魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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※当社比長め(14,000字程)です。ご了承ください。


第百七十三話 告白

2097年9月20日

 

 東京、四葉家の拠点、調布のビル。

 

 夕刻。

 達也、深雪、水波、幹比古、美月、レオ、エリカ、ほのか。

 彼らは今日の学業を終えてすぐ、四葉家から呼び出され、迎えのリムジンに乗せられた。

 そうして、この調布ビルに居る。

 

 急な、それも四葉家の呼び出しだ。それでも一も二もなく応えたのは、『四葉十六夜』の件について、と銘打たれたモノだったからである。

 

 9月15日。彼らは十六夜の誕生日に集い、そして彼が襲撃に遭い、退けながらも昏睡したという事を知っている。首を吊っていた、というのは衝撃すぎるだろうと、真夜たち乙女4人が伏せたが。

 何にせよ、近しい人間が昨日やっと目を覚ましたと、報を受けたのだ。それこそ見舞いに行こうとした者も居たが、それより先に、十六夜の身を安全な場所へと隠されたのだ。襲撃があった故に。

 達也ら四葉の身内は、十六夜が調布ビルに匿われた事を知らされていた。それ以外は秘匿されたという訳だ。

 当事者以外には十六夜が倒れた事すら知らされていないのだから、そこまでの情報開示でも温情と言える。学校側や他の学友に伝えられているのは、休んでいるのも家の都合とだけであるし。

 

 そうして今日、そんな彼について話があるとなれば、即応するのは最早当然である。

 

 達也一団はずっと無言のまま、四葉の従者によってビルのとある一室まで案内された。

 療養の場、という雰囲気はない。広めの会議室、というのが通路からも窺える。

 

 そこから扉を開けたのは、達也。開けられた隙間から、中を全員が覗き見る。

 やはり、広めの会議室だ。

 そして、もう居室する者数名。

 真夜、雫、真由美、リーナ。周妃もさりげなく居て、円卓、スクリーンを背後に背負った便宜的な上座に腰を下ろしているのが1人。

 四葉十六夜だ。

 

『十六夜(君)!』

 

 達也一団のほとんどが一様に、十六夜の名を口にした。例外は水波だけで、彼女の他と同じように驚愕を顔に出している。

 

 達也一団は雪崩れ込む。あの達也も小走りに、十六夜の傍に小走りで駆け寄っていた。

 

「ぶ、無事、だったんだね……」

 

「幹比古……。ああ。無事かどうかはともかく、こうして元気だ。……心配、かけたな」

 

「心配しましたよ、あの十六夜君が倒れるなんて……」

 

「美月さん……。いやぁ、ホント、無理が祟ったってヤツだな」

 

「もう。死んじゃったらどうするつもりですか。雫を置いていくんですか?」

 

「ほのかさん……。悪い悪い。反省したよ」

 

「ちゃんと分かっているんでしょうね、十六夜。お兄様がどれ程心配していたか」

 

「深雪……。これからの態度で見せるよ、どれ程反省したか、な」

 

 幹比古、美月、ほのか、深雪。その4人は堪えきれなかったという様子で、すぐさま声を掛ける。十六夜は、それぞれに一瞬困った顔をしながら、朗らかに返答していた。

 水波は控えて、彼らの交流を見守る。

 

 他の達也一団は、観察していた。

 昏睡前後を比較している。

 初めから、違和感があった。

 彼は、『四葉十六夜』なのか。

 

「なぁ……、変な話だけどさ。……十六夜、なんだよな」

 

 レオはその違和感に耐えられず、口を突いた。

 あくまで、口を突いたのが一番早かったのがレオというだけで、誰も指摘しなければ、達也が追求していただろう。

 

「そう、だな……。そこから話そう。席に着いてくれ」

 

 十六夜は一瞬憂いたような表情を覗かせたが、すぐに持ち直し、手で着席を促した。

 達也たちは、観察していた者たちも、困惑して周りに目配せする。

 率先して、対面席に座ったのは、達也である。真正面から対峙すると、言わんばかりである。

 

 そこから流れるように、順々に席が埋まっていった。

 

 十六夜は皆を眺めてから、一度深呼吸をして、口を開く。

 

「まず、謝りたい。『四葉十六夜』というのは、達也たちに合わせた演技だった。俺は、君たちを騙していた……。本当に、すまなかった」

 

 十六夜は額を円卓へと擦り付けた。

 『騙していた』。十六夜が昏睡する前に、そうだろうという証拠を突き付けられて、察してはいた。

 いざ実際に本人から確定されると、達也たちは少し、悲しくなる。

 自分たちは騙されていた、いや、騙される程度の存在だった。真実を打ち明けてもらえる程の信頼を勝ち得ていなかった。

 この悲しみは、そうかもしれないと疑いを持っていなかった程、大きい。より高いところから落とされるような、そんな感覚だ。

 でも、失望は十六夜へ向く事はない。その失望は、信頼を勝ち得なかった自分に向けられる。

 

「待て、待ってくれ。凄い気持ちは分かるんだが。君たちのその感情は、違うんだ」

 

「違う?」

 

 何かを訂正しようと慌てだした十六夜を、達也も不思議に思った。

 人の感情に向かって違うとは、いったい何を言っているのか。

 

「君たちは、信頼を勝ち得なかった事に無力感を抱いていると思う。違うんだ。無力感を抱く必要はない。確かに、打ち明けられなかったのは、君たちが受け止めてくれないかもしれないから、という理由ではあるが。信頼していなかったんじゃなくて、俺は、万が一のリスクを嫌ったんだ」

 

 受け止めてくれないかもしれないと思いつつ、信頼していなかった訳ではない。

 十六夜のその言葉は、達也一団全員の眉根を歪ませる。

 

「君たちに、万が一でも嫌われたくなかった。それが、君たちに打ち明けられなかった理由だ」

 

 嫌われたくなかった。

 十六夜の行動は、そのほとんどがそこに帰結する。

 

「……。どうして嫌われたくない。四葉当主直系という地位を持ったお前にとって、最悪、俺たちはお前の周りに必要ない存在だ」

 

「冗談じゃない!」

 

 達也はわざと悪い言い表し方をして十六夜の反応を探ったが、返ってきたモノは、想像以上だった。

 十六夜が、大声を上げて、机に手を打ち付けて、身を乗り出している。

 まるで演技のように大げさだが、しかし逆にそれが、本音を本気でぶつけようとするための演技だと、皆感じ取った。

 

 そうだ。十六夜は、本音をぶつけるために演技できるようになった。本音を隠すためでなく。

 

「『必要ない』なんて、言わないでくれよ!俺がどれ程、達也たちとの交流を求めていたか。どれ程君たちに好かれたいと思ったか!そうじゃなきゃ、自分を騙してまで君たちに好かれる人間を演じたりなんてするもんかよ!」

 

 達也たちに好かれたいから、自分を、自我を、本音を殺してきた。

 十六夜の演技とは今までそういうモノで、これからは違う。

 

「この世界とよく似たフィクション、ライトノベル『魔法科高校の劣等生』。俺がそれを知っている転生者ってのは、周知されてるな?」

 

「あ、ああ」

 

「『知っている』どころじゃない!俺はその小説の愛読者だ!」

 

 達也が気圧されるレベルで、十六夜は語り出す。

 

「魔法が科学の延長線上にある。それだけでワクワクする!俺の前世世界には、魔法どころか妖術も忍術も精霊術もない、ファンタジーなんて現実にない世界だった!『魔法科高校の劣等生』は、そんな現実の延長線上にあるかのように描かれた、SFファンタジーだった!のめり込んだとも!のめり込まなきゃ当時23巻もある小説なんて買わない!巻数多くて、おかげで他人にオススメしづらいがな!」

 

 少年らしく目をキラキラさせて、その威勢と合わせて、本音である事を如実に伝えてくる。

 

「『魔法科高校の劣等生』のキャラクターである、君たち。特に君たちは主人公である司波達也の友達だったから、描写が多かった。君たちの行動、君たちの言動、君たちの思想、君たちの追想。魅力的だった。魅力的な君たちが織り成す関係性も、物語も、魅力的すぎた」

 

 胸を押さえる。読んでいた当時の感動を思い出し、高鳴る鼓動を抑えるように。

 

「何度、思った事か。この人たちと関わりたい。この人たちの輪に加わりたい」

 

 抑えが効かない。想いは溢れる。

 

「あわよくばっ、吉田幹比古と柴田美月の恋路を近くで見届けたい!」

 

 幹比古と美月が噴き出す。

 急に槍玉に上げられたら、然もありない。

 他の者たちは頭に過る、「そこなのか」と。

 

「い、十六夜!ふ、ふざけないでくれよ!」

 

「大真面目だ!お前たちのイジらしい恋路は実に青春していて良い!近付いてはちょっと離れたり、お互い一線は踏み越えなかったり!その、ちょっとずつ醸成をしていく関係性は、読んでいて心地が良い!ただ、叶うならば両者の知人として、『くそっ…じれってーな!俺ちょっとやらしい雰囲気にしてきます!』とやってその反応を拝みたい!」

 

 実は関係性オタク要素もあった十六夜である。

 急に恋路を暖かく見守るキューピットが顔を表した事に、幹比古は、そして美月も顔を赤くしている。

 周りはほとんど苦笑して、レオとエリカは腹を抱えて笑っている。

 

「笑っている場合か!君たちも標的だぞっ、レオとエリカ!」

 

「な、なんだぁ!?」

「な、何!?」

 

 目を見開いた十六夜の矛先が、レオとエリカに向いた。

 

「喧嘩する程仲が良い君たちの行く末は、まさに未知数だ!これからも仲が良いだろう事を除いてな!」

 

「お、お前!俺とこいつが恋仲になるってのかよ!」

「い、十六夜君!あたしとこいつが恋仲になるとでも言うの!?」

 

「ブラボー!おおブラボー!その息の合ったコンビネーションを末永く続けてくれ!恋仲にはならんでも良い!ただし腐れ縁にはなれ!」

 

「なるか!」

「なるか!」

 

 言葉が重なるレオとエリカに、十六夜は万雷の喝采を贈っていた。

 

「達也!」

 

「……深雪との関係か?」

 

「話が早い!お前と深雪の恋路が一番衝撃的で一番感動的だ!邪険に扱われようとも構わず妹を守る兄。兄と認識していながらそれでも結ばれる事を望む妹。お前たちの婚約を、俺は心より祝福する」

 

「十六夜、貴方の今までの行いを全て許します」

 

「深雪、判断が早い」

 

 異常な恋愛関係に感動する十六夜。自分の恋路を応援してくれた彼を全肯定する深雪。暴走しているような実の妹・偽の弟を冷静に捌く達也。

 周りのシュールな笑いを誘っている。

 

「あ、あの……。私は……?」

 

 ほのかが、おずおずと挙手した。

 達也と深雪の恋路を応援しているという事は、そこに割って入ろうとしているほのかを良く思っていないはずだ。

 その事に気付き、気になったほのかが詮索したのだ。

 

 十六夜は、ゆっくり肘を突き、口の前で指を組む。

 

「……、ほのかさん。俺は、読者としては、君の恋路を悲恋物語として見ていた。叶わぬ恋にそれでも挑む儚い少女の物語だと」

 

 『魔法科高校の劣等生』、その読み手としての視点。

 十六夜は、ほのかの恋を悲しいモノと捉え、そういうモノとして楽しんでいた。

 

 今は、読み手ではない。

 

「正直に言えば、今も成就の難しい恋路だと思っている。だから、あの言葉こそが、俺の本音だ」

 

「あの言葉……。『「納得」は』、『全てに優先する』……」

 

 ほのかは、十六夜から受け取ったその応援を覚えていた。

 忘れてなどいない。自身の背を押してくれた言葉だ。数少ない、その1つだ。

 

「あの時、俺は3つ程、借り物の言葉を贈った。今1つ、君に俺の言葉を贈ろう」

 

 真剣な顔で、張り詰めた空気で、十六夜はほのかを見つめていた。

 本音を伝えられるようになった、自分の言葉が使えるようになった男が、贈る言葉。

 自然と、息を呑む。ほのかもそれ以外も。

 

「走り切ろうなんて考えるな」

 

 その言葉は、諦めろと、言っているようにも聞こえた。

 

「走り切ろうと考え続けて、結果、人生を1度棒に振った男からの言葉だ。……なぁ、ほのかさん。望みは、叶わなければいけないモノなのか?良い結果を得られなければ、それは全て無駄なのか?」

 

 努力は無駄だったと、首を吊った男だった。

 だが、その男は、こうして此処に在る。

 

「足を止めた所が、君の人生における結果ではない。走っていたその道は閉ざされてしまうかもしれない。だが、別の道が、きっと開ける。努力は、無駄ではないのだから」

 

 十六夜は、人生を一度諦めた先で、得るモノがあった男である。

 これは経験談なのだ。

 努力は無駄ではない。自分が思い描いた道ではないが、それでもきっと、幸多き道に繋がる。

 

「……私は、どうしたら良いんですか?……諦めた方が良いんですか?」

 

 ほのかだって、思っている。

 この道を、諦めた方が良いのではないか。

 

「進みながら考えなさい。貴女には、まだ猶予がある。その猶予は、貴女があると思う限りあり続ける」

 

 悩める少女に言葉を贈る十六夜の姿は、優れた牧師のようであった。

 含蓄があり、良識があり、良心がある聖人のようだった。

 

「俺はその恋路を傍から見て楽しむ」

 

 一瞬の後にはサイコパスになっていた。

 

「十六夜さん!」

 

「あはははは!決めるのはほのかさんだ!言ってるだろう?『「納得」は全てに優先するぜ。でないとオレは「前」へ進めねぇ。「どこへ」も、「未来」への道も、探す事は出来ねぇ』」

 

 揶揄われたと思って頬を膨らませるほのか。残念ながら、十六夜は彼女の怒りすら、彼女との交流として楽しんでいた。

 ほのかは、膨らませた頬を萎ませ、意気も萎えさせ、微妙な気持ちで腰を落ち着ける。

 微妙な気持ちとは明記したが、ほのかは、悪い気持ちではなかった。

 

「真夜さん」

 

 空気も顔を引き締めて、十六夜は1人に的を絞る。

 皆が、その視界に十六夜と真夜を収める。

 

「貴女の不幸を知っている。貴女が攫われる直前、四葉家が奪還する光景。そして、貴女が、奪還された後。一部だ。貴女が本来味わった苦しみの、ほんの一部だ。小説には、ほんの一部しか描かれなかった。それでも、貴女の想いを窺い知るに余りある」

 

 十六夜が読み手として真夜に抱いていたのは、間違いなく同情心だ。

 達也と深雪に彼女が行った倫理観のない措置を読んでなお、十六夜は真夜を悪く思えなかった。

 

「願えるのなら、貴女のあの過去を全て消し去りたかった。貴女を救いたかった。誰かに救ってほしかった。……俺の知る限り、小説の中で貴女は、報われない」

 

「……、此処には貴方が居る。貴方のおかげで、私は救われた。子供を得るなんて夢も見れた。人を愛する喜びも知れた。人に恋するもどかしさも得られた。―――貴方が全てくれた」

 

 彼女を救いたかったという本音。それが、真夜の心に染み渡り、心の氷塊を融かして涙を溢れさせるようだった。それはもうとっくに融かし尽くされているはずなのに。

 幸せは、限りない。

 

「ありがとう、私を救ってくれて」

 

「―――ありがとう、俺に救われてくれて」

 

 救ってくれた事に感謝する真夜へ、十六夜は救われてくれた事に感謝していた。

 望み通りではなかったとしても、彼女を救う事は出来たのだから。まだ救えるところに居てくれたのだから。

 

「真由美さん。そしてリーナ」

 

「……セットなの?」

 

「オンリーなのが欲しいわ、サキー」

 

「後にしてくれ」

 

 真由美とリーナの望みは非情にも棄却された。

 肩を落とす2人だが、『後にしてくれ』という、後で何かしてもらえる事に、少しワクワクしている2人でもある。

 

「2人の扱いには、割と困った」

 

「何で!?」

「Why!?」

 

「小説では達也ハーレムなんじゃないかと、俺は捉えていたから」

 

「お兄様?」

 

「俺じゃない」

 

 「達也ハーレムなんじゃ?」と、扱いに困っていた十六夜。何故困られたのか分からない真由美とリーナ。そして、浮気の嫌疑を掛ける深雪と、別世界線の事だと言い訳する達也である。

 

「俺は公式カップリングを尊ぶ男。達也から深雪を奪ったり、幹比古から美月さんを奪ったり、レオからエリカを奪ったりする二次創作を許さず、自らに接触禁止を誓っている」

 

「さすが十六夜」

「そ、その話を掘り返さないでくれ!」

「俺のじゃねぇ!」

「コイツのじゃない!」

 

 公式カプ厨十六夜は、深雪、幹比古、レオとエリカを騒がせた。ちなみに美月は耳まで赤くして俯いている。

 完全に言葉が被っちゃって聞き取れなかったので、十六夜は流す。

 

「つまりは。お前の中で真由美先輩やリーナが俺に恋慕を抱いている疑惑があった。だから、その恋愛関係を守りたかったお前としては、その2人と恋愛関係を構築すべきか迷った。という事か」

 

「さすが我がお兄様だ」

 

「タツヤ、ワタシは貴方の事が嫌いよ」

「達也くん、私は貴方の事が嫌いです」

 

「明言しなくても結構です」

 

 何故かリーナと真由美から嫌い宣言される達也である。

 と言っても、2人の行動、その意図は分かりやすいものだ。達也にとっても、十六夜にとっても。

 十六夜の中から、自分たちが達也に恋慕を抱いていた疑惑を完全に晴らすため、である。

 偏に、自分たちが十六夜からちゃんと寵愛を受けられるように。

 

「後の義兄と仲良く出来ないのかぁ、これは困ったなぁ……」

 

「タツヤ、言い過ぎたわ。ごめんなさい」

「達也くん、さっきのは嘘よ。ごめんなさい」

 

「十六夜、2人を使って遊ぶな」

 

 十六夜の態度で手のひらクルクルなリーナと真由美。冷静にツッコむ達也である。

 

「さて、冗談はここまでにして。―――真由美さんもリーナも、安心してください。というか、俺を改心させといて、まだ突き放されるかもしれないなんて不安を抱えてるんですか?」

 

「「うん」」

 

「……日頃の行いってヤツか。―――本当に、ちゃんと2人も愛してますよ。普通に綺麗とか可愛いとか思ってますし。それに、分かってるでしょう?俺は好いてくれる女性を突き放せるような人間じゃない。そんな人間だったなら、こんなハーレム・クソヤロウにはなってないですよ」

 

 日頃、というか嘘を吐いてきた実績が、十六夜の足を引っ張る。言葉を尽くそうと、真由美とリーナから向けられる疑いの眼差しは、一向に解かれない。

 

 助け船は、達也が出す。

 

「もし彼女らが、小説でも実はその『達也ハーレム』なる人員ではなかったとしたら。お前はどうするつもりなんだ」

 

「普通にお付き合いしたいけど?」

 

 達也の質問に、十六夜はとても素直な答えを純粋に返した。

 

「というか、『魔法科』のキャラクターは誰もかれも水準高いんだよ。性格に難がある人はほとんど居ないし、相手が俺になびいてくれるなら、そりゃお付き合いするさ」

 

 十六夜も男で、オタクだ。

 二次元の美少女とリアルにお付き合いできるとなれば、それは本望と言わざるを得ない。例え、推しのキャラクターでなかったとしても。性格については考慮するが。

 十六夜はオタクである前に男であり、自分を好きになってくれる人が好きな男なのだ。

 

 その点で言えば本当に、自分の事を好いてくれている真由美とリーナの事が、十六夜は普通に好きなのである。

 

「で、そんな女性が複数居るんだけど?」

 

 真由美は冗談で揶揄われた復讐として、十六夜のハーレム状態を上げ、湿度の高い目で睨んだ。

 

「俺の心にここまで踏み入る女性が居る、それも複数人なんて。そんな世界に愛されているような展開を予想しろなんて無茶な話でしょう?こっちはずっと自殺志願者マインドだったんですよ?」

 

 心に踏み入るレベルで好いてくれる女性が現れるなんて展開は、かつての十六夜なら奇跡の領域だと考えていただろう。

 その考えを袋叩きにされて、根性を叩き直されたのが、今の十六夜だ。

 実は今でも自身のハーレム状態には内心首を傾げている十六夜だが。何がどうしたら、こんな最高の展開になるのか、と。

 

「とにかく、だ。1人に決められないハーレム・クソヤロウだが。それで良ければ、俺はハーレム状態を維持したい」

 

 自分を好いてくれる人を、出来るならば切り捨てたくない。

 これは、改心しても変わらない部分である。

 でも、改心による心境の変化は確かにある。

 それを、試す者が現れる。

 

「もし、ダメだって言ったら?」

 

 雫だ。

 

 ハーレムがダメなら、十六夜はどうするのか。

 雫の真剣な目が、小さく不安に震える目が、十六夜に問い掛けている。

 

 以前の十六夜なら、全員に嫌われる事を避けるため、話をうやむやにする。誰か1人に決めるなんて、決断できない。

 

 では、今の十六夜は―――

 

「雫。君を選ぶ」

 

―――雫1人に決める。リーナや真由美に嫌われてでも、前に進む。

 

 雫の瞳が、潤み、輝いた。

 

「雫、俺は君の事が好きだ。君と出会う前から。この世界に生まれる前から」

 

 有体に言ってしまうと、十六夜の推しキャラは北山雫だった。

 

「少し申し訳ないが。最初はその外見に惹かれた。そこから、このキャラはどんな為人をしているのだろうと、つぶさに観察した。クールだが冷血ではない、マイペースだが自己中じゃない、そのキャラクター性はとても魅力的だった」

 

 キャラデザから入り、そのキャラ性も好きになる。

 オタクには良くある流れ。十六夜は雫に対して、それをやっていたのだ。

 

「もし、『魔法科高校の劣等生』に転生できたなら。俺自身に何も後ろめたい事がなく、君に釣り合わないといった負い目もなく、年齢差という良心の呵責もなければ。俺は君とお付き合いが、いや、結婚したいと思っていた」

 

 十六夜の目は真っすぐ、雫を捉えていた。

 『魔法科高校の劣等生』に登場するキャラクターではなく、今目の前に現実として存在する少女を。

 

「ありがとう、雫。此処に現実として、俺と出会ってくれて。俺が被り続けた仮面を剥がしてくれて。俺を、仮面ごと恋し、愛してくれて」

 

 十六夜はわざわざ席を立つ。

 そうして雫の下でかしずいて、その左手を取る。

 

「雫。貴女を愛しています」

 

 十六夜は雫の左手、それも薬指付近に、口付けをした。

 皆が、その光景を見守り、喜ぶ。単純に、恋の成就を祝福している、というのもある。合わせて、嬉しいのだ。心をずっとひた隠しにしていた奴が、その本心を惜しげなく表せるようになった事が。

 真夜、真由美、リーナは非常に複雑そうな面持ちだが、他と同じ喜びを抱いてはいた。

 悔しさはある。彼の一番は自分ではなく、彼女なのだと。

 それでもただ、祝福して見守る。最初に彼に恋し、愛したのは雫であり、そんな彼女の想いを成就したのだから。

 

「……、口には?」

 

「TPOを弁えよう?な?」

 

 雫はかなり強欲だったが、さすがに十六夜はそこまで叶えられなかった。人前でマウス・トゥ・マウスは、さすがに気恥ずかしさを感じる。

 

「あたしたちは構わないわ。どうぞ続けて?」

 

「そうだぜ!そのままやっちまえ!」

 

「揶揄いどころ見つけるや否や仕返ししにきやがったな、エリカとレオ……」

 

 純粋な応援と共に、色々仕返しのつもりで野次馬するエリカとレオ。十六夜は苦笑を浮かべていた。勘弁してほしいと、以前よりも気安くなったなと、気苦労と喜びを感じながら。

 

「で?」

 

「また今度な。人前じゃキスまでになるけど、始めたら軽いキスじゃ満足できないだろう?そういうディープなのは人目のないところで、気兼ねなくやろう」

 

「ちょっと待ちなさい!2人だけで時化込むつもり!?」

 

「ワタシたちも混ぜなさいよ!」

 

 色々と辛抱ならない、乙女たちである。

 真夜も雫も十六夜も含め、真由美とリーナに苦笑を向けている。

 

 さすがに彼女らが惨めだと、十六夜は無理矢理にでも空気の入れ替えに掛かる。

 

「コホン。……、さて。積もる話はまだまだあるが。今日一遍にするとなると夜が更ける。今日はあくまで君たちとの絆を再出発させる日として、美味しい食事を振舞わせてくれ」

 

 十六夜は、感謝を即物的に表していた。

 今まで騙してた謝罪として、騙していたのに受け入れた事の感謝として。まずは、その感謝を物理的に示すのだ。

 皆、肯定的に頷く。

 1人除いて。

 

「あの、私は……?」

 

 水波、まだ十六夜から何の言葉ももらっていない彼女である。

 でも、口は禍の元だったかもしれない。

 

「光宣とよろしくやってくれ」

 

 関係性オタクな十六夜は、水波と光宣の恋路も気になっていたのだ。

 

「み、光宣様とはそんな関係ではありません!」

 

 顔を赤らめて必死に否定する水波。

 周りから、笑みが零れる。幹比古も美月も、十六夜が自分たちを揶揄う理由が分かってしまうのだった。

 

 

 

 夕食の準備はまだ終わっていないので、一旦達也一団with真夜を除く乙女たちには大部屋を宛がい、そこで時間を潰してもらう事となった。

 皆がそれぞれ、自身に宛がわれた場所に移動すべく、部屋から退室していく。

 その様子を、十六夜は見送っていた。

 そうしてその部屋には、十六夜、そして周妃が残される。

 

「よろしかったのですか?」

 

 周妃は、そう是非を訊ねていた。とても、ニヒルな笑みを浮かべながら。

 周妃は気付いていたのだ。

 1つ、一切触れていない真実がある。

 

「何の事だ?」

 

「『(ティエン)』の事ですよ、大人(ターレン)

 

 (とぼ)けなくて良いとばかりに、周妃は議題を明言した。

 そう。転生だの原作知識持ちだの明かしたが、『(ティエン)』について、つまりは暗躍してきた事について、一切話していない。

 

 周妃がニヒルに笑っていたのは、後ろ暗い幸福感からだった。

 『(ティエン)』については、自分たちだけの秘密だと。その秘密まで共有してもらえるのは、自分だけだと。

 『(ティエン)』の事を知っている五輪澪に対しては、逆に転生関連が共有されていない。

 全て知っているのは、周だけとなる。

 それが、独占欲を満たされるようで、周妃は心地良かったのだ。

 

 この先の展開も知らずに。

 

「ああ、『(ティエン)』か。あれはお前にやるよ、組織含めてな」

 

「……は?」

 

 十六夜が何を言っているのか、周妃には分からなかった。

 どうして彼は、個人で作り上げた自由戦力を手放そうとしているのか。

 

 そんな呆ける周妃に対し、十六夜は顔を向けず、世間話のようなトーンで言葉を続ける。

 

「周妃。いや、周公瑾。俺は貴方の事も好きだった。敵サイドだったが、その立ち回りは狡猾にして、そのキャラクター像はミステリアス。このキャラはどういう価値観で行動していて、どういう背景があるのか、俺は気になって仕方がなかった」

 

 十六夜にとって、周公瑾も、推しとまでは行かないが、好きなキャラクターだったのだ。

 敵ながら実に賢い立ち回りで、仕えているはずのジードを軽んじている様子は、そのキャラクターにミステリアスな印象を与えていた。

 ミステリアス、謎めいたキャラだから、気になった。というのが、十六夜が周公瑾というキャラに惹かれた理由の1つだろう。

 

「俺が読んだところまでだと、京都での逃亡劇が最後の登場だったが。後々登場するだろうという演出だった。再登場した時とかに、人物背景は明かされたのかな……。ああ、それは出来れば確認したかったが。でも、今はどうでも良い話だ」

 

 『魔法科高校の劣等生』原作で、周公瑾はどうなったのか、設定はどうなっていたのか。気にならないと言えば、嘘になる。

 しかし、原作の設定以上に、十六夜が目にする現実には、より面白い世界が広がっている。

 もし、原作設定とは違う人物背景になっていたとしても、十六夜は今目にしている現実の方が魅力的だと評するだろう。

 

「貴方の真実を知れて良かった。永きを生きて故に摩耗して、もはや周瑜公瑾本人なのかも分からなくなっているとしても。いや、逆にそれが深みを与えていて、俺は好ましく思える」

 

 目の前に居る周公瑾という男の経歴は、判然としないままだ。

 ただ、十六夜はこの方が面白いとも思っている。

 歴史上に実在した周瑜公瑾自身であっても、または自認周瑜公瑾というフザケた経緯であっても。あるいはただ、周瑜公瑾のプシオンを継承しただけのスピリチュアル・ビーイングなのだとしても。

 

 自分と共に、暗躍してくれた事実は変わらない。

 

「お前と色々暗躍できて、楽しかった。ここまで勝手自由に裏で動けたのは、間違いなくお前のおかげだ。何を間違ったかお前が俺を同志認定してくれなければ、あそこまで好都合には動けなかっただろう。―――本当に、感謝してるよ。周」

 

 ここまで付き合ってくれた周公瑾に、十六夜は純粋な感謝を告げた。

 

 ただ、周妃は思う。

 

 何故、それを今言う?

 

 周妃には、言葉を連ねていた十六夜が、まるで枯れ木のように、終活を始めた老人のように感じられた。

 ともすれば、今目を離した瞬間に、消えてなくなってしまうのではないか、と。

 

大人(ターレン)!いったい何を言っておられるのです!まるでっ、ここでお別れでもするかのようなっ―――」

 

「正解だよ、周妃」

 

 周妃の直感は、正解だったのだ。

 

「あ、が……っ!」

 

 急に振り返った十六夜の手が、周妃の喉を鷲掴みにして、吊り上げる。

 周妃は急展開への混乱と、酸素供給の低下で、冷静さを失う。

 魔法も使わず、ただその手から逃れようと藻掻いていた。

 超人の膂力から、人の域を出ない存在が逃れられる訳はないのに。

 

「お別れだ、周妃」

 

「か、は……っ」

 

 十六夜は、周妃が脱力するのを見届ける。

 そうして、周妃をゆっくりと降ろし、優しく地面に横たえた。

 殺す気はない。ただ気絶させたのだ。

 

「……すまんな、周妃。周胤や周循と繋がっているお前は、俺の『アンキンドルドゥ』を無効化できる可能性がある」

 

 『アンキンドルドゥ』は、範囲を対象とする魔法だ。範囲内に居るなら、十六夜を認識・想起する事はできない。

 この場合問題となるのは、周妃は周胤や周循という、意識を共有する存在が在る事。

 範囲内に体の一部しか入っていないようなモノだ。この場合、『アンキンドルドゥ』の効果がどうなるかは未知数である。『アンキンドルドゥ』の効果を受けず、十六夜の事を認識したままとなる可能性すらある。

 

「困るんだ。せっかく一か所に、俺を是が非でも止めるだろう奴らを集めたのに」

 

 せっかく、近しい者たちを一挙に『アンキンドルドゥ』で捉えようとしているのに。

 引っ張り戻してくるだろう手を、全て振り払おうとしているのに。

 

(範囲指定、ビル全体。『アンキンドルドゥ』、発動)

 

 十六夜は、この前『アンキンドルドゥ』と使った時、その仕様が強化されている事を感じ取っていた。

 今までは、自身を中心とした範囲にしか、その魔法は使えなかった。

 

 今は、自身を中心とする必要がない。自身の付近にその効果範囲を適応でき、しかも大雑把にではあるものの、その範囲を指定できる。

 

 『アンキンドルドゥ』が、四葉の東京拠点たるビルを丸々四角く包み込んだ。

 これで、達也たちは十六夜を認識する事も想起する事もできない。

 誰に呼ばれて此処に居るのかを思い出せず、しかし、その誰かを都合よく脳が別の人物で代用する。

 達也以外は達也に呼ばれたものとして、達也は真夜に呼ばれたものとして、各々認識する事だろう。

 

「さて……。ん……?……、やられた」

 

 十六夜は違和感に気付き、歯噛みした。

 このビルは四葉の拠点だけあって、サイオン・センサーが張り巡らされている。そのセンサーが十六夜の『アンキンドルドゥ』も検知し、警報を鳴らすはずだ。

 ただ、警報が鳴ったとしても、それは十六夜の行いによるもの。『アンキンドルドゥ』の効果により、誰も警報が鳴っていると認識できない。

 

 今、警報は鳴ってすらいない。

 

 やられた。第三者が、このビルのセキュリティを乗っ取っていたのだ。

 

(ファン)千夜(シェンイェ)!見てるんだろう!」

 

〈危うく君の領域に踏み込むところだったよ〉

 

 十六夜が天上隅にある監視カメラを睨めば、脳内に男の声が響いた。

 (ファン)がテレパシーのサイキックで交信してきたのだ。

 そして案の定、監視カメラが乗っ取られている事は確定である。

 

「監視カメラ越しにこちらの心も読めるのか……」

 

〈安心してくれ。非接触だと表層だけ、視界に入っている程度だと、相手が発言しようと思った言葉を読み取るのが精々だ〉

 

 十六夜の口頭と鳳のテレパシーによる会話は、鳳がカメラ越しに視認して、それでサイコメトリーのサイキックを応用する事で成り立っている。

 接触されなければ深く読まれないという事だが、カメラ越しでも会話が読まれるのは、何の安心も出来ない。

 

「……投降する。誰にも手を出すな」

 

 セキュリティも乗っ取られ、もはやビル全体が相手に掌握されているだろう現状。十六夜は、両手を上げて降参を示すしかなかった。その目には敵意が燻っているが。

 達也たちが人質も同然の状態だ。十六夜には打つ手がない。

 

〈屋上まで来てもらえるかな。迎えを用意してあるよ〉

 

 十六夜は、鳳の指示に抵抗なく従うのだった。

 

 

 

 屋上に上がった十六夜だが、何処にも迎えらしい存在は窺えない。

 と思った矢先、空間が割けるかの如く、景色が歪んだ。

 いや、光学迷彩が、一部解かれたのだ。

 

 光学迷彩の奥、その光景は、まるで鯨の口内かのようだった。

 

 鯨の舌に見える物体の上に、鳳は立っている。

 

「……『魔物』か。……光学迷彩と、浮遊機能を合わせた鯨、て感じか?」

 

「熱迷彩も付いているよ?我が組織の傑作が1つだ。『魔物』だからサイオン・センサーとかにも引っ掛からないし、かなり重宝してるよ。名付けて、『ロンリネスト』だ」

 

 あらゆるセンサーを潜り抜ける飛行船。それが、十六夜の目の前にある『魔物』だった。

 鳳は余裕綽々で、自慢げに解説していた。

 

「……胃の中で待機とか、勘弁してほしいね」

 

「大丈夫、そこら辺も改善してある。快適な空の旅をお約束するよ」

 

 十六夜はその鯨にどんどん近付いていき、鳳は乗り込みに手を貸すように手を差し出していた。

 

 手を取れる範囲まで、十六夜は至る。

 

 ふと、後ろを振り返る。

 

 誰も、追ってきてはいない。

 

 『アンキンドルドゥ』を使ってそうなるように仕向けたのに、十六夜はどうしようもなく悲しくなった。

 

「―――さよなら、みんな」

 

 十六夜は、鳳の手を取って、その鯨に乗り込んだ。

 

 鯨は口を閉じる。

 あらゆるセンサーから、その巨体を隠す。

 

 もう、誰にも見つけられない。

 

 

 

「さて、そろそろ時間ね」

 

 自室にてゆっくりしていた真夜。時計によって示された時間が夕食の予定時刻に迫っている事を確認して、椅子から腰を上げた。

 

 自室の出入り口まで足を進めたところで、その足を止める。

 

「いけない。プレゼントを忘れるところだったわ」

 

 真夜はもう一度自室内に戻り、安置していた直方体の木箱、中に刀を収めたそれを抱える。

 いつもだったら侍従に運ばせるが、今回は自身の手でそれを運び、そうして手渡す事を選択していたのだ。

 

「あの子がようやく心を開いたんですもの。やはり、プレゼントは自分の手で渡さなきゃ」

 

 その刀は、プレゼントとして用意した物だった。

 

「あの子なら喜んで……―――あの子?」

 

 真夜は、一瞬混乱する。

 はて。日本刀なんて受け取って喜ぶ人など、自身の知人に居ただろうか。

 

 いや、居るはずだ。何故なら、ここに少なくないお金を掛けて用意した品があるのだから。

 自身がそれ程までに大切に思ってきた人物が、居るはずなのだから。

 

「あ……、あああ!十六夜!」

 

 思い出す。自分の大切な人、十六夜を思い出す。

 何故忘れていたのか。考えるまでもない。

 

 こんな状況を作れるのは、十六夜の『アンキンドルドゥ』だけだ。

 

 真夜は、警備室に駆けた。

 監視映像を見るためだ。

 

 そして、真夜は警備員の懐疑を振り切り、監視映像から十六夜の姿を探す。

 

 リアル・タイムの映像には、その姿がない。

 映像を十数分の尺巻き戻して、ようやく見つける。十六夜がその姿を虚空に消す光景を。

 

 遅かったのだ。

 十六夜は、真夜の手を、皆の傍を離れた。

 

 真夜は、その映像の前で、泣き崩れるしかなかった。




 お読みいただき、ありがとうございました。
 次回の更新は、11月16日の予定です。1週間空きます。
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