魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第百六十話 誰がために宮は建つ

2097年8月10日

 

〈アンジェリーナ=クドウ=シールズの処遇について、上は決めかねている〉

 

 ヴィジホン越しにそう端的に伝えてきたのは、USNA軍所属、ヴァージニア・バランス大佐だった。

 バスト・アップ・アングルに映る表情は固くも平静としたものだが、見切れている左手は無意識に腹部へ置かれている。

 四葉係の心労は、まだ続いたままだ。

 

「すぐに強制送還を願われると思っていたのですが……。どうしてこれ程決まらないのです?」

 

 ヴィジホン通話のメンバーである十六夜が、純粋な疑問をそう口にした。

 日本で暴れたリーナはパラサイトに憑依された状態だったが、その原因を作ったのがそもそもUSNAの過失といっても過言ではない。

 だから、その賠償をしなければならず、では具体的にどう賠償するか悩む、というのは十六夜も分からなくはない。

 

 ただ、結局その悩みを、自身と真夜、そしてリーナにだけ打ち明けたのは、謎なのである。

 交渉という事なら、この通話にはリーナ捕縛作戦に参加した七草と十文字も呼ぶべきだ。

 なのにそうなっていないので、その疑問を解消すべく、話を順に訊き出そうとしているのが十六夜である。

 真夜は十六夜に交渉を任せているのか澄まし顔で、沈黙を保っている。リーナも軍人らしい佇まいで目を伏せて、真夜と似たように沈黙を保っている。

 だが、リーナが薄くかいている冷や汗は、残念ながら他3人全員に見抜かれていた。指摘しないのは、半分優しさで、もう半分はそれぞれの思惑が詰まっている。

 

〈率直に申し上げよう。上はどうやら、四葉側から歩み寄ってほしいようだ〉

 

「……なるほど」

 

 バランスが疲れをどうにか隠そうとしながらした申告に、十六夜は呆れながらも納得した。

 やはり、プライドが邪魔しているのだ。自分たちからは下手に出たくない、と。ただ、そっちから下手に出てくれば、こっちも乗る事はやぶさかではない、という意志が感じられる。

 それ故に、バランスがこうして相談しに来ているのだ。

 十六夜は、彼女に将官の椅子くらい渡してやれと、こんな馬鹿なお願いを代行させられたバランスに哀れみを向けた。

 

(……いっそ、本当に昇進させるか。手柄でも渡して)

 

 バランス大佐が出世してくれた方がこっちにとって都合が良い。十六夜はそう考えて、相手の思惑に乗った上で、バランスの手柄として利益を上乗せする方向で考える。

 

「バランス大佐。そちらの上は、リーナを日本に貸与する、という案はお考えですか?」

 

〈あるが……。その案に消極的なところを見るに、かなり少数派の意見だ。日本に対して強硬姿勢を示す者は賛成していないだろう。それに、各国の情勢から、防衛力の減少を避けたいという意見が主流だ。票が可決には、そうそう傾きそうにない〉

 

 十六夜はUSNA上層部の勢力図をバランスから訊き出し、計算する。

 リーナは、好意とか抜きで、世界のパワーバランス的に、日本への貸与という形にしたい。でなければ、七草あたりからしつこく追及されるだろう。USNAから少ない賠償金しか巻き上げられなかったのか、と。

 どれ程の譲歩をすれば、バランスの手柄とした上で、その望みが叶えられるか。

 四葉から直接的に何かを渡す、というのは論外。USNAが値段交渉してくるかもしれず、そうなると貸与まで持っていけない可能性がある。

 

(……なんで賠償金を貰いたいってのに、こっちが何か差し出さなけりゃいけないんだ?理論的に有り得なくないか?)

 

 十六夜はふと、単純な損得勘定に反していると、その計算では解は導き出せないと、我に返る。

 この計算は、合理性では導き出せない。

 だから、十六夜の思考は一周回った。

 合理的な損得勘定でダメならば、感情論で割り切ってしまおうと。

 

「……、リーナ。君は日本に留まりたいか?」

 

〈え?あ、その……〉

 

 十六夜から急に話を投げかけられた上に、社会性と感情論の板挟みとなって、リーナは考えあぐねるしかなかった。

 でも、これでバランスも読み解く。リーナには、USNAへ素直に帰りたくない思いがある。

 では、その思いとは何なのか。

 

「聞き方を替えよう、リーナ。君は俺と一緒に居たいか?」

 

〈え!?いやっ、それは、だって、その……〉

 

 十六夜の問いにまた答えられなかったが、頬を染めてモジモジしているリーナの様子は、彼女の思いを浮き彫りにしていた。

 リーナは、十六夜を好いている。

 バランスを含め、それがこの場の共通認識になる。

 

「そちらに提示できる譲歩が、おおよそ決まりました」

 

〈ミスター・ヨツバ。貴方の案を聞こう〉

 

 この相談事は滞りなく進み、その結果は、公の場で開示される事となる。

 

◇◇◇

 

2097年8月17日

 

 十六夜は今日も記者会見を開いていた。

 十六夜自身も度々記者会見を開く己に自嘲してしまうし、その度に無駄に集まる記者たちに苦笑している。

 高校生が声掛けた集まりだろうと。

 ただ、会場へ踏み入る頃には、外へ向けて作った笑顔を浮かべている。

 

「ただ四葉十六夜個人にとって重要な発表があるという声明に、皆様お集まりいただき、誠にありがとうございます。俺個人とは申し上げましたが、今回の登壇は俺だけではございません」

 

 集まった記者たちに、ほんのちょっとの誠意を誠実な態度で包んで頭を下げた十六夜。彼はそうして騒めきを抑えたところで、更なる登壇者を招き入れる。

 まずは、雫だ。

 彼女は十六夜に合わせてビジネス・スーツで現れる。昨今パンツ・タイプが増えてきている中、スカートを着こなしている。本物の社長令嬢だけあって、高校生ながら服に着られているといった様子はなく、女性らしい気品を記者たちにも感じさせていた。

 

 この場で雫が登壇した事に、驚きはすれど、疑問に思う記者はいない。

 北山雫が四葉十六夜の婚約者候補というのは、記者なら知っていて当然の話だ。

 だから、記者たちは勘違いをする。婚約者候補も登壇したという事は、これは婚約が正式なモノになったのかと、色めき立つ。

 

「改めて紹介いたしましょう。彼女は北山雫。俺のクラスメートであり、俺の婚約者候補です」

 

 十六夜が紹介文を述べれば、雫は記者に向けて一礼する。

 そうしてから、彼女は十六夜の右に着席した。

 

 記者たちは、そこで違和感を覚える。

 十六夜は初めからテーブルの右側に少し寄っていたし、雫が取った十六夜との間を目算すると、十六夜の左側に後2人は座れるスペースが空いている。

 まさかと、記者たちの頭に過る。

 

 十六夜の続く言葉が、記者たちの予想に応える。

 

「続いて紹介いたしますのは、七草真由美さんと、アンジェリーナ=クドウ=シールズさんです」

 

 真由美と、リーナが揃って入場する。2人もビジネス・スーツだ。リーナは足を晒す事に恥ずかしさを感じて、パンツ・スタイルを選んでいるが。

 

 やはりかと、記者たちは自身らの予想が当たった事に歓喜する。ただ、興奮冷めやらない。

 十六夜が何を発表するのか、気になって仕方がない。

 婚約者候補の雫が十六夜と共に登壇するのは分かる。

 では、彼女たちは何だ。婚約者候補の次に呼ばれた彼女らは、十六夜といったいどういう関係だ。今回の発表とどういう関係がある。

 記者たちは純粋な好奇心で、ただ耳を傾ける。良くも悪くも、話題を提供し続けた有名人(カネのナるキ)が相手ゆえに。

 

「まずは、真由美さんの方を紹介します。まぁ、紹介すると言っても、皆様ご存じでしょうが。彼女は共に第一高校に通った先輩であり、七草家の長女です。お互い十師族という事と、俺と彼女の住宅がお隣さんという事もあり、卒業後も交流があります」

 

 十六夜は記者を焦らす。

 十六夜は本題より先に彼女らを1人1人紹介し、席に座らせる事を優先している。

 それを示すように、ご紹介に与かった真由美は記者に穏やかな笑みを向けて一礼してから、テーブルの一番左に腰掛けた。

 十六夜の、すぐ左が空いている。

 記者たちは読み解く。その席は3人目、リーナの席であり、3人の中でよりリーナに注目を集めようとしている。

 つまりは、今回の発表はリーナに重きを置いた内容である、と。

 

「そして、彼女。アンジェリーナ=クドウ=シールズ。『クドウ』とある事から察している(かた)も居られるでしょうが。彼女は長年十師族を務めた九島家の縁者であり、九島烈老師の弟の孫、大姪に当たる人です」

 

 十六夜の紹介に合わせて一礼し、リーナも登壇する。その所作は軍人然とした固さはあるが、未熟さはない凛々しい立ち振る舞いだ。

 彼女は自分の席だろう十六夜の左隣まで歩み、しかし、席に着かない。

 まだ、十六夜からの紹介があるのだ。

 

「彼女と俺の()()()()は、留学生と在学生という形でした。USNAと日本の魔法科高校で行われた交換留学、あの時です」

 

「す、すみません!質問よろしいでしょうか!」

 

 ここに来て、記者の1人が()れた。

 いや、十六夜の釣り針に引っかかったと言うべきか。彼は『馴れ初め』と、はっきり言ったのだから。

 十六夜は仕方ないと言うかのように小さく息を漏らしながら、質問を許可するように、その記者へ手を差し向ける。

 

「な、『馴れ初め』と仰いましたが、これがどういう意味の発言でしょうか。邪推でなければそれは……」

 

「そうですね。前提知識を、彼女らとその関係になってもおかしくない事を周知した上で、本題に入りたかったのですが。まぁ、もう充分ですか」

 

 記者の質問に、十六夜はこれ見よがしに頭をかいた。

 前提知識を充分に聞かなかったのはそっちだと、責任を押し付けるように。詳細に聞かれると面倒になるのは、十六夜の方なのに。

 全て仕込んで、十六夜は本題に入る。

 彼が佇まいを整え、記者たちが息を呑んだところで、その口は開かれる。

 

「七草真由美、アンジェリーナ=クドウ=シールズ、以上2名を新たに、四葉十六夜の婚約者候補であると公表いたします」

 

 それが、今回の記者会見が開かれた理由。

 真由美とリーナの婚約者候補認定。

 

 リーナを婚約者候補としたのはもちろん、リーナを日本へ貸与させるために、十六夜がUSNAに渡す報酬である。

 真由美を婚約者候補としたのは、USNAとの取引を納得してもらうために、十六夜が弘一に差し出した対価である。

 今回のパラサイト憑依者が出した被害をうやむやにする事と、リーナを一旦日本に置く事。それらを得るために、十六夜はUSNAと弘一へ、そういう、ある種賄賂を送ったのである。

 ちなみに、十文字家、と言うか克人はこちらが何か差し出すでもなく納得してくれた。

 他の十師族は、リーナ、USNAの戦略級魔法師を一旦日本に留めさせる事をダシにして、納得させている。

 

 怖い話が、そう納得させ、記者会見を開く準備するのに、要した時間が7日弱という事だ。

 バランス経由での、USNA上層への説得。弘一への説得。十師族への説得。記者会見の準備。これが7日間に詰まっているのである。

 もっとも、一番時間が掛かったのは、記者会見の準備だろう。

 逆に一番時間が掛からなかったのは、USNAと弘一の件がトップ・タイか。その二者が納得した理由は、単に十六夜の婚姻だけではないのだが。

 

 視点を記者たちに戻そう。

 

「婚約者を3人擁するなど、日本の婚姻制度に違反するのではないでしょうか!?」

 

「重婚は、十六夜氏の社会的地位に影を落とすのではないでしょうか!?」

 

「子供は!?3人との間に出来た子供は何処が親権を持つのですか!?」

 

 記者たちから野次紛いの質問がいくつも飛び交ったが。大別すると、以上3つになるだろう。

 

「お答えします」

 

 質問が飛び交う会場で、十六夜の声、静かで低いそれが、確かに記者たちの耳を打った。

 記者たちは皆、熱を持ったまま、静まり返る。

 何人か、脳裏に過った事だろう。これが『日本若手魔法師の旗手』、そのカリスマかと。

 記者たちは放たれたその雰囲気に包まれ、黙して機を待つ大人に、強制的にならされる。

 

「複数婚約、重婚を問題視する声がありましたね。再度言及しますと、婚約者()()です。婚約者ではなく、ここに法的婚姻関係はありません。これはあくまで、お相手との契約なのです」

 

 あくまで婚姻ではない。だから、重婚ではないので法には引っかからない。そういう話だ。

 傍からすれば、屁理屈にしか聞こえないだろうが。しかし、裁くとしたらどう足掻いても民事で、刑事にはならない。訴える権利を持つのは、その契約書に署名した者たちのみだ。

 

「この契約は、俺の婚約者ないし結婚相手を、候補者とした者の中から絶対に1人だけ選ぶ、というモノです。例え候補者以外に俺が好意を寄せる相手が居たとしても、その相手と婚姻関係を結ぶ事は絶対にありません」

 

 契約であると明言したので、十六夜はその契約内容を補足として語っておいた。

 婚約者候補は、あくまで嫁候補をその中に限定するモノだと。その外から嫁は選ばないと。

 

「俺の立場を懸念する声がありましたね。では、俺の立場とは?『立場』は、『価値』と言い換えてしまった方が良いでしょうね。つまりは、俺が法律違反に屁理屈こねると、俺の価値はどれ程失われるのか、という話になるでしょう」

 

 十六夜は、話をシンプルにした。

 ややこしくして、煩雑にして、思考力を奪って、論点をすり替える。

 記事を売りたいだけの人間と、詐欺師の、常套手段だ。

 常套手段だから、十六夜はそれを潰した。雑音を潰し、煩雑さを潰し、逃げ道を潰した。

 十六夜が見知った手法を使った上で、十六夜が放つ雰囲気に呑まれたのだ。

 その時点で、口論は十六夜の勝ちだ。

 『立場』が、圧倒的に優位なのだから。

 

「では、俺の価値とは?」

 

 『四葉十六夜』という人物の価値は、『四葉』にして現当主直系という時点で、確固たるモノである。

 例えその人物が非魔法師だったとして、『四葉』の要点、ウィーク・ポイントと言っても良い。

 十師族、その中でも最高戦力、その要点だ。例え日本という国家がなくなったとしても、いや、なくなればなおさら、揺るぎない価値を持つ。

 一国家が兵器として1世紀近く先鋭化してきた遺伝子情報だ。手に入れる機会があるなら、何処だって欲しい。

 故に、『四葉十六夜』は、彼個人の性能問わず、確固たる価値を持つのだ。

 

 ではそこに、高性能である事も付け足したら。

 

「九校戦優勝の立役者、テロリストの捕縛、『若手会議』の主催。俺は、実績を積み立ててきたと、自負しております」

 

 高性能である事は、既に示し終えた。

 一般に公開されているその3つだけでも大衆が認める功績なのに、裏にはもっと多くの功績がある。

 

 『四葉』の高性能機。これを、誰が欲しがらない。

 

「俺は、なかなか1人に決められない優柔不断な男です。それでも、雫さんが、真由美さんが、リーナさんが、こんな俺を好いてくれた」

 

 多少の汚点など、ちょっと泥が跳ねた程度。その価値を地に落とすものではない。

 そうであると、北山家が、七草家が、USNAが証明してくれている。

 例え人格に難があったとて、その遺伝子には余りある価値がある。気性難でも重宝される種馬が居るように。

 

「それに、俺は思ってしまったのです。俺は、多くの人間に求められている。ならば、それに応えるのも、社会貢献なのではないかと」

 

 ここで善性をひとつまみ。

 この決断が、ただの私利私欲でないと取り繕う。

 そうすれば、それが社会的に悪とは言い難くなれば、擁護と非難の2つに割れ、しかし擁護した者は恩恵に(あず)かれるかもしれない。

 じゃあ、どっちに(くみ)するのが賢いか。判断は、各々の立場に預けられる。

 

「子供を授かった場合の親権を懸念する声がありましたね。もちろん、俺は婚約者候補から1人を妻と定め、妻とのみ子を成すつもりでいます。ただ、その時妻とした者と後にのっぴきならない理由で婚姻を破棄し、その後に婚約者候補だった者を新たに妻として迎える事もあるでしょう」

 

 子供の親権について。それをしっかり語る前に、誰を相手として選ぶかについて、十六夜は語っていく。

 ただ、聞き逃せない事項がそこにはあった。

 記者の1人が、言葉を遮ってでも立ち上がる。

 

「待ってください!婚約者候補という契約は、婚姻後も残るのですか!?離婚後に新たに婚約者候補を集めるのではないのでしょうか!」

 

 十六夜は、離婚後に婚約者候補だった者と新たに結婚すると言っていたのだ。立ち上がった記者は、それを聞き逃していなかった。

 通常の思考だと、一度婚姻が成立すれば、婚約者候補の中から妻を選ぶという契約は破棄されるように思える。

 ただ、十六夜の言葉から読み取れるモノは違った。

 その契約は婚姻後も残り、しかも離婚後に候補者が増える事はないと、そう聞こえるのである。

 

「『婚約者候補』、相手の婚姻を縛る契約はなくなります。ですが、俺と婚姻を結ぶ事ができる権利は残ります。そして、一度婚姻を結んで以降、『婚約者候補』という言葉は復活させず、婚約者候補を増やす事もしません」

 

 『四葉十六夜』と婚姻を結べる権利が得られるのは、『四葉十六夜』が最初に結婚する前に、『婚約者候補』であった者のみ。

 確かであれば強い特権に、不確かな時間制限が設けられている。

 これがさらに、『四葉十六夜』の価値を吊り上げる。大抵の醜聞は無視させるような熱、下手なオークションより人を狂わせるそれ、まさしく熱狂を周りに与える。

 

 その事が理解できた記者たちは、驚愕で押し黙るしかなかった。

 十六夜は好都合とばかりに、話を続ける。

 

「さて、親権の話でしたね。妻との間に出来た子供は、その親権は四葉家が持ちます。基本、嫁入りしてもらいますので。では、離婚した場合はどちらが親権を持つのかについてですが、その選択は、子の母に委ねます。元・妻に、四葉へ送り出すか、実家で引き取るのか、選んでもらうんです」

 

 子供の所属は、最終的にはその子供の母が選択する。

 これが、USNAも弘一も納得させた契約だ。

 何せ、リーナの子供はUSNAが、真由美の子供は七草が、迎え入れる事を可能とする契約だからだ。

 『四葉十六夜』の遺伝子を合法的に得られる可能性がある、という事である。

 十六夜はさらに、その契約に相手を納得させる文章も加えている。

 

「また、婚姻前に儲けてしまった候補者との子供も、選択はその子の母に委ね、四葉も俺もその事を訴える事はありません」

 

 十六夜が明言したその契約文に、記者たちは驚愕する他ない。

 婚約候補者が仮に夜這いして子供が出来てしまったとしても、夜這いについて訴える事はなく、さらには子供の親権を奪い取る事もない。その契約文は、そう示している。

 とても邪推込みで端的に言えば、夜這いを推奨しているのだ。

 もう、婚約者候補になった者勝ちである。

 

 常識を逸脱している。ただし多くの者に利益があり、多少の違反は黙認されるだろう土壌が作られている。

 

 記者の1人は、呆然としながらも呟く。

 

「四葉十六夜……。貴方は、『後宮』でも作るつもりか……」

 

 それに対する十六夜の答えは単純だ。

 

「社会がそう、望むのであれば」

 

 

 

 会見はその発表が衝撃的だった事に反して、滞りなく、また、予定時間の超過なく終了した。

 特ダネすぎて、直接批判をしている場合ではないと、記者たちは思ったのかもしれない。

 

 記者会見が終わってすぐ、会場の入り口を跨いで十数秒という本当にすぐ。十六夜の携帯端末が震えた。

 

〈十六夜様?私も婚約者候補に立候補しますわ〉

 

「……勘弁してくださいよ、澪さん」

 

 会場から慌てて駆け出さなかった記者は、五輪澪による婚約者候補への立候補という、さらに特ダネを得るのだった。

 その後、先に駆け出した者より足を速めたが。




 お読みいただき、ありがとうございます。
 次回の更新は、7月27日の予定です。
※更新の予約を忘れてました……。
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