魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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編輯黄昏

~Götterdämmerung~





























































編輯■■編~Götterdämmerung~
第百六十三話 鐘が鳴る


2097年9月15日

 

 日本魔法科高校の夏季休暇が終わり、既に2週間以上が経った。

 十六夜は無事、課題も補講もやり遂げ、通常の修学カリキュラムに復帰している。保健室登校だが。

 

 そうして、学業では無事だったのだが。別のところで無事じゃない事が起こる。

 

「皆様、四葉十六夜誕生パーティーに出席いただき、真にありがとうございます」

 

 東京某所にあるビルのワンフロアを貸切って、十六夜は集まる日本の富豪・魔法師名家を前にして、パーティー主催の演説を行っていた。

 

 事の発端は、『婚約者候補』という契約にある。

 四葉十六夜と家族関係を得るべく、魔法師名家どころか、魔法師が血縁に居ない富豪たち(大企業や有望株の中小企業、果ては政治家まで)が娘の見合い写真を四葉家に送りまくったのである。

 無遠慮に見合い写真を送られては、写真の精査もしている場合ではない労となる。

 だから、招待制にしたのだ。

 『婚約者候補』になり得る者は、『四葉十六夜誕生パーティー』、あるいはこれ以降も開催するとした十六夜関連のパーティーに招待された家系だけだと、パーティーへの招待状にしっかり明記したのだ。

 招待状を贈られた者たちは、内心で自身たちが選ばれし者だと歓喜した事だろう。外面を取り繕うため、紹介したい友人1人だけでも同伴を許してもらえないかと四葉に問い合わせ、四葉から否の回答を貰った。そして縋ってくる友人たちに申し訳なさそうな顔しながら堂々と同伴拒否を言い渡すのである。

 全ての者が、そうだとは言い切れないだろうが。

 

 閑話休題。

 

 十六夜の誕生日は9月11日であるが、9月15日をパーティーの日取りにしたのは、単に11日が平日で、15日が日曜日という話である。

 十六夜の学業もあるし、人を集めるなならやはり日曜日が良い、という事だ。

 

(何でこんな事になったんだろうな……?)

 

 十六夜は主催者演説をしながら、脳内で疑問を思考していた。

 偏に彼が『婚約者候補』という契約を公言した事に尽きるし、その疑問はまだまだ低い自己評価によるモノである。

 彼は、魔法師として優秀な遺伝子を評価されている事は理解できていても、日本の若手魔法師を束ねるカリスマ性が評価されている事は理解できていないのだ。

 なので、何故魔法師が血族に居ない富豪たちが集まっているのかは、分かっていない。

 それでも、真夜のアドバイスもあって、富豪たちを一定数は招待していたりする。

 防衛大臣の娘がこのパーティーに招待されているのも、あくまで真夜のアドバイスによるモノだ。防衛大臣の方に、十六夜は(ティエン)の正体について明かしていないのだし。

 

(ま、これも親孝行か……)

 

 分からない事はそういうものと思考を打ち切って、十六夜はただ予定通りにこのパーティーを乗り切りに掛かる。

 

 

 

 形式は社交界に近く、飲食物はウェイターが配るドリンクしかない。

 なので、魔法師名家や富豪は繋がりを作る事に執心している。各有力者と交流しつつも、さっさと娘or自身を紹介したいと、十六夜が手隙になるのを横目でありながら(つぶさ)に窺っている。

 列を作って待つというのは、さすがにプライドが許さなかったようだ。

 

 ただ、そんな中で最初手を得たのは、最早外聞を気にせず、演説が終わった瞬間に切り込んでいった五輪澪だった。

 

「日本唯一の十三使徒と、日本魔法師が皆認める男児の婚姻です。まさしく、社会が望んでいる事では?」

 

「澪さん……?その、両家の立場と、両者の立場を熟考して、しっかり話し合っていきましょう……?」

 

「我が五輪家の意向は()うに固まっております。まぁ、お義母様、失礼、四葉真夜様とはしっかり親睦を深めるべきという事でしたら、仰るとおりです。なので、是非ともお義母様とお話の場を設けていただきたく」

 

 十六夜は澪に押されてタジタジだった。

 

(『五輪澪』……。行き過ぎるあまりに遠慮がないけど、十六夜さんへのその行き過ぎる想いは本物かも……)

 

(澪さんがあんなに熱烈に……。い、十六夜くんと何があったのかしら……。もしかして、一夜の過ちが……!?)

 

(すごいアグレッシブ……。でも、サキーに対してはあれくらいアタックした方が良い、のかしら……?)

 

 十六夜の脇を固める3人、雫、真由美、リーナが持つ澪評が上記のものである。

 

 澪との談話(?)。その終わりに続くのは、まさかの、四十九院(つくしいん)沓子(とうこ)である。

 『四十九院』。それは古式魔法師の名家・白川家をルーツとしながら、ナンバーズの一員となった稀有な家である。ナンバーズは、現代魔法師側の枠組みであるため、歴史ある古式魔法師程、その枠組みを毛嫌いする。

 そんな中、古式魔法師界隈から孤立する事もいとわず、現代魔法に追い縋ったのが『四十九院』と言える。

 そして、四十九院沓子はそんな家の長女であり、第三高の生徒であり、十六夜と同学年の才女だ。

 

「九校戦の懇親会で擦れ違う事はあったが、こうして面と向かって話すのは初めてになるかのう」

 

「そうですね。ほのかさんと競技で戦う姿は拝見しておりましたが。話すのは初めてになりますね」

 

 150㎝に届かない小柄でありながら、堂々として、芯のある落ち着きを持つ少女。彼女は少し砕けた様子で笑顔を向けてきていたが、十六夜はビジネスじみた固さを維持した。

 十六夜としては、そうせざるを得なかったのかもしれない。

 

(の、のじゃロリ、だと……!?)

 

 何故なら、自らの性癖に電流が走っていたからである。その内心を表に出さないために、固い態度を取ったのである。

 

(彼女くらいの低身長は、周りがまだ高校生なんだから沢山居た……。だが、のじゃ口調なんて……!のじゃロリを、まさかこの目にできる日が来るなんて……!)

 

 ある種の感動が、十六夜の中で渦巻いていた。

 

(公式スピンオフのキャラか?キャラが立ちすぎて、モブとは思えん。というか、のじゃロリなんてコッテコテなロリ、逆に公式スピンオフでもないと許されない存在だろ!)

 

 表では沓子と当たり障りない交流をしながらも、内心は興奮冷めやらぬ状態である。

 さすがの沓子も、その内心を読み取る事はできなかった。交流が浅いから仕方ない。

 では、交流が深い相手から見ると、どうなるだろうか。

 

「……」

 

「……、どうかしたか?雫」

 

「……十六夜さんって、小さいの好きだよね」

 

 雫には見抜かれていた。

 

「……ほう?」

 

「え?ち、小さいのが好きって、ど、どういう事?十六夜くん?」

 

「……小さい?……身長は、確かにジャパンのアベレージを下回ってそうだけど」

 

 雫の呟きが、沓子、真由美、リーナに伝わってしまう。

 沓子は不敵な笑みを浮かべ、真由美は動揺し、リーナは首を傾げていた。

 

「…………お、黄金比というモノがある」

 

 焦りに焦った十六夜は、社会一般の常識が正常に動作せず、オタク的価値観が口から零れる。

 

「黄金比?」

 

 その言葉は、此処に居る4人の少女が重ねたモノである。

 同時に、盗み聞きしていた観衆の感想でもある。

 

「そう。黄金比だ。造形物というのは、基本的にその外見的特徴が統一感を持っていると好ましいんだ。つまり、細い物は小さく纏まり、太い物は大きく嵩張る事が好ましい。もちろん、あえてその基本的な好ましさから逸脱し、新たなバランスを求める探求心には、俺も純粋に感心する。細い物に、あえて大きい物を備えるというような。小さい子に大きな武器を持たせるというような。逆の属性をあえて宛がう事で、その両方の属性を際立たせる事ができる。ただ問題なのが、あまり片方の属性を強めすぎてしまうと、バランスを損ない、美しさを損なわせてしまう。あえてバランスを崩すにしても、その崩れたバランスで成り立たせる、転びそうで転ばない、平衡感覚とでも言うべき美術的センスが必要なんだ」

 

「……サキー?」

 

「……あ」

 

 語りに熱中していた十六夜は、リーナの純粋な懐疑心を浴び、冷静さを取り戻して周りを窺い、そうして自身が下手を打ったと自覚した。

 何せ、沓子はニヤついた表情をしているし、雫はジト目で睨んでいるし、真由美は赤い顔で己の胸部を隠すように己を抱きしめているからだ。

 十六夜も、普段なら分かっていた事だ。

 これは、女性に聞かせるような話ではなかった。なんなら、衆目監視で語る事ではなかった。

 救いなのが、リーナが何も分かっていない事である。

 

「その、話が難しかったから、できれば要約してほしいのだけど……」

 

「いや、リーナさん……。今のは聞かなかった事にしてくれ……」

 

 自身の日本語力が低い事を憂いながらも、懐疑心でそのままに進んだリーナだが。自らの失態を憂うように片手で顔を覆う十六夜を目にすると、それ以上は聞けない。

 ただ、やはりリーナは小首をかしげ続け、釈然としない様子で椅子に体を沈ませている。

 それが、十六夜に良心の呵責を与える。

 

「……いや、分かった。白状しよう。俺は、フィクションのキャラクターにおいて、ぺったんなスレンダーが大好きだ。そして、先程の黄金比云々語ったとおり、グラマラスも好きだし、トランジスタ・グラマーも好きだ」

 

 十六夜は、開き直る事にした。

 

「ただし、これはあくまでフィクション、二次元、漫画やアニメのキャラに関する趣味趣向だ。現実に持ち出す気は一切なかった」

 

「『なかった』?」

 

 雫は耳聡かった。十六夜の発言が過去形である事を聞き逃さない。

 

「なかったんだが……。こう、二次元の理想像は、立体化しても美しく感じてしまうもので……。つまり、二次元のキャラとして好きなモノは、それそっくりのステータスを持つ実在の人物になっても好ましいという事で……」

 

「つまりは?」

 

「…………雫も、真由美さんも、リーナさんも、綺麗だなぁって」

 

「もう一声」

 

「……………………雫も、真由美さんも、リーナさんも、外見から好みです」

 

「外見だけ?」

 

「中身も好きじゃなかったら、嫁選びにこんな迷ったり、『婚約者候補』なんて契約を結ぶもんか!これで良いだろ!?」

 

「百点を上げる」

 

「……どうも」

 

 雫に内心を引っ張り出されるだけ引っ張り出され、十六夜は不機嫌にそっぽ向いて頬杖を突くに至った。

 雫は達成感で高揚するとともに、頬を少し紅葉させている。

 真由美は『外見から好み』・『中身も好き』と、ほぼ初めての愛の告白に抑えきれない嬉しさを感じている。思わずニンマリしてしまいそうな頬を両手で必死に矯正しにかかっているが、矯正しきれないので、その顔を隠すように俯ている。

 リーナも、嬉しさは2人と同様だ。しかし、今まで政略的な意味合いでお情け的に『婚約者候補』に据えられている、そんな不安が拭えなかった今までがあった分、その嬉しさはさめざめと泣く形で表出している。

 

(え……?泣く程の事……?え……!?俯く事の程……!?)

 

 お陰で十六夜は軽く引いているが。

 

「なんじゃ、アツアツじゃなあ。これは、儂らは馬に蹴られて死ぬ役かのう」

 

 沓子は3嫁候補と十六夜の仲睦まじさに、のじゃ口調なのに大阪のおばちゃん精神を発揮させていた。

 『じゃあ、後は若い者同士で』なんて本物のおばちゃんだったら()けそうなものだが、そうしないのは、彼女はまだ希望を持っているからである。

 自身は、小さい、ぺったんこのスレンダーだから。

 

「……これ以上、上塗る恥もないか」

 

 開き直り切った十六夜は、沓子の勇気に感化され、佇まいを整える。

 彼女の勇気に報いるのだ。

 

「四十九院沓子さん。1つ聞きたい事は、普段からその口調なのか、という事だ」

 

「……十六夜さん?……趣味を優先してない?」

 

「大事な事なんだ」

 

 また雫にツッコまれるが、十六夜は押し切った。

 

「儂はおばちゃん子で、おばあちゃんは山口県出身なんじゃ。……『のじゃ口調』が山口弁である事を知らぬような、ニワカではないじゃろうな?」

 

「もちろん知っているが。君のその口調はむしろ、山口弁ではなく、役割語・老人語に聞こえていたが。山口弁に染まり切っている訳ではなく、また、幼児期に触れた老人語を、祖母の口調に似ているあまりに自然と取り込んでしまった、という事か」

 

「そういう事じゃ」

 

 沓子は十六夜を『のじゃ口調』ニワカ勢かと嫌疑を掛けたが、その深い知識に触れて嫌疑を解き、同レベルの知識人と会えた事の喜びを嚙みしめて頷いていた。

 周りからされてきた誤解、「キャラ作りすぎ」などという揶揄を浴びてきた苦い日々が、この喜びで雪がれるような、そんな思い。彼女はそれ故に、相手が理解者、それも深い理解を持つ相手故に、心を決める。

 

「で?どうじゃ?お眼鏡には叶ったかのう」

 

「……正直に言えば、君の外見は俺好みで、その口調も好きだ。実に、キャラが成り立っている。ここまでの短い会話だが、性格も悪くなさそうに感じる」

 

 直球で聞いてくる沓子に、十六夜は礼儀として直球で返す。

 十六夜は、手を差し出す。

 

「四十九院沓子さん。まずはお友達からだ」

 

「……、ふふ……。変わった男子(おのこ)よなあ。嫁を3人侍らせておいて、身持ちが固いとは」

 

「……、今のはキャラを作っただろ」

 

「ありゃ。バレてしもうたか」

 

 『男子(おのこ)』はさすがにコテコテすぎるキャラ作り、好みに合わせようとしたキャラ作りだと読めた十六夜。指摘すれば、沓子は悪びれた様子もなく、「テヘッ」とした態度を取っていた。

 コテコテすぎる。

 それでも、十六夜は手を差し出し続ける。性癖すぎるんだから仕方がない。最早『惚れた弱み』に近い。

 沓子はその手から色々と読み取り、握り返すのだ。

 

「後で連絡先を貰いに行くからのお」

 

「ああ」

 

 個人的に後で会う約束まで取り付ける沓子。十六夜には、その強かさすら好ましかった。

 

 握手は数秒。確かにしっかり握り合った後、沓子の方からスルリと抜け出す。

 貞淑な一礼を披露して、にこやかな顔で退がる。雑踏に消える前に見返り美人までお見せする、十六夜の好みかつ己の強みを分かっている彼女だった。

 

「十六夜さん……?」

 

「……浮気じゃないよ?」

 

 雫に少し詰められて、気まずくなる十六夜だった。

 

 パーティーは続く。お開きになるまで、十六夜の下へと挨拶に来る者は絶えない。

 十六夜は、集まった有力者と政治的な話をしたり、その娘たちにセックス・アピールをされたりするのだった。

 

 

 

「ああ……。無茶苦茶疲れた……」

 

 十六夜は帰りのリムジン内で、項垂れていた。

 顔色も青く、体調の悪さが窺える。

 

「サキー、ちょっと?大丈夫?」

 

「十六夜くん、人混みが苦手だものね……。人混みどころか自身が主役のパーティーなら、体調も崩すわよね……」

 

「……むしろ、記者会見とかよく開けるね」

 

 同乗するリーナ、真由美、雫に心配される始末。

 リーナと真由美が右・左から背中をさすり、雫が十六夜の頭を撫でている。

 ボディ・タッチの好機だなどと、考えていたりはしない。少なくともリーナは純度100%の心配だ。

 

「十六夜くん、やっぱり貴方が一番に家に帰るべきだわ。リーナさんや雫さんの方は、私の方で車を出すから」

 

「……そうさせてもらいます。……車はウチが出しますけど」

 

 真由美の厚意に甘えつつも、意地は通す十六夜である。

 

 車に揺られる。十六夜の体質は、あくまで人間のプシオンに当てられやすいというモノなので、車酔いはしない。まぁ、酔いやすい人間も酔わせない程の高級リムジンだが。

 とにかく。十六夜の自宅、巳焼島でも四葉の東京拠点でもないそこに着く頃には、顔色も健康なそれに戻っていた。

 

「家の中まで見送らなくて大丈夫ですって」

 

「ま、まぁまぁ」

 

「べ、別にサキーが倒れるとかは思ってないわよ?」

 

「私は心配してる。無理してるのを隠すのが十六夜さんでしょ?」

 

 十六夜は皆の過ぎる気遣いが少し煩わしかったが、雫の『無理してるのを隠す』という言葉が身につまされる。

 仕方ないと、彼女らが満足するまで付き合う。

 

 自宅のドアノブに、手を掛けた。

 超人の感覚が、違和感を手に伝える。

 本当に僅かだ。本当に僅かばかり、ドアノブが温かかった。

 思わず床を見る。

 綺麗だった。まるで、靴跡を拭ったかのように。

 

 十六夜は、特化型CAD(シルバー・アーティラリー・ガイア)を構えた。

 

「わーわーわー!違うの十六夜くんっ、侵入者じゃないの!」

 

「え?」

 

 慌てて声を上げた真由美。この状況に関与していないと思っていた人物からのその声に、十六夜は一瞬だけ混乱した。

 でも、一瞬だ。真由美が関与しているというだけで、推理ができる。

 真由美もリーナも雫も家に上がろうとしていたのも、推理材料になるだろう。

 

「……これ、どうするの?シズク」

 

「素直に白状が一番」

 

 ダメ押しなのが、迷うリーナと、素直にパーティー・クラッカーを取り出した雫だ。

 色々と鈍いと言われる十六夜でも分かる。

 

「……。誰が俺の誕生日会に来てるんです?俺の家に上がれているという事は、ここのセキュリティー権限を持ってる母上は確定でしょうが」

 

「どうしてそういうとこだけ鋭いの?」

 

「えーと……。ミユキにタツヤに……」

 

「……十六夜くんと達也くん共通の友人は、ほとんど来てるんじゃない?」

 

 そういうところだけ鋭い十六夜。彼は雫に呆れられ、リーナと真由美に苦笑を向けられていた。

 十六夜も苦笑する。

 ただ、その苦笑には、小さな甘さも含まれている。

 

 十六夜は、小さな期待を持って、ドアを開ける。

 何故か拳が飛んできた。

 十六夜は反射的にアーム・ロックを掛ける。

 

「いだだだだだ!ギブ!ギバーーップ!」

 

 エリカだった。

 

「……エリカ、お前バカだろ」

 

「……2度目だよね、エリカ」

 

「エリカちゃん……」

 

 レオ、幹比古、美月は哀れな者を見ていた。

 

「アンタらも同じ事思ってたでしょ!?コイツ、あたしらに誕生日も教えてくれてなかったのよ!?『四葉十六夜誕生パーティー』とか公に開いてなかったら、あたしらいつまでもコイツの誕生日知らないままだったわよ!?」

 

「それは、まぁ……」

「それは、まぁ……」

「それは、まぁ……」

 

 エリカが激怒している動機に、レオ、幹比古、美月は綺麗に同調した。

 エリカ程には激怒していないが、3人とも、十六夜の薄情具合にはそれぞれ思うところがあったのである。

 

「……そうか。……そうだな、すまない。みんなに祝ってもらう程の事でもないと思ってたから」

 

「3人とも、このバカを殴りなさい!今すぐに!あたしをホールドするのに手一杯だろう今の内に!」

 

 十六夜の卑下具合と、エリカの荒れ具合に、苦笑する3人である。

 

「み、みんな、十六夜さんも疲れてるだろうし。誕生日会を早く進めよう?」

 

 状況の対応に迷って、レオたちの奥に控えていたほのかだったが。さすがに見かねて、無理にでも話を進めようとするのだった。

 

 十六夜もほのかの健気さに免じて、エリカを解放し、そうして蹲る彼女を無視して、奥へと進む。

 

 ダイニングは、折り紙などを切り貼りした、まさにお手製という感じで飾られていた。

 プロフェッショナルでは決してない。でも、確かな友愛が、確かな形を持って表されている。

 十六夜はその入り口で少し立ち止まり、感慨深げにその部屋を眺める。

 

(『四葉十六夜』『誕生日おめでとう』、か……)

 

 十六夜は飾られたその名前を見て、不思議と、自然と笑みが込み上げた。

 「誰だそいつは」と、脳裏に過りながら。

 

「十六夜先輩、誕生日おめでとうございます!」

「お義兄さま、誕生日おめでとうございます」

 

 香澄と泉美も、その会場に居る。

 

「今、『お義兄さま』って、言ってなかった?」

 

「言いましたけど」

 

「ああ、さすがに聞き間違え……じゃないの!?」

 

「ええ。だって、真由美姉さまが正式にお義兄さまの『婚約者』になられたんですから」

 

「『候補』、『婚約者候補』の『候補』が消えてる」

 

 双子で面白おかしいコントも披露している。

 

「十六夜様、お食事の用意が出来ております」

 

「僭越ながら、この不肖水波も十六夜様の誕生会を彩らせていただきました」

 

「……周妃、珍しく付いてこないと思ったら。……、水波さんはありがとう。体調は万全そうで良かったよ」

 

 今日は誕生会という無礼講という事で、十六夜は周妃を訴追はしない。代わりに対応そこそこに、すぐ水波への挨拶に変えた。

 どちらもメイド然として、澄ました態度で対応する。片方は正式なメイドではないが。

 

「十六夜、お誕生日おめでとう。刀は保管室の方に置いてあるわよ?」

 

「ああ、毎年の誕生日プレゼントか……。……、ありがとう、母上」

 

 真夜もそこに腰を落ち着けており、十六夜を祝っている。十六夜は毎年恒例の誕生日プレゼントに一瞬微妙な顔をしながらも、即座に微笑みを取り繕った。

 そろそろ保管室が、毎年増える刀で許容量が心配になってきたのを、頭の奥底に押し込めながら。

 

「それじゃあ皆、席に着いてくれ」

 

「しっかりと誕生日会を開始しましょう?」

 

 司波兄妹が、この会の進行を務める。

 十六夜を上座に置き、真夜も、司波兄妹も、達也一団も、七草の双子も、真由美も、リーナも、雫も、順々に席に着く。

 ちなみに、十六夜の傍は真夜と婚約者候補で固められていた。達也もさすがに空気を読んで、彼女らの次点に並んでいる。

 

「それでは皆さま、ご唱和ください。さん、はい―――」

 

『―――十六夜、誕生日おめでとう!!』

 

 達也の合図に合わせて、『四葉十六夜』に向ける祝辞を、皆が綺麗に唱和させていた。

 

 四葉十六夜誕生会は、恙なく進んでいく。

 

「『四十九院沓子』って子が新しい『婚約者候補』になるかも」

 

「え?あの沓子ちゃんが?……沓子ちゃんならやりそうかも」

 

「ちょっと待ちなさい。その話、詳しく聞かせてもらえないかしら」

 

「オウゴンヒ?だったっけ。サキーが何か、トウコって子がオウゴンヒに合ってるとかどうとか」

 

「十六夜、どういう事だ」

「十六夜、どういう事なの?」

「十六夜!?どういう事なんだい!?」

「十六夜、どういう事なんだ……?」

「十六夜!どういう事!」

「十六夜さん、どういう事ですか……?」

 

「お姉さま!新たな恋敵の誕生をみすみす見過ごすとはっ、どういう事ですか!」

 

「泉美、貴女は黙ってて……」

 

「4人目も囲うんですか……?その、お姉ちゃん、ちょっと考え直さない……?」

 

「香澄も黙ってて……」

 

 雫のカミング・アウトで状況はてんやわんや。

 真夜が真剣に詮索し、リーナが誤った状況説明を加え、司波兄妹と元・二科生面子から詰められ、泉美は真由美を糾弾し、香澄が考え直すように提言すれば、真由美は眉間を抑えてその2人を制している。

 十六夜も困っていた。どう収拾を付けたものかと。

 

 そこに、インターホンのチャイムが鳴る。

 

「……、他に誰か呼びました?」

 

「いや、少なくとも俺は他には呼んでいない」

 

 意図せぬ来客に十六夜は皆に心当たりを聞いたが、達也を代表として、誰もが否をそれぞれ示している。

 

「……澪さん辺りかな。……あの人だったら、サプライズ家凸くらい噛ましてきそうだ」

 

 自身の心当たりを再度確認して、嫌な心当たりがあった十六夜。

 彼は仕方ないと、澪を迎え入れる心づもりで、インターホンに応答する。

 

 

 

 

 

〈こんばんは。こちら、()()()のお宅で間違いないでしょうか〉

 

 

 

 

 

 インターホンには、(ファン)千夜(シェンイェ)が、映っていた。




 お読みいただき、ありがとうございます。
 次回の更新は、8月17日の予定です。
※諸事情により、更新日を8月18日(月)に変更させていただきます。ご了承の程、お願いいたします。
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