魔法師としての資質を手に入れてからというもの、何度か検査をする程度で人体実験のようなことは行われなかった。その代わりと言えるのか、遺伝子検査で随分と面白いことが分かった。自身の遺伝子が、四葉の人間に類似したモノ、特に四葉真夜とは親子と言っていいほど近似したそれに書き換わっていた。おかげで自身の魔法演算領域も上質なモノであったが。その事実が分かってから、四葉真夜の俺に対する態度が明らかに柔和になった。
(実の子供、そんな風に見てるのか……)
四葉真夜は原作において世界に対する復讐心を持っていた。それは幼い頃、誘拐からの酷い仕打ちより端を発するものである。彼女の実の姉・四葉
「あら、今度は何をしているのかしら?」
元客間の現自室に真夜は足を踏み入れる。彼女が訪れる頻度は中々高い。それに対して自身は『息子の様子が気になって度々見に来る母親』を想起する。別に自身は不快に思って追い返したりはしない。良くも悪くも、俺は彼女の実の息子ではないのだから。
「今は色々と魔法を試作しているところですよ。俺の超人技能、特に伐採技術は魔法という言い訳ができた方がいいでしょう」
俺は彼女に超人技能の一つである伐採系能力も開示した。ナイフで鉄板を豆腐の如く切り刻んで見せた。もはや四葉で働くのは確定的なのだから下手に力を隠すよりはいいと判断した。
「もう魔法式も分かるのね」
子供に対するような朗らかな笑顔をしている。精神はともかく、自身の肉体は14歳なので間違っていないだろう。
「勉学に励む時間はたくさんありましたから」
この一年間、四葉の方から教育を施された。一般教養と魔法学はもちろん、テーブルマナーまで含まれる。四葉の分家の養子にでもするのだろうか。
「うふふ、そんなに謙遜しなくてもいいわ。貴方の学習能力の高さは聞いているわよ」
秀才な我が子の様子を喜んでいるようだ。俺としては、書き換えによって得た才能であるため誇るに忍びない。この手の話題に苦笑いで返すのが俺の常だ
「また来るわね、
彼女は俺の新たな名前を呼んでから退室した。
◇◇◇
「……ふぅ、この程度にするか」
演習場で俺は微塵に切り崩したコンクリートの屑を見下ろしてから刀の構えを解いた。正直言ってこの鍛錬にはまるで意味がないが、超人の血が疼くというか、刀を振らないと気が済まない時があるのだ。さっきまでもその状態で、ようやく気が済んだところだ。
「相変わらず異常な剣技だな」
俺が構えを解くタイミングを図っていたのか、黒羽貢が声をかけてきた。その顔は初めて会った時から変わらず固いままだ。
「超人たる身体能力が成せる技ですからね。ですが、魔法でも似たようなことが出来るでしょう」
原作知識だが、『分子ディバイダー』という放出系魔法があったはずだ。俺がこの伐採系能力を隠すために作った分子結合を弱める魔法『結合緩和』の参考にさせてもらった。
「伐採だけなら出来るだろうが、君の剣裁きまでは模倣できないだろう。まるで千葉家の麒麟児、いや、それ以上の剣豪を見ているようだ。それが我流だというのだから恐ろしい」
貢は驚嘆してはいるが、それは当然の事だ。『剣の魔法師・千葉家』の中でさらに突出した腕を持つ
「我流といっても、超人的な感覚によって導き出された剣を振ることに関しての最適解ですよ。単純に、モノを切るならばどうするのがいいのか、
超人技能、特に伐採系能力は人の遺伝子に刻まれた剣の振り方を思い出すような感覚だ。人類の刃物を振るってきた長い永い歴史は遺伝子に残っている。リライトは、それを呼び起こすのだ。
「遺伝子を呼び起こし、書き換える。リライト、か……」
彼は眉根を歪める。仕方のない事だろう。未だこのリライトについては
「そのリライトだが―――」
「十六夜、こっちに居たのね」
彼の疑念は真夜の割り込みによって打ち消された。彼は目礼してから一歩下がる。
「剣の鍛錬をしていたのかしら」
「鍛錬と呼べるようなものでは。どうしても刀を振りたくなる時があるので。この演習場を用意していただき真に感謝しています」
この場所は四葉の者でもごく一部にしか知られていない俺を隠すために設けられた専用の演習場だった。この扱いにはさすがの俺自身も困惑している。真夜の思惑が全く分からない現状だった。
「いいのよこのくらい、貴方のためだからね」
優しく俺の頬を撫でる所作には、実の息子を幻視する様子がうかがえる。俺は少し哀れに思うところがあるため、俺に対する息子のような扱いはすべて受け入れていた。
「それと、貢さん?十六夜はもう四葉家の人間です。この子を無駄に疑うのは止めなさい」
彼女は後ろに控えていた貢を諌めるように睨んだ。
「申し訳ありません」
貢は、表情にこそ出していなかったが渋々といった感じで頭を下げる。
「真夜さん、貢さんが俺を疑うのは四葉を思ってのことです。だからこそ再度明言しますが、俺は俺以外のリライト保有者を確認していませんし、俺のリライトのように何度も書き換えられる者は現れないと思います」
「……誓って言えるか?」
貢は真夜の方を一瞥してから、そう問った。
「俺を孤児に堕とし、されど四葉へと導いた神に誓って」
俺は、自身に贖罪の機会を与えてくれた神に誓った。
「そうか……」
納得し切れてはいないと言った歯切れの悪さだったが、彼はそれ以上の発言を控えた。
「運動も済んだので、俺はそろそろ自室に戻ります」
俺は一礼してから演習場を後にした。
◇◇◇
俺が四葉家に捕まってから2年以上の時が経った。現在は西暦2095年1月1日。
(思った以上に、遠くまで来てしまったな。なんて)
遠くと比喩してみるが、それで済む程度ではない。なんせ小説の世界に転生したわけであり、この世界が前世と同列の世界だったとしても自身が死んだのは2018年。次元が違えば時代も違う。
「入ってきなさい」
襖の奥から真夜が俺を呼び寄せる。現実逃避の中断を余儀なくされる。現実は、俺自身が思っていた以上に難解なモノへと変貌していた。
「失礼します」
襖を開け、一礼してから部屋内部の人間を見据える。部屋には四葉本家の人間である真夜はもちろん、分家の家人がほぼ勢揃いしていた。この世界、『魔法科高校の劣等生』の主人公・
「皆さま、お初にお目にかかります。
俺は長い事隠され続けた四葉真夜の実の息子ということになっていた。
四葉真夜の態度:十六夜の前では母親のような柔和なモノとなったが、それ以外のところでは大した変化は今のところない。
『十六夜』の由来:前世は9/11生まれであったためそのまま今世もそうした際、推定2079年9/11生まれとなり、この日付は旧暦8/16の十六夜だったためそのまま名前になった。
四葉十六夜の出生:冷凍保存していた真夜の卵子を用いた息子。代理出産人も遺伝子上の父親も、身の安全のために情報を完全に伏せているという扱い。
四葉真夜の実の息子・十六夜:達也は精霊の眼で判定し、遺伝子上実の息子と分かったために疑っていない。深雪はお兄様を疑わない。黒羽姉弟は貢より真実を聞いていないし、四葉ならあり得なくはないと考えている。他も同様に疑っていない。
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