魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第百六十一話 志の寄る辺

2097年8月19日

 

 巳焼島(みやきじま)の港に、十六夜、真夜、司波兄妹、そしてリーナが集まっていた。周妃と水波は従者として控えている。

 ちなみに、水波は治療の副作用で『超人』となったため、以前以上に健康であるが。守護者(ガーディアン)業務復帰の正式なお達しは(くだ)っていない。あくまで深雪のお付きで、経過観察中だ。

 

 とにかく。彼ら『四葉』の目の前には、大型クルーザーが停泊していた。タラップは下ろされ、渡る人影は3つ。

 最後尾が、達也たちも良く知る国防軍人、風間玄信・現中佐。真ん中が、新ソ連の軍服を身にまとった女性。大尉の階級章を下げた、レスリング選手かと疑いたくなる体格の良さを持ち、身の(こな)しと表情から生真面目さを醸し出す女性だ。高い鼻や深い彫りはロシアの血を感じさせるが、しかし黒い髪色は東アジアの血を思わせる。

 そして、その先頭に居るのが、ビジネススーツでパンツスタイルを決めている女性。

 ガリナ・アンドレエヴナだ。

 新ソ連が公表した年齢だと30代前半という事になっているが、その身長が深雪やリーナと変わらず、肌も髪も若々しい。外見は、新ソ連の女性らしい端正な顔とスレンダーな体格だ。

 しかし、見る人が見れば分かる。そのスレンダーな体格に隠された、まるでフライ級ボクサーのように引き締まった肉体をしているのだ。

 『イグローク』として水槽に寝かされていて、華奢も良いところだった彼女が何故そんな肉体を手に入れたかと言えば。『リライト能力』で色々調整した副作用の『超人』化によるモノである。

 

「イザヨイ・ヨツバ、ヨツバの皆さま。初めまして。私はガリナ・アンドレエヴナ。今日から、()()()()()1()()()()()()()()()()()

 

 ガリナは十六夜に手を差し出しながら、そう告げた。

 そう。彼女は新ソ連から送り出された友好の使者として、日本へ来訪。そして、保護という名目の監視で、この巳焼島に留められる事となっている。

 端的に、日本の政治家は潜在敵国の推定戦略級魔法師なんて、友好の使者でも本土に置きたくなかったのだ。

 そこで白羽の矢が立ったのが、少し前まで秘密刑務所だった場所にして、四葉の管理地たる離島、巳焼島なのである。

 日本に滞在しているという体裁を保ちつつ、もし暴れた時でも対処できるように。

 

(他国の『十三使徒』関係者を保護するため、なんて明け透けな誤魔化しが通ってる訳ないんだがな)

 

 十六夜は、内心で日本政府へ苦笑していた。

 この巳焼島が秘密刑務所だった事は、新ソ連に明かしている。現状は、四葉の実質的な私有地である事も。

 四葉が守っているから安全だ、なんて薄っぺらい宣伝文句が、本来だったら通じるはずがない。

 なのにそれを新ソ連が、ガリナ・アンドレエヴナが呑んだのは、十六夜の策略と言って良い。

 

(「日本の防衛大臣が、四葉の私有地に滞在の地を用意したと告げるだろう。それを呑み、四葉十六夜との接触を図れ」、だったか?我ながら、新ソ連の大統領と日本の防衛大臣を脅せる立場って、何なんだろうな?)

 

 (ティエン)を使い、脅し回った。それが実情である。

 真犯人である十六夜も、どう笑って良いのか分からなくなってきた。

 初手で十六夜への握手を求めてきたガリナ・アンドレエヴナが、露骨すぎる程に指示通り動いているのも合わせて。

 

 色んな事を頭で考えながら、体は交流に動かす十六夜。

 握手に応じて良いものかと、左右確認。左向けば、真夜が意味深長に笑みを浮かべる。右向けば、達也が目を伏せる。

 

(自身の考えで動き、意図を探れ、と?期待し過ぎだろう。俺が真犯人じゃなかったら、頭が痛くて仕方がなかったぞ?きっと)

 

 十六夜は左右に表立って苦笑した。

 それから、表情を整え、ガリナの前に歩み出る。

 

「改めまして、四葉十六夜です。離島という事でご不便をお掛けするでしょうが、僭越ながら我が四葉家が、貴女の快適な滞在を支援させていただきます」

 

「ありがとう、応じてくださって。貴方にお会いしたかったわ」

 

 握手に応じ、まるでお客様対応マニュアルに沿うかのような対応をする十六夜。ガリナは分かった上で強く握手を交わし、さりげなく一歩前に出て、左手を十六夜の腰に据えようとしていた。

 十六夜は気付かぬフリをして、即座に一歩下がる。空ぶった左手で微妙な空気を生まぬよう、会話でつなぐ。

 

「日本語、お上手ですね」

 

「ええ。()()()()()()()()ので」

 

 微妙な空気にはならなかったが、ガリナのその一言で、日本側は緊張した空気を生まざるを得なくなった。

 いったい、誰に、何のために刷り込まれたのか。

 誰って、(ティエン)経由の十六夜だが。何のためにって、調整の副作用だが。

 ちなみに、リーナは空気が変わった事を感じているが、何故変わったのかと首を傾げていた。

 

 十六夜を除く日本側。特に風間、達也、真夜の間で目配せされる。その3人は日本語が刷り込まれた事に関心を抱き、それを共有した。意図を探るべきだと。

 その空気を感じ取っていた十六夜は、ちょっと頭が痛くなる。

 

(意図せぬ偶然なんだけどなぁ……)

 

 真犯人が、偶然の産物に苦しめられていた。

 彼にとってさらに厄介な事がある。

 

「仲良くしましょうね?イザヨイ・ヨツバ」

 

 ガリナ・アンドレエヴナが、その日本語の刷り込みを計画的なモノと判断しているところである。

 アンドレエヴナのいずれかと四葉十六夜を交流させるのは初めから計画されていた事であり、日本語を刷り込んだのはそのための布石だと。

 

(勘違いモノは、読み専のつもりだったんだけどなぁ……)

 

 ガリナ・アンドレエヴナを目の届くところ、少なくとも逐一動向を探れるようにしておきたかった、程度の思慮で動いた結果がこれである。

 どうしたものかと、思考を巡らせる十六夜である。

 

 ガリナは十六夜との握手を終えて、一歩下がる。交代で、新ソ連の大尉が一歩前へ。

 

「ガリナ様……失礼、ガリナ女史の護衛を務めます、クリス・ツカサ・モロゾヴァと言います」

 

 新ソ連の大尉、クリスも流暢な日本語で、こちらは十六夜、真夜、達也、深雪の順に握手を交わし、リーナ含めたその他には会釈していた。

 黒髪も相まって、十六夜は彼女に日本人らしさを感じる。

 

「失礼かもしれませんが、もしかして日系の(かた)ですか?」

 

「イザヨイ・ヨツバ、その通りです。祖母が日本人であり、日本人らしさを名に残す我が家の決まりなのです。だから、「クリスティーナ」ではなく『クリス』で、父称も父の名前そのままで『ツカサ』なのです」

 

 日系人と気付いてもらえた事に、クリスは喜びを覚えた。だから、彼女は親しみで舌を回す。

 

「日系人として、貴方には感謝しております、イザヨイ・ヨツバ。日本と敵対など、言語道断だ。ただ当時は恐怖に呑まれ、凶行に及ぼうとしていた。貴方のあの演説があったからこそ、我が国は正気を取り戻した。ガリナ様も勇気をふり絞り、立ち上がってくださった」

 

 クリスはその胸の内を、拳を握りこんだり、その拳を胸に添えたりと、抑えきれぬジャスチャーと共に熱く語った。

 彼女は元より親日家で、それ故にアンドレエヴナたちの融和策に強く共感している。

 最早信者じみた思いも抱いているために、彼女は日本へ送り出されるガリナの護衛を買って出たのである。

 

「立ち話もなんですし、慣れない異国の地で疲れも溜まっている事でしょう。お茶会の席を設けますので、お話はそこで」

 

「これは失礼。確かに、立ったままする話ではありませんでした」

 

 話が永くなりそうだと、容赦なく流れを断ち切る十六夜。彼は風間が帰りたがっているというか、ここで得た情報を早く大隊に共有したがっているので、それも考慮した行いだ。

 断ち切られた側のクリスも空気を読み、不機嫌になるどころか少し申し訳なせそうに、十六夜の先導に従順な態度を示した。

 

「それでは、これでガリナ・アンドレエヴナ氏の護衛を四葉に引き継ぎしたものとする。本官はここで失礼させていただく」

 

 業務的な物言いをした風間。彼は敬礼し、新ソ連側の敬礼、四葉側の会釈、そしてリーナの反射的な敬礼を見届けてから、来た道を戻っていく。

 

「では、ガリナさん、クリスさん。こちらへ」

 

 十六夜は、クルーズが出るのを見届ける事なく、ガリナたちを四葉の領地に招き入れるのだった。

 

 

 

 洋室のラウンドテーブルを皆で囲む。周妃は十六夜の後ろにお付きが如く待機し、水波は率先して給仕の仕事に勤しんでいる。

 座っている皆の前に置かれたカップ。十六夜の以外は、水波が注文品を注いだ。ほとんどが紅茶で、達也がブラック・コーヒー。十六夜のは、周妃が淹れたロイヤルミルクティーだ。周妃が譲らなかったのである。

 

 とにかく。そこで一同はあまり深くを詮索せず、楽しませる会話に終始していた。

 

「気になっていたのですが。新ソ連での名前構成は、名、父称、姓、ですよね?ガリナさんは姓を名乗っていないようでしたが……」

 

「私の姓は『ベゾブラゾヴァ』なのです。聞き覚えがあるでしょう?悪名と共に。だから、エミリアも、他の姉妹も、名乗りたくないのです」

 

 十六夜の純粋な疑問に、ガリナは微笑みを携えてそう答えたのだ。

 簡単な話、ガリナの姓はベゾブラゾフ、イーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフと同じなのだ。男性形が『ベゾブラゾフ』、女性形が『ベゾブラゾヴァ』となる、ロシア時代から続く新ソ連の命名規則である。

 それで、十六夜を除く四葉の皆は、目の前のガリナと、日本融和派先鋒のエミリア、そして死んだ十三使徒の一角であるベゾブラゾフに血の繋がりがある事を確定させた。

 ガリナの父称が女性形で『アンドレエヴナ』、ベゾブラゾフの父称が男性形で『アンドレイビッチ』という事で、父親も同じ事が示されている事も理解する。

 実情は父親が同じどころか、ほぼベゾブラゾフのクローンなのだが。『エレメンタル・サイト』で遺伝子を見抜ける達也でも、ベゾブラゾフをついぞその()に捉えられなかったため、その事を知る由はない。

 ただ、自身が文字通り消し去った『トゥマーン・ボンバ』の行使者2人、遠方から伊豆へ魔法を仕掛けてきたその者たちも、ベゾブラゾフの血縁者だった事までは、達也は推測する。さらには、ベゾブラゾフの遺伝子を使った調整体だっただろうという事にも、思考が届いている。

 十六夜の方は、兄妹である事は知っていたが、ガリナたちが姓を名乗らない理由は初耳だったので、ガリナの答えに妙な感心と納得感を抱いてはいた。

 

 ただ、この場はあくまで談笑の場なので、誰もそこから追求しなかった。

 

「夕食は何がよろしいかしら?貴女たちはお客人なのだから、何でも仰って?新ソ連の料理はもちろん、世界各国の有名料理はお出しできるわ?」

 

「ありがとうございます。でも、何が良いかしら?」

 

「ガリナ様、ここは本場の和食を頂きましょう。スシ、テンプーラ、スキヤキ」

 

「そうね。なら、お寿司が良いかしら。生魚は初めてだから、とても楽しみだわ?」

 

「それなら、最初は炙り寿司から慣らした方が良いかもしれませんね」

 

 真夜が切り出した夕食の注文伺い。ガリナは迷ったが、クリスの提案で寿司に決めた。そこに、十六夜が配慮を添えたのである。

 ちなみに、ガリナは少し前まで水槽の中で眠り続けていたため、生魚どころか料理のほとんどが初めてだ。だから、食事が楽しみなのは心の底から湧き出る本心である。

 

 故に、ガリナはその本心を満たすため、上品な所作でありながら寿司を爆食いした。量で十六夜に食らいつく程に。言うまでもないが、『超人』化しているがためである。

 『超人』化している事なんて知らない達也たちは、普通に驚嘆していた。さすがにただの大食いとして、『超人』であるとまでは読み切れないのだった。

 

「このタコのお寿司、食感が面白くて病み付きになりそうです」

 

 タコが一番お気に召したガリナ・アンドレエヴナだった。

 

 

 

 その日の晩。十六夜は夕食を巳焼島で取ったのもあり、その日は巳焼島に留まっていた。彼に宛がわれた個室で、さりげなく周妃が傍に控えている中、彼はスタンドアローン状態のパソコンを操作している。ノート・パソコン型という、世間では趣味人扱いされるデザインのそれを、十六夜は前世の経験で手に馴染むとして使用している。

 そのパソコンで何をしているかと言えば、今後何をしなければいけないか、文章化しているのだ。

 

(本物の天才は全部記憶して脳内で整理してそうなもんだが。俺は四葉の頭脳があってもそこまで天才じゃないからな。『四葉十六夜』としてと、『(ティエン)』としての計画が混ざって複雑だし……。ちゃんと記録して残して整理しとかないと、忘れるし頭がこんがらがる)

 

 四葉の遺伝子で優秀な頭脳を持っているが、それでも信用しきれていない彼。彼としては、四葉由来の頭脳を信じていないと言うより、自身の頭脳を信じていないと言う方が正確だが。

 そんな自己評価の低さが、データとして残すリスクを冒させている。もちろん、そのパソコンは『付喪神』化しないと起動もできず、データの読み取り・解読も高難易度というセキュリティを施しているが。

 

 そんな作業中に、扉がノックされる。

 周妃がいの一番に動く。彼女は部屋の設備であるインターホンを用いて、来客を確認した。

 

「ガリナ・アンドレエヴナです」

 

 来客が誰なのかを主に伝えた周妃。

 客人とはいえ、よくここまで通してもらえたなと、十六夜は意外感を覚えながら、扉を開けて(じか)に応対する。

 見れば、彼女の護衛たるクリスだけでなく、ガリナの両脇には四葉の従者である男女が居た。警護という名目だろうが、実際は監視であるなんて、誰もが分かっている事である。

 

「ガリナさん、こんばんは。どうされましたか?」

 

「イザヨイ・ヨツバ、こんばんわ。少し、二人きりでお話がしたくて。お時間よろしいですか?」

 

 面と向かい、微笑み合う十六夜とガリナ。十六夜は距離を測りかねてマニュアル対応しているだけだが、ガリナの方は指示を完璧に遂行するための演技。つまりは両者共に作り笑いである。

 しかし、十六夜はここで改めて距離を正確に測るため、快く彼女を招き入れる事にする。

 

「ええ。構いませんよ?どうぞ中へ」

 

「十六夜様」

 

 十六夜の考えを読みかねて、諫言を吐こうとするのは従者の男である。

 

「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だ」

 

「しかし……」

 

「じゃあ貴方は、もしもの場合は俺の肉盾になってくれるんですか?」

 

 『超人』かつ魔法師のトップ層である十六夜。彼が対処できないという事は、四葉の従者とて対処できないという事だ。

 そんな事態で十六夜を守るという事は、つまり盾になって死ぬくらいしかできない、という事である。

 その事を言われて理解した従者は息を呑んでいる。

 

「最強の守りは敵を作らない事。そうは思わないかい?そして、敵を作らない方法は、相手に自分から歩み寄る事だ。お辞儀も握手も抱擁も、そういう歩み寄りだろう?」

 

 十六夜の言論。従者はその論に一定の納得をしつつ、また、万が一には盾になれないどころか足手纏いになると察して、退き下がる。

 謙虚で有能な従者だと、十六夜は彼を評する。

 

 従者を諫めたので改めて、十六夜はガリナに室内へ入るよう、手で奥を指し示した。ガリナは笑みを深め、クリスに一瞥してから、自分だけ奥へと踏み入る。

 中では、応対用のテーブルに、既に紅茶とロイヤルミルクティーが用意されていた。周妃によるものである。

 

 ガリナ、十六夜の順で席に座って、お互い示し合わせたように飲み物を一口。

 それから、ガリナが口を開く。

 

「イザヨイ・ヨツバに接触するよう、とある方から指示を受けました」

 

 ガリナはぶっこんだ。

 十六夜の手は、カップをソーサーに置く直前で制止する。

 思考を回して結局、まずもう一口飲んで自身を落ち着かせた。

 今度はしっかりカップをソーサーに置き、それから携帯端末形CADを取り出して、遮音バリアを張る。ここで、周妃まで弾いておく。

 

「……、どういう意図ですか?」

 

「その指示は、イザヨイ・ヨツバと交流を深めろという指示だと捉えています。だからこうして、誠意を示しております。誠意は金か、誠実な態度、ですから」

 

 十六夜が探ってみれば結局、ガリナはどこまでも指示に忠実だった、という話だ。やり方まで、上司のやり方に倣っている。

 

「貴方と交流を深めた先に何を見ているのか、私共は把握も推測も出来ておりません。何しろ、その方は私たち姉妹を救っておいて、手元に置きもしないのですから。その深謀遠慮は、人生の浅い私共では推し量れません」

 

 ガリナは(ティエン)を恩人として思い浮かべているのか、(ティエン)の偉大さを語るのに言葉を尽くしていく。

 

「しかし、イザヨイ・ヨツバと交流を深める事に意味がある事は分かります。貴方はあのお方と同じだ。『敵を作らない方法は、相手に自分から歩み寄る事』。あの方も、似たような考えをしておられます」

 

 恩人と似ているから、ガリナは十六夜に大きな敬意を抱いていた。

 だから、彼女から歩み寄っているのだ。

 

「……。もし仮に、その『あの方』個人と、新ソ連が袂を分けたとしたら、貴女はどちらに付きますか?」

 

「袂を分ける、とは、敵同士になる、という意味ですよね?それなら考えるまでもありません。私はあの方に付きます。他の姉妹たちも、指示で新ソ連に潜伏し続ける事はあると思いますが、それでも心はあの方に預けています」

 

 十六夜は()()()()()、ガリナは満点の回答をした。彼女の眼に一点の曇りもない。

 これに、十六夜は堪えきれない。感覚的な刷り込みが、あまりにも完璧すぎて。

 

「ふ、ふはははっ」

 

「……イザヨイ・ヨツバ?」

 

「合格だ、ガリナ・アンドレエヴナ」

 

 十六夜は、もう仮面が剥がれてガリナに訝しまれたので、素直に明かして状況を簡略化する事にした。

 

「……っ!……まさか、貴方様は?」

 

(ティエン)だよ。あっちが端末で、こっちが本体だ。ああ、証くらい提示すべきか。―――ベゾブラゾフが列車牽引式大型CAD、『アルガン』を日本へ向けた二度目の時、君たち5人を操って彼を殺したのは俺だ」

 

 まだ疑いがわずかにあるガリナへ、十六夜は足を組んで頬杖突くような(ティエン)の態度で言葉を紡ぐ。

 

「フェヴロニヤ・アンドレエヴナ。彼女を救えなかった事は、申し訳なく思っているよ。貴重な手駒となってくれただろうに」

 

 そうして語られる、(ティエン)でしか知り得ない情報。

 『フェヴロニヤ・アンドレエヴナ』とは、ベゾブラゾフが自動拳銃で魔法演算領域を破壊した『イグローク』A。世には公開されていない、ガリナの姉妹、その1体である。

 ガリナの中で、疑いは一変残さず晴れていく。

 代わりに、彼女の胸中に不甲斐なさが溢れる。

 

(ティエン)様!いえ、イザヨイ様!貴方様と気付かぬこの無礼者っ、如何様にでも罰してください!」

 

 ガリナは不甲斐なさのあまり、涙を流しながら平伏した。

 さすがにこれには十六夜も苦笑する。

 

「良いんだ、ガリナ。こっちこそ、試すような真似をしてすまなかった。でもおかげで、君の忠誠を素直に受け止められる。―――忠義者の顔、俺によく見せてくれないかい?」

 

「勿体ないっ、勿体ないお言葉です!イザヨイ様!」

 

 視線の高さを合わせるように屈んだ十六夜に、ガリナは涙を悲しみのそれから喜びのそれに変えて、十六夜と相対した。

 ガリナは十六夜の瞳に、吸い込まれるような美しさを感じる。ああ、忠誠を捧げるべきはやはり、美しきこの方なのだと。

 

「上下関係は周囲に悟られてはダメだよ?『四葉』にも隠している事だからね。だからしばらくは、ただの一個人同士として振舞おう。仲良くしようね?ガリナさん」

 

「はい!貴方様のお心のままに!」

 

 目の前の恩人に、ガリナは心酔した。

 こうして十六夜は、ガリナとの関係を簡単なモノにして、自身の心の平穏を得るのだった。




 お読みいただき、ありがとうございます。
 次回の更新は、未定とさせていただきます。
※私の中で、本作の毎週更新を画策しております。ただ、執筆ペースがまだ掴めていないため、確約はできない状況です。
 もし執筆ペースを見て、余裕があるようなら、来週の日曜日も更新しようと考えてします。

※本作のファン・アートを、メビウス斎藤様よりいただきました。AI絵ではありますが、四葉十六夜君を描いてくれた物となります。
 この場を借りて、改めてお礼申し上げます。ファン・アートをいただき、ありがとうございます。

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