魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

164 / 179
第百六十四話 ゴングが鳴る

「―――」

 

「……十六夜?」

 

 インターホンの画面を見つめて固まる十六夜に、達也は、警戒心を抱いた。

 

「―――ああ、ごめん。デザート宅配サービスが来たみたいなんだけど、俺が宅配日時を間違えて指定したんだろうな。今日届くはずがないと思って、一瞬固まっちゃったよ。」

 

 十六夜は、何事もなかったかのように、笑顔で訳をでっち上げた。

 内心は、混乱の最中(さなか)にある。

 

「届いちゃった物は仕方ないから、受け取ってくるよ」

 

 十六夜はさりげなくインターホンの画面を消し、怪しまれない速度で玄関に向かう。

 

 誰も付いてきていない事を気配で確認してから、十六夜は玄関の扉を開けた。

 

 そこにはやはり、(ファン)千夜(シェンイェ)が居る。

 

 幻覚であってほしかった。

 自身がした最悪の想像など、当たってほしくなかった。

 そういう望みばかり、叶わないものだと悟っていながら。

 

「こんばんは、(ティエン)さん。直接会うのは初めてですね」

 

「……どうして分かった」

 

 笑顔の(ファン)と、苦悶の十六夜。

 

 自身が(ティエン)の本体であるなど、証拠は残さなかったはずだ。では何故、自分が本体だとバレたのか。

 渦巻く疑問の1つを、自らの混乱を解くために1つずつ訊ねる。

 

「不思議な事を言いますね。(ティエン)さんは『魔物』の応用で操っているのでしょう?契約線が貴方と繋がっていますよ?」

 

 『契約線』。いわゆる『魔物』とその使役者のパスだ。生命力を送るための、目に見えない経路。

 『魔物』研究家である(ファン)からすれば、それで出元を特定される危険性も知らずに使っているというのは、相手の無知を純粋に心配してしまう程のミスでもある。

 ただ、十六夜としては寝耳に水だ。(ティエン)を操っているのは『付喪神』の応用。『魔物』技術に関連しているという認識は、十六夜にはない。

 十六夜にとっては、落とし穴に嵌められたようなものである。思わず歯噛みする程の。

 

「ただ、どちらが本体かの特定には、時間が掛かりました。普通の『魔物』であれば契約線を調査すれば良いだけですが。そこを隠せたのは見事です。なので、調べられる限り、(ティエン)さんと貴方の経歴を調べました」

 

 何気なく、相手の無知を知らずにお門違いな誉め言葉を送りながら、『(ティエン)』と『四葉十六夜』の素性を洗ったと言う(ファン)

 十六夜の表情は、険しくなる一方である。

 

「まぁ、活動開始時期で一目瞭然でしたね。貴方、『四葉十六夜』さん、いえ、名もなき少年兵の方が十数年も早く活動を始めている。貴方が大亜の軍施設に捨てられる以前は、残念ながら追えませんでしたが。まぁ、充分でしょう」

 

 充分すぎる調査だった。(ファン)は十六夜が大亜の軍施設に捨てられていた少年兵である事まで調べ上げている。

 十六夜と、十六夜から聞いた真夜の2名に知る人が絞られていた情報だ。目の前の敵が3人目。その3人目が集団に帰属している場合、3人から跳ね上がる事になるが。

 

 十六夜は、動悸を必死に抑える。誕生会で集まっている者たちに、何も悟られないように、と。

 

「……望みは何だ。大抵の物は差し出す」

 

 話を早く済ませねばならない。皆が怪しみだし、確かめに来る前に、早くこの男を帰さねばならない。

 

「君自身が欲しいと言っても?」

 

「遺伝子情報ならちょっと待ってくれればいくらでも渡せる。凍結精子が欲しいというならそちらもすぐに渡せる」

 

「それでは駄目だ。僕たち、いや、俺たちは箱舟が欲しいんだ。超々高性能シミュレーターの(もと)まで送ってくれる箱舟が」

 

 十六夜は、愕然とする。

 『庭の文明』について知られている。その情報も、十六夜は信頼できる人間にしか伝えていない、極秘も極秘の情報だ。

 

「言ったじゃないか。あの指輪は、『魔物』の技術を使った物だって」

 

「っ!サイオンとプシオンの過剰生成を防ぐ、あの指輪……!」

 

 少し嘲るように(ファン)から出されたヒントで、十六夜はすぐに思い当たった。

 (ファン)から貰って(ティエン)経由で自身に流した、サイオンとプシオンの過剰生成を防ぐという指輪。

 その指輪は確かに、特殊金属、『魔物』の形態変化する性質を使ってアンティナイトに特殊な加工を施した特殊合金で作られていると、(ファン)は語っていた。

 その指輪を、自身のプシオン過剰生成を抑えるため、毎夜指に嵌めている。

 つまり、十六夜は敵の『魔物』をすぐ傍に置いていたのだ。

 その『魔物』伝いで、十六夜の情報は(ファン)に抜かれていたのである。

 しかも最悪なのが、その指輪『魔物』を嵌めている時にちょうど、月に『超々高性能シミュレーター』がある事を語っている。

 達也に『『もう少しでゴール』とは、何だ』と追求された、あの時だ。

 

「……目的は」

 

 十六夜は、場合によっては超々高性能シミュレーターの(もと)へ連れて行っても良い、と考えている。

 どうせもう壊れている。今の世界線を演算できているとも思えない。

 『超々高性能シミュレーター』はもはや、有り得たかもしれない未来が記録されているだけの置物だ。それを読み解くにも、人間が持ち得る処理能力では不可能な、無用の長物なのだ。

 

 でも、(ファン)のバックに、本物の『聖女』が居たとしたら。何世代にも渡る悲劇の記憶を継承した女性が居るとしたら。

 『Rewrite』でそうだったように。その女性が、人類の根絶を願っているとしたら。

 

「そうか、君は素直に従ってくれないのか……」

 

 (ファン)は落胆した。目的も告げずに従ってもらうのが、一番面倒がなかったから。

 自分たちの目的を知られたら、十六夜が従ってくれるとは思えなかったから。

 

 十六夜は察する。(ファン)は、少なくとも人類にダメージを与える悪事を画策している、と。

 

「もう、何を言われたってお前たちには従えない。絶対に月のシミュレーターは渡さない。お前たちに渡すくらいなら、俺は自刃する」

 

「まぁ、そうだよね。()()()()()()()()()()。世界のためなら自身の命を投げうつくらいはするだろう」

 

「…………は?」

 

 先程まで自刃すら覚悟していた十六夜は、(ファン)のとある一言で頭が真っ白になった。

 

「……『一度自殺している』?」

 

 汗が噴き出す。喉が渇く。

 有り得るはずがない。

 知られているはずがない。誰も知り様なんて在るはずがない。

 自身が一度自殺しているなどと、この次元の人間が気付けるはずがない。

 自身が三次元(リアル)から転生してきたなどと、二次元(フィクション)のキャラクターに分かるはずがない。

 

 十六夜はその動揺を、あからさまに顔に出してしまった。

 

「ああ、やっぱりそうだったのか。君の経歴を洗って、気になってたんだ。どうすればこんな、自分を捨てられる人間になれるのかって」

 

 それは、カマ掛けだった。

 十六夜はそのカマ掛けに引っ掛かっただけだったのだ。

 己のアホさを、十六夜は呪う。もう泣いたって遅いのに、涙が涙腺をせり上がってくる。

 

「『リライト能力』は、確かに如何なる生物にでもなれる能力だ。だからこそ恐れるものだろう、自己の喪失を。『テセウスの船』どころじゃない。古いパーツを新しいのに入れ替えるどころか、パーツを別物に変えるようなものだ。パーツを変え尽くした果ては、本当に自分自身なのか?」

 

 何にでも成れる能力だからこそ、自分ではない存在に成る事を恐れるだろう。

 少なくとも、それが(ファン)の推測であり、()()()だ。

 

「俺はダメだったよ。自己を強化する事には使ったが、君みたいに半分別人になる事は、ついぞやらなかった。そういう意味では、さすが俺の後継と言うところかな?先駆者として、鼻が高いよ」

 

「『先駆者』……」

 

「ああ。一応そこは明確にしておこう。俺は君の先代に当たる『リライト能力』保持者、『リライター』だ。『英雄』、なんて呼ばれ方もしていたな。ちなみに補足すれば、君と俺の間に別の継承者は居ない。だから、本当に俺と君は先代と今代だ。『聖女』と違って、『リライター』の登場には間隔が空くんだね」

 

 (ファン)が先代リライター。『英雄』と呼ばれた当事者。あくまで自己強化に走った超人。

 情報がわっと浴びせかけられるが、今の十六夜では処理しきれない。ただ大人しく聞いているだけだ。

 

「失礼、話が逸れた。話は、同じリライターなのに共感できなかったから、君をプロファイリングしてみた、というのだったね」

 

 それは単純に言えば、興味が湧いたから、その人物をもっと知りたくなって、人物像を推測してみた、という話である。

 

「少年兵に身をやつしたかと思えば、脱走して四葉に取り入る。ただ生き延びようとしているのかと思ったけど、四葉への報恩には、文字通り命を捧げている。それくらい四葉家に恩義を感じているのか?なんて疑って探ってみれば、独断専行かつ内密に危ない橋を渡っても見る。己の命で賭けを楽しむ賭け狂いとも考えたが、賭けどころか、人生を楽しんでいるようにすら見えない」

 

 (ファン)は十六夜の半生を要約し、解析する。

 

「節々から窺える、自己評価の低さ。ともすれば、自身に何の価値も感じておらず、価値を見出すために使命に殉じているかのようだ。最近は『四葉十六夜』が持つブランド・ロイヤルティを自覚したようだが、それを切り売り・投げ売りしている。商売人としては落第も良いところだが、世捨て人としては新境地かもしれない。さっさと己の価値を消費し尽くそうとしているんだからね」

 

 (ファン)は、十六夜を多面的に測る。

 少なくとも、考えなしである、なんていう身も蓋もない仮説は除外している。

 

「『リライト能力』という特別な力を持っているのに、それ程までに己を過小評価するのは何故なのか。実の親に捨てられたという悲しみに、心を押しつぶされたか?周りと違う能力を持つ自身を化け物とし、爪を隠す事を選んだか?『魔法』という普及した超常を目にし、自身なんて井の中の蛙だなどと自省したか?」

 

 あらゆる仮説を立て、推論する。

 だが、結論は同じだ。

 

「しっくりこない」

 

 何をどうしたって、捨て子からなる『四葉十六夜』の経歴では、彼の自罰的な生き方は説明できない。

 そこに至り、(ファン)の脳裏に過る。

 

「もしかして、前世で大きな罪を犯した、転生者だったりしないか?」

 

 考えるに値しない、馬鹿馬鹿しい仮説だ。

 でも、一旦その仮説を元に、(ファン)は推論したのだ。

 

「辻褄が合うんだ、君の行動が全て贖罪にあるとしたら。あえて苦難に突き進む事で自らを罰し、死に急ごうとしているとしたら」

 

 前世がある。その前提を是とすると、拍子抜けする程あっさりと人物像が見えてくる。

 単純に、前世の罪を償おうと足掻いているだけだと。

 

「そして、思ってしまった。さすがに自分も21世紀初頭のweb小説を読み過ぎていると思うけど。君が仮に、フィクション世界への転生者で、君はそのフィクションの受け手だったとしたら。君が中途半端に、『リライト能力』にまつわる多くの情報を知っていた事や、色んな事件への対応に早かった事も、全て説明が付く」

 

 傍からすれば妄想が過ぎる(ファン)の推論。

 十六夜は、目も歯も食いしばって、黙って聞くしかない。

 一瞬でも口を開こうとすれば、涙と嗚咽が、止めどなく溢れてしまいそうだったから。

 誰にも知られるはずがないと高を括っていた真実が、暴かれてしまったから。

 

「君は、このリアルによく似たフィクションを享受していた、前世で罪を犯した転生者、という訳だ」

 

 回答を貰うまでもない。

 (ファン)の目の前で曝される十六夜の醜態こそが、何よりもこの推論が正解であると答えている。

 

「四葉真夜を母親に見立てているのは、君の罪は親関連という事かな?自己評価の低さも考えると、両親からの虐待が―――」

 

「お父さんとお母さんはそんな人じゃない!!」

 

 色々と限界だったせいだろう。今までと違って的が外れている(ファン)の推論に、十六夜は条件反射のレベルで否を叫んでしまった。

 

「―――なるほど。そちらは生来の気質と環境が招いた悲劇という訳か」

 

 条件反射の否定が判断材料となり、(ファン)によるプロファイリングを一段階進めてしまった。

 それだけじゃない。

 ここは住宅の玄関だ。如何に防音が徹底されている家とは言え、玄関からダイニングまでの音をシャット・アウトする設計まではしていない。

 

「十六夜……?」

 

 達也の声がした。

 十六夜が振り返れば、玄関とダイニングを繋ぐ扉を開ける達也が居る。達也の奥には、皆の影も見える。

 皆、訝しむような、心配するような、そんな目を十六夜へ向けていた。

 

 十六夜は、咄嗟に嘘を吐く。

 

「助けてくれっ、敵だ!」

 

 意図せぬ敵の襲撃という衝撃で、全てをうやむやにする手に出た。

 

 即応するのは、3人。

 達也の脇を擦り抜けて突っ込んでくる、レオとエリカ。

 CADを即座に構える達也。

 

 3人はほぼ同じ事を考えていた。

 まずは殴/斬/殺ってから考えよう。間違っていたら、十六夜のせいにすれば良い。

 

 (ファン)は構えた。

 左手を手刀のように、右手は握って、その左右の手を前後に並べる。

 

荼枳尼(だきに)天印!?」

 

 驚愕を口から漏らしたのは、控えていた幹比古だった。

 

「『領域展開』……、なんてね」

 

 (ファン)から放たれたサイオンが、皆には吹き抜ける清涼な風に感じた。

 

 レオとエリカは、気にせず攻撃する。

 達也も、レオたちの対処に追われるだろう瞬間を狙う。

 

 (ファン)は、構えを取ったまま、その身でそのままレオとエリカの攻撃を受けた。

 ガードしない事に意外感を覚えながら、達也はレオたちの攻撃がヒットした瞬間に、『分解』をトリガーする。

 そうして、3人は気付く。

 

「な、『パンツァー』が、発動してねぇ……」

 

「棍刀の形が、元に戻った……?」

 

(『分解』が、発動しない。2人も魔法がリセットされている……。まさか、これは……!)

 

 魔法のリセット。さらに魔法の封殺。

 3人は困惑するが、達也だけはすぐに冷静さを取り戻し、状況分析に掛かった。

 『エレメンタル・サイト』で視れば、一目瞭然だ。

 (ファン)を中心とした範囲に、魔法が展開されている。

 達也の眼を以てして、分析不可能。だが、推測はできる。

 

 この魔法は、魔法を拒絶する魔法だ。

 おまけに、魔法による事象を後出しで修正する効果まである。

 

「あれは、やっぱり『掌印(しょういん)』!両手の構えによって魔法の詠唱を代替・簡略化する、古式魔法の技術……!しかも荼枳尼天印って事は、荼枳尼天の逸話、土地を支配し育む神の配偶神という逸話を抽出してる……!」

 

「……なるほど、土地の支配か」

 

 幹比古が口から漏らす解説のような驚きで、達也は納得を得た。

 敵はまさしく、土地、一定領域を支配している。

 

「と言うか何コイツ!?刀形態じゃなくなったとはいえ、棍棒で()っ叩いて微動だにしてないんだけど!」

 

「なんつぅか、サンドバックでも殴った気分だ……」

 

 ノーガードの相手に物理攻撃を噛ましたのに、そのあまりの手応えのなさ。エリカとレオは畏れを抱き、後退っていた。

 2人は感じている。武人として、彼我の距離が開きすぎている。

 

「ようこそ、20世紀へ。術式の開示をさせてもらうと、この手の形を保っている限り、一定範囲の『魔法』は否定される。―――体験してみてくれ、『魔法』などなかった世界を」

 

 (ファン)は、手の形はそのまま、戦闘態勢を取った。

 左手は手刀、右手は握り拳であるため、物理格闘は充分に行える。

 格闘戦を強制する事も考慮に入れて、選んだ『掌印(しょういん)』という訳だ。

 

「武術は問題なしって事でしょ!」

 

 エリカは形状記憶棍刀を、もはやただの棍棒を振りかざした。

 武人としての差を直感している。それでもなお先陣を切ったのは、武人としての誇りを守るためであり、仲間たちに敵を測らせるためでもある。

 しかし、それは浅慮と言わざるを得ない。

 

「その思い切りは良いと思う。でも、功を焦ったね」

 

 振り下ろされる棍棒に左手の手刀を添えて受け流し、さらにはエリカの込めた力に更に(ファン)が力を足した。

 残心、次撃のための余力は、その予想外に加えられた力で無効化される。

 そうしてできた一瞬の硬直、隙を逃さず、(ファン)は握り拳を振るう。

 エリカは瞬時に得物を放し、両腕をクロスさせて頭を守る盾を作った。

 だが、意外な事に、その拳は軽かった。いや、軽いどころか、まるでソフトタッチの如き、ただ()()()()()()()()()()()()()()()()()、攻撃ですらないモノだったのだ。

 

「っ!?」

 

 それでも、エリカは悪寒を覚えて即座に飛び退く。

 何かが、いや、自身の全てが読み取られたような気がしたのだ。

 

「どうしたんだい?俺の強さを測るための鉄砲玉と、予想していたんだけど」

 

「……っ、言われなくても!」

 

 手刀でクイっと挑発する(ファン)。エリカは、悪寒を押し殺すために、もう一度突っ込んだ。

 エリカは棍棒を拾い上げる。(ファン)はあえて見逃していた。

 なおさら焦燥感を煽られて、エリカは連撃を仕掛ける。

 

 下から逆袈裟、上から袈裟切り、左から横薙ぎ、そのまま回転切り。

 

 全て、紙一重で回避される。その紙一重が意図的であると感じさせる程に、涼し気に。

 

「なん、でっ!」

 

「『サイコメトリー』と呼ばれる、『サイキック』を代表する能力がある。物体に触れる事で、その物体に付着した残留思念や過去の出来事に関する情報を読み取ると、一般的にされている能力。俺が持つ能力の1つでもある。というか、俺が『超人』と成った時に獲得したモノの1つだ。付き合いも長いおかげで、触れた人物の肉体情報も読み取れるようになった。その肉体に刻まれた、戦闘経験もね。酷く要約すると、触れた君の攻撃は、もう当たらない」

 

 焦った様子で攻撃を繰り出すエリカに対し、戦闘中なのにも関わらず余裕そうにこの状況の訳を(ファン)は語っていた。

 彼にとってはもう、エリカは息を切らせる相手ですらないのだ。

 

「『サイコメトリー』って、『魔法』のない世界じゃなかったの!?」

 

「『サイコメトリー』という力は、『魔法』という概念が生まれる前より存在する。それに、『魔法』と一緒くたにされてしまうが、『サイコメトリー』は『サイキック』、異能、あるいは先天的超能力と言っても良い。つまりは、厳密には『魔法』じゃないって事、だ!」

 

「ぐっ!?」

 

 ズルに抗議していたエリカだったが、(ファン)から左手の掌底を腹部に捻じ込まれ、吹き飛ばされた。

 

 此処に居る全員が理解する。目の前の男は武人として超人でありながら、『サイコメトリー』を持つ『サイキッカー』であると。

 『魔法』を封じられた状態で、そんな敵を相手取らなければならない、と

 

「くっ、古式も発動しないっ……!」

 

「良い着眼点だ。確かに、『古式魔法』はかつて『妖術』・『呪術』などと呼ばれた、『魔法』とは違うモノだった。でもそれはかつての話。君たち古式魔法師は、良くも悪くも『魔法』に、21世紀に順応してしまった」

 

 幹比古が抜け穴を探し、吉田家の古式魔法をいくつか試していたが、残念ながら不発。

 (ファン)が言うように、かつて精霊術や降霊術と呼ばれたそれらは、もはや『魔法』という概念に取り込まれ、21世紀という、『魔法』がある世界の一部となってしまっているのだ。

 (ファン)の『領域』は、そういうルールを押し付けてくる魔法なのである。

 

 さて。完全に『魔法』という概念が封じられたこの劣勢を、覆せるとなれば何か。

 

「十六夜!」

 

「ありがとう、母さん!」

 

 真夜が刀、今日のプレゼントたるそれを投げ渡せば、十六夜はそれを待っていたかのように、しっかりと掴み取った。

 そう。『魔法』が封じられたこの劣勢を覆す事ができるとするならば、十六夜が持つ、伐採系超人としての力しかないだろう。

 『超人』は、21世紀以前にも存在したのだから。

 

 刀の間合いではなかった。十六夜と(ファン)の距離は、十六夜が密かに後退していたがため、空いている。

 でも問題はない。

 再度明記するが、十六夜は伐採系超人。刃物を振る事に関しての最適解を知る存在。

 まるでワープでもするように、十六夜は距離を縮め、そうして高速の抜刀を敢行する。

 

「『伐採系』。その能力が極まっていようと、絶対に覆せない弱点が存在する」

 

「っ!?」

 

 十六夜の居合いは、不可視の壁に阻まれていた。

 

「人類が傷付けた事がない物は切れない。君たち伐採系超人はあくまで、人類がその身に刻んできた、物を切るという経験を昇華する存在。人類が切り方を予想も出来ないんだから、君たちがそれを実行できる訳もない」

 

 人類が切り方を知らない物との遭遇。

 弱点と言うにはあまりに例外すぎるが、それが(ファン)には実行できているんだから仕方ない。

 

 そして、十六夜は推し量る。

 自分の刀を阻んでいる壁の正体。

 目の前に居るのは、『サイキッカー』だ。

 

「『サイコ、キネシス』……!」

 

「正解。意志の力で物体を動かすとされる、これも『サイキック』を代表する能力だね。俺は最初、『サイキッカー』をイメージして己を書き換えたから、『サイキック』を代表する能力は一通り使えるんだ」

 

 本物にして超者の『サイキッカー』。

 十六夜は絶望する。

 読めたからだ。

 『サイキック』を代表する能力は一通り使えるなら、あと1つ、使えておかしくない『サイキック』がある。

 『サイコキネシス』、『サイコメトリー』に並ぶ、『サイキック』を代表する能力。

 

「ああ。当然、『テレパシー』も使えるよ?このとおり」

 

 十六夜以外の皆に、(ファン)の意志が送信された。

 

 十六夜は、最悪を想像する。

 

「……え?……十六夜くん?」

 

 真由美が、その精神的衝撃を、素直に吐露してしまう。

 

「この世界とよく似てるフィクションを知ってる『転生者』って、本当なの……?」

 

 

 

 

 十六夜の心に、ヒビが入った。




 お読みいただき、ありがとうございます。更新予定日から実際の更新がズレてしまい、すみませんでした。
 次回の更新は、8月24日の予定です。
 次は更新日を知らせるアラームを設定したので、更新せずに爆睡して朝を迎える、なんて事はないはずです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。