魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第百五十一話 執着・中編

「一緒になろう?サキー?」

 

 油断して近付いた俺を捕まえるリーナ。

 放出系で再現されたスタンガンにより、俺は抵抗できないまま、彼女に抱きしめられる。

 そうして、彼女は俺と同化しようと、パラサイトで侵蝕してくる。

 

 魂が圧迫されているような、独特な痛みのそれに、俺は、抗う気が起きなかった。

 

(失敗した……)

 

 失敗した。失敗してはいけない場面で失敗した。

 効果が十全に発揮できるか分からない試作魔法を信じ込んで、失敗した。

 試作魔法の充分な検証をせず、失敗した。

 

 そもそも、リーナが敵に回ってる時点で失敗だ。

 そんな状況を作ってしまった時点で失敗だ。

 レイモンドを感情任せに煽ったのが失敗だ。

 あの時に殺害、ないし幽閉しなかったのは失敗だ。

 レイモンド自体を味方に引き込めなかったのは失敗だ。

 ただウマが合わないと拒絶したのは失敗だ。

 

 感情に従ってしまったのは失敗だ。

 

(俺は、失敗した……)

 

 何よりも嫌いなモノ、失敗する自分。

 何をやっても上手く行かない自分が嫌いだ。

 上手くやろうと最大限の努力をしていない自分が嫌いだ。

 失敗から学ばない自分が嫌いだ。

 そうやって嫌いだ嫌いだ言って逃避する自分が嫌いだ。

 

(……パラサイトに上書きされれば、こんな自分は書き消されるかな)

 

 消えてなくなりたい自分と、そうなるかもしれない現実が、合致してしまっている。

 だから、抗う気になれない。

 

 ただ、良しとしない者は、当然居る。

 

 重なる俺とリーナは、綺麗に一緒に脇腹を消し飛ばされた。

 達也の『バリオン・ランス』だ。

 俺は痛覚をオフにしているので問題なかったが、さすがのリーナは痛みに怯み、俺を手放した。

 そこに、達也は土のドームを『分解』し、すかさず俺を掻っ攫う。

 達也は俺を担ぎ、『再成』し、リーナに『バリオン・ランス』で威嚇射撃しながら、距離を取った。

 リーナの傷は、既に再生している。パラサイトが持つ、自己再生能力だ。5体分となると、なかなかの再生力である。

 

 そんな益体のない思考をしながら、達也に地面へ降ろされる。

 俺は、地面に座り込んだ。

 頭が茫然として、体に力が入らない。

 

「十六夜、大丈夫か」

 

「……」

 

 達也の容体確認に、俺は言葉を返せなかった。

 大丈夫なものか。成功すると思っていた事が失敗し、手立てを失ったのだ。

 もう俺の頭じゃ、リーナを救う術が浮かばない。

 

「十六夜」

 

「……俺の、せいだ」

 

 達也に再度声を掛けられながら、俺は自責の念を、口から漏らす。

 達也どころか、克人にも夕歌にも智一にも深雪にも周にも見られているその場で、頭を抱えて蹲る。

 

「十六夜……?」

 

「サキー……?」

 

「……俺が、レイモンドを上手く丸め込めていれば。……リーナがパラサイトになるなんて事は、なかったんだ」

 

 達也とリーナから様子の変化を訝しまれながら、俺は自己嫌悪を溢れさせる。

 

「……もうちょっとだって、もう少しでゴールだって、気を緩めたばっかりに。こんな、こんなっ」

 

「十六夜っ、落ち着け!今は目の前に集中しろ!反省は後で良い!」

 

 自己嫌悪が止まらない俺。その肩を揺らして、達也は気つけしにかかった。

 分かっている。こんな事している場合ではない。

 しかし、分かって口が閉じられるなら、こんな事はしていない。

 

「リーナ、ごめん……。俺が、俺が馬鹿なばっかりに、君を、そんな目に合わせて……」

 

「サキー。サキー、大丈夫よ?サキー。一緒になれば大丈夫。一緒になれば、その苦しみも分け合って、和らげられる」

 

 謝る俺を、リーナは狂気の目をして優しくあやしてくれた。

 でも、優しい言葉で止められるなら、こんなに自分を責めたりはしない。

 

「リーナ、俺にそんな価値はないんだ……っ、一緒になる価値なんてないんだ……。必死に足掻いたつもりだった、必死に頑張ったつもりだった……っ!でも、最後にはポカ噛ますだけの馬鹿なんだ……」

 

「十六夜!しっかりしろ!お前はそんな奴じゃないだろう!?」

 

「サキー!大丈夫、貴方なら立ち直れる!ワタシと一緒になって、やり直せるわ?」

 

 卑下する俺を、矯正しようとする達也と、受け入れようとするリーナ。

 そんな奴じゃなかったら、こんな失敗はしていない。

 やり直せる奴だったら、こんな馬鹿は曝していない。

 

 本当に、達也も、リーナも、俺の事を分かっていない。

 

「十六夜!」

 

「サキー?」

 

「うるせぇぇ!!」

 

 嫌いだ。

 分かろうと歩み寄り、声を掛けてくれた達也とリーナに、怒鳴る自分が嫌いだ。

 『俺の事を分かっていない』など、どの頭が考えた事か。分からせようと努力をしていないくせに。ひた隠しにしているくせに。

 いっそ嫌われたい。いっそ全てを曝して嫌われたい。

 

(そうだよ……。最初っから、そうすれば良かったんだ……。等身大の自分を曝して、それで判決を待てば良かったんだ……)

 

 冷静さを欠き、自暴自棄になっている事は自覚している。

 でも、もう口は堰を切った。

 決壊した感情のダムは、堰き止められない。

 

 だから俺は、唖然とする周りに向かって言葉を吐き連ねる。

 

「俺をよく見ろ!『●●(今の俺)』を良く見ろ!1つの失敗でウジウジするようなダメ人間なんだよ!人から問題の解き方教えてもらわなけりゃ、問題を何一つ解決できない馬鹿なんだよ!そんな奴に寄って集って、お前らは何なんだ!?俺に任せりゃ何でも解決してくれると思ってるのか!?そんな訳ねぇだろ!人より多くを知ってるだけで、無い知恵絞って頑張ってきただけなんだよ!」

 

 本当に自分が嫌いだ。

 隠していた本性を曝して周りに当たり散らしているっていうのに、どうしてか、涙と、笑みがこみ上げる。

 壊したくないモノを壊している悲しみと、壊しちゃいけないモノを壊している喜びがある。ある種の、カリギュラ効果というヤツか。

 

「特にリーナっ、お前が一番何なんだよ!何でそんな俺を求めるんだよ!一番親しかったのは深雪だろうし異性の中で一番関わったのは達也だろう!?親しさでも関わりでも負けてる俺がなんでお前の中で一番になる!?」

 

「そ、それは……」

 

「ああ、ダークヒーローだと思ってたんだっけなぁ!そう勘違いしたまま憧れた訳だ!憧れは理解から最も遠い感情とは良く言ったもんだ!」

 

 俺の苦言に口を挿もうとするリーナ。だが、彼女の言葉は続かず、反して俺の苦言は途切れない。

 

「留学してきた時にその勘違いを正せただろうによ。もしかしてあれか?恋でもして盲目になってたのか?「ワタシの愛した人は謙虚なだけで、本当はちゃんと正義の味方なんだ」って。けったいな妄想だな?そんな居もしない魂イケメンに押し倒されるとこまで妄想してないよな?」

 

「お、押しっ!?」

 

「……ん?」

 

 エスカレートした俺の苦言に、顔を赤らめるリーナ。その急変で、俺は冷や水を被った。

 

「お、おおお、押し倒される妄想なんてしてないわ!そそそれにこ恋とかあ愛とかそんな感情なんて、サキーにい、抱いてなんかっ」

 

 リーナは、顔真っ赤にして異議を唱えてきた。

 それを聞いて俺は、思わぬ光明に、感動する。

 

 仏陀の悟りを邪魔しようとした事で有名な悪魔は、煩悩の化身、マーラなのだ。

 

「なんだ……。なんだ、リーナ。そういう事だったのか」

 

「な、何!?『そういう事』って何!?」

 

「君がどうして俺をそんなに求めるのか、分かったんだ。俺に、抱かれたかったんだろう?」

 

「だ、抱かれ!?」

 

 微笑みを携えて一歩一歩歩み寄る俺。そんな俺をリーナは、先程までと打って変わって、後退って離れようとしていた。

 ただ、それも俺の一歩に対する半歩なので、俺の歩み寄りを拒絶しているモノではない。

 

観自在菩薩(かんじざいぼさつ)

 

 (ティエン)の口で、般若心経を唱える。

 幹比古もそれで察したのか、切れかかっていた『山彦』を行使しなおす。

 

 今なら効くはずだ。中途半端な悟りで、煩悩に勝てるはずがない。

 

「ああ、全部分かった。可愛らしいところがあるじゃないか、リーナ。好きな人の気を引くために、あえて突っ掛かって来てた訳だ。実にいじらしいねぇ。そんな事しなくても、良かったのに」

 

「そ、そんな事しなくても、良かった……?」

 

 俺の言葉に期待感を抱いてしまったリーナは、もう後退る事も止めた。その期待感に身を任せ、彼女は生唾を呑んでいる。

 

無色(むしき)無受想行識(むじゅそうぎょうしき)

 

 (ティエン)の唱える般若心経は響いている。リーナの耳にも入ってるはずだ。

 

「君が求めてくれれば、俺は望んでそうしてたんだよ」

 

「そうしてたって、……何を?」

 

「セックス」

 

「せせせせせせせせ、せっくしゅ!?!?」

 

 俺の火の玉ストレートは、リーナのストライクゾーンど真ん中を射貫いたようだ。リーナは最早ギャグマンガじみたリアクションをしていた。湯気が顔から出ているのまで幻視できる。

 

究竟涅槃(くうぎょうねはん)三世諸仏(さんぜしょぶつ)

 

 リーナのそのリアクションは、この般若心経が精神に作用しているせいだと、思っておこう。彼女の名誉のためにも。

 

「リーナ、安心して?痛くはしないから」

 

「待って、お願い待って!?心の準備がっ」

 

 リーナの手を捕まえ、指を絡ませ、お互いの顔まで距離を詰める俺。リーナは『待って』と言うわりに、その顔を1ミリも退かせなかった。

 自分でやっておいてアレだが、マジなのかと。俺は彼女の恋心を内心で冷静に分析している。

 本当に、こんな男の何処に惚れたのだろうか。それだけはどうも解析できない。

 

「う、嘘、嘘よねっ、サキー!?」

 

「行動で示さないと、信じてくれないみたいだね。じゃあ、仕方ない」

 

「待っ―――むぐっ、……っ!!!!!!」

 

 期待しながらも受け入れない彼女の口に、俺が舌をねじ込めば、彼女はそれで押し黙った。

 

能除一切苦(のうじょいっさいく)真実不虚(しんじつふこ)

 

 唱えられる般若心経を聞きながら、彼女は拒まない。こちらの舌を噛み切る予兆もない。

 ただ、彼女の口内を這う俺の舌、重ねられた唇、それらの感触を享受している。

 彼女が今している表情については、表現を避けておこう。とにかく、幸せそうではある。

 

 何にせよ、これ終わりだ。

 

菩提薩婆訶(ぼじそわか)般若心経(はんにゃしんぎょう)

 

 『般若心経写経』の完成。俺たち魔法師には、放たれたサイオン波が吹いた風のように感じられた。

 その風を浴びせられたリーナは、その体から一気に力を抜く。

 ただ、崩れ落ちるのではない。どういう状況かと口も顔も体も離して確認すれば、無駄な力が全くかかっていないような、綺麗な姿勢で直立している。

 表情も、まるで大仏のそれだ。

 

 これが成功である事を願っていると、後方から幹比古の感想が聞こえてくる。

 

「これは……分離……?妖魔が、プシオンの塊が、シールズさんから離れてる……。繋がってるのは、蜘蛛の糸みたいに僅かだ……。シールズさんのプシオンは、まるで感じられない……。これは、凪いでいるのか……?くっ、柴田さんが居ればもっと詳しく分かったのに……!」

 

 必死に自分の知識から分析しようとしている幹比古。最早推し量れない事を察してか、ただ自分の目で見た状況を述べていたが。俺にとっては、それだけで充分である。

 

(リーナの精神は、『般若心経写経』で悟りに近しい状態、だと仮定しよう。なら、今ならばリーナに影響を与えず、パラサイト本体だけヤれるはずだ)

 

 きっと、今のリーナならあらゆる精神干渉系に耐えられる。希望的観測だが、これ以上の好条件は求められない。

 だから、俺は決行する。

 

(『グレート・オールド・ワン』、起動)

 

 範囲を対象とした精神干渉系魔法。範囲内に居る者へ恐怖の情報を送り込み、その恐怖を延々と繰り返させ、精神崩壊に至らせるという、我ながら恐ろしいその魔法。

 もちろん、人に向けるモノではなく、対パラサイトだ。人に向けたら、理論上はそうなるだろうという話。実証できているのは、パラサイト本体に使えば、それを消滅させられる、という事だけだ。

 

 味方を巻き込まぬよう、範囲を絞った半径3メートルの球状。

 

 その効果が発揮された時、リーナの表情は一瞬恐怖に歪んだが、すぐに気を失った。

 

「十六夜!シールズさんに憑依していたパラサイトは消滅した!」

 

 幹比古の声で、パラサイトが祓えた事だけは確信する。

 だが、一瞬とはいえ、リーナが恐怖し、しかも気絶したのは怖い。もしかしたら、リーナの精神に影響を与えたかもしれない。

 

「……十六夜。俺の()でもパラサイトが消滅した事を確認した」

 

「……リーナの方は」

 

「……前後で個人情報体(エイドス)に僅かな差異はある。それがどういう影響をもたらすかは、俺にも測りかねる」

 

「……そうか」

 

 ゆっくり近付いて『エレメンタル・サイト』で得た情報を伝えてくれた達也。しかし、彼の『エレメンタル・サイト』を持ってしても、精神がどう変わったかは測れないようだ。

 一抹の不安に、俺は歯噛みした。

 

「それより十六夜。お前は、大丈夫か」

 

 心配しているのが、達也の声音からも表情からも窺えた。

 俺があんな急に怒鳴り出したのだから、心配されても仕方ない。

 むしろ、心配するだけに留めてくれている事には、感謝しかない。

 冷静になって己の振る舞いを振り返れば、俺だったら今後の付き合い方を考えさせられる醜態にしか思えない。

 間違ってもそうならないよう、取り繕わねば。

 

「ああ、急に怒鳴ったりして悪かった。リーナの精神を揺さぶるのに、アレ以外思いつかなかったんだ。あの時のリーナは俺にご執心だったからな。執心相手が乱心すれば、本人も乱心するかって、な」

 

「……『般若心経写経』が効くように、相手の心を揺さぶった、という事か?」

 

 俺が本当に乱心したのではなく、作戦による演技だったと、達也はその解釈を口にした。俺の狙い通りに。

 人は信じたい方を信じる。

 

「そ。そういう事。どうだった?なかなかの名演技だっただろう?」

 

「……そうか」

 

 俺が得意げにすれど、達也の歯切れは悪かった。

 騙しきれていないのか。あるいは懸念があるのか。

 酒の勢いで普段の不満をぶちまけていた、みたいに捉えられてもおかしくはないし。

 

「……リーナにキス、それもディープでした事、責任を取れよ。後、雫や七草先輩への説明責任も」

 

「……」

 

 達也の歯切れの悪さは懸念によるモノで、しかもその懸念は痴情のもつれだったようだ。

 俺は思わず苦い顔をしてしまった。

 今抱く懸念がそれか、という点。そして、俺自身が考えないようにしていた事を突きつけられた点で。

 婚約者候補及び想いを寄せてくれる人が居る状態で、他所の女にディープキスしたのだ。ただでさえ拗れている恋愛事情が、さらに拗れる事は容易に想像できる。

 

(もうホント、リーナ含めて全員事実婚とかで許してくれないかな……)

 

 絶対にないだろう未来を夢想するくらいに、俺は現実逃避していた。

 後の事は、後の俺に任せよう。

 ()()()()()()()()()()

 

「失礼、四葉十六夜、司波達也。俺から、レイモンドたちが撤退行動に移ってる事を報告しよう」

 

 俺はこの後を(ティエン)に任せるべく、(ティエン)の口で俺と達也の間に割って入ってもらった。

 

「そうか……。じゃあ、契約通りだな」

 

「ああ。契約通り、残りのパラサイト憑依者は俺たちが貰っていくよ?」

 

 俺と(ティエン)の口で、契約の遂行を既定路線に乗せる。

 

 それは、俺があらかじめ考えていた作戦だ。

 残りのパラサイト憑依者を、全て(ティエン)の組織に迎合する作戦。

 

「……克人さん、智一さん。段取りどおり、お願いします」

 

「……良いのか」

 

 俺が克人と智一を促すが、克人は煮え切らない様子だった。

 それも仕方ない。やってる事はマフィア組織の拡大を見逃している事に他ならないのだから。

 善良な人間である克人にとってはよろしくない事態だ。俺にとっては望んだ結末なのだが。

 

「申し訳ないですが、俺は見かけ以上に消耗しています。残りを十全に相手できるかは、不安なところです」

 

「……そうだな。分かった。段取りを遵守しよう」

 

 全然疲れていない様子である事に抗議されるかと思ったが、克人はそれを鵜呑みにした。

 俺の演技が余程真に迫っていたらしい。まぁ、『真に迫る』と言うか、真そのものなのだが。

 

「それでは(ティエン)殿。敵を所定の位置に追い込む」

 

「ああ。よろしく頼むよ。七草勢力に十文字家当主がやってくれるとなれば、成功は確約されているようなものだ。こういうのを、『大船に乗る』、と言うんだったっけ?」

 

 事前に通りてある段取り、リーナの保護が成功し、残りのパラサイト憑依者が撤退行動に出た場合のそれに、克人は従う。

 そうして力強く敵陣に向かっていく克人に、(ティエン)は付いていった。

 智一の方は、既に手勢に無線で連絡している。

 

「十六夜君。私たちも従っちゃって良いのよね?」

 

 しっかりと確認してくるのは夕歌だ。彼女もこの後の段取りに組み込まれているが、責任の所在を俺に任せようとしている。

 俺の責任で(ティエン)とそういう契約をしたのだから、当然の処置だ。むしろ契約内容を正確に再確認しようとするようなその所作は、味方としては実に心強い。騙される事は少ない、という事なのだから。

 

「すみませんが、よろしく願いします」

 

「そんな畏まらなくて良いのよ?十六夜君と私の仲じゃない」

 

 作戦に従うのは俺との友誼だと、夕歌は周りに見せ付けた。ウインクまでしている。

 四葉の分家であるという確定情報を与えず、それでも俺の指示に従うのは友誼故であると、ちゃんと体裁を保っている。

 まぁ、これでも弘一には疑われるだろうが。

 

 何にせよ、これで追い込み漁の始まりだ。

 

「達也。すまないが、俺はもう控えさせてもらうよ」

 

「……そうだな。お前は休んでいろ。―――深雪。十六夜と、リーナを頼む」

 

「ええ」

 

 俺と達也のやり取りで、待っていましたとばかりに深雪は応対した。

 深雪の顔からも、俺への心配が見て取れる。

 俺は苦笑しながら、リーナを抱えた(おそらく魔法で軽くしている)深雪と共に、近くに停めてある小型オフロード車、重傷者搬送に用意したそれの元へ足を進める。

 途中、相対する幹比古が口を開く。皆揃って心配そうな顔だ。

 

「い、十六夜。僕は行ってくるよ。君は、その……。しっかり休んだ方が良い」

 

 幹比古はまだ『山彦』係だ。できれば俺を看ていたいと顔に書いてあるが、任された仕事を放り出せる性分ではないだろう。だからこそ、その仕事を任せているのだが。

 

「心配かける。でも、少し休めば大丈夫だから」

 

 俺はまだ何か言いたげな幹比古の横を、彼の肩を軽くたたいてから通り過ぎた。

 彼は、1・2秒俺の背を目で追ってから、仕事のために駆けだす。

 

 俺は車に辿り着き、後部座席に身を沈めた。

 隣にはリーナが置かれる。深雪は助手席だ。

 周妃は意外にも席を譲っている。

 

「十六夜様、私は周囲を警戒しておきます。敵の主戦力は叩いたとはいえ、なおさら貴方様に奇襲してくる事は考えられる。貴方様さえ取り込めれば、形勢は一気に傾くでしょうから」

 

「そうか……。悪いな、よろしく頼む」

 

「承ってございます」

 

 周妃は俺に行動の旨を伝えて、一定の距離まで離れていった。

 周妃は本当に俺の警護をするようだ。まぁ、(ティエン)には周胤が付いているから、問題はないだろう。

 

「深雪。悪いけど、ちょっと仮眠を取らせてもらうよ」

 

「そうね。貴方はしっかり寝て休みなさい、十六夜」

 

 俺の仮眠を許す深雪はとても優しげで、何処か悲しげだった。

 そうして俺は、甘んじて(ティエン)の操作に集中させてもらうのだった。




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 次回の更新は、3月9日の予定です。
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