魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第三十九話 水面と水面下

2096年2月16日

 

「リーナ、今日はお休みなんですね」

 

 ショートホームルームも終わって一限目のために移動教室をする際になっても見えないリーナの姿に、ほのかは心配を漏らしていた。

 

「慣れない土地で多くの知らない人間に囲まれてるんだ、調子を崩しても仕方ないんじゃないか?」

 

「そうですね。私なら体調を崩す自信があります。雫、大丈夫かなぁ」

 

 俺はリーナが達也との戦闘から回復しきれていないか激務に追われているかを推測しながら、それを隠してそれらしい病欠理由を述べる。ほのかもそれを真に受けて、同じ状況に置かれている親友を気に掛けた。

 

「……」

 

 深雪はやはり訳を知っているようで俯いているが、俺はそれに触れないようにした。

 

◇◇◇

 

 リーナが居ないだけで何か起こるわけもなく、時間は放課後となる。風紀委員も生徒会も何か大事な要件が入らなければ倶楽部活動と同じ時間に終わる。そうなれば自然と達也一団が集まるのだが、珍しい組み合わせの二名だけが集まっていなかった。

 

「達也とエリカさんは?達也が深雪を置いて先に帰るとは思えないんだが」

 

「その、エリカちゃんがさっき達也君を連れていきました。ちょっとエリカちゃんは朝から様子がおかしかったんですけど……」

 

 おそらく朝から殺気立つエリカとそれを向けられている何処吹く風の達也に挟まれていただろう美月。そんな気疲れしそうな状態でも二人を気に掛け続ける彼女は健気なものだ。

 

「そうか、俺が様子を見てこよう」

 

「お願いします。多分、空き教室を使ってるんじゃないかと」

 

「ありがとう、当たってみるよ」

 

 どの倶楽部も使っていない教室は風紀委員の仕事の一環として把握している。数がない訳ではないが、気配を探ればそう時間はかかるまい。

 

 そうして捜索を始め、エリカも把握してそうな空き教室ということで1-E近くから探してみれば一発で当たりを引いた。

 

「この教室を使っているのは達也とエリカさんか?話してる内容はだいたい察しが付いてる。俺も入れてもらえないか?」

 

「……十六夜か」

 

 ノックしたドアを開けるのはもちろん達也で、声のトーンが低い割にいつもと表情は変わらない。トーンの方は演技か。

 

「ちょっとっ、十六夜君は関係ないでしょ!?」

 

「千葉修次さんが傷を負ったことについてだろう?悪いが、四葉も無関係じゃない」

 

「えっ」

 

 部外者の乱入に怒るエリカだったが、「四葉も無関係じゃない」と言われて虚を突かれる。その隙に何食わぬ顔で入室すれば、達也がドアの鍵を閉めた。

 

「やはり、四葉も見ていたか」

 

「まぁね。もしかしたら貴重な日本の戦力を失いかねない事態だ」

 

「それにしては最後まで介入してこなかったが」

 

「情報封鎖はきっちりしたさ。達也だって後片付けは任せただろう」

 

「現状を明確に把握しているのは四葉だと分かっているからな。USNAから、そして他の十師族から隠蔽しようといの一番に動くだろう」

 

「え!?」

 

 達也が俺の虚偽に乗ってくれるようで、俺の発言に合わせる。エリカはただただ驚くばかりだ。

 

「あー……。エリカさんにはどこまで話した?」

 

「エリカの兄をスターズ総隊長が襲った、というところまでだ」

 

「その辺りか。そうだね、まず謝ろう。エリカさん、千葉修次さんがシリウスと戦闘になった際、彼の負傷を見過ごした事は、本当にすまなかった」

 

「え、あの、何?どういうこと?」

 

 俺が90度腰を折って頭を下げている状況にエリカは頭が追い付いていないらしい。

 

「四葉は達也を監視していた。これはさっきも言ったが、達也が貴重な日本の戦力であり、今回のスターズの狙いだったからだ。そのために、四葉は千葉修次さんとシリウスの交戦を見ていた。見ていたにも関わらず、助けようとしなかった。それは、達也の事実をできる限り伏せるためだ」

 

「達也くんの、事実?」

 

「ああ、達也は―――」

 

「十六夜、そこからは俺が話す」

 

「……悪い」

 

 他人の秘密を暴露するような行為を仕掛けていたことに気付き、俺は達也に謝罪した。

 

「エリカ、俺は非公式戦略級魔法師だ」

 

 達也は晒す情報を四葉の方ではなく、戦略級魔法師の方にしたらしい。まぁ俺もそちらに誘導していたし、達也もそちらの方が都合が良いと考えたのだろう。

 

「達也君が、非公式戦略級魔法師?」

 

「ああ。だから俺は独立魔装大隊に所属が許されている。いや、「だから所属しなければいけない」の方が正しいか」

 

 エリカは息を呑んでいた。今まで点でしかなかったそれらが線として繋がった衝撃に唖然としているようだ。

 

「四葉も達也が非公式戦略級魔法師であることは調べが付いていてね。既に日本軍に所属しているから引き抜きは難しいが、日本軍が彼をどのように運用しようとしているのかを監視しつつ、他の勢力に引き抜かれないよう牽制しているんだ」

 

「十六夜と俺の関係の発端は、監視する者と監視される者だったというわけだ。今では友人のつもりだが」

 

「面と向かって「友人」と言われるのは初めてな気がするけどね」

 

「お互い様だろう」

 

 俺と達也は互いに苦笑いを向け合った。

 

「あー、うん。なんだか色々合点が行ったけど。あたし、結構危ないこと教えられてない?」

 

「もちろん、オフレコでね。他に流したら、ちょっと身の安全は保障できないかな」

 

「ちょっと!?勝手に危険物を押し付けないでほしいんだけど!?」

 

「まぁ、なんだ。藪蛇と思って諦めてくれ」

 

「……」

 

 まさか兄の仇討ちをするために達也から仇を訊き出そうとすれば、聞かされたのは四葉の秘密だ。予想だにしなかった不運にエリカは顔を青くしていた。

 

「ああ、それと。シリウスへの仇討ちも止めてくれ。あっちと交渉中でね、敵対されて交渉決裂になったら困るんだ」

 

「……USNA軍と接触できたのか」

 

「ああ、これ以上の邪魔は致命的になりかねないからさ」

 

「それもそうだな」

 

 達也から「どうやってUSNA軍と接触したのか」の詮索はなかった。達也は良くも悪くも四葉を信頼している。

 

「……十六夜君」

 

「ん?どうしたんだエリカさ――ん!?」

 

 言葉の途中で胸倉を掴まれ、エリカの青筋が立ちながら涙をこらえている顔の至近距離まで引き寄せられる。

 

「この事件が解決したら家の道場に来なさい……」

 

「……はい、了解です」

 

 有無を言わさぬ形相に、俺は畏まって了承するしかなかった。その先に、如何なる苦難があるとしても。

 

 エリカは俺の言葉を受け取ってから俺を半ば突き飛ばし、怒りを滲ませながら退出していった。

 

「悪いな、十六夜」

 

「まぁ、仕方ないさ。エリカさんには色々と我慢してもらってるし、鬱憤晴らしに付き合うのもアフターケアみたいなものだ」

 

「それもあるが。危うく俺が四葉の人間であると感付かれるところだった」

 

「そうかい?達也ならうまくやれそうだけど。むしろ邪魔しちゃったんじゃないかな」

 

 一応フォローに来たつもりだが、この場に来る必要があったのか今更疑わしくなってくる。

 

「十六夜が来てくれたおかげで、俺がシリウスに襲われた理由をスムーズに説明できた。俺一人だと、情報隠蔽の方まで詮索されればボロが出ていただろう。お前がやってくれたことにしたおかげで、俺と四葉の繋がりを誤魔化せた」

 

 達也は考えすぎなほど考えていたようで、俺の行動はしっかりフォローになっていたらしい。

 

「まぁ、達也がそこまで言うなら。感謝は素直に受け入れようか」

 

 少し持ち上げすぎな感じは否めないが、そんな議論をしても利益などないので俺は持ち上げられておく。

 

「それと、借りを作っておいてなんだが。今夜協力してほしいことがある」

 

「俺で良ければ」

 

 達也は俺だけとなった今が好都合なのか(雰囲気的には話の流れが無理矢理なのは自覚しているみたいだが)、俺に話を切り出す。

 

「ピクシーはパラサイトにある程度近付けば感知できる。それを利用して周辺を探ろうと考えている。上に話を通しておいてほしい」

 

「ピクシーかぁ……。パラサイトが憑依してることを隠すのは難しいな。それに、如何に感知が優れているとしても、十師族三家とUSNA軍から逃げおおせたパラサイトを見つけるのは望みが薄いんじゃないか?」

 

 ただの家事手伝いロボットを捜索に加えるなんて話、精神科の受診をお勧めされそうだ。それでは全てを明かせば良いかと言うと、すぐには賛同しかねる。あの七草弘一が、「人以外にもパラサイトを憑依させられて、場合によっては従属させられる」という情報を手に入れたらどうなるか。悪用する姿が目に浮かぶ。

 

 そして、捜索の方。確証はないが、周公瑾がパラサイトを匿っているのだ。ピクシーを使う程度で打開できるなんて楽観は、俺にはできない。

 

「ピクシーについては、異常を七草先輩と十文字先輩は耳にしているだろう。そこから遅かれ早かれパラサイトの憑依は感付かれる。それを気にしてパラサイトの後手に回りたくない。捜索についても、今夜の成果は期待していない。あくまで餌だ。十六夜も含め、パラサイト二体がこちらの手に落ちていると知れば残りのパラサイトも放置はしないだろう」

 

「そのピクシーを欲しがるのはパラサイトだけじゃないだろう。七草が買い取りに来るぞ?」

 

「売られないように俺が既に買い取ってある」

 

「……」

 

 俺が考え付く限りの問題に達也は既に対処または割り切りをしている現状、原作知識抜きでのこの手腕には血の気すら引く。

 

「OKだ、達也。そこまで考えてあるなら俺に唱えられる否はない。俺は俺の仕事をしよう」

 

「助かる」

 

 貧血の幻覚を抑えながら、俺は達也に手を貸す。

 

 そうしてその夜に行われた捜索は俺と達也の予測通り、ピクシーはパラサイトを感知できなかった。後は餌として機能することを願うばかりだ。

 

◇◇◇

 

2096年2月17日

 

 ピクシーを用いた以外の捜索も一切進展のない日々。世間は「吸血鬼事件」を忘れかけているだろう。影では未だ十師族三家もUSNA軍も血眼になっているのだが。

 

 俺は昨日の十師族三家への説明とピクシーの見張り役を熟したことで多少の疲労を引きずりつつ、学校には何事もないように通う。

 

「やぁ、リーナさん。体調はもう大丈夫なのかい?」

 

「え、ええ。もう大丈夫よ」

 

 リーナが教室に入ってきたので声を掛ければ、肩を一瞬振るわせて目を泳がせる。が、それは本当に一瞬ですぐに平静に振る舞った。

 

「えっと、そうね。今一応話しておいた方が良いか」

 

「ん?どうかした?」

 

 リーナは少し躊躇いつつも、小言で決心を付けていた。俺はそれを訝しむ。

 

「サキー、放課後に少し付き合ってもらえる?」

 

 リーナは真剣な表情で告げる。周りから椅子や机に脚をぶつけるような音がしたのは気のせいだ。

 

「リーナと俺のこれからにとって大事な話があるのか?」

 

「ええ、とっても大事な話よ」

 

 USNA軍が俺の交渉を呑んだのか、とにかく俺に連絡したいことがあるらしい。リーナをわざわざ経由する意味は、四葉直通の連絡経路をバランスだけの秘密にするためか。

 

 それと、周りから頭を机に打ち付けるような音がしたのは気のせいである。

 

◇◇◇

 

 放課後。俺は自宅でヴィジホンの前に居た。

 

〈交渉に応じていただき、感謝する〉

 

〈こちらこそ。貴女の英断には感謝いたしますわ〉

 

〈ええ、平和的な話し合いは私共も歓迎します。ミス・バランス〉

 

〈うむ〉

 

 目礼でこの話し合いを始めるバランス。にこやかなのが却って怖い真夜と弘一。重苦しい雰囲気で頷く和樹。

 

 俺の予想通り、リーナが伝令役となって交渉の場を設けてほしい旨をバランスが俺に伝えてきた。それで出来上がったのが、俺の仲介で成立する電子会合。USNA軍今作戦指揮官と十師族三家当主の交渉の場だ。仲介のために俺も通話に参加しているが、求められなければ俺が口を出すことはないだろう。

 

〈まずは謝罪を。我々USNA軍の脱走兵が起こした事件について。少なくない魔法師の犠牲を出してしまったことを謝罪する。申し訳なかった〉

 

 バランスは画面越しでもその頭を下げる。相変わらず真夜と弘一は笑顔だ。和樹は目を鋭くしているが。

 

〈謝意は快く受け取ります。それで、交渉というのは何についてでしょうか?〉

 

 弘一は訊くまでもないことを、おそらくあえて訊く。バランスの目的を明確にするのもあるが、バランスがどの程度要求するかを早急に聞き出したいのかもしれない。

 

〈そちらで「吸血鬼事件」と呼ばれている一連の事件について。事件解決のための協力要請とその事件へのUSNA軍関与非公開の嘆願です。今回、我々USNA軍に非があったことは認める。しかし、USNAと日本の協定に背くような意思はなかった。我が軍の脱走兵が日本に渡ったのは、我々としては不測の事態だ〉

 

〈国家間の関係のため、被害者に泣き寝入りしろとでも言うつもりか〉

 

 バランスの弁にまず切り込んだのは、意外にも和樹だった。彼はいつにもまして険しい顔をしている。怒りを如実に感じさせた。被害者に何の償いもないことを、和樹は許さないらしい。

 

〈被害者に対して、それ相応の賠償を確約する。死亡者には、その遺族に賠償しよう〉

 

〈そちらの考える「それ相応」ではないだろうな〉

 

〈個々の対応を善処するが、我々には個々にコンタクトを取る手段がない〉

 

〈でしたらこちらで取り持ちましょう。被害者はほぼ七草の息がかかった者です。それ以外の被害者も我が家は把握しております。全員と交渉できる機会を提供しましょう。ミス・バランス、十文字殿、それで如何ですか?〉

 

〈……有難い〉

 

〈……うむ〉

 

 火種となりそうなバランスと和樹の会話に弘一が割り込み、燻りの鎮火に掛かる。一見善意の行為は、よりUSNAの痛手となるように導かれていた。それが分かっているバランスは一瞬眉根を歪めるも、争いの種を残さぬ最善として受け入れ、和樹はその受け入れるまでの小さな間にしこりを残すも、国家間の争いを望まぬ彼は目を瞑った。

 

〈賠償に関して話がまとまったところで、ミス・バランス。お伺いしたいことが一つあるのですが……〉

 

〈いったい何でしょうか〉

 

〈パラサイト、その憑依者の処分についてお困りではないですか?話によると、パラサイトは憑依者を殺しても消滅しないそうですので〉

 

〈……パラサイト憑依者を如何にすると?〉

 

 困る困らないには一切答えず、バランスはその先を問い質す。

 

〈こちらで封印した後、七草で保管させてはいただけないでしょうか〉

 

 その発言に空気が張りつめる。弘一を除く三名が弘一を怪しみ出した。

 

〈七草殿、奴らは古式魔法の領分であることは聞き及んでいるだろう。封印はともかく、保管には問題がある。吉田幹比古()との契約を継続するつもりか〉

 

〈これは失礼、言葉が足りておりませんでした。「七草と、()()で」の間違いでした〉

 

 弘一のわざとらしい訂正に、真夜は笑顔の妖しさを増し、そして俺は合点が行く。

 

(『パラサイドール』、原作と違って七草と九島の合作になるのか)

 

 原作に登場するパラサイトを用いて生み出される人形兵器。本来なら九島家だけで作られるそれだが、現状において九島がパラサイトを手に入れられる可能性は低い。烈あたりが弘一に話を持ち掛けたのか。

 

〈九島家も古式魔法師の協力を望めるそうですので、保管について危険性はありません〉

 

〈あら、そうでしたか。古式魔法師の協力もあるのなら、問題ないですね〉

 

 九島家にパラサイトを封印する術がないことは真夜と和樹の知るところであるが、弘一はそこを突いて来るのを予想して補足していく。真夜は突く弱点を失ってしまって異議を引っ込めたが、しかし「本当に古式魔法師の協力を得られるのか?」というのと「その協力だけで本当に問題ないのか?」と暗に釘を打ち込む。「問題が起きれば糾弾する」と、真夜は予告したのだ。

 

〈ミス・バランス、返答の方は?〉

 

〈……尻拭いをさせてしまい申し訳ないが、そちらに保管をお任せしよう〉

 

〈尻拭いだなんて。日本とUSNAの共栄のためです、七草は労を惜しみませんとも〉

 

 表層はとても良好な話し合いだが、深層は強迫による強奪も斯くやと言うところ。弘一は欲しい物を分捕っていく。

 

〈四葉殿は何かありますか?あまり発言しておりませんが〉

 

〈被害者の件に、憑依者の件。既にそれらの話がまとまっているとなると、我が家が協力できそうなこともないので。いえ、でも、そうね……。もし今後USNA軍に困り事が起こった時、是非とも四葉に協力させていただきたいですわね。国家機密や守秘義務に触れるようなことは難しいでしょうが、四葉家が協力できそうなことがあれば是非お声を掛けていただきたいと思います〉

 

 弘一から促された真夜は、悩む素振りで今思いついたように今後の良好な関係構築を願う。隠された真意は「四葉とのパイプをお忘れなく」という辺りか。

 

()()を忘れなければの話ですが〉

 

〈……もちろん、我々は貴女たちとの条約を忘れるつもりはない。日本との共栄は、USNAの切なる願いだ〉

 

 真夜はついでに条約、達也についての約束を互いだけが分かるように伝え、忠告した。ここまでくるとバランスがただ頷くだけで苦々しさを感じる。

 

〈それでよろしいので?〉

 

〈はい、これで結構です〉

 

 弘一は真夜とバランスの間に密約があるのは嗅ぎつけているのだろうが、その内容は掴めていないらしい。弘一はこの場で何も要求していない真夜に不信感を表しつつも、それで真夜が尻尾を出すわけがないと知っているので、早々に追及を止めた。

 

〈では、事件解決のために情報共有をいたしましょう〉

 

〈まず先に、USNAの持つ情報を提供しよう〉

 

 そうして十師族三家とUSNA軍の情報共有が始まり、それぞれがそれぞれの情報を明かしていくのだった。

 

 情報共有は円滑に進む。

 

 

 

「お疲れ様、母さん」

 

 交渉終了後、真夜と俺以外はすぐに通話を終えた。弘一や和樹は用件が終えればすぐに次の仕事に移る仕事人のような様子だった。バランスの方は同じく仕事人のようではあったが、わずかながらに疲労感を滲ませていた。十師族三家に囲まれればそうもなる。

 

 閑話休題。

 

 通話に残った俺は他が完全に通話を切っているのを確認しつつ、真夜を労う。

 

〈ええ、全く大変だったわ。何処で十六夜への賠償を要求しようか、ずっと悩んでいたわよ〉

 

「母さん……」

 

〈我慢したでしょう?〉

 

 俺が呆れながらも責めれば、真夜はからかうように笑って受け流す。事前に俺への賠償を求めないように言い含めておいたのが功を奏したかもしれない。

 

〈USNA軍との繋がりはこっちの利益になる。賠償請求で全部償わせてしまわずに罪悪感を残しておく。そうすれば、相手はよりこちらの顔を窺った四葉有利の提案をしてくる。十六夜のこの考えには私も賛同しています〉

 

「でも、親心としては子供を傷つけた責任に誠意を以て見える形で償ってほしい。でしょ?」

 

 真夜が俺の考えを読んだので読み返せば、真夜はまたもや笑顔で受け流す。俺は肩を落とすばかりだ。

 

「まぁ。我慢してくれたことは事実だし、その分我儘も聞かないとね。何かしてほしい事ってあるかな?」

 

〈親子ですもの。この程度は気にしなくて良いわ〉

 

「キスとかしなくて良いの?この前は頬にしたから、今度は唇にとか」

 

〈唇に!?〉

 

 悠然としていた態度が一転、真夜は身を乗り出していた。

 

「ほら、幼少期の子供に親がキスしたりするでしょう?」

 

〈い、いや、でも十六夜は幼少期って年齢ではないですから……〉

 

 上げた腰を真夜は力が抜けたように椅子に戻す。口を押えながら瞳孔が揺れているところから、恥じらいが躊躇わせているらしい。

 

「幼少期にできなかったから、それの埋め合わせみたいなものさ。俺は、母さんさえ良ければ構わないんだけど。嫌かな?」

 

〈嫌じゃないわ!決して嫌では……。でも、その、この年になってするのはやっぱり、あれじゃ、ないかしら……?〉

 

「したくないの?キス」

 

〈前向きに検討させていただきます!〉

 

 純粋な目で見つめれば、真夜は顔を真っ赤に染め上げながら無理矢理話題を保留にした。

 

「まぁ何か考えておいてよ。別のことでも良いからさ」

 

〈ええ、しっかり考えておくわ。そう、しっかり……。しっかり……〉

 

 真夜は現在進行で真剣に考えてそうだ。

 

「それじゃあ、またね。母さん」

 

〈キス……、十六夜と……キス……!〉

 

 真夜はトリップしているようなので、俺から通話を切った。




現れなかったパラサイト:周公瑾に匿われていたためにピクシーを感知できなかった。その上、ピクシーに憑依したパラサイトの覚醒は知覚できていても、ピクシーが彼らからのテレパシーは遮断しているため場所も特定できていない。それらが理由でパラサイトたちは出てこなかった。

足をぶつけたり頭を打ち付けたりする生徒たち:美少女転校生と本校の美男子が恋愛関係になっていたら、それはもう玉砕である。叶わぬ恋心に枕を濡らすことだろう。

 閲覧、感謝します。

※過去の話と食い違いがあったため一部内容を修正。
・「キスとかしなくて良いの?この前は手の甲にしたから、今度は唇にとか」
→「キスとかしなくて良いの?この前は頬にしたから、今度は唇にとか」(2019/7/11)
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