魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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横浜騒乱編
第十九話 騒乱の前の生徒会選挙


2095年9月7日

 

 夏季休暇が終わって始まった二学期。初日に雫から怪我の心配をされつつ、海水浴のお誘いを断ったことに対して迂遠に責められた。雫のその態度が珍しかったのか、ほのかは驚いていたようだったが。その他には、森崎にとても遠回しに何かしらの事件への関与を訊き、彼の様子から何かしらあったことを察した。俺はそれを孫美鈴の一件と断定し、「君は一夏の体験で大人になったんだね」と少しからかった。

 

 今日もこれといって問題なく時間が過ぎ、放課後となる。風紀委員である俺は当番であるため同じく当番の達也と風紀委員会本部に向かえば、いつもはすぐに巡回に行く者達も本部に留まり、謎の賑わいを見せていた。委員長たる摩利曰く委員が一人辞任して、交代で入る者が今日来るということで顔合わせのために待たせているのだという。その言葉で俺はようやく千代田(ちよだ)花音(かのん)の風紀委員加入という原作でのイベントを思い出し、現実はそれに沿うように千代田が本部に顔を出した。千代田に対する実務指導は達也に押し付けられ、千代田と達也は巡回に向かった。

 

「摩利さんも根回しみたいな面倒なことをするんですね」

 

「花音を後釜に据えようとする思惑は見透かされているようだな」

 

 委員が皆巡回に出ていく中、俺は少し立ち止まって摩利に話しかける。思惑を見透かされたなどと言う彼女はそれを恥じることもなく不敵に笑っている。

 

「前から気に掛けてはいたんだが、中々枠が空かなくてな。真由美に頼み込んで生徒会選任枠にしてもらったら「生徒会と風紀委員の癒着だ」なんて言ううるさい奴が出かねないから、部活連選任枠が空くのを待ってたんだ。まぁこれはこれで時期が良かったかもしれないな」

 

 いつもの例として、生徒会選任枠は目立った活躍はないが実力のある者が選ばれ、部活連選任枠は運動系のクラブで優秀な者が選ばれるらしい。そういう点で陸上部のレギュラーである千代田花音が生徒会選任枠に選ばれるのはおかしいのである。名目上、生徒会・風紀委員会・部活連は独立した組織であり、協力することはあれ、癒着と思われる行為は避けるのだという。

 

「十六夜くんとしては彼女が風紀委員長になることに反対か?」

 

「特に反対意見はありません。風紀委員は実力主義ですから、その点において彼女は委員長に相応しい実力者でしょうが……」

 

「が?」

 

 俺はそこで言葉を止めようとしたが、摩利は気になるようで首を傾げて催促する。

 

「全くの偏見なのですが、また書類仕事は俺に丸投げされそうだなぁ、と……」

 

「ああ……。すまん」

 

 摩利から否定の言葉が欲しかったのだがどうも思い当たる節があるようで、謝罪の理由は述べずに手を俺の肩に置くだけだった。

 

◇◇◇

 

2095年9月29日

 

 今日に至るまで、生徒会による生徒会長立候補者の絞り込みで一悶着あったらしいが、特に俺にその話が回ってくることはなかった。俺はてっきり達也の方から深雪を生徒会長にしたくない一心でそういう話が回ってくると思っていたが、どうやら摩利の方が異論を唱えたらしい。達也からの又聞きであるが摩利曰く「風紀委員の優秀な事務員を取らないでほしい」とのことだ。それ故に俺まで話が回ってこなかったそうだ。それでも、雫やほのかから「立候補しないのか?」と言われたり、真面目に雫が応援する気だったりしたが、学校中で立候補するという噂が生徒間だけでなく教師間まで流れていた達也に比べればマシである。

 

 今日も今日とて平穏無事。何事もなく放課後になり、俺は風紀委員の当番であるために風紀委員会本部に居た。

 

「十六夜くん。ちょっと話があるんだが、いいか?」

 

 巡回に行こうとするところを、本部の入り口で摩利に呼び止められた。

 

「ええ、構いませんが。……何の書類ですか?」

 

「いつも世話になってるが、今回は違う用件だ」

 

 また書類仕事かと思ったがどうやら違うようだ。

 

「君は真由美が明日の生徒総会で通そうとしている生徒会一科生限定廃止案は知っているな?」

 

「ええ、「反対派が居るにも関わらず随分と大人しい」なんて話も聞いてます」

 

 俺は摩利の真面目な表情と原作知識から、摩利が話そうとしている先の話題を導き出す。

 

「そうだ、どうも大人しすぎる。真由美は全然気にしていないみたいだが、私は気になってしょうがないんだ」

 

「摩利さんは、その人たちが動くとしたら今日の真由美さんの下校中とお考えですか?」

 

「ああ、だから君の腕を見込んで頼みたい。真由美の下校を護衛してもらえないか?」

 

 彼女は俺の両肩をがっしり掴んで離さない。是が非でも首を縦に振らせたいようだ。

 

「了解しました。ですが、摩利さんからの頼みということは言わせてもらいますよ?残念ながら、俺は一人の女性と帰りを同じくさせるようなトーク力はないですから」

 

「……分かった、それで構わない。頼んだぞ」

 

 一瞬非常に微妙な顔をしたが、背に腹は代えられないと摩利はその条件を呑んだ。彼女は肩に置く手に力を加えて、俺に念を押した。

 

◇◇◇

 

 仕事を終えた後の校門。俺はそこで真由美が来るのを待っていれば、然程時間も立たず彼女の姿を見つけた。

 

「真由美さん」

 

「あれ、十六夜くん?」

 

 彼女は俺に声をかけられてキョトンとしたが、彼女がそうなるのも無理はない。俺から彼女に声をかけることは滅多にない、どころか一度有ったかも怪しい。

 

「摩利さんから家まで護衛しろと」

 

「ああ、なるほど……」

 

 期待を裏切られたと言わんばかりにジト目で此方を睨む真由美。何故睨まれるのか分からない俺としては困惑するしかない。

 

「はぁ、十師族の子息が二人だけ集まってたら逆に狙われると思うんだけど」

 

「……そう考えると、そうかもしれませんね」

 

 俺は自分が誰かに狙われるような重要人物である自覚がほとんどないが、彼女のため息交じりの指摘でその評価こそ世間一般のモノであることを思い出す。

 

「まぁ、いいわ。十六夜くんが私のナイトをしてくれるって言うなら心強いし」

 

「この卑小な命に代えましてもお守りいたします」

 

 俺は長く仕えた執事のようにきっちりと腰を折って誓う。とても演技っぽく見えるだろうが、俺の内心としてはとても本気だ。彼女に死なれたら『魔法科高校の劣等生(この世界)』がどれほど狂うか分かったものではない。

 

「色々と、貴方のその自己評価の低さについても歩きながら話しましょう?」

 

 彼女は俺の下がった頭を覗き込むように、悪戯っぽく微笑みを向けてから歩き出す。俺も彼女の隣に付いて行く。

 

「しかし、こうしているだけでも視線が凄いですね」

 

 明らかに敵意を含んだ視線を多く感じる。真由美にではなく俺に向けた、おそらく嫉妬の視線だ。反対派のモノではなく、真由美ファンのモノだろう。

 

「本当に敏感なのね。いくつとか、どこからとか、どのようなとか分かる?」

 

「分かるわけないでしょう。人を人の形をした何かのように考えるのは止めてください」

 

 そのような扱いを受けたくないので、俺は後方からの嫉妬による十数個という情報を伏せた。

 

「何でそんなに敏感なのかしら」

 

「一因としては、人の視線に耐性が無いと言えばいいのでしょうか。本来なら15年も生きていれば様々な視線に晒されて耐性を付けると思うのですが、俺はずっと閉じこもってごく少数の人としか関わりませんでしたから。それと、いつ捨てられるか怖くて人の顔色をうかがっていたというのも、一因に含まれるかもしれません」

 

「……ごめんなさい。こんな事聞いちゃって」

 

 唐突に飛んできた暗い回答に、彼女の気分も暗くなってしまった。でっち上げた理由であるために俺は負い目を感じる。

 

「い、いえ。俺もこんな話をしてしまってすみません」

 

「なんだか、十六夜くんの自己評価が低い理由も察しがついたわ。そういう環境で育ったなら、傲慢になんてなれないわよね」

 

 俺を見る彼女の目には憂いが孕んでいた。

 

「あの異常な空間把握能力とかも、捨てられないための努力だったのね?」

 

「ええ、そうです。当時は必死でした。剣を、銃を、体術を学び、我武者羅に身体を鍛え、知識をため込みました」

 

 俺の言葉は多く嘘を含むが、全てが嘘というわけではない。少年兵時代と四葉に捕らえられていた約2年半にそのようなことを実際必死にしてきた。

 

「十六夜くん。貴方は十師族に生まれて不満に思ったことは無いかしら」

 

 彼女の言葉こそ質問だが、その目は同じであってほしいと祈っている様だった。

 

「不満が無いと言えば嘘になります」

 

 四葉に捕まった時はそれこそ「何故よりにもよって『四葉』なんだ」と考えた。他の魔法師の家はいくらでもあるし、そもそも元々は魔法師でなかった俺なら原作に一切関わることなく生きる道もあったかもしれない。

 

「ですが、俺は『四葉十六夜』です。それ以外ではないんですよ」

 

 だが、俺にはその道しかなかった。罪人である俺に、全てを償うことは『四葉』でしかできない。前世の罪を忘れて生きていくなんて罪深いことはできない。

 

「……それもそうね。「もし」なんていくら考えても、虚しいだけだものね」

 

 遠くを見る真由美。彼女は何かを見つめているわけではなく、自身の心の内を覗いているのかもしれない。

 

「そうだ、十六夜くん」

 

「……何でしょうか?」

 

 先ほどのように横目にこちらを見るのではなく、振り返ってまっすぐ俺の顔を見る。いつものように悪戯好きの顔をしているものだから嫌な予感しかしない。

 

「婚約者に立候補するのはアリかしら」

 

「……誰のです?」

 

 彼女がこの話の流れで言おうとしていることはおおよそ理解できるのだが、もしかしたらひっかけか何かと考えていちおう詮索する。

 

「貴方の」

 

「誰がです?」

 

「私が」

 

「…………」

 

 俺は顎に手を当てて熟考する。七草真由美が四葉十六夜の婚約者となる事。この事項についてかなり利益があるように思える。俺が七草に婿に入るにせよ、真由美が四葉に嫁ぐにせよ、七草の力の一部を四葉が使える可能性が出てくる。使えないにしても、四葉と七草の不仲を解消する懸け橋となれるかもしれない。それに、十師族の双璧たる四葉と七草の繋がりを見せることで、日本魔法師界を一枚岩に見せられ、他国への牽制になるだろう。これも十師族として務めを果たしていると考えれば、少し回りくどいが「四葉に貢献できている」と言えなくもない。パッと思いつく利益でも3つある。対して問題点はどうだろうか。親の反対などによる実現性を左右するモノは考慮しないことにすれば、四葉が逆に七草に利用される可能性と、四葉の非人道な諸行が暴かれる可能性が出てくることあたりだろうか。前者は、これはこちらも利用するつもりであるなら致し方ない対価である。後者は、絶対避けねばならないことであり、露見しようものなら四葉が干されかねない最大の問題点である。しかし、それに目を瞑れば利益は大きい。俺の考慮できる範囲までなら充分「有り」と思える。

 

「あ、あの……」

 

「ん?どうかしました?」

 

 真由美によって長い思考時間は打ち切られ、俺は下がっていた視点を元に戻して彼女の顔を見れば、熟考する前よりどこか艶っぽくなっており、目も俺から逸らされている。

 

「冗談のつもり、だったのだけど……」

 

「……ああ」

 

 ポンと手を打ち、そもそも彼女が俺に婚約を申し込むこと自体がおかしいという事実に気付いた。

 

「これはお恥ずかしい。とても真面目に考えてしまいました」

 

 俺は彼女の悪戯に引っかかった気恥ずかしさを誤魔化すように頭を掻く。

 

「そ、そういえば気になっていたことがあったのだけど」

 

 彼女はわざとらしく話題を変える。あまりにも綺麗に彼女の罠にはまるものだから、彼女に気を使わせてしまったのかもしれない。俺の顔を見ないように前に向き直って歩き出す。

 

「十六夜くんの父親って非公開になってるじゃない?」

 

「身の安全のためにそうなっていますね」

 

「もしかしてなんだけど、達也くんの父親と同じだったりしない?」

 

「……はい?」

 

 頭がフリーズしたせいで素っ頓狂な返事をする。

 

「なんだか、達也くんと十六夜くんってどことなく似てるから、血の繋がりがあるんじゃないかと思えて」

 

「……稀にそう言われますね。達也と俺の親は違いますよ、残念ながら。いえ、むしろ幸福なことに、でしょうか。他人の空似ではないでしょうか」

 

 彼女にそう苦笑で返すが、見えないところでは滝汗ものである。実際俺と達也は従兄弟に相当する(リライトで後天的にそうなったものだが)から、真由美は血の繋がりを言い当てていることになる。「彼女に近寄り過ぎたか」と俺は自身の行いを反省した。

 

「確かに、輪郭とかじゃなくて雰囲気が近しいからそうなのかも。でも、達也くんのあの異常さとか、深雪さんの優秀さとか、十師族の血縁者なら納得がいくのよね」

 

「真由美さん、魔法師に対して血統を詮索するのは行儀が悪いですよ?」

 

「でも達也くんたちのこととなると、どうも気になっちゃって」

 

「真由美さん」

 

「え?」

 

 彼女は俺のシリアスな声に足を止めて振り返る。彼女の目には、俺の悲痛な顔が映っていることだろう。

 

「お願いです、達也たちの血筋を探るのは止めてください」

 

「……そう、『司波』って()()なのね」

 

 俺は目を伏せて、是非を答えない。そして、俺が仕掛けたミスリード通り、彼女の「そう」が『エクストラ』を指していることだけを祈った。

 

「ごめんなさい。十六夜くんの言う通り、随分行儀が悪いことをしていたわ」

 

 彼女は謎が解けたように、晴れやかな顔をしていた。表情と態度を見る限り、俺の祈りは通じたのだろう。

 

「いえ、俺も随分失礼な物言いをしてしまいました」

 

「ふふ、相変わらず謙虚ね。っと、駅が見えてきたわ。護衛はここまでで結構よ」

 

 彼女が言うように駅は見えてきたが、まだすぐ目の前というわけではない。ここで護衛を止めるのは意味がないとも思ったが、ここである原作知識を思い出した。

 

「駅の方にお迎えがいらっしゃるんですか?」

 

「そうそう、家お雇いの護衛さん。流石に駅から学校まで連れて歩くのは嫌だから、いつも待たせてるのよ」

 

 彼女も十師族・七草家の長女とはいえ、思春期の乙女である。羞恥心より身の安全を重視してもらいたいが、彼女のマルチスコープが有れば充分身の安全も重視していると言えてしまうので何とも言えない。

 

「護衛ありがとね。周りからの視線、辛かったりしなかったかしら」

 

「正直な話、辛い時もありましたね」

 

 特に彼女の婚約者立候補発言あたりは視線が嫉妬を越えて殺意を含んでいたように感じられた。自身の条件反射を抑えることに割と体力を使った気がする。

 

「ですので、お言葉に甘えてこのあたりでお暇します」

 

「ええ、また明日」

 

 彼女のコケティッシュなウィンクに、苦笑しながら頷いて別れた。

 

◇◇◇

 

2095年9月30日

 

 生徒総会・立会演説会が行われる当日。午後の授業を取り潰す形で行われるそれがあるせいか、学校全体が何処か落ち着きのない午前を過ごした。

 

 午前の授業が終了してすぐに俺は風紀委員会本部に向かい、今は風紀委員総勢で配置の最終確認をしているところだ。

 

「演壇の上手が沢木(さわき)、下手が司波と四葉、以上だ」

 

 俺はさりげなく生徒会役員たちの最終防衛ラインに割り当てられているが、達也が居る時点でなんの心配もない。

 

「では早速配置につけ。四葉、キミは少し残ってくれ」

 

 俺を呼び止めた摩利は、他の風紀委員が出ていくとキリッとした表情からいつものそれに戻った。

 

「十六夜くん、昨日はどうだった?」

 

 彼女が指す「昨日」とは、真由美の護衛についてであると聞くまでもなく察した。

 

「殺されるかと思いました」

 

「ころっ!?君がか!?」

 

 俺のその返答を予想だにしていなかったようで、彼女はギョッとした。

 

「ええ、「ファン」というのも侮るものではありませんね。視線だけで射殺されるような思いをしましたよ」

 

 摩利は呆れて肩を落とす。

 

「まぁ、そうか。女性である真由美一人に、男性である十六夜くん一人を付けるのはそういう勘違いもされてしまっても仕方がないな。で、実際手を出した者は、って居るわけないか」

 

 もとより彼女がそうなるようにした人選であるため、彼女は真顔でそう判断する。事実、居なかったわけであり、『妖精姫』と呼ばれる七草家長女と『二挺拳銃(トゥー・ハンド)』と呼ばれ出した四葉家長男に手を上げようとする者は少なくとも学生には居るわけがない。俺は苦笑しながら頷く。

 

 ちなみに、『二挺拳銃』という異名は風紀委員活動での拳銃形特化型CADを二つ携えた姿が発端で一高生間の陰でささやかれていたらしいが、この前の九校戦によって一高外にも広まって定着してしまったらしい。俺本来のバトルスタイルは刀剣での近接戦闘なのだが。

 

「そういえば、真由美と十六夜くんはお互い十師族だから婚約とかもあり得なくないな。その辺りはどうなんだ?」

 

 摩利は悪戯好きの笑みをする真由美の隣に居る時のように、不敵な笑みを俺に向ける。

 

「どうと言われましても。婚約というのは親同士も納得しなければならない話ですからね」

 

「違う、婚約が起こりうるかの話じゃない。君として、真由美はアリかという話だ」

 

 何故だか真面目に恋バナをしようとしている摩利に、俺はいつものように苦笑いするしかない。当人が居ない場でこういう話をするのはどうかと思う。当人の目の前でする話でもないが。

 

「まぁ、有りか無しかで言えば。有りでしょうが」

 

「ほう」

 

 迫られた二択に仕方なく答えると、彼女は興味津々に相槌を打つ。

 

「真由美のどのあたりが好みなんだ?」

 

「あの、仕事に戻っていいですか?」

 

 流石に俺は付き合いきれなくなった。彼女もTPOを弁えていないことを自覚したのか、すぐに解放してくれた。

 

◇◇◇

 

 生徒総会。現在、真由美が登壇して『生徒会一科生限定廃止案』の議案説明を終え、既に反対派からの質疑応答をあしらっているところだ。特に発言しているのは一科生の女子である。俺個人として、この案への反対に何の意味があるのか分からないが、それでもその女性は喰いついている。「何処にでも何かと否定したい者はいる」程度の浅い理解を俺はしていた。

 

「七草会長!貴女の本当の目的はそこにいる二科生を生徒会に入れることじゃないの!」

 

 先ほどまでまだ理性的な質問をしていた女性はヒステリックに叫び、俺の横、達也を指さしていた。

 

「知ってるのよ!彼を度々生徒会室に招き入れているでしょう!」

 

「生徒会室は、役員の許可があれば立ち入ることに何の問題もありません」

 

「それこそ!貴女が彼を好んで引き入れてる証拠じゃない!」

 

 そんな破れかぶれの発言が思わぬ効力を発揮したのか、何故か真由美は微かに頬を赤くし、達也はそれを見て眉間に皺をよせている。

 

「仰りたいことはそれだけですか?」

 

 妙に響き渡る冷たい声の発信源を見れば、案の定深雪が立ち上がっていた。女性は深雪の冷たい視線に射抜かれて怯んでしまい、深雪はその彼女に対して退場を命じて場が凍る。その空気を入れ替えるべく服部がフォローし、その女性に対する退場命令を取り消すが、質疑応答を打ち切った。その後、なし崩し的に電子投票が行われ、結果は可決。反対派の妨害は無意味に終わった。

 

 選挙演説。生徒会長立候補者は中条あずさのみであるため、彼女が下手なことをしなければ何事もなく終わるだろうと思ったのだが、誰かの達也も矢面に立たせた野次が飛び、おそらく『あずさファン』である方々が激怒し、騒ぎが起こった。掴み合いの小競り合いが始まった時点で俺が突っ込むべきだったと思いつつ、そうする前に深雪からの怒号でまた場が凍った。今度は物理的な冷気も帯びていたが、その深雪の魔法の暴走も、すぐに達也が止めたことで事なきを得る。その後の演説会は粛々と執り行われ、見事にあずさは当選した。後から聞いた話、有効票が半数を下回る前代未聞の選挙となったらしい。

 

「それで、なぜそれに関して深雪が怒っているんだ?」

 

「怒っていません!」

 

 鏡を見てほしくなるような深雪の様子に、達也へのアイコンタクトで詳細を訊こうとするが、達也は「察してくれ」と言わんばかりの遠い目をしていた。俺は「そういえば無効票の大半って、『司波深雪女王陛下』とかそういうのだっけ」と、割とどうでもいい原作知識を思い出した。




迂遠に責める雫:ジト目で睨み続ける。謝っても睨み続ける。顔合わせるたびに睨み続ける。一日は何をしてもダメそうだ。彼女自身、夜には何故そんなことをしたのかと反省して後悔する。それでもそんなことをさせた、自分の胸を締め付ける痛みが何なのか、彼女にはまだ分からない。

弄られる森崎:九校戦時と比べてもだいぶ落ち着きを得ていたので、それで十六夜に孫美鈴との一件を察せられた。さすがに十六夜の弄りには顔を赤くしたが、彼はまだまだ少年だから仕方ない。

婚約者立候補発言する真由美:彼女はその自己評価の低さやどうにも周りに壁があるところは気になっているが、全体として十六夜に悪い感情は抱いていない。むしろ彼女の中では十六夜が婚約相手になるのも悪くないかとも思っている。それでも立候補発言を真面目に考える十六夜の姿を見て、まさかの脈ありかと一瞬思考してしまい、そんな自分の思考を恥じた。

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