魔法科高校の編輯人   作:霓霞霖

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第五十九話 勝利に浸る暇はなく

2096年8月6日

 

 九校戦2日目。今日の競技日程はアイス・ピラーズ・ブレイク・ソロの予選リーグとロアー・アンド・ガンナー・ソロ。前者には深雪、後者には俺が出場する。

 そんな出場選手であるためか、第一高の選手団は朝から余裕を醸し出していた。深雪は優勝確実だし、俺は優勝宣言同然の事をしているから、皆はもう労せず勝った気でいるのだろう。まぁ、俺は勝つつもりだが。

 

 そうして俺は、第一高の選手団からエールを送られたというか、全幅の信頼を以って送り出されたのだった。

 

 俺のレースは競技の最後。選手の順番割り振りに若干の作為を感じつつ、俺は選手控室で腰を落ち着けていた。

 備え付けられたモニターには、第七高選手のレースが映し出されている。

 

「ま、七高はそう出るよな」

 

 選手の戦法はスピード重視。射撃は乱雑だが、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たると、まぐれ当たりで的を壊していく。

 射撃を捨てた戦法は王道から外れているだろうが、しかし、そのタイムは驚異的。そのゴールタイムは、堅実な戦法を取った第三高の吉祥寺を追い抜いた。

 暫定1位のタイムスコア。射撃スコアこそ、フルスコアを惜しくも逃した吉祥寺のそれより低い。しかし、そのタイムスコアは射撃スコアを補って余りある記録だ。

 故に、第七高が総合スコア暫定1位に躍り出た。

 

「さて、少しは気合を入れておこうか」

 

 俺は整備済みの保冷庫CADを撫でてから、軽く準備運動を始める。

 原作乖離についても今は頭の片隅に追いやろう。

 目指すは優勝。見せるは圧勝。

 今一度この九校戦に、俺が『四葉』である事を刻み込むのだ。

 

 

 

 来たる最終レース。『四葉』たる俺の出番に観客席は満員。立ち見客も現れている。

 そして、その視線が注がれているのは、ボートに積載された立方体。これが保冷庫CADだと知っているは第一高の作戦スタッフのみであり、他の訳知らぬ人たちはまた何を企んでいるのかと睨んでいる。

 

位置に着いて、(On your mark,)用意(set)……〉

 

 開始準備の電子音。俺はそれを聞きながら、不遜に思われかねない仁王立ちで構える。最初に取る動作の準備かつボートを安定させる構えで開始の合図を待つ。

 緊張などない。してはいけない。

 俺は、『四葉十六夜』なのだから。

 

ドン(Go)!〉

 

 俺はボートを走り出させるのではなく、保冷庫CADの蓋を開ける。

 同時に内容物を振動系で解凍すれば、鳥類の影が5つ飛び立った。

 影の主はチョウゲンボウの『付喪神』。チョウゲンボウとはハヤブサの仲間であり、猛禽類の中で最も滞空を得意とする種類である。

 つまりは、『付喪神』と視覚共有できる俺にとって競技場を一望するのに最適な依り代なのだ。

 

 四方に1体ずつ滞空、中央に1体だけ旋回。これで競技場は全て俺の視界に収まり、全ての的に照準を定められる。

 

(1個1個壊すなんて悠長な事はしない。1度で全て壊す)

 

 マルチロック変数を用いた加重系で的を狙う。

 マルチロック変数は人間の狭い視界内にある標的しか照準できず、個々に狙うよりサイオンが消費され、複数の標的に狙いを付けるために魔法演算領域がかなり食われる変数である。お世辞にも実用的とは言えない。

 しかし、『付喪神』で視界を大幅に広げ、サイオン量も比較的多く、増設魔法演算領域を持つ俺にとっては実に有用な変数だ。

 その有用さは標的が不規則に動かない、こういう競技に限定されるが、逆に言えばこの競技かつ俺ならば最大限に有効活用できる。

 できるからこそ、的は今、レース開始数秒で壊し尽くされた。

 

(さてと、後は全力で走りきるだけだ)

 

 上がる歓声を聞き流しながら、俺は次に移る。

 俺とボート、保冷庫CADの相対位置を硬化魔法により固定。これで俺や保冷庫CADがボートから投げ出される事はない。

 続いて、移動系でボートの移動ルートを『付喪神』の視界も用い、コース全体を一気に設定。途中で移動系を再度演算してかけ直すロスを排し、かかる横Gとボートの耐久を考慮したスピードで走らせる。

 カーブだろうがスロープだろうが減速はしない。初めからそこも考慮に入れて移動系をかけている。

 

 結果、俺はなんとも安定した、しかし観客を驚かせるレースでゴールを収めた。チョウゲンボウの『付喪神』もしっかり回収する。

 

 スコアは、タイムがわずかな差で2位、射撃がフルスコアの堂々1位。

 そして、総合スコアが1位になった事をスクリーンが大々的に公開する。

 

 途中の歓声をも越えた大歓声が響いた。

 俺はそんな騒がしい人々など気にも留めず、観客席を見回す。

 

 真夜の姿がない。

 

(直接観戦に来るものとばかり思っていたが……。何か急用でも入ったか)

 

 一抹の不安を覚えるが、気のせいである事を願って忘れる。

 未来に不安を覚えるより、今は観客席に居て目が合った雫への対応が急務だ。

 彼女の拍手に応えるべく、俺は勝利を誇示するように拳を突き上げたのだった。

 

 

 

(……ん?)

 

 選手控室で身支度を終えて通路へ出たのだが、その通路は嫌に静かだった。

 1つの競技に最低でも2か所は備えられている控室だから、元よりそれ程人が集まる事はない。滅多に騒がしくならないのは確かなのだ。

 しかし、そんないつも通りの通路だと言うのに、超人としての感覚が俺へ警戒を促してくる。

 そして、その感覚は正常だった。

 

 拳が俺の顔面に迫る。

 それは突然であり、だから、反射的に体が動いた。

 拳を寸でで避け、それとほぼ同時に伸び切った腕を掴み、アームロックを仕掛ける。ここまで条件反射である。

 敵意はなかったので、ホールドアップを俺の脊髄は選択したらしい。

 

「いだだだだっ!ギブ、ギブアップ!」

 

「……九重八雲?」

 

 拳を見舞おうとしてアームロックを極められ、空いた手でタップしているのは、なんと九重八雲だった。

 面識はないが、達也と真夜から聞いた顔に傷のある坊主という特徴と一致する。原作知識とも照合したのだ、達也の体術指南役を務める九重八雲で間違いない。

 

「……いったい何をしているんですか?」

 

「話す、話すからこれ!解放してくれないかな!?」

 

 綺麗に決め過ぎたのか、八雲も唸らせるアームロックが披露されていた。

 これでは話もできそうにないので、俺は仕方なく八雲を解放する。

 

「あ痛たた……。いやぁ、興味本位で試すものじゃないねぇ。達也くんから体術は達人級だと聞いていたけど、まさか僕の術まで破られるとは。僕もまだまだって事だね」

 

 あの嫌な静けさは、どうやら八雲が通路に何か術を張っていたようだ。察するに、人払いと鬼門遁甲の類か。

 

「何か御用ですか?九重和尚」

 

 八雲は俺への不干渉を貫いてきた。会う必要がなかったというのもあるだろうが、彼は自称世捨て人。

 妖魔に関する事以外では干渉してこないはずだ。

 なのに、何故このタイミングで俺の下に訪れたのか。

 

「僕が出張りそうな事、思い当たらないかい?」

 

「……『付喪神』についてですか?」

 

「その通り」

 

 そう、八雲が出張ってくるとしたら『付喪神』しかない。パラサイトという妖魔の性質を使ったあの技術が、彼を呼び寄せたのだ。

 

 八雲の浮かべた微笑みこそ朗らかだが、放つ雰囲気は穏やかではない。初撃と同じく敵意はないが、警戒はしてきている。

 

「妖魔の対峙を生業としている貴方方はこの力に御懸念ある事でしょうが、俺は完全に制御できています。なんら問題はありません」

 

「制御できてたらできてたで問題なんだけどね。それって、パラサイトを作り放題と言ってるようなものだろう?」

 

 妖魔対峙を重視する古来より続く古式魔法師としては、八雲の危機感は正当なモノだ。

 パラサイドールに対しても動く彼が、その大本であるパラサイトが量産できるとなれば、動かない訳がない。

 

「四葉はパラサイトの研究をしていません。四葉にパラサイトを増殖させる意思などないのです。もちろん、この俺も」

 

「四葉が研究していないのは分かっているよ?四葉自体を調べるのは難しいけど、その手の研究となれば絶対に専門家が欲しくなるだろうからね。専門家の動きを見張っていれば、調べは付くのさ」

 

「では、一切合切の危険性を排除すべく、根本から断ちにきましたか」

 

 現状は研究していない。それでは満足できないとなると、研究できる可能性が残る事自体に不満があるという事だ。俺という研究材料が残る限り、八雲は、もしかしたらその背後に居る連中も、安心して眠れない。

 

「そんな野蛮な事、現状はしないとも。ただ、理性的な話し合いには応じてもらおうか」

 

「契約書にサインでもしろと?」

 

「そう言う事。まぁ、契約内容を君の親御さんと交渉中だけど」

 

 真夜が観戦に来ていないのは、それが理由だったという事か。フラグ回収が早すぎる。

 

「母上は無事なんだろうな」

 

「さっきも言っただろう?そんな野蛮な事、()()()しないって」

 

 つまり、俺の対応次第で変わるのだ。

 事ここに至り、打つ手はなし。

 ホールドアップだ。ここまで搦めとられては、超人としての体や四葉としての才能など、なんの役にも立たない。

 

「……いつ頃その交渉は終わるので?」

 

 俺は諦観を表すように、溜息と混ぜてその言葉を吐いた。

 

「君も交渉の席に座ってほしいようだから、まだまだ終わらないね。本格的な交渉は九校戦終わった後になるんじゃないかな?」

 

「誰か迎えに来るんですか?」

 

「僕だよ?」

 

「……」

 

 なんと言えば良いか。真夜の言う通り、世捨て人とは程遠い和尚が俺の目の前に居た。

 ここまで使い走りにされているのは、さすがに哀れでならない。

 

「……お手数、お掛けします」

 

「……お心遣い、痛み入るよ」

 

 何故だか最後は、お互いの苦笑でこの場を締められる。締められているのに締まらない話だ。

 

「あっと、忘れるところだった」

 

 煤けた背中で立ち去ろうとしていたはずの八雲が振り返る。

 

「『付喪神』、あまり表立って使うのは控えた方が良いよ。上手く古式魔法に偽装しているみたいだけど、却って古式の家を煽ってしまうからね。領分に煩い人たちが少なくないんだ」

 

 八雲はお節介にも忠告を飛ばしてきた。

 なるほど。古式魔法に固執する者たちにとって、現代魔法師に自分たちの魔法を良いように使われるのは腹立たしいだろう。

 伝統派と名乗る古式の家が、かつて彼らを利用して生まれた九の数字を持つ家と揉めているくらいだ。禍根の根は深そうである。

 

「ご忠告、ありがとうございます。元より承知しておりますので、ご心配なく」

 

 そう、元より()()()()()()()()()()()()()使()()()()控えるつもりだ。

 競技のルール上魔法と偽装しなければ使えなかったから、そうしただけなのである。

 

「……なんだか僕の忠告が意味を成してない気がするけど。まぁ、良いか。それじゃあ今度こそ、さようなら」

 

 わざとらしく立てていた八雲の足音が、曲がり角に消えた瞬間聞こえなくなった。気配も、超人的な感覚で以って曖昧に感じる程度だ。

 初接触だったが、彼が忍びである事を鮮烈なまでに印象付けられた。

 

「十六夜!大丈夫かい!?」

 

 八雲の気配を見送ったところで、遠くから幹比古が俺に向かって走り寄る。さらには雫も幹比古に同行していた。

 

「どうしたんだい、そんなに慌てて」

 

「十六夜さんのレース後、すぐに選手控室へ向かったんだけど。辿り着けなかった」

 

「辿り着けなかった?」

 

 九校戦の会場が迷路になっている、なんて事はない。雫が方向音痴という話でもない。

 別の要因で彼女らは辿り着けなかったのか。

 

「道を惑わせる術と人払いの術が一帯にかけられてたんだ。それもかなり巧妙な隠蔽を施されて」

 

「ああ、そういう……」

 

 すぐに俺の下へ駆け付けるつもりだった雫と幹比古は八雲の術中に嵌まっていたのだ。その術中である事に気付いた幹比古は術者の狙いが俺であると推測し、俺の身を案じていたのだった。

 

「俺は大丈夫。下手人、ではないけど犯人、でもないな。とりあえず、術者は俺の知人だよ」

 

 さっき初接触だった知人だが。

 

「君の知人がなんだって人を遠ざけてたのさ。というか、君は僕以外に古式の知人が居たのかい?」

 

「人目を気にする人なのさ。現代魔法の最先端である四葉と繋がっているなんて、古式魔法師としては不名誉だろう?だから、俺も滅多に会わない人なんだよ」

 

 滅多に会わないどころか、さっきが初顔合わせだったが。

 

「それもそう、なのか……?」

 

「それより。なんだってすぐ俺の下へ?」

 

 幹比古は煮え切らない様子だが、俺は追及される前に話題を逸らした。

 

「優勝の祝福をしに」

 

「別に第一高選手本部で待ってても良かったんじゃないか?」

 

「誰よりも先にしたかったから。十六夜さん、優勝おめでとう」

 

「僕はまぁ、北山さんに連れられてだけど。逸る気持ちは北山さんと同じだったからね。だから、優勝おめでとう」

 

「そうか。2人ともありがとう」

 

 随分とせっかちなものだが、せっかちだからこそ彼女らの気持ちが本物である事に疑いようはない。

 その祝福を俺は素直に受け入れた。

 

「お祝いにケーキはどう?近くにあるあのティーラウンジ、十六夜さん結構気に入ってたよね?」

 

「良いのか?あそこのケーキ、また食べたかったんだよ」

 

「私の奢り。遠慮しないで」

 

「それは嬉しいな。有り難く奢られよう」

 

 そうして、俺は雫と幹比古にカフェへ連れられ、美味しいケーキを心行くまで堪能する事となる。

 ちなみに、夕食もたらふく食べるのだった。

 

 

 

 夕食後の日が暮れだした時刻。昨日と同じくCAD作業車に達也一団が集まるという事で俺も集合する予定だが、その集合時間は達也のCAD整備が終わった後にずれている。

 明日・明後日と達也のCADエンジニア担当選手は多いから、今日はかなりずれ込む事が予想される。

 

 そのずれ込む集合時間までの暇を潰すべく、九校戦の選手用に開かれた運動場で軽く運動をしていた。

 視線がある中なので目立たぬよう、バーベルの棒を刀剣に見立てて素振りし続ける。だけだったのだが、途中で何故か剣技に覚えがあると宣う者が勝負を挑んできた。

 

(まぁ、暇だし。素振りじゃ全然運動した気になれないしな)

 

 そんな俺の気まぐれと、挑戦者がチャンバラ棒を持参してくるという彼のやる気が重なり、運動場の片隅で唐突にチャンバラが始まったのだ。

 どうでも良い事だが、第一高校剣術部部員である桐原武明が偶然居合わせており、「あいつ、正気か……?」と挑戦者に胡乱な目を向けていた。

 

 それで、チャンバラの勝敗はと言えば。まぁ、言うまでもないと思うが、圧勝である。

 覚えがある程度の奴に伐採系超人が負けるはずもない。

 

「俺では、駄目なのか……。がくっ……」

 

「おい、しっかりしろ!チクショウ……。仇は、俺がとってやる!」

 

 熱に浮かされたのか、元からそういう乗りの奴なのか。挑戦者の友人らしき者まで挑んできた。

 その勝負も俺の圧勝だったのだが、どうやらそれで変な空気が出来上がってしまったらしく、空気に流された者らが次の新しい挑戦者となる。

 応援の声が飛び交い、賭け事を企む者も出て、運動場は闘技場へと様変わりしていた。

 ちなみに、俺を応援するのは1人だけ。七草泉美だ。

 

 そして闘技場と化してから1時間程、そこには無敗記録を叩き出す男が生まれた。

 「四葉十六夜」、挑戦者を軒並み圧倒した無敗の男である。

 

「四葉……。何をやってるんだ……?」

 

「ん?ああ、一条さんじゃないか。何って……突発チャンバラ武闘会?」

 

 終わり際に現れた一条からそんな冷静な言葉を貰い、俺自身も熱に浮かされて理解不能なままチャンバラしていた事を省みた。

 

「はい、これタオル」

 

「十六夜さま、お疲れ様です!素晴らしいご活躍でした。かなり激しくお動きでしたから、のども乾いているでしょう。スポーツ飲料をお持ちいたしましたので、喉を潤すのにお使いください!」

 

「お腹空いてたりしないかい?念のためにゼリー飲料も持ってきたけど」

 

「ああ、助かるよ」

 

 いつの間にかサポーターみたいになっていた雫、泉美、幹比古からそれぞれ手渡された。

 一条がなんだか遠い目をしている。吉祥寺もしそうなものだが、幸福な事に(?)吉祥寺の姿はない。

 

「一条さんは制服のままみたいだし、誰か人を探していたのかい?」

 

「お前だ、お前。お前を探してたんだよ。騒ぎを起こしてくれたおかげで探す手間が大分省けたが、声をかけられる雰囲気じゃなかった」

 

「それは、悪い事をした……のかな?」

 

「はぁ……。まぁ良い」

 

 俺がその雰囲気を作った訳でもないので謝罪するのが適切か首を傾げれば、一条に盛大な溜息を吐かれた。

 

「用件は懇親会の続きだ。ちょっと付いてきてくれ」

 

 調査で目ぼしい成果を得たのか、一条はそれを共有しようとしていたのだ。

 だいたい原作と同じだろうが、どこまで同じかは是非とも聞いておきたい。

 俺は一条へ頷いてから、雫たちを一瞥する。

 彼女らは俺の意を汲み取って、不服そうではあったが、速やかに俺から離れてくれた。

 

「犯人、特定できたのかい?」

 

 運動場に併設されたロッカールームの一角で、情報共有が始まる。

 

「特定という程じゃない。ただ、国防軍の対大亜連合強硬派が噛んでいるようなんだ」

 

「噛んでたのは一派だけか。全体じゃなくて良かったよ」

 

 一条からの情報に、俺は白々しく胸を撫でおろした。

 

「そう安堵できるモノでもないぞ。強硬派の酒井(さかい)大佐は、俺たち魔法科高生が防衛大を経由せずに直接国防軍へ志願してほしいそうだ」

 

「ふむ、さっさと軍人として教育したいって事か。ところで、その酒井大佐が犯人ではないのかな?」

 

「あの人がそういう思想を吹聴していたと分かっただけで、指揮したのが彼なのかはまだなんとも……」

 

 動機がありそうな人物を探り出せたが、その人物が犯行を行った証拠までは一条でも掴めていないらしい。

 しかし、彼の濁し方からして、その人物を犯人と決め付けたくない様子が彼から伝わってくる。

 

「よく個人の思想なんて調べ出せたね。知人だったりするのかい?」

 

「……ああ。酒井大佐には、助けられた恩があるんだ」

 

 恩があるから、犯人であると決め付けたくなかった。一条の心の内はそんなところか。

 

「恩がある、か……。まさか、一条さん……」

 

「違う!間違っても手を貸してはいない!」

 

 恩を出汁に協力を強制されていないか。などと、密告に近い事を一条がしている以上、その可能性は低い。

 だが、念のため追及してみれば、一条は面白いくらい即座に否定した。

 

「四年前の佐渡侵攻事件で、親父の応援要請に即応してくれた恩はある!酒井大佐が大兵力を動かしてくれたおかげで、被害は抑えられた。それには感謝している!」

 

 一条は事の経緯から細かに解説をし始める。

 

「でも、大佐は侵攻が一段落した後、侵攻してきた新ソ連に逆侵攻しようとした!もちろん、親父はそれを諫めたし、総司令部も許さなかった。結局逆侵攻は実現しなかったが、大佐は逆侵攻の必要性を叫び続けてたんだ」

 

 助けた人間にも上司にも止められ、なお意見を変えなかったのが酒井大佐。まさしく強硬派だ。

 

「おかげで、大佐と親父は激しい口論を繰り返したらしい。大佐の部隊が通常配備へ戻された折に喧嘩別れみたいになって、大佐とはそれっきりだ」

 

 もう連絡を取り合える仲ではないと、その弁舌を以って一条は証明した。感情の籠り具合から、真実味が多分にある。

 

「信じるよ。元からそんなに疑ってなかったし」

 

「おい!」

 

 一条は不服そうだが、あんなに熱弁を振るってこの反応なのだからさもありなん。

 

「とりあえず、その一派が危害を加えてくる事はないだろうね。するとしても、勧誘くらいか。彼らの掲げる大義次第では脅威だけど」

 

「賛同者を増やして発言力を強める。そうしてから、本当に侵攻するのか……?」

 

 他国への侵攻、徴兵される若輩、消費される人間。その辺りまで考えが巡ってしまったのだろう。一条はあり得る行き先の地獄を憂い、怯えていた。

 

「できないさ。取り込むのが魔法師となれば、反魔法師の方々が好んで戦争したがる魔法師を非難してくれるだろうからね」

 

「それは、皮肉だな」

 

 魔法師たちを毛嫌いする連中が、魔法師たちの毛嫌いする事を未然に防いでくれる。実によくできた皮肉であると、俺も一条も感心した。

 

「何にせよ、調査は続けた方が良いと思う。少数意見でも、数が揃ってしまえば独断行動をしかねない」

 

「もちろん、調査は続ける。酒井大佐に、取り返しの付かない事なんてさせない」

 

 一条は力強く頷く。恩人へのせめてもの恩返しに、その恩人の凶行を止めようと決意したようだ。

 

「それじゃあ、また何かあったら。いや、そっちが共有しても良いと判断したモノがあったら、教えてくれ」

 

「そうさせてもらおう」

 

 俺のコールナンバーが書かれたメモを受け取ってから、一条はこの場を後にしたのだった。




十六夜が叩き出したロアーアンドガンナーの記録:この競技のルールが見直され、タイムレコードが白紙になる時まで、その記録が更新される事はない。

『付喪神』の偽装:サイオンを過剰に供給すると、依り代から保有許容量を越えたサイオンは放出される。その放出されたサイオンがセンサーや魔法師に魔法であると誤認させている。

九重八雲:突然世に公開された四葉直系、というだけなら彼が十六夜に何か思うところはなかった。しかし、パラサイトという妖魔を操れているなら、話は別である。現状、妖魔対峙の秘技を継ぐ者として、彼は四葉十六夜含む四葉家を最重要警戒対象と定めている。

正気を疑われた挑戦者たち:主に第七高選手で構成されていた。ロアー・アンド・ガンナーという自身らのステージで1位を持っていかれた事に雪辱を果たすべく、チャンバラで勝負を挑んだ。雪辱に燃え過ぎていたため、おそらく正気ではない。

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