魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第五十話 幕間~乙女心に微かな春を~

~良い思いと嫌な疑い~

 

2096年4月29日

 

 今日は達也の誕生パーティーを行うという事で、俺含めて達也一団が雫宅に集まっていた。しかし、今一団が集うのはパーティー会場ではなく、魔法演習場。魔法を試射するスペースが広く取られ、センサーや計器、CAD調整の機器が取り揃えられた場所である。その設備の質は達也に「娘に随分と入れ込んでいるな」と言わせる程上等だった。

 

 それで、一団を魔法演習場に集めた雫だが、パーティーを開く前に見せたい魔法があるらしい。

 

「雫の新魔法って、雫が新しく作った魔法なの?」

 

「ううん、新しく作った魔法じゃない。理論はすでにあった魔法」

 

「「理論はすでにあった魔法」?」

 

 ほのかが雫へ純粋な好奇心で訊ねると、雫が妙な返しをした。ほのかは返って深まった謎に首を傾げる。

 

「ニュアンス的に、実用化はされていない魔法かな……。達也、何か思い当たるモノとかないか?」

 

「悪いが、候補が多すぎる。理論上可能ではあるが、魔法師に高い適性を求めるために実用化されていないモノや何故か誰も発動できないモノ。理論があると言っても、机上の空論なモノや魔法式を作るのに理論が足らないモノ。その他、多岐に渡る上で多数存在する」

 

 俺が詳しいだろう達也に話を向けたが、思い当たるモノが多すぎて候補が絞れないようだ。

 

「見てのお楽しみ。とりあえず、みんな一斉に魔法を使ってみて」

 

「対象は何でも良いの?例えば、あたしのこの棍刀でも?」

 

「うん。何でも」

 

「じゃあ、俺の手甲もありだな」

 

 エリカが雫に許可を貰いつつ、似たように武器へ魔法をかけるレオが嬉々として得物を取り出した。

 

「後出しで情報を加える魔法かしら。雫、その場合干渉力の優劣が問題になると思うのだけど」

 

「問題なし」

 

「そう……。それじゃあ、私は一応空気を冷やす魔法にしておこうかしら」

 

 雫は自信満々なようだが、深雪は不安を残していたために雫へ直接作用する魔法を控える。

 

「司波さんが干渉力で問題なしとなると、僕は気にしなくて大丈夫か」

 

 この面子の中で干渉力2位になるだろう深雪で問題なしという事を鑑み、幹比古は鉄扇形CADを構えた。

 

 ほのかや達也、美月もCADを手に持ち、俺もガイアを抜く。念のため、互いの干渉範囲が被らないよう示し合わせる。そして、雫が準備万端なのを見て、皆が一斉に魔法を発動させようとした。

 

 そこに、ノイズが響く。

 

「うっ……」

 

「これは……」

 

「この感覚……。まさか、『キャスト・ジャミング』?」

 

 他が一様に頭痛に襲われる中、達也はおそらく『エレメンタルサイト』で、深雪は経験からくる推察で雫の魔法を理解する。

 

「正解」

 

 雫は丸付けをするとともに、魔法を止めた。

 

「『キャスト・ジャミング』ってアンティナイトが必要なはず……。それに、達也が模した『キャスト・ジャミング』も一つの系統しか無効にできないんじゃ……」

 

 雫がアンティナイトを持っている様子はない。彼女は間違いなく自身のCADしか触れていないはずだ。それなのに、発動する魔法の系統が別れていた魔法を誰一人として発動できていない。

 

「雫が使ったのは俺の『キャスト・ジャミング』モドキとは違う、本物の『キャスト・ジャミング』だ。『キャスト・ジャミング』は理論上ではアンティナイトなしでも発動できる。アンティナイトが発するサイオン波は特定済みで、魔法式も出来上がっているんだ。しかし、その魔法を扱えた者は居ない」

 

「さっき言ってた、「魔法師に高い適性を求める」類か?」

 

「いや、「何故か誰も発動できないモノ」だ。発動できない理由は解明されていない。一説では、『キャスト・ジャミング』のサイオン波を魔法師が本能的に嫌っているため、と言われている」

 

「雫はその本能に打ち勝った最初の一人、という訳か」

 

 達也と俺のやり取りで、周りは雫の偉業を正確に理解した。驚嘆の視線が雫に集中する。

 

「これで、十六夜さんの力になれるかな」

 

 当の本人は真っすぐ俺を見つめていた。期待するような、怖がるような、そんな目で。

 

「なれるとも。そうなるために頑張ってきたんだろう?」

 

「うん」

 

「ありがとう、雫。よく頑張ったな」

 

 俺は雫を労うために頭を撫でる。頑張りへの報酬としては安いかもしれないが、雫はとても幸せそうに受け取っていた。

 

「ねぇ、二人ってまだ付き合ってないの?」

 

「付き合ってないが。なんだい?藪から棒に」

 

「いや、そんなスキンシップしてるのに付き合ってないのは変じゃない?」

 

 エリカから唐突な質問をされたが、どうにも俺と雫の距離は恋人の距離らしい。

 

「変なのか?」

 

「変でしょ」

 

「……変かもしれない」

 

 エリカの指摘に周りも首肯し、雫がまさかの同意を示す。個人的に司波兄妹に首肯されたくはなかった。

 

「でも、良い。絶対隣に立つけど、今はまだ」

 

 雫の中に揺れる事のない決心があるのを、俺は感じ取る。揺らぎなき瞳が、何よりもそれを物語っていた。

 

「それで。こんなに思ってくれる雫に対して、十六夜君はいつまで待たせるのかしら?」

 

「早くて年明けかな。それまでは少し時期が悪いんだ」

 

 俺には四葉次期当主というステータスがあり、これが無駄に俺の婚約相手のハードルを上げている訳だが。そのステータスも来年の慶春会で次期当主に深雪が指名されればなくなり、俺は現状より婚約相手を選びやすい状態となる。雫との婚約について、俺はそのあたりの時期に真夜へ打ち明けようと考えていた。

 

「……意外としっかり考えてるんだ」

 

「どういう意味かな?」

 

「あたし、十六夜君って割と隠れチャラ男なんじゃないかと疑ってたから」

 

「どういう意味かな!?」

 

 エリカの真意は分からなかったが、非常に不名誉な疑いをかけられていた事は分かった。

 

 誕生パーティーの準備が整ってしまったのもあり、真実は迷宮入りとなるのだった。

 

◆◆◆

 

~オタク男性と一般女性~

 

2096年5月6日

 

 第一高校から入学式直後の浮ついた雰囲気が消え、生徒たちが落ち着きを取り戻しながら高校生活を謳歌する日々。生徒間の小さなトラブルはあれ、特筆すべき事柄はない。実に平和な時期である。

 

 俺はそんないつか消える平和、具体的には7月に消えるそれを有意義に過ごそうと、昼から書斎で読書に勤しんでいた。

 

「十六夜くん、入っても良いかしら?」

 

「はい、どうぞ」

 

 ドアノックと声によって求めてきた真由美の入室許可に、鍛錬場を使っている訳でもないので俺は拒まなかった。そうすると、真由美だけでなく香澄と泉美も入室する。俺はしばらく静かに読めないだろう本を机に置き、彼女らへの応対に専念しようと決めた。

 

「読書中ごめんなさい。十六夜くんがどんな本を集めているのか気になったの」

 

「意中の殿方を知るには趣味を探るところから―――へぶっ」

 

 真由美は、同行していた泉美の無理な恋愛感情への誘導に、笑顔のまま頭を叩いて咎める。昨今における我が家の日常風景だ。

 

「まぁ、いつもはここに入らないよう言っていますからね。すみません、所有物を知らぬ間に動かされるのが嫌いなもので」

 

 間違っても鍛錬場を見つけられないために、真由美たちにはそのような理由で書斎への立ち入りを許可制にしていた。

 

「エッチな本隠すための方便なんですよね?」

 

「そういう本は別の場所に仕舞ってあるから安心してくれ」

 

「本当にあるの!?」「本当にあるの!?」

 

 自身からそう言っておいて驚く香澄。おまけに真由美も共鳴させる。

 

「まぁ、俺だって男ですからね」

 

「十六夜さま、そのような非生産的発散はいけません!発散するなら是非私の姉に―――ぶべらっ」

 

「貴女は実の姉を何だと思ってるの!」

 

 とても危険な提案をしていた泉美を、真由美は顔を赤くしながら平手打ちした。日常風景である。

 

「冗談はさておいて」

 

「冗談、なんですか……?」

 

「ど、どこからどこまでが冗談だったのかしら……」

 

 疑問を呈する香澄と真由美の小声は聞こえなかった事にする。

 

「今は俺の目がありますので。雑に扱わず、元の場所に戻してくれるのなら、ご自由に手に取ってください」

 

「十六夜さま、目が笑っていないようですが……」

 

 自身の所有物を雑に扱われたくないのは当然だ。それに、ここの本は俺のコレクションであり、前世の残滓を僅かながら感じられる品々も含まれている。それらは宝物と言っても差し支えのない物だろう。

 

「それにしても……。本当に紙媒体の本だらけね」

 

 壁を覆う本棚は隙間なく本で埋められている。真由美はその光景に感嘆していた。

 

「お恥ずかしい話、学術書でも論文でもないのですが……」

 

「え?じゃあこれらって?」

 

「……だいたいが21世紀初頭の漫画やライトノベルです」

 

「21世紀初頭!?この蔵書がですか!?」

 

「最近出版された物もあるが、紙媒体で出版される事自体が稀だからね」

 

 ペーパーレスが進み、ほぼ全ての書物が電子媒体となっている21世紀末。紙媒体の本を探すだけでも一苦労だ。半世紀以上前の紙媒体を集めるとなれば、もはや酔狂の域に入る。さらに集めている物がオタクと揶揄される代物であれば、俺はそれを明かすのに多少ながら羞恥心を覚えてしまう。いわゆる「オタク文化」を非難するのは過去の話らしいが。

 とりあえず、真由美たちが取り乱してもおかしくないコレクションであると、言い表しておく。

 

「意外と十六夜くんってコレクターなのね……」

 

「お金の使い道が趣味か食事かの二択なので。ファッションはあまり興味がありませんし、趣味も読書だけですから」

 

「そうね。十六夜くん、休日は家に籠りっきりだものね」

 

 真由美は俺の言葉には耳を傾けつつ、興味深く蔵書を観覧する。香澄と泉美も同じく観覧するが、本に手を伸ばす素振りはない。貴重品すぎて傷付けるのが怖いのかもしれない。

 

「私も恋愛小説は時折嗜んでいますが、十六夜さまはどのようなジャンルを読むのですか?」

 

「現代、いや、近現代ファンタジーかな。中世ファンタジーも結構好きだが」

 

「ファンタジー、ね……。あ!これとか中世ファンタジーかしら、『ミスマルカ興国物語』。……ん?」

 

 よりによって『ミスマルカ興国物語』X(エックス)巻を真由美が引き出したので、俺は表紙を正確に把握される前にひったくった。

 

「これは、明確に言うと中世ファンタジーではなくてですね。科学の発達を極め、しかし機械の暴走により文明が一気に後退した世界の物語なんですよ。一応、その後退した後の世界で発達したのが魔法なのですが、科学も残っているという世界観なんです。ほら、この表紙なんて魔女みたいな服装の女性が重火器を握っているでしょう?」

 

 さりげなくX巻をしまいながら3巻の表紙を真由美に見せる。

 

「世界滅亡、なんかそんなのが一時期流行ってたような」

 

「娯楽本に限らず、映画やドラマなどでも氷河期の兆候が見られた時期に世界滅亡を描く作品が多くあったとか。今では下火になっていますが、魔法特異点とか戦略級魔法による相互確証破壊とか、魔法での世界滅亡をテーマにした作品は出ていますね」

 

「確かに、そんなドラマをこの前やってたわね」

 

 狙い通りX巻の表紙から話題を逸らす事に成功した。

 話題は終末モノに変わる。

 

 個人的に、「戦略級魔法による相互確証破壊」は洒落になっていないように感じた。

 

「『ミスマルカ興国物語』は、世界滅亡を乗り越えた後、近代のレベルまで文明を復元できた世界が舞台でして。その世界で主人公が口先やハッタリで天下統一を目指す話なんですが、この主人公が曲者で、人々の血さえ流さなければあらゆる、時として馬鹿みたいな策を用いるんです。敵の大将を武力で脅したり、敵国が狙ってきた国宝を叩き割ってみたり。そんな主人公に振り回される周りもまた変わり者が多くて。王子の護衛なのにその王子をぶん殴ってみたり、王女の癖に新聞記者に扮して人々の言葉を聞いてたり。……あの、どうかしました?」

 

 気付けば真由美たちは瞼を瞬かせており、何やら呆然としているようである。

 

「い、いえ。十六夜くんって、本当にその本が好きなんだと思って……」

 

「熱弁する様子が、いつもとかけ離れていましたので……」

 

「集めるのが好きなだけで、内容は読んでないんじゃないかって思ってたから……」

 

 有難くも三人全員が気持ちを素直に話してくれた。

 とりあえず、俺はオタク特有の早口を披露していた事は把握する。非常に気まずい。

 

「十六夜くん。良ければその本、貸してもらって良いかしら?」

 

「え、あー……」

 

 X巻から話題を逸らしたはずなのに、興味を持たせるという愚行を犯した事を、今になって自覚する。

 

「駄目なら、諦めるけど……」

 

「だ、駄目とかではないのですが……。そうだ!真由美さんが関心のあるジャンルの本をお貸ししますよ」

 

「そう?なら……、恋愛が主題の本ってあるかしら」

 

「……」

 

 『ミスマルカ興国物語』が貸せない理由を問われる前に、別の本に興味を移そうと考えたのだが。恋愛が主題のライトノベルとなると、強いて当てはまる俺のコレクションは『真剣(マジ)で私に恋しなさい!』のスピオフ小説しかない。それの原作もそうなのだが、女性に勧められる内容の物では決してないのである。

 

 ライトノベルに恋愛系はないと判断し、漫画の方を少し漁った。

 まず出てきたのは『流されて藍蘭島』。『真剣(マジ)で私に恋しなさい!!』と同じような理由で却下。次に出てきたのが『School(スクール) Rumble(ランブル)』。ラブコメに分類できる作品であり、比較的大丈夫だろうと、真由美にはその漫画を貸し出した。

 

 ちなみに、貸したのは本そのものではなく、スキャンしてデータ化した物である。

 

◆◆◆

 

~秘密の共有は甘美なりて~

 

2096年5月13日

 

「どうしたものかな……」

 

 自宅の鍛錬場にて、俺は頭を悩ませていた。

 

「『ルナ・ストライク』、『毒蜂』、『アンキンドルドゥ』……。これだけ材料があれば、対パラサイトの魔法を作れないもんか……」

 

 そう、俺は今度の九校戦、原作で『スティープルチェース編』で暴れるパラサイドールに備えようとしていた。具体的には攻撃性のある精神干渉系魔法を作ろうと奮闘しているのだが、進捗はよろしくないのである。

 

 現在、『ルナ・ストライク』の精神にダメージを与える性質と『毒蜂』のダメージを繰り返す性質を組み合わせた上で、『アンキンドルドゥ』の範囲に影響をもたらす性質まで取り入れようとしている。

 だが、当然と言えば当然だが、その性質を組み合わせようとする時点で頓挫していた。前2つは魔法式に起こされてはいるモノの、何処の記述がどのように作用しているか全く分かっていない魔法。『アンキンドルドゥ』なんて感覚で行使しているから、どのような魔法式であるかすら分かっていない魔法。これらを感覚で組み合わせようとしているのだが、自分で言うのも何だが、無謀に近い。

 

「無謀でもなんでも、自身でできる備えをしておかないと」

 

 パラサイドールは原作と違って九島だけでなく、七草の手が加わっている可能性がある。大局は原作通りになるとしても、備えておくに越した事はない。しかし、真夜が今の時期にパラサイドールを知り得ているか怪しいため、俺からパラサイトへの予防は進言できない。

 よって、今は自身の身一つだけでできる備えをしなければならないのだ。

 

「しなければいけないんだけど……」

 

 俺は試しに、上記3つを感覚的に組み合わせただけの魔法を発動してみる。

 

 精神にダメージを与えるイメージをし、そして、そこにそのダメージが繰り返されるイメージを加えようとした。

 

「うっ、つっ……」

 

 途端に頭痛と疲労感が襲いかかる。

 

「やっぱり、駄目だよな……。でも、頭痛と疲労感があるって事は、魔法として発動する一歩手前まで行ってる気がするんだが……」

 

 頭痛は魔法演算領域過剰活性の兆候であるだろうし、疲労感はサイオンを急激に消費した証だろう。

 つまり、この未完成魔法は俺の魔法演算領域では演算のスペックが足らず、サイオンという魔法発動のエネルギーを大量に消費するモノであるという事だ。

 

「魔法演算領域を増設するために、またパラサイトに憑依されてみるか?いや、それで充分かも怪しいし、本末転倒な感じが否めないな」

 

 第一に、憑依される機会を得られるのが今度の九校戦である。その時に増設していては魔法の完成が間に合わない。

 

「魔法式の余分な記述を削っていくしかないか……。何処が余分かを探るところから始めなくちゃいけないな……。ああ、達也の力を借りたい……」

 

 達也なら魔法式を細かく読み解け、何処が余分となるか一目瞭然だろう。が、真夜に関する事情と同じく、達也の助力を得るのは難しい。『アンキンドルドゥ』もまだ達也には伏せておきたい手札でもある。

 

「試行錯誤って事だな。道のりは長そうだ。時間足りるかな……。ん?」

 

 納期に追われるサラリーマンよろしく残りの期間を憂いていた俺。そんな俺の耳に階段を下りる足音が届く。

 この場合、階段というのは書斎からこの鍛錬場に繋がる道の事であり、進行形で誰かがそこを通っているという事である。

 

「ついにバレてしまったか」

 

 その誰かには心当たりがある、というか十中八九真由美だろう。書斎には俺の許可なく入らないように言ってあるが、してはいけないと言われれば言われる程したくなるのが人間の性だ。もしくは、彼女の事だから、いくら呼んでも返事がない俺が心配になって書斎を開けてしまったか。

 まぁ、後者という事にしておこう。

 

 とりあえず、これは予想していた事態である。俺は慌てる事なく、鍛錬場の扉、両開きの機会扉を目の前にして待機する。

 

「い、十六夜くん……!ここはいったい」

 

 予想通り真由美が程なくして現れた。

 

「いけない人ですね、真由美さん。許可なく書斎に入ってはいけないと、ちゃんと言っていたのに。約束を破ってしまうなんて」

 

「……っ!」

 

 ちょっと威圧的に振る舞えば、真由美は恐怖で息を呑む。

 

「なんてね、冗談ですよ」

 

「じょ、冗談……?」

 

「はい、冗談です。ここはただの鍛錬場で、俺が他人に努力を見られたくないから伏せていただけにすぎません」

 

 威圧を解いた事に緊張を緩めた真由美だが、そんな変な理由で隠されていた事に拍子抜けしたのか、肩を落として呆れていた。

 

「その……。意外とお茶目よね、十六夜くんって」

 

「そうですか?いえ、そうですね。真由美さんとは打ち解けてきたつもりですので、時折悪戯がしたくなってしまいますから」

 

 自身は意外とお茶目であると、何かしらの言い訳に使えそうなので受け入れる。

 

「い、悪戯?」

 

「セクシャルハラスメントになるような、悪質な悪戯にならぬよう心がけますので。どうかご容赦を」

 

「ど、どんな悪戯をしたくなっていたのか、訊きたかったのだけど……。心がけるって事は、もしかしてセクハラになりそうなのも、考えてたり……」

 

「失礼、上手く聞き取れなかったのですが」

 

「大丈夫独り言よ!」

 

 恥ずかしいのか、どんどん声が小さくなる真由美。都合が良いので難聴を装えば、彼女は好奇心を抑え込んだ。

 

「それで、鍛錬場って事だけど。十六夜くんはここで魔法の練習をしているのかしら?」

 

「ええ。魔法の練習だけでなく、運動もしておりますが。ほら、そこにCADがあればバーベルもあるでしょう?」

 

「あら、本当ね」

 

 CADやバーベル、真剣などがかけられたラックのある壁を指差す。真由美は特に驚いてなさそうなので、そこにあるバーベルの重量についてや、刀が真剣である事については思い至ってないのかもしれない。

 バーベルは、ボディービルダーやバーベル上げ選手でないと危ない代物である事は明記しておく。

 

「でもなんでこんな隠すような。努力を見られたくないからって、大げさ過ぎると思うのだけど」

 

「割と本当に、それが一番の理由なのですが……」

 

 本当にただの鍛錬場なら、真由美の言う通りだ。書斎にあんなギミックを設けて隠しているなら、後ろめたい気持ちがあるのは露呈してしまうだろう。

 実際、後ろめたいのだ。俺が超人である事を隠すための場所なのだから。

 

 超人である俺は、一般人がしているような運動では負荷にもならない。だからって自身に合わせた運動をすれば、他人の目には異常な運動量に映る。

 だから、誰の目にも付かない鍛錬場が必要だったのだ。

 

「えーと。あまり他人に見せたくない鍛錬もしておりますので……」

 

 全てを明かせるはずもなく、俺は言葉を濁す。

 

「あ、そうよね。家の秘術なんかはできれば人目に触れたくないものね」

 

「はい。それに危険な魔法を練習している場合もあります。鍛錬場に入る際は、できれば事前の連絡をいただきたいです」

 

 真由美が有り難い解釈をしてくれたので便乗した。

 

「そうね、ちょっとプライバシーや危機意識が欠けていたわ。ごめんなさい」

 

「いいえ、最初から打ち明けてなかったこちらが悪いのです。お気になさらず」

 

「でも、約束を破ったのは私だから……」

 

「でしたら、ここの事は他言無用という事でお願いします」

 

 無駄な謝罪の応酬になりそうだったので、真由美の罪悪感を晴らすべく相応の要求をする。

 

「そんな事で良ければ。じゃあ、ここについては十六夜くんと私の秘密ね。ふふっ」

 

 真由美が罪悪感を晴らした上に上機嫌になったので、壬生もここを知っている事については言及しなかった。




俺は現状より婚約相手を選びやすい状態となる:十六夜が勝手にそう思っているだけである。

隠れチャラ男:エリカは少なくとも、「女性を複数股にかけ、それを巧妙に隠す男」を差して用いている。21世紀末では死語に近いが、死語に近いからこそ、エリカはそう表現した。雫に意味が伝わらないようにした、せめてもの情けである。

エッチな本所持の真偽:性欲は薄い方であるが、ない訳ではないのだ。溜めすぎて夢精されても困る。それに、四葉直系である以上、子孫を残す義務は一般家庭より重くのしかかっているし、他の魔法師の家が放っておかないだろう。本番が訪れる可能性が高い事を本人も認識しているため、整備は欠かせないのである。

『ミスマルカ興国物語』X巻:角川スニーカー文庫が出版している、林トモアキ氏が手掛けるシリーズの一冊。可愛い女の子が表紙を飾ってなければ売れないような時代において、男のたくましい裸体で表紙を埋めるという意欲的(オブラート包装)な作品。この巻においては、内容もずっとその裸体の男に関する話で終始している。が、10割ギャグではないという、非常に奇妙で奇天烈な1巻。是非購読してほしい(ステルスマーケティング)

『流されて藍蘭島』『真剣で私に恋しなさい!』:お色気少年漫画で階段を上り、成人男性向けゲームに辿り着く。それは健全なる少年の成長記録であり、十六夜の前世が辿った男の轍である。

 閲覧、感謝します。

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