魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

56 / 179
第五十六話 順風満帆で準備万端?

2096年7月14日

 

 10日から昨日までの定期試験で一時中断されていた九校戦の練習が再開となる今日。俺はもちろんロアー・アンド・ガンナーの練習――

 

「照準はCADに頼らない方が良いかもしれないな、森崎さん。照準付ける時に重心が動くせいで船が揺れてる」

 

「そうか、それが思った以上にスピード出せない理由か。すまん、五十嵐」

 

「い、いや。僕の技量が足りないせいだよ。僕の方こそ、ごめん」

 

――ではなく、男子ロアー・アンド・ガンナーペアの練習に付き合っていた。

 何故だろう、デジャヴを感じる。

 

「とりあえず、森崎さんは『ドロウレス』でやってみてくれ。足場が動いて大変だとは思うけど」

 

「なめるなよ、四葉。足場が動こうが的が動こうが問題ない。じゃなきゃボディーガードなんて務まるか」

 

 森崎は多少険のある言葉を返すが、俺を嫌っているというより、俺の挑発にあえて乗ったような様子だ。俺は挑発なんてしてないが、まぁ気合が入ったようなので良しとする。それに、俺と森崎はだいたいいつもこんな感じなのだ。

 

「と、ところでなんだけど……」

 

「ん?何かな」

 

「どうかしたか、五十嵐」

 

「いや、なんで四葉君は練習してないのかなって」

 

 五十嵐が気まずそうにそう指摘するが、そういえば俺が練習していない事情を話していなかった。

 

「大方、必勝の策が出来上がってて、暇つぶしがてら、同じ競技でかつ交流が比較的多い俺たちへのアドバイスに徹してるんだろ。なぁ、四葉」

 

「だいたい合ってるね。必勝って程ではないけど、良い策がもう完成してるのさ。何度やってもほぼ同じタイムしか出ないから、やるだけ無駄って事になったんだ」

 

「やっぱりか……」

 

「えぇ……」

 

 森崎の推測を俺が補足すれば、森崎には呆れられるし、五十嵐には引かれる。何かやってしまっただろうか。

 

「暇なんだったら北山さんの手伝いへ行ったらどうだ」

 

「雫の?ソロである深雪なら分からないでもないが、またどうしてペアの方を勧めるんだ?」

 

 アイス・ピラーズ・ブレイクは現在、ソロとペアで勝手の違う事が指摘され、女子ソロと男子ソロ、女子ペアと男子ペアという別れ方で練習している。

 だが、まぁ当然と言えば当然なのだが。男子ソロの選手では深雪の練習相手として力不足であるのが否めなかった。

 上記2つを踏まえた上で、まず、俺がペアの練習相手及びコーチをやるのは適していない事についてだが。得意競技でもないため、実際練習しているロアー・アンド・ガンナーならまだしも、ペアへ適切なアドバイスができるか怪しいのだ。勝手が違うと言われているところへ、素人がソロの視点でコーチしてしまったら、酷い結末になるのが容易に予想できる。

 次に、俺がソロの練習相手をやるのは適している事についてだが。第一高校で深雪に比肩し得るのは、最早俺しかいないのだ。魔法科九校合わせても、おそらく片手で足りるだろう。

 故に、行くならば深雪の方だろうに、森崎が雫の方を勧めた所以が不明だった。

 

「お前、マジで言ってるのか」

 

「え、いや、マジなんだが……」

 

 森崎は口調が砕ける程驚いているが、俺にはまるで見当が付かない。

 

「これは、うん。北山さん、大変そうだね……」

 

「ああ。さすがにこれは俺でも同情する」

 

「何?何の話なんだ?」

 

「悪いが、俺から口に出すつもりはない。北山さんの名誉のためだ」

 

「僕も悪いけど……。変に口出しして状況を悪化させたくないし」

 

 俺が問い詰めても、森崎は強く口を結び、五十嵐は目を逸らした。

 これは、思うに恋愛話ではなかろうか。

 いつぞや明記した気がするが、俺と雫の関係は公言していない。雫からすでに告白されている事は、俺はもちろん、達也一団も漏らしていないのだ。だが、雫のアプローチはあからさま。そのため、雫の片思いが俺に伝わっていないと、周りはそう勘違いしているのかもしれない。

 まぁ、不都合はないので流すとしよう。素直に補足しても、俺が告白にはっきり返事をしない優柔不断な男と見做されてしまいかねない。

 

「なんだか釈然とはしないが、森崎さんがそう言うなら何か意味があるんだろう。雫の方にも時間が合ったら行ってみるよ。今日はもう駄目そうだけどね」

 

「そうか、クロスカントリーの練習時間か」

 

 俺がロアー・アンド・ガンナー練習場の時計を指差せば、森崎はスティープルチェース・クロスカントリーの練習時間が迫っている事をその時計の針に教えられた。

 

 スティープルチェース・クロスカントリーの練習は実際の競技でどのような障害物が用意されるのか完全なる未知であるため、演習林を走り抜けるだけの基礎練習しかできない。男女で障害物が違うのかも未知であり、よって男女区別するのは無駄であると、男女一挙に練習する。

 それで、全員集まるのなら練習の締めに丁度良いという事で、練習時間の最後にスティープルチェース・クロスカントリーの練習が割り当てられている。

 

「さて、準備しなくちゃいけない事もあるし。俺は一足先に演習林へ向かうとするよ」

 

 俺はそうして傍らにあった保冷庫CADを背負いつつ、その場を後にした。

 

 

 

 普段は山岳部、最近はモノリス・コードの選手に使われている演習林。その都合上、モノリス・コードの選手は既に居た。だが、それ以外はまだ居らず、徐々に集まる選手たちから保冷庫CADへ好奇の視線を受けながら、全員が集まるのを待った。

 

「四葉、その箱は何だ」

 

 全員が集まったのを見計らい、服部が皆の好奇を代表した。

 

「これはちょっと特殊なCADでして。単純に言えば、保冷庫兼CADです」

 

「保冷庫?」

 

「はい。中に冷凍した物が入ってるんですが、確認しますか?」

 

 疑問を抱く服部へより正確な説明をすべく保冷庫の蓋を開ければ、服部だけでなく千代田や五十里、雫やほのか、それに幹比古までもが中を確認しに来る。

 

「……梟?」

 

「内約としては、エゾフクロウ、トウホクフクロウ、ウラルフクロウ。それぞれ2体ずつです」

 

「……なんで梟を冷凍保存してるんだ?」

 

「えーと、それはですね……」

 

 服部の疑問が膨れ上がる中、俺は今更どう説明したものかと悩んでしまった。というか、何処から説明したものか。

 

「十六夜、実演した方が早い」

 

「それもそうだな。じゃあ、すみません。ちょっと離れてください」

 

 「百聞は一見に如かず」と言う。俺の作戦を事前に伝えてある達也もそう判断した事だし、俺は実演に取りかかった。

 

 CADに組み込まれている解凍用の魔法で6体を解凍。解凍が終わるとすぐさま、生前と同じように梟たちが箱より飛び立つ。幾人かが各々びっくりして、声を上げたり、一瞬身を竦めたりしていた。

 

「その梟、生きていたのか」

 

「いいえ、死んでいます。冷凍する前から死んでいる、梟の死骸です」

 

「しかし、現に生きているじゃないか」

 

 服部の言う通り、俺の肩や箱の縁に止まる梟はまるで生きているかのようである。しかし、この梟たちは死骸なのだ。仮初の命を与えられているに過ぎない。

 

「ま、まさか!『付喪神』なのか!?」

 

「その通りだ、幹比古さん。この梟たちは、『傀儡法』や『ゴーレム魔法』に類似した魔法で俺が動かしています」

 

 すでに『付喪神』の概要を知っているからこそ、推測できた幹比古。しかし、それでも信じられないとばかりに目を瞠ったので、俺は一応幹比古の推測を肯定しつつ、他の皆に大まかな説明をした。『傀儡法』や『ゴーレム魔法』といった古式魔法に明るくない皆はまだ疑問が完全に解消されないまでも、それを言葉にはしてこない。

 

「では、これをスティープルチェース・クロスカントリーでどのように活かすか、ですが。服部さん、ちょっと実演に付き合ってください」

 

「……何をすれば良いんだ?」

 

「携帯端末に好きな文章を書いてください。俺は目隠しした上で、その文章を当てます。それと、肩をお借りしますね」

 

「肩を借りる?……ああ、梟を乗せるって事か」

 

 服部は死んでいるらしくも生きているかのような梟が肩に乗った事へ奇妙な気分を味わうも、それを拒まなかった。皆の疑問を代表したのだから、最後まで責任を持つ構えか。

 

「では、どうぞ」

 

「……」

 

 俺が目をハンカチで覆ったところで、服部は眉根を歪めながらも文章を書き始める。その間、服部の肩に乗っている梟は、服部の端末を凝視していた。

 

「書き終えた」

 

「服部刑部、と誤入力したのを消して、その後に、八面六臂、八王子、八艘(はっそう)飛び、八層同時展開障壁魔法予備補充型、ハーブティー、伯方の塩と箇条書きしましたね」

 

「……誤入力したのまで正解だ」

 

「マジ!?」

 

 服部は微妙な表情を浮かべ、千代田は自身の目で事実か確かめるべく服部の端末を覗き込んだ。それで、事実であると確かめれば、千代田も服部と同じ表情になった。

 ちなみに、俺はまだハンカチで目を覆っているが、その様子を()()()()()()

 

 頭文字が「は」である事以外ほとんど統一性のない文字列。構想中の魔法らしきそれに、「伯方の塩」なんて服部らしくない単語も加えられている。勘で当てられないよう努力してくれたようだ。そして、それらが全て、消された単語まで当てられたのである。微妙な表情になるのも無理はない。

 

「仕掛けの種は、梟の目です。『付喪神』で動かしている梟と俺は視覚を共有しています」

 

「……本当なのか」

 

 そう訊ねる服部は半ば呆然としており、幹比古なんかは驚き過ぎたのか、仰け反った姿勢で固まっていた。

 

「本当です。だから、雫とほのかさん、それに五十里さんの3人が余ってる梟撫でまわしてるのも見えてます」

 

「……1匹貰って良い?」

 

「……俺が魔法を解いたらただの死骸だからな?その梟」

 

 五十里は興味深く、ほのかは可愛がるように撫でていた手を引っ込めたというのに、雫は悪びれもせずに撫でまわし続けている。梟の可愛さにあてられでもしたか。

 実は視覚どころか五感を共有しているためにくすぐったいので、梟を羽ばたかせて雫の手から逃れさせる。俺の頭に避難させ、ついでに操作性のパフォーマンスとしてその梟で目隠しのハンカチを解かせた。

 雫はまだ名残惜しそうに手を伸ばしている。

 

「えーと、話を戻しますと。俺と梟はこのように視覚を共有しておりますので、この梟をスティープルチェース・クロスカントリーで斥候として用いようかと考えています」

 

「地形の把握において、まず間違いなく他の学校よりリードを得られます。より安全なルートを選択できるでしょうし、そうなればトップ3を第一高校で埋めるのも不可能ではないでしょう」

 

 俺の考えに達也が有効性を補足した。明確にされた有効性に、皆が各々感嘆する。

 

「という事で、トップ3独占を最優先にしようかと」

 

「あ、ああ……。その作戦で行けるなら、それで行こう」

 

 呆然としたところから脱しきれてはいない服部だが、有効性を理解する分の頭は稼働しているようで、その作戦を認可した。

 

「では、これよりテストを始めたいと思います」

 

「……急にどうした、司波」

 

「十六夜に付いていけるかのテストをこれから行います」

 

「……は?」

 

 残念ながら、達也が発した言葉の意味を理解する分の頭は、服部に残っていなかったらしい。

 

「ですから、トップ3を埋めるための人員、十六夜の速度に付いていける2名の選定をするのです」

 

「……つまりはあれか。体育の授業で度々おかしい事をやっていると噂の四葉が全力疾走するのに付いていけと」

 

 超人である事を隠すために手を抜いてはいるのだが、それでも服部に冷や汗をかかせて余りある。なんせ、全国高校統一で行われる体力測定で男子総合1位を取った男のそれだ。魔法科生でなければ、今頃強化選手にでも指定されていただろう。

 

「いえ、トップをほぼ確実に取れる程度に抑えるよう言い含めてありますので、全力ではありません」

 

「……」

 

 服部の顔には「大差ないだろう、それ」と書かれていた。

 

「これから10分後にテストを始めますので、各自で準備運動する事をお勧めします」

 

 達也よりそう宣言された男子選手たちは慌ただしく装備の見直しと準備運動に取り掛かる。

 

「……男子の方だけそんなチートがあるのズルいなって、ちょっと恨んでたんだけど。なんか、うん。男女別で良かった」

 

 10分後に演習林を全力疾走させられ、本番でも俺に付いていけるよう全力疾走しなければならない悲劇を鑑み、千代田は男子選手たちに同情の眼差しを向けていた。

 

 一応弁解しておくが、俺はちゃんと一般的な山駆けを参考にしたペースで走るつもりである。それはそれとして、今回は俺にどの程度付いてこられるかのテストなので、この後無茶苦茶疾走した。

 結果、付いてこられる者は1人も居なかった。だから、2着の服部、3着の幹比古が暫定的にトップ3独占メンバーとなったのだった。

 

◇◇◇

 

2096年7月23日

 

〈パラサイドールについて、貢さんたちに一応裏付けを取らせたわ。十六夜の言った通り、もう試運転ができる段階まで開発が進んでいました。助かったわ、十六夜〉

 

「母さんなら助言するまでもなく嗅ぎつけてただろうから、俺の功績なんて微々たるモノだろうけどね」

 

〈もう、十六夜ったら〉

 

 夕飯後の通話。急を要する程ではない念のための情報共有で、真夜に溜息を吐かれてしまった。俺は事実を述べただけなのだが。

 

「とりあえず。達也の方はどうなの?あんまり達也に情報を与えると、未然に解決しかねないけど」

 

〈貢さんたちが提供したパラサイドール以外には進展がなさそうね。九重八雲が何処まで掴んで何処まで達也さんに回したかは不鮮明だけど、達也さんがあまり動いていない事からして、大して回してはいないでしょう。それと、軍からも回っていませんし、不審なメールの送り主も流していないようです〉

 

「なんだか可哀想になってきたな、達也」

 

 精力的に情報収集をしているのに、誰も味方をしてくれない達也。下手を打てば暴れ出す可能性があるとはいえ、俺は達也への同情を禁じ得ない。俺も情報を与えていないうちの一人だが、俺は首輪付きも同然なので許してほしい。

 

〈パラサイドールに関してだけど、やはり大陸系の古式魔法が組み込まれている痕跡があったわ〉

 

「大陸からの亡命者が協力しているとなれば、周公瑾が手引きしたのは確実か」

 

〈そうね。おかげで、余計に周公瑾の意図が分からなくなったしまったわね〉

 

 悩まし気に眉間を人差し指で突っつく真夜。俺は口が裂けても俺へのサービスであると言えず、顔を顰める。

 

〈分からなくなったのだけど、捕まえてしまえば済む話ね。いずれまた九島か七草に接触を図るでしょう。その時に捕縛してしまえば、ようやく悩みの種が1つ消えるわ。網はすでに張った事ですし、これで思う存分、十六夜が九校戦で活躍する姿を観戦できます〉

 

 悩みの解決を目前にし、真夜は朗らかな笑みを浮かべた。いや、もしかして邪魔なく観戦できる方がその笑みの理由だろうか。

 

「九校戦か。そういえば文弥さんたちは出場するのかな?」

 

 原作では第四高の選手として出場していたが、俺はまだその擦り合わせを行っていない。原作で広まっていた、四葉家の配下に黒羽という分家があるという噂を耳にしていないのもあり、俺は原作と大きく乖離している事を懸念していた。

 

〈出場するわ、そういう命を与えたんですもの〉

 

 出場に関しては乖離していないようだ。朧げな記憶だが、真夜の命であるのも同じだったはずだ。

 

「懇親会で会うかもしれないけど、話すべきではないかな?」

 

〈ええ、彼らを四葉の関係者と明かすのは時期尚早でしょう。しかし、達也さんたちと遠い親戚であるようには振る舞わせます〉

 

 真夜は手札1枚の公開を選択していた。

 達也を四葉の関係者と明かせば、連鎖的に黒羽が四葉の関係者と明かされてしまうリスクはある。しかし、四葉家の情報収集部隊である黒羽から、達也へ迅速に情報伝達できるリターンがある。隠密も得意な部隊だ。フリズスキャルヴに傍受されない書類もしくは口伝で、秘密裏に情報伝達できる。リターンの方が上回っていると勘定しても妥当だ。

 

〈達也さんと深雪さんの親戚ともなれば、派手な活躍をしても大きく騒がれはしないでしょう。達也さんたちをあたかも数字落ち(エクストラ)であるかのよう、十六夜が事前に喧伝してくれたおかげね〉

 

 以前、俺は真由美や一条に達也たちがエクストラであるとミスリードしたが、それが影で広まっていたのかもしれない。どうやらそれが功を奏し、真夜はスムーズに策略を進めていた。

 

「そうせざるを得なかっただけさ。達也も深雪も、手加減が下手だからね」

 

 主席入学を深雪に取られたり、劣等生に収まらない活躍を達也がしたりで、傍に居る俺としては肝を冷やし続けたものだ。カバーストーリーでも作って、どうにか疑惑の目を逸らさなければ、俺は胃を痛めるところだった。深雪に抜かれ続けていた魔法実技の成績は、増設魔法演算領域のおかげもあって、昨年度の学年末試験には抜き返せたが。彼女の辞書には「手加減」という単語がおそらくない。

 

〈そうね、あの二人の暴れ具合と言ったら……〉

 

 真夜からの共感を得られた事に、心労を抱えていたのは俺だけでなかったと、少し心が安らいだ。

 

「まぁ、とにかく。これで文弥さんたちも歯痒い思いをせずに済むかな」

 

〈きっと、気持ち良く戦ってくれるわよ〉

 

「それは何より」

 

 降って湧いた副次効果ではあるが、真夜の一助となれたならば僥倖だ。

 

〈それより。十六夜の方は大丈夫なの?〉

 

「準備万端だけど。何か心配が?」

 

 真夜の本心から心配している様子に、俺自身に何か見落としがあるのかと不安に駆られた。

 

〈達也さんに頼んだ完全思考操作型CAD、まだ完成していないようだけど?〉

 

「ああ、それか」

 

 真夜は俺の依頼品が完成していない事を心配していたのだ。FLTは四葉の息がかかった企業。真夜が探ろうとすればいくらでも探れる。本番を待ちきれない真夜は俺の準備をひっそり探っていたという訳だ。

 驚かせるために、九校戦での策を秘密にしているのが徒になった。だが、ここまで秘密にしたのだから最後まで秘密にしたい。完全思考操作型CADの勘違いだけ正しておこう。

 

「それは九校戦で使わないよ」

 

〈じゃあ、何に使うの?〉

 

「真由美さんにプレゼントするのさ」

 

〈……弘一の娘に?〉

 

 さっきまで和やかだった雰囲気が一気に不穏になる。

 失敗したかもしれない。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」と言うように、真夜は弘一が憎ければその娘である真由美も憎いのか。

 

「母さん、落ち着いて。プレゼントとは言ったが、あくまで謝罪の品だ」

 

〈……いったい何をされたの〉

 

 謝罪の品と言っているのに、真夜は俺が害を被ったと断定していた。その上で言い逃れを許さぬ追及。困った事が、その発端が見方によっては害を被ったように捉えられる事である。そう、俺がほぼ全裸を見られた事だ。

 

「えーと……。されたって言うか、しちゃったって言うか」

 

〈十六夜〉

 

「はい。脱衣所の鍵を閉め忘れ、着替えてるところで真由美さんと鉢合わせました」

 

 真夜の迫力に負け、俺は素直に吐いた。

 

〈……服は着てたの〉

 

「ボクサーブリーフだけ」

 

〈はぁぁ!?あの女が十六夜のほぼ全裸を!?私だってまだなのに!?〉

 

 真夜の怒りが噴火した。

 

「母さん、落ち着いて!」

 

〈落ち着いてなんていられないわよ!誰の許可を得て十六夜の裸をその目にして脳裏に刻み込んでいるのあのアマぁ!!〉

 

「口調が!口調が拙い事になってるから、母さん!」

 

 その後、数十分を俺は真夜の説得に費やす。この夏に実家へ帰り、真夜のお願いを1つ聞く約束で、なんとか真夜の怒りを鎮めたのだった。




エゾフクロウ、トウホクフクロウ、ウラルフクロウ:鳥類でも飛行の静音性及び旋回性が高く、夜目が利き、寒冷化に対応していて日本中で姿を確認されているため、十六夜はその三種を選んだ。

「……1匹貰って良い?」:雫は『付喪神』について十六夜本人から聞き及んでおり、パラサイトの性質も十六夜とレイモンドから説明されて多少把握している。つまり、雫は十六夜の分身を欲しがったのである。

十六夜が体育で度々やってるおかしい事:バスケでは自陣のゴール下から決める超長距離スリーポイントシュート、テニスではポールの外側を通してコート内にボールを入れるカーブボール、レスリングでは相手の防御に応じて変化する防御無視タックル等々。

 閲覧、感謝します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。