魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第百七十七話 絶縁

2097年9月23日

 

 十六夜、(ファン)极夜(ヂィーイェ)が、丸い卓で食卓を囲んでいる。

 第三者は居ない。従者らしき者は、食事を卓に置いて退散した。

 まぁ、それもそうだろう。(ファン)という最強の用心棒が居るのだ。彼以外に『聖女』を守る人員は必要ない。

 

 十六夜も、あまりにも警戒されていない事を上記の理由で納得して、落ち着いて朝食の献立を拝む。

 出されているのは、見るからに白米で、豆腐の味噌汁で、鮭の切り身で、ほうれん草のおひたしで、人参の甘露煮で、納豆で、生卵だ。

 

「バリバリの日本食じゃねぇか」

 

 十六夜は呆れと驚き交じりでツッコミを口から零してしまった。

 チベット風味な村なので、チベット料理が出ると思っていたのだ。

 

「チベット料理は口に合わないのよ。特に『プージャ』とかいう飲み物。バター茶とかいう分類だけど、あんなこってりとして味が塩味でバター味しかしない飲み物、飲めたもんじゃないわ」

 

「……せめて中華にしろよ。ここ、一応大亜連の領土内だろ?」

 

「朝っぱらから油っこいもの食べろって言うの?冗談じゃないわ」

 

「……」

 

 极夜(ヂィーイェ)が良心の呵責もなく吐き連ねる文句に、十六夜は真顔になった。

 なんだこのワガママお嬢様は、と。20代にしては、どうにも子供じみている気がしてならないのだ。

 この態度をどう思っているのかと、十六夜は(ファン)を横目で窺う。

 极夜(ヂィーイェ)を見て微笑んでいる。

 十六夜は、こいつが原因だと察するのだった。

 

 十六夜は色々流して、両手を合わせて『いただきます』。

 极夜(ヂィーイェ)(ファン)も同じく、しかも日本語で『いただきます』と唱えた。

 十六夜は、色んな意味でこの場所が何処だか分からなくなった。

 

「……準備はどうなのかしら?」

 

 食事中、极夜(ヂィーイェ)は十六夜に訊ねてきた。

 

「『庭の文明』、月のシミュレーターにパスを繋げてきた。そのまま俺に主導権を渡して書き換えさせるのか、それともパスにお前たちの手の者を挿むのかは、そっちで決めてくれ」

 

「そう、中継者を選んでおきましょう。―――(ファン)、誰か良い人居る?」

 

「普通に俺で良いんじゃない?俺に殉教者の方々とのパスを繋いでおけば、生命力を供給する手間も省けるし」

 

「そうね。それで行きましょう」

 

 极夜(ヂィーイェ)の計画たるシミュレーターのハッキング・ツール化は、こうしてあっさり段取りが組まれた。

 既に、十六夜の手でハッキング・ツール化されている事を、极夜(ヂィーイェ)だけ知らぬまま。

 

「ちょっと訊いて良いか?」

 

「何かしら?」

 

「念のため、と言うか。まぁ、疑問を晴らしておきたくてな。―――今代の『聖女』、お前は何で人類の再設計を目論んだ?俺が持つ知識だと、むしろ絶滅を望むと思ってたんだが」

 

 十六夜は箸を置き、极夜(ヂィーイェ)に真っすぐ興味の視線を向けていた。

 そう。十六夜にとって、謎だったのだ。

 『聖女』は悲劇の記憶を積み上げる。継承した人間は、その記憶に感化され、人類に絶望し、ただ滅ぼす事を選ぶはずだ。

 なのに、极夜(ヂィーイェ)は絶望しても捨てず、人類浄化に挑むという、むしろ人類に希望を持っているかのような企みをしている。

 悲劇の記憶を継承しただけの存在がする企みとは、十六夜には考えられない。

 そこに、悲劇の記憶以外、何か、絶望を押し込めるような要因があるはずだ。

 

 それを詮索されている极夜(ヂィーイェ)は、十六夜と同じく箸を置き、瞑目する。

 良い記憶を、想起するように。

 

「私の先代は、求道(ぐどう)僧だったのよ」

 

 それは极夜(ヂィーイェ)にとって、恩人との、掛け替えのない記憶だった。

 

「求道僧だと……?まさか、『聖女』を継承しながら、悟りを求めていたと……?」

 

 それが事実なら、十六夜は驚嘆する他ない。

 

 宗教家であればこそ、天上の意志に救いを求める者ならばこそ、この世の悲劇が煮詰まっているはずの記憶に、『聖女』に耐えられるはずがない。

 

「妄執に駆られた崑崙方院(こんろんほういん)の生き残り。そのクソ共から逃げる私を、あの人は助けてくれた。私があった時点で皺だらけの老婆だったけど、あの人は、まさに巨木だった」

 

 极夜(ヂィーイェ)の記憶にある、求道僧たる老婆の姿。

 皺ばかりの肌なのに、たくましさが伝わってくる手と、真っすぐと伸びた背。

 その背後に匿われた時、极夜(ヂィーイェ)は、聳え立つ巨木に守られているというような、安心感を得たのだ。

 大地を『魔物』として操り、殺生は避けながらも、敵を撃退した老婆の求道僧。

 彼女は、极夜(ヂィーイェ)の手を引いたのだ。

 

「あの人は、悪い事ばかりじゃないと、私を連れ立ってくれた。底なしの穴で命綱にしがみ付くような日々の中にも、恵みの雨は降るのだと。下手な偉人の言葉より、無名の彼女が語る説法の方が、私には身に染みたわ。同時に、やっぱり諸行は無常である事も、その身で分からされたのだけれど」

 

 老婆の求道僧と共に在った日々。語る彼女は朗らかだったが、締めは、憎しみに満ちている。

 

「彼女は、クソ共に暗殺されたわ。寝込みを狙撃よ。魔法に縋ってた奴らが、そんな古典的なやり方をするなんて。ホント、馬鹿馬鹿しいわね」

 

 恩人との最後は、そんな悲劇だった。

 

 よくある悲劇で、先代『聖女』は幕を閉じ、今代『聖女』の幕が上がったのだ。

 

「『四葉』の急襲から逃げたカス共だったから、『聖女』として『魔物』を知った私だけでも皆殺しにできたわ。復讐を終えてスッキリ。それから私は、先代、そして2代前、更に3代前の無念を継いで、それを晴らす事に決めた」

 

 手前勝手なやりたい事を終えた极夜(ヂィーイェ)は、次に、『聖女』としての大義を果たす事に決め、動き出す。

 彼女の顔には、固い決心が宿っている。

 

「3代前の『聖女』。彼女は『魔法』という理の開拓者だった。『魔物』と『超人』は、人類にとって呪いだと考えていた。何せ、どちらも生命力を著しく削るモノ。人類の未来を託すには、あまりに非人道だった。だから、『魔法』という知識の体系化が望めるに至ったところで、『魔物』や『超人』との心中(しんじゅう)を図った」

 

「ちょっと待て。それって……」

 

 极夜(ヂィーイェ)の語りに、十六夜は自分の知識との符合を覚えた。

 『『魔法』という理の開拓者』。そして、『『魔物』や『超人』との心中(しんじゅう)』。

 それは、まるで―――

 

 十六夜は(ファン)を見やる。

 (ファン)は、目も口も、固く閉ざしていた。

 

「そう。そこに居る『始まりの魔法師』の協力者。『始まりの魔法師』が相打ったというテロ組織は、『始まりの魔法師』と三代前の『聖女』が率いていた、『魔法』という理の研究者集団だったの」

 

「……」

 

 极夜(ヂィーイェ)の語りで、十六夜の推測は正解である事が示された。

 

 『魔法』を世界で最初に体系化できたのが、当時の『英雄』と『聖女』が集めた、『超人』と『魔物』使いの集団だった。という話だ。

 『魔法』が世界に広められるに当たり、ただの内輪揉めが、正義のヒーローとテロリストの対決に脚色されている事。それには十六夜も苦笑を禁じ得ない。話を広げるのに美談は打って付けなのは、十六夜は理解するところだが。

 

「『始まりの魔法師』たる当時の『リライター』と当時の『聖女』が率いる都合、『超人』と『魔物』使いが集めやすかった。他にも、生命力と『サイオン』『プシオン』の関係とか、人間を魔法師にするには汚染系超人の仕組みが使えるとか、色々あるけれど。割愛します」

 

 魔法師=汚染系超人の子孫説がさりげなく流されていくが、はてさて。

 汚染系超人が身体機能を発展させた超人、と、魔法演算領域という発展された身体機能を持つ人類。その繋がりは微かに想像していたので、十六夜に驚きはないので追求をしない。

 

「2代前の『聖女』は、3代前の『聖女』が腹心として置いていた人物。心中(しんじゅう)計画も打ち明けられ、1人だけ逃げるように言われていた人でしたが。―――彼女は、逃げなかった」

 

 2代前の『聖女』を語る极夜(ヂィーイェ)

 その語調には多分に、憧れが含まれていた。

 

「彼女は(あるじ)に畏敬と憐憫を抱いてて、『英雄』の理念にも共感していた。だから、彼女は『聖女』も、『英雄』の意志も、継ぐ事にした。『英雄』の死体まで回収して、しかも完全に補修して保管してるなんて、驚きよね」

 

 2代前の『聖女』。彼女の決心は、尋常なモノではないだろう。

 悲劇が紡がれていると知って、その記憶を継承した。

 そして、『魔法』を世に広める、人類の発展に貢献するという『英雄』の意志も引き継いだ。

 1人の人間が抱えるには大きすぎるモノを、望んで抱え、抱え通したのである。

 

「彼女は死期を悟ったところで、『魔法』の普及を他人に託し、人知れず死ぬつもりだった。人っ子一人いない山奥で身を隠して。そんなところに求道僧が現れたのは、運命だったのかしらね」

 

 誰に渡しても劇毒にしかならないだろう『聖女』の記憶。

 それを託すのに適した人物が、2代前の『聖女』、彼女の前に現れた。

 それが、2代前と、先代の邂逅だったのだ。

 

「……ああ。……そりゃ運命だろうな」

 

 十六夜も、そんな好都合すぎる奇跡を『運命』と評して感嘆するしかなかった。

 

 何がどうしたら、人類に絶望しない『聖女』が3代も続くのだ。

 

 そして、その次の代が―――

 

「アンタが継承したのも含めて、な……」

 

―――どうしてこんな、世界に翻弄された悲劇の少女であるのか。

 十六夜は顔を覆っていた。

 色々と、神を呪いたくなる気分なのだ。

 

 人類に希望を持った3代の『聖女』と、悲劇で以って生み出された今代の『聖女』。

 それらを、自分は踏みにじらねばならないのだから。

 

「で、アンタはそんなマジモノの聖女たちを踏みにじった世界に復讐って事?」

 

「……『復讐』と、単純化されたくないわね。私は、その先代たちに報いたいの。彼女らは人類を信じていた。でも、今の人類では彼女らが信じたとおりにはならない。だから、私が彼女らの信じた人類を作る」

 

 十六夜の短絡的な結論に、极夜(ヂィーイェ)は小さく怒りを滲ませた。

 これは、断じて『復讐』ではないのだ。

 先代たちへの恩返しであり、自分からの見限り、なのだ。

 それが、先代たちが受け継いできた希望を受け取ってなお消えなかった、少女の絶望である。

 自分の恩人が信じてきた人類に、信じる価値はないのだと。自分の味わってきた絶望も加算しての、それが极夜(ヂィーイェ)の結論なのである。

 

 そのために、2代前の『聖女』が作った、『魔物』使いたちの潜む隠れ里も、そこに保管されていた『英雄』、(ファン)千夜(シェンイェ)の死体も、利用した。

 

「……分かった。……教えてくれてありがとう。俺も、覚悟が足りなかった―――」

 

 十六夜は、席を立つ。

 

 そして、右手を伸ばす。

 

「―――これから俺は、そんな素晴らしい、良い記憶を踏みにじるんだと」

 

 极夜(ヂィーイェ)の首を、十六夜は鷲掴みにした。

 

 十六夜は、涙を流しながら、しかし冷徹な双眸で极夜(ヂィーイェ)を射貫く。

 

「かっ、グッ……!(シェン)(イェ)っ……!?」

 

 自身を守るはずの、最強の護衛。(ファン)千夜(シェンイェ)

 彼に動きがない。

 彼は、寂しげに微笑んでいるだけだ。

 

「ごめんね、极夜(ヂィーイェ)。俺の願いは、3代前の『聖女』、『夢洲(ゆめしま)(すみれ)』を解放する事。……僕はね。……『聖女』というシステムを破壊し、いまだ『聖女』として引き継がれ続ける彼女の罪を帳消しにしたかったんだ」

 

 『夢洲菫』。(ファン)千夜(シェンイェ)の想い人。

 彼女の罪を清算するために、(ファン)は『魔物』という駒に甘んじた。

 

 その目的が達成されるなら、その方法は何でも良いのだ。

 

「人類が一度途切れれば、『聖女』の継承もなくなる。だから、君の人類再設計に協力した。でも、彼は『聖女』というシステム自体の破壊を提案してくれてね。そっちの方が確実だと思って、そっちに乗り換えた」

 

 『聖女』システムが確実に破壊されるだろう方に、(ファン)は乗り換えたのである。

 全ては、想い人を罪科の輪廻から解き放つために。

 

「命、じる……!私を、助け、なさい……!」

 

 极夜(ヂィーイェ)が軽く持ち上げた右手、その甲には赤い紋様が浮かび上がっていた。

 そして、极夜(ヂィーイェ)が出した指令に呼応して、紋様の一部が消える。

 見るからに、残りは二画。

 そう。これは3度の絶対命令権、『令呪』と呼ばれるモノだ。

 暗に『Fate』のファンだった何者か((ファン))が開発した『魔物』技術である。『龍脈』を介した形だが、『Fate』原作みたいにワープも可能な代物だ。

 

「だが、断わる」

 

「っ!?な、なん、で……?」

 

「実はもう、君との契約は切ってあるんだ。生命力は『龍脈』通じて地球から取得してるよ」

 

 (ファン)极夜(ヂィーイェ)の命令を聞かないし、もうその必要もない。

 エネルギー供給はとっくに、极夜(ヂィーイェ)たちから『龍脈』に切り替えていたのだ。

 この男がかつて『魔物』の研究家であった事は、忘れてはならない事実だった。

 

「どう、し、て……。私は、ただ……。私はっ、ただっ……!」

 

 彼女はただ、先代たちに報いたいだけだった。

 彼女は部屋自体を『魔物』化し、十六夜も(ファン)ももろとも圧し潰そうとする。

 

 だが、もう無意味なのだ。

 

情報体次元(イデア)修正。主導権情報固定」

 

 十六夜のその言葉を吐いた瞬間、部屋の『魔物』は极夜(ヂィーイェ)の手を離れ、同時に二度と主導権を得られなくなっている。

 

情報体次元(イデア)の、改竄……?」

 

「ああ。今のは修正だがな。月のシミュレーターは既にハッキング・ツール化してあって、俺はもういつでも情報体次元(イデア)を改竄できるんだ」

 

 情報体次元(イデア)の改竄。物体の情報を好きに変更できる。

 それが、人間を逸脱した十六夜が手にした力。『神』の領域。

 

「ただ、やっぱり『聖女』システムに干渉するには、アクセス・コードが必要みたいでな。君から奪い取る事にした」

 

 十六夜は空いた左手の親指を噛み切り、血を逃し、その血を、极夜(ヂィーイェ)の口へと運ぶ。

 

 簡略化『僵尸術』の工程だ。

 十六夜は、极夜(ヂィーイェ)の『付喪神』にして、『聖女』のアクセス・コードを得ようとしている。

 それ故、极夜(ヂィーイェ)には死んでもらわなければならないが。

 今更躊躇する十六夜でもない。

 

「やめ、て……。わた、しは、まだ……!」

 

「悪いな」

 

 まだ生きる事を諦めちゃいない女性に、この世界の負を背負わされた犠牲者に、十六夜は、一言の謝罪を贈った。

 そうして血を飲まされた极夜(ヂィーイェ)は、四肢を力なく垂れ下げる。

 

 极夜(ヂィーイェ)は死んだ。

 

 十六夜は、優しくその死体を横たえる。

 その光景を、(ファン)は必死に取り繕ったような真顔で見送っていた。

 

「……。彼女の死を、無駄にしないでくれよ?」

 

「言われなくても」

 

 (ファン)から念を押された上で、十六夜は极夜(ヂィーイェ)を『付喪神』とする。

 脳内に、『聖女』が継承してきた悲劇の記憶が流れる。

 十六夜にとって、それはそよ風のようなモノだ。彼はもっと膨大な情報、人類が絶滅する数多の記憶を頭に叩き込まれるなんて経験を、『庭の文明』を『魔物』化する際に味わってきたのだから。

 

 十六夜はそよ風にどこ吹く風で、手に入れたアクセス・コードを用い、情報体次元(イデア)に刻まれた『聖女』システムへ侵入する。

 

「……バグってるな、これ」

 

 まだそれ程情報体次元(イデア)を覗いていない十六夜にも、そのシステムに異常をきたしている事が容易に判別できた。

 それに、そうなっているだろうと、十六夜は予測していたのだ。

 

「……歴代『聖女』の怨念、てヤツだな。全く、皮肉なもんだ。人類の集合無意識、永続したいという祈りの結晶が、人類を絶滅させ得るガン細胞になるとは」

 

 十六夜は『庭の文明』を手中に収めた事で、『聖女』、そして『英雄』もとい『リライター』の成り立ちを知れた。

 それは、人類全体の無意識に在った、人類永続の祈りが結晶したモノ。

 

 『リライター』は簡単だ。

 自己強化により人類の進化先を照らす道標。人間自体の進化を促す起爆剤。

 人類がより発展したいという祈りの結晶だ。

 

 逆に、『聖女』は、人類永続の祈りとは相反しているように見えるが。そう難しい話でもない。

 人類は原始時代の時より、飢餓という死に追われ、薄々勘付いていたのだ。

 この星には、増え過ぎる人類を支えるのに限界がある、と。

 故に、無限増殖しないよう、定期的に人類の数を減らすシステム、『聖女』を構築したのだ。

 いわば、『聖女』は人類という肉体にプログラムされた細胞死。アポトーシスなのである。

 

 悲劇の記憶を継承する事で、人類に反旗を翻すよう促し、ある一定数を道連れにさせる。そうして人類が地球の限界量に達するのを遅らせるよう、人類を間引くシステム。

 それが、『聖女』なのだ。

 

 ただ、明らかに欠陥のあるシステムだ。

 悲劇の記憶は積み重ねる程に、『聖女』に人類へのより大きな憎悪を抱かせる。それこそ、一定数の間引きなどに甘んじる事なく、絶滅に全力を注いでしまう程に。

 合わせて、文明の発展を加味してもいない。

 文明というのは発展する程、その社会を滞りなく運営するのに必要な人数を増やしていく。

 単純に言おう。現在の発展した文明で、全人類の3割以上を間引きした場合、現代文明は維持できない。どう足掻いても文明が1段後退する。最悪は、後退で踏み留まれず、ズルズルと絶滅の道を辿る。

 

 そのような欠陥があると、考えてしまうだろう。

 その『聖女』システムに対処するプログラムはないのかと。

 

 十六夜は、()()()()()()

 

 『聖女』システムの対策プログラム。

 それが、自分だ。

 

 『聖女』の暴走を止める事が、自分の使命だ。

 

「……単純に削除した場合、周りの情報を傷付けかねないな」

 

 『聖女』システムのデータだけ単に削除するでは、どんなバグを周りに波及させるか分からない状態。無理にでも消去したら、最悪、世界の物理法則が歪みかねない。

 一旦正常化するにも強引に書き換えるでも、まずは解析が必要となった。

 

(ファン)、時間が掛かる。どうにか抑え込んどいてくれ。どうせもう、上陸くらいはしてるんだろう?真夜さんたちは」

 

 できるなら、顔を合わせずに終えたい。それが十六夜の本心だ。

 

「そうだね、昨日には大亜連国土に上陸されてる。ビックリだよ?傑作『魔物』3体を送り出したのに、全部瞬殺だ。勘弁してほしいね。まぁ、おかげで信者の生命力を浪費させずに済んだけど」

 

 真夜たちは上陸済み。

 十六夜はこの隠れ里が大亜連の何処に位置しているのか知らないので、そこからどれ程でこの隠れ里に辿り着くか、判然としない。

 

「はぁ……。つくづく嫌になる」

 

 十六夜は、予想ながらとある確信をして、運命を呪いたくなった。

 自分はどうせ、真夜たちが来る前には間に合わず、その死に目を真夜たちに拝まれるのだろう、と。




 お読みいただき、ありがとうございます。
 次回の更新は、12月21日の予定です。
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