、リーナの襲来を警戒する。リーナが襲来した場合は、俺たちと(ティエン)がリーナの対処に移り、レイモンドたちは後衛に一旦封殺してもらう。

 

 ちなみにだが、この作戦はリーナ以外の敵の命を軽視する意向となっている。

 パラサイトで強化されているリーナを前にして、他の敵に容赦をしている余裕はないのだ。

 それに、ここで助けたところでパラサイト憑依者である事は変わらない。一々パラサイトを憑依者から丁寧に引き剥がす手間なんて掛けられない。

 まぁ、殺さずに利用する案は、俺個人で密かに考えているが。それも事が上手く運んだら、だ。上手く行かないなら普通に殺す。と言うか、『グレート・オールド・ワン』で廃人になってもらう。

 

 補足だが、一応日本国民である伝統派を殺すのは通常、法的に拙いのだが。今回、その懸念は抱かなくて良い。

 全て四葉が、いや、四葉家のスポンサーが握り潰してくれる。

 

(パラサイトに呑まれた自国の古式魔法師なんて、『魔を嫌う集団』にとっては消し去りたい汚点だって訳だ。四葉が後ろ暗い仕事を熟してきた時と同様、こちらの不都合は全て握り潰してくれると)

 

 日本国の奥深くに潜むフィクサーたちが、恥ずべき自国民の抹消に力を貸してくれる、という話である。

 俺達が把握している程度でも、パラサイトに呑まれた伝統派は十数人居るはずだが。国家の要人でもない人間の人生なんて、容易く消去できる。それが『魔を嫌う集団』の幹部連中らしい。

 本気で敵に回したくない。

 

 閑話休題。

 

(とにかく。俺達の行動パターンは、大きく分けて3つだし。俺達もあくまで連合部隊だからな。綿密な作戦を練ったって、それを成せる合図も連携力もない。それぞれの部隊が高い能力発揮させてスタンドプレーさせた方がゴリ押せる)

 

 ゴリ押せる実力があるのなら、下手に策を弄せずゴリ押した方が遥かに強い。

 相手はパラサイトに憑依されて強化されているとはいえ、影に潜むしか生き残る術がなかった伝統派がほとんど。警戒すべき戦力はリーナくらいだ。レイモンドも警戒に値しない。彼なら克人で充分封殺できるだろう。達也すら『バリオン・ランス』を開発するまで抜けなかった鉄壁だ。達也以外だと、抜けるのは今の強化リーナくらいだろう。

 少なくとも、俺は抜けない。戦闘に勝つだけだったら、そもそも『ファランクス』を破る事なんて考えない。『付喪神』で全方位攻撃して防御に専念させて、サイオン保有量比べの持久戦を挑む。

 

 さて。休憩はここまでにしよう。

 

「包囲、終わりました」

 

 七草家手勢の報告を受けた智一が、そう俺達に通達した。

 

「では、進軍しましょう」

 

「最前列は君たちに任せるよ、『四葉』。俺は中世ファンタジーらしい魔法師だからな」

 

 俺と(ティエン)で演劇。別人である事を周りに見せ付ける。

 (ティエン)の俺に対する態度に、皆小さく唸っていた。達也なんかは睨んでいる。今もしている『京劇(ジンジュウ)臉譜(リャンフゥ)』の化粧が余程達也の機嫌を逆撫でするようだ。真夜の意向で(ティエン)は保護ないし観察する方針で固まっているのに、怖いところだ。

 思わず(ティエン)で肩をすくめてしまう。

 

 そんな小さなやり取りだけで、俺が歩を進めれば皆歩き出す。天祖山の高さは富士山の半分以下なので、体力のある俺達には然して苦でもない。

 

 ただ、さらに嬉しい事に、いや、嬉しくない事に、頂上を目指すまでもなかった。

 

「サキー、来ちゃった」

 

 少し木々を分け入ったところに、リーナが現れたからである。

 ほんの数秒前までは、そこに居なかった。

 彼女は、『疑似瞬間移動』のような魔法で、俺達の眼前に襲来したのだ。

 サイオンは感じ取れていたが、驚愕で固まっている間に、彼女はもうそこに居る。

 木々生い茂る山の道。直線で来れるはずがない。

 つまり彼女は、幾度も屈折した道を設定して、『疑似瞬間移動』のような魔法を発動したのだ。

 『疑似瞬間移動』を得意とする亜夜子でも真似できない。

 リーナの今の魔法力は、そのレベルだ。

 

 皆が構える中、俺は自然体で一歩前に出る。

 

「こんにちは、リーナ。迎えに来たよ」

 

 俺は親愛を込めて、リーナに声を掛けた。

 作戦の内だ。俺とリーナで会話している間に、皆に密かに臨戦態勢を取らせる。

 会話だけでリーナを治療まで持っていければ最上だが、常に最悪は想定すべきだ。

 

「嬉しい、サキー。やっぱりサキーは、ワタシを受け入れてくれるのね」

 

「ああ。君を受け入れたい。だから、君を治す術も見つけてきた」

 

「それなんだけど……。サキー、ちょっと良い?」

 

 喜んで頬に朱を差していたリーナだが、彼女の表情はあまり変わらないままに、一気に空気が不穏になった。

 

「レイと話したの。ちょっとおかしいんじゃないかって」

 

 リーナは顎に人差し指を添えて、可愛らしく回想する。

 ただ、纏う空気は徐々に重々しくなっているように、俺は感じる。

 

「『今の君を拒むって事は、今の君は受け入れられないって事で。それって、前の君が好きだっただけで、君が好きって事にはならないんじゃないか』って」

 

 リーナがレイモンドに吹き込まれた論調。

 相手の全てを受け入れられなければ、それは相手を受け入れた事にはならないのではない。

 そういう、言ってしまえば暴論だ。

 ただ、その論に、内心で賛同してしまう俺が居る。

 

 今の俺を好かれたところで、それは四葉十六夜を好いただけの話。昔の俺を、外見が全く違う『●●』を、好いた事にはならない。

 

 そんな考えを持つ俺には、その暴論を否定する事は出来ない。

 

「……リーナはどう思ってるんだ。リーナも、その考えに賛同しているのか?」

 

「分からない、というのがワタシの答え。だから、サキーと話して、答えを出そうと思うの」

 

 問答する俺に、リーナは瞼を開けた瞳で、見つめる。

 心の、その奥底まで見つめているような、その瞳。

 俺は固唾を飲む。

 俺に、彼女は何を訊くつもりだ。

 

「サキーは、今のワタシは好き?」

 

 リーナのその言葉は、大事な何かを探っているようだった。

 俺は、言葉を選ぶ。

 

「好きだよ?じゃなければ助けようなんて、思うはずないだろう?でも、前のリーナの方がもっと好きだったかな」

 

 リーナが好きか否かは、嘘を吐かなかった。

 リーナとの交流は楽しかったし、『アンジェリーナ』というキャラクターは、前世でも今世でも好きだ。戦闘パートで仲間の時は心強いし、会話パートでは可愛らしくて、見ていて楽しいキャラクターだ。

 外見も普通に美しいし、可愛らしい。

 それが、俺の偽らざる本心である。

 

「サキー?」

 

 俺の回答が正しかったのか。リーナは審判を下す。

 

「どうして、目の前のワタシを見てないの?」

 

 彼女の瞳は、俺の心を見透かしていた。

 彼女は、俺が彼女を、『アンジェリーナ』というキャラクターとしてしか見ていない事を、見抜いているのだ。

 

 前にも似たような事があった。

 俺が非情な人物であるかどうかの問い。

 俺の芯を突いてきたあの問い。

 

 あの時は、リーナは騙されてくれた。

 でも今は、騙されてくれそうにない。

 だから俺は、微笑んでこう返す。

 

「リーナ。騙されてくれない君は嫌いだよ」

 

 本心は吐いた。

 今まで騙してきて、それに気付いた相手へのせめてもの謝罪がそれだ。

 

 彼女の周りで、電光が瞬く。

 俺は即座に『付喪神』で地面を操り、土のドームに彼女を閉じ込めた。

 しかし、単純な移動系によって、ドームは弾け飛ぶ。

 俺の『付喪神』に対する制御力は、リーナの干渉力に圧倒的な程劣っていた。『付喪神』でどうこうするのは、彼女のリソースを削ったタイミングでしかできないだろう。それもどれ程削れば良いのか分からないが。

 

「戦闘準備!次が来―――」

 

 俺が皆に警戒を促す瞬間、稲妻が眼前に迫る。

 ただ、それは克人の『ファランクス』に阻まれた。俺がドームに閉じ込めた時点で、克人は『ファランクス』の発動に取り掛かっていたのだろう。実に判断が早い。

 

「克人さん、助かりました」

 

「局所防御として張ったが、それでどうにか、だ。複数人を守るために全体防御を張るなら、俺は奥の手を切るしかない」

 

 俺が感謝を述べた先に居たのは、なんとも険しい顔をする克人だった。

 俺だけに『ファランクス』を集中させて、ギリギリという事らしい。とするならば、要である(ティエン)の守りに専念しなければ、克人は早々にギブアップする事になる。

 では当然、攻撃を分散するために散開しなければいけないが、強化されているリーナの攻撃は早いし正確だ。そんな攻撃を避け続ける事ができる者は、果たしてこの中に何人居るだろうか。

 

「……達也、すまないが付き合ってくれ」

 

「分かった」

 

 おそらく、達也と俺だけだ。避け続け、なおかつ直撃しても『再成』でどうにかなるのは。

 痛覚を遮断できる俺なら、達也は消耗なく『再成』できる。それ以外の者はダメだ。いたずらに達也の精神力を浪費する。

 如何に痛みに強い達也とは言え、即死攻撃の痛みを何度も読み取ってしまえば、さすがに疲弊する。

 

「……武運を祈る」

 

 克人は意図して『ファランクス』を縮小し、俺と達也をその圏外に置いた。

 実に合理的な判断だ。

 

「じゃあ行くぞ、達也。スリー、ツー、ワンー、ゴー!」

 

 俺の合図で、達也と俺は左右に別れて駆けだした。

 俺が右、達也が左だ。

 

 それに合わせ、リーナも動き出す。視線は俺を追っている。

 

観自在菩薩(かんじざいぼさつ)

 

 (ティエン)の声が全方位から聞こえてきた。『般若心経写経』の発動に取り掛かっているそれだが。全方位から聞こえてくる理由は、幹比古の古式魔法、『山彦(やまびこ)』だ。幹比古本人に言わせると、厳密にはその亜種だそうだが、とかく。

 古式魔法には効果対象に言葉を聞かせるのが重要なモノがあるらしい。その言葉を絶対に聞かせるための魔法というモノが吉田家にもあるようで、その1つが今使っている魔法という事だ。

 本来の『山彦』は聞こえる対象を制限するモノらしいが、相手が相手のため、今回は全体に声を響かせる仕様、との事である。

 『類感呪術』のセッティングも、幹比古は手伝ってくれている。(ティエン)が今被ったお面は幹比古監修、僧侶を思わせるデザインを『京劇(ジンジュウ)臉譜(リャンフゥ)』で描いた物。

 これで、(ティエン)は仏道系古式魔法師の役を羽織っている。

 おまけに、(ティエン)が広げている写経の紙も、幹比古監修だ。家の魔法を磨くため、節操なく古式魔法の知識を取り込んでいるのが吉田という家とはいえ、随分と手広い。

 それらの知識をちゃんと修めている幹比古も、さすがと言わざるを得ない。

 

「サキー!どうして嘘を吐くの!?」

 

 『般若心経写経』などお構いなしに、リーナは俺に肉薄し、訴えかけてきた。

 俺を捕まえようと伸びてくる手の像は、実像ではない。『パレード』による虚像だ。

 俺はその虚像を掴み、リーナを一本背負いの要領で投げ飛ばす。

 

「立場を弁えてくれ。君はUSNAの軍人で、俺は日本の十師族だ。得た情報を君が悪用しなくとも、君から又聞きした人間が悪用するかもしれない」

 

「そういう話をしてるんじゃない!」

 

 投げ飛ばされたリーナは加速系を使って自身の移動方向を曲げ、またしても俺に突っ込んできた。

 今度は俺を痺れさせたいのか、雷光が彼女の身を包んでいる。

 『パレード』で効果範囲が感覚どおりでない事を直感した俺は、大仰に飛び退く。

 なおも追尾してくるリーナだが、移動をピタリと止めた。そこを、達也の『バリオン・ランス』が掠める。あのまま動いていれば、直撃していただろう。

 にしても、達也の殺意が高い。まぁ、達也が持つ『パレード』対策の魔法となると、『バリオン・ランス』くらいしかないのだが。

 

「タツヤ!貴方も思っているでしょう!?サキーは、ずっとワタシたちに嘘を吐いているって!ワタシはそれが嫌なの!ワタシはもっとサキーの事を知りたいの!!」

 

 リーナが放つ(いかづち)。達也目掛けて放たれたそれは、しかし達也の『グラム・デモリッション』で搔き消される。

 達也の『グラム・デモリッション』がそれ程に強力なのか。もしくはリーナが出力を抑えているのか。

 パラサイト5体で強化されている事を考えると、後者な気がする。

 リーナには俺たちに対する殺意がないのだろう。あくまでも、パラサイトとして同化する事を目的としているようだ。

 ただ、初手の電撃は克人の『ファランクス』がギリギリだった威力を鑑みるに、激情で制御がブレたのかもしれない。

 

「リーナ。十六夜が嘘を吐いているとして、それを無理矢理訊き出すのは間違っている。友として、仲間として、近しい者として在りたいなら、なおさらだ。仲を育むという過程を蔑ろにすれば、結果は不和にしかならない」

 

「一緒になればダイジョーブよ!だって、みんな一緒なんですもの!誰も仲間外れにならないんですもの!!」

 

 何度も(いかづち)を放っては、掻き消されるやり取り。

 双方に届かない。言葉も同じく。

 達也に正論を説かれようと、リーナは聞く耳を持たない。ずっと同じ事の繰り返しだ。リーナの心は揺れない。

 

「達也!」

 

 俺がアドリブの合図をすれば、達也はそれに合わせて、リーナ自体に『グラム・デモリッション』を見舞う。

 そうすれば、纏っていた雷光が払われた。

 合図どおりとはにかみつつ、俺はリーナに背後から組み付き、絞め落としにかかる。

 

「リーナ、全て曝さなければ友達ってのはなれないモノなのか?全て理解し合うのが友情なのか?」

 

「サ、キーが、友達に、なろうと、してくれない、からじゃない……っ!」

 

 至近距離で言葉を交わす。

 達也はリーナに魔法を使わせまいと、立て続けに『グラム・デモリッション』を浴びせている。副次効果としてサイオン酔いしそうなリーナを、俺は容赦なく絞める。

 ただ、やはりそう簡単に終わらせてはくれない。

 

〈『ビリオン・ボルト』、アクティベート〉

 

 音波振動系で作られた、リーナの声に酷似した音声。

 それがリーナのCADを起動させた。酸素不足で演算力が落ちているのを、CADの起動式で補ってきたのだ。

 あえなく俺は痺れ、力が緩んでリーナに逃げられる。

 痺れは即座に達也が『再成』してくれた。

 

「……初対面はともかく、俺自身はリーナと仲良くなりたいと思ってるんだが。俺のどの振る舞いがダメだったかな。言ってくれれば修正するよ」

 

「……そういうところよ、サキー。他人に合わせようとして、他人に望まれる人間になろうとして、サキー自身を見せてくれない。ワタシは、それが嫌なの」

 

 距離の開いた俺とリーナ。その事を、リーナは殊更に悲しそうにしていた。

 

「ねぇ、サキー。貴方は誰なの?」

 

「……四葉十六夜だよ。君としては『サキー』の方が良いかい?とりあえず。リーナにはそれ以外の何に見えてるのかな?」

 

「イザヨイ・ヨツバに見えているわ?ずっと、それ以外に見えないの」

 

 リーナの質問、その回答。俺は小さく歯噛みしっぱなしだ。

 彼女の()には、何処まで見えているのか。

 

「そう見えているなら、何も間違いはないだろう?リーナ。俺は四葉十六夜だ」

 

「サキー、イジワルしないで。意味が分かっているんでしょう?ワタシには、貴方がアクターに見えてるの。『イザヨイ・ヨツバ』を必死に演じているアクターに」

 

「そりゃあ必死さ。なんたって十師族の四葉家だ。俺は四葉家の人間たらんと、現当主の息子たらんと、必死に頑張ってきたんだ」

 

 リーナの言葉を世迷言と受け流しながらも、俺は噓なく答えていた。

 周りにしっかりと印象付けるように。俺が『四葉十六夜』でないなどと、皆が疑わないように。

 

「サキー……。やっぱり、貴方と分かり合うためには、一緒になるしかないのね……」

 

 リーナはおもむろに、拳銃形特化型CADを構えた。

 無傷で同化する事は不可能だと、腹を決めたようだ。

 

「ダイジョーブ、大丈夫だよ。サキー。全部受け止めてあげるから。もう、何も怖がらなくて良いから」

 

 本当に受け止めると示すように、両腕を優しく広げたリーナ。

 俺は、疲れたように息を漏らし、小さく笑う。

 

「……ああ、リーナ。もう怖がらないとも。もう、これで終わりだから」

 

菩提薩婆訶(ぼじそわか)般若心経(はんにゃしんぎょう)

 

「……え?」

 

 俺が終わりを確信したところで、般若心経が締められる。

 それで、リーナは放心したように動きを止め、そうして無表情で直立不動となった。

 

 『般若心経写経』の締め。確かにサイオンが駆け巡り、それがリーナに波及したのが感じ取れた。

 古式魔法の制作、専門家多数の意見を取り入れたそれとはいえ、意味があるモノになっているかは不安だった。

 今ようやく、その不安が取り除かれたのだ。

 

「うまく、いったのか……?」

 

 傍観するしかなかった克人が、そう確認してきた。

 

「はい、上手くいきました。これで、後はリーナに憑依しているパラサイトを払うだけです」

 

 皆を安心させるためもあり、俺は悠々とリーナの下へ歩み寄るのを見せた。

 リーナは微動だにしない。

 

 だから俺は、余裕綽々でリーナの頭に手を置く。

 

 その手が、掴まれた。

 

「捕まえた、サキー」

 

 せりあがる土が、ドームとなって俺とリーナを隔離する。

 『付喪神』だ、()()()の。

 

「一緒になろう?サキー?」

 

 電撃で体が弛緩した俺を、リーナは強く抱き留める。

 

 それから、俺は何かが俺の中に入ってくるような感覚を覚えた。

 

 その感覚を、忘れる訳もない。

 

 それは、俺を書き換えようとする、パラサイトの侵蝕だ。




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 次回の更新は、2月23日の予定です。
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