魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第二話 魔法師の資質

 知らない天井を見上げて、不思議と笑いが込み上げてきた。

 

(生き延びたのか?それともまた転生か?)

 

 体を動かそうとしてもうまく動かない。首を動かして自身の状態を見てみれば、拘束衣で動きを封じられていた。さらに、所々医療用の何かしらと思しき器具が取り付けられていた。

 

(四葉に捕まって人体実験コース、か)

 

 これから起こる悲劇を予想し、お得意の自殺(?)がしたくなってくる。だが、交渉の余地はあるかもしれないと自制した。最悪身動きを完全に封じられても、過剰書き換えによる自決ができる。そう考えればある程度の余裕が出てきた。

 

(自決手段が思い浮かんで余裕が出るっていうのは、何だか俺らしいと言えばらしいか)

 

 前世を紙屑のように捨てた俺らしいと自嘲した。

 

「どうやら起きたようだな」

 

 男の声がした。そちらを向いてみれば、機械があちらこちらに備え付けられた部屋の扉の前に黒羽貢が立っていた。

 

「日本語は通じるか?」

 

 そういえば言葉を交わしてなかったなと思い至る。

 

「ええ、通じますよ。第二の母国語と思えるくらいには達者です」

 

 茶化してそんな風に返してみるが、驚きも嫌がりもしない。

 

「現状は理解できるか?」

 

「不可解な能力を持つ身寄りのない子供を捕まえて、人体実験の準備。と言ったところでしょうか?」

 

 俺の茶化した態度への辟易か、現状の理解度への驚きかは知らないが、多少顔を歪めたのが見て取れる。

 

「……ある程度理解はしているようだが、勘違いしているようだな」

 

「勘違いとは?」

 

「人体実験をするには、不可解なことが多すぎる。ということね」

 

 自身の質問に、新たな訪問者が応えた。長い黒髪の女性が現れた。貢は女性への一礼とともに一歩下がった。それで大体察したというか、顔を見た時点で分かっていた。この女性が四葉(よつば)真夜(まや)だ。

 

「不可解なこと、ですか」

 

 非常識なことはだいたい魔法由来なこの世界。それで証明の一切ができないのであれば確かに不可解だろう。希望的観測であるが、自身の力が何であるか、予想すら立てられないのであろう。

 

「自己加速術式と見紛う身体能力を持ち、毒蜂にも対処して見せたそうね。一体どんな魔法かしら?」

 

 ニッコリとほほ笑む四葉真夜。どうせ自身に魔法技能がないことは寝ている間に調べただろうに、どの口が魔法であると言っているのだろうか。

 

「……あれが何であるか。答える前にそれ相応の報酬を約束していただきたい」

 

 交渉のテーブルに着かせねば。無駄に此方の手札を投げ捨てるわけにはいかない。

 

「報酬?この状態で一体何を強請るというのかしら」

 

 生殺与奪握った状況で交渉の余地はないと拒絶する。

 

「この状態でも、俺には自決の手段が有ります。一切の情報を渡さず、未知の恐怖に怯えてもらうことが出来ますが?」

 

 こちらの必死の形相をくすくすと笑う。窮鼠にも劣るだろう自身の姿を嘲笑われるが、気にする必要はない。意地汚くても生きる。そのためなら自身の命すらカードとして切ろう。

 

「そう。それで、何が欲しいのかしら?」

 

「これから生きるのに必要な、自身の身分をいただきたい」

 

 ここから逃げ延びられたとしても、そこから生きるのに必要な身分がない。それどころか名前すらない。保護者も後見人もいないという、ないない尽くしというやつだ。

 

「身分、ね。ええ、それくらいなら約束してあげましょう」

 

 彼女の妖艶な笑みから察するに、素直に綺麗な身分はくれないのだろう。

 

(別に構やしない。四葉の使いっぱしりだろうと、今までよりはましになる)

 

 少なくとも、離反しなければ処断されることはないと踏んだ。

 

「では、力の説明を。俺が持つ能力はサイオンやプシオンに依存しない、己の体を、命を対価に書き換える俺固有の能力です。人並み外れた身体能力は体全体をより強いモノへの書き換え、あの激痛への対処は痛覚の遮断を可能な体への書き換えによるものです」

 

 俺の話を聞いて固まる二人。にわかに信じられないのは当たり前だろう。この世界の能力ではないのだから、この世界にとって完全未知な能力だ。

 

「体を、書き換える?」

 

 口を閉じて黙考する主人の代わりにか、そう貢が問う。

 

「はい。命の残量がある限り、身体の強化だけでなく、別の生命に書き換えることも可能です。それこそ、鳥や木なんかに」

 

 貢は取り繕うことなく驚愕の様子を表す。依然、真夜は黙考している。

 

「……そんな力が、信じられるわけがない」

 

「ならば、証明して貰いましょう?」

 

 貢の言葉に返すように、ようやく真夜は口を開く。

 

「聞いている限りだと、その力はあなた自身を魔法師にも書き換えられるようだけれども」

 

「……抽象的すぎるイメージでの書き換えは効果が薄く、意味あるものに変えられません」

 

 サイオンを保有する肉体。残念ながら俺はそれを具体的にイメージできない。今魔法師へと書き換えたところで、いや、書き換えすらできないだろう。意味のないものに命は払えない。

 

「では、魔法師に関する具体的な知識があれば出来るのかしら?」

 

「……遺伝子情報や身体データ、それにサイオンやプシオンについて資料があれば」

 

 残念ながら、以上のことを実際提示されたとして絶対できるとは述べられない。木にすら書き換えられるリライトだが、木というモノが身近でイメージしやすいからこそ可能であるのだ。魔法師の具体的なデータを取り入れたところで、俺自身がしっかりとイメージできなければ意味がない。正直、可能性は低いだろうし、できたとしても払う対価は大きいだろう。それでも、今を生きるためには払わなければいけない代償であり、賭けなければいけぬ命だ。

 

「いいでしょう。我が家にある魔法師の研究資料を閲覧する許可を上げます」

 

 真夜は面白い遊びの結末を予想して楽しんでいるようだ。反して、貢は反論こそしないが、いい顔もしていない。

 

「明日から5日間だけ期間を設けます。その間に出来ないようであれば……」

 

 その先を述べはしないが、鋭い視線から理解する。処分するという事だろう。

 

「有り難く、承諾させていただきます」

 

 何にせよ俺には受け入れる選択肢しかない。少しでも生き延びられる方へと賽を投げる。

 

◇◇◇

 

 次の日には客間の一つと思われる場所に連れられていた。積み上げられた大量のファイルを見るに、俺の注文の品をかき集めたのだろう。子供の妄言と思われても仕方ないモノにここまで力を注ぐとは思ってもみなかった。

 

「監視には私の部下がつく。この言葉だけで、理解してくれるかな?」

 

 この部屋に自身を連れてきた貢がそう言い放つ。俺の理解力を試しているのかもしれない。

 

「不審な動きをすれば即座に処分という事でしょう?安心してください。貴方との戦闘で俺が魔法師に対して如何に無力かは分かりましたから。無駄な抵抗はしません」

 

 身体能力が如何に高かろうと、一般的な障壁魔法一つ突破できない。展開する前に飛び込んだところで、魔法が感知できない以上魔法で対処されるだろう。痛覚をオフにできると言っても、傷自体を無くすこともできない。

 

「……分かっているならそれでいい」

 

 眉を多少ゆがめた程度であまり表情は崩さない。それでも、俺に対して警戒しているような気配は感じ取れた。俺はその後彼の様子など気に留めず、集められた資料を読み始める。

 

(時間はいくらあっても足りないんだ。この大量の情報を読み取って、俺のイメージを固めなければ)

 

 期間は五日。資料は大量。試練と呼ぶにふさわしい苦行が始まる。

 

 一日目に資料の選定を行ったが、収穫という収穫はなかった。強いて述べるのであれば、久々の暖かい食事にありつけたことに幸福を感じたくらいだ。

 

 二日目は自身にもある程度理解できるサイオンとプシオンについての資料を選定し読みふけった。魔法師のサイオン知覚には個々の差異があること。視覚より聴覚の方がサイオンを知覚し、識別できる者もいたようだ。プシオンに関しては資料が少なかった。精神に関連している程度の情報しか読み取れなかった。

 

 三日目は魔法師の遺伝子情報についての資料を探した。調整体などを生み出している四葉だからか、異常に資料が多く感じられた。より魔法師としての才能が現れやすいと記載された遺伝子情報をできる限り細部まで暗記しようと試みた。

 

 四日目には今まで見てきた資料を自身の言葉で翻訳し、紙へと書きなぐり続けた。少しでも俺自身が理解できるように、少しでもイメージしやすいように言葉をかみ砕き、俺自身の理解できる言葉に置き換え、ただひたすらにイメージをし続けた。

 

 五日目。

 

「準備は出来たのかしら」

 

 結末を見収めようと、真夜が部屋に訪れていた。

 

「……ええ」

 

 広げたファイルと、自身が筆を走らせた紙から顔を上げる。これ以上のイメージはもう意味がないと判断した。今あるイメージで書き換えられなければ、もうどれほどイメージし直しても無意味だと諦めた。

 

「では……」

 

 俺は意識を集中し、今までしてきたイメージをより鮮明に呼び起こす。そして、()()()()()。目を閉じた瞼の裏に、淡い光を見た。オーロラのような、透き通った、されど朗らかな光の渦を見た。

 

「ぐっ!」

 

 細胞一つ一つから訴えかけるような激痛が伝わる。体全体を別のモノに壊変していることを察した。すぐに痛覚を遮断しようするが、それでも痛みは消えない。今はその機能すら壊変の途中のようだ。

 

 胸が痛い。頭が痛い。手が痛い。目が痛い。指が痛い。体が痛い。

 

(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ)

 

 声帯まで書き換えているのか、叫び声すら上げられない。耐えがたき痛みをかき消すため、防衛本能は意識の断絶を選んだ。意識は暗転する。

 

◇◇◇

 

 目を覚ました時に見た天井は見知ったものだった。

 

(生きてるんだな……)

 

 四葉に来て最初に見たのと同じ天井。あの病室とも研究室とも思える場所に横にされているという事は、書き換えが成功したのだろう。出来れば目を覚ましてから処分なんて痛い目にはあいたくない。

 

「あら、丁度起きたようね」

 

 扉が開くとともにこちらの様子を確認する真夜。いつも通り妖艶さの塊のような雰囲気ではあるが、最初に見た時より爽やかさがうかがえるように思える。

 

「俺の、魔法師としての才能はどの程度ですか?」

 

 機器がいくつか取り付けられているし、またどうせ寝ている間に調べたのだろう。

 

「保有サイオン量が私と同等程度あるのは分かっているけど、魔法演算領域の質を調べられる機器は残念ながらないわ」

 

 原作で薄れつつあった印象ではあるが、当代最強の一人と目される人物と同等のサイオン量。原作主人公には劣るだろうが、量は十分以上だろう。問題は、魔法演算領域か。サイオンを持っているが、そっちが皆無という可能性は十分にある。リライトによる書き換えだ。あるにはあるが、一つの魔法に占領されている恐れもある。

 

(いや、最悪無ければ再度そっちのイメージを固めて書き換えればいいのか)

 

 リライトの万能性を再確認するが、どれほど命が削れることだろうかと代償の大きさもまた再認識する。現状でも少なくとも20年分は削れている気がする。もしかしたらもっと削れているかもしれない。

 

「それと、報酬についてだけれども。自由な身の上は上げられないから容赦しておいて」

 

 小悪魔のようないたずらな微笑みを浮かべているが、そんなものは予想の範疇だ。

 

「捕まった時点で覚悟していました。それにおそらく、あまり持ち出してほしくない情報もあの中に含めていたのでしょう?」

 

 表沙汰に出来ないような実験で得たであろう情報があったのは予想するに難くない。そもそも逃がす気がないだろうから、それも足かせの一つにしたのだろうか。

 俺の言葉を受けて真夜が口の端をわずかに釣り上げた。

 

「大変結構。貴方の身柄は我が家で丁重に預かります。ようこそ、四葉へ」

 

 満足のいく対応だったのだろう。真夜はこちらに手を差し出した。その手を取るかどうかが、重大な選択に思える。しばし俺は思案するが……。

 

「よろしく、お願いします」

 

 手を取る以外の選択肢は、俺に用意されていなかった。

 




貢:思った以上に不穏な奴を連れてきちゃって大困惑。
真夜:思った以上に面白い奴が連れてこられて大歓喜。

閲覧、感謝いたします。

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『現代最強の魔法師』→当代最強の一人と目される人物
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