魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第五十三話 陰謀は渦を巻く

2096年6月24日

 

 まだまだ俺の周りは平和だろうと思っていた日曜日。俺は何故か――

 

「ご贔屓にしていただきありがとうございます、四葉十六夜様」

 

――また周公瑾の店へ食事に来ていた。

 もちろん、俺の意思ではない。

 

「おや?もうこの店を知っていたのか、十六夜君。これは失敗してしまったな」

 

 九島烈による隠れた名店への招待で、俺はこの店へ来ていたのだ。

 ディナーに誘われ、リムジンで迎えに来て、現地まで店名を明かされない。そんな先週との奇妙な一致に嫌な予感を覚えてはいた。車が横浜に入った時点で全てを察したのだった。

 

「四葉君は思った以上にグルメだったみたいね」

 

 烈の横に控える女性、藤林響子は祖父の珍しい失敗を小さく笑っている。

 そう、彼女もディナーを一緒するのである。いつだか烈と俺の歓談に同席したがっていたが。俺が起こらないのを望んでいた烈との歓談も、藤林の同席も、全て起こってしまった訳だ。

 つくづく、世界とは思い通りにならない。

 

「いえ、俺もこの店を知ったのはつい最近の事でして。真由美さんに誘われて、ここで食事をとらせていただいたのです」

 

「ほう、弘一の娘と」

 

「そういえば、七草真由美さんとは一時期同棲していたそうね。その事について、詳しく伺いたいのだけど」

 

 真由美の名前は出すべきでなかったかもしれない。

 烈も藤林も強い興味を示していた。その話題から逃げられそうにはない。

 俺は色々と諦め、せめて美味しいディナーを楽しむ事にした。

 

 

 

「弘一の奴め、真夜の嫌がる事がよく分かっておる」

 

 同棲の顛末を聞かせれば、教え子の変わらぬ様子を喜ぶように、烈は不敵な笑みを浮かべる。

 

「四葉君はガードが甘いんじゃないかしら?仲が良い先輩とはいえ、同棲を許すのは周りに邪推させるわよ?」

 

「それこそが弘一の狙いなのだろう。良好な関係を周知させ、周囲の雰囲気から染めていく。四葉の次期当主と七草の娘は好き合っていると、周囲からその気にさせる。その雰囲気のまま婚姻に持っていけるなら、七草家としての実益を得られる。噂話で終わったとしても、真夜の気は引ける。何にせよ、弘一にとって得でしかない」

 

「それは、何と言うか……。あまり宜しくないですね……」

 

 ただ真由美を近くに置くだけで不利益が生じる事を、藤林と烈は解説してくれた。

 真由美とは確かに仲良くしているが、学校の先輩後輩としてであり、同じ十師族の子息としてである。それが恋愛だのと周りに勘違いされるのは、あまり面白い話ではない。後、弘一の思惑通りになっているのも気分が良くない。

 

「対抗策はないでしょうか。できれば、真由美さんを遠ざけない方法で」

 

「へぇ……」

 

「ほうほう……」

 

「……何か?」

 

 目の色が変わった、というか、藤林と烈の眼差しがとても生暖かくなった。

 

「四葉君は案外、真由美さんにその気があるのかしら」

 

 藤林の一言に、俺は突っ伏したい衝動に駆られる。目の前に料理の皿があるから突っ伏さないが。

 烈も口を挿まない辺り、似たような事を妄想しているのかもしれない。

 

「いえ……まぁ……」

 

 俺は上手い返しが思い付かず、言葉に窮してしまった。

 正直、俺は真由美に恋愛感情を抱いていない。見目は良く、性格も良く、箔も良い。文句の付けようがない女性だ。

 だが、『四葉十六夜()』にとっては、前述の通り、近しい境遇の先輩。そして『●●()』にとっては、好きだったキャラクター、ライトノベルの登場人物なのである。そんな相手に恋愛感情は湧かない。あんなに好意を表現してくれている雫に対してすら、俺は恋愛感情を抱けていないのだ。

 そういう複雑な事情を孕んでいるため、俺は適切な返しができなかった。

 

「ふむ。悩み多き年頃、というところか。しかし、十六夜君。悩んで踏み止まってしまっては、経験を得る機会を失ってしまう。経験は何にも勝る力だ」

 

 烈はどうやら恋に悩む若人と解釈したらしい。年の功が如何に重要かを俺に説く。

 

「それにだ。遊べるのは若い内だけだぞ?」

 

「九島閣下?」

 

「はっはっはっはっはっ」

 

 説いていたのは年の功ではなく、下世話かつ余計なお世話だったようだ。

 烈は実の孫娘である藤林から胡乱な目で見られるも、豪快に笑い飛ばして色々とはぐらかした。

 

「しかし。君は変わったようで、変わっていなかったようだな。パラサイトに憑依されたと聞いて、人格の変容を心配していたが。杞憂だったようで何よりだ」

 

 烈は気がかりが解消され、胸を撫でおろす。

 ただ知人の、烈からしたら教え子の子供の身を案じていただけかもしれないが、俺の頭に不穏な推測が過った。

 

「それはつまり。閣下は対抗魔法さえあればパラサイトを制御下に置けると、そう確信されたのですか?」

 

 そう、もしかしたら原作以上に危険な事をしているのではないかという、不穏な推測が頭を過ってしまったのだ。

 そうして俺から吐かれた不穏な推測で、和やかな談話は何処ぞへと消し飛び、空気は一気に冷えた。

 

「1つ、明言するならば。私は人間にパラサイトを憑依させようとは一切考えていない。させるつもりもない」

 

「人間ではなく、人形なら、と?」

 

 烈と俺の視線は交錯し、互いにその瞳の奥を覗きこもうとする。

 

「魔法師が兵器としてある事を望まれ、そのように消耗される。私にはそれが耐え難い。魔法師を戦場から遠ざける事ができるなら、代替品の用意に苦慮するとも。そうすれば、魔法師は人間として生きる権利を得られるはずなのだ。我が子たちが、苦しまずに済むはずなのだよ」

 

 答えは述べない。代わりに、自身の意思を烈は開示する。割れる腹はここまでと、線が引かれていた。

 

「九島閣下。魔法師の未来を1つ奪うおつもりですか?」

 

 代替品を用意する。それは、魔法師の軍属を必要としなくなる事。魔法師が軍に就けなくなる結果を生みかねない。それでは反魔法師の政治家(神田議員)がやろうとしていたのと変わりない。

 

「兵器としてある事こそ魔法師であると、君はそう言うのかね」

 

「もちろん、道具のように使い潰されるのは御免です。ですが、兵士としてある事が魔法師として生きる数少ない道であると、俺はそう思っています」

 

 敵意すら滲ませていた烈と俺。だが、烈はその俺の言葉を受け、悲しそうに眉を下げる。

 

「ああ、そうか……。やはり君も『四葉』なのか……」

 

 烈の呟きに敵意はなく、代わりに憐みが込められていた。

 俺も意味のなくなった敵意を収め、空気の緊張は解かれる。冷えた空気が均されるのを待って、烈は一呼吸おいてから口を開く。

 

「確かに、魔法師がその才を活かせる場所は少ない。魔法師が活躍できる場所を増やせないか、呼びかけてみよう。ありがとう、君の意見は大変参考になった」

 

「いえ、被害妄想で冷静さを欠いた愚か者の知らず口です。無礼を働き、申し訳ありませんでした」

 

 烈の態度が柔和になった事へ合わせ、俺はまず頭を下げた。

 

「己を卑下する癖も相変わらずだな。謙遜する事はないのだよ、謝る必要もな。君は魔法師の危機を正しく認識していた。その見識はむしろ誇るべきだ」

 

「恐縮です」

 

 俺は頭を上げながらも伏し目がちにして目を合わせない。不穏な推測で場を乱してしまった事には、少なからず責任を感じているのだ。烈はまだ固いと言いたげに、わざとらしく肩を竦めた。

 

「全く、九島閣下も四葉君も。真面目な会合をするなら事前に伝えてください。肝を冷やしました。料理も冷めてしまったかも」

 

「それはいかん。せっかくの美味しい料理も不味くなってしまう。マナーを欠くが、少しばかり急ぐとしよう」

 

 元の和やかさを取り戻すように、藤林と烈はお茶目さを応酬させる。

 早食いが求められているようなので、俺は遠慮なく、テーブルマナーを弁えた上でペースを速めた。

 

 

 

「ディナーのお誘い、ありがとうございました」

 

「楽しい時間だったよ。特に、十六夜君の早食いは」

 

「それに、あの量を平らげるなんて。胃にどう収まってるのかしら。……お腹も膨らんでいないし」

 

 空の皿を並べた食後、俺の早食い兼大食いを烈と藤林から無駄に賞賛される。藤林なんかは俺の腹部を羨ましそうに見つめていた。

 

「帰りは送らなくて良いという事だったが、横浜に何か用事があるのかね?」

 

「大した用事ではないのですが。真由美さんへの土産を吟味していこうかと」

 

「ふむふむ、そうかそうか」

 

「あらあら。うふふ」

 

 烈と藤林は意味深長に微笑むが、詮索はしてこない。明らかに勘違いをされているのだが、面倒なので俺は言い訳をしなかった。

 

「それでは、失礼させてもらうよ?」

 

「また会いましょう?」

 

 二人は迎えのリムジンに乗り込み、車が見えなくなるまで俺と、そして料理店のオーナーである周公瑾は見送った。

 

 車が見えなくなった瞬間、俺は周公瑾を正面に据える。

 

「お前が協力したな?」

 

「何の事でございましょうか?四葉十六夜様」

 

 九島にパラサイトの件で協力しているだろう事を、俺は周公瑾に問い詰めてみるが、案の定彼はしらを切った。

 

「パラサイトを人形、いや、ピクシーを参考にしているだろうから、ヒューマノイドロボットか何かか?とにかく、そういった物に封入して操る術、お前が提供したんだろう」

 

「この若輩がそのような優れた術を持ち合わせるなんて、とてもとても」

 

 より詳細に詰め寄っても、周公瑾は頑なに否を唱える。教えられないという事か、それとも本当に()()何もしていないという事か。

 原作の時系列でいえば、周公瑾が九島と協力するのは先の話。しかし、それが早まっている事は想像に難くない。何せ、周公瑾と弘一が繋がっているのはほぼ確定している。そんな弘一がパラサイトの保管で協力した九島へ、周公瑾の事を繋げていない訳もない。

 

 真実はどうあれ、周公瑾は口を割りそうにない。俺は訊き出すのを諦め、仕方なく本当に土産でも探そうと歩き出す。

 

「そう言えば。『黄巾力士(こうきんりきし)』の研究をしている知人らが故郷を追われてしまったのです。それで、故郷を追われた彼らの身を潜める場所について、古式魔法師の住処に詳しい九島真言(まこと)様にご相談しました。そうしたら、なんと知人らを匿っていただける運びになったのです」

 

 周公瑾はその場を後にしようとした俺の背へ、とんでもない情報をぶちまけた。俺は呆れ顔で振り返ってしまう。

 『黄巾力士』とは、『封神演義』に登場する仙人たちが使役していたアンドロイド。語られる仙人たちは人外を人型に封じ込めて操れていたのだ。その技術はパラサイトを封入して制御するヒューマノイドロボット、パラサイドールの完成にとって必要なモノだった。

 

「……お前、それ伝えて大丈夫なのか?」

 

「はて、私は知人の行方をつい零してしまっただけですが。上客への世間話です。何か問題が?」

 

 九島への技術提供について明かしておいて、世間話などと宣う周公瑾。あっけらかんとした様子は如何にも軽薄で、現在の主に対する忠誠心は紙のように薄っぺらだ。

 

「上客への世間話、ね。今後も贔屓にしてもらうためのサービスって事かい?」

 

「そのように受け取っていただけるなら幸いです」

 

 俺はサービス精神旺盛な周公瑾に呆れ果ててしまう。だが、貴重な情報の密告であった。有り難く頂戴させてもらう。

 

「世間話ついでだが。お土産には何がお勧めかな」

 

「お土産という事でしたら、ぜひ当店の肉まんをお持ち帰りください」

 

 世間話の(てい)を取り繕ってみれば、表した微妙に商魂逞しい姿が俺の失笑を誘う。

 

「じゃあ、7つ貰おうか」

 

「毎度ありがとうございます。またのご贔屓を」

 

 肉まんを購入し、今度こそこの場を後にする。

 ちなみに、3つが七草3姉妹への土産で、4つが俺の夜食である。

 

 

 

 土産も真由美たちへと渡し、無事に自宅に着く。

 夜食にすぐにでもありつきたい欲求を堪え、俺はヴィジホンで真夜へと電話をかけた。

 

〈もしもし、十六夜?何かあったかしら〉

 

「夜遅くにごめん。ちょっと訊きたい事があるんだ」

 

〈今度の九校戦に軍の対大亜連強硬派が圧力をかけている事かしら?〉

 

 真夜の先んじた答えが2・3歩行き過ぎており、俺は驚愕を顔に出してしまう。

 いくら何でも情報が早すぎる。フリズスキャルヴがあるのだから、あり得なくもない情報収集速度だが。

 

「その、母さん。さすがに俺でも、それを勘で嗅ぎつけるのは無茶だよ……」

 

〈あら?〉

 

 俺が微妙な反応をすれば、真夜は意外感を声にした。俺の事を高く買いすぎではないか。

 

「でも、そうだな……。九島がそれを利用するかもしれないか……。母さん、強硬派からの圧力で人の目が行き届かないような競技、足されようとしてないかい?」

 

 九島の思惑に話を持っていくのには都合が良いので、俺は強硬派からの圧力について拾い上げる。

 

〈スティープルチェース・クロスカントリーがそうかしら。森林の中で障害物競走する競技よ。森林の中だから、テレビに映し出される場所は極一部でしょうね〉

 

「と、するならば。九島がそこでパラサイト兵器をテスト運用するかもしれない」

 

〈P兵器、「P」はパラサイトのイニシャルだったのね。でも、8月には間に合わないでしょう〉

 

 九島がパラサイドールを作ろうとしているのまでは、真夜も知り得ていた。しかし、周公瑾の協力までは知り得ておらず、九校戦開始までに完成しないと見積もっている。まぁ、周公瑾が隠蔽しているだろうから仕方がない。

 それで、俺はどう周公瑾が協力している事を伝えるか、頭を悩ませる。真夜の情報網で引っかからないそれは、俺が知っていて良いモノではない。俺と周公瑾の関係は伏せておきたいので、素直に仔細を話せるモノでもない。それらを考慮し、俺は言葉を選ぶ。

 

「……母さん。それが、間に合うかもしれないんだ」

 

〈……どういう事かしら〉

 

「妖魔の制御に長けた古式魔法師が、九島の食客として迎え入れられるかもしれない」

 

〈そんな!伝統派が九島に与するはずが……。まさか、周公瑾が手引きを?〉

 

 既知の情報を組み合わせて正解に至った真夜へ、俺は赤丸を付けるように頷く。

 

〈十六夜、その情報はどうやって知ったの?〉

 

「情報が送られてきたんだ。送り主は、周公瑾と名乗っていたよ」

 

〈周公瑾が?いったいどうして……〉

 

 真夜は敵自体が情報源である事に困惑し、深く考え込んだ。

 

「意図については全く」

 

 上客へのサービス、との事だったが、現状においてそんなサービスをする必要はないだろう。次の周公瑾で良好な関係を構築するための点数稼ぎ、とは考えられる。とりあえず、彼との契約を隠すため、俺は意図が読めていない事にした。

 

〈罠か、裏切りか。罠にしても、回りくどい。裏切りにしても、自白では売り込みになっていない〉

 

「母さん。周公瑾の前に九島をどうにかした方が良いかもしれない。あくまで俺の勘だけど、高校生の大会が兵器の試験場にされるかもしれない」

 

 真夜が万が一にも周公瑾と俺の関係を導き出さないように、俺は九島について言及し、矛先を逸らす。

 

〈……試験場にされる可能性は高いでしょうね。強硬派の圧力なんて、九島閣下が黙っているはずがないわ。なのに、今回は黙認した。試験場として打ってつけの競技を用意してくれたからでしょうね〉

 

 真夜は俺の勘を補足し、極めて現実的な可能性である事を論じた。

 

強請(ゆす)る種としては充分だ、母さん。九島に交渉しよう」

 

〈いえ、十六夜。対処は先送りにするわ。もっと決定的な弱みが欲しいの〉

 

 問題が起こる前に止めようと提案した俺に待ったをかけ、真夜は妖艶さを醸し出す。

 

「それは、九島を貶めるため?」

 

〈しばらく大人しくしてもらうだけよ。九島と軍内部の落ち着きがない人たち、それと七草にね〉

 

 真夜は四葉にとって目障りな勢力を抑え込む材料が欲しいようだ。この問題がそれに丁度良い材料と判断したらしい。俺が聞く限りでも三者を一気に吊り上げられそうな、見事な問題である。

 七草に関しては本気で干しに行かないか心配だが、この場は彼女の言葉を信じよう。

 

「分かった。独断行動はしないよ」

 

〈ええ。むしろ、十六夜は動かなくて良いわ〉

 

「……理由を訊いても?」

 

 原作改変は諦めたが、それでも真夜から未介入を推されるのは予想外だった。パラサイト相手となれば、俺を使わない手はないだろうに。

 

〈十六夜。貴方の行動が注目を集める事、自覚していないのかしら〉

 

「……最近目立った行動はしてないけど」

 

 真夜からそう諫められるも、俺には心当たりがない。今年の1・2月にはパラサイトの対処で結構動いたが、それだって派手な行動でもないし、4か月近く前だ。ほとぼりがあっても冷めているだろう。

 

〈十六夜、貴方はどうしてそんなに自己評価が低いのかしら。同世代で貴方と張り合える人間が少ない事は、去年の九校戦で知らしめているでしょうに。それを差し引いたって、貴方は私の息子、四葉家次期当主の最有力候補なのよ?そんな貴方に目を付けていない者なんて居ないわ〉

 

「……認識が甘かった事は深く反省いたします。説教も後日であれば甘んじて受け入れますので、何卒ご容赦をいただきたく」

 

 真夜の続きそうな諫言に、俺はマニュアル対応のような平謝りを噛ました。諫言を中断できはしたが、彼女から困った我が子に対するような溜息を貰う。

 

「とにかくだ、母さん。俺を動かさないとなると、誰に対処させるんだい?深雪に火の粉が飛ぶ以上、達也は勝手に動くだろうけど。達也だけでは荷が重いよ」

 

〈魔装大隊を動かします。別派閥の不祥事に、国防軍と九島の癒着切除。これだけエサがあれば乗ってくるでしょう〉

 

 罠を最大限警戒してか、真夜は直接手を下さないと宣言した。周公瑾の捜索で手が空いていない、というのもあるか。

 

〈パラサイトが関連しているならば九重(ここのえ)八雲(やくも)も動くわね。あの人が動いてくれるなら、後顧の憂いもないわ〉

 

「達也の師匠が?世捨て人って話だけど」

 

〈仏門に入った程度でしがらみが断てるなら、まさしく安楽浄土ね。でも無理よ。彼の先代からして、魔を嫌う集団の一員なのですから〉

 

 原作においてもかなり活動的だった世捨て人、九重八雲。真夜はその男がしがらみに囚われていると表現した。つまり、あるのだろう。彼の背後に彼を操る集団が。

 そして、その集団が「魔を嫌う集団」。周公瑾も同じフレーズを用いていた。しかし、それが組織の名称なのか、あくまで通称なのか、俺には測りかねる。

 

「まぁ、何にせよ。あの方が動いてくれるなら、パラサイトが解放されても安心だね」

 

 測りかねないモノに思考を巡らせても意味がないと、俺は今回の対処について頭を切り替えた。

 達也と魔装大隊だけではパラサイトという古式魔法の分野に対応できない懸念があったが、専門たる古式魔法師が対応してくれるなら、なるほど、後顧の憂いは確かにない。

 

「納得したよ。じゃあ俺は裏方に回らず、表舞台で皆の気を引くとしようか」

 

〈うふふ。そうね、九校戦で盛大に活躍して頂戴〉

 

 俺は自身の役回りを割り出し、真夜からの許可も得た。彼女の許可に期待が込められている事を、俺は如実に感じ取る。

 

「時間を取らせちゃったね。大分夜も深まってきたからそろそろ寝ないと。夜更かしは肌に悪いし」

 

〈十六夜と話せるなら時間なんていくらでも取って良いわよ?十分な睡眠より十六夜分の方がお肌に良いわ〉

 

「また添い寝すれば、十分な睡眠と十六夜分が取れるかな?」

 

〈そ、それは……。過剰摂取よ……〉

 

 真夜は恥ずかしがりながら遠回しに遠慮した。

 十六夜分というのは糖分か何かなのか。

 

「あんまり無理はしないでね、母さん」

 

〈ええ。十六夜も〉

 

 俺と真夜は親子のように、互いの体に気遣った。

 そうした後に、就寝の挨拶で通話が切れる。

 

「さてと。九校戦、ちょっと作戦を変えようか」

 

 俺はあらかじめ用意していた作戦を練り直し始めた。

 真夜を喜ばせるような作戦でなければならない。安牌を切るような作戦では不十分だ。

 真夜の息子を演じるために、真夜の期待に応えなければならない。

 無能の己を払拭するために、俺は有能さを示し続けねばならない。

 罪を償うために、俺はそうしなければならないのだ。




やはり君も『四葉』なのか:人を殺す事へと特化していくその家系に、九島烈は憐みを覚えていた。どうしてそう血濡れた道ばかりを選んでしまうのか、と。

十六夜分:(場の雰囲気的に)甘いし(緊張やら何やらで心拍数が上がって)熱量も生み出すので、そういう意味では糖分に分類しても良いかもしれない。良くないが。

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