魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第四十話 斯くして、九頭竜退治と相成った

2096年2月18日

 

 四葉・七草・十文字、そしてUSNAがパラサイト捕縛に関する協力関係を結んだが、その四つの組織でパラサイトを見失っているのが現状。それぞれがそれぞれの方法で捜索を続ける事となったのだ。

 

 その協力関係が結ばれた次の日の昼。俺はいつもの如く風紀委員会本部で雑事を熟しつつ、安楽椅子探偵よろしく情報が集まるのを待っていた。正直、もうここに居れば勝手に情報持っている者が押し掛けてくる気がする。

 

「十六夜」

 

 予想通り、達也が本部の扉を開けて現れた。

 

「やぁ、達也。何か飲み物はいるかい?」

 

「〇AXコーヒーなら必要ない」

 

「そうか……」

 

 真顔で断られたので飲み物を取ろうと上げた腰をすぐに下ろす。甘いモノが苦手という訳ではない達也も、M〇Xコーヒーは論外らしい。風紀委員の諸先輩方にも勧めているが、同志は増えていない。

 

「十六夜、レイモンドという男を知っているか?」

 

「……達也も話したのか」

 

 哀愁に影が差していた俺を達也が無理矢理引き上げた。話題は、あまり好ましくない七賢人の男について。

 

「十六夜はあれと話したのか。俺はビデオレターで一方的に情報提供されただけだったが」

 

「雫経由で電話してきてね。内容については以前言ったから、当時の状況説明ごと割愛するよ」

 

 達也も眉を顰めて語る辺り、レイモンドには好感を持てていないようだ。俺は同調して浮かべた苦笑を切り変え、訊くべきを訊くために整える。

 

「まず、どういう経緯で送られてきたが訊きたいんだが」

 

「独立魔装大隊と連絡していた時、終わり際に回線に割り込んで送られてきたんだ」

 

「独立魔装大隊と連絡?」

 

 原作では確か、達也は独立魔装大隊と協力してパラサイト事件を収めていたはずだ。しかし、四葉・七草・十文字が独立魔装大隊に変わって調査している状態。今更独立魔装大隊に如何なる用があるのか。

 

「日本軍の動きが不透明だったんでな。どうにも七草辺りが動きを封じるように手を回しているという話だ」

 

「なるほど、それで日本軍は動いてないと。緊急時なら問題だが、今の状況ならファインプレーかな。これ以上勢力が増えても邪魔だ」

 

 横槍をくらったり足を引っ張られたりは御免だ。こちらはUSNAとの協力で戦力も充分だから、味方勢力が増えても連絡の手間が増えるだけ。俺はそれを未然に回避した素晴らしい働きに弘一へ珍しく好印象を抱けた。

 

「その旨を聞いて通話を終えた瞬間、ビデオレターが送られてきた。回線の乗っ取りや端末のハッキング、ウィルスの添付などがされていないか調べたが、全て白。本当にビデオレターを送ってきただけだった」

 

「そういうことをする奴だよ、あいつは。ちょっと話しただけだったが、用意周到な計画なんて考えない、刹那的な享楽に興じる奴さ」

 

 達也がレイモンドの行動を不可解に感じているようだが、俺は不可解に思うだけ無駄だと達也を諭す。

 

「俺からはノーコメントだ。人格を推し測る材料が少ない。それよりも、レイモンドから伝えられた情報についてだ」

 

 いらぬ世話だったのか、尾を引かれる事もなく達也はレイモンドの人物評論を打ち切って情報を開示する。

 

 魔法師排斥運動を煽っているジート・ヘイグ。ヘイグとレイモンドが使っているフリズスキャルヴ。パラサイトを日本に誘った主犯がヘイグである事とその動機。達也が戦略級魔法師である事の露呈。

 

 そして、活動中の全パラサイト10体を第一高校に誘導する事。

 

 ほとんどが原作知識と一致するのを俺は脳内で確認する。

 

「七賢人に関する十六夜の勘は当たっていたようだな」

 

 情報開示を終えて一旦区切ってから、達也は微笑する。俺の勘に感心しているのか。

 

「捨てた物ではないだろう?」

 

 実際は原作知識なのだが、俺はもちろんおくびにも出さず得意げに返した。

 

「さて、じゃあその情報は俺から母上に伝えよう。戦略級魔法師とバレてるのはどうする?隠してしまっても良いが」

 

「……いや、ここでそれを伏せるのはリスクがある。俺だけでは事前の対策が打ち切れないだろう。伝えなかった事で不信感を煽るのも後々響く。全て伝えておいてくれ」

 

 少し逡巡していたが、達也はここで四葉内での立場を揺るがしたくないようだ。失態を晒すのは苦汁だろうに、それでも後々を考えて正しく苦渋の決断をした。

 

 俺からしたらレイモンドに露呈するのは仕方ない気がする。リアルタイムで流れている情報限定とはいえ、電子情報を覗き見できるのだ。そんな存在に目を付けられて情報を覗き見されるのは、不慮の事故か台風のような自然災害である。

 

「了解した。悪いが、全部伝えさせてもらうよ」

 

 上述のフォローをしたとして納得する達也でもないだろう。だから、俺はそんなフォローを省いて達也の苦渋の決断を尊重した。

 

「ああ、頼む」

 

 達也は軽く頭を下げてから、用件は終えたようでそそくさと退室する。

 

「今から母さんに連絡は、ちょっと時間がないか?ついでに色々と済ませたいしね」

 

 時計は休憩時間終了間近を指している。ただの情報伝達なら十分かもしれないが、俺自身がレイモンドと接触したのも伝えておきたい。それも含めると時間が足りないだろう。

 

 少し悠長かもしれないが、情報伝達は放課後にする事を決めた。

 

◇◇◇

 

 放課後まで特筆すべき事もなく時間は進む。俺はすぐに帰宅し、ヴィジホンで真夜へ電話する。

 

〈十六夜、何かあったかしら。う、埋め合わせについてはまだ検討中だから返答を待ってほしいのだけど〉

 

 相変わらず3コール以内には電話を取って席に腰を落ち着けている真夜。今回は頬を朱に染めて身悶えしているが、それについて触れる気はない。

 

「母さんはフリズスキャルヴのオペレーターだったりしない?」

 

 俺の第一声に真夜は瞠目する。俺はフリズスキャルヴについて真夜から聞き及んでないし、唐突に話した覚えのない事実を数段飛ばしに言い当てられたらこうもなるだろう。まぁ、こうして一旦こっちの話を聞かせるのが俺の狙いなんだが。

 

「レイモンドという男から俺に連絡があった。パラサイトが現れた原因と思しき実験の事を聞けてね。情報の確度的に俄かには信じられなかったんだけど、フリズスキャルヴなんて便利道具を用いてるのまで自慢話のように語ってくれたんだ。さらに、達也の方にはこの吸血鬼事件の黒幕を暴露するビデオレターが送られたらしい。彼が電子ネットワークにおいて恐るべき賢者である事は信じる他なくなってね」

 

 俺は真夜が目を瞠っている内に聞かせるだけ聞かせた。

 

〈そ、それでどうして私がフリズスキャルヴのオペレーターだと?〉

 

「パラサイト容疑者の候補を絞り込んだ時、早すぎる気がしたんだ。相手は外国人で、軍人まで紛れてる。日本国内ならいざ知らず、海外の情報までそんな早く手に入るのはおかしい。四葉は元から組織としては閉鎖的だから、海外の協力者というのも腑に落ちなくてね」

 

 動揺抜けきらない真夜に俺はそれらしい推理を浴びせかける。冷静なら粗など簡単に見つけられるだろう、いつもの如く勘という事でゴリ押すが。

 

〈……十六夜、正直驚いているわ。貴方の勘はもはや神の啓示ね〉

 

「い、いや。そこまでのものではないよ?」

 

 真夜の度が過ぎる賛辞に俺は狼狽える。原作知識の乱用は他人にそう思わせてしまうものである事を、今後はそれを頭の内に入れておくべきだろう。要反省である。

 

 しかし、真夜はそんな神の啓示モドキを一切不審がる事もなく、むしろ陶酔しているようである。貢相手にはこうはならなかったろう。間違いなく推理を疑われている。明かす相手も選ぶべきである事も、上述と共に頭に入れた。

 

「そ、それでだ。レイモンドから渡された情報を伝えておくよ」

 

 情報提供者がフリズスキャルヴのオペレーターと明かして情報の信憑性を上げてから、俺は情報共有に移る。

 

 俺自身が会話で聞いたUSNAでの実験、それから達也がビデオレターで聞いた事、達也が戦略級魔法師であると露呈している事も含めて開示する。

 

〈事の発端はUSNAで、事件の原因はジート・ヘイグ。という事ね。そう、ジート・ヘイグ……。無国籍の華僑、ね……〉

 

 真夜は俺からの情報を聞き終えると情報を整理し、そして、ヘイグを妙に意識して牙を覗かせるように微笑んだ。華僑という点、それと無国籍もだろうか。大漢の残滓を嗅ぎつけているのだろう。明確に言えば、ヘイグは真夜を襲った一派と対立していた一派だったはずだが。まぁ、四葉を目の敵にしている節はあるしそこを訂正する必要はないだろう。

 

「母さん、相手は同じフリズスキャルヴのオペレーターでもないと犯人と特定できない用意周到な相手だ。相手にするならそっちに集中しなければならなくなる。その前に、パラサイトの方を優先してほしい。俺に、俺を傷付けた奴の報復をさせてほしい」

 

〈え、ええ、そうね。パラサイト、貴方を乗っ取ろうとした悪しき敵。私はもちろん報復に手を貸すわよ?十六夜〉

 

 矛先を変えるべくパラサイトを俺の敵であるように述べれば、真夜は掌を返すようにパラサイトを優先し、その微笑みは暖かいモノに変わった。

 

「ありがとう。それと、七草と十文字、USNAに伝達をお願いするよ。伝達は一挙にした方が良いかもね。情報の出所が七賢人ならUSNAが信憑性を後押ししてくれると思うよ。俺の方は、学生協力者に伝えておくから」

 

〈分かりました、そうしましょう〉

 

 俺の提案は真夜に快諾され、情報共有はこれで終わりだ。

 

「じゃあ、また明日。埋め合わせは事が済んだらね」

 

〈し、しっかり別案は考えてありますからね!早まって押し倒して無理矢理キスはダメよ、十六夜!〉

 

 笑顔で締めようとしたらこれである。

 

 そこまで考えてなかったが、真夜はそこまで妄想してしまったらしい。少女の如く、蒸気が立ちそうな程に顔を赤くしている。

 

「それがお好みなら―――」

 

〈お、おやすみなさい!〉

 

 言葉を最後まで聞かず、真夜は一方的に慌てた様子で通話を切った。

 

 原作の妖艶さはどこへやら。俺としては、幸せそうで何よりだ。彼女を幸せにするのが、俺の一番の贖罪なのだから。

 

「さてと、当日連絡じゃ彼らにも迷惑だろう」

 

 俺は達也一団にも情報共有をしようと、とりあえずメールしてみれば、もう達也の方から伝わっていたらしい。エリカに至っては達也に武器の調整を依頼していた。達也曰く依頼ではなく強制だったようだが。

 

 情報が既に伝わっている事を踏まえ、一応集合場所と時間を決めた。

 

 その後にリーナの方から座標と時刻をだけ記されたメールが来た。シリウスはその場所・その時刻に現れるのだろう。

 

 達也一団とシリウスの集合場所と時間は奇妙な程近いので、当日そちらに達也一団を引き連れていけば良いと考えた。

 

◇◇◇

 

2096年2月19日

 

 登校時に顔を合わせた達也一団へUSNA軍との合流地点を伝えられて一段落。

 夜の校内侵入を楽にするため、昼休み中にわざわざ校内カフェへ呼び出した真由美に校内の警備システム解除を打診して二段落。

 それぞれそわそわしながら何事もなく夜を迎えて三段落。ちなみに俺の視点と達也の視点を総合して、不安そわそわ組はほのか、リーナ、美月、ワクワクそわそわ組がエリカとレオ、気を引き締めているノーそわそわ組が深雪と幹比古である。

 

「見回り、お疲れ様です。はい、野外演習場の方は危険ですので近づかないようにお願いしますね?はい、お騒がせしました。ありがとうございます」

 

 野外演習場の入り口前で真由美が警備員に応対していた。お辞儀した後に彼女が笑顔で手を振れば、警備員らしき男が緩んだ顔でその場を去る。俺㏌幹比古・美月・ほのかoutの達也一団withピクシーが横を過ぎても、忠告の一つもしなかった。

 

「お疲れ様です、真由美さん」

 

「ええ、何か疲れたわ……。こういう事ばっかりしていると、いつか父親みたいな策謀家になるんじゃないかと、気が気でないわ」

 

 いつも割と強権振るっているように思えたが、今回の手回しは自身と父親が重なって嫌気がしたらしい。真由美は気が滅入った様子で俺たちを出迎えた。

 

「綺麗事だけでは済ませられん、それが十師族の務めだ」

 

「分かってるわよ、もう」

 

 隣に立っていた克人の真面目さに真由美は少し辟易として溜息を吐いた。

 

「四葉、十文字家の手勢は万一にでもパラサイトが逃げないよう外を見張っている」

 

「家は軍関係を対処しているそうよ」

 

「四葉家は警察の方を対処しています。これで邪魔は入りませんね」

 

 克人、真由美、俺で各家の仕事を再確認し合った。十師族三家の対処は万全で、これなら邪魔は入らないだろう。

 

「戦力は私たちだけって事?」

 

「そうなるが、揃った戦力を考慮すれば過多かもしれない。何せ――」

 

 随伴しているエリカの疑問に説明をしようとした時、丁度良いところに彼女が現れる。

 

「――USNA軍最強がこっちに付いてるからね」

 

「USNA軍スターズ総隊長、アンジー・シリウス少佐だ。USNA軍の命令により貴方たちに助力する」

 

 赤い髪を揺らす女性、シリウスは鋭い眼光を携えて合流した。その姿だけ見れば風格と威厳に満ちた女性将校なのだから『パレード』も侮れない。ポンコツ少女と合致させるのは、種を知らねば難しいだろう。

 

「アンタが……っ」

 

 エリカは今にも腰の剣を抜きそうだったが、俺と達也が手で制した。彼女は歯噛みしながらも剣に掛ける手を下ろす。

 

〈十六夜、こっちは所定の位置に着いた〉

 

 別行動の幹比古からワイヤレスヘッドセットを通じて報告が入った。幹比古とそれに同行していた美月及びほのかは野外演習場が視界に収められる高所、あらかじめ見つけておいた所定の位置に着いたらしい。

 

 プシオンで大体の位置が分かる美月はともかく、幹比古は離れた場所から精霊を飛ばして視覚を共有しているのだと言う。共有した視覚で魔法の照準もできるようだ。神童を再び名乗らせても良いくらいの技量ではないだろうか。それで、美月と幹比古の索敵で割り出した敵の位置を、ほのかが光の屈折でカメラに映しとり、その映像を俺たちに送るという作戦だ。この三人が集まれば遠方に居る敵が丸分かりとは、末恐ろしい話だ。

 

「さて、幹比古さんも準備が終わったようですし。突入と行きましょう」

 

 全員が頷くのを確認してから、俺は入り口を潜る。

 

 

 

 野外演習場という名前だけあって、人工林ではあるが限りなく自然に作られているそれであり、疎らに生えた木々が鬱蒼としている。そんな中を一纏まりに歩いていた。一級の魔法師が揃っているが、相手は魔法師を越えた存在だ。別れようものなら各個撃破されるのがオチである。

 

〈十六夜さん、止まってください。進行方向正面から右手三十度、パラサイトのオーラ光が見えます〉

 

〈大体の位置は……、この辺りか。光井さん〉

 

〈はい、映像撮りました。男性二人です〉

 

 綺麗なチームワークで足を止めた俺の携帯端末に現地の映像が送られてくる。他の面子も同様で、それぞれの端末を覗いていた。

 

「待ち構えてる、というより、待っているみたいだね」

 

「その様だな」

 

 落ち着いて立ち止まっている二人の映像。戦闘をしに来たようには思えない俺がそんな感想を零せば、達也の賛同が得られた。

 

「判断はそちらに委ねる」

 

 シリウスは最初言った通り、助力に専念するようで自身の意見を述べない。スターズは真夜たちとの会合で完全に主導権を渡してしまったのかもしれない。

 

 シリウスが「そちら」と言う時に取り分け俺の方へ視線を寄越していたので、何故か真由美や克人までも俺の判断を待つような姿勢になってしまった。作戦立案は達也の領分だろうが、達也まで彼らと同じ姿勢なので俺が判断するしかない。

 

「ふむ。他のパラサイトは?その二人組を囮に囲むような布陣をしていたりはしないかな?」

 

〈オーラを隠しているのか、パラサイトらしいオーラは……。すみません〉

 

〈いや、居た。囲むような布陣じゃない、二人組の後方に四人ずつの二組。二人組の11時と2時の方向、……大分離れてるな〉

 

 更に索敵を願えば、美月は知覚できなかったが幹比古は探し出したようだ。しかし、囲む布陣でもなければ離れた後方。一気に攻めかかる布陣ではないのだろう。

 

「うーん……。待っているなら、誘いに乗ってみようか」

 

 良い手が思い付くまで足踏みでは馬鹿らしい。相手の思惑が何にせよ、相手は袋の鼠なのだ。なら、乗ってみるのも案外良い手かもしれない。

 

 一つくらい異議が出ると踏んでいたが、皆頷くばかりだ。意外なモノである。俺は克人と真由美すら居る面子から否が出ない程の信頼をいつ勝ち取ったのだろうか。因果は分からないが、己の価値を少しばかり上方修正しておいた方が良いかもしれない。

 

 とにかく、異議がない判断を実行し、パラサイトの居る場所まで歩く。

 

 幹比古らの索敵は正確で、指定の場所に二人の男性が映像通り覆面もせずに立っていた。ここまでくれば、俺にも彼らがパラサイトだと知覚できる。

 

 相手から仕掛けてくる様子もないので、俺は彼らの声が届く範囲まで歩み寄る。達也たちも付いてきている。

 

「四葉十六夜、話がしたい」

 

 待っていたのはパラサイトの方となれば、口火を切るのも当然パラサイトの方。二人組の前に出ている方の男性が話しかけてきた。

 

「話を伺いましょうか」

 

 俺以外警戒心を漂わせるこんな場で、どのような話がしたいのか俺は興味が湧いた。

 

「我々はこれ以上、君たちに敵対する意図はない」

 

「失礼、ミスター。対象を明確にしていただかない事には、首の振りようがありません」

 

 あまりに抽象的な申し出に、俺は不機嫌になったフリで、足で軽く地面を叩いた。地面との繋がりを密かに手繰り寄せておく。

 

「我々デーモンは、君たち日本の魔法師に対して、今後、敵対行動をとるつもりはない」

 

 気に障ったのか、文節を強調して対象を明確にしていた。それと、あちらは自身らの事を「寄生虫(パラサイト)」とは呼ばれたくないらしい。心底どうでも良い。

 

「こちらはUSNA軍の協力も得ているのですが、USNAへの対応はどのように?」

 

「……USNAの魔法師に対しても敵対しない事を約束しよう」

 

 シリウスへと手を向けてから問えば、眉間に皺を寄せながらも約束を追加した。

 

「その約束の代わり、君たちに渡ってしまった我々の同胞、そのロボットに囚われている個体と、君に囚われている個体を解放しろ」

 

 パラサイトの発言でシリウスが俺に猜疑の視線を向けた。ピクシーに憑依されているのは情報共有したが、俺が憑依されているのはUSNAに共有していないせいだ。

 

 これ以上怪しまれて後々詮索されるのも面倒である。話を進めよう。

 

「二体の同胞を解放すれば、貴方たちはもう危害を加えないと言うのですね。実に平和的な交渉だ」

 

 ビジネススマイルを浮かべつつ、俺は地面との繋がりから一気にサイオンとプシオンを流し込んだ。地面を魔物化させる、生物のように操る魔法。『Rewrite』の魔物使いの技術をパラサイトの能力で再現した俺オリジナルの魔法だ。

 

「賠償が皆無な事を除けばね」

 

「なっ!?」

 

 魔物となった地面は俺の意思に沿い、生物のように口を開けて発言していたパラサイトを飲み込んだ。

 

「人間が自身らと違い、かつ害がある生き物に対して如何に無慈悲か、学んでおくべきだったよ。パラサイト」

 

 地面が石膏彫像を吐き出す。形は飲み込んだパラサイトと同じだ。

 

 それを皮切りに達也たちは臨戦態勢となった。おまけに細い雷光が彫像に落ち、石の層を砕いて現れたパラサイトの肉体に幾何学模様を描く。それが幹比古の封印だ。

 

 こっちは臨戦態勢、封印とは言え攻撃までしたのに、後ろに控えていたもう一人のパラサイトは戦う意思を見せない。むしろ、ほくそ笑むように鼻で笑った。

 

 次の瞬間、ようやく敵対行為かと、パラサイトが魔法式を展開する。

 

「十文字くん!」

 

「エリカ!」

 

 対応が早かったのは二人、克人とエリカだ。真由美が願うより早く克人は『ファランクス』を展開し、達也が制止するより早くエリカはパラサイトに切り込んでいた。

 

 ただ、克人の防御もエリカの攻撃も意に介さず、パラサイトは自身に魔法を放った。炎による焼身自殺。平静な俺と観察する達也以外は度肝を抜かれた。

 

〈やられた……っ。十六夜、後方に居た二組も揃って自殺してる!パラサイト本体が自由になった!〉

 

〈そ、それだけじゃなくて……パラサイトのオーラ光、全部そこに集まって、徐々に強くなっています!〉

 

 幹比古と美月の観測で、事態の一転が皆に伝わる。

 

「手出しできない状態になったという訳か……!」

 

「同時に、九つのパラサイトが一つになろうとしています」

 

 克人の現状把握と、達也の『エレメンタル・サイト』を用いたより正確な把握。

 

 妖魔であるパラサイト本体に対して、現代魔法師は打つ手がない。更に、一つになる事で強固になっているそのパラサイトに、達也のサイオン弾や幹比古の対妖魔用古式魔法では消滅どころか撃退できるかも怪しい。揃えられている戦力は、ほぼ全てが無力となった。

 

 パラサイトが融合を果たし終えたようで、その存在はプシオンの感知に優れていないモノでも知覚できる程になっただろう。皆がパラサイトの居る場所を見つめていた。そこには、得体の知れぬエネルギーが固まっている。達也の眼なら、もっとはっきりとそのエネルギーが視える事だろう。俺の感覚機能はどれくらいのエネルギーかを知覚する程度に留まる。

 

「こんな……、いったいどうすれば……」

 

 シリウスが代表するように悲嘆を吐露した。だが、全員が悲嘆しているという訳ではない。むしろ、俺にとっては喜ばしい急展開だ、汗のかかぬ勝利が確定したも同然なのだから。

 

「十六夜、何か手立てがあるのか」

 

 達也は俺の薄く笑う姿を自棄になっているとは捉えず、逆転の一手を持っている事を期待した。

 

「全く以って、他力本願なんだけどね。まず確認だ。幹比古さん、あのパラサイトをあの場に抑えられるかい?」

 

〈……10秒は稼いでみせる。でもそれ以上は〉

 

「充分だ。次に、達也。あれが、正確に視えてるか?」

 

「……視えている」

 

「もう一つ。その視覚、深雪にも共有できるかな?」

 

「できるが、何故今……。いや、そうか!」

 

 確認を全て終えると、達也は俺の確認事項から全てを察した。原作において彼だけで至った答えだ。わざわざ俺が導いてやる必要もなかっただろう。

 

「何?どういう事?」

 

「悪いが説明は……、後でもできないな。雰囲気で分かってくれ」

 

 エリカの疑問に対して、達也と深雪を魔法的に繋ぐ事のできる『誓約(オース)』について説明するのは不都合があるので、俺は取り合わずに流した。もちろん彼女の機嫌は悪くなる。

 

「克人さんはそのまま『ファランクス』を。他はパラサイトの魔法を相殺ないし牽制してください。幹比古さんは抑える準備、達也は照準、深雪は攻撃の準備だな。よろしく頼むよ」

 

「こ、攻撃の準備と言ってもどうやって―――っ!?お兄様!?」

 

 深雪以外が首肯するが、深雪だけは訳が分からなかったようだ。細かい指示ができないので勘弁してほしい。『コキュートス』への言及はできるだけ避けたい。

 

 そう思っていれば、達也も俺の意思をそこまで読み取っているのか、まずは深雪を抱き寄せた。

 

「深雪、俺がパラサイトを見せる。分かるな」

 

「……お兄様が照準で私が攻撃!確かに、それなら私は攻撃できる!」

 

 地頭が良い深雪は達也のその補足で理解できた。彼女にも『ルナ・ストライク』でパラサイトにダメージを与えられる情報は回っている。

 

「幹比古さんの合図で攻撃。それで良いだろう?」

 

「ああ」「ええ」〈分かった!〉

 

 俺が仕切り、達也と深雪、幹比古は意を決する。

 

〈……三、二、一、今だ!〉

 

 幹比古の掛け声とともに、パラサイトであるエネルギーの乱れる様子が俺に伝わってきた。

 

 その一瞬にも満たない後、達也と深雪が抱擁し合い、お互いに意識を集中した時だ。そのエネルギーは、氷が砕けるように粉々になるのを感じた。深雪の精神干渉系、精神を凍結させる魔法『コキュートス』がパラサイトを葬ったのだ。

 

 皆もそれぞれパラサイトの消滅を知覚したのだろう。エリカ、レオ、真由美、シリウスは驚愕に目を見開き、克人と達也は虚空を睨む。深雪は『コキュートス』の演算と達也から共有された視覚情報処理による疲労で達也に寄りかかっていた。

 

「ルーナ・マジック……?」

 

 シリウスはこれ程強力な精神干渉系を初めて拝んだのだろう。英語圏の呼び方が口を突いたように吐かれる姿から、その驚愕の度合いが窺える。

 

「他家の魔法を詮索するのはマナー違反。USNAではどうか知りませんが、従ってもらいますよ。アンジー・シリウス。郷に入っては郷に従え。これが日本の格言ですからね」

 

 俺はシリウスがそれ以上何か口に出す事を防いだ。詮索されたくないのもそうだが、今のままだったら彼女の素が出てしまいそうな予感がした。中身はポンコツ少女(リーナ)だから仕方がない。

 

 シリウスは腑に落ちないのを俺への一睨みで示す。それでも、口を閉ざしてくれた。どちらが優位な状態か理解が及んでいるようで有難い。

 

〈パラサイトのオーラ光、完全に消滅しました〉

 

〈僕も、もう見えないし感じない。多分、やりきれたと思う〉

 

 美月と幹比古の報告で、色々と張りつめていた空気がようやく弛緩する。

 

「皆様、お疲れ様でした。詳細は後日にしましょう。今日はもう体を休めてください」

 

 そうして最後に俺が作戦終了の言葉で締めた。今日はこれしかやってないような気がするが、指揮も有能であればこそのこの結果と自身を納得させた。




自ら姿を現したパラサイトたち:周公瑾が匿っていたが、レイモンドに嗅ぎつけられ、真夜も警戒し出すだろう現状においてリスクがリターンを上回ったために放流。捕まった同胞二体の所在という情報により、体よくパラサイトたちを追い出した。パラサイトたちは見事利用されるだけ利用され、そんな事実もついぞ知らず、同胞を解放するために十六夜たちの眼前へと現れた。

軍の介入を防ぐ七草弘一:これからパラサイトを用いるのに知る人間は少ないに越した事はない。もちろん、混乱を避ける意図もある。

作戦主導権を渡すスターズ:十師族三家、しかも十師族の双璧とされる七草と四葉を相手に主導権を渡すだけで済ませた。脱走兵及びパラサイト憑依者処分作戦をカバーストリーに、当初の作戦、『グレート・ボム(マテリアル・バースト)』行使者の捕縛もしくは殺害する作戦を、感付かれているとはいえ、四葉以外に明確に露呈しなかった事は快挙と言えるだろう。

異議の出ない十六夜の決定:シリウスはともかくとして、皆が皆十六夜の助言や援護に助けられてきた者たちである。ほとんどが的確だった十六夜の助言や援護を受けて、皆が十六夜の判断、ひいては十六夜自身を信頼している。十六夜本人は自己嫌悪を抱えていた頃の行動に対してあまり正しく評価できていない。

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