魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第三十六話 背負うモノの圧力

2096年1月28日

 

「なっ、パラサイトの容疑者全員を見失ったって?」

 

〈より正確に言うなら、「パラサイトに憑依されている可能性が高いと睨んでいた一般人」よ。可能性が低い人間は残っているけど、状況から考えてパラサイト全員には逃げられたのでしょうね〉

 

 夕方の自宅。俺は予想外の事態を伝えられて冗談かと疑ったが、真剣な真夜を見ればそれが真実だと信じるしかなかった。

 

(やられた……。随分と手が早いじゃないか、周公瑾!)

 

 話の大筋は変わらないものと高を括っていれば、見事足を掬われた。俺は自身の楽観と敵の敏腕さに歯噛みする。

 

〈容疑者を監視していた手勢が未知の魔法で撒かれたそうです。……前日のパラサイト追跡も未知の魔法で撒かれましたが、吉田家の子が「横浜事変時に大亜連が使った魔法に似ていた」と報告していたわね。達也さんの眼から見ても、そうだったらしいわ〉

 

 真夜は冷静に振る舞いながら怒りを滲み出している。彼女の中で第四勢力は大亜連であると判断されつつあるのかもしれない。また、憎き大漢の生き残りが潜む大亜連が害しにきたのだと。

 

「母さん、俺の勘なんだけど。第四勢力は大亜連ではないと思う」

 

〈……一応、そう思った理由を訊いても良いかしら〉

 

 真夜が怒りに駆られて誤った行動をしないように俺は彼女を制する。彼女の怒りを子煩悩の方が上回ったようだ。鵜呑みにはしないが、真夜は聞く姿勢になった。

 

「もちろん。まず、俺は第四勢力とパラサイトを日本に呼び込んだ者は同じグループだと思ってる。それは、どちらもパラサイトを利用しようとしてるからだ」

 

 俺の論述に真夜は静聴する。都合が良いので俺は弁を続けた。

 

「だが、そうなるとそのグループはUSNAと日本に手勢を潜ませていたことになる。横浜事変以降、大亜連国籍の出入国に厳しくなった日本に、それが成し得る人員を残せているかは疑わしい。だから、もっと前から根を張っていたグループなんじゃないかな?」

 

 大亜連国籍の人間はたとえ魔法師でなかろうと現在公的に監視されている。故に、その多くはさっさと帰国していた。その中には叩けば埃が出る者もいただろう、国外に出てしまったので真偽は確かめられないが。そんな厳しい監視体制で魔法師を紛れ込ませるのは至難の技だ。密入国させるにも隠蔽するには限度がある。

 

「そして、俺の記憶にある限りだけど。国際的に根を広げていて、日本への影響力が低減した組織が二つある」

 

〈ブランシュとノー・ヘッド・ドラゴンね〉

 

 俺がヒントを散りばめるような回りくどい言い回しをすれば、真夜は即座に正解を述べた。ブランシュは日本支部が壊滅、ノー・ヘッド・ドラゴンは日本担当の幹部が検挙されている。原作知識抜きでも、ここら辺までは推理できるだろう。「周公瑾とジート・ヘイグが元凶だ」と原作知識ありきな数段飛ばしの答えを言う訳にはいかない。

 

「特にノー・ヘッド・ドラゴンは香港系、大亜連由来の古式魔法が使えても不思議じゃない」

 

〈ノー・ヘッド・ドラゴンがパラサイトの混乱に乗じて根を張り直そうとしている。そういうことかしら〉

 

「あくまで勘だけどね」

 

 推理と言っても細々とした論理は稚拙だ。あくまで勘としておく方が良いだろう。とりあえず幾分か怒りが晴れた真夜を見るに、俺の推理に納得してくれているようだ。

 

「ただ、母さん。今は元凶探しに力を割く余裕はないんじゃないかな。パラサイトを一体でも逃せば、日本は今後パラサイトの影に怯えることになる」

 

〈そうね……。今はパラサイトに集中しましょう。ありがとう、十六夜〉

 

「力になれたなら良かったよ」

 

 真夜は重要度を評価して優先順位を決め、最後に怒りのない笑顔を俺に向ける。俺は真夜に微笑み返しつつ、まず真夜を誘導する一手目が上手くいったことに喜んだ。では、二手目だ。

 

「母さん、話は変わるんだけど。いや、もしかしたら繋がるかもしれないんだけど。ちょっと聞きたいことがあるんだ」

 

〈聞きたいこと?何かしら〉

 

「USNAのマテリアル・バーストを探っているスパイってどのくらい把握してる?」

 

〈「どのくらい」と問われると難しいわね。魔法大学や防衛大に潜り込んでいる者たちならおおよそ把握しているでしょうけど。それがどうかしたかしら〉

 

 真夜は疑問に首を傾け、少し不安そうに詮索する。俺は内心で相変わらずの情報収集力に驚嘆していた。しかし、徒労に終わることが分かっている大学へのスパイまで情報があるのは僥倖だ。

 

「その中に、パラサイトが居るかもしれない」

 

〈……ちょっと待ってなさい〉

 

 突拍子もない俺の推測に真夜は否定しなかった。俺に待機を命じれば、葉山を呼び出して何かをメモした紙を手渡す。葉山は一礼してから退室していった。

 

〈そっちも、理由を訊いて良いかしら〉

 

 何やら準備を終えた真夜は真剣に問い、俺は笑顔で肯定する。

 

「まず、俺は不思議に思ったんだ。「どうしてまだパラサイトがUSNAから逃げ延びているのか」を」

 

 俺は普通不思議に思わぬ部分を不思議な点であると注意させる。

 

「そこで考えられるのが、情報が筒抜けになっていることだ。USNA軍の中にパラサイトが居て、USNA軍の捜索範囲を他のパラサイトに流している。だから、サイオン波特性も記録済みでどこまでも追えるだろう脱走兵が逃げきれてる」

 

 魔法師が放つサイオンには音波のように波があるという話。そして、これは個々人で微妙に違い、正確に記録していれば普段魔法師が微量に漏らしているサイオンと照合して個人の居場所を特定できるらしい。まぁ軍用技術で一般的でない物だ。

 

 それで居場所が分かるはずなのに見つかっていないとなれば、そのレーダーの範囲外にあらかじめ逃げているのだろう。それではそのレーダーの展開場所を知っているのは何故なのか。スパイに展開場所をバラされているからだ。そういう単純な理屈である。

 

「それでも、この前USNA軍に追われていたところから、その流している情報も完全ではない。つまり、そのスパイは実働部隊のスターズではない」

 

 これはローラー作戦とばかりに多くの人員で捜索するとか、怪しいところを張っていたら偶然見つかったとかで破綻するが、そう思考されないように俺はあたかもそれが真実であるように断定口調で述べる。

 

「ならそのスパイは、本来の仕事は非公式戦略魔法師を探っていた諜報員。その中でスターズの補佐も任された、実働部隊との接触が多い人物だ」

 

 俺は名探偵の如き推理を締めくくった。ここで犯人の名前を上げられれば正しく名探偵だったんだが、残念ながら俺はまだ犯人の名前を知り得ていない。そも、今知りたい相手・「ミカエラ・ホンゴウ」が原作でそんなことをしていたかは覚えてないので、犯人とするのは間違いなのだが。

 

〈奥様、準備してまいりました〉

 

〈あら、ありがとう〉

 

 真夜が視線をカメラから逸らし、画面外の誰か(声からして葉山だろうが)に労いをする。そして、ヴィジホン画面にカメラ映像とは違う枠が設けられた。

 

「これは……」

 

〈四葉が知り得ている限りのスパイよ〉

 

 複数人の顔写真、偽りの役職、一文だけの人物評。それが真夜曰くスパイらしい。声を掛けられてから情報をまとめたとなれば、四葉の従者はどれだけ手際が良いのか。ちょっと引きながらも俺は視線ポインタでスライドさせて全てを記憶しようと努める。

 

〈この中の誰かしら〉

 

「いや、俺はエスパーじゃないんだからさすがに分からないよ」

 

〈そう、それは残念ね〉

 

 俺の人を見る目を期待したのか、真夜は無理難題を投げかけるが、そこまでの能力はない俺は苦笑を返した。あちらも本気で要求していた訳ではなく、些細なからかいだったようだ。

 

「とりあえず、だいたい顔は覚えたかな」

 

〈一応、後で書類にして持って行かせるわね〉

 

「ありがとう、手間掛けさせてごめんね」

 

〈貴方の勘にはいつも助けられているのだし、これくらいは構わないわ。それに、手間を掛けたのは葉山さんたちですから。ご苦労様ね〉

 

「ありがとうございました、葉山さん」

 

〈恐縮でございます。皆にも「奥様とお坊ちゃまが感謝していた」と伝えておきます〉

 

 真夜と俺、そして葉山が冗談めかしたやり取りで空気を暖める。

 

〈では、私はこの情報の精査に移ります〉

 

「うん、お願いするよ。それじゃあ」

 

〈ええ〉

 

 お互い手を振って通話を終えた。とても実りのある通話に俺は満足だ。ミカエラ・ホンゴウがまだ逃げてないことを確認できた。

 

(原作に沿うものと、沿わないものがある。今後はしっかりと留意しないとね)

 

 俺は楽観を反省し、気を引き締めた。

 

◇◇◇

 

2096年1月30日

 

 夜の捜索に成果のない二日を過ごした後の月曜日。登校時に会った達也一団はそれぞれ疲れた形相をしていた。幹比古は特に眠気からくる頭痛と戦いながら歩いていたし、エリカは眠気が怒りに転化しているようで不機嫌そうだった。一見平常通りなのは司波兄妹くらいだ。

 

 そんなしばらくは何事もないだろうと思っていた昼休みの時である。

 

(……この辺りってこんなにイベント密度高かったっけかなぁ)

 

 俺はパラサイト能力のアンロック(どちらかと言うとサルベージか)によって以前より鋭敏となったプシオンの感知が、明らかに異常なプシオンを感知させた。そのプシオンの発生源は分かっている。パラサイトたるミカエラ・ホンゴウ、彼女が第一高校内に侵入したのだ。「こんなに早く来るもんだったか」と忙しさに俺は嫌気がしてきた。

 

「もしもし。克人さん、十六夜です。お時間宜しいですか?」

 

 嫌気で面倒臭く感じていても事が事。俺は即座に対応すべく、一番説明が要求されないだろう相手に連絡する。

 

〈用件を聞こう〉

 

「パラサイトが第一高校内部に侵入した可能性が有ります」

 

〈場所は〉

 

 予想通り、克人からは「何故分かった」等の詮索はない。頼れる先輩が居て助かる。

 

「おおよそですが、実験棟の方かと」

 

〈……今日は確か、マクシミリアンのデモが予定されていたか。パラサイトはそれに紛れ込んだやもしれん。だとするなら資材搬入口の方だ〉

 

「分かりました、そちらへ向かいます。CADの受け取りはお任せしても?」

 

〈任された〉

 

 俺と克人は最短のやりとりで通話を終える。

 

「十六夜!」

 

 素晴らしいタイミングで幹比古を先頭として美月・エリカ・達也が駆け寄ってきた。

 

「パラサイトは実験棟の資材搬入口へ向かっている可能性が高い。俺は先行するが、幹比古さんたちは事務室に行って克人さんと合流してくれ」

 

「え?」

 

「分かった」

 

「えっちょっ!ああ、もう!」

 

 話が早すぎて付いて来られなかった幹比古は一瞬困惑していたが、達也はすぐに話の内容を理解して事務室に折り返していく。何かしら言いたかったような幹比古も達也の後を追った。他の面子も同様だ。

 

「さて、俺もさっさと行かないとね」

 

 準備運動の屈伸をしてから、俺はギリギリ一般人の速度で目的地へと駆けた。

 

 

 目的の場所に辿り着けば、顔写真で見たミカエラ・ホンゴウがトレーラーから降りていた。まだ他に人はいない。だから当然なのかもしれないが、ミカエラの視界は真っすぐ俺を捉えている。敵意さえ孕んでいなければ、ただ全速力で走り近付く俺を訝しんだだけのような仕草だったろう。

 

「君がってことで良いんだよね?」

 

「……全く忌々しい。同胞の気配を、どうして貴様が纏っているんだ」

 

 逃げる気もはぐらかす気もないようで、ミカエラは否を唱えず俺を睨む。俺は質問に答えずに鼻で笑った。その行動が神経を逆なでたのか、ミカエラのプシオンが膨れ上がる。ミカエラはまだ動かない。俺もまだ動かない。相手はこっちの出方を窺って、こっちは情報規制を待っている。

 

「ミアっ、これはいったい!」

 

「リーナさん、彼女はパラサイトに憑依されている」

 

「!?そんな!」

 

 この場に一番乗りとなったリーナに、俺は端的に事実を開示した。リーナはショックを受けるだけで、この会話が「リーナがアンジーの正体だ」と露見した上で成り立っているのに気付いてないようだ。彼女に諜報員の適性がないのを俺は再確認した。

 

「ようやく、結界が張られたかな。カメラの方も切ってあると祈るとして。じゃあ、やろうか」

 

「っ」

 

 幹比古のだろう魔法の発動を感じ取り、俺は直線的に突っ込む。超人の域であったが、俺の拳はミカエラの掌に受け止められた。

 

「貴様の自己暗示は既に知っている!」

 

「そうかい?それは残念だ」

 

「え?っ!?」

 

 俺はミカエラを含めた小さな範囲でアンキンドルドゥを使い、彼女の認識から逃れた一瞬で顎を叩く。どこから情報を得たかは知らないが、俺の精神干渉系魔法は自己暗示であるという偽りを信じたのが彼女の敗因となる。ミカエラは頭を揺さぶられて呆気なく気絶した。

 

「拍子抜けだね。まぁ、楽できて有難いけど」

 

 あまりにも無残な瞬殺(殺してはいないが)に「こんな簡単に片付いて良いのか」と疑問視するが、これが自身の手の内を隠していたが故の結果なのだろう。俺はそう一応の納得をした。

 

「四葉。……もう片付いたのか」

 

 克人は達也たちを率いてこの場に現れるが、倒れるミカエラとその目の前に立つ俺から、事が済んでいるのを克人は察してくれた。

 

「ええ、「作戦が上手くいった」と述べておきます。作戦内容については秘密で」

 

「他家の魔法を聞くつもりはない」

 

 無事でさえあれば深く問うつもりはないようで、克人はマナーを優先する。

 

「パラサイト憑依者の管理は決めてありませんね。何処が保管しますか?」

 

「今回の第一発見者及び処理者は四葉だ。そちらに任せる」

 

「了解です。幹比古さん、封印を頼めるかい?」

 

「あ、え、うん」

 

 トントン拍子に話は進むが、事件の即効対処と会話の即断即決に幹比古は唖然として生返事な対応を返した。

 

「ちょっと待って!彼女をどうするつもり!」

 

 リーナの今更な抗議に、俺はさっきまでリーナも唖然としていたのを思い出す。そのまま唖然としていてくれれば面倒がなかったのだが。

 

「リーナさん、君の、あ~……。そう、連絡が取れるUSNA軍の人に伝えてくれ。「これ以上パラサイトの捕獲を邪魔するようなら、四葉十六夜は君たちを敵と見なす」」

 

「そんなっ、ワタシたちはワタシたちの責任を果たそうとしているだけよ!」

 

 リーナは『四葉』が敵になる可能性に焦って自らの正当性を謳う。俺がせっかく「君の上司」ではなく「君の連絡が取れる軍人」と言い換えてリーナの素性をできる限り伏せる配慮をしたのに、これでは台無しだ。俺は思わず肩を落としたくなる。後、「俺が敵と見なす」だけで「『四葉』が敵と見なす」とは言っていない。俺に四葉を動かす権限などないので脅しの意味しかないハッタリである。

 

「はぁ……。USNA軍人が命令に忠実なのは良い点かもしれないが、間違った指令にも馬鹿正直に従ってしまうのは問題点だよ」

 

 俺は呆れつつもリーナを諭すために言葉にする。

 

「憑依者を殺したってパラサイトは死なない。君たちも薄々気付いてるだろう?それなのにUSNA軍の上が下している命令は殺処分、これじゃ新手のバイオテロだ。パラサイトを日本にばら撒きたいんじゃないかって疑いたくもなる」

 

「私はそんなこと聞かされてない!私にそんなつもりはないの!」

 

「……リーナさん、どうか冷静に。俺は君を責めてる訳じゃない。あくまでさっき述べたのは改善すべき点だし、俺が責任追及したいのはそういう命令を下してる上の方だ。まぁ、今する話ではないんだろうけど。正直、リーナさんは軍に向いてないと思うよ。君はどうにも―――」

 

「十六夜、危ないっ!」

 

「なっ、くっ」

 

 俺がリーナの説教に意識を傾けていれば、幹比古の警告でパラサイトへの注意がおろそかになっていたことを自覚する。

 

 注意から外されていたパラサイトは憑依者が気絶しているのにも関わらず、魔法を発動しようとしていた。幹比古のおかげでどうにか俺は効果範囲から逃れたが、パラサイトの目的は攻撃ではない。目的は、自害だろう。

 

 迸った雷がミカエラから放たれ、それはミカエラ本人も巻き込んだ。ミカエラの体は雷に瞬時に焼かれ、パラサイトが憑依者から解放される。その証明と言うべきか、雷は尚も続いている。

 

「気を付けてください!憑依者が死んでパラサイトは今自由だ!」

 

 俺はジグザグなステップで狙いを定めさせないようにし、情けなくも克人の障壁魔法の後ろに控えた。達也はグラム・デモリッションで魔法が完成する前に砕き、リーナは放出系の雷で攻撃を相殺している。

 

「四葉!パラサイトが自由になるとどうなる!」

 

 攻撃を防ぎながらのために語気が強まる克人。そこには未知への恐怖と焦りが含まれているだろう。

 

「次の憑依者を探します。パラサイトは己の生存に必要なプシオンを自己生産できないために奪うしかないので」

 

「それが逃げずに留まっている理由か……」

 

 克人だけではなく、俺の言葉を聞いた皆が一様に眉間を歪ませる。パラサイトに宿主として狙われていることに忌避感を抱いたのだ。どうにかそれを防ぎたくても、ほとんどの者が明確な解決法を持っていない。

 

(プシオン感知でそこに居ることは知覚できても、空間的に存在しないんだから空間座標が必要な現代魔法では対処できない……。広範囲を対象とする精神干渉系ならいけたかもしれんが、俺のアンキンドルドゥはそれ自体に攻撃性がない。精神干渉系で新しい魔法でも作っておくべきだったか……)

 

 俺に憑依した元パラサイト、現増設魔法演算領域のそれならば多少複雑な魔法式も演算できるだろう。適性の高い精神干渉系なら、もしかしたらパラサイト対抗の魔法が作れたかもしれない。後にあるパラサイト関連事項のために開発することを俺は決めた。この場では間に合わないから、達也と幹比古たちに投げる。

 

「あそこです。エリカちゃんの頭上、約二メートル、右寄り一メートル、後ろ寄り、五十センチ。そこに使っている接点があります」

 

 考え事をしていれば、美月が虚空を指し示し、幹比古が不可視の魔法を発動させた。それを見ていた、いや、()()()()達也は瞠目するも、すぐに目を細める。幹比古の魔法への理解と、パラサイトへの警戒。そして、イチかバチか、ぶっつけ本番の魔法。

 

 達也は美月の傍に目掛けて、サイオン塊を射出した。そうすると、パラサイトの気配が遠くへと消えていく。サイオン塊で吹き飛ばされたのだ。高々一回の観察で魔法の理論を理解し、それを自分が使えるように落とし込む応用には、「さすがお兄様」という感想しか浮かばない。

 

「討伐には、及びませんでしたね」

 

 まだ張りつめる空気に俺が事態の終息を宣言し、緩むように促す。

 

「被害が出なかっただけ良しとするしかあるまい」

 

 克人が最上ではなかった結果に及第点を採点して皆を労わるが、それで素直に喜ぶ者は居ない。

 

「十六夜、すまない。僕がさっさと封印していれば……」

 

「「たら」「れば」はなしだ、幹比古さん。反省すべき部分に気付けているなら、次までに改善すれば良い。皆もだ、今回の失敗は次に活かすってことで」

 

「……そうだね、ありがとう」

 

 幹比古と、それ以外の数人も俺のフォローでどうにか落ち込み切らずに済んだようだ。

 

「美月さんは保健室に。君の目に何か異常があったら協力を願ってるこっちの落ち度だ。幹比古さんは、悪いが美月さんの様子を診てくれ。彼女の目は君の専門ではないかもしれないが、他の人じゃ全くの無知だからね」

 

「言われなくとも」

 

 幹比古は頷き、他の者をおいて美月を保健室へ連れていく。

 

「さぁ、他は午後の授業だ」

 

「え!?ちょっとあたしたちも頑張ったんだから午後の授業免除とか」

 

「単位落として良いのなら休んでも構わないけど」

 

「……酷い」

 

 エリカは渋々と教室へと足を進める。単位は落としたくなくても、肩は落としてしまったようだ。

 

「事後処理は十文字と七草でやろう」

 

「ありがとうございます、お願いします。では」

 

「うむ」

 

 事件があった後でも何事もなかったように振る舞わなければならない。一般人の混乱を避けるために俺も克人も日常を取り繕う。忙しくなろうと午後の授業を受けるのだ。

 

 俺は俯いて終始無言の達也とリーナを一瞥してから校舎に戻った。




日本潜伏中のパラサイト:貢が処理する前、真夜が処理の命令を下す前に周公瑾により全員保護。ミアだけがUSNA軍に従軍しているため行方を眩ませるのが容易ではなかったのと、ミカエラがパラサイトの増殖方法を模索するべく、庇護を拒否したためフリー状態だった。

ミカエラ・ホンゴウ(パラサイト):小柄の方の不審者の中身。パラサイトを未知の手法で封じ込めた十六夜には明確な敵意を抱いていた。元々日本の非公式戦略級魔法師の容疑者である十六夜についての情報はUSNA軍経由で知り得ていた。USNA軍では「十六夜は自己暗示の精神干渉系を持つ」とされていたのでそうと勘違い。枷を外したとはいえ一般人の身体能力なら対処できると踏んだが、十六夜が知られていないアンキンドルドゥのほうを使ったので見事に轟沈。

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