魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第五十八話 未知に灯す火は少なし

2096年8月4日

 

 懇親会の翌日かつ九校戦の前日。選手たちが英気を養うその日、俺にとってその1日が始まるのは少し遅かった。

 

「ふぁー……」

 

 欠伸と伸びをしてから時計を見れば、「午前10:13」と表示されている。

 

「おはよう、十六夜。君は朝に弱かったりするのかい?規則正しい生活してると勝手に想像してたんだけど。それとも、やっぱり昨日の不調が?」

 

「おはよう、幹比古さん。単に昨日寝るのが遅かっただけだよ。約8時間の健康的な睡眠をとった結果がこの時間というだけさ。体調は万全だよ」

 

 同室である幹比古と朝の挨拶を交わし、さりげなく心配されたので弁解した。万全さを表すように、ついでに眠気覚ましとして、軽やかな柔軟体操をしてみせる。

 

「……なんで寝るのが遅かったんだい?」

 

「夜遅くに運動してただけさ。あまり、そういう姿を晒すのは好きじゃなくてね」

 

 「好きじゃない」というか、「晒したら拙い」が正しい。超人の運動など露見したくないものだ。夜に調査を始めるだろう達也や黒羽姉弟が居たため、さらに夜遅い時間を狙わなければいけなかったのが、さらに夜更かしした理由である。

 

「まぁ、そういう事なら良いんだ」

 

「心配しすぎだよ。でも、ありがとう」

 

 俺を気遣ってくれている事に感謝を述べれば、幹比古は気恥ずかしそうに頬をかく。

 

「と、ところで。朝食はどうするんだ?もうお昼も近いけど」

 

 気恥ずかしさから逃げるために逸らした話題が、またもや俺への気遣いだった。彼の親切心は留まる事を知らない。

 

「そうだね、軽食に留めてお昼まで持たせようか」

 

「何か買ってこようかい?」

 

「いや、幹比古さん……。使い走りじゃないんだから……」

 

 さすがにここまで気遣いされると苦笑を禁じ得ない。

 本当に、雫も時折押しが強いが、幹比古も時折気遣いが激しくなる。多少の貸しでここまで返されると、貸したこっちが気負ってしまうものだ。

 

「そうだな……。なんだったら一緒にティーラウンジにでも行くかい、あの九校戦会場近くの。あそこのケーキ、結構美味しくてさ。また食べたかったんだ」

 

「付き合うよ。でもちょっと待って。北山さんにも連絡するから」

 

「なんでここで雫?」

 

「え、あー、えっと……。お、男2人でティーラウンジって変だろ……?」

 

 幹比古の目を泳がせた所作も相まって、どう聞いたって取って付けた理由だった。まぁ、幹比古も雫の恋愛を応援したいのかもしれない。

 

「そう言われれば、そうか?じゃあ、そういう事で。連絡している間に俺は着替えてるよ」

 

「うん」

 

 一安心したように息を吐いてから携帯端末を探し始める幹比古を横目に、俺は部屋毎にあるシャワールームの脱衣所へ引っ込む。俺はしっかりと鍵を締めつつ、制服に着替え、長い髪を梳かしていった。

 幹比古が端末の捜索に難航する様子を耳にしながら、俺は身支度を整え終える。そして、丁度幹比古が端末を見つけた時、ドアのノック音が部屋に響いた。

 

「はい」

 

 ドアに近かった幹比古が来訪者を出迎える。

 

「こちら、四葉十六夜様が宿泊しているお部屋でしょうか?」

 

「俺に何か御用ですか?」

 

 俺は脱衣所から出て幹比古越しに来訪者を見ると、その来訪者はビジネススーツを着た男性だった。学生服を着た九校戦選手でもなければ腕章を付けた運営スタッフでもない。

 その男性はまず急な来訪を謝るように一礼する。

 

「九島烈様が四葉十六夜様とお話をしたいとの事。急ではありますが、お時間いただけませんでしょうか」

 

 その男は烈の使いだった。突然の大御所に、幹比古は目を瞠っている。

 

「お話、ですか?」

 

 俺も、あからさまな態度はしなかったが、意表を突かれていた。

 このタイミングでの呼び出し。もしや、烈が原作と違った行動を起こした理由に由来するモノではないだろうか。ならば、本人と対面する前に、多少でも良いから事前調査がしたい。

 

「申し訳ありませんが、何の話かという事について、わたくしは伺っておりません。ただ、十六夜様の意見をお聞きしたいと、仰っていました」

 

 残念ながら、望む情報は出そうにない。その使いは漠然かつ不鮮明な応答だけし、俺が首を縦に振るのを待っていた。

 

「分かりました、お話を伺いましょう。という事で。悪いな、幹比古さん」

 

 強く断れる材料はない。即応しなかった事を怪しまれぬよう、友人との先約があったように取り繕った。

 

「ぼ、僕の方は別に良いから」

 

「そうかい?ま、機会があったら埋め合わせするよ。では、案内を頼みます」

 

 一応幹比古へ謝意を示してから、使いに案内を促した。

 

「ありがとうございます、十六夜様。それでは、わたくしに着いてきてください」

 

 使いが一礼してから先導しだし、俺はそれに付いていく。

 

 

 

「この部屋でお待ちです」

 

 使いが前で立ち止まった部屋は、選手が宿泊するホテルの上階にある、会議用に誂えられた一室。去年の九校戦で烈と顔を合わせた場所と同種の部屋だ。

 

 俺は緊張する己を落ち着かせてから、扉をノックする。

 

「入りたまえ」

 

「失礼します」

 

 部屋の主から許可を得て入室する。去年の焼き直しのようなやりとりだ。

 

「お元気そうで何よりです、九島閣下」

 

「はは、まだまだ現役だとも」

 

 しかし、去年と違って真夜は居らず、そこには烈のみ。故に、俺は1人で切り抜けねばならない。

 

「あまり長く現役で居られると、いらぬ恨みを買ってしまうのではないでしょうか」

 

「はははははは!全く以って君の言う通りだ!最近は様々なところから「そろそろ体を気遣っては如何ですか?」と、遠回しに「隠居しろ爺」なんて言われておるよ」

 

「……それは額面通りに受け取っても良いのでは」

 

「2・3割はそうだろうな」

 

 皮肉から切り出してみるも、烈は余裕の笑みを浮かべていた。本物の戦争を体験した彼にとって、そんなやっかみなどそよ風に等しい訳だ。

 

「彼らの気持ちは重々理解できる。いつまでも古い価値観に囚われた老いぼれが居座っていては、変革もしづらいだろう。無理に押し通せば下克上などと、血生臭い事態を招きかねない」

 

 時代の変化に対応できていない事と諍いが起きかねない事を憂い、烈は眉根を歪めた。

 

「なのでな、1つ私も新しい風を吹かせようじゃないか。その事について、十六夜君の意見を聞きたかったのだよ」

 

「新しい風、ですか?」

 

「まぁ、まずは腰を落ち着けたまえよ」

 

 俺の疑問を保留し、まずは着席を烈が促してくる。

 どうにも、パラサイドールの話ではないらしい。怪しい話とも受け取れない。

 俺は仕方なく様子見として、烈の対面に座った。

 

「新しい風というのは、魔法師の新しい活躍の場についてだ」

 

 烈は俺の着席を快く見届け、話を切り出す。

 

「俺が以前述べた、魔法師として生きる道の少ない事を真面目にお考えなされたのですか?」

 

「そうだとも。意外かね?」

 

 たかだか学生、それも高校生の言葉にその道の権威が頭を悩ませたとなれば、それは意外以外にない。

 俺は多少躊躇したが、首を縦に振った。

 

「あっはっはっ!これは手厳しい。これでも、魔法師の未来のために色々頑張っているのだがね」

 

「もちろん閣下の日本魔法師に対する貢献は存じています。しかし、必要なのは俺の意見ですか?」

 

 何故素人の意見になびいているのか。そういうのは有識者からの意見を参考にしてほしいものである。

 

「君くらいのものだよ。私に正面切って、「兵士としてある事が魔法師として生きる数少ない道である」と陳述したのは」

 

「それは、閣下の元まで届けるのは難しい事では。そんな事で閣下の手を煩わせたい人間は居ないでしょうし」

 

「それなんだよ」

 

 烈は俺の発言を受けて、少し茶化して俺に指を差した。

 

「それ、とは」

 

「誰も私のところまでその意見を上げてこないんだ。誰も彼もその深刻さに気付いていない。その深刻さに気付いているのは、本当に十六夜君くらいだ」

 

 烈は溜息まで吐いて、如何に周りが視野狭窄になっているのかを悲しんだ。

 それにしても、俺が兵士としてある道を、戦略級魔法師の箔を守るために述べた言葉が、随分と高く評価されたものである。正直、俺は内心困っている。

 

「それで、君に訊きたかったのだ。魔法師には、他にどんな活躍の場があるだろうか」

 

 烈は実に真剣に、俺の目を覗いた。

 さて、俺は前述通り困っている。こんなに話が大きくなるとは予想できなかった。

 しかし、意見を求められている以上はその場しのぎにはぐらかすべきではない。無能を晒すべきではない。せめて、思った事を素直に意見するとしよう。

 

「むしろ、どんな場所で活躍できないのですか?」

 

「ほう?」

 

 烈は興味深く耳を傾ける。

 大層な意見ではないが、その先をしっかり言葉にせねばならないようだ。

 

「今年の4月に第一高で行われた公開実験の事は?」

 

「もちろん知っている。常駐型重力制御魔法式熱核融合炉。生徒主導で行われた、その公開実験だろう?」

 

「ええ。揃っていた人員は生徒の中でも選りすぐりの者たちでしたが、魔法師によって都市の電力を賄える可能性を提示した、非常に意義のある実験でした」

 

「なるほどな。優れた魔法師ならば、そういう道に進め得るか」

 

 電力供給の道に魔法師の活躍の場がある事を、烈も納得した。

 

「優れた魔法師だけではありません。例えば、土木業。重い物資を運ぶのに、移動系は充分使えるでしょう。運ぶ物資の耐久力よっては、慣性緩和の演算に魔法師の力量を求められるかもしれませんが」

 

 移動系魔法なんて、まず魔法科高校に入学できた者に使えない者はいない。重量や慣性緩和を考慮すると、二科生の数割が厳しいかもしれないが。

 

「次に、工業。こちらの物資運搬も土木と同様です。そして、金属の熱加工に振動系、圧力加工に加重系。合金の生成には吸収系も使えるかもしれません」

 

 結局どれも魔法師にある程度の力量を求められるが、まずほとんどの一科生ならクリアできる。どれかに特化している二科生も活躍できるだろう。

 重機や工業機械に代替されていた場所が、魔法師によって代替できる。

 魔法師の人件費と重機や工業機械の固定費、どちらに重きを置くかは企業次第となるだろう。

 

「他にも、そうですね……。映画撮影なんかでも活躍できるのでは?特撮でよくある派手な演出は魔法でできるでしょうし、スタントマンがやるような危険な撮影は魔法で補助できるでしょう」

 

「……」

 

 俺がつらつらと思った端から言葉にしていた中、烈は、面食らっていた。

 

「魔法師ならば、兵士でなくても、研究者、技術者でなくても、これだけ活躍でき得る場所があると思います」

 

「……ああ、驚かされたよ。……まさしく盲点だった」

 

 凝り固まった何かが崩れる感覚に感激するかのごとく、烈はその表情を柔和にしていく。

 

「十六夜君、実に素晴らしい意見だった。私はてっきり、君も『四葉』だと勘違いしていたが……。どうやら君は今までの『四葉』とは、いや、今までの魔法師とは違うらしい」

 

「恐縮です」

 

 怖いくらい高評価を受けてしまい、俺は頭を下げた。

 

「君の意見を参考に、まずは土木業や工業に話を通してみよう」

 

「俺の意見だけでなく、他の意見も聞いてみるべきでは」

 

「そうだな、全く以ってそうだ。誰よりも魔法師というモノを知っているつもりだったが、やはり私も古い価値観に囚われた老いぼれだったよ。こんな凝り固まった頭では何も思い付かんな」

 

 烈は悔しそうに、しかし嬉しそうに微笑む。

 俺は、やり過ぎたような気がしてならない。

 

「ありがとう、十六夜君。とても実りのある話し合いだった」

 

「俺もこのような話し合いができた事、大変喜ばしく思います」

 

 お互い事を荒立てた事もなく、剣呑として雰囲気になった事もなく、ただ平和にその話し合いを終了した。

 

 時刻は昼をかなり過ぎており、朝食も食べていない俺は空腹だった。幹比古や雫を含め、達也一団が集まって昼食をとったようだが、残念ながらその昼食にも間に合わなかったのだった。

 

◇◇◇

 

2096年8月5日

 

 九校戦が開幕となる日。本日行われるのはアイス・ピラーズ・ブレイク・ペアの予選リーグとロアー・アンド・ガンナー・ペア。前者には雫と千代田のペアが出場する。一応、後者には森崎と五十嵐のペアが出場する予定だ。

 前者にはもちろん応援に行くが、後者は観戦するものの、応援には行かない。

 森崎らの方に応援に行くと、下手したら五十嵐がいらぬプレッシャーを感じて酷い事になる。私的に、応援する程仲も良くない。観戦するのはあくまでロアー・アンド・ガンナー・ソロのため、競技場を下見したいだけだ。

 

 という事で、ロアー・アンド・ガンナーの方の観戦。

 今年も俺の観戦席を中心にして空白が生まれるだろう。故に、エンジニアとして忙しい達也、選手として忙しい雫、女子ロアー・アンド・ガンナーの応援に知人らと行った(という名目で、本命は選手のエンジニアを担当している達也だろう)深雪、深雪に着いていった水波、その4名を除いた達也一団に同行してもらっている。

 

「森崎さんたち、良いスコア出したけど……。さすがにトップはきついか」

 

 森崎と五十嵐の息はしっかり合っており、目立った失敗はしていない。しかし、こういう水上競技で本領を発揮する海の第七高と実践重視の第三高が立ちはだかる。

 第七高は速度重視であったが、射手も中々的確に的を破壊していた。不安定な足場での照準には慣れていたのだろう。結果はタイムが暫定1位、射撃が暫定2位、総合スコア暫定1位だ。

 森崎らの結果はタイムが暫定2位、射撃が暫定1位、総合スコア暫定2位。これでまだ後に第三高が控えている。その暫定順位を守れれば良いが、望みは薄い。

 

「結構森崎の事を気にしてるみたいだが、十六夜はあいつと仲良いのか?」

 

 レオが俺に渋面でそう訊ねた。

 その表情も無理はないだろう。レオと森崎の接触は去年の四月以降全くない。つまり、レオは二科生を見下していた当時の森崎しか知らないのだ。

 

「友達って程ではないが。仲の良さに順位を付けるとしたら、彼は君たちの次くらいにくるだろうね」

 

「へぇ。あいつも大人になったってやつ?」

 

 当時のままの森崎と俺が仲良くなるとは想像できないのだろう。エリカがそんな推測を混ぜた。

 

「そうだね、一夏の経験でもしたんじゃないかな?去年の夏からは大分丸くなったし」

 

「ふーん……。顔は悪くないし、そういう事もあるか……」

 

 エリカが勝手に森崎の恋愛事情を妄想した。俺がそのように誘導したも同然だが。もちろん、俺は訂正なんぞしない。

 エリカの妄想は放っておいて、俺は元の目的に視点を戻した。

 

「水上の的は予想以上に動き回るな……」

 

 ロアー・アンド・ガンナーの的は大別して3種。水路の脇に固定された的、頭上に固定された的、水上のミニチュアボートに設置された的。この3種の中で、最後の物だけが動く。

 それが、ミニチュアボードにはスクリューと舵が装備されているようで、自由に動き回っていた。漂わせるだけではなかったのだ。

 

「もしかして、あの動く的のせいで策に支障が?」

 

「予想以上ではあったが許容範囲内さ。策に支障はないよ」

 

 少し不安がらせてしまった幹比古を安心させるため、俺は問題ない事を明確に言葉にした。照準に時間を取られそうではあるが、そのタイムロスを勘定に入れても優勝圏内であり、実際に支障はない。安全マージンが僅かばかりなくなっただけである。

 

「さてと、競技の下見は終えたし、第七高の方針もおおよそ把握した。雫の応援に行こうか」

 

 俺は席を立ち、アイス・ピラーズ・ブレイクの会場へと足を向ける。

 森崎らのレースも済んでしまっているから、ロアー・アンド・ガンナーの観戦はもう全く意味がない。

 

「雫さんは第四試合でしたっけ。急いだ方が良いのでは……」

 

 俺含めた一同は3レースを観戦している。1つのレースが短いとはいえ、雫の応援に行く予定だった事を考慮すると長居の部類だ。せっかくだからと森崎らのレースまで腰を落ち着けてしまったが、美月が急かすのも妥当である。

 彼女の妥当な弁に皆が頷き、同時に向かう足を速めた。

 

 同じく雫の応援に来た深雪と合流しつつ、観戦席を放った覚えのない無言の圧力で占拠しながら、雫と千代田の試合を見守る。

 応援の甲斐あって、いや、どちらかと言えば甲斐なく圧勝。予選リーグを難なく勝ち抜くのだった。

 

 

 

 学校ごとの夕食も含めた九校戦1日目の日程は滞りなく終了。日は当然暮れているのだが、うら若き少年少女が眠るにはいささか早い時刻である。

 という事で、達也一団は一堂に会そうと徐々に集まっていた。場所は第一高のCAD作業車。去年はワゴンだったそれが、今年はキャンピングカーを流用した物であるため、集まるには丁度良かった。

 集まる場所が場所だけあって、第一高エンジニア陣の1人である隅守(すみす)賢人(けんと)もその場に居合わせているが、彼は進んで空気となっている。

 

 そんな場に雫は少し遅く現れたのだが、彼女はなんとアイス・ピラーズ・ブレイク時の赤紫を基調とした浴衣姿だった。

 ちなみに、その浴衣は雫の私物である。加えるなら、千代田が着ていた浴衣は雫からのプレゼントだそうだ。アイス・ピラーズ・ブレイクのファッションショーと化している面にも雫は全力だったのである。

 

「十六夜さん。どう?似合う?」

 

 案の定、俺の感想を求める雫。浴衣姿の360度を見せ付けようと、彼女は1回転までする。

 

「似合ってるよ、雫。去年の振袖は青を基調にしてたけど、赤紫って言うのも中々趣があるね。青の方は雫の雰囲気に合ってて、全体としての纏まりを演出するとても落ち着いた感じになるけど。赤紫の方は、相生(そうしょう)って言えば良いのかな?雫の魅力を引き立たせてるね」

 

「……どっちが好き?」

 

 ストレートで無駄に長文の賛辞に雫は頬に朱を染めながらも、さらなる感想を引き出しにかかった。彼女は恋愛面においても全力だ。

 

「個人的には青の方が好きかな。でも、赤紫も悪くないのは事実。だからもっと色んなファッションを期待してるよ」

 

 雫なら相当奇抜な物でもない限り着こなすだろう。美少女というのはそういうズルい存在なのだ。

 

「次はどんなのが良い?」

 

「次?次か……。機会があれば、サマードレスなんてどうだろう」

 

 唐突に趣味趣向の話をするが、スレンダー美少女にはサマードレスである。

 

「うん。じゃあ今度のデートに着ていくね」

 

「そうだな、今度のデートに……。うん?」

 

 恐ろしく狡猾に言質を取られそうになった。

 

「……ダメ?」

 

「…………ダメじゃないが」

 

「じゃあ九校戦後の日曜日、8月19日に。午前11時に十六夜の家まで迎えに行くから」

 

「……はい」

 

 残念ながら、「言質を取られそうになった」ではなく言質を取られた。しかも明確に日時指定までする入念さである。

 その手際の見事さたるや、周りから小さくも感嘆の声が上がる程だ。

 

「ところで。エリカさんは?随分と遅いけど」

 

 ラブコメディに茶々がない事へ違和感を抱けば、その茶々を率先してするだろうエリカがまだ集まっていなかった。

 

「その、野暮用があるとかで、今日は来れないそうです」

 

「野暮用……?」

 

 美月がエリカの不在理由を教えてくれたが、俺は首を傾げた。

 そのエリカの野暮用に、俺は見当付かないのだ。

 この時期のエリカ関連イベントは、俺の原作知識に引っかかるモノがない。朧げになってしまった部分か、もしくはバタフライエフェクトか。

 

「エリカはともかく。レオは来るって言ってたんだけど……」

 

 幹比古がもう1人の不在者であるレオを気にかけた。エリカと違って集合確定のはずだったから、幹比古はより気になっているのだろう。

 

「あの、西城先輩なら姿を見かけました。宿舎のロビーでローゼン支社長に呼び止められていましたよ」

 

 空気だった状態を破り、隅守が目撃情報を上げた。それは一団の緊張を多少でも和らげてくれる重要な情報だった。

 そこから少しばかり達也と隅守が質疑応答を始める。

 

「俺がなんだって?」

 

 噂をすれば影が差す。レオはその質疑応答中に五体満足な姿を見せた。なんだか気疲れを覗かせるが。

 

「お前とローゼン支社長が話していたそうだが」

 

「あ、ああ。まぁな。それで遅くなっちまった。すまん」

 

「別に構わないさ。そんな堅苦しい席じゃない」

 

 レオが濁したのを察しながら、達也は追及しなかった。達也もレオの気疲れを覗いたためだろう。

 

「一応なんだが、レオさん。俺の助力は必要かい?」

 

 だが、俺は追及した。もしバタフライエフェクトで俺の与り知らない、俺に火の粉が降りかかる騒動が起きようとしているなら、俺はすぐにでも排除したい。

 

「い、いや!十六夜の手を借りるような事じゃねぇよ、ほんとに!」

 

「……そうか。それなら良かったよ」

 

 俺の目が鋭くでもなってしまっていたか、レオは身振り手振りまでして断固拒否した。俺は彼の言葉を信じて眉間を解す。

 

 その後はレオも混ざって他愛のない談笑。実に平和な一時が過ぎた。

 

 しかし俺は、原作知識を以ってしても不明瞭な展開が多い事に、感じる不安を拭えぬままでいたのだった。




魔法師が活躍できる場の模索:九島烈は良くも悪くも戦場を体験した人間であり、魔法の使い道というのに血生臭い先入観がある。十六夜も戦場を体験した身ではあるが、元は非魔法師かつ『魔法科高校の劣等生』の読者。魔法に万能性を見て、魔法に憧れた人間なのである。ただ、やはり専門家ではないので、十六夜の意見には大雑把な理論が混ざる。

唐突にされた趣味趣向の話:十六夜の前世の自室には、『〈物語〉シリーズ』登場キャラクターである忍野忍のフィギュアが飾られていたりする。しかもケースに入れる飾り方で。

エリカの野暮用を知らない十六夜:実のところ、十六夜は前世で『魔法科高校の劣等生SS』を読んでいないのである。公式二次創作と勘違いした十六夜はその巻だけ買わなかったのだ。そのため、ローゼンにまつわる原作の流れを一切知らない。

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